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2022年08月11日
全3件 (3件中 1-3件目) 1 連載小説:女王達の輪舞曲<ロンド>
カテゴリ:連載小説:女王達の輪舞曲<ロンド>
千歳は声を掛けた女子生徒と、彼女の取巻き達数人から無視されるようになったのは、入学式から数日後の事だった。
どうやら彼女―高城愛は昔千歳が叔母一家の下で暮らしていた時から千歳の事を知っていたようで、従兄弟に性的ないたずらをされた事を周囲にばらされたくなければわたしに従え、という思いで、愛は千歳の昔の名を呼んだらしい。 だが、千歳がそれを拒絶したので、愛は千歳を服従させるよりも、彼女を苛める事を選んだ。 苛めといっても、無視や私物や教科書を隠したりする程度の、低レベルなものだったので、千歳は余り動じなかった。 千歳は成績が愛よりも優秀だったし、教師達からはクラス委員として頼りにされていたので、愛のいじめは徐々になくなっていった。 「ただいま。」 「お帰り、学校はどうだった?」 「何も変わっていないわ。それよりも、うちのクラスに高城愛っていう子が居るんだけれど、その子、昔のわたしの事を知っているみたいなの。」 「ふぅん、世間ってのは案外狭いもんだね。千歳、済まないけれど今日はお店を手伝ってくれないかい?今日来る予定だった子が熱を出して急に休むって連絡がさっきあってさ。」 「わかったわ。」 弓子のスナックをこれまで何度か手伝った事がある千歳は、その日の夜常連客達と談笑したり、彼らが好きな酒を注いだり、彼らとカラオケをしたりして楽しんだ。 「千歳、あんた将来の夢はあるの?」 「まぁね。死んだママがデザイナーだったの。ママが作っているドレスやお洋服はとても素敵で、まるで童話の中に出て来るお姫様が着るようなものばかりだったわ。いつかわたしも、ママが作った素敵なお洋服をデザイン出来たらなぁって思ったの。」 「いいんじゃないの、あんたがデザイナーになるの。服のセンスがいいし、お裁縫の腕だって見事だし・・夢を叶える為ならとことんやりなさい。あたし、あんたの為ならいくらだってお金は惜しまないわよ。」 「有難う、弓子さん。」 「嫌だぁ、そんなよそよしい呼び方は止めて、ママって呼んでもいいのよ?」 「ごめんなさい、ママ。」 「そういや、今度の水曜だっけ、授業参観日。あたし、おしゃれして行くから、楽しみにしていてね。」 「うん、ママ!」 水曜日の授業参観日に現われた弓子は、ハイブランドで着飾っている生徒達の母親よりもひときわ美しく、輝いて見えた。 「あの着物姿の人が、あなたの新しいお母さんなの?」 「ええ、そうよ。それがどうかしたの、高城さん?わたしのママの事がそんなに気になる訳?」 「気になるに決まっているじゃない。だってあなたの新しいお母さん、水商売の人なんでしょう?由緒正しきこの学校の保護者としては、相応しくないんじゃないかしら?」 「わたしは職業の貴賤云々でその人自身を勝手に判断するあなたの方が、この学校の生徒として相応しくないと思うんだけれど、高城さん?」 愛の顔が怒りで赤く染まるのを見て満足した千歳は、そのまま彼女に背を向けて弓子と共に学校を後にした。 「へぇ、その高城愛って子、そんな事をあんたに言ってきたんだ?」 「凄く腹が立って、はっきりと言いたいことを言ってやったわ。彼女に嫌われたって構うものですか。」 「あんたは強いわね、千歳。そういう気の強さは、あんたの母さんに似たんだろうね。」 「そうね。ママも、嫌な事は嫌だとはっきり言う性格だったもの。」 千歳はそう言うと、味噌ラーメンを美味しそうに啜った。 翌日、千歳が登校すると、クラスメイト達がじっと彼女の方を見ながら何かを話していたが、彼女が教室に入るとたちまちその話し声がピタッと止んだ。 (クラス全員でわたしを無視か・・相変わらず下らない事をするのね、高城さん。) にほんブログ村
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2019年10月31日 08時07分12秒
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カテゴリ:連載小説:女王達の輪舞曲<ロンド>
「失礼ですが、どちら様ですか?」
「美晴ちゃん、僕だよ、晴孝だよ!ほら、子供の頃一緒に遊んだ・・」 「人違いではありませんか?わたしは貴方とは初対面です。」 「でも・・」 しつこく自分に食い下がろうとする青年に対し、千歳は横目で自分達の様子を窺っている振り袖姿の少女の方を見た。 「婚約者の方に余計な焼きもちを焼かせないことね。」 千歳はそう言って青年の肩を叩くと、先程彼が降りて来たタクシーに乗り込み、ホテルを後にした。 「ただいまぁ。」 「お帰りぃ。」 ホテルからタクシーで帰宅した千歳が自宅マンションの部屋に入ると、リビングの方から朗らかな女性の声が聞こえて来た。 リビングに入ると、そこには還暦を迎えた千歳の養母・波瀬弓子がテレビの前に置かれているこたつに潜り込んでみかんを頬張っていた。 「どうだった、政界の貴公子のパーティーは?」 「収穫ゼロだったわ。あの人の奥さん、私の顔を見るなり私をパーティー会場から追い出そうとしたのよ。招待状を見せたから大事にならずに済んだけれど、主役の二人が夫婦喧嘩を始めちゃって・・」 「あらら、とんだ修羅場に巻き込まれちゃったわね。それで、これからどうするつもりなの?」 「まぁそれは、色々と考えるわ。今夜はお風呂に入って、そのまま部屋で休むわ。」 「そう。それじゃぁあたしも歯を磨いて寝ることにしようかね。」 弓子はよいしょと軽く腰を擦りながらこたつから出て立ち上がると、そのまま自分の部屋がある和室へと入った。 千歳は、洗面所の前に立って宝石を鏤(ちりば)めた髪留めを外して長い黒髪を下ろすと、全裸になって浴室に入ってシャワーを浴びた。 冷水を頭から浴びながら、千歳は目を閉じて弓子と暮らし始めた頃の事を思い出していた。 両親を不慮の交通事故で亡くし、中学生になったばかりの千歳は母方の遠縁の叔母夫婦の元へと引き取られた。 はじめ叔母夫婦は千歳に優しく接してくれていたが、やがて彼らの一人息子である従兄弟から性的ないたずらをされるようになり、千歳がそれを彼らに訴えると、彼らは一方的に千歳を嘘吐き呼ばわりし、激しい折檻を加えるようになった。 このままだと彼らに殺される―そう思った千歳は、叔母一家が家族旅行で家を留守にしている間に荷物を纏め、そのまま二度と彼らの元には帰らなかった。 身寄りもなく何の資格もない、未成年の少女が辿り着いた先は、夜の繁華街だった。 千歳はやがて、自分と同じ境遇である家出少女達のたまり場に顔を出すようになり、そこでスナック経営者の弓子と知り合った。 「あんた、行くところがないのならうちに来ない?あたし一人暮らしだからさ、あんたみたいな娘が丁度欲しいと思っていたところだったんだ。」 千歳は弓子と意気投合し、弓子は千歳を自分の養女に迎えた。 「ふぅん、そんな事があったのか。あいつらの事はあたしに任せて、あんたは勉強を頑張りな。」 家出するまでの経緯を千歳が弓子を話すと、彼女は意味深長な言葉を放った後、不敵な笑みを口元に浮かべた。 彼女が叔母一家に何をしたのかは結局わからずじまいだったが、千歳に性的ないたずらをした従兄弟が警察に捕まり、その所為でご近所から白い目で見られた叔母一家が精神を病んで姿を消したという事を千歳は風の噂で聞いた。 やがて千歳は中学を卒業し、第一希望の私立の進学校へと入学した。 「貴方、萩田美晴(はぎたみはる)さんよね?」 入学式が終わり、千歳が教室で文庫本を読んでいると、そこへ一人の女子生徒がやって来た。 「いいえ、わたしは波瀬千歳(はぜちとせ)よ。貴方、誰?」 そう言って千歳が文庫本から顔を上げて少女を見ると、彼女は不快そうに鼻を鳴らすと、そのまま教室から出て行った。 にほんブログ村
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2019年10月31日 08時07分40秒
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カテゴリ:連載小説:女王達の輪舞曲<ロンド>
ホテルの宴会場の扉を開けると、そこにはむっとした熱気と人々のざわめき、そして音楽が満ちていた。
長いドレスの裾を踏みつけて転ばないようにして歩きながら、彼女はゆっくりと目的の人物の元へと向かっていった。 その人物は、マスコミに囲まれながら隣に妻を侍らせ、彼らに向かって愛想笑いを浮かべていた。 ―間違いない、彼だ。 彼女の姿を見た“彼”の顔から笑顔が消え、隣に立っていた“彼”の妻が夫の異変に気づき、険しい表情を浮かべながら彼女を睨みつけた。 「先生、お久しぶりです。」 「貴方、どうしてこんな所に居るの!」 ヒステリックな声を上げた“彼”の妻は、彼女を摘みだすよう警備員に命じた。 「わたしは正式に招待されてこちらに来ただけですわ。それを会った途端不審者扱いをなさるなんて、酷い方ですわね。」 彼女はクラッチバッグの中からパーティーの招待状を警備員と“彼”の妻に見せると、警備員はそそくさと自分の持ち場へと戻っていった。 「あなた、どうしてこの女をパーティーに招待したんです?」 「このパーティーに誰を招待するのかはわたしが決めた。こんな所で騒ぎを起こして、わたしに恥を掻かせる気か!」 “彼”はそう妻に怒鳴りつけると、秘書を引き連れてパーティー会場から出て行ってしまった。 「あなた、待って!」 “彼”の妻は去り際彼女を睨みつけ、慌てて夫の後を追った。 ―何なの、一体? ―さぁ・・また先生の愛人の一人じゃないの? チラチラとパーティーの招待客達が彼女を見ながらそんな事を囁き合っていると、彼女の元へ一人の青年がやって来た。 「お久しぶりですね、千歳さん。暫く会わない内にお綺麗になりましたね。」 「あら、貴方の方こそ暫く会わない内に随分と男前になったものね。」 彼女がそう言って青年に微笑むと、彼は苦笑しながら前髪を鬱陶しそうに掻き上げた。 「相変わらず千歳さんは人を褒めるのが上手いね。それにしても、さっきはあの二人と何を揉めていたんだい?」 「何も。ただパーティーの主催者に挨拶しようとしたら、不審者に決めつけられてここから追い出されそうになったから、招待状を彼らに見せただけよ。それで勝手に彼らが夫婦喧嘩を始めただけ。」 「そうか。千歳さん、パーティーで何をするつもりだったの?彼らの過去を暴露するつもりだったの?」 「まぁ、そんなところかしら。でも、それはまた別の機会にでもしようかしら。」 彼女―波瀬千歳(はぜちとせ)はそう言うと、先程ボーイから受け取ったシャンパンを一口啜った。 「それにしても盛況ね。まぁ、今を時めく政界の貴公子の顔見たさに来ている女性が沢山居るからだろうけれど。」 「相変わらず同性に対しては辛辣なんだね、千歳さんは。」 「女の敵は女っていうでしょう?女というのは、男の前と女の前とでは態度を変えるものなのよ。それじゃぁわたしはこれで失礼するわ。主催者と話せないんじゃここに来た意味がないし、今夜はゆっくりと休みたい気分なの。」 「じゃぁね、千歳さん。」 「またね、晴臣(はるおみ)さん。会えて嬉しかったわ。」 千歳は友人に投げキスをすると、そのままパーティー会場を後にした。 クロークで預かったコートを受け取り、彼女がそれを羽織ってホテルから出て行くと、入れ違いにタクシーから華やかな振袖姿の少女が降りて来た。 「晴孝さん、早く!」 「そんなに急がなくてもいいだろう、慌てん坊だなぁ。」 そう恋人に向かって言いながらタクシーから降りて来た一人の青年と、千歳は目が合った。 「美晴ちゃん、美晴ちゃんなのか?」 にほんブログ村
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2019年10月31日 08時08分08秒
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