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JEWEL

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完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~

May 17, 2013
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2008年から連載を始めてから5年、漸く「fin」と打てました。

色々と波乱尽くしの展開を書いてきましたが、最後は転生したミシェルとユリウス、ガブリエルとヴィクトリアスが再会するシーンで終わらせました。

当初は140話まで書こうと思っていたのですが、ラストシーンの構想が浮かんできて、それが消えぬ内に書かなければ!と、急ぎ足ですが133話で「薔薇と十字架」を完結させることにしました。

今まで支えてくださった皆様に感謝致します。

2013.5.17 千菊丸







最終更新日  May 18, 2013 04:35:34 PM
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1890年、ロンドン。

クリスタル・パレスには、平日にも関わらず大勢の人で賑わっていた。

「はぁ、来るんじゃなかったな・・」

そう言って溜息を吐いた一人の青年は、鬱陶しそうに前髪を掻きあげた。


「お兄様、早く早く~!」

「ああ、今行くよ!」

妹の声が聞こえ、青年はゆっくりと彼女の方へと向かった。

「お兄様、次はピラミッドが見たいわ!」

「なぁ、そんなにあちこち行かなくてもいいだろ?クリスタル・パレスはすぐになくならないぞ?」

「お兄様はちっともわかっていらっしゃらないんだから!こんな場所、滅多に行けないのよ!」

そう言って頬を膨らませる妹を見て、青年は再び溜息を吐いた。

「早く!」

「わかったら、そんなに手を引っ張るなって!」

仕事で地方の出張からロンドンへと帰って自宅でゆっくりしたいと思っていたのに、妹が“クリスタル・パレスへ連れて行け”というので仕方なく来たのだが、いい加減彼は人混みの多さと妹の我が儘にうんざりしていた。

「ねぇ、お兄様ったら!」

「わかったから・・」

グイグイと妹に手を引っ張られ、青年は一人の女性とぶつかってしまった。

「すいません、大丈夫ですか?」

「ええ。」

青年はぶつかってしまった女性の顔を見ると、何故か既視感に襲われた。

金色の髪に、トルマリンの瞳―彼の脳裏に、誰かの顔が浮かんだ。

「わたくしの顔に、何かついてますか?」

「いえ・・初めてお会いしたのに、何処かで会ったような気がしてならないんです。」

「あら、わたくしもですわ。あなた、お名前は?」

「ユリウスです。あなたは?」

「わたくしはマーガレットです。そちらは妹さん?」

女性はそう言うと、妹を見た。

「ええ。」

「ここで会ったのも何かのご縁ですわ。どちらへ行かれるの?」

「ピラミッドを見に。」

「まぁ、わたくしも見ようと思っていたところなんですの。よろしかったら、一緒に行きませんこと?」

「ええ、喜んで。」

青年―ユリウスは、そう言うと女性の手を取って歩き出した。

「さっきの方、綺麗な方だったわね、お兄様?」

「何だよ、俺は・・」

「隠しても駄目よ!兄様、あの人のこと好きなんでしょう?」

「うるさい!」

帰りの馬車の中で妹に図星を指されたユリウスは、顔を羞恥で染めながら彼女を怒鳴りつけた。

一方、パリの路上で一人の女性が男とぶつかってしまった。

「ごめんなさい・・」

「いえ・・」

女性の顔を見た男は、彼女を抱き締めてこう呟いた。

「やっと、見つけた・・」

~fin~






最終更新日  July 14, 2013 07:20:44 AM
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「出て来たぞ!」

「殺せ!」

ガブリエルの姿を見たルシリュー軍が、一斉に彼に向って矢を放った。

それを剣で払い落しながら、ガブリエルはリューイへと突進した。

「お前だけは許さない、ルシリュー!」

「愚かな、わたしに勝てると思っているのか!」

ガブリエルをせせら笑ったリューイは、彼の攻撃をかわすと、強烈な蹴りを彼に喰らわした。

「うっ」

ガブリエルは呻いて腹を押さえている隙を狙い、リューイは間髪入れずに彼の頭上から剣を振り下ろそうとした。

しかし、ガブリエルは素早く体勢を立て直し、リューイの喉元を短剣で掻き切った。

彼は血泡を吐きながら、ゆっくりと後退していった。

「おのれ・・」

彼は持っていた松明を落としそうになり、己の身体に火をつけてしまった。

燃え盛る炎に我が身を焼かれながら、彼は断末魔の悲鳴を上げ、地面へと倒れた。

「哀れな・・」

「よくも、父上を!」

リューイの焼死体を冷ややかに見つめていたガブリエルの前に、ユリウスが現れた。

その顔は怒気に満ちており、コバルトブルーの双眸は激しい怒りで満ちていた。

彼はすっとガブリエルの前に立ったかと思うと、素早く鞘から剣を抜いた。

「わたくし達は、やはりこういう運命の下にあるのですね!」

「抜かせ!」

ユリウスは激しい憎悪と怒りに駆られ、ガブリエルに次々と攻撃を仕掛けた。

ガブリエルもユリウスに応戦し、たちまち二人の身体はそれぞれの血に塗れた。

「次で終わりだ。」

「そうですね・・」

兵士達が固唾を呑んで見守る中、ガブリエルとユリウスは同時に地面を蹴った。

ガブリエルの胸に己の剣が吸いこまれていくのを見たユリウスは一瞬安堵の表情を浮かべたが、突如襲ってきた激痛に顔をしかめた。

見ると、ガブリエルの剣が己の心臓に突き刺さっていた。

二人が同時に剣を互いの身体から抜くと、ガブリエルは支えを失い地面に倒れた。

「おい、しっかりしろ!」

ユリウスがガブリエルの方へと駆け寄ると、彼は既に息絶えていた。

(俺はまた、愛する人を死なせてしまった・・)

涙を流しながらミシェルの事を思い出していたユリウスは、遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえたような気がして、後ろを振り向いた。

そこには、死んだ筈のミシェルが立っていた。

“ユリウス、行こう。”

「・・ああ、待ってろ。今すぐ行くから。」

ユリウスがミシェルの手を取ったその瞬間、彼の魂は肉体から抜け出した。

宮廷を二分したドルヴィエ家とルシリュー家は、こうして共に滅びた。

スペインの無敵艦隊でイングランド海軍と戦っていたヴィクトリアスは、誰かが自分の名を呼んでいることに気づき、周囲を見渡した。

気の所為だと思ったその瞬間、敵の刃が彼の頸動脈を切り裂いた。

(ここで、わたしは死ぬのか・・)

薄れゆく意識の中で、ガブリエルが自分の頬を優しく撫でるのをヴィクトリアスは感じながら、静かに目を閉じた。

スペインの無敵艦隊・アルマダは、イングランド海軍の前に無残にも破れ去り、兵士達は軍船諸共海の藻屑へと消えていった。







最終更新日  May 18, 2013 04:34:50 PM
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処刑されたアンヌの遺体は、ドルヴィエ家の一族の墓所に手厚く葬られた。

「ガブリエル様、あなたを残してスペインに帰国するのが辛いです。」

「わたくしのことは、お気にならさず。遠くからヴィクトリアス様のご健闘をお祈りしておりますわ。」

葬儀から数日後、ガブリエルはスペインへと帰国するヴィクトリアスにそう言って彼を送り出した。

「また、会いましょう。」

「ええ。その日を楽しみにしておりますわ。」

ガブリエルはヴィクトリアスと別れる悲しみを隠し、彼の姿が見えなくなった途端にその場で泣き崩れた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「少し泣いたら、スッキリしたわ。もう戻りましょう。」

「はい・・」

主を失くした邸は、何処かガランとした空間に見えた。

「お嬢様、お帰りなさいませ。」

「夕食はまだ食べないわ。」

「かしこまりました。」

自室へと入ったガブリエルは、化粧台の前に座り鏡で自分の顔を見た。

そっと腰下まである長さの髪を摘んだガブリエルは、近くに置いてあった鋏を取った。

「ガブリエルお嬢様、晩餐(ばんさん)の準備が整いました。」

数分後、アンドレがガブリエルに夕食を告げて彼女の部屋のドアをノックしたが、中から返事はなかった。

「お嬢様、入りますよ?」

アンドレは腰に巻きつけている鍵束の中から一本の鍵をガブリエルのドアノブに挿し込むと、部屋の中へと入った。

部屋の中は暗く、化粧台の前でガブリエルは疲れていてしまったのか寝てしまっていた。

「お嬢様、起きて下さい・・」

アンドレがガブリエルを揺り起そうとした時、彼女の長い髪が耳の下まで切り揃えられていることに気づいた。

「アンドレ・・」

「何ということを!お嬢様の美しい御髪が・・」

「髪の事など、どうでもいいの。髪はいずれ生えてくるでしょう。」

アンドレは腰を屈めると、床に散らばった金髪の束を拾い上げた。

「わたしね、もう迷わないことにしたの。」

「何をなさるおつもりですか?」

「戦うわ、リューイと。」

「わたしも、お嬢様と運命を共にいたします。」

「ありがとう、アンドレ。」

母の死によって、ガブリエルは貴族の令嬢としての人生を捨てた。

華やかなドレスから甲冑を纏ったガブリエルは、本来の性に戻ったような気がした。


「閣下、どうなさいますか?」

「決まっている・・ドルヴィエ家の遺児を殺せ!たとえどんな手を使ってでも、始末せよ!」

「ははっ!」

(面白いことになってきたな・・)

リューイは口端を歪めて笑うと、ゴブレットに注がれた葡萄酒を一気に飲み干した。

翌朝、ドルヴィエ邸をルシリュー軍が包囲した。

「お母様、わたしに力を貸してください。」

ガブリエルはそう呟き胸の前で十字を組むと、外へと飛び出していった。






最終更新日  May 18, 2013 04:34:20 PM
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※BGMとともにお楽しみください。

死刑執行までの数日間、アンヌは生まれて初めて穏やかな気持ちになった。

これまで男達に負けぬよう、必死に歯を食いしばって生きて来た。

だが弟が死に、王妃に陥れられて今まで築き上げて来た地位や権力を全て失った今となっては、もう何もかもどうでもよくなってきた。

「奥様、お食事です。」

「ありがとう。」

「明後日ですね・・」

「そんなに悲しい顔をしないで。」

「ですが・・」

アンヌはそっとルイーゼの手を握ると、彼女に微笑んだ。

「ガブリエルに伝えて。もしわたしが居なくなっても、ずっとあなたの傍にいると。」

「わかりました、必ず伝えます。」

「ありがとう。」

一方ガブリエルは、母・アンヌの死刑執行を聞き、泣き崩れて部屋に籠ったまま出て来なか
った。

「お嬢様、せめて少しお食事を・・」

「放っておいて!」

「ですが・・」

使用人達が説得してもなかなか部屋から出てこないガブリエルをどんな言葉を返したらいいのかわからずに右往左往していると、ヴィクトリアスが彼女達の前に現れた。

「いつまでそうなさっておられるおつもりですか、ガブリエル様!」

「あなたには、関係のないことでしょう!」

「関係なくはありません!あなたは、これから多くの敵と立ち向かっていかねばならないのですよ!それなのに、あなたは泣き崩れるしか術はないのですか!?」

「わたしは・・」

「本気で戦いたいとお思いならば、今すぐ部屋から出なさい!」

ヴィクトリアスの言葉が、ガブリエルの萎えかけた足と心を奮い立たせた。

「ヴィクトリアス様、お願いです。わたしを母の元へ連れていってください。」

「わかりました。」

アンヌが斬首刑に処される日が来た。

彼女は真紅のドレスに身を包み、泣き崩れるルイーゼをそっと抱き締めてこう言った。

「今までわたくしに尽くしてくれて、ありがとう。また来世で会いましょう。」

「奥様・・」

「アンヌ様、お時間です。」

「わかりました。」

彼女は背筋を伸ばし、地下牢から出て行った。

処刑場には“氷の貴婦人”の最期を見ようと、大勢の見物人で溢れ返っていた。

その遠くに停められている馬車から降りたガブリエルは、目深にフードを被り見物人の中に紛れ込んだ。

「“氷の貴婦人”がやってきたぞ!」

「これから死ぬ運命だってのに落ち着いていやがる・・」

ガブリエルが周囲を見渡すと、一台の粗末な馬車からアンヌが降りてくるところだった。

真紅のドレスを纏い、凛とした様子で処刑台の前へと向かうアンヌは、ガブリエルが自分を見つめていることに気づき、ガブリエルに微笑んだ。

ガブリエルはアンヌに何か言おうとしたが、言葉が出なかった。

やがて処刑人が処刑台でうつ伏せになったアンヌの頭上に斧を振り翳(かざ)すと、その首を一撃で刎(は)ねた。

ガブリエルは、母の最期を見届けると馬車の中へと戻った。

(さようなら、お母様・・)






最終更新日  July 17, 2013 07:16:37 AM
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「そういえば、先程こちらにあなた宛ての手紙が届きましたよ。」

異端審問所にあるアリスティドの執務室で、アンヌは彼から自分宛の手紙を受け取った。

そこには、ニコルが昨夜突然喀血し、そのまま息を引き取ったと書かれてあった。

「どうかなさいましたか?」

「義妹からの手紙でした。弟が、昨晩喀血し息を引き取ったと・・」

「そうですか・・それでは、もうあなたの無実を証明する者は居なくなりましたね。」

アリスティドはそう言うと、アンヌを少し憐れむような目で見た。

「わたしを憐れまないでくださいませ。」

「アンヌ様、王妃様があなたにお会いしたいそうです。」

「そうですか・・わかりました。」

アリスティドはさっと椅子から立ち上がって扉を開け、王妃を招き入れた。

「あなたはもう逃げられないわよ、アンヌ。」

狂気に満ちた翡翠の双眸を爛々と輝かせながら、王妃はアンヌにそう言うと彼女を睨みつけた。

「承知しております、王妃様。」

「そう、なら話は早いわ。アリスティド、これに署名なさい。」

王妃がそう言ってアリスティドの鼻先に突き付けたのは、アンヌの死刑執行書だった。

「ですが王妃様、わたしは・・」

「アンヌの命をどうするかは、もうわたくしが決断したのです!お前はそれに従うしかないのですよ!」

やや高圧的な王妃の言葉にアリスティドは少しムッとしたような表情を浮かべたが、王妃の手から死刑執行書を受け取った。

「これで宜しいでしょうか?」

「ええ。ありがとう。」

アリスティドがサインした死刑執行書を受け取った王妃は、満足気な笑みを浮かべながらアンヌを見た。

「もうあなたと会えなくて済むなんて、せいせいするわ。」

「王妃様、わたくし達はどこから道を間違えてしまったのでしょう?」

「そんなこと、わたくしに聞かないで頂戴。わたくしはあなたの事が、最初から嫌いだったのよ。ただ、それだけよ。」

もうこれ以上お前とは話したくないとばかりに、王妃はアンヌに背を向けて部屋から出て行った。

「アンヌ様、あなたに会わせたい女が居るのです。」

「会わせたい女?」

「入りなさい、ルイーゼ。」

王妃と入れ違いに、ドルヴィエ家で下働きをしていたルイーゼが入って来た。

「お久しぶりです、奥様。」

「ルイーゼ、どうして・・」

「あなたが補縛されたと聞き、この女は我が身の危険を顧みずにあなたの世話をするとわたし宛に手紙を書いてきたのです。」

「そう・・」

「さぁルイーゼ、あなたはアンヌ様と一緒にこの部屋から出なさい。」

「わかりました。」

地下牢に戻ったアンヌは、ルイーゼに髪を梳いて貰った。

「ここでの生活は、いかがです?」

「まぁ、最高とは言えないわね。それよりもルイーゼ、あなたの仲間達は・・」

「ダリウスもダニエルも、元気にしております。奥様、これから誠心誠意お仕えさせていただきます。」

「宜しく頼むわ、ルイーゼ。」

伯父の訃報と、アンヌの死刑執行が決まったという手紙がガブリエルの元に届いたのは、夜明け前の事だった。







最終更新日  May 18, 2013 04:33:37 PM
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May 16, 2013
数日後、王妃主催の御前試合が練兵場で開催された。

そこには、腕に覚えがある屈強な猛者達が集まり、その中で華奢なガブリエルは目立っていた。

「よぉ姉ちゃん、来る場所間違えたんじゃねぇのか?」

「金持ちの旦那捕まえるんなら、娼館に行きな。」

「ここはガキが来る所じゃねぇんだ、帰んな!」

案の定、ガブリエルはそう男達から野次を飛ばされたが、ガブリエルは平然とした様子で愛剣を確かめた。

「ガブリエル様、奇遇ですね。」

「あら、ユリウス様。あなたも御前試合に?」

「ええ。あなたがご出場されるとは意外ですね。」

ユリウスはそう言ってガブリエルに微笑むと、誰かに呼ばれたようでそこから去っていった。

「王妃様、大変です!これが今朝届いて・・」

「見せなさい!」

王妃が女官の手から封筒を乱暴に受け取ってそれを逆さにすると、中から乾いた目玉が大理石の床に転がり落ちた。

近くに居た女官が悲鳴を上げ、床にへたり込んだ。

「何をしているの、早くその汚らわしい物を片付けなさい!」

「は、はい・・」

(敵はかなり手強いようね。まぁいいわ、既に手は打ってあるんだもの。)

鎧を身に包み、練兵場の選手控室へと出たガブリエルを待っていたものは、男達の下卑た笑い声と罵声だった。

「恐れてはなりませんよ、お嬢様。」

「わかっているわ。ヴィクトリアス様は?」

「それが・・急用でいらっしゃらないとか。」

「そう。」

ヴィクトリアスが来てくれると思っていたガブリエルは、アンドレの言葉を聞いて失望したが、剣の柄を握り締めた。

ユリウスは真紅の天幕から現れた対戦相手がガブリエルだと知り、驚愕の表情を浮かべた。

「何か不都合なことでも?」

「いえ・・」

審判の合図によって、試合は開始された。

毎日ヴィクトリアスと剣術の稽古をつけると言っているだけあって、ガブリエルの剣の腕はかなりのものであった。

日々鍛錬を積み重ねているユリウスでも圧倒される腕前で、彼はたちまち劣勢に立たされた。

『よいですか、必ず彼女を倒すのですよ?』

試合前、王妃がそう言って金貨が詰まった袋を自分に手渡した光景が、ユリウスの脳裏に浮かんだ。

この勝負ははじめから仕組まれており、公の場で王妃がガブリエルを殺害しようと企んでこの御前試合を思いついたのだった。

ユリウスは、“事故”と見せかけてガブリエルを殺さなければならなかった。

だが、そんなことは出来なかった。

「勝負、つきましたわね。」

ガブリエルに剣の切っ先を喉元に突き付けられたユリウスは、素直に敗北を認めた。

「役立たずめ!」

王妃は憤然とした様子で練兵場から立ち去った。








最終更新日  May 18, 2013 04:33:17 PM
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部屋の中に居たのは、リゼットだった。

「貴様、そこで何をしている!」

ヴィクトリアスがそう言ってリゼットを睨むと、彼女は舌打ちし、隠し持っていた短剣を抜いて彼に突進してきた。

しかしヴィクトリアスの方が早かった。

彼は電光石火の動きでリゼットの手首を柄で打ち、彼女は短剣を床に落とした。

「一体何の目的でここに来た?」

「それは言えないね。」

ヴィクトリアスは剣の切っ先をリゼットの喉元に突き付けたが、彼女は平然とした様子でそう言うと、彼の顔に唾を吐きかけた。

「こいつを縛りあげろ。」

「かしこまりました。」

「何すんだよ、離せ!」

アンドレと男性使用人達に部屋から摘みだされたリゼットは、憎悪に満ちた視線をガブリエルに投げつけて来た。

思わず恐怖で身を竦めた彼女を、リゼットは嘲笑った。

「お姫様には剣は似合わないね。御前試合なんて出るのやめたら?」

「何故、あなたがそんなことを知っているの?」

「ふん、それも言えないね。」

「どうかな?いずれお前の口を割ってやろう、ありとあらゆる手を使ってな。」

ヴィクトリアスがリゼットを睨み付けると、彼女は俯いた。

「ガブリエル様、先にお休みになってください。わたしはやることがありますので。」

「は、はい・・」

「アンドレ、ガブリエル様のお傍についていてくれないか?」

「あなたに命じられなくても、わたしはそうするつもりです。」

アンドレは憮然とした表情を浮かべると、部屋から出て行った。

「お嬢様、腕に痣が・・」

「ああ、これ?剣術の稽古で出来たのね、きっと。」

夜着に着替えたガブリエルの右上腕部に青痣が出来ていることに気づいたアンドレは、思わず彼女に抱きついた。

「もうおやめ下さい、こんなことは。」

「わたしはやめないわ、アンドレ。お願いだから、わたしを止めないで。」

「わかりました、お嬢様・・」

アンドレはそう言うと、ガブリエルに頭を下げて部屋から出て行った。

ドルヴィエ邸の地下牢では、ヴィクトリアスがリゼットを天井に逆さ吊りにして彼女を鞭打っていた。

「ここに入った目的を言え!」

「言うもんか!」

「そうか、それではこれで吐く気になるか?」

少し苛立った様子の彼は、熱した鉄製の火箸を躊躇(ちゅうちょ)なくリゼットの両眼に突き刺した。

手負いの獣のような叫び声が、ドルヴィエ邸に響いた。

「わかった、言うよ・・」

「ふん、はじめからそう言えばよいものを。お前が意地を張るから、全盲となったのだから自業自得だ。」

ヴィクトリアスはそう言うと、長剣の切っ先で荒縄を天井から切り落とし、床に倒れ伏したリゼットの亜麻色の髪を掴んだ。

眼球があった箇所からの大量の出血で、彼女の顔は血まみれになっていたが、彼女は血が滲んで腫れた唇を動かし、ある事をヴィクトリアスに告げた。

「あたしを物乞いの格好をさせてここに送りこんだのは・・王妃様だ。お願いだよ、あたしを・・」

「ふ、そうか。では用はないな。」

ヴィクトリアスは長剣を床に投げ捨てると、短剣で彼女の頸動脈を切り裂いた。







最終更新日  May 18, 2013 04:32:55 PM
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リゼットが慣れた手つきで魚を捌く姿を見ながら、アンドレは何故彼女がドルヴィエ邸にやって来たのかを訝しがり始めていた。

「お前、リゼットといったな?」

「はい・・」

「ここにやって来た目的は何だ?」

「あの・・わたしは・・」

「一夜の宿を借りるなら、何処でもいいだろう?」

「ちょっと、口を動かす暇あったら手を動かしな!」

「すいません・・」

リゼットを尋問しようとしたアンドレは、ルイーゼに怒鳴られて舌打ちし、仕事に戻った。

「今日は美味しそうな魚料理ね。」

「新鮮なものを市場で仕入れましたから。それよりもガブリエルお嬢様、後でお話したい事がございます。」

「わかったわ。アンドレ、あなた方もいただきなさい。」

「ですがお嬢様・・」

貴族の令嬢であるガブリエルが使用人と食事を共にするなど、非常識甚だしかったが、そんなことを気にするガブリエルではなかった。

「では、頂きます。」

厨房に戻ったアンドレは、ルイーゼとリゼットにダイニングに来るように言った。

「あら、あなた見ない顔ね?」

「リゼットと申します、お嬢様。一夜の宿を借りる代わりに、魚を捌いて貰いました。リゼット、ガブリエルお嬢様にご挨拶しろ。」

「リゼットと申します、ガブリエルお嬢様。」

「そんなに怯えないで、リゼット。」

怯えたような目で自分を見つめるリゼットに、ガブリエルはそう優しく声を掛けると、彼女は笑顔を見せた。

「ルイーゼ、戻って来てくれたのね!」

「お久しぶりです、お嬢様。」

「ダニエル達は、元気にしている?」

「ええ。それよりもお嬢様、王妃様主催の御前試合にご出場されるとか・・」

「ヴィクトリアス様に剣術の稽古をつけて貰っているの。」

「そうですか。それよりも後で話したい事があるのですが・・」

ルイーゼはそう言うと、チラリと横目でヴィクトリアスを見た。

「出来れば、ヴィクトリアス様にも・・」

「わかった。話を聞こう。それよりも今は腹ごしらえをせねばな。」

ヴィクトリアスはそう言うと、胸の前で十字を切り、食前の祈りを捧げた。

夕食後、ガブリエルとヴィクトリアスはルイーゼと共にアンヌの部屋に入った。

「話とは何なの?」

「実は王妃様主催の音楽祭当日の夜、この家に暗殺者が送り込まれました。」

「何ですって!?」

「その暗殺者は、これを握っておりました。」

ルイーゼはそう言うと、暗殺者が死に間際に握り締めていた紙を二人に見せた。

「一体、誰がこんなものを・・」

「用心しないといけませんね。」

「ええ。けれど、お母様の身に危険が迫って・・」

「しっ!」

突然ヴィクトリアスがガブリエルの口を右手で塞いだので、ガブリエルとルイーゼは思わず彼を見た。

「どうしたんです?」

「誰かが・・隣の部屋を荒らしている!」

押し殺した声でそう言ったヴィクトリアスは、長剣を鞘から抜き、短剣をガブリエルに手渡した。

二人が忍び足で隣室の前へと向かうと、その中では何者かが家具を動かしている音が聞こえていた。

ヴィクトリアスはガブリエルに目配せすると、二人で同時に隣室の扉を蹴破った。

「そこに居るのは誰だ!」







最終更新日  May 18, 2013 04:32:30 PM
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数日後、王妃主催の御前試合が開かれることをガブリエルは知り、ヴィクトリアス指導の下、剣術の稽古に励んだ。

「かなり上達しましたね。」

「ヴィクトリアス様の教え方が良いからですわ。」

額から流れ出る汗をハンカチで拭いながら、ガブリエルはそう言ってヴィクトリアスに微笑んだ。

「御前試合まではまだ時間がありますから、余り無理をしないでください。」

「わかりました。」

「ガブリエルお嬢様、お手紙です。」

アンドレは少し不機嫌そうな様子で二人に近づくと、ガブリエルに手紙を手渡した。

「ありがとう。」

「いえ・・ではわたしはこれで失礼致します。」

アンドレはガブリエルとヴィクトリアスの姿を見たくなくて、くるりと彼らに背を向けて邸の中へと戻った。

「アンドレ、久しぶりだね。」

「ルイーゼ様、お久しぶりです。確かあなた方はイングランドへと向かったのでは?」

「ちょっと用事を思い出してね。それよりもあの手紙、ちゃんとお嬢様に渡してくれたか
い?」

「ああ。」

厨房に入ったアンドレは、じゃがいもの皮を包丁で剥き始めた。

ルイーゼはそんな彼の姿を見た後わざとらしい溜息を吐くと、木箱に入っていた魚を見た。

「ねぇ、これからどうするんだい?」

「どうするも何も、わたしはお嬢様とドルヴィエ家をお守りするだけだ。流れ者のお前達とは違って、わたしは奥様に借りがあるからな。」

「流れ者、ねぇ・・よく言ってくれるじゃないか?あたし達だって好きで各地を放浪している訳じゃないんだ。」

ルイーゼはそう言ってアンドレを睨み付けると、木箱から魚を一尾取り出してそれを包丁で捌(さば)き始めた。

彼女が鱗(うろこ)を器用に削り取っていると、裏口を誰かが激しくノックする音に気づいた。

「あんた、出てくんない?あたしは手が離せないからさ。」

「わかった。」

アンドレはじゃがいもの皮剥きを中断し、裏口へと向かった。

そこには、みずぼらしい身なりをした少女が寒さに震えながら立っていた。

「何の用だ?」

「申し訳ございません、あの・・一夜の宿をお借りできないかと・・」

「今は忙しい。」

アンドレがそう言って少女を見ると、彼女は落胆の表情を浮かべた。

「入れてあげりゃぁいいじゃないか?このままこの子が行き倒れでもしたら、お嬢様に責められるのはあたし達だよ。」

ルイーゼの言葉を聞いたアンドレは、渋々と裏口のドアの前から移動して、少女を招き入れた。

「ありがとうございます。」

彼女は大変恐縮した様子で何度もアンドレに頭を下げながら厨房に入った。

「あんた、魚は捌けるかい?」

「ええ・・漁村で暮らしていましたから。」

「そうかい。じゃぁ、あそこにある魚を捌いておくれ。夕食まで時間がないからね。あんた、名前は?」

「・・リゼットと申します。」

謎の少女・リゼットはそう言うとルイーゼ達に頭を下げ、魚を慣れた手つきで捌き始めた。







最終更新日  May 18, 2013 04:32:02 PM
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