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JEWEL

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連載BL小説:天の華

Jul 15, 2020
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
「香織さん、一体何があったのです?」
「ルドルフさん、見苦しい所をお見せして申し訳ないです。どうやら達也がまた美織に変な言いがかりをつけていたらしくて・・」
「“また”とは?」
「あいつは美織の事が癇(かん)に障るとか言って、何かにつけて美織に絡んでは嫌がらせをするんです。美織、着替えを持って来たから、着替えて来なさい。」
「はい、お兄様。」
美織は香織から着替えが入った紙袋を受け取ると、ルドルフに会釈してパーティー会場から出て行った。
パーティーが終わり、ルドルフは香織と共にホテルのバーラウンジへと向かった。
「香織さん、わたしに話したい事って何でしょうか?」
「ルドルフさん、単刀直入にお聞きします。パーティーに遅れたのは、達也の母親が会社を訪ねたからではありませんか?」
「ええ、そうですが・・香織さんは、大橋の母親をご存知なのですか?」
「一応、達也とは親戚ですからね。達也の母親は、あいつがトラブルを起こす度に謝罪行脚を必ずするんです。時には、土下座だってします。幾ら我が子が可愛いからといって、わたしから見たらあいつに甘すぎると思うのですが。」
香織はそう言葉を切ると、運ばれて来たビールを一口飲んだ。
「そうですか、彼女はそんな事を・・香織さん、どうして会社に実里さんが来た事をご存知なのですか?」
「親戚内の事はわたし達の耳にいつも入ってきます。いいですかルドルフさん、今度実里さんが会社に来ても、彼女の相手をしないでください。」
「何故ですか?」
「あの人は自分の言う事を相手が聞いてくれると知った途端、その相手にしつこく付きまとうのです。」
ルドルフは香織の話を聞きながら、会社で自分に平謝りしていた実里の姿が脳裏に浮かんだ。
「何だか想像がつきませんね、貴方が話す実里さんの人柄と、会社で会った時に抱いた彼女の印象が随分と違います。」
「それが彼女の狙いなのです。初対面の相手に好印象を抱かせて警戒心を解き、徐々に本性を現してゆくーこれまで何人か、彼女の被害に遭った人間を知っています。その被害者の一人が、わたし達の母です。」
「社長の奥様が、実里さんに何をされたのですか?」
「あれは三年前の事でした。当時、わたしはまだアメリカの大学に留学中で、家には両親と妹の三人しか居ませんでした。わたしの母はとても穏やかな人で、他人からの頼みを決して断れない人でした。良く言えば優しい人、悪く言えばお人好しな人でした。実里さんと母は年が近く、同じカルチャーセンターで趣味のテニスサークルに所属していた事もあり、仲が良かったのです。実里さんは週に三日位我が家に来ては、サークル仲間達や母にある物を勧めていました。」
「ある物?」
「健康食品です。よくテレビの通販番組で紹介されている、美肌に効くサプリや、痩せるサプリとかを段ボール一箱単位で母達に紹介しては、それを購入するように勧めて、会員になったらこのサプリがタダ同然で手に入ると触れ回っていたようです。」
香織はビールグラスをカウンターの上に置くと、そう言って溜息を吐いた。
「実里さんは人たらしというか、いかにも善人を装って母のような人達の懐に自然に入り込んでくるのです。やがて実里さんのサークル仲間への勧誘が激しくなり、彼女はカルチャーセンターから追い出されました。」
実里がマルチ商法にはまっていた事、そして香織の母親がその標的になっていた事をルドルフは初めて香織から知り、驚愕の表情を浮かべた。
「それから、貴方のお母様はどうなさったのですか?」
「母は実里さんに言われるがままに、彼女と一緒に学生時代の同窓生を勧誘しました。しかし、実里さんから金を搾り取られ、残ったのは多額の借金だけ。母は次第に精神を病み、自ら命を絶ちました。遺書には、わたし達家族への謝罪と、自分が騙した被害者たちへの謝罪の言葉が記されていました。」

香織はそう言うと、鞄からUSBメモリを取り出した。

「これは、実里さんが母を死に追いやった詐欺行為の全てが記録されているものです。」

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Last updated  Feb 28, 2022 07:30:36 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
「大橋さんのお母様でいらっしゃいますか。あの、何故このような時間に会社へ来られたのですか?」
「あの子がこの会社で元気にやっているのか、様子でも見ようと思いまして・・達也は今、何処に居ますか?」
「大橋なら、昼過ぎに帰りました。」
「そうですか。あの子は大学を卒業してから定職に就かずにアルバイト先を転々としておりました。わたしや主人が一人息子だからと散々甘やかしてしまった所為なのでしょうね。」
実里(みのり)はそう言うと、俯いてハンカチを握りしめた。
「どうか達也の事を宜しくお願い致します。」
会社の前でルドルフは彼女と別れると、そのままタクシーに乗ってパーティー会場へと急いだ。
「ルドルフさん、漸く来ましたね!」
会場にルドルフが入ると、知弘が彼の方へ駆け寄って来た。
「仕事を先に片付けてからこちらへ向かおうと思ってね。さっき漸く仕事が終わったところだよ。」
「最近忙しいから、大変ですよね。それよりもルドルフさん、今夜のパーティーに社長の息子さんが出席される事、ご存知ですか?」
「ああ。女子社員達が昼間話しているのを聞いたよ。何でも高校生の頃からアメリカで留学していたとか・・」
「ほら、社長と隣で話している方が社長の息子さんの、香織さんですよ。」
知弘がそう言って大橋社長と談笑している青年の方を指した。
濃紺のスーツに身を包んだ長身の青年は、美しい容貌の持ち主で、切れ長の黒い瞳が印象的だった。
「なかなかの美男子だね。女性達が色めき立つのも無理はない。」
「そうでしょう?香織さんは弱冠20歳でMBAを取得されていますし、かなり優秀だと噂で聞いていますからね。大橋社長は、香織さんを後継者としてこのパーティーにわたし達に対して紹介したいから、彼を出席させたのではないのかと思っています。」
ルドルフが知弘の話を聞いていると、父親と談笑中の香織と目が合った。
「ルドルフ君、随分と遅かったね。」
「仕事を片付けていたら遅くなってしまいました。社長、そちらが噂の・・」
「ああ、倅の香織だ。香織、こちらは営業一課のルドルフさんだ。」
「初めまして。父から貴方のお話は聞いております、大変優秀な方だとか・・」
「いいえ、そんな事はありません。それよりも香織さんがいかに優秀な方であるか、色々とお話は聞いておりますよ。」
「そうですか。」
香織がそう言ってルドルフに微笑んだ時、会場の隅でグラスが割れる音と、客達が何やら騒いでいる声がした。
「一体何があったのでしょうか?」
「少し見てきます。」
ルドルフが、騒ぎが起きている場所へと向かうと、そこには明らかに泥酔した様子の達也と、水色の華やかな花柄の振り袖姿の美織の姿があった。
「一体何があったの?」
「あの子に大橋さんが変な言いがかりをつけて、あの子の振袖にワインを掛けたんです。」
泥酔した達也は意味不明な言葉を喚き散らしながら美織に向かって怒鳴っていたが、彼女は俯いて黙り込んでいた。
「黙ってないで何か言えよ!」
そんな美織の態度に苛立った達也が拳を彼女に向かって振り翳そうとした時、香織が二人の間に割って入った。
「お客様の居る前で何をしているんだ、達也!」
「お前には関係ないだろう!」
「香織はわたしの妹だ。妹に手を出すな。」
香織の口調は穏やかなものであったが、彼が達也に向ける視線は冷たく鋭かった。
周囲の冷たい視線に気づいた達也は、舌打ちするとパーティー会場から出て行った。

「美織、大丈夫か?」
「お兄様、助かりました。」

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Last updated  Feb 28, 2022 07:30:54 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
「何を着て行こうかしら?」
「今夜のパーティーには社長の息子さんもいらっしゃるみたいだから、気合を入れて行かないとね!」
ルドルフが営業一課のオフィスに戻ると、今夜のパーティーの事で雑談する女子社員達の姿があった。
「随分と楽しそうだね、何を話しているの?」
「今夜のパーティーに何を着て行こうかなって、みんなで話をしていたんです。何でも、今夜のパーティーには社長の息子さんがいらっしゃるみたいですし。」
「息子さん?さっき社長室で娘さんとお会いしたけれど、社長に息子さんがおられるなんて初耳だなぁ。」
「ルドルフさんはここに来てまだ日が浅いから、ご存知ないのも当然だと思いますよ。何でもその息子さんは達也さんと同い年で、高校生の頃からアメリカで留学していて、先月帰国したばかりなんですって。」
「そうか・・」
ルドルフは女子社員達の話を聞いた後、今夜のパーティーに出席するという社長の息子について想いを巡らせた。
社長の親族だからといって、彼の息子は達也のような愚鈍な人間ではないだろう。
高校生の頃からアメリカで留学していたという事は、父親との間に何か軋轢(あつれき)があったのではないだろうか―そんな事をルドルフが思っていると、デスクに備え付けの電話が鳴った。
「もしもし、大橋コーポレーション営業一課です。」
ルドルフがそう言って相手の反応を待っていると、受話器の向こうからか細い女の声が聞こえた。
『あの、そちらで働きたいのですけれど・・』
「大変申し訳ございませんが、その件に関しては人事の方にご連絡して頂けないでしょうか?念の為、お名前とお電話番号をお聞かせ願います。」
『すいません、もういいです。』
プツッという音がして電話は切れた。
「どうしました?」
「さっきここで働きたいという電話があってね。そういう事は人事に連絡してくださいって話したら、急に切れちゃったよ。」
「悪戯電話じゃないですか?ここ最近無言電話とか、そういう類のものが多いんですよ。それに、マルチ関連の勧誘電話とかも多いし・・今度そういう電話が来たら、適当に応対して切っておいてください。」
「わかったよ。」

(あの声、何処かで聞いたような気が・・)

ルドルフは自分に電話を掛けて来た女性の声を思い出そうとしたが、仕事に追われて女性の事を思い出す暇がなくなってしまった。

「お先に失礼します。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様、気をつけて帰ってね。」

終業時間となり、社員達が次々と帰っていく中、ルドルフはまだ仕事に追われていた。
漸く仕事が終わり、ルドルフが帰り支度を始めようとした時、一人の女性がオフィスに入って来た。
女性は紺のスーツ姿で、白髪混じりの長い髪をお団子にして纏めていた。
「こちらに何かご用でしょうか?」
「あの、社員の皆さんはまだいらっしゃいますでしょうか?」
「ここにはわたし一人しか居りませんが・・」

怪訝な顔でルドルフが女性の方を見ると、彼女は何処か落ち着かない様子でバッグのストラップを握り締めた。

このままだと埒が明かないので、ルドルフは女性と共に自動販売機がある休憩スペースへと向かった。

「まだお名前を伺っておりませんが・・」
「自己紹介が遅れました、わたくし大橋達也の母の、実里(みのり)と申します。」

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Last updated  Feb 28, 2022 07:31:08 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
「お呼びでしょうか、社長?」
「忙しい時に済まないね、ルドルフさん。そこにかけてくれ。」
社長室にルドルフがノックをして入ると、社長の大橋がそう言って彼に微笑んだ。
「お話とは何でしょうか?」
「実は、こんな事は言いにくいのだが・・今夜、我が社の創立記念パーティーに出席して貰えないだろうか?」
「パーティーですか?」
「ああ・・社員である君に私用は頼みたくなかったのだが、わたしの娘が大層君の事を気に入ってしまってね。今夜のパーティーに招いてくれとうるさくて仕方がないんだよ。」
「そういう事でしたら、喜んでご出席させて頂きます。」
ルドルフの言葉を聞いた大橋は、安堵の表情を浮かべた。
「社長、甥御さんの事でお話があるのですが、今宜しいでしょうか?」
「達也がまた何かしでかしたのか?」
「はい。」
ルドルフが大橋社長に今朝達也が仕事でミスをしたことや、受付嬢と揉めた事を報告すると、大橋社長は渋面を浮かべた。
「まったく、達也には困ったものだ。社長の親族だからといって、あいつがこの会社を継げる訳ではないというのに・・もし次に問題を起こしたら、彼は解雇する。」
「よろしいのですか、そのような事をなさっても?」
「わたしはコネ入社というものが一番嫌いでね。それなのに妹が泣きついて達也をこの会社に就職させてくれって煩くて・・まぁ妹の気持ちは解らなくもないが、こう問題ばかり起こすとなると、解雇の事を考えないといけないな。」
「社長・・」
「そういえば、ルドルフ君は確かハプスブルク財閥の御曹司だったね?どうして会社を継がずに日本で就職したんだい?」
「わたしの父は社長と同様、コネ入社を嫌う人です。会社を継がせてやるから、その日まで海外で修行して来いと言われました。それに、社長の息子だからと周囲から特別扱いを受けるのは嫌でしたので、知り合いが少ない日本に来たという訳です。」
「そうか。達也に君の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ。」
「まだまだわたしは社長と比べて未熟者です。」
ルドルフがそう言って大橋社長と笑い合っていると、社長室のドアがノックされた。
「社長、お嬢様がお見えです。」
「わかった、通せ。」
「お父様、失礼いたします。」
社長室に入って来たのは、赤い振袖姿の少女だった。
「美織(みおり)、どうしたんだ?家で何かあったのか?」
「いいえ。お父様にお話ししたいことがあって・・」
少女はそう言った後、大橋社長からルドルフへと視線を移した。
「お父様、そちらの方はどなたなのですか?」
「ああ、こちらは営業一課のルドルフ=フランツさんだ。ルドルフ君、娘の美織だ。美織、ルドルフさんにご挨拶なさい。」
「初めまして、美織と申します。」
「ルドルフです。素敵なお召し物ですね、振袖は加賀友禅ですか?」
「ええ。祖母の形見なのです。ルドルフさんはお着物の事に詳しいのですか?」
「はい、日本の着物や歴史に興味があるので・・」
ルドルフはそう言うと、美織の帯留めに釘付けになった。
それは昔、自分が恋人に贈ったルビーの指輪だった。
「その帯留め、素敵ですね。そちらもお祖母様の物ですか?」
「いいえ、これは曾祖母の物です。何でも、元は指輪だったものを曾祖母が職人さんに頼んで帯留めに作り直したとか・・」
美織がそう言ってルドルフの方を見ると、彼は何処か寂しそうな顔をしていた。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ。社長、わたしはこれで失礼いたします。」

大橋社長にそう言って社長室から出て行ったルドルフは、漸く会えた恋人が自分の事を憶えていない事に気づき、人気のない廊下で溜息を吐いた。

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Last updated  Feb 28, 2022 07:31:27 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
社員に差し入れする分の飲み物と食べ物が入った紙袋を提げてルドルフがカフェから出て会社に戻ると、会社のロビーで達也が受付嬢と口論になっていた。

「だから、さっさと金出せって言っているだろう!」
「どうしたの、何かあったの?」
ルドルフが受付嬢にそう声を掛けると、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。
「あんたには関係ないだろう、引っ込んでいろよ!」
「そうはいかないな。大声で受付嬢を恐喝するなんて、いくら社長の親族でも許されない行為だからね。」
血走った目で自分を睨みつける達也に対して、ルドルフはそう言って彼を睨み返した。
「畜生!」
達也は腹立ち紛れに近くの観葉植物の鉢を蹴ると、そのまま踵を返して会社から出て行った。
「有難うございます、助かりました。」
達也が去った後、彼に恐喝されていた受付嬢がルドルフに礼を言って頭を下げた。
「彼と何があったの?」
「実は、先程休憩をしていたら、誤ってわたしがペットボトルに入ったお茶を、彼が着ていたシャツに掛けてしまったんです。」
受付嬢は時折ハンカチで目元を押さえながらそうルドルフに説明すると、俯いた。
「事故なんだろう?君がわざと彼にお茶を掛けたのならともかく、たまたまペットボトルのお茶が彼に掛かっただけだ。そんなに君が気にすることはないよ。」
「有難うございます・・迷惑を掛けてしまってすいませんでした。」
「謝らないで、君は悪くないんだから。」
「でも・・」
自分に謝ろうとする受付嬢に、ルドルフは自分の名刺を渡した。
「今度あいつが何か言って来たら、連絡して。力になるから。」
「はい。」

「遅くなって済まないね、みんなに差し入れを持って来たよ。」

ルドルフが営業一課のフロアに入り、社員達に差し入れを見せると、彼らは歓声を上げてルドルフの元へと駆け寄って来た。

「有難うございます、助かります!」
「昨夜から何も食べていなかったから、死にそうだったんですよ~!」
「みんなの分はちゃんと買ってあるから、慌てないでね。」
「ルドルフさん、本当に有難うございました。これで嫌な事が忘れられました。」
「それは良かった。それよりもさっき、ロビーで大橋が受付嬢と揉めていたよ。」
「そうですか。大橋はいつも、自分よりも弱い立場の人間を苛めるのが好きなんです。子供の頃から周りの大人達に溺愛されて育ったから、自分の言う事を聞いてくれる人間が大人になった今でも居ると勘違いしているんですよ。」
普段温厚な知弘がそう吐き捨てるような口調で言ったので、ルドルフは思わず彼の顔を見てしまった。
「君は随分と大橋に対して厳しいね。彼とは知り合いなの?」
「ええ、中学一年の時、あいつと同じクラスだったんです。はじめは仲良くしていたんですけれど、次第に彼の我儘(わがまま)な所が嫌になって、絶交したんです。」
「そう・・じゃぁ、大橋の家族の事は知っている?たとえば、彼に年の離れた弟か妹が居るとか・・」
「さぁ、そこまでは知りません。でもお袋だったら何か知っているかもしれません。今度聞いてみます。」
「有難う、宜しく頼むよ。忙しい時にこんなことを頼んでしまって済まないね。」
「いいえ。」

ルドルフが自分のデスクで仕事をしていると、内線電話が鳴った。

「フランツ君、ちょっと来てくれないか?」
「はい、社長。」

社長が自分を呼び出した―その事だけで、ルドルフは嫌な予感がした。

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Last updated  Feb 28, 2022 07:31:53 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
ルドルフにメールをくれた同僚・佐伯静子によると、社員の一人が、誤って作成中のデーターを消してしまったので、現在そのデーターの復旧作業に取り掛かっているのだという。

『それで、データーは完全に復旧できたの?』
『はい。ですが、データーを削除した社員は、眠いからといってさっさと帰宅してしまいました。』
静子の話を聞いたルドルフは、怒りで思わず顔を顰めた。
自分が削除したデーターは、責任を持って自分で復旧するのが当然だというのに、それを他人任せにするとは一体どういう神経をしているのだろうか。
『あの、ルドルフさん?』
『その社員というのは誰?』
『それが・・』

静子は、少し気まずそうな顔をした後、ルドルフの耳元にその社員の名を囁いた。

ルドルフが職場である大橋コーポレーション営業一課のオフィスに入ると、そこではデーターの復旧作業に追われていた社員達がそれぞれ自分のデスクで疲弊しきった表情を浮かべながら目を擦っている姿や、栄養ドリンクを飲んでいる姿があった。
そんな彼らの姿を見ながら自分のデスクへと向かう間、ルドルフはデーターを削除した社長の甥である大橋達也への怒りが少しずつ滾っていくのを感じた。
達也は大学卒業後、就職活動に失敗して親の金を食いつぶしては一日の大半をパチンコやオンラインゲームをして過ごし、定職にも就かずにいる息子の姿を見た彼の両親が、何とかしてくれと親族である叔父に泣きつき、達也はコネでこの会社に入ったのだった。
幼い頃から散々両親や父方、母方の祖父母や親戚達から甘やかされてきた達也は、成人して身体は立派になったものの、その精神は子供のままだった。
達也は社長の甥ということで、会社の花形部署である営業一課に迎えられた。
しかし、今まで親の金を使って暮らしてきた達也に社会人としての常識などなく、仕事も全くできない彼の無能ぶりに上司や同僚達からの評判は悪かった。
その上、自分よりも後輩の社員や派遣社員、清掃員や警備員といった立場の弱い者をいじめていたので、彼らからは蛇蝎(だかつ)の如く嫌われていた。
『ルドルフさん、おはようございます。』
『おはよう。話は佐伯さんから聞いたよ。今朝は大変だったね?』
『いいえ、いつもの事ですから・・』
ルドルフにそう言って笑った平田和弘は、深い溜息を吐いた。
『みんな疲れているようだし、これからカフェで食べ物と飲み物を買ってこようと思うんだけれど、みんなに何がいいのかを聞いてきて欲しいんだ。』
『はい、わかりました!』
和弘はルドルフの言葉を聞いた後、慌ててオフィスに居る社員達に声を掛け始めた。
数分後、ルドルフは会社近くのカフェで社員達に差し入れする分の食べ物と飲み物を購入する為、レジに並んでいた。
ここ数日炎天下が続いた所為か、フラッペやアイスコーヒーを求める客達がカフェをひっきりなしに訪れ、レジへと並ぶ列は徐々に長くなっていった。
ルドルフは和弘から渡されたメモを確認しながら順番を待っていると、カフェの奥の席に、あの少年と達也が向かい合って座っている事に気づいた。
一瞬達也に声を掛けようかとルドルフが彼らの様子を窺っていると、達也が少年を怒鳴りつけ、テーブルに置いてあったコップの水を少年に掛けた後、鞄を持って足早に店から出て行った。

「何あれ。」
「酷~い。」

客達の好奇の視線を浴びながら、全身ずぶ濡れとなった少年はそのままリュックを掴んでルドルフに気づくことなく店から出て行った。

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Last updated  Feb 28, 2022 07:32:09 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
―誕生日おめでとう。

夢の中でルドルフは、恋人にダイヤを鏤めたルビーの指輪を贈った。

“有難うございます。”

恋人は左手薬指に指輪を嵌めると、照れくさそうな笑みをルドルフに浮かべた。

“来年もまた、こうして貴方と誕生日を祝えたらいいですね。”

そう言った恋人の笑顔が、未だにルドルフの脳裏に焼き付いて離れない。
小鳥の囀(さえず)りが窓の外から聞こえ、ルドルフは幸せな夢から覚めた。
冷水シャワーを頭から浴びた後、ルドルフは身支度を済ませて職場へと向かった。
自宅マンションから最寄り駅までの道のりを歩きながら、ルドルフはハンカチで汗を拭い、駅前のコンビニに入った。
「いらっしゃいませ~」
冷房が効いたコンビニの店内に入ったルドルフは、迷わずスポーツドリンクが置いてある棚へと向かった。
お気に入りのスポーツドリンクのペットボトルと、サンドイッチを持ってルドルフがレジで会計を済ませていると、店に一人の少年が入って来た。

その少年は数日前、ルドルフが公園で会った少年だった。

一瞬声を掛けようかどうか迷ったが、少年は一度もルドルフに気づくことなく店の奥へと消えてしまった。
「お客様?」
怪訝そうな顔で自分を見つめている店員に気づいたルドルフは我に返ると、彼の手からペットボトルが入ったレジ袋を受け取った。
駅のホームでレジ袋からペットボトルを取り出したルドルフがスポーツドリンクを一口飲むと、乾いていた身体が潤ってくるのを感じた。

『ただいま一番線に××行の電車が参ります。』
駅内のアナウンスと共に、ルドルフは電車へと乗り込んだ。
通勤・通学ラッシュを少し過ぎた時間帯なので、車内は余り混んでいなかった。
ルドルフが空いている席に腰を下ろすと、鞄の中にしまっているスマートフォンが振動した。

『至急連絡ください』

差出人の名前は、職場の同僚で、メールの内容によると、会社でトラブルが起きたので至急連絡してくれというものだった。
『今出勤している所です、あと十分くらいしたら着きます。』
同僚からのメールにそう返信したルドルフは、スマートフォンを鞄にしまうと職場の最寄り駅に着くまで仮眠を取った。
『間もなく××駅、××駅です。』
ペットボトルの中に入っていたスポーツドリンクを一気に飲み干したルドルフは、職場の最寄り駅で降りて会社へと向かった。
職場であるビルに入ったルドルフがエレベーターホールでエレベーターを待っていると、そこへ何処か慌てた様子で一人の女性がやって来た。
真夏だというのに、リクルートスーツを着込み、長い髪をシニヨンに纏めた彼女の姿を見たルドルフは、彼女が就職活動中の大学生である事に気づいた。
「すいません、お先に失礼します!」
女性はそう言うと、エレベーターが着くなり「閉」ボタンを押した。
ルドルフは女性が去った後溜息を吐くと、数分後に到着したエレベーターに乗り込み、六階のボタンを押した。

『ルドルフさん、大変なんです!』
『どうしたんだい、そんなに慌てて。わたしにも解るように今の状況を説明してくれないか?』

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Last updated  Feb 28, 2022 07:32:23 PM
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カテゴリ:連載BL小説:天の華
しんしんと静かに降り積もる雪に染まる外の風景を窓から見た少女は、窓から離れ、暖炉の前に置かれているテーブルへと目をやった。
そこには、黒檀のように美しく艶やかな光を放つ拳銃が置かれていた。
今夜、自分は愛しい人と結ばれる為に、この地へと訪れた。
その為に、家族に宛てて遺書を書いた。
「どうしたんだい、浮かない顔をしているね。」
ふと俯いた顔を少女が上げると、そこには慈愛に満ちた蒼い瞳で自分を見つめる青年の姿があった。
「本当に、わたしでよろしいのですか?」
「何を言う。君でしか、出来ない事なんだ。」
青年は甘い言葉を少女の耳元で囁きながら、彼女の華奢な身体を抱き締めた。
「大丈夫、何も怖がることはないよ。これは、わたし達が選んだ道なんだ。」
「はい・・」
少女は落ち着かない様子で、左手の薬指に嵌めている指輪を触った。
その指輪は、青年から贈られた物で、血のように紅いルビーの周りにダイヤモンドが鏤(ちりば)められている。

“結婚指輪の代わりに受け取ってくれ”

青年と恋仲となって何度目かの夜を迎えた後、彼からそんな言葉と共にベルベットの小箱に入ったこの指輪を誕生日の前夜に贈られたのだった。

その指輪のルビーは、暖炉の炎を受けて美しく輝いていた。

「ルドルフ様、わたしは貴方についてゆきます・・何処までも。」
「良かった、君からその言葉を聞けて。」
青年―ルドルフはそう言うと、少女の柔らかな唇を塞いだ。
「ルドルフ様、約束してくださいますか?生まれ変わっても、わたしを愛してくださると。」
「ああ、約束する。」
ルドルフはそう言って少女に微笑むと、彼女ともう一度唇を重ねた。
その時、複数人の足音が廊下から聞こえてきた後、黒服の男達が部屋に入って来た。

「何者だ、貴様ら!」
「ルドルフ皇太子、ハンガリーの為にここで死んで貰う!」

男達の一人がそう言って拳銃をルドルフに向けた。

「ルドルフ様!」

少女は己の身を挺して銃弾から恋人を守った。
全身に激痛が走り、少女の意識は闇へと静かに堕ちていった。
完全に闇に沈む前、ルドルフが自分の名を呼んでくれたが、その時彼女は自分の名すらも判らなくなってしまった。

「約束だ・・約束だぞ、“  ”」

二発目の銃声が、雪に包まれた館の中で響いた。

「皇帝陛下、ルドルフ様が・・皇太子様が、マイヤーリンクで何者かに暗殺されました!」
「何だと!?」

1889年1月30日未明、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子・ルドルフは、ウィーン郊外のマイヤーリンクにある狩猟小屋にて、謎の拳銃自殺を遂げた。
この出来事は「マイヤーリンク事件」と名付けられたが、事件の真相は100年以上経った現在でも明らかにされていない―


夏の陽射しを受け、微かに目を細めて天を仰ぐと、そこには青空が広がっていた。

湿気を帯びた熱風が吹き、ルドルフの白皙の肌に汗が一筋滴り落ちた。

生まれ故郷から遠く離れたこの地で暮らしてから数年が経つが、うだるような夏の暑さには未だに慣れない。
ハンカチで汗を拭きながら自宅があるマンションまで歩いていると、近くの公園から子供達のはしゃぐ声が聴こえてきた。
ふと彼らの声に耳を澄ませながら、ルドルフは静かに目を閉じた。

“ルドルフ様”

愛おしそうに自分の名を呼ぶ恋人の姿が一瞬脳裏に浮かんだが、それは目を開けると煙のように掻き消えてしまった。

“ルドルフ様、約束してくださいますか?生まれ変わっても、わたしを愛してくださると。”

最期の時を過ごしたマイヤーリンクの館で、恋人と交わした約束は、未だに果たせないでいる。

一体、何処に居るのだろう。

あれから100年以上もの歳月が経ったのだ、もう自分の事など忘れているだろう。
そんな事を思いながらルドルフが再び自宅に向かって歩いていると、彼の前に一人の少年が現れた。

「あの、これどうぞ・・」

そう言った少年の手には、ペットボトルの清涼飲料水が一本握られていた。

「さっき公園で見かけて、少し辛そうでしたので・・」
「有難う、助かるよ。君、名前は?」
「僕ですか、僕は・・」

少年が自分の名を言おうとした時、彼が制服の胸ポケットに入れているスマートフォンがけたたましく鳴った。

「すいません、もう行かないと・・」
「おい、待て!」

ルドルフが引き留める間もなく、少年はルドルフに背を向けて何処かへと行ってしまった。

(変な奴だったな・・)

自宅マンションのエントランスに入り、エレベーターを待っていたルドルフがそう思いながら先ほどの出来事を思い出していた。
見知らぬ少年―だが彼と会った瞬間、何故か彼とは初対面ではないような気がしてならなかった。

(まさか、な・・)

あの少年が、自分の恋人の生まれ変わりの筈がない―ルドルフはそう自分に言い聞かせながら、エレベーターに乗り込んだ。

その日の夜、彼は久しく見ていなかった前世の夢を見た。

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Last updated  Feb 28, 2022 07:33:28 PM
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