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JEWEL

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連載小説:麗しき狼たちの夜

2012年12月25日
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「何て招待状には書いてあったの?」
「上海のホテルから。創立100周年を迎えることになったから、俺に来て欲しいって。」
「そうなの。じゃぁ今年のお正月はあなた抜きで過ごすしかないのね、残念だわ。」

そう言って美津子は少し残念そうな顔をしていた。

「でもすぐってわけじゃないから、一緒にお正月は過ごせると思うよ。」
悠はそう言いながら、上海のホテル創立100周年パーティーの日時を確認した。
パーティーは、3月20日となっていた。
「いつだって?」
「3月20日だって。」
「そう、よかったわ。新年早々、離れ離れになるんじゃないかと思って不安になっちゃったけど、わたしの早とちりだったのね。」
美津子はそう言って笑顔を浮かべた。
正月三箇日を実家で過ごした悠は、翌日ジェファーと住むアパートへと戻り、荷造りを始めた。
「どうしたんだ、帰ってきてから急に荷造りなんかして?」
「こんなものが俺に届いてね。」
ジェファーに招待状を見せると、彼はジーンズのポケットから同じものを取り出して悠に見せた。
「俺のところにも届いたぞ。お前も行くのか?」
「うん。ねぇ、これからどうするの?」
「そうだなぁ、もう道路工事のバイトは終わっちまったし、このまま無職という訳にもいかないなぁ。」

ジェファーは頭を掻きながら、ソファに腰を下ろした。

「実は俺も、学校退学処分になったんだよね。」
「何だって、それは本当なのか?」
「うん。俺さ、あそこでしっかり勉強して、大学に行ってジャーナリストになるのが夢だったんだ。でも、それもなくなっちゃった。」
「簡単に諦めるな。何もここの大学でなくても、ジャーナリストになるのは何処でもできるだろう。」
「そうだね。発想の転換が大事でよく本に書いてたもんね。何も学校を退学処分になっても、自分の気持ちしだいで夢を追えるもん。」
悠はジェファーの言葉で、マイナスに傾きかけていた心がプラスへと大きく傾いた気がした。
「じゃぁ、二人で上海に行くか?」
「そうだね、行こう!向こうで何かがあるかもしれないしね。」
「たとえば?」
「う~ん、新しいロマンスとか?」
「それもあったら面白いがな。」

ジェファーはそう言うと、笑った。

正月を過ぎるとバレンタイン、ホワイトデーと月日は瞬く間に過ぎてゆき、悠とジェファーはヒースロー空港で家族に見送られながら上海へと発とうとしていた。

「ジェファーさん、悠のことを宜しくお願いしますね。」
「わかりました、心配しないでください。」
「あんた、身体には気をつけるのよ。」
「わかったよ、じゃぁ行ってきます!」

別れを惜しむ家族に手を振りながら、悠とジェファーは上海へと旅立っていった。

運命を刻む時の針が、大きく動いた瞬間だった。


***********************************************************************

「麗しき狼たちの夜」は、暫く更新を停止いたします。

2013年最初の作品は、「金の鐘を鳴らして」。

戊辰戦争後、辛酸を舐めた一人の会津藩士の子・正義は、大いなる夢を抱いて渡英し、そこで様々な人々と出会う・・という作品です。

19世紀末のイギリスを舞台にした物語です。

一部「黒衣の貴婦人」のヒロイン・歳三が登場する予定ですので、お楽しみに。






最終更新日  2013年01月07日 17時42分27秒
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クリスマスが過ぎ、悠は美津子達と実家の大掃除に追われていた。

「今年の汚れは今年のうちに取らないとね!」
「ママ、何もこんなことする必要ないだろう?ハウスキーパー達に任せればいいじゃないか?」
悠の弟・大輔はそう言うと口をへの字に曲げた。
「何言ってるの、大輔。必要最低限のことは自分ですることが大切なのよ。何でもかんでも他人任せにしたら、生活が成り立たなくなっちゃうわ。」
「僕の友達が、うちの家が特殊だって言ってるの、知ってるだろ?金持ちなのにハウスキーパーも運転手も雇わないなんて、おかしいって。」
「そんな子には、勝手に言わせておけばいいのよ。家事を使用人に任せて、リビングのソファでふんぞり返っている金持ちの時代はもう終わったのよ。顎で人をこき使うことが、金持ちのステイタスじゃないわ。」
大輔の不平不満を、美津子は一蹴し、二階の掃除へと向かった。
「パパ、何とか言ってよ。僕こんなことするの、嫌だよ。」
「大輔、まだ物置の掃除が終わっていないだろう?」
「何だよ、パパもママの味方をするの?」
大輔は父親が自分の味方にはなれないとわかったので、拗ねた顔をしながらリビングから出て行った。
そんな彼の背中を見ながら、弟はちっとも変わっていないなと悠は思った。
「悠、正月は日本に戻るか?」
「今考え中。それよりも学校のことで色々としないといけないことがあるんでしょう?」
「ああ。もう今の学校には居られなくなった。」
父からその言葉を受けた悠は、顔が強張った。
「どういうこと?」
「あそこが英国の中でも厳しい寄宿学校だというのはお前も知っているだろう?成績面は問題ないといわれたが、あんな事件があって、学校側は素行調査をしたそうだ。」
「それで?」
「こんなことはお前に言いたくはないんだが・・学校側はお前を退学処分にすることで決定したそうだ。」
「ふぅん、そうなんだ。あの学校、前から嫌だと思ってんだよ、教師達が規則にうるさくて。あ、俺自分の部屋を掃除してくるね!」
狼狽しているのを父には見せまいと、悠はそそくさと二階へと上がり、自分の部屋のドアを閉めると溜息を吐いた。
名門と言われるあの学校に入るまで、今まで自分がしてきた血が滲むような努力を、全否定されたような気がして悠は嗚咽した。
あの学校に通いながら、いずれは大学に入り、ジャーナリストとなることが悠の夢だった。

だがその夢は、水泡のように無残に砕け散ってしまったのだ。

「悠、パパが呼んでるわ。」
「わかった、すぐ行くから!」
涙を手の甲で拭い、悠は部屋から出て一階へと降りていった。
「こんなものがお前に届いたんだ?」
「そう。ありがとう。」

父から受け取ったのは、中国からのエアメールだった。

悠がペーパーナイフでエアメールの封を切り、中身を取り出すと、そこには一通の招待状があった。

“ユウ=キノシタ様、このたびわたくしどもが経営するホテルが創立100周年を迎えましたので、特別なゲストとしてあなたをホテルに招待いたします。上海にて、お待ちしております。 陳”

悠の脳裏に、数週間前にパーティーであった青年の顔が浮かんだ。






最終更新日  2012年12月26日 19時15分25秒
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「ねぇ悠、クリスマスは一旦うちに帰ってこない?」
「そうしたいんだけど・・」
「大丈夫よ。もうネットでの騒ぎは下火になりつつあるし、あんまり気にすることないんじゃない?帰ってらっしゃいよ。」
「わかった。」
美津子と数週間ぶりに会い、悠はクリスマスを実家で過ごすことに決めた。
「ねぇ、クリスマスは実家に帰ることになったんだけど・・」
「そうか・・それじゃぁ俺はマイケルと二人で過ごすかな。親愛なる親父殿は社交界の集まりで忙しいみたいだし。」
アパートで悠が実家に戻ることを告げると、ジェファーはそう言って笑った。
それを聞いた悠は、少し寂しかった。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「ううん・・なんでもない。」
「もしかして、拗ねたのか?」
「そんなことないよ、馬鹿じゃねぇの?」
悠はそう言うと、ジェファーにそっぽを向いた。
それから数日後のクリスマス、悠は久しぶりに実家へと戻った。
「悠、今は何処に住んでるの?」
「ピカデリー・サーカスの近くにあるアパート。詳しいことは後で話すよ。」
「そう。じゃぁディナーの準備を手伝って。」
「うん、わかった。」
悠はエプロンをつけると、キッチンへと向かった。
「ねぇ、あの事件の犯人、まだ見つからないらしいわよ。」
「どの事件の?」
「ほら、サヴォイホテルで殺された人の事件。」
悠の脳裏に、憎悪に顔を歪ませたフェリシアーノの顔が浮かんだ。
「新聞には怨恨による犯行だって書いてあったけど、ネット上で色々とやらかしたらしいよ。」
「そう。まぁあの人も気の毒な人だったんじゃない?この前あの人と親しくしている奥さんと会ったんだけど、色々と苦労したみたいよ。」
「ふぅん、そうなんだ・・」
オーブンでクッキーを焼きながら、フェリシアーノがどんな人物だったか悠はわからなかった。
一体何故、あそこまで彼は暴走してしまったのか。
「さぁ、出来たわ。さてと、ケーキは後で持っていきましょう。」
「うん、わかった。」
クリスマスの夜、悠は食卓を家族で囲みながら、久しぶりに楽しい時間を過ごした。
一方ジェファーは、病院でマイケルと1個のケーキを二人で分け合いながらクリスマスを祝った。
「プレゼントは用意してなかった。」
「まぁ、あんなことがあったからいいさ。それにしても今年は色々とあったな。」
「ああ・・」
「来年は良い年になって欲しいもんだ。」
「そうだな。」

二人は笑い合いながら、エールで乾杯した。

「あっという間に2005年も終わるのねぇ。正月を過ぎたらあっという間だわ。」
「そうだね。何だか1年が経つのが早すぎて、このまま年を取るのかと思うとゾッとしちゃうよ。」
「それはわたしの台詞でしょう?あなたはまだ若いんだから、そういう心配はしなくていいの!」
「はいはい、すいませんでした。」

悠はそう言いながら、ペロリと舌を出した。

クリスマスの夜は、静かに更けていった。






最終更新日  2012年12月25日 22時35分01秒
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悠がバッドを振りかざすと、かすかな手ごたえがあった。

「ぎゃ~!」

男の野太い悲鳴が聞こえたのと同時に、リビングの電気が点いた。

「どうした?」
「ジェファー、お前こいつと住んでたのか!」
リビングの床で、悠に金属バッドで殴られて痛みにのたうち回るマイケルの姿があった。
「マイケル、お前どうしてこんなところに?」
「そうだよ、泥棒だと思ってこれで殴っちゃったじゃないか!」
「確かに、夜中に忍び込んだのは悪かった。」
マイケルは額から脂汗を流しながら、椅子に腰掛けた。
「取り敢えず、病院へ連れて行こう。足が折れているかもしれない。」
「ええ、わかった。」
数分後、悠達のアパートの前に救急車が停まり、ジェファーと悠はマイケルとともに病院へと向かった。
「ねぇ、本当にごめん。」
「謝るな。俺も悪かったんだから・・」
救急車の中で、悠はマイケルを泥棒と勘違いして襲ったことを、何度も謝った。
病院でマイケルは足の骨を折ったが、医師や看護師には自宅で転んでしまったと説明した。
「マイケル、どうして俺達のアパートがわかった?」
「それがな、昔の友達に色々と探って貰ってな・・」
「もしかして、アパートの前うろついてたのは、あなたのお友達だったの?」
「ああ、そうだが。その事についても、色々と誤解されてしまって、済まない。」

マイケルはそう言うと、悠に頭を下げた。

「あの事件以来、お前達の消息が突然掴めなくなっていても立っても居られなくて・・」
「そうか。ちゃんと説明してくれれば俺の方から連絡をしたんだが。まぁ、こればかりは誰も責められない。マイケル、俺は今まで一度もお前に迷惑をかけたことがなかったな。だが、今回のことはお前をこんな行動に走らせてしまったのは俺の所為だと思っている。済まない・・」
「そんな事言うな、ジェファー。」
マイケルはそう言ってベッドから起き上がろうとしたが、足の痛みで呻いた。
「まだ無理するな。」
「本当に済まない・・」
病院を後にしたジェファーは溜息を吐きながら、昔マイケルと良く通ったパブへと入った。
「いらっしゃい。」
「エールを頼む。」
「わかりやした。」
スツールに彼が腰を下ろし、窓の外を見ると、雪が降り始めていた。
「ああ、降っちまいましたねぇ。この調子じゃぁ積もりそうだ。」
「そうだな・・」
「クリスマスも近いから、この店も繁盛するといいんだが。」
店主はそうぼやきながら、グラスを布巾で拭いた。
「あんたの店なら、いつでも繁盛してるだろうが?」
「そうですかねぇ。このところ、最近忙しくてねぇ。」
「最近肉体労働を始めてな。朝早くから夕方まで働いて・・クタクタになりながら毎日ベッドに倒れこんでいるのさ。」
「あっしも昔鉱山で働いてましたがねぇ、道路工事の方があっちよりもマシでさぁ。何せ落盤や爆発の危険がないんですからねぇ。」
「それもそうだな。愚痴を吐いてばかりじゃ居られないか。」

ジェファーはそう呟くと、エールを一口飲んだ。







最終更新日  2012年12月25日 22時08分10秒
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週末のスーパーは、特売品目当てで来ている主婦達や家族連れで混んでいた。

(今日は精がつくものを作ろうかなぁ。ステーキとか。)

精肉コーナーの前でステーキ肉を物色しながら悠が良さそうなものを2パックカゴに入れてそこから立ち去ろうとしたとき、彼は誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい。」
「大丈夫ですか?」
「ええ・・」
そう言って俯いた顔を上げた悠は、そこに陳が立っていることに初めて気づいた。
「奥様、お久しぶりです。ここの近くに住んでいらっしゃるのですか?」
「あなたは?」
「ああ、わたしはこの近くに叔父が住んでいるものですから、仕事のついでに遊びに来ました。」
「そうですか。じゃぁ俺はこれで。」
悠はそそくさと、逃げるようにその場から立ち去った。
スーパーから脇目も振らずに走り続け、肩で息をするほど体力を消耗させながら悠はアパートのエレベーターに乗り込んだ。
7階へと降りると、悠はバッグから鍵を取り出して部屋の中へと入った。
購入したステーキ肉を冷凍室に入れると、悠は野菜室からレタスとトマトを取り出し、サラダを作った。
フライパンの上にオリーヴオイルを掛け、ステーキ肉を焼こうとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。
このアパートにはインターフォン画面がないので、悠は調理の手を止めて玄関へと向かった。
「どちら様ですか?」
「すいません、宅配です。」
「宅配?」
「ええ。ジェファー=マクドナス様宛のものですが・・」
「そうですか。」
ドアにチェーンロックを掛けると、悠は宅配業者から荷物を受け取った。

(ジェファー宛に荷物って、何だろう?)

荷物は有名パソコンメーカーのロゴマークが入っており、荷物の送り主の名はマイケル=ファガーソンとなっていた。
「ただいま。」
「お帰り。今日、荷物が届いてたよ。」
「そうか。今日の夕食は?」
「ステーキだよ。あと、サラダも作っておいた。」
「よかった、丁度肉が食いたかったところだ。」
ジェファーはそう言うと笑った。
夕食後、悠がキッチンで食器を洗っていると、ジェファーがノートパソコンで何かをしているところだった。
「何してるの?」
「これ、お前が通っていた学校に置いてきたまんまだったんだ。マイケルが送ってきてくれたんだろうさ。」
「そう。突然荷物が来たって言われてびっくりしちゃった。爆発物でも入っているのかと思ったよ。」
「そんなことはないだろう。まぁ、万が一のことを考えておかないとな。」
ジェファーはノートパソコンの電源を落とすと、それを自分の部屋へと持っていった。

その夜、悠が自分の部屋で寝ていると、突然リビングの方から物音が聞こえた。

「誰?そこに誰が居るの?」

泥棒対策として念の為にスポーツ用具店で購入した金属バッドを構えながら、悠はゆっくりとリビングのドアノブを掴んでそれを回した。

何かが動いた気配がして、悠は金属バッドを大きく振りかざした。







最終更新日  2012年12月25日 14時38分32秒
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「あのう、こちらに何かご用ですか?」

意を決して悠がアパートの前をうろつく男に声を掛けると、まるで彼は地面にバネが仕掛けられていたかのように、そこから1メートルほど飛び上がった。

「い、いいえ・・」
「そうですか。あの、こちらのアパートに住んでいるどなたかにご用ですか?」
「いいえ。すいません、失礼します。」
男は驚いた拍子に地面にぶちまけてしまった鞄の中身を急いで拾い集め、そそくさとその場から立ち去ってしまった。
「ねぇ、これ忘れましたよ!」
男のものと思われるiPhoneを振りながら悠が彼を呼び止めようとしたが、もう彼は角を曲がってしまった後だった。
(どうしようかな、これ・・)
最寄の警察署に遺失物として預けようかと思ったが、預けると氏名と住所を書類に記入しなくてはならず、またネット上で個人情報が晒されて嫌がらせが再発するかもしれないという不安を悠は抱いた。
フェリシアーノが悪意をネット上にばら撒いた結果、悠は名前も顔も知らないユーザー達から受けた一連の嫌がらせを思い出し、持ち主が取りに来るまで安全な場所にiPhoneを保管しておこうと決めた。
「ただいま~」
「お帰り。仕事、見つかったか?」
「ううん。それよりもさぁ、アパートの前で不審な男がうろついてたから声掛けたんだけど、慌てて逃げちゃった、その人。これ忘れて。」
悠がそう言ってジェファーにiPhoneを見せると、彼は険しい表情を浮かべた。
「これは・・」
「どうしたの、これに見覚えがあるの?」
「ちょっとそれ、見せてくれないか?」
「うん、わかった・・」
悠は怪訝そうな表情を浮かべながらも、ジェファーにiPhoneを渡した。
「全く、こいつは無防備な奴だな。赤の他人が自分の個人情報が詰まった代物を覗くことくらいは予測しておいてロックした方がいいだろうに。」
ジェファーはそうブツブツ呟きながらも、iPhoneを次々と指先で操作しながら、所有者の個人情報を拾っていった。
「こいつの持ち主がわかったぞ。名前はレオナルド。職業は探偵だそうだ。」
「そう・・それで、どうするの?」
「まぁ、警察に届けた方がいい。お前がこれを持ち主が取りに来るまで持っておこうと思っても、相手に取っちゃぁお前がこれを盗んだと勘違いするだろう?要らぬトラブルを招かない為にも、忘れ物はちゃんと警察に届けること。」
「わかったよ。これからは馬鹿な真似はしない。」
「わかってくれてよかったよ。それじゃぁ、一緒に警察署に行こうか?」
数分後、警察署にiPhoneを遺失物として届けた後、二人は遅めのランチを取った。
「ユウ、お前は色々と考え過ぎて早まった行動をする傾向がある。それが余計に物事を拗らせることに、お前はまだ気づいていない。」
「今回のことは軽率だったよ。」
ピカデリー・サーカスにあるカフェで昼食を取りながら、悠はそう言って溜息を吐いた。
「さてと、これから俺は仕事に行かないとな。」
「仕事、もう決まったの?」
「ああ。近くで道路工事があってな。人手が足りないから雇ってくれたよ。」
「どうして俺の仕事は決まらないのに、ジェファーの仕事だけ先に決まるんだろうなぁ・・」
「そういじけるな。根気良く自分に合った仕事を探せば見つかるさ。」

ジェファーはそう言うと、悠の肩を叩いた。

「さてと、夕飯の買い出しにでも行こうかな。」
「気をつけていけよ。」
「うん、わかった。」

カフェの前でジェファーと別れた悠は、そのまま近くのスーパーへと買い出しに行った。






最終更新日  2012年12月25日 14時01分58秒
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2012年12月24日

ジェファーと悠が新生活を始めて二日目の朝が来た。

「おはよう。」
「おはよう。」
「ご飯出来てるよ。」
「サンキュ。」
コーヒーテーブルで同じ朝食を食べながら、悠とジェファーは今後の生活のことを話し合った。
「ねぇ、このアパートの家賃は安いけどさぁ、無職のままじゃキツイんじゃない?」
「ああ、そうだな。まぁ肉体労働の仕事ならいくらでもアテがあるし。」
朝刊の求人情報欄を読みながら、ジェファーはそう言いながらコーヒーを飲もうとした。
その時、求人欄の上に載ってある記事に、彼は目を疑った。
「どうしたの?」
「あいつが殺されたらしい。」
「え?」
悠が慌ててジェファーから朝刊を奪うと、その記事を読んだ。

“高級ホテル内で殺人,怨恨による犯行か”

記事にはフェリシアーナの着飾った写真が載せられていた。

“昨晩11時半ごろ、サヴォイ・ホテルのスイートルームにて銃声が聞こえ、支配人が銃声が聞こえた客室に入ると、そこにはフェリシアーノ=マドックス氏が床に倒れて死亡しているのを発見した。客室係の話によると、銃声が聞こえる直前、マドックス氏と何者かが口論するような声が聞こえたという。”

「一体誰なんだろう、彼を殺したのは?」
「さぁな・・あいつ、色々とネット上でやりすぎたらしい。」
「“やりすぎた”って?」
「まぁ、これを見てみろ。」
ジェファーがスマートフォンの画面を悠に見せると、そこにはフェリシアーノの記事がUPされていた。

“死ね。”
“あいつもう死んでるって、ザマァww”
“まぁ、自業自得かもな。”

コメント欄にはフェリシアーノへのバッシングコメントが溢れていた。
「じゃぁ、この事件はフェリシアーノをうらむ誰かがやったってこと?」
「まぁな。でも、誰かどうかが特定できない。それがネットの厄介なところだ。」
「でも、IPアドレスとか特定できるんじゃないの?」
「これ書いた奴の一人のアドレスを特定したところで、干し藁の中に針を一本見つけるようなもんだろ?」
ジェファーはそう言うと、記事の画面を閉じた。
朝食を食べた後、悠はアルバイト探しへと出かけた。
「ごめんなさいねぇ、うちはもう人手が足りてるのよ。」
「そうですか・・」
アパート近くにあるスーパーマーケットの前に貼られていたアルバイト募集の張り紙を見て来た悠だったが、そこで断れた後何軒かアルバイトとして雇ってくれないかと頼んだが、悉(ことごと)く駄目だった。
「ハァ・・」

悠が溜息を吐きながらアパートへと戻っていると、アパートの前でうろついている謎の男に気づいた。

(どうしよう、声掛けようかな?)







最終更新日  2012年12月24日 22時33分58秒
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引越し当日、ジェファーと悠はスーツケースを持ってマクドナス邸から出て行った。

「本当に、行かれるのですね?」
「ええ。短い間でしたが、お世話になりました。」
「お気をつけて。」
マクドナス邸があるメイフェア地区から少し離れたロンドン市内にあるアパートに二人が着いたのは、数時間後だった。

「これで、新しい生活が始まるね。」
「ああ。」
新居であるアパートの一室に荷物が入った段ボール箱を入れていると、スマートフォンがメールの着信を告げた。
「誰だろ?」
「お前のおふくろさんじゃないか?」
「そうかもね。」
悠がそう言ってメールボックスを開くと、そこには送信者のアドレスがないメールが1通あった。
「どうした?」
「何か、送信者のアドレスがないんだけど、このメール。」
「消しておけ。取り敢えず、受診拒否の設定もしろ。」
「わかった。」
悠はそう言うと、素早くそのメールを受信拒否設定にした。
「さてと、荷物の整理でもしようか?」
「そうだね。」

こうして、二人の新しい生活が始まった。

「ふぅん、あの二人がマクドナス邸から出て行った?彼らの消息はわからない?」
一方、フェリシアーノはホテルの一室でスマートフォン片手に誰かと話していた。
ノートパソコンの画面を見つめながら、彼は悠に対するバッシング記事がUPされていることに気づき、ほくそ笑んだ。

あと少しで、ジェファーの地位は地に墜ちる。

そうするまで、自分は負けるわけにはいかないのだ。

「フェリシアーノ、居るの?」
「ええ、居るわよ、スザンナ。」
ドアがノックされ、スザンナが部屋に入ってきた。
「ねぇ、もうやめて。こんなことしたって、無駄じゃない。」
「何を言ってるの。ここで止めたら誰があの男に復讐するというの?」
「わたしは復讐なんて望まない。だからもうやめて・・」
「嫌よ。これだけは譲れないわ。」
スザンナは何とかフェリシアーノの暴走を止めようとしたが、無駄だった。
フェリシアーノははじめ、スザンナの傷ついた心を癒す為に、ジェファーへの復讐を始めた。

しかし、段々彼の感覚は麻痺していった。

いつからか、彼は悠やジェファーを徹底的に糾弾したいと思うようになってしまったのだ。
一度始めたら、もう二度と引き返せない道に、彼はもう来てしまったのだった。

そしてこの事が、彼自身に降り掛かる災難を呼び寄せてしまったのだった。






最終更新日  2012年12月24日 21時58分53秒
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従妹・スザンナの“復讐”と称し、フェリシアーナはインターネット上にジェファーと悠の顔写真や個人情報などを流し、その所為で二人の携帯にはひっきりなしに嫌がらせの電話やメールが来るようになり、悠はノイローゼになりかけていた。

「一体いつまで待てば止むの、これ!?」

ある日の朝、悠が朝食を取っている間にも携帯がやかましく鳴り響いたので、彼はヒステリックにそう叫ぶと、携帯の電源を切った。
「新しいやつに買い換えた方がよさそうだ。あんたのお袋さんにもそう言っておけ。」
「わかった。母さんはこっちが面倒なことになってること知ってるから、もう買い換えたって。」
「そうか。さてと、マスコミに見つからないようにさっさと新しい携帯を買い換えに行くか。」

数分後、ジェファーと悠はロンドン市内の携帯ショップで、スマートフォンを購入した。

「さてと、これでよしと。」
「うん。家族との連絡先はもう登録済み。」
「あいつらにこのスマートフォンのことは内密にしておかないとな。また嫌がらせのメールが殺到するからな。」
「そうだね。もうフェイスブックも退会した方がいいかもしれない。いつ何処で、誰かがまた俺達の情報を流すのかもしれないし。」
携帯ショップから出てきた二人がそう話していると、彼らの前にフェリシアーナが現れた。
「ハロー、お二人さん。わたしの素敵なプレゼントは気に入ってくれたかしら?」
フェリシアーナはそういうと、エメラルドの瞳をピカリと光らせた。
「ああ、とっても気に入ったさ。だが、こちらとしてはやられっ放しというわけにはいかないな。」
「ふぅん、それどういう意味かしら?」
「その言葉通りさ、じゃあな。」
去り際、ジェファーはわざとフェリシアーナの肩にぶつかった。
「あんなこと、言っていいの?」
「いいんじゃないのか?喧嘩を売ってきたのは向こうなんだから。さてと、今度は新しい引越し先を見つけないとな。」
「そうだね・・」
クリスマスが押し迫る中、ジェファーと悠は二人で住めるアパートを探した。
条件としては地下鉄の駅が近くにあり、買い物が不便ではないところ。
ロンドン中の不動産屋を足が棒になるまで条件にあてはまる物件を探し回った末、ついに二人はすべての条件をクリアしたアパートを見つけた。
「こちらの物件、少し家賃がお高いですが、よろしいでしょうか?」
「ええ。明日にでもお願いします。」
引越し先を見つけたその日の夜、マクドナス邸で二人はそれぞれの荷物を纏めていた。
「要らない物を整理するのは大変だな。」
「まぁ、引越しするときや大掃除の時だけだもんね、こういうのは。ホント、要らない物ばかりだね。」

悠はそう言って使い古した靴下をゴミ袋に放り投げた。

数時間の格闘の末、山のようにあった荷物は、スーツケース二つ分に収まった。
「これで漸く引っ越せるな。」
「うん。」
「何だか急に腹が減ってきたな。」
「何か頼む?」
「家の電話を使え。折角新しいやつに買い換えたってのに、一発で番号がバレるとヤバイだろ?」
「そうだね。」
悠がマクドナス家の電話で寿司の出前を頼んでいる頃、フェリペは悠の携帯に何度もかけたが、繋がらないことに不安を募らせていた。
「どうしたんだ、ユウ?どうして繋がらないんだ!」
苛立ちの余り机の端を拳で叩いたフェリペは、舌打ちしながらパソコンの画面を見ると、そこにはメーラーには「新着のメッセージが1件届きました」というメッセージが表示されていた。
また迷惑メールかと思いながらフェリペが未開封のメールをダブルクリックしてそれを開くと、そこにはフェイスブックのあるページのURLが載せられていた。

そのURLをクリックすると、そこには悠とジェファーの個人情報が載せられており、コメント欄には二人への悪意あるメッセージで溢れていた。

「これは、酷いな・・」

フェリペは吐き気を覚え、そのページを閉じた。







最終更新日  2012年12月24日 20時35分30秒
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悠がジェファーから連絡を受け、彼の父親が経営している会社の社長室へと向かうと、そこには全身高級ブランドに包んでいる女性が、エメラルドの瞳で自分を睨みつけていた。

「あの・・」
「あなたね、従妹を困らせている坊やは?」
女性はそう言うと、悠の頬を叩いた。
「あなた、自分がやっていることがどれほど人を傷つけているとわからないの!?」
「やめろ、フェリシアーナ!」
「まぁ、あなたによくもそんなことが言えたものだわね!あなたに傷つけられて、どれほどあの子が傷ついたか・・」
フェリシアーナはそう叫ぶと、突然エルメスのハンドバッグを逆さにして大理石の床にその中身をぶちまけた。
「これを見なさい!」
フェリシアーノは一枚の写真をジェファーの眼前に突きつけた。

それは、胎児の超音波写真だった。

「あなたが従妹に別れを告げたとき、あの子は妊娠していたわ!けど失恋の所為で自暴自棄になって中絶したわ。それで・・」
「それで俺の所為でコカイン中毒になり、砂漠のど真ん中に放り込まれたと?じゃぁどうして彼女が昨夜のパーティーに居たんだ?」
「それは・・」
「フェリシアーナ、もういいでしょう、止めて!」

フェリシアーナとジェファーが言い争っていると、スザンナが社長室に現れた。

「スザンナ、何も心配は要らないわ。わたしが何とかするから。」
「止めて、あなたの所為で問題がもっと拗れてしまうのよ、わからないの!?」

スザンナはそうヒステリックに叫んだ後、ソファにもたれかかるようにして座った。

「あなた、身体が本調子じゃないんだから、駄目じゃないの!さぁ、家に帰って横になりましょう。」
フェリシアーノはそう言うと、スザンナの手を掴んで無理矢理立ち上がらせた。
「あなた達、わたしがこれで引き下がると思わないで頂戴ね。」
「一体何をするおつもりで?」
「あなた方に従妹に精神的苦痛を負わせた慰謝料を請求するわ。近いうちに裁判所から連絡が来るだろうから、首を洗って待っていなさいよ!」

フェリシアーノはジェファーの顔に唾を吐きかけると、足音荒く社長室から出て行った。

「全く、厄介な奴だ。従妹のこととなるとすぐに理性を失う。」
「まぁ、俺が悪いんだから、俺が何とか解決しますよ。ユウ、行こうか。」
「う、うん・・」

ジェファーに手を掴まれ、悠は彼とともに社長室から出て行った。

「済まないな、さっきのは痛かっただろう?」
「大丈夫。それよりもこれからどうするの?」
「まぁ、それはランチを取りながら考えるさ。」

ジェファーとともに会社があるビルから一歩出ると、無数のカメラが悠達を取り囲んだ。

「あなたが、ジェファーさんのフィアンセですか?」
「前の婚約者からジェファーさんを略奪したという噂は本当ですか!?」

マスコミに揉みくちゃにされながらも、悠は少し離れた歩道でフェリシアーノがほくそ笑んでいることに気づいた。






最終更新日  2012年12月25日 00時02分23秒
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