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JEWEL

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天上の愛 地上の恋 二次小説:「時の螺旋」

2019年11月22日
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「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご覧にならないでください。

1918年8月30日、アメリカ・ルイジアナ州ニューオーリンズ。

蒸し暑い風と湿気が街を包んだこの日、アルフレート=フェリックスは最愛の人に永遠の別れを告げに、彼の葬儀に参列していた。

葬儀が行われているカトリック教会では、彼を生前から慕う者達で溢れ、皆彼の死を悼んでいた。
そこには白人も黒人も居た。
アルフレートが教会の入り口に立つと、祭壇の前に置かれていた彼の棺の前に立っていた参列者達が一斉にアルフレートの方を見た。
「アルフレート、やっと来てくれたんだね。」
参列者の一人がそう言ってアルフレートの手を握り、彼の元へと誘った。
「ルドルフ様・・」
アルフレートは、最愛の彼の名前を呟くと、氷のように冷たいルドルフの頬を撫でた。
マイヤーリンクからルドルフを連れ出して、ヨハン達と共にコロンビアへ移住し、その後仕事の関係でニューオーリンズへとルドルフと向かい、そこでアルフレートは彼と共に孤児院を運営した。
幼少期に両親の愛情に恵まれなかったルドルフは、その愛情を孤児達に注ぎ、慈善活動に尽力した。
ルドルフは最期の時を、孤児達とアルフレート、そして彼の妻に看取られながら逝った。

(ルドルフ様、貴方と会えて幸せでした・・どうか安らかに、お眠りください。)

「アルフレート。」

ルドルフの埋葬が終わり、背後から声がしてアルフレートが振り向くと、そこには彼の妻・エミリーが立っていた。

「これから寂しくなるわね。」
「ああ・・」

アルフレートは教会から出ると、青い空を見つめた。

(ルドルフ様、またどこかでお会いしましょう。)

アルフレートは愛しい人の墓前に、オーストリアの国花であるエーデルワイスを供え、妻と共に墓地を後にした。

ルドルフの死から数ヶ月後、フランツ=フェルディナンド夫妻がサラエボで暗殺された事で勃発した第一次世界大戦は終結し、彼が生前守ろうとしたオーストリア=ハンガリー帝国は解体された。

アルフレートは妻との間に四人の子宝を儲け、その子供達は様々な分野で活躍した。
第二次世界大戦、ベトナム戦争を経て、妻・エミリーが1980年に死去すると、アルフレートはニューオーリンズの自宅で悠々自適な生活を送った。
高齢の彼を心配し、子供達がアルフレートの自宅を週末ごとに訪ねて来て、自宅にはいつも明るい家族の笑い声に満ちていた。
しかしそれは、アルフレートの孫娘・エリーが夫と三人の子供達と共に飛行機事故で他界してから一変した。
「どうするのよ、うちには子供の世話なんてする余裕はないわ。」
「僕の家も同じさ。可哀想だけれど、あの子には養子に出した方がいいだろうね。」
孫娘夫婦の葬儀の席で、親族達が彼らの遺児であるアルフレートの事で揉めていると、それまで彼らの話を黙って聞いていたアルフレートがソファから立ち上がり、自分と同じ名を持つ曾孫にそっと手を差し出した。
「わたしの所においで、アルフレート。」
「いいの?」
「お前は、わたしの大切な家族だ。」

当時13歳だったアルフレートはこうして、曽祖父に引き取られた。

1998年8月21日―奇しくもその日は、ルドルフの誕生日だった。
まるで、ルドルフが二人を引き合わせてくれたかのようだった。

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最終更新日  2019年11月22日 02時20分06秒
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「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

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「狭いな、本当にこんな所にお前は住んでいるのか?」

病院から地下鉄で数分移動し、アルフレートがルドルフを自分の住む部屋へと案内すると、彼の口から開口一番出た言葉に、アルフレートの笑みが少し引き攣った。
無理もない、ルドルフはついこの前まで華やかな宮殿で暮らしていた皇太子だ。
彼が住んでいる部屋と比べれば、この部屋は厩のようなものだ。
「何か飲み物はいかがですか?」
「要らない。それよりも、腹が減った。」
「解りました。では何か出前を頼みますので、そちらに掛けてください。」
アルフレートが近くのイタリアン料理店にピザの出前を電話で頼んでいると、ルドルフはソファの前に座り、テレビをつけていた。
「奇妙な箱だな。誰かが中で動かしているのか?」
「いいえ。それよりもルドルフ様、今後の事ですが・・」
「お前とこの部屋に住むのだろう?わたしの部屋は何処だ、アルフレート?」
「今から案内致します。」
リビングを出たアルフレートは、ルドルフを曽祖父が使っていた部屋へと案内した。
「ここは誰の部屋だ?」
「曽祖父の部屋です。今は誰も使っていませんが、毎日掃除していますから綺麗ですよ。」
「趣味のいい部屋だな、気に入った。」
ルドルフがそう言って曽祖父が選んだ家具や調度品を見ていると、玄関のチャイムが鳴った。
「わたしが出ます。」
注文したピザが届き、代金と共にそれを受け取ったアルフレートがキッチンでサラダを作っていると、曽祖父の部屋から戻ったルドルフが怪訝そうな顔をしてピザの箱を見ていた。
「それは何だ?」
「夕飯です。」
「美味そうだな。」
箱の蓋を開けたルドルフは、そう言ってそこに入っているピザを一切れ食べた。
「いかがですか?」
「悪くない。お前はいつもこういう物を食べているのか?」
「一人暮らしですので、大抵食事は出前か病院のカフェテリアで済ませます。」
「料理は出来るのか?」
「はい。事情があって、曽祖父と二人暮らしでしたから、子供の頃から家事はわたしの担当でした。」
アルフレートは手早くサラダを作ると、それを皿に盛った。
「ルドルフ様、わたしが留守にしている間は、家事をしてください。」
「料理は出来ないぞ。」
「そうですか。では洗濯をお願い致します。後で洗濯機の使い方を教えますね。」
「わかった。」
何だか上手いようにアルフレートのペースに乗せられているような気がして、ルドルフは少し不機嫌そうに顔を顰めた。
「使い方が解らない時は説明書を読めばいいんだな?」
「ええ、そうです。」
「解った。アルフレート、浴室は何処だ?」
「浴室はあちらです。」
アルフレートがルドルフの後に続いて浴室に入ろうとした時、ルドルフはムッとした顔を彼に向けた。
「シャワーの使い方は知っている。」
「解りました、では終わったらリビングに来てくださいね。」

ルドルフはアルフレートの鼻先で浴室のドアを乱暴に閉めた。

(完全にあいつのペースに乗せられているな・・)

ルドルフがそう思いながら服を脱いで裸になり、浴槽に入ろうとした時、隅の方にゴキブリが居たので、彼は思わず悲鳴を上げてしまった。

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最終更新日  2019年11月22日 00時40分06秒
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「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

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『失礼いたします。』

アルフレートがルドルフの病室に入ると、彼は窓の外の景色を眺めていた。

『何をご覧になっていたのですか?』
『本当にわたしは、未来に来てしまったのだな。』
アルフレートは、ルドルフの枕元に今朝の新聞が置かれている事に気づいた。
一面記事には、大統領候補のアフリカ系アメリカ人の政治家の写真が載っていた。
『黒人が王になるなど、わたしが生きている時代では考えられないことだった。』
『ルドルフ様、お伝えしなければならないことがあります。』
『さっき、ここの理事長が来た。わたしをここから追い出すのだろう?』
そう言って自分を見つめているルドルフの蒼い瞳が、鋭い光を放っている事に気づいた。
『はい、そうです。わたしが、あなたの身元引受人になりました。』
『そうか、それならばいい。』
ルドルフはそれだけアルフレートに言うと、病院着から私服へと着替えた。
『入院費はいくらだ?』
『あなたの入院費は、理事長が払ってくださいました。』
『そうか。』
病室を出たルドルフは、手袋を両手に嵌めるとそのまま病院の出入り口から外へと出た。
『ルドルフ様、お待ちください!』
『煩い、わたしに指図するな。』
慌ててルドルフの手を握ろうとするアルフレートのそれを、彼は邪険に振り払い、凍ったアスファルトの上を歩き出した。
だが、彼はバランスを崩して転倒し、交差点に進入してきたトラックに危うく轢(ひ)かれそうになった。

『馬鹿野郎、死にてぇのか!』
トラック運転手は窓から顔を出してルドルフにそう罵倒すると、クラクションを鳴らして去っていった。
『大丈夫ですか?』
『わたしに構うな、一人で立てる。』
ルドルフは強がって立とうとしたが、弱った身体はすぐには言う事を聞いてくれなかった。
『強がらないでください。』

不意に、アルフレートがそう言ってルドルフに手を差し出した。

―ルドルフ様

一瞬ルドルフは、目の前に居る青年が、法衣姿の恋人に重なった。

その時まだ、自分がアルフレートの事を想っていることに気づき、ルドルフはいつの間にか涙を流していた。

『大丈夫ですか?』
『う、煩い!』

頬を羞恥で赤く染めながら、ルドルフはそう言うと、アルフレートの手を握って立ち上がった。

(あ、照れてる・・可愛いなぁ。)

『おい、何を笑っている?』
『いいえ、お気になさらず。』

そう言って笑った青年の横顔は、憎たらしいほどアルフレートによく似ていた。

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最終更新日  2019年11月22日 00時00分19秒
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2019年11月21日
「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

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ノートパソコンの電源を入れたアルフレートは、すぐさま検索エンジンで患者の名前を検索窓に打ち込んだ。

すると、膨大な量の検索結果がヒットした。

そこには、『マイヤーリンク事件』や『うたかたの恋』といった関連キーワードが多く挙がっていた。
ひとつずつクリックしていくと時間が掛かるので、アルフレートはハプスブルク家の家系図を載せているサイトへアクセスした。
そこには、オーストリア=ハンガリー帝国を統治したフランツ=カール=ヨーゼフとその家族の紹介や肖像画―特に彼の妻であり欧州一の美女と謳われたエリザベートなどが多く載せられていた。
マウスをスクロールしながら、アルフレートはルドルフの名前をクリックした。
そのページには『謎の情死を遂げた悲劇の皇太子』という見出しの下に、幼少時代のルドルフの肖像画や、葬儀の際のルドルフ皇太子の写真などが載っていた。
その写真を見たアルフレートは、マウスを動かす手を止めた。

そのページに表示された写真は、病院で見た青年と瓜二つだった。

アルフレートは椅子から立ち上がると、曽祖父の遺品が置いてある部屋に入った。

「ええと、この箱だったかな?」

古めかしい木箱についた埃を払ったアルフレートは、木箱の蓋を開けて曽祖父が生前つけていた日記を取り出した。
日記は、マイヤーリンク事件―ルドルフ皇太子が男爵令嬢・マリー=ヴェッツラと謎の情死を遂げた日から始まっていた。

『今日はルドルフ様を解放する日だ、失敗は許されない。』

(どういうことだ、ルドルフ様を解放する日? 解放って何から・・)

アルフレートが曽祖父の日記を読み進めようとした時、ノートパソコンの隣に置いていた携帯が鳴った。
「もしもし?」
『アルフレート、わたしだ。例の患者の事で君に話があるんだが・・』
「解りました、すぐに行きます。」
ノートパソコンの電源を消したアルフレートは、携帯とショルダーバッグを掴んで部屋から出て病院へとタクシーで向かった。
「アルフレート、こちらに掛け給え。」
「はい。」
理事長室にアルフレートが入ると、理事長のハワードは窓際の椅子に座って獲物を狙う猛禽類のような目で彼を睨んでいた。
「お話とは何でしょうか、理事長?」
「君が処置した患者だが・・容態は安定しているようだし、明日にでも退院させることにした。」
「待ってください、彼は精神的に不安定で・・」
「いいかねアルフレート、病院は慈善事業でやっているんじゃないんだ。うちの経営が苦しいことくらい、君も知っているだろう?」
「それは、承知しております。」
「さてと、その患者の今後の事だが・・君が彼の身元引受人(みもとひきうけにん)となり給え。」
「それは、一体どういう事でしょうか?」
「君が処置した患者だ、君が責任を持ち給え。話は以上だ。」

晴天の霹靂(へきれき)とは、まさにこの事だ―アルフレートはそう思いながら、ルドルフの病室のドアをノックした。


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最終更新日  2019年11月21日 00時00分21秒
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2019年11月20日
「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

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ルドルフがゆっくりと目を開けると、そこはホーフブルク宮の見慣れた天井ではなく、見知らぬ病院の天井だった。

『あの、大丈夫ですか?』

そう言って自分を見つめる青年は、恋人と瓜二つの顔をしていた。

「アルフレート?」
ルドルフがそう青年に呼びかけると、彼は驚愕の表情を浮かべた。
『わたしの名前はアルフレートですけれど、どうしてわたしの名を知っているのですか?』
青年は英語でそうルドルフに尋ねると、勲章を彼に見せた。
『これは、貴方の物ですよね?』
青年の言葉に、ルドルフは頷いた。
「ここは何処だ?わたしは死んだ筈なのに何故生きている?」
『落ち着いてください、ここは病院です。貴方はハドソン川に転落してこちらに搬送されてきました。失礼ですが、貴方のお名前は?』
『・・ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ハプスブルク。』
青年はルドルフの名を手帳に書き取ると、そのまま病室から出て行こうとした。
「何処へ行く。」
青年を逃がすまいと、ルドルフが彼の腕を掴むと、彼は痛みに顔を顰(しか)めた。
その時、彼の左頬に傷跡がないことにルドルフは気づいた。

(こいつは、アルフレートじゃない・・)

「お前は誰だ?」
「落ち着いてください、貴方はまだ混乱しているだけです。」
青年はドイツ語でそう言ってルドルフの手をそっと自分の腕から離すと、彼に微笑んだ。
「あなたは川に転落した時、後頭部を強打したのです。その所為で混乱しているだけですよ。」
「わたしの質問に答えろ、さもなければ殺してやる。」
ルドルフはそう言うと、青年の首を絞めようとした。
だが、青年は恐怖に顔を引き攣(つ)らせることも、悲鳴を上げることもなかった。
ただ、ルドルフに優しい笑顔を浮かべるだけだった。

―ルドルフ様・・

ルドルフの脳裏に、アルフレートが自分に浮かべた優しい笑顔が甦った。
「やめろ、そんな顔でわたしを見るな。お前は、アルフレートじゃない!」
ルドルフがそう叫んだ時、彼は喉奥から何かが迫り上がってくるのが感じた。
シーツに赤い染みが広がり、ルドルフは自分が血を吐いたのだと解った。
「大丈夫ですよ、落ち着いて。」
「待て、何処へ行く?」

青年はルドルフの問いに答えず、病室から出て行った。

その後、看護師に注射を打たれ、ルドルフは再び意識を闇の中へと手放した。

病院の最寄駅から地下鉄に乗ったアルフレートは、上着のポケットから手帳を取り出し、自分の腕を掴んだ男の名を確かめた。

ルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=ハプスブルク。

それは、何処かで聞いた名だった。

『ルドルフ様は、とても立派なお方だったよ。国民の為に、国の為に自ら犠牲になったお方だった。』

生前、曽祖父が自分にそう話していたことがあった。

その時、曽祖父が口にした“ルドルフ様”が一体何者なのか―アルフレートは帰宅後すぐに、ノートパソコンの電源を入れた。


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最終更新日  2019年11月20日 00時00分33秒
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2019年11月19日
「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

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「お疲れさま!」
「お疲れ。これからどうする? 一杯やろうか?」
「いいね。」
NY市内にある病院のロッカールームで、アルフレートが同僚達とそんな話をしながら白衣を脱いで私服に着替えようとした時、白衣のポケットに入っていたポケットベルが鳴った。
「いつも帰ろうとするときに急患か・・ついてないな。」
「ああ。でも仕事だから仕方がないな。」
同僚と溜息を吐きながらアルフレートが緊急救命室へと向かうと、丁度救急車から担架に乗せられた急患が救命士によって運ばれてくるところだった。
「患者の容態は?」
「ハドソン川から身投げしたようで、全身打撲に後頭部強打、低体温症にも罹っています。」
「厄介だな。」
アルフレートが担架に乗せられた急患の意識を確かめる為、彼の目にライトを照らしたとき、自分の腕を急患が掴んだ。

(何だ?)

「アルフレート、急げ!」
「は、はい!」

慌ててアルフレートは同僚とともに手術室へと入った。
急患で運び込まれた男は、一命を取り留めた。

「患者の意識は?」
「まだ戻らないみたいです。後頭部を強打している上、低体温症に罹っていますから、意識を取り戻すまでは暫く時間がかかるでしょう。」
「そうか。アルフレート、警察の方が君に話を聞きたいと言って来ているんだが、時間あるかい?」
「はい。」
一日の疲れが取れないまま、アルフレートは警察官が待っているカフェテリアへと向かった。
そこには、肥満体の刑事とオリーブのように痩せている刑事がテーブルに座っていた。
「お忙しいところ、申し訳ありませんね。」
「いいえ。それで、わたしに聞きたいこととは何でしょうか?」
「この病院に運び込まれた急患の人、身元が判るものを所持していないのです。ですが、こんな物が彼の私物の中にありました。」

太鼓腹を揺らしながら、肥満体の刑事がテーブルの上にある物を置いた。

それは、双頭の鷲が象られた美しい勲章だった。

「アルフレートさん、あなたは確かご先祖がオーストリアの方でしたね?」
「ええ。わたしの曽祖父は、第一次世界大戦前にオーストリア=ハンガリー帝国からアメリカに移民として海を渡ってきました。この勲章なら、曽祖父のアルバムで一度見たことがあります。」
「申し訳ないのですが、そのアルバムをお借り出来ませんか?」
「はい。捜査に役立つことになるのでしたら、お貸しいたします。」
「有難うございます。詳しいことが解りましたら、またこちらに伺います。」

刑事達はアルフレートに礼を言うと、カフェテリアから出て行った。

カフェテリアから出た彼は、急患の男が居る病室へと入った。
彼はベッドの上で静かに眠っていた。
やはりあの時、彼が自分の腕を掴んだのは錯覚だったのだろうか―アルフレートがそんな事を思いながら刑事から預かった勲章を男の手に握らせようとした。

その時、男の蒼い瞳がゆっくりと開かれた。

「アルフレート?」

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最終更新日  2019年11月19日 00時00分25秒
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2019年11月18日
「天上の愛 地上の恋」二次創作小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご覧にならないでください。

プラハの街は、クリスマスが近づいていることもあって、商店の店先には色とりどりのオーナメントやツリーの飾りなどが並んでいる。

(クリスマス、か・・)

家族や友人と過ごす特別な休暇―それはルドルフにとって関係のないものだった。
父である皇帝は政務に多忙で、母である皇妃は宮廷を留守にしては流浪の旅を繰り返している。
一家団欒(いっかだんらん)といっても、夕食の時間を過ごすだけで、それが過ぎたら皇妃と妹はウィーンを発ってしまう。
表面上は家族との団欒を楽しみながらも、ルドルフの心は孤独で冷えていた。
だが、バイエルンから連れて来た黒髪の天使と出逢ったことで、ルドルフの風景は変わった。
今まで黒と灰色でしか見えなかった風景が、彼とともに過ごすうちに鮮やかなものへと変わった。
自分よりも三つも年上なのに、優柔不断で何処か抜けていて目が離せなかった彼。

『ルドルフ様』

でも、彼の自分の名を呼ぶ声が好きで堪らなかった。

それなのに―

『ルドルフ様、わたしは貴方のものでした。貴方は一度もわたしのものではなかったけれど。』

彼は、そんな残酷な言葉を自分に吐いて、自分に背を向けて去っていった。


賑わうプラハ市内を横目で見ながら通り過ぎ、ルドルフは人気のないカレル橋へと向かった。
プラハ市内とは対照的に、そこは閑散としていて、時折吹く風の音しか聞こえなかった。
ルドルフはそっと欄干(らんかん)からドナウ川を見つめた。
大雪の影響か、川の流れは急で、欄干の上からも濁流の音が聞こえてくる。
ルドルフはそっと欄干から身を乗り出すと、躊躇いなく濁流の中に身を投じた。
その瞬間、ルドルフの全身に激痛と濁流が襲い掛かり、彼は堪らず目を閉じた。

―ルドルフ様

意識が朦朧(もうろう)とする中、ルドルフは自分の名を愛おしく呼ぶ黒髪の天使の姿が脳裏に浮かんだ。
自分が死んだと知ったら、彼は悲しむだろうか?
あの美しい宝石のような翠の瞳に涙を溜めながら、自分の名を呼ぶのだろうか?

(許してくれ、アルフレート・・)

天使の名を―この世で唯一愛した恋人に許しを乞いながら、ルドルフは意識を手放し、暗い水底へと沈んでいった。

「アルフレート、大変だ!」
「どうしたんだい、テオドール?」
「プラハで、皇太子様が失踪されたそうだ!」

親友からルドルフがプラハで失踪したという知らせを聞いたアルフレートは、その場に崩れ落ちた。

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最終更新日  2019年11月18日 22時11分24秒
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