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JEWEL

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連載小説:VALENTI

2020年04月08日
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カテゴリ:連載小説:VALENTI
「グレイ家を襲った強盗犯は、三人組といいましたね?」
「えぇ。暗くて顔は良く見えませんでしたが、三人共男でした。」
「ジョン様とチャールズ様はどちらに?」
「さぁ・・お二人は・・」

ステファニーとエドガーが強盗事件について話していると、ジョージの悲鳴が聞こえた。

「ジョージ様、大丈夫ですか?」
「誰かが僕を殺しに来る・・怖いよぉ~!」
「大丈夫ですよ、ジョージ様。ここにはわたし達しか居ませんよ。」

悪夢にうなされていたジョージを、ステファニーは彼が寝るまで傍に居た。

「ジョージ様は?」
「やっとお休みになられましたよ。今は彼の心のケアが大事ですね。」
「ええ。ご両親を殺された上に、自分も殺されそうになったのですから、悪夢にうなされるのは当然です。」
「ステファニーさんも早くお休みになって下さい。」
「はい、わかりました。」

翌朝、ステファニーは実家の家族へ宛てた手紙を認(したた)めていた。

「スティーブ様、NYにいらっしゃるステファニー様からお手紙が届きました。」
「ステファニーから?」

執事長から、ステファニーの手紙を受け取ったスティーブは、蜜蝋の封を切り、それに目を通した。

『親愛なるお兄様、突然のお手紙を寄越してしまい、申し訳ありません。
NYで、わたしはジョージ=グレイという少年と知り合いました。彼は優しく聡明な子ですが、先日彼の両親は強盗によって命を奪われ、上の兄二人は行方不明となりました。このままジョージ様は孤児院に送られてしまいます。その前にどうか、ジョージ様をセルフォード侯爵家の一員に加えて頂けるよう、取りなして下さいませ。どうかお願い致します。 あなたの愛する妹、ステファニーより』

手紙を読み終えたスティーブは、ステファニーの手紙を携え、父の執務室へと向かった。

「父上、スティーブです。今、よろしいでしょうか?」
「スティーブか、入れ。」
「失礼致します。」

執務室に居る父の顔は、何処か疲れているように見えた。

「父上、お顔の色が少し優れないように見えますが・・」
「少し風邪をひいてしまった。それよりも、話しとはなんだ?」
「ステファニーから、こんな手紙が・・」

セルフォード侯爵は、ステファニーの手紙に目を通した後、こう言った。

「スティーブ、ステファニーにすぐ返事を出せ。ジョージ=グレイを我が侯爵家に受け入れると。」
「わかりました。では、失礼致します、父上。」
「スティーブ、今週末用事を空けておけ。お前に会わせたい人が居る。」
「わかりました。」

自室に戻ってステファニーの手紙への返事を認(したた)めながら、スティーブは深い溜息を吐いた。

(結婚、か・・)

やがてセルフォード侯爵家を継ぐ身としていずれ自分は結婚しなくてはならない。

身分と家柄が釣り合う相手を。

(ステフはいいよな、愛する相手と巡り会えて。)

まだ認めた訳ではないが、スティーブの目から見ても、ステファニーとエドガーは似合いのカップルだった。
同じ価値観を持つ者同士が結ばれるのが一番理想的な結婚なのだが、現実はそうはいかない。
せめて、ステファニー達には幸せになって欲しい―そう思いながら、執事長を呼ぶ為にベルを鳴らした。

「この手紙を、ステファニーに届けてくれ。」
「かしこまりました。」

グレイ家の強盗事件発生から数日後、長男・ジョンと次男・チャールズが、カルフォルニアの海岸で遺体となって発見された。
そしてチャールズの遺書には、自分が人を雇って両親を殺害し、全財産を奪おうとしたと書かれていた。

「信じられません、こんな・・」
「確かに・・」

ステファニーとエドガーが朝刊の記事を読んでいると、フロントから電話が来た。

「ステファニー=セルフォード様ですね?スティーブ=セルフォード様からお手紙が届いております。」
「ありがとう。」








最終更新日  2020年04月10日 12時44分12秒
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2020年04月06日
カテゴリ:連載小説:VALENTI
『お元気そうで良かったです。』
『ねぇステファニー、隣の方は?』
『はじめまして、ジョージ様。わたしはステファニーの婚約者・エドガー=セルフシュタインと申します。』

エドガーがそう言ってジョージに挨拶すると、彼は憧れの目でエドガーを見た。

『プレゼントは、後でお渡ししますね。』
『わかった!』

パーティーは、盛況だった。

「あなた、どうしてわたくしがあの子の誕生日をお祝いしなければならないの?」
「そう言うな。」
「あの子、何処か薄気味悪いったらありゃしない。あの女にそっくりね!」
「やめないか、こんな日に・・」

継母と父が自分の事で言い争っているのを偶然聞いてしまったジョージは、今にも泣きそうな顔をしながら自分の部屋へと向かおうとした時、彼は廊下でエドガーとぶつかってしまった。

『どうしたんだい、そんな顔をして?誰かにいじめられたのかい?』
『僕、要らない子なの?』
『そんな事はないよ。』

ステファニーからグレイ家の複雑な家庭環境を聞いていたエドガーは、そう言うと彼に微笑んだ。

『どうして、お母様は僕を嫌うんだろう?』
『ジョージ、君にはお母様が二人居るだろう?それはとってもうらやましい事なんだよ。』
『本当?』
『あぁ、本当さ。』

エドガーと共に客達の前に現れたジョージは、もう泣いていなかった。

「今日は楽しかったわ、あなた。」
「ジョージにプレゼントは?」
「そんなもの、はじめから用意していないわ。ねぇあなた、わたしやっぱりあの子を受け入れる事は出来ないわ。」
「あの子をひとりでフランスへと送り返すつもりか?あの子は物じゃないんだぞ!」
「だったら、孤児院にでも入れて下さいな!もうこれ以上、あの子の顔を見るのはうんざりなの!」

グレイ夫人がそう言った後、外から突然悲鳴が聞こえて来た。

「一体、何が・・」

グレイ氏が寝室から出ようとした時、一発の銃弾が彼の胸を貫いた。

「あなた!」

グレイ夫人が慌てて夫の元へと駆け寄ると、彼は息絶えていた。

「金を出せ!」
「やめて、殺さないで!」

グレイ夫人はそう言って強盗達に必死に命乞いしたが、無駄だった。

『今の、何の音?』

銃声を聞いたジョージが部屋から廊下へと出ると、そこは血の海だった。

「お父様、お母様!」

彼が両親の寝室へと向かうと、二人共死んでいた。

(何で、どうしてこんな事に・・)

突然の両親の死にショックを隠せず、その場に固まったまま動かないジョージのこめかみに、冷たい物が押し当てられた。

「声を出すな、出したら殺す。」

(誰か、助けて・・)

「跪け。何、すぐに両親の元へ送ってやる。」

ジョージは死を覚悟した。

だがジョージのこめかみに銃を押し当てていた強盗は、何者かによって倒された。

『ジョージ様、お怪我はないですか?』
『ステファニー・・』
ジョージはステファニーの顔を見た瞬間、安心して気を失った。
「あなた達は、強盗の顔を見たんですか?」
「えぇ。強盗は三人組ですが、一人はわたしが倒して、残り二人は家の裏口から逃走しました。」

ステファニーは、グレイ家に駆け付けて来た警官達に逃走した強盗犯二人組の人相を教えた後、毛布にくるまって震えているジョージの方を見た。

「ジョージ様はこれからどうなるのですか?」
「彼は、孤児院に行く事になりだろうね。」
「そんな・・」
「ジョージ様を、わたし達が預かってもよろしいでしょうか?」
「それは、構いませんが・・」

警察の事情聴取を終えたステファニーとエドガーは、孤児となったジョージを連れて宿泊先のホテルへと向かった。

『ジョージ様、もう大丈夫ですよ。今夜は一緒に寝ましょうね。』








最終更新日  2020年04月06日 20時49分46秒
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2020年03月30日
カテゴリ:連載小説:VALENTI
「ジョージはまだ寝込んでいるの?」
「はい、奥様。」
「全く、あの子は面倒ばかりかけるんだから。」
グレイ夫人は吐き捨てるようにそう言った後、一階へと降りていった。
「冷たいねぇ。」
「そりゃぁ、前妻の子だからね。」
「それじゃぁ、前の奥様はどんな方だったのですか?」
「綺麗でとてもお優しい御方でね、あたし達使用人にも良くしてくれたよ。」
「全く、今の奥様とは大違いだよ。」
「そうそう。」
「ステファニー、奥様がお呼びよ。」
「はい、わかりました。」
ステファニーが二階から一階へと降りてグレイ夫人が居る居間へと入ると、そこにはエドガーの姿があった。
「エドガー様、何故こちらに?」
「ステファニーさん、あなたは今日で自由の身ですよ。」
「それは、一体どういう事ですか?」
「実は・・」

エドガーは、グレイ夫人がステファニーに盗まれたと主張していたダイヤモンドが、NYの質店で発見された事を話した。

「どうして、ダイヤモンドがNYの質店に?」
「それは、あなたの方から説明して下さい。」
「そ、それは・・」
「出来ないというのなら、わたしが説明しましょう。グレイ夫人、あなたは下の息子さんのポーカー賭博の借金を返済する為、ダイヤモンドを質に入れたのですね。」
「そ、そうよ!」
「その質店からわたしが懇意にしている宝石店のオーナーから連絡がありましてね・・あなたが質入れしたダイヤモンドは、屑同然の代物でしたよ。」
「あれは、南アフリカで一番の・・」
「詐欺師の口車にまんまと乗せられて、あやうく全財産を失うところでしたね。」

エドガーはそう言うと、冷たい目でグレイ夫人を睨んだ。

「わたしの婚約者を返して貰いましょう。」
「わかったわよ!」

グレイ夫人はそう言って歯軋りした後、居間から出て行った。

「さぁステファニーさん、早く着替えて下さい。」
「はい、わかりました。」

ステファニーが二階の屋根裏部屋で着替えをしていると、そこへジョージがやって来た。

『どこかへ行くの?』
『えぇ。短い間でしたが、ジョージ様をお知り合いになられて嬉しかったです。』
『また会える?』
『ジョージ様が、会いたいと思えるのなら、会えますよ。』

ステファニーはジョージと抱擁を交わした後、グレイ邸を後にした。

「何だか長いようで短かった一ヶ月でした。」

宿泊先のホテルの部屋のソファに座ったステファニーは、そう言うと溜息を吐いた。

「ステファニーさん、あなたを迎えに来るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「謝らないで下さい、エドガー様。」
「ステファニーさん、そんな顔をしている時は、何か心配事でも?」
「えぇ。」

ステファニーはエドガーに、グレイ家の家庭環境を話した。

「そうですか・・」
「わたしはジョージ様の事が気になって仕方がないんです。何だか、弟に姿を重ねてしまって・・」

エドガーはステファニーの言葉を聞いて、彼の弟・レオナルドが、ジョージ=グレイと同じ喘息の持病を持っている事を思い出した。

「エドガー様、これを。」
「これは、ジョージ様の誕生日パーティーの招待状ですね。」
「えぇ。」
「ジョージ様とステファニーさんと出会ったのも何かの縁です。すぐに出席の返事を致しましょう。」
「はい。」

ステファニーとエドガーは、グレイ家の三男・ジョージの誕生パーティーに出席した。

「ジョージ様、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「ジョージ、あなたにお客様が来てるわよ。」
「わかりました、お母様。」

ジョージが玄関ホールへ向かうと、そこには盛装したステファニーと、彼女の婚約者と思しき綺麗な男の人が立っていた。

『お誕生日おめでとうございます、ジョージ様。』
『ステファニー、来てくれたの!』

ジョージはそう叫ぶと、ステファニーに抱きついた。







最終更新日  2020年03月30日 00時00分09秒
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2020年03月25日
カテゴリ:連載小説:VALENTI
「何でだよ、ジョージ兄さん!」
「今は株取引は慎重にした方がいいと言っているんだ、チャールズ!」
「ジョン、これは千載一遇のチャンスなのよ!逃がすなんてもったいないわ!」
「僕は母さん達には反対だね!」
ジョンはそう言うと、居間から出て行った。
「ちょっと新人さん、こんな所で油売ってないで、仕事しな!」
「すいません・・」
「今日は色々と針仕事が多くてね。あんた、裁縫は得意かい?」
「はい。」

貴婦人の嗜み、淑女教育の一環として刺繍をはじめとする針仕事を物心つく前から教えられ、それらを家庭教師から厳しく叩きこまれたステファニーにとって、シーツを五十枚縫う事など朝飯前だった。

「はじめてにしちゃ、手際が良いね。」
「あの、ジェーンさん、ジョン様とチャールズ様は仲が悪いのですか?」
「まぁね。ジョン様は長男だし、旦那様亡き後、グレイ家の財産を全て相続できる。でもチャールズ様は違う。」
「つまり、チャールズ様はグレイ家の“ヤンガー・サン”だという事ですか?」

ヤンガー・サン―英国貴族は厳格な長子相続制を取っており、次男以下の男児は爵位・領地、財産などを相続する事が出来ず、平民と同じ地位にあった。

「まぁ、そんなところだね。奥様は昔からチャールズ様溺愛なさっておられたし、ジョン様はそれが面白くないんだよ、きっと。」

ステファニーもチャールズ=グレイと同じ立場ではあるが、兄・スティーブとの兄弟仲は良好そのものである。
両親が自分を女として育ててくれていたのは、ステファニーが己で生きる道を見つける為の手助けをしてくれたからではないかと、ジェーンからグレイ家の事情を聞いたステファニーは最近そう思うようになってきた。
ステファニーがグレイ家のハウスメイドとして働き始めてから、一ヶ月が過ぎた。

「失礼、こちらはチャールズ=グレイ様のお宅で間違いないでしょうか?」
「はい・・」

ステファニーが玄関の掃除をしていると、そこへシルクハットを被った一人の男がやって来た。

「あの、どちら様ですか?」
「あぁ、自己紹介が遅れました。わたしは、こういう者です。」

男はそう言うと、一枚の名刺をステファニーに手渡した。

そこには、“アメリカ心霊協会会長 アーサー=セガール”と書かれていた。

「チャールズ様、失礼致します。」
「誰だ?」
「ステファニーです。アーサー=セガール様という方がいらっしゃって・・」
「わかった、すぐ行く。」

チャールズはそう言うと、急いで身支度を済ませて自室から出た。

「チャールズ様、お久しぶりです。」
「ここへは来るなと言っただろう!」
「ではどちらに行けばあなたが踏み倒したポーカー賭博の借金の請求をすればいいのですかねぇ?こっちは慈善団体じゃないんでねぇ。」

客間の扉越しに聞こえて来るチャールズと客の男の声を聞いたステファニーは、余り関わらない方がいいと思い、その場から離れた。

「あらステファニー、こんな所に居たのね。」

ステファニーが二階の客間の暖炉を掃除していると、そこへグレイ夫人がやって来た。

「何かご用でしょうか、奥様?」
「急に出かける事になったから、ジョージのお守りをお願いね。」
「はい・・」
「じゃぁ、頼んだわよ。」

グレイ夫人はそう一方的にステファニーに向かって言うと、そのまま階段を降りていった。

(人使いが荒い女だぜ。)

ステファニーはそう言って溜息を吐くと、汚れたエプロンを真新しいものに着替えた。

「ジョージ様、いらっしゃいますか?」

ステファニーがそう言いながら子供部屋のドアをノックすると、中から苦しそうなヒューヒューという音が聞こえた。
ステファニーが慌てて部屋の中に入ると、暖炉の前でグレイ家の三男・ジョージが身体を丸めて苦しそうにしていた。

「助かったよ、あんたが居てくれて。ジョージ様は喘息持ちでね、季節の変わり目には良く発作を起こされるんだよ。」
「そうだったのですか・・奥様はこの事をご存知で?」
「まぁね。ここだけの話、ジョージ様は旦那様の連れ子だからねぇ。上のお二人はジョージ様を可愛がっていらっしゃるけど・・」

(色々と複雑なんだな・・)

「ジョージ様はわたしが、奥様が戻られるまでついています。」
「わかったよ。」

エミリーが子供部屋から出て行った後、ステファニーはそっとベッドで眠っているジョージの頭を撫でた。

『ママン・・』

ジョージは、朧気な意識の中で死別した母親を呼んでいた。







最終更新日  2020年03月25日 00時00分12秒
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2020年03月23日
カテゴリ:連載小説:VALENTI
グレイ家には、厨房には料理をするシェフが一人、キッチンメイドが四人、そして洗い場で食器を洗うカトラリーメイドが三人居た。
客間や主寝室、子供部屋などの掃除、各部屋の暖炉の掃除、洗濯などを任されているのが、グレイ家のハウスキーパーと、ステファニーを含む十二人のハウスメイド達だった。

(随分使用人の数が少ないな・・うちとは大違いだ。)

セルフォード侯爵家のタウンハウスとは比べ物にならない程こぢんまりとしているグレイ邸を見つめながらステファニーがそう思っていると、邸の中から一人の青年が現れた。

「伯母様、お久しぶりです。」
「まぁジョン、来ると知っていたら家を空けなかったのに。」
「伯母様、“アトランティス号”の事故の事、聞きましたよ。災難でしたね。」
「えぇ。」

そうグレイ夫人に労いの言葉を掛けた青年は、ガーネットのような真紅の瞳でステファニーを見つめた。

「伯母様、この子は?」
「あぁ、この子は今日からハウスメイドとして働く事になったステファニーよ。ステファニー、この子はわたしの甥の、ジョンよ。」
「初めまして、ステファニーと申します。」
「へぇ、伯母様がメイドを雇うなんて珍しいなぁ。」

グレイ夫人の甥・ジョンは、そう言うと彼女を玄関ホールまでエスコートした。

ステファニーが馬車の中からグレイ夫人の荷物を運んでいると、そこへジョンが戻って来て、ステファニーの荷物運びを手伝った。

「ありがとうございます、ジョン様。」
「・・やっぱり、君みたいな綺麗な手をしたメイドは今まで一度も見た事がない。それに、キングスイングリッシュを使うなんて・・君は、労働階級に属していないね?」

そう自分に詰問したジョンの英語は、かすかにアイルランド訛りがあった。

「ジョン、その子に構わないで!」

グレイ夫人は険しい表情を浮かべながら、ステファニーを睨んだ。

「何をしているの、早く仕事に戻りなさい!」
「申し訳ありません、奥様。」
「その気取った話し方をやめなさい!」

ステファニーはグレイ夫人に対して一礼すると、屋敷の中へと入った。

「あなたが新しく入ったハウスメイドね。わたしはハウスキーパーのアメリア、よろしくね。」
「よろしくお願い致します。」
「そのドレスだと動きにくいわね、それに靴も。」

グレイ家のハウスキーパー・アメリアはそう言うとステファニーをまるで品定めするかのような目で見た。

「この服に着替えなさい。コルセットはそのままでいいわ。」
「はい・・」

グレイ家のハウスキーパー・アメリアから手渡されたのは、地味な黒のワンピースと、白のレースのエプロンとヘッドキャップだった。
靴はステファニーが普段履いているようなハイヒールではなく、黒のエナメル製のパンプスだった。

「長い髪はシニョンか編み込みになさい。髪飾りの類は一切不要です。」

アメリアははきはきとした口調でそう言った後、黒いヘアピンをステファニーに手渡した。

「奥様は色々と口うるさい方だから、身支度は素早く済ませないとね。」
「はい・・」
アメリアはステファニーを使用人部屋へと連れて行くと、そこには休憩中の数人のメイド達が居た。
「あっれぇ~、見ない顔だねぇ。」
そう言ってステファニーの顔を覗き込んだのは、顔にそばかすがあるブルネットの髪をしたメイドだった。
「エミリー、この子は奥様が新しく雇ったステファニーです。さぁステファニー、皆さんにご挨拶なさい。」
「ステファニーです、よろしくお願いします。」
「変なしゃべり方!」
「本当、おかしいったら!」

ブルネットのそばかすメイド・エミリーは、そう言うと腹を抱えて隣に居る赤毛のメイドと笑った。

「ふぅん、ジョン様が言ってた通りだぁ、見てよこの手!あたし達とは全然違うよ!」
「そりゃぁスカラリーメイドのあんたの手は年中荒れ放題だもんね。あんた、どうしてうちに来たの?」
「・・“アトランティス号”の事故で、お父様とお母様を亡くして・・行くあても、頼れる身内も居なくて、娼館に売られそうになっていた所を奥様に拾われた・・」
「その身なりからすると、あんた貴族の娘だったんだろ?可哀想にねぇ。」
「さ、さっさと着替えて仕事に取りかかりな。」
「はい・・」

ドレスからワンピースへと着替えられたのはいいが、問題は髪だった。

ステファニーは今まで、自分で髪を結った事もなければ、ヘアブラシで髪を梳く事もなかった。
それらは全て、レディースメイドのリリーや、メイド長のメイがしてくれていたから。
何とか赤毛のメイド・ジェーンに髪を編み込みにして貰い、ステファニーがグレイ家の居間へと向かうと、そこではグレイ夫人とジョンが誰かと話していた。
「ねぇ伯母様、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫に決まっているでしょう!」
「ジョン、お前は黙ってろ!」








最終更新日  2020年03月24日 16時36分59秒
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2020年03月18日
カテゴリ:連載小説:VALENTI
「ステファニーさん、しっかりして下さい!」
「エドガー様、ここは・・」

ステファニーが目を開けると、そこには自分を心配そうに見つめ、自分の手を握っているエドガーの姿があった。

「ここは、“ダイヤモンド号”の中です。アトランティス号が沈没した後、わたし達はこちらの船に救助されたのです。」
「そうですか・・じゃぁ、小父様達は・・」
「お二人共無事ですよ。」
「良かった・・」

エドガーの言葉を聞いたステファニーは、安堵の笑みを浮かべた。

「ステファニー、無事だったのね!」
「小母様も、無事で良かった。」

フレイザー伯爵夫妻と再会したステファニーは、彼らと抱擁を交わした。

「小母様達はこれからどうなさるおつもりで?」
「予定通りに観劇を楽しむわ。あなた達は?」
「それはわかりません。でもエドガー様となら楽しめます。」
「そうね。」

“ダイヤモンド号”でNYまでの航海をステファニーは楽しんだ。「「

エリス島での入国審査を終えた後、ステファニー達は船でマンハッタンにある宿泊先のホテルへと向かった。

「ねぇエドガー様、アメリカは英国と全然違いますね。」
「えぇ。」

NYの中心地・タイムズスクエアは、新聞売りの声や馬車の音などの喧騒に満ちていた。
人波に逆らうようにしながらホテルに漸く着いたステファニー達がフロントで寛いでいると、そこへ一人の男がやって来た。

「ステファニー=セルフォード様ですね?」
「はい、そうですが・・貴方は?」
「わたしはNY市警刑事・アルフレッド=ノックスでと申します。ステファニーさん、貴方を窃盗容疑で逮捕します。:
「そんな・・何かの間違いです!離してください、離して!」
「ステファニーさん、必ずわたしがあなたを助けます!」
「エドガー様!」

突然窃盗容疑で逮捕されたステファニーは、警察で意外な人物と再会する事になった。

「お久しぶりね。」
「あなたは・・」

ステファニーの前には、“アトランティス号”の歓迎パーティーで自分に言いがかりをつけてきたアメリカの成金婦人だった。

「奥様、こちらの方があなたのダイヤモンドを?」
「えぇ、この子がわたしのダイヤモンドを盗んだんです!」
「何かの間違いです!わたしは何も盗んでいません!」
「奥様、我々がダイヤモンドを探し出しますので、どうかご安心ください。」

ノックス刑事はそう言って成金婦人を宥めようとしたが、彼女は落ち着くどころかますます興奮した。

「早くこの子を牢屋へぶち込んでくださいな!」
「お待ちください!」

ステファニーは警察署に現れたエドガーを見て、安堵の表情を浮かべた。

「あなた、誰よ!?」
「わたしはこの方の婚約者です。彼女は決してあなたのダイヤモンドを盗んでなどいない!」
「何よ、証拠でもあるの!?」
「わたし達は、“アトランティス号”が沈没する前、あなたがダイヤモンドを使用人達に命じて運び出させていましたよね?その使用人達は今、どちらに?」
「そ、そんな事、わたしが知る訳ないでしょう!」
エドガーからそう指摘された成金婦人は、そうヒステリックに叫ぶと彼を睨んだ。
「奥様、そうすると、我々はあなたの勘違いでこちらの方を誤認逮捕してしまった、という事ですか?だとしたら、これは問題になりますよ?」
ノックス刑事がそう言って成金婦人を睨むと、彼女の目が少し泳いだ。
「そ、それは・・」
「ノックス刑事、わたしの婚約者を今すぐ釈放してください。」

エドガーの訴えを受けたノックス刑事は、ステファニーを釈放した。

「ステファニーさん、ホテルに戻って休みましょう。」
「えぇ・・」
「待ちなさい!」

警察署の前でステファニーがエドガーと共に馬車に乗ろうとした時、成金婦人が二人の間に割って入って来た。

「あなたは、わたしと来なさい。ダイヤモンドが見つかるまで、わたしの屋敷で働いて貰うわ。」
「そんな・・無茶苦茶な!」
「エドガー様、それでわたしの疑いが晴れるのなら、わたしは彼女に従います。」
ステファニーはそう言うと、エドガーの頬を優しく撫でた。
「大丈夫です、わたしはすぐにあなたの元に帰って来ます。」
「・・決まりね。」

こうしてステファニーは成金婦人ことグレイ夫人の家でハウスメイドとして働く事になった。







最終更新日  2020年03月18日 12時53分31秒
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カテゴリ:連載小説:VALENTI

※BGMと共にお楽しみください。

ステファニーが機転を利かせた事により、アトランティス号の乗客達の避難は滞りなく進んだ。

「さぁ、あなたも早くこちらへ。」
「いえ、わたしは船に残ります。」

ステファニーはそう言うと、救助ボートの順番をメアリー達に譲った。

「ステファニー、本当にいいの?」
「はい。だから、小母様達は先にボートへ・・」
「わかったわ。気を付けてね。」

メアリー達と別れの抱擁を交わし、彼らが乗る救助ボートが遠ざかるのをステファニーとエドガーは見送った。

「本当に、いいんですか?」
「えぇ。だってわたし達は、この化け物の相手をしなければなりませんから。」

ステファニーはそう言うと、デッキへと上がって来た化け物を睨みつけた。

「流石、英国紳士の鑑ですね。いえ、英国淑女の鑑といった所でしょうね。」

乾いた拍手の音と共に、銀髪を夜風になびかせながら、ラスプーチンが二人の前に現れた。

「どうして、お前が・・」
「この船に乗っているのかって?奇遇だね、わたし達も新婚旅行中なのさ。」
「新婚旅行だと?」
「えぇ。」

ラスプーチンはそう言うと、ステファニーに左手薬指で燦然と美しく輝くダイヤモンドの指輪を見せびらかした。

「グレゴリー、こんな所に居たのか。探したぞ。」

音楽的な美しい声がデッキに響いたかと思うと、黒髪紅眼の紳士がステファニー達の前に現れた。

「久しいな、ステファニー。」
「あなたは、どなたですか?」
「おやおや、この方の事をお忘れになるとは・・あなたは宿敵の事をすぐに忘れてしまう方なのですね?」
「宿敵だと・・」
「これを見ても、この方が誰なのかわかりませんか?」

ラスプーチンはそう言うと、ある物を掲げた。

それは、ラスプーチンによって盗まれた家宝“報復の刃”だった。

「レパード・・」
「漸く俺の名を呼んでくれたか、嬉しいぞ。」

レパードはそう言うと、口端を上げて笑った。

「一体、この船で何を企んでいる!?」
「こやつらは、生きた人間の血に飢えておる。この豪華客船の乗客達の血をやつらに与えようとしたが、また俺の邪魔をしたな、ステファニー。」

黒髪紅眼の男―レパードは、そう言うとステファニーを睨みつけた。

「レパード様、もうすぐこの船は沈没しますから、この者達は放っておきましょう。」
「それは一体、どういう事だ?」

ステファニーがそう言ってラスプーチンを睨みつけると、彼は口元に不敵な笑みを浮かべた。

「この子達が、この船に穴を開けたのですよ。船底に居た者達はこの子達の餌になりました。」
「ひぃぃ~!」

ラスプーチンの言葉を聞いた船員達は、恐怖で顔を引きつらせながら我先に救助ボートへと乗り込んで逃げてしまった。

「意気地なしどもめ。」
「お前達は、アメリカに渡って何をするつもりだ!?」
「君の友だちと同じような実験をするつもりですよ。」
「・・悪魔め!」
「何とでもおっしゃい。レパード様、こんな奴らに構うのは時間の無駄です、行きましょう。」
「あぁ。」
「行かせない・・お前達だけは絶対に許す訳には・・逃がす訳にはいかない!」
「やれ。」
「ステファニーさん、危ない!」

ステファニーの背後に化け物が忍び寄っている事に気づいたエドガーは声を上げたが、遅かった。
化け物に突然ウェストを掴まれたステファニーは、肋骨が折れる感触がして痛みに呻いた。

「ステファニーさん、逃げて!」

化け物の頭を拳銃で撃ち抜いたエドガーは、うつ伏せに倒れたまま動かないステファニーの元へと駆け寄った。

「ステファニーさん、しっかり!」
「エドガー様・・」
「早く、この船から脱出しましょう!」

エドガーはステファニーの肩に腕を回して彼の身体を支えると、自分達の旅行鞄を産みの中へと放り投げた。

「エドガー様、何を・・」
「ステファニーさん、しっかりわたしに捕まって下さい!」

 エドガーはそう叫ぶなり、ステファニーを横抱きにした後、海の中へと身を躍らせた。

海水の冷たさに、ステファニーは意識を失った。







最終更新日  2020年03月18日 00時00分12秒
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2020年03月16日
カテゴリ:連載小説:VALENTI

※BGMと共にお楽しみください。

「楽しかったですね、パーティー。」
「えぇ、とっても。」

パーティーが終わり、大広間から自分の客室へと引き上げたステファニーとエドガーは、興奮の余りなかなか寝られなかった。
漸く二人が眠ったのは、午前一時半過ぎだった。

「我が君、そろそろですね。」
「あぁ、そうだな。」

レパードはそう言うと、口端を上げて笑った。

船の地下では、棺から出て来たラスプーチンが作り出した“実験体”達が、縦横無尽に動き回っていた。

「何だか地下が騒がしいな。」
「地下の様子を見て来ます。」

船員達がカンテラを持って船の地下へと向かうと、奥の方から呻き声が聞こえて来た。

「なぁ、今何か聞こえなかったか?」
「いや、気のせいだろ?」

彼らがそう話しながら互いの顔を見合わせていたまさにその時、闇の奥から青白い手が現れた。

「何、幽霊だと?」
「は、はい!俺達確かに見ました!」
「馬鹿馬鹿しい、幽霊なんて居る訳がないだろう?」

彼らの上司はそう言って部下達の言葉を鼻で笑ったが、その直後彼は地下から這い上がって来た“実験体”によって頭を喰われた。


「ひ、ひぃ・・」
「ば、化け物~!」
「早く船長に知らせないと!」

三等船室の乗客達は、突然侵入してきた化け物達の姿に皆恐怖で顔を引きつらせ、そこは彼らの悲鳴と怒号に満ちていた。

「船長、早くこの船が沈む前に乗客達を避難させましょう!」
「わかった。一等船室の女性と子供を優先的に避難させよう。」

船に突如化け物が現れたという話を聞いた船長はにわかに信じられなかったが、乗客達の命を守る事が最優先だと判断した。

「お客様、船内で火災が発生しました、早くデッキへ避難してください!」

夜中に叩き起こされ、手早く荷物をまとめて眠い目を擦りながらデッキへと避難した一等船室の乗客達は、まだ化け物の存在を知らずにいた。

「火災が発生しました、早くデッキへ避難して下さい!」

ステファニーとエドガーが客室のベッドで熟睡していると、突然船員達の切羽詰まった声で起こされた。

「一体何があったんでしょう?」
「さぁ・・それよりも、早く荷物をまとめてデッキへと向かいましょう。」
「はい・・」

夜着からドレスへと着替えたステファニーは、エドガーと共にデッキへと向かう途中、パーティーで自分にぶつかって来た女性がヒステリックに喚き散らしながら使用人達に荷物を運び出させていた。

「早くしなさい!」
「おい、こんなに持っていける訳がないだろう、置いていけ!」
「駄目よ、そんな事出来ないわ!」
「馬鹿野郎、そんなに命よりダイヤモンドの方が大事か!」
「えぇ、大事よ!」

ステファニーとエドガーがデッキへと向かうと、そこには多くの乗客達が荷物を持って救助ボートの到着を待っていた。

「ステファニー、エドガーさん、とんだ船旅になってしまったわね。」
「えぇ、本当に。」

ステファニーがそう呟くと、突然船を激しい揺れが襲った。

「きゃぁ!?」
「一体、何なの!?」

乗客達は突然の揺れに襲われ、パニックに陥った。

「皆さん、落ち着いて下さい!」
「順番に救助ボートにお乗りください!」

船員達は必死にそう乗客達に呼びかけたが、パニックに陥った彼らはわれ先にと救助ボートへと乗り込もうとしていた。

「ステファニーさん、このままでは収拾がつかなくなりそうですね。」
「えぇ、何とかしないと・・」

ステファニーはそう言った後、ある妙案が閃いた。

「エドガーさん、拳銃を貸して頂けないでしょうか?」
「ステファニーさん、何をするつもりですか?」
「あなたは、ここで見ていて下さい。」

ステファニーはエドガーから拳銃を受け取ると、その銃口を空へと向けた。

銃声を聞いた乗客達は、急に静かになった。

「皆さん、順番に救助ボートにお乗り下さい。わたし達は必ず助かります。ですから、冷静になって下さい。」

ステファニーの言葉を聞いた乗客達は、彼の言葉に素直に従った。







最終更新日  2020年03月16日 00時00分15秒
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2020年03月11日
カテゴリ:連載小説:VALENTI




※写真はイメージです。

 アトランティス号の処女航海祝賀記念を兼ねた乗客歓迎パーティーは、一等船室の大広間で開かれた。

「盛況ですね。」
「えぇ。」

パーティー会場には、様々な国籍の招待客達が居た。

その中に、日本人留学生と思しき青年達の姿を見たステファニーは、彼らにマサトの姿を重ねていた。
もし自分と出会わなければ、マサトは今頃彼らと共にこの船に乗っていたのかもしれない。
もし・・

「ステファニーさん、今何を考えているのですか?」
「いいえ、何も・・」
「彼らの中に、マサトさんの姿を重ねていたのでしょう?」
「・・エドガー様には、何でもお見通しのようですね。」

ステファニーはそう呟くと、エドガーに泣き顔を見せまいと俯いた。

「何処か、静かな所へ行きましょうか?」
「・・はい。」

二人が大広間から、人気のないデッキへと向かうのと入れ違いに、ラスプーチンとレパードが大広間に入って来た。

―あの方・・
―見かけない方ね。
―黒髪の方に一度だけでもいいから口説かれてみたいわ。

「グレゴリー、化け物だった俺がこの顔に生まれ変わった途端、女達は俺に熱い視線を送ってくる。人はやはり、見た目で惑わせるものだな?」
「我が君、あなたの素晴らしさを知るのはわたしだけです。」
「ふん、一丁前に嫉妬か?可愛い奴め。」

レパードがそう言ってラスプーチンに微笑んだ時、楽団がワルツの演奏を始めた。

「踊ろう。」
「はい。」

突然始まった男同士のワルツに、招待客達は一斉にどよめいた。

華やかなパーティーが開かれているこの船の地下には、ラスプーチンの“実験体”が入った棺が約300体納められていた。

その中で、他の棺から少し離れた青色の棺の蓋が、少しずつ開き始めた。

「もう、戻りましょう。」
「はい。」

二人が大広間に戻ると、丁度レパードとラスプーチンのワルツが終わったところだった。

「ステファニー、久しぶりだな。」
「小父(おじ)さん、お久しぶりです!」

ステファニーは、両親の友人であるフレイザー伯爵夫妻と久しぶりに会い、彼らと抱擁を交わした。

「この船に乗る前、あなたのご両親と話して来たわ。そちらの方が、あなたの婚約者の方ね?」

そう言ったフレイザー伯爵夫人は、エドガーに微笑んだ。

「はじめまして、レディ=フレイザー。エドガー=セルフシュタインと申します。」
「あなたの話はマルガリッテから聞いているわ。ステファニーの未来の頼もしいお婿さんだと。」
「まぁ、お母様ったら・・」

母が自分達の結婚を認めてくれている事を知り、ステファニーは笑顔を浮かべた。

「小父様達はニューヨークへ何をしに行かれるのです?」
「仕事を兼ねた旅行だよ。メアリーは、観劇を楽しみにしているんだ。」
「あら、それはいいですわね。ニューヨークに着いたら、一緒にお供してもよろしいかしら?」
「えぇ、いいわよ。」

ステファニーがフレイザー伯爵夫妻とそんな話をした時、彼は誰かにぶつかった。

「きゃぁっ!」
「すいません、大丈夫でしたか?」
「何するのよ、骨が折れたじゃない!」

ステファニーがぶつかった相手に謝ろうとした時、その相手が、ミラノで見かけたアメリカ人夫妻の片割れである事に気づいた。

「ステファニーさん、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「はい・・」
「ちょっと、誰か警察を呼んで!」
「失礼ですがマダム、あなたが先にぶつかって来たのでは?」

 金切り声で騒ぐ女性の前に、一人の老紳士が現れた。

「何よ、あんた!」
「先程そちらのお嬢さんがご友人達とお話しされている際、あなたがそちらのお嬢さんにぶつかって来られたのを見ましたよ。」
「わたくしも見ましたわ!」
「わたくしも!」
「何よ、覚えておきなさい!」

女性はそう捨て台詞を吐くと、大広間から去っていった。

「災難でしたね、お嬢さん。」
「助けて下さってありがとうございます。」
「いいえ。」

老紳士はそう言うと、ステファニーに優しく微笑んだ。







最終更新日  2020年03月11日 00時00分22秒
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2020年03月04日
カテゴリ:連載小説:VALENTI



※写真はイメージです。


「ようこそ、アトランティス号へ。」

ステファニーとエドガーがアトランティス号の一等船室のロビーに入ると、白黒の縞模様の制服姿の船員達が彼らを出迎えた。

「本日18時から大ホールにて歓迎パーティーが開催されますので、どうぞお越しになってくださいませ。」
「は、はぁ・・」

少し押しが強い船員に若干引き気味のステファニーを、エドガーが船室までエスコートした。

「素敵なお部屋ですね。」
「えぇ。バルコニーから海が見渡せるなんて、開放的ですね。」
「ステファニーさん、これから船内を見て回りませんか?パーティーまでまだ時間がありますし。」
「いいですね。」

こうして、ステファニーとエドガーはアトランティス号の船内を検索する事になった。

アトランティス号には、劇場やレストラン、そしてブティックなどがあり、乗客達はそれぞれレストランで異国の料理に舌鼓を打ったり、買い物を楽しんだりしていた。

「お母様とお父様に何か買おうかしら?」
「ステファニーさん、無駄遣いはいけませんよ。」
「そうですね。」

やがて二人は、船内からデッキへと向かった。

潮風を浴び、ステファニーは余りの気持ち良さに思わず目を閉じた。

「気持ちが良いですね。」
「ええ、とっても。」

ステファニーとエドガーが船旅を満喫している頃、三頭船室は賑やかな喧騒に満ちていた。

「そこの兄さん、あたしらと飲まないかい?」
「可愛いお嬢さん達の誘いとあっては、断れないな。」

そう言って銀髪をなびかせながら、ラスプーチン達は娼婦達のテーブルに座った。

「兄さん、どっから来たの?」
「ロシアから。」
「まぁ、随分と遠い所から来たのねぇ。」
「お嬢さん達はどこkら?」
「あたし達はスペインから来たのさ。あたし達はロマでね、母国で人間扱いされないのにうんざりしたから、心機一転する事にしたのさ。」
「アメリカへ行くのは、そんな理由が?」
「まぁね。」
「それにしても、この船に乗る前にあたし、この船を見たけどさ、デカいよね。」
「この船、一番上の船室は滅茶苦茶豪華らしいよ。」
「あたし達とは違う酒類の人間が集まってんのさ。」

ロマの娼婦の一人がそう言って、酒瓶を一本掴むと、それをラッパ飲みした。

「君達は、アメリカへ渡ったらどうするんだい?」
「さぁね。それは着いた後で考えるさ。」
「・・おや、もうこんな時間だ。」

金の懐中時計を取り出したラスプーチンは、娼婦達にある物を手渡した。

「君達の人生が、これから美しく輝きますように。」

 ラスプーチンが三等船室から立ち去った後、ロマの娼婦達は袋の中に入っている赤ん坊の拳大のダイヤモンドを見て歓声を上げた。

「遅かったな、グレゴリー。どうせお前の事だろうから、ロマの娼婦達と安酒を呑んでいたのだろう?」
「・・まぁ、そんな所です。それよりも我が君、そろそろパーティーが始まりますよ。」
「そうか。では、支度をしないとな。」

そう言って鏡の前に立ったレパードの姿は、あの生気のない醜い顔から、目が眩むかのような美男子へと変わっていた。
上質な黒檀を思わせるかのような艶やかな黒髪に、アラバスターのような肌理の細かい肌、そして“鳩の血(ピジョン・ブラッド)”を思わせるかのような真紅の瞳。

「銀糸の刺繍が、我が君の黒髪に映えておりますね。」
「お前の見立てが良いからだ。さぁ、行くぞ。」
「はい、我が君。」

ラスプーチンは、そう言うと恭しい仕草でレパードに跪いた。


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最終更新日  2020年03月04日 00時11分09秒
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