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JEWEL

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薄桜鬼 花街パラレル 二次創作小説:竜胆と桜(完)

2021年06月15日
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※BGMと共にお楽しみください。

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

1925(大正十四)年、4月。

「トシさん、元気そうだね。」
「お前ぇは相変わらずだな、八郎。」
“野村”の離れに来た八郎は、昔と変わらず自分に向かって憎まれ口を叩いているかつての想い人の顔を見た。
「父様!」
「おう、お帰り、千歳。今日も学校、楽しかったか?」
「うん!あのね、今日作文でお父様の事を書いたら、先生に褒められたの!」
「そうか、良かったな!」
歳三がそう言って一人娘の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
「千歳ちゃん、久しぶりだね!」
「八郎おじちゃん、久しぶり。」
「“おじちゃん”か・・はは、何だか複雑だな。」
「まぁ、お前ぇもそんな年になったって事だよ。」
「そうだね。」
「それで?わざわざ東京で忙しく働いているお前が、京都まで来たのには理由があるんだろう?」
「実は・・」
八郎が歳三に話したのは、歳三の親族の事だった。
その親族は、生活に困窮していて、どこからか歳三の事を聞いたのだという。
「何で、今頃になって・・」
「きっと、たかりに来るよ。だから、そいつが来ないように、ここから逃げた方がいい。」
「俺は逃げも隠れもしねぇ。」
「・・そう言うと、思ったよ。」
八郎が“野村”を訪ねた数日後、彼が話していた件の親族がやって来た。
「おぉい~、居るかぁ!」
「あんたか、俺に会いたがっているのは?」
「お前ぇだけが、幸せになるなんて許せねぇ!」
「言っておくが、あんたとは親族でも何でもねぇ。」
「何だとぉ!?」
親族の男がそう言って血走った目で歳三を睨んでいると、彼の顔が突然白く染まった。
「さっさとここから出て行け!」
歳三が背後を振り向くと、そこには真っ赤な顔をして男に塩をぶつけている千歳の姿があった。
男は、何か意味不明な言葉を喚き散らしながら去っていった。
だが、千歳は男が居なくなっても塩を投げ続けた。
「千歳、大丈夫だから・・」
「父様~!」
「俺を守ってくれたんだな、ありがとう・・」

その時、自分にそう言って感謝の涙を流した父の姿を、千歳は生涯忘れる事はなかった。

1945(昭和二十)年8月15日。

その日は、とても暑かった。
戦争が終わった。
沢山の大切なものを奪ったあの戦争が。
抜けるような、美しく澄んだ青空の下、わたし達は、安堵の涙を流した。
「おかあさん、何で泣いてるん?どこか痛いん?」
「どこも痛うない。あんなぁ、涙は嬉しい時にも流すもんや。」
「そうなん?」
「そうやで。もう何もこわい思いせぇへんで。」
「ほんま?」
「ほんまや。うちがあんたに今まで嘘を吐いた事があるか?」
「ううん。」
「さ、外はもう暑いさかい、お家帰ってから冷たい物でも食べようか。何がええ?」
「かき氷!」
「えぇなぁ~、かき氷みんなで作って食べようか!」
青空の下、わたしは幼い娘の手をひいて、ゆっくりと我が家へと帰っていった。
「桜ちゃん、お帰り。外暑かったやろ、すぐに冷たいかき氷作ったげるから、待っとき。」
「は~い!」

縁側につけられた風鈴が、チリンチリンと涼し気な音を立てた。
京の夏も、もうすぐ終わろうとしている。

2011(平成二十三)年4月。

「よう来たな、お疲れさん。」
あの震災で津波に遭い、両親を亡くしたわたしは、愛犬と共に京都に住む曾祖母の元へと引き取られた。
「長旅で疲れたやろ?ワンちゃんの世話はうちでするさかい、千鶴ちゃんはお風呂でも入ってゆっくりしぃ。」
曾祖母は、何も聞いてこない。
どうやってわたしがあの生き地獄から生き延びてここまで来たのか、どんな思いをしてきたのかを、聞いて来ない。
今までわたしの周りには、家族を亡くした辛さを抱えた人達を支えようとする“ボランティア”が、漸く落ち着けた場所にまで土足で入り込んで来た。
物見遊山で来て、“自分は善行を積んでいます”アピールの人に、何も話したくなかった。
「何も、聞かないんですね。」
「言いたくない事は無理に言わんでもよろしい。あんたもこの子も、大変やったんやから。」
「ありがとう。」
「別にお礼言われる程の事はしてへんえ。」
曾祖母からそう言われた後、わたしは今まで堪えていた涙を流した。
「泣きたい時には、泣くのが一番や。」

2020(令和二)年十二月。

曾祖母が倒れたと聞いて、わたしはすぐに東京の自宅から彼女の自宅がある京都へと向かった。
だが、彼女は倒れたというのに、朗らかな笑みを浮かべながらわたしを迎えてくれた。
「よう来てくれたなぁ。」
「もう大丈夫なの?」
「軽い貧血やったから、もう大丈夫や。」
「そう、良かった。」
「あんたと正月を迎えたくて、えらい作り過ぎてしもうてなぁ。今夜はキムチ鍋にしようか。」
「ひいばあちゃんは座ってて。わたしが全部やるから。」
「人を年寄り扱いしたらあきまへん。」
そう言いながらわたしと共に台所に立っている曾祖母は、今年で101歳になった。
「何や、最近変な感染症が流行っているそうやねぇ。千鶴ちゃんの会社はどうなん?」
「う~ん、あんまり変わっていないかなぁ。在宅勤務になった位で。」
「太郎ちゃんは元気にしてるか?」
「うん、もう年だから、覚悟しないとね。」
「まぁ、人や動物には必ず“別れ”が来るもんや。」
「ねぇ、ひいばあちゃんも、大切な人と別れたの?」
「そうや。うちの父ちゃんは、うちが8つの時に労咳で亡くなってしもうた。でもな、お父ちゃんが死んでも、お父ちゃんから愛された記憶は消えへん。うちが生きている内はな。」
「ひいばあちゃん・・」
「これだけは憶えておきや。人は死んでも、愛した人がその人の事を忘れへん限り、その人は生き続けるのや。人も動物もな。」
「うん・・」
「その事を忘れたらあかん。」

2021(令和三)年四月。

桜舞う季節に、曾祖母は静かに旅立った。

「ねぇ、これひいばあちゃんの子供の頃の写真?」
「そうや。ひいばあちゃんの近くに座って写っているのが、ひいばあちゃんの両親や。あんたにとっては、高祖父母にあたるなぁ。」
「じゃぁ、“千鶴”って・・」
「ひいばあちゃんを産んだ後、スペイン風邪で亡くなったひいばあちゃんの母親の名前や。」
妻を亡くし、男手ひとつで曾祖母の事を育てた高祖父。
 その娘を遺して逝くのは、どんなに辛かっただろうか。
「あれ、この人・・」
「あぁ、これは歳三さんの・・ひいばあちゃんのお父さんが芸妓をやっていた時の写真や。」
「へぇ、そうなんだ。」
白粉を塗って、日本髪を結っているからか、さっきの写真とはかなり雰囲気が違って見えた。
わたしがその写真をアルバムの中に戻そうとすると、はらりと何かが落ちた。
それは、高祖父が、曾祖母に宛てた手紙だった。

“千歳へ、もうすぐ父様は母様の元へいってしまうけれど、父様は、ずっとお前を見ているからね。だから、父様の事を忘れないでくれ。歳三”

ひいばあちゃん。

あなたに恩返し出来なかったけれど、あなたの事はずっと忘れないよ。

ずっとわたしを見守っていてね、ひいばあちゃん。

「父様、母様、遅くなってしまってごめんなさい。」
「ずっと待っていたわ。これからはもう、さびしい思いはさせないわ。」
「行こうか、みんなが待ってる。」

(完)

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Last updated  2021年06月15日 21時47分49秒
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「トシさん!」
「うるせぇ、耳元で騒ぐな!」
「生きてた、良かったぁ~!トシさんが結核で入院したから、もう死んだのかと・・」
「勝手に人を殺すな!」
「そうだね、トシさんはすぐには死なないよね!」
「あぁ。俺はまだ死なねぇ。」
「はい、これ。最近出たミルクキャラメルだよ。これを食べて元気になって!」
「こんな甘い物食えるか。沢庵持って来い、沢庵!」
「まぁ土方さん、いけませんよ!塩分の摂り過ぎは良くないと先生から言われているんですから!」
「うるせぇ~!」
「何や、えらい元気そうやなぁ。」
「おかあさん。」
「はい、少ししかあれへんけど、これ食べて元気出し。」
さえがそう言って風呂敷包みから取り出したのは、小さな壺に入った沢庵だった。
「うめぇ、これだ、これ!」
「まぁ、主治医の先生からはうちがちゃんと言うときますから、どうか今回の事は堪忍しとくれやす。」
「はい、わかりました。」
「ほなトシちゃん、また来るからな。」
「へぇ。」
さえ達を見送った後、歳三はさえが差し入れてくれた沢庵をひとつかじった。
「美味ぇ・・」
一日一個食べれば、大丈夫だろう―そう思った歳三は、沢庵が入った壺をベッドの近くに置いて寝た。
「姐さん、元気そうやったんどすか。」
「あの様子やと、千年位生きそうやわ。」
「さ、夕飯にしようか。」
「へぇ。」
千鶴達が楽しく鍋を囲んでいる頃、歳三は病室で一人高熱にうなされて苦しんでいた。
(勝っちゃん・・)
目を閉じれば、自分に向かって微笑んでくれる勇の姿が浮かんだ。
だが目を開けると、自分の傍には誰も居ない。
(勝っちゃん、会いてぇよ・・)
もう別れたというのに、歳三は勇に会いたくて仕方がなかった。
「姐さん、うちに頼みたい事って、何どす?」
「あぁ、実は・・」
歳三はそう言うと、ある事を千鶴に頼んだ。
「わかりました。」
「頼んだぞ。」
「へぇ。」

もうすぐ、歳三にとって最後の“都をどり”の季節を迎えようとしていた。

1913(大正二)年4月。

「トシちゃん、ほんまに大丈夫か?」
「へぇ。」
「そうか。」
“都をどり”の舞台に、歳三は病をおして最後まで立ち続けた。
「姐さん、お疲れ様どした。」
「おおきに、春月ちゃん。」
楽屋で歳三が化粧を落としていると、そこへ八郎がやって来た。
「トシさん、お疲れ様!」
「ありがとうよ、来てくれて。」
「トシさん、元気そうで良かった。」
「まだくたばるわけにはいかねぇからな。」
歳三がそう言って八郎と談笑していると、さえが楽屋に入って来た。
「えらい賑やかやなぁ。」
「おかあさん。」
「トシちゃん、お疲れさんどした。」
「おおきに。おかあさんも、今までうちを支えてくれてありがとうございました。」
「お礼なんて要らへん。うちは充分、あんたに親孝行させて貰うたからなぁ。」
さえはそう言うと、そっとハンカチで目頭を押さえた。
“都をどり”最終日の夜、歳三の引退祝いの宴が、料亭“幾松”で開かれた。
「では皆様、竜胆姐さん・・もとい土方歳三さんのご健闘を祈って、乾杯!」
「おおきに。」
長い髪をばっさりと切り、“芸妓・竜胆”から、“土方歳三”へと戻った歳三は、背広姿でご贔屓筋の前に現れた。
「いやぁ、凛としてはるなぁ。」
「おおきに。」
「短い髪もよう似合うてるわ。これからはどないするん?」
「それはまだ考えてまへん。」
「そうか。」
「まぁ、“野村”を継ぐ事は考えています。」
「いやぁ、頼もしい跡継ぎが出来て、野村はんはうらやましいわぁ。」
歳三は数日後、さえと正式に養子縁組をしたが、姓は“土方”のままとなった。
「あの・・」
「どうしたん、利ぃちゃん?何や落ち着きのない・・」
「竜胆さん・・歳三さんが家族になったから?歳三さんの事をどう呼んだらいいのかなって・・」
「いや、別に普通に名前で呼んでくれていいぜ?」
「ありがとう、兄さん!あ、ごめんなさい。」
「兄さんって呼んでくれても構わないぜ。俺達は家族なんだし。」
「そうですね。」
「そうや、うちらは家族や。」

こうして、歳三達は真の家族となった。

1918(大正七)年4月。

桜舞う季節に、歳三と千鶴は“夫婦”となった。

「二人共、おめでとうさん。これからもよろしゅうな。」
「おおきに、おかあさん。」
白無垢姿の千鶴は、そう言った後懐紙で目元を拭った。
「今日の千鶴ちゃんはえらい泣き虫さんやなぁ。」
「それは母さんが泣かせるような事を言うからだろ?」
「堪忍え。」
「それにしても、トシちゃんとあんたがいつからこうなるんと違うかって思うてたんへ。」
「え、いつから!?」
「まだトシちゃんが“竜胆”やった頃や。あの頃は、トシちゃんがよう千鶴ちゃんを気にかけてくれたさかい、千鶴ちゃんもここでの生活に慣れて来たわなぁ。まぁ、トシちゃんは千鶴ちゃんの事を、“妹以上”の目で見ていたもんなぁ。」
「おかあさん・・」
「これからは、生まれてくる子の為に余り無理せんようにしぃや。」
「へぇ。」
「え、えぇ~!」
「利ぃちゃん、うるさい。」
「そうや、少しは静かにしぃ。」
「すいません。」
歳三は千鶴の身体を気遣いつつも、仕事に精を出した。
「なぁ、これから色々と楽しみだな。」
「えぇ。男でも女でも、健やかに育って欲しいです。」
「あぁ、そうだな。」
歳三がそう言って千鶴に微笑んだ時、彼はハンカチで口元を押さえて激しく咳込んだ。
「まぁ歳三さん、大丈夫ですか?」
「あぁ・・ただの風邪だ。」
「そうですか・・」
(まさか、な・・)
歳三が恐る恐る口元を押さえていたハンカチをそこから退けると、白いレースには赤黒い染みが広がっていた。
「トシちゃん?」
「おかあさん、俺・・」
「うちやあの子の前では、無理に強がらんでもよろしい。」
「すいません・・」
歳三はそう言うと、堪えていた涙を流した。
「抱いておやり、元気な女の子や。」
「千鶴、ありがとう。」
「これから、二人で合わせて頑張っていきましょうね。」
「あぁ。」

二人の間に生まれた女児は、“千歳”と名付けられた。

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Last updated  2021年06月15日 21時44分01秒
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2021年06月07日




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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1912(大正元)年12月。

京都・南座では、毎年恒例の顔見世興行が行われていた。

「ねぇばあや、あの人達綺麗ね。」
「お嬢様、あの方達は花街の芸舞妓さん達ですよ。今日は、あの方達も歌舞伎を鑑賞されるのですよ。」
「へぇ、そうなの。」
「さぁ、急ぎませんと。」
「えぇ。」
少女とその乳母は、芸舞妓達とともに南座へと向かった。
「竜胆さん姐さん、お待たせしました。」
「遅かったやないの、春月ちゃん。」
そう言って自分を見つめる歳三の顔は、何処か蒼褪めているかのように千鶴には見えた。
「何やの、人の顔をジロジロ見て?」
「いやぁ、姐さんのお座敷姿、久しぶりに見るなぁと思いまして。」
「そうか?」
歳三はそう言うと、姿見の前で一周した。
漸くあの帯状疱疹の後遺症である忌々しい頭痛から解放され、約半月振りに彼は髪を結い、黒紋付の正装姿になっていた。
「姐さんには、誰かご贔屓の役者はんでも居てはります?」
「また、その話かいな。」
歳三はそう言って苦笑した。
毎年、この季節になると花街の芸舞妓達は花簪の“まねき”に贔屓の役者の名を入れて貰う事で色めき立っていた。
「それにしても、今日はえらい冷えますなぁ。」
「そうやなぁ。もうすぐ初雪が降りそうやなぁ。」
そんな事を二人が言いながら屋形から出ると、雨が降って来た。
「雪やなくて雨やったわぁ。」
「そうどすなぁ。」
歌舞伎鑑賞後、二人が屋形に戻ると、玄関先に見慣れないハイヒールが置かれてあった。
「とにかく、今日はお帰り下さい!」
「そうはいかないわぁ。竜胆って女に会わせなさい!」
奥の部屋から、ヒステリックな女の声が聞こえて来たかと思うと、その声の主が玄関先へとやって来た。
「あんたが、竜胆ね?」
女は毛皮の外套を羽織り、洒落たデザインのドレスを着ていた。
「へぇ、竜胆はうちどすけど・・」
「あの人を返しなさいよ、泥棒猫!」
女はつかつかと歳三の元へと近寄ると、そう叫んで彼の頬を平手で打った。
「春月ちゃん、警察呼んで。」
「わかりました。」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「待つも何も、先に手を出してきたんはそちらはんどす。」
「そんな、あたしは・・」
「何を言うても無駄どす。」
千鶴の通報で駆け付けた警察官により、女は連行されていった。
「姐さん、大丈夫どすか?」
「大丈夫や。」
「これで顔、冷やしとき。」
「おおきに、おかあさん。あの人、一体誰やったんどすか?」
「何や、東京で有名なカフェーのマダムやそうや。」
「カフェーのマダム・・」
さえの言葉を聞いた歳三の脳裏に、あの忌まわしい女の顔が浮かんだ。
「八千代とは関係のない女や。」
「そうどすか・・」
その日の夜、歳三は伊庭八郎のお座敷に出ていた。
「トシさ~ん!」
「おい、人が酌をしている間に抱きつくな!」
「だって、トシさんに久しぶりに会えたから嬉しくて・・」
「だからって、抱き着くな!」
「ごめ~ん。」
そう言いながらも、八郎はトシゾウから離れようとしなかった。
「伊庭様は、昔から姐さんの事がお好きなんどすなぁ。」
「まぁな。」
歳三はそう言いながら、軽く咳をした。
「姐さん?」
「ただの風邪だ。」
「そうどすか。玉子酒でも作りますえ。」
「俺ぁ下戸なんだ。」
「あぁ、そうどしたなぁ。」
「道、雨で濡れて滑りやすくなっているから気をつけて歩けよ。」
「へぇ。」
お座敷があった料亭から屋形に二人が戻った頃には、雨は雪へと変わっていった。
「寒ぃ~」
「トシちゃん、そないなだらしのない姿をしていたらあきまへんえ。」
火鉢の前にはりついて離れようとしない歳三を見たさえは、呆れ顔で彼にそう言った後溜息を吐いた。
「せやかておかあさん、こないな寒い日にお座敷なんてよう行かれしまへんえ。」
「よう言うわよ。さ、はよご飯食べて舞の稽古行ってきよし。」
「へぇ。」
歳三は溜息を吐いた後、漸く火鉢の前から離れた。
「お師匠はん、今日もよろしゅうお願いします。」
「竜胆はん、お久しぶりどすなぁ。最近風邪ひいてはるって、春月ちゃんから聞いたえ。」
「季節の変わり目やさかい、少し体調崩してしもうたんどす。すぐに治りますさかい、心配せんとくれやす。」
「そうか。」
だが歳三の風邪は、良くなるどころか悪化していった。
「姐さん、大丈夫どすか?」
「大丈夫や。」
そう言いながらも、歳三は激しく咳込んだ。
「あんた、一度病院で診て貰った方がええんと違うか?」
「そうどすか?そないな事・・」
「まぁ、“ただの風邪”やったらええんやけど・・」
「へぇ。」
歳三は、咳が“単なる風邪”だと最初は思い込んでいた。
 しかし、その咳は二週間経っても続いた。
「竜胆、顔色が悪いぜよ?」
「へぇ、何やらたちの悪い風邪にかかってしもうて参ってしまいました。」
「おぉ、そりゃいかん!わしが玉子粥で作っちゃるき!」
「まぁ、その気持ちだけでも充分どす。」
歳三はそう言いながら笑おうとしたが、その時激しく咳込んだ。
「大丈夫かえ?」
「へぇ。」
そう言った歳三は、懐紙が血に染まっている事に気づいた。
「どないしたんや、あんた、顔真っ青やで!」
「おかあさん・・」
「部屋で休んどき。」
「へぇ。」
歳三は、自室に入った途端、気絶した。
「姐さん!」
「誰か、お医者様を!」
歳三は、大学病院に入院する事になった。
「大変申し上げにくいですが・・土方さんは肺結核です。しかも、かなり重いです。」
「そんな・・」
「土方さんから、子どもの頃に一度、結核に罹った事があるようです。その頃は治ったようですが、再発したようです。」
「じゃぁ、姐さんは・・」
「長くもって二年、短くても半年でしょう。」
「そんな・・」
「嘘や、あの子が・・」
医師から歳三の病状を告げられたさえと千鶴は、互いに抱き合って泣く事しか出来なかった。
(まさか、昔罹った労咳がまだ残っていやがったとはな・・)
歳三は咳込みながら、ベッドの中で寝返りを打った。
「勝っちゃん、会いてねぇな・・」
「トシ?」
「どうしたの、あなた?」
「いや、今誰かに呼ばれたような気がしてな・・」
「気の所為でしょう?早く行かないと、船に乗り遅れてしまうわよ?」
「あぁ、わかった。」
勇は妻子と共に、上海行きの船に乗り込んだ。
(トシ・・)

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2021年05月30日





「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「あんたの所為で、うちの人生滅茶苦茶や~!」
「まぁ、八千代さん、こんな夜中にうちに何の用どす?」
歳三がそう言いながら外に出ると、八千代は彼の頬を平手で打った。
「あんたやろ、うちの事を旦那さんに告げ口してカフェーをクビにさせたんは!」
「いやぁ、そないな事うちは何も知りまへんえ。逆恨みも大概にしとくれやす。」
飄々とした歳三の態度に、八千代はますます苛立ちを募らせた。
「あんたなぁ!」
「おいあんた、何してるんや!」
「この疫病神~!」
警察官に連行されながらも、八千代は歳三に向かって怨嗟の言葉を吐き続け、しまいには彼に草履を投げつけた。
「姐さん、大丈夫どすか?」
「大丈夫や。おかあさん、顔洗うてきます。」
「わかった、お休み。」
「へぇ。」
翌朝、歳三達は昨夜の事を一切話さなかった。
「ほなおかあさん、舞の稽古に行って来ます。」
「そうか。気ぃつけてな。」
「へぇ。」
歳三は舞の稽古へと向かったが、稽古場で日頃彼を目の敵にしている梅がやって来た。
「いやぁ、あんたその顔どないしたん?」
「昨夜畳に突っ伏して寝てもうたんどす。」
「そういえば、昨夜あんたの所に警察来てはったけれど、何かあったんか?」
「あぁ、酔っ払いがうちの前で暴れてなぁ、えらい迷惑でしたわぁ。」
「そうか、それは難儀やったなぁ。」
「へぇ。」
舞の稽古が終わり、歳三が稽古場から出ると、外は雨が降っていた。
(チッ、ついてねぇな・・)
風呂敷を頭の上に掲げて雨を凌ごうかと歳三が思った時、すっと誰かが彼に傘を差しだしてきた。
「どうぞ。」
「おおきに。」
歳三は自分に傘を差しだしてくれた青年に礼を言うと、彼は、“門屋の仲吉どす”と自己紹介してくれた。
「そうどすか。」
「姐さん、気を付けて。」
「へぇ。」
歳三が“野村”に戻っても、雨は止まなかった。
「今日はよう降るなぁ。」
「へぇ。夜までに止めばええんどすけど。」
「そうやなぁ。」
雨は、夜更けまで降り続いた。
「トシちゃん、入るえ?」
「おかあさん・・」
「あんた、どないしたん?」
「何や、頭が痛うて堪らへんのどす。」
「気圧の所為やろか?」
「そうやろうなぁ。暫くお座敷を休みよし。」
「へぇ。」
「余り無理したらあかんえ。あんたは頑張り過ぎる所があるさかいなぁ。」
「すいまへん。」
「謝らんでもよろしい。これは神様から与えられたお休みやと思うてゆっくりしおし。」
「へぇ。」
謎の頭痛に襲われた歳三は、数日お座敷を休む事になった。
(一体何だってんだ、帯状疱疹が治ったっていうのに・・)
布団の中で寝返りを打ちながら、歳三は溜息を吐いた。
「春月、おまんの姐さんはどうした?」
「竜胆さん姐さんは、体調を崩してもうて・・」
「そうかえ。八千代の事は聞いたぜよ。あの毒蛇な女につきまとわれて、竜胆もとんだ災難ぜよ。」
「へぇ。」
「まぁ、こういったものは中々治らんぜよ。気長に待つしかない。」
「そうどすな。」
「春月、竜胆の事頼んだぜよ。」
「へぇ。」
坂本は、風呂敷包みの中に入っていた菓子の箱を千鶴に手渡した。
「これは?」
「この前、ちょいと仕事で札幌まで行ったんじゃが、美味いクッキーを見つけてのう。みんなで食べや。」
「おおきに。」
「“人生は山あり谷あり”じゃ。嫌な事ばかりじゃないぜよ。」
「そうどすな。」
千鶴が“野村”に戻ると、玄関先には見慣れない男物の靴が置かれてあった。
「おかあさん、ただいま帰りました。」
「春月ちゃん、お帰り。」
「お客様どすか?」
「そうや。春月ちゃん、それは?」
「坂本様からの、札幌土産どす。」
「そうどすか。竜胆は後でうちから渡しておくさかい、あんたはもう部屋に戻ってお休みや。」
「わかりました。」
千鶴は、あの靴の持ち主が誰なのか、何となく察しがついた。
それは・・
「トシさん、大丈夫?」
「あぁ。」
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「耳元で喚くな、うるさい。」
「ごめんなさい。」
「それで、わざわざ東京からこっちに来た理由は一体何なんだ、八郎?」
歳三はそう言うと、突然自分を見舞いに来た八郎を睨んだ。
「ねぇトシさん、本当にあの人とは縁が切れたの?」
「それは、お前ぇには関係のない事だ。」
「でも・・」
「俺の為を思ってくれているのなら、もう俺とあの人との事を尋ねるのはやめてくれ。」
「わかった。」
「トシちゃん、入ってもええか?」
「どうぞ。」
「これ、坂本様から札幌土産や。」
「お気遣いして貰うておおきにと、坂本様にお伝え下さい。」
「わかった。邪魔してもうて、堪忍え。」
さえはそう言うと、部屋から出て行った。
「八郎、これからどうするんだ?」
「そうだよなぁ、今夜は何処かのホテルに泊まるよ。」
「八郎、俺ぁもうあの人と別れた。」
「え?」
「向こうの奥さんから、もううちの亭主と会うなと直接言われたら、そうするしかねぇだろう。それに、俺は他人の家庭を壊す事なんざ考えちゃいねぇよ。」
「そうか。」
「八郎、まだ泊まる所を決めていないのなら、うちに泊まるのか?」
「え、いいの?」
「あぁ。」
歳三はそっと布団から起き上がると、さえの元へと向かった。
「そうか。あんたがえぇと言うのなら、うちは何も言わへん。」
「おおきに、おかあさん。」
「さてと、もう夜ももう遅いし、ゆっくりお休みや。」
「へぇ。」
翌朝、歳三が目を覚ますと、隣に寝ていた筈の八郎の姿は何処にもなく、丁寧に畳まれた布団の上には、“お世話になりました”という、置き手紙があった。
「おかあさん、おはようさんどす。」
「おはようさん。伊庭様なら、つい先程出て行かはったえ。」
「そうどすか。」
「それにしても、これから忙しゅうなるさかい、余り無理したらあかんえ?」
「わかってます、おかあさん。」
数日休んだだけで、歳三を襲った謎の頭痛は治まった。
「竜胆さん姐さん、お久しぶりどす。」
「久しぶりやなぁ、元気にしてたか?」
「へぇ。これから、師走やさかい忙しくなりますなぁ。」
「そうやなぁ。」
「竜胆さん姐さん、素敵な簪挿してはりますなぁ?」
「これは、この世で一番大切な方から貰うたんえ。」

そう言った歳三の髪には、勇から贈られたルビーの簪が光っていた。

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Last updated  2021年05月30日 20時50分04秒
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2021年04月17日





「薄桜鬼」の二次創作小説です。

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「奥様は何か誤解されてはるようやけれど、うちは“あの日”以来、一度勇様とは会うてまへん。」
「嘘よ!」
常子はそう言うと、ハンドバッグからある物を取り出した。
それは、勇が歳三に宛てた恋文の束だった。
「この前、主人の部屋を整理していたら見つけたのよ。」
「そんな・・」
「これを見ても、まだ主人と別れていないと言い張るつもりなの!?」
「奥様、落ち着いて・・」
「言い訳なんて聞きたくないわ!」
興奮した常子は、そう叫ぶと水を歳三にかけると、洋食屋から出て行った。
「お客様、大丈夫ですか?」
「おおきに。」
「早う拭きませんと、着物が染みになりますえ。」
「へぇ。」
「悋気が激しい性格の方どすなぁ。」
「世の中には色んな人が居てはるから、いちいち気にしていたら損どす。」
「流石、祇園の名妓と呼ばれる御方どすなぁ。」
歳三がコーヒーを飲みながら常子が残していった勇の恋文の束に一通ずつ目を通していると、そこへサンドイッチが運ばれてきた。
「頼んでへんけど?」
「うちから、姐さんへのサービスどす。」
「おおきに。」
「最近朝晩の冷え込みが厳しゅうなってきたさかい、風邪ひかんといておくれやす。」
「へぇ、わかりました。これから忙しくなるさかい、気張らなあきまへんなぁ。」
「そうや、これからが勝負時どす。」
洋食屋の主人・清はそう言うと、歳三の前に淹れたてのコーヒーを置いた。
「おおきに。」
歳三が洋食屋から「野村」へと戻ると、玄関先には男物の革靴が置かれていた。
(まさか・・)
「ただいま帰りました。」
「お帰り、竜胆。あんたに客や。」
「うちに、お客様どすか?」
「そうや。」
「‥久しぶりだな、トシ。」
「勝っちゃん・・」
居間に歳三が入ると、そこにはかつて恋仲だった男の姿があった。
「どうして、京へ?」
「お前に、最後に一度会いたくてな。」
「最後?」
「あぁ。」
「ほな、うちらはお風呂行って来ます。」
「トシちゃん、うちはこれから組合の会合に行くさかい、戸締りよろしゅうな。」
「へぇ、わかりました。おかあさん、お気をつけて。」
「ほな、行って来ます。」
花街の近くにある銭湯「誠湯」は、当然の事ながら芸舞妓で賑わっていた。
「はぁ、久しぶりにお風呂に入るんは気持ち良いわぁ~」
「そうどすなぁ、髪も洗うて貰うて、何や生き返った気がします。」
この時代、芸舞妓達のみならず、女性達は結髪師によって日本髪を結って貰い、約一月半も風呂に入っても髪を洗えなかったのだった。
明治維新を機に男性の「断髪令」が発令されたが、対して女性には断髪を禁じる法律が成立したというのだから、何とも皮肉で理不尽な世の中である。
大正となり女性達は、「不便・不衛生・不経済」である日本髪から、夜会巻きやマガレイト、束髪などの洋髪が流行したが、“モダン・ガール”、略して「モガ」というファッションと共に女性達が断髪出来るようになったのは、まだまだ先の事である。
「それにしても、もうすぐ都をどりの季節やねぇ。」
「姐さん、今はまだ十一月どす。気が早うおすえ。」
「何言うてんのえ、春月ちゃん。春までもう時間がないわ。」
「へぇ・・」
都をどりとは、1872(明治5)年から毎年四月一日から三十日までにかけて、祇園甲部の歌舞練場で開催される舞踊公演である。
毎年開催されるこの公演には、春夏秋冬の情景を、藍地に枝垂れ桜の揃いの衣裳に身を包み、柳と桜の団扇を携えながら舞妓達が花道で舞い踊る華やかな情景が祇園の春の風物詩となりつつあった。
「これから春まで、忙しくなりそうどすなぁ。」
「へぇ。」
「竜胆さん姐さんの舞が楽しみやわぁ。」
「そうやなぁ。毎年竜胆さん姐さんの舞をうちらもお客様も楽しみにしてはるさかい、うちらも気張らなあかんなぁ。」
「そうどすなぁ。」
千鶴達がそんな事を「誠湯」でしている頃、「野村」の居間では勇と歳三が向かい合う形で座っていた。
「勝っちゃん、“最後”って、どういう事だ?」
「実は、常子が・・妊娠したんだ。」
「それは、めでたいな・・」
そう言って歳三は笑ったが、その顔は少し曇っていた。
「だから、お前とはもう・・」
「あぁ、わかっているよ。」
いつか、勇とは“けじめ”をつけなければいけないと歳三は思っていたが、昼の事もあり、彼は勇から彼女の妊娠を告げられ、少し落ち込んでいた。
「なぁトシ、ひとつ頼みがあるんだが・・」
「何だ?」
「お前の髪を、一房くれないか?」
「そんなの、お安い御用だ。」
歳三はそう言うと、元結を切る為の鋏を自室から持って来て、それでためらいなく自慢の黒髪を一房切り落とした。
「ありがとう、トシ。これをお前だと思って、生涯大切にするから。」
「そんな事しねぇでくれ。あんたは、もう俺の事なんか忘れてくれ。これからは、常子さんと生まれてくる子供の事だけを考えてくれ。」
「あぁ、わかった。」
勇は歳三から渡された彼の髪を、大切そうに懐紙に包んで首に提げているネックレスの中に入れた。
「何でそんなに女々しい事をするんだよ・・そんな事されたら、別れたくても別れられねぇじゃねぇか・・」
「済まん、トシ・・」
「謝るなよ・・」
勇は只管歳三に詫びながら、彼を抱き締めた。
「ほな春月ちゃん、またな。」
「へぇ。」
久しぶりに風呂に入って清々しい気持ちになった千鶴が「誠湯」の前で他の芸舞妓達と別れて「野村」へと戻る最中に、彼女は一人の女から声を掛けられた。
「あんた、“野村”の子か?」
「はい、そうですが・・」
「そうか。じゃぁあんたの姐さんにひとつ、伝言を頼まれてくれへん?」
「伝言、どすか?」
「そうやぁ・・調子に乗るなてなぁ。」
ほな頼むで、と言って女は何処かへと消えていった。
「ただいま帰りました。」
「お帰り。千鶴ちゃん、顔色悪いけどどないしたん?」
「さっき、“誠湯”の前で変な女に絡まれたんどす。」
「もしかして、泰代かいな?」
「おかあさん、知ってはるんどすか?」
「あの女はな、少しここがおかしいんや。」
さえはそう言うと、自分の頭を指した。
「余り気にせん方がええよ。」
「へぇ。」
「さ、ゆっくりお休み。」
「わかりました。」
さえに向かって頭を下げた千鶴は、そのまま一階の奥にある自室へと向かった。
敷いた布団の中に包まって彼女が眠ろうとしている頃、外から急にけたたましい音がした。
「何や?」
「利ぃちゃん、ちょっと外見て来て!」
「わかった。」
利三郎がそう言って裏口から外へ出て周りを見渡すと、「野村」の前でぶつぶつと恨み言を呟く八千代の姿があった。
「そこに居るんやろ、早よ出て来い!」
「母さん、警察呼んで!」

利三郎がそう叫んだ時、何かが割れる音がした。

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Last updated  2021年04月17日 22時58分03秒
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2021年03月02日





「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

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「すいまへん、誰か居てはりますやろうか~?」
「へぇ。」
竜胆こと歳三が帯状疱疹で入院してから一月が経った。
人気芸妓の突然の入院と休業に、はじめ花街中は驚いたが、暫くすると竜胆が不在中に「野村」を助けようとする動きが広まった。
「おおきに、助けて貰うて。」
「困った時はお互い様どす。」
そんな中、「野村」を一人の男が訪ねて来た。
その男は、洒落た洋装姿で、頭には帽子を被っていた。
「うちに何か用どすやろか?」
「竜胆はんは居てはらしまへんやろか?今日はポスターの撮影で来たんだすけど・・」
「ポスターの撮影、どすか?」
「へぇ。」
その男はビール会社の宣伝部長で、吉田稔麿と名乗った。
「春月ちゃん、どないしたん?」
「おかあさん・・」
「すいまへん、竜胆はんにお会いしたいんどすけど・・」
「まぁ、竜胆は今、体調を崩して入院してますえ。」
「へぇ、そうですか。ほな。」
男はそう言うと、「野村」から出て行った。
「おかあさん、あの人は・・」
「変な方やなぁ。ちゃんと名前聞いたか?」
「へぇ、確か吉田様と・・」
「吉田様なぁ・・」
「何でも、ビール会社の宣伝部長やとか・・」
「怪しいなぁ・・一度、うちの方から竜胆に吉田様の事を聞いてみるわ。」
「おかあさん、おおきに。」
「礼なんて要らへん。竜胆はうちの大切な娘や。」
さえはそう言うと、竜胆の元へと向かった。
「吉田様?」
「知っている人か?」
「いいえ。うちは知らへん人どす。」
「そうか。何や今朝うちを訪ねて来てなぁ、ビールのポスター撮影したいいうてあんたに会いに来たんや。」
「ポスターなんて聞いてまへんえ。」
「そうか。それよりもな竜胆、あんたこの前のお座敷で、近藤はんに会ったそうやなぁ。」
「へぇ・・」
「あんたとあの人とは、昔色々あった事は知ってる。」
「うちはもう、あの人の事は忘れました。」
「そうか、そうならええけど・・」
さえはそう言うと、病院を後にした。
歳三は溜息を吐きながら、さえが病室から去った後寝返りを打った。
左半身にまだ痛みが残っている所為で、満足に寝返りが打てない。
(いつまで、こんな状態が続くんだ。)
「竜胆、おるかえ!?」
「またてめぇか?」
翌日、歳三が病室で読書をしていると、そこへ坂本がやって来た。
「毎日こうも俺の所に来るかね?そんなに暇なのか?」
「会社は中岡に任せちゅう。」
「そうか。それ、何だ?」
「あぁこれか?クッキーじゃ。」
「俺ぁ甘い物が苦手だ。」
「しょうが味のクッキーだから、甘さ控え目ぜよ。ほれ、いっぺん食うてみぃ。」
「ふん・・」
歳三は少し苛々しながら、坂本が持って来たしょうが味のクッキーを一口食べた。
すると、口の中には微かな甘味が広がった。
「悪くはねぇな。」
「そうか。おまん、いつ退院するがかえ?」
「さぁな。先生によれば、あと一月したら退院出来るそうだ。それがどうした?」
「実はなぁ、歌舞伎の良い席が手に入ったから、おまんと一緒に・・」
「下心が見える・・」
「心配せんでえぇき。おまんの妹分達もみんな連れて行っちゃるき!」
「そうか。」
歳三は、入院して二月後、漸く退院できた。
だが、頭痛がまだ治まらないので、髪はなるべく負担がかからない夜会巻きや束髪などの洋髪などを結うようになった。
「もう嫌や。肩先まで切ってしまおうか。」
「そないな事言うたらあきまへんえ。」
「うちの髪やのに、どっちが主なのかわからへんわ。」
鏡の前で髪を櫛で梳きながら、歳三はそう言って溜息を吐いた。
「おぅ、来たかえ!」
「坂本はん、おおきに。」
「みんな美人揃いで目移りするにゃぁ。」
「いやぁ~、相変わらずお世辞が上手い事!」
「さ、行くぜよ!」
「へぇ。」
歳三が坂本達から少し離れて歩いていると、彼の前に一人の男が現れた。
「お久しぶりだすなぁ、竜胆さん姐さん。」
「てめぇ・・」
「そないな顔して、睨まんといて下さい。」
そう言った男―吉田稔麿は口端を上げて笑った。
「竜胆、何しゆうがか、早う行くぜよ!」
「へぇ。」
歳三は吉田に背を向けると、そのまま坂本の元へと向かった。
「やっと見つけたぞ、土方歳三・・」
吉田は南座へと入っていく歳三の姿を見つめてそう呟いた後、その場を後にした。
「いやぁ、楽しかったわぁ。」
「ほうか、そりゃ良かった。」
歌舞伎鑑賞の後、坂本は歳三達を自分の行きつけの高級料亭へと連れて行った。
「こない美味しい所、よう知ってはりますなぁ。」
「京はわしの庭と同じもんじゃき。ここは全部俺が払ってやるき、好きな物頼みや!」
「いやぁ~、坂本様、太っ腹やわぁ!」
「ほな、うちら好きな物頼みますえ~!」
「あんたら、たいがいにしぃや。坂本様、すいまへんなぁ。」
「妹分はわたしの妹と同じようなもんじゃき!今夜はぱぁっと騒ぐぜよ!」
坂本はそう言うと、料亭の仲居に料理を注文した。
「あらぁ、何や賑やかやなぁと思うたら、坂本様どすか。」
「八千代さん姐さん、どうしてここへ?」
「仕事の打ち合わせでここに来たんや。竜胆、あんたは男を誑し込むのが上手いなぁ。」
「まぁ、何の事どす?うちが姐さんのお客様を奪ってしまったとでも?」
「あんた、近藤はんだけでは飽き足らず、坂本様にまで色目を使うて・・」
「何じゃぁ、おまんすっかり落ち目になったから、元妹分に嫉妬かえ?見苦しいのう!」
「うちは、この子に嫉妬なんてしてまへん!」
「本当に気にしとらん相手やったら、わざわざ嫌味を言いに来る筈なかろうが!」
「ほな、うちはこれで失礼します。」
八千代は唇をかむと、そう言って部屋から出て行った。
「坂本様・・」
「あんな女、相手にすな!」
「へぇ・・」
歌舞伎鑑賞から暫く経った、京に秋の終わりが近づいている頃。
「竜胆、あんたに会いたいって、東京からお客様が来てはるえ。」
「お客様、どすか?」
「お久しぶりね、竜胆さん。いいえ、トシさんとお呼びすればいいのかしら?」
舞の稽古帰り、歳三が「野村」に戻ると、そこには近藤の妻・常子の姿があった。
「奥様・・」
「少し、あなたと話したい事があるのよ、いいかしら?」
「えぇ・・」
常子が歳三を連れて行ったのは、祇園の南座近くにある洋食屋だった。
「何でも、好きな物を頼んでも構わないわよ?」
「では、コーヒーを。」
「わたくし、あなたと主人がまだ続いていると、疑っているのよ。」
「まぁ、そないな事・・」
「いくら男同士で、“間違い”がないと言っても、あなたと主人は恋人同士ですものね。」

そう言った常子は、嫉妬と憎悪で歪んだ顔を歳三に向けた。

「はっきり言うわ。主人と二度と会わないで!」

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Last updated  2021年03月02日 21時59分44秒
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2021年01月23日




薄桜鬼の二次小説です。

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「やめろ、ひっつくなうっとうしい!」
「そんなにつれない事言わないで下さいよ。こうしてまた会えたんですから!」
「だ~か~ら、ひっつくな!」
歳三はそう言うと青年―伊庭八郎にうっとうしそうな顔をした後、彼の手を振り払った。
「トシさんて・・何で竜胆さん姐さんの本名知ってはるんどす?」
「トシさんと僕は、幼馴染なんだ。家がお隣さん同士で、トシさんを初めて見た時、何て綺麗な女の子だと思って、いつかお嫁さんにしたいと・・」
「その話は、やめろ!」
「え、だってトシさん、本当にあの時・・」
「もういいから!」
歳三は顔を赤く染めると、八郎を睨みつけた。
「こんにちはぁ。」
「八千代さん姐さん、何でここが・・」
「おかあさんにあんたの事聞いてお見舞いに来たんえ。」
そう言った歳三の元姉芸妓の顔には、何処か悪意があるように千鶴は思えてならなかった。
「トシちゃん、早速で悪いんやけど、あんたが持っている真珠の簪、うちにくれへん?」
「嫌やわぁ、金策に来た言うんなら、最初から言えばよろしいのに。」
歳三はそう言って笑ったが、その目は笑っていなかった。
「うちなぁ、今東京でカフェーの女給をしてるんや。」
「いやぁ姐さん、姐さんにはうちの簪なんて挿しても似合わへんさかい、うちよりももっとええものを旦那様に買うて貰うたらええやないですか?」
「いけずな子やねぇ・・」
八千代はそう言った後、病室から出て行った。
「追いかけんでもええ。」
「へぇ・・」
「あの人、トシさんを昔いじめていた女?」
「もう昔の事だ。」
「ねぇトシさん、勇さんの事だけど・・あの人が結婚したのは、トシさんと別れた所為なの?」
「え?」
「あれ、知らなかった?」
「妹舞妓に、恋愛遍歴を語る訳ねぇだろ。」
「はは、そうだね。それにしても君、昔もしかして何処かで会った事ない?」
「へぇ・・」
「おい八郎、こいつを口説くんじゃねぇ。」
「確かに、昔東京であなたにお会いしたような気がいたします。」
「千鶴?」
八郎の言葉を受け、千鶴の脳裏にある光景が甦った。
それは、幼い頃父に連れられて行ったどこかの政治家のパーティーでの事だった。
医師である父は、自分をほったらかしにして貴族院議員の先生方や資産家と何やら話していた。
美味しい料理や、今まで見た事がない西洋菓子などがテーブルの上に並んでいたが、子供にとっては退屈なパーティーでしかなかった。
「父様、もう帰ろうよ。」
「千鶴、暫く向こうで遊んでいなさい。」
「はい・・」
父の挨拶回りが中々終わらないので、千鶴は会場の隅にある藤棚の下で休む事にした。
「トシさ~ん、待っておくれよ!」
「うるせぇ、ついてくんな!」
「トシさ~ん!」
暫く千鶴が藤棚の下で休んでいると、真紅の振袖姿の少女が、洋装姿の少年にしつこく追い掛けられていた。
そしてついに、少年は少女を千鶴の近くで捕まえたのである。
「トシさん、やっと捕まえた!」
「放せ、俺はお前ぇと結婚なんかするもんか!」
「そんな事言わないで下さいよ、トシさん!」
「まぁ坊ちゃま、いけません。」
二人の間に、少年の乳母と思しき女性が割って入った。
「嫌だ~、トシさん!」
「さぁ、もう帰りますよ!」
「トシさ~ん!」
「・・ったく、しつけぇんだよ。」
少年が去った後、振袖姿の少女はそう呟いて溜息を吐いた。
その時、一瞬千鶴は少女と目が合った。
「何見てんだてめぇ?」
「す、すいません・・」
「トシ、こんな所に居たのか?」
「勝っちゃん!」
千鶴の背後に立っていた少年を見た振袖姿の少女は、そう叫ぶと彼に抱きついた。
「今日のお前は、いつもより綺麗だな。」
「何だよ、そんな事言って?」
そう言いながらも少年を見た少女の顔は、嬉しそうな顔をしていた。
「これをお前に。」
「え、いいのか?」
「あぁ。お前の黒髪に映えると思って。どうだ、気に入ったか?」
「ありがとう、大事にする。」
そう言って照れ臭そうに笑う少女の黒髪には、梅の簪が美しく咲き誇っていた。
「千鶴、どうした?」
「あなた、あの時振袖姿の子を追いかけ回していた・・」
「え、僕はただトシさんに求婚を・・」
「いいから、お前は黙ってろ!」
歳三が帯状疱疹で休養している間、「野村」には彼への見舞いの品が毎日のように届いた。
「これ、みんな竜胆さん姐さんのご贔屓筋さんからどすか?」
「そうや。トシちゃんを仕込みちゃんの頃から贔屓にしてはるお客様が多いんや。」
「凄いどすなぁ。うちも竜胆さん姐さんみたいになりたいわぁ。」
「芸をもっと磨きよし。トシちゃんはなぁ、仕込みちゃんの頃から朝早うに起きて稽古に励んでたわ。」
「そうなんどすか。」
「”芸は一日にしてならず“や。しっかり芸に励みよし。」
「へぇ!」
歳三の病室に千鶴が見舞いに行くと、そこには髪結いの島田魁の姿があった。
「島田はん、おはようさんどす。」
「春月はん、おはようさん。」
「こない朝早くにどないしたんどす?」
「髪結うてたら頭が痛いて、竜胆さん姐さんが言うてたさかい、髪を解きに来たんどす。」
「そうどすか。」
「はぁ、すっきりしたわ。元結を切った後、頭の重みがなくなった。」
「帯状疱疹の時に髪結うてたら、頭痛が酷くなるさかい、解いた方が楽になりますやろ。」
「へぇ、おおきに、島田さん。」
「礼なんて言わんといて下さい。」
「いっそこの髪、切ってしまおうかなぁ。」
「それはやめておくれやす。うちは竜胆さん姐さんの髪を梳いたりする事が生き甲斐やさかい・・」
「何じゃぁ、おまんも竜胆に惚れちゅうがか?恋敵が多い方が燃えるぜよ。」
そう言いながら病室に入って来たのは、少し癖がある紫がかった髪をした、洋装姿の男だった。
「坂本、てめぇ何しにここへ来やがった?」
「見舞いに決まっちゅう。それにしても、洗い髪姿のおまんも色気があるのぉ。」
そう言って男―神戸の貿易商・坂本龍馬は、薄い色素の瞳で歳三を見た。
「ほ、褒めても何も出ねぇぞ?」
「すぐにそうやって頬を赤く染める姿はいつ見ても可愛いにゃぁ。」
「やめろって・・」
「坂本、また仕事抜け出して何処に行っちょると思うたら、ここにおったがか!」
「何じゃぁ、見つかってしもうたのぉ。またな竜胆。」

坂本はそう言うと、歳三の黒髪を一房持ち上げ、それに優しく口づけた後、病室から出て行った。

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Last updated  2021年01月23日 23時21分23秒
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2021年01月11日




薄桜鬼の二次小説です。

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「八千代・・」
「おかあさん、お久しぶりどす。」
「あんた、どのツラ下げてここに来たんや!」
「おかあさん、そない怒らんといておくれやす。うちは少し・・」
「さっさと去ね!」
さえはそう叫ぶと、台所から持って来た塩を八千代に浴びせた。
「いやぁ、酷いわぁ。ほなまたな、トシちゃん。」
八千代はそう言うと、歳三に背を向けて去っていった。
「トシちゃん、大丈夫か?」
「へぇ・・でも何で、八千代姐さんが・・」
「あんな疫病神の事は早う忘れた方がええ。」
そう言ったさえの顔は、怒りで少し歪んでいた。
「竜胆さん姐さん、あの人姐さんのお知り合いどすか?」
「まぁな。」
「知り合い何て、そんな可愛いものとは違う。あの女はな、この屋形の恥晒しや!」
「恥晒し?」
「この際やから、あんたにも八千代の事を話しとくわな、千鶴ちゃん。八千代は昔、うちの芸妓やった女や。けどな、あの女は男と駆け落ちしたんや。」
「まぁ・・」
「トシちゃんは、あの女に酷い目に遭わされて来たんや。なぁトシちゃん。」
「おかあさん、もう昔の事やさかい、うちもう忘れました。」
「あんたは嘘吐く時、いつも眉間に皺寄せる癖は治ってへんなぁ。」
「すいまへん・・」
「ま、もう次のお座敷まで時間ないさかい、あの女の事は早う忘れや。」
「へぇ。ほな、行って来ます。」
「気ぃつけてな。」
屋形で軽食を済ませた歳三と千鶴は、昼のお座敷へと向かった。
「珍しおすなぁ、お昼にお座敷やなんて。」
「まぁ、そないなお客さんも居てはる。お客様を待たせたらあかん。」
「へぇ。」
二人が料亭「浮月(うづき)」へと向かうと、奥から女将の幸子が出て来た。
「二人共、暑い中ご苦労さん。」
「幸子さん、今日店だしした春月ちゃんどす。」
「春月どす、よろしゅうお頼申します。」
「こちらこそよろしゅうお願いします。はじめはみんな出来へんけど、そない落ち込むことはあらへんえ。」
「おおきに。」
「お客様は奥の部屋どす。」
「行こうか。」
「へぇ。」
二人が奥の部屋の前に立つと、中から男女の話し声が聞こえて来た。
「あなた、どうしてあの女を呼んだの!?」
「落ち着け常子、ただ彼女と話すだけだ。」
「姐さん、どないしはりました?」
「こんにちはぁ、竜胆どす。」
「春月どす。」
「入って。」
「失礼致します。」
歳三と千鶴が部屋に入ると、そこには一組の若夫婦の姿があった。
「トシ・・」
「あなた、その子は誰?」
「へぇ、この子はうちの妹舞妓の、春月どす。」
「春月どす、どうぞご贔屓に。」
「可愛い子ねぇ。やっぱり、“東男に京女”とはよく言ったものよね、あなた?」
「あ、あぁ・・」
妻はよくしゃべるが、それに対して夫の方は寡黙だった。
「ねぇ、折角だからひとさし、舞ってくれない?」
「へぇ。」
「違うわよ、貴方じゃないわ。」
妻はそう言うと、歳三を見た。
「トシちゃん、どないしたん?」
「幸子さん・・」
「もしかして、あの人か?」
「大丈夫どす。」
「そうか・・でも、何かあったらすぐにうちを呼ぶんやで、えぇな。」
「へぇ・・」
「ちょっと、まだなの!?」
「すいまへん幸子さん、後で。」
歳三は、三味線の音に合わせながら、静かに「黒髪」を舞った。
「やぱり芸妓さんの舞はいつ見ても素敵よねぇ。」
「あぁ・・」
「ねぇ、どうしてさっきから黙っているの?」
「いや、別に・・」
「もしかして、熱があるの?」
妻はそう言うと、夫の額に手を当てた。
「やっぱり、熱があるじゃないの!」
「大した事ない・・」
「あなた達、もう帰っていいわ!」
「へぇ、わかりました。」
「ほな、失礼します。」
二人はお座敷を後にしたが、千鶴は歳三の様子が少しおかしい事に気づいた。
「姐さん?」
「大丈夫や、ちょっと気分が・・」
歳三はそう言うと、そのまま倒れた。
「トシちゃん、大丈夫か?」
「へぇ・・」
「さ、うちの部屋で休みよし。無理は禁物やで。」
幸子はそう言うと、蒼褪めた顔をした歳三を自室へと連れて行った。
「おかあさん、ただ今戻りました。」
「トシちゃんは、どないしたんや?」
「それが・・」
千鶴がさえに、歳三が突然体調を崩して「浮月」で休んでいる事を話すと、さえは身を乗り出して、千鶴にある事を尋ねた。
「今日のお座敷、お客様はどんな人やった?」
「東京から来たご夫婦どす。旦那さんの方は竜胆さん姐さんのお知り合いのようどした。」
「そうか・・」
さえがそう言って低く唸った後、居間の壁掛け電話がけたたましく鳴った。
「もしもし、幸子はん。へぇ、わかりました。」
「幸子さんは、何て?」
「トシちゃん、過労やそうや。まぁ、年明けから一日も休まんと働いていたからなぁ。」
「そうどすか・・」
「まぁ、あんたもこれから忙しくなると思うけど、無理はせんときや。」
「へぇ。」
「さ、早めの夕飯みんなで食べや。」
「おおきに。」
千鶴がさえ達と共に夕飯を食べていると、玄関の方から声が聞こえて来た。
「すいません、誰か居ませんか?」
「へぇ、ただいま。」
さえが玄関先へと向かうと、そこには見知らぬ一人の青年が立っていた。
「どちら様どす?」
「すいません、こちらにトシさん・・土方歳三さんはいらっしゃいますか?」
「トシちゃんやったら、“浮月”で・・」
「ありがとうございます!」
「ちょっと、待ちなはれ!」
さえが慌てて青年―伊庭八郎の後を追い掛けようとしたが、彼は風のように「野村」から去った後だった。
「おかあさん、あの方は?」
「あぁ、あのお人は伊庭八郎様とおっしゃって、何かとトシちゃんの事を慕ってはるんよ。」
「伊庭八郎さん・・」

(何だろう、とても懐かしい名前・・)

「はい、もしもし・・え、トシ姐さんが入院?」
「利ぃちゃん、どないしたん?」
「トシ姐さんが、市立病院へ入院したそうです・・何でも、左半身に痛みが走り、水ぶくれが出来ているから幸子さんがお医者様に診せたら、帯状疱疹だと・・」
「そうか。入院する事になったら、着替え持っていかなあかんなぁ。千鶴ちゃん、頼めるか?」
「へぇ。」
こうして千鶴は、風呂敷包みに入った着替えを持って歳三が入院している市立病院へと向かった。
「姐さん、春月どす。」
「悪いなぁ、手間取らせてしもうて・・」
「トシさ~ん!」
突然廊下の方から大きな声が聞こえたかと思うと、病室のドアが大きく開き、「野村」ので千鶴が会った青年―伊庭八郎が入って来た。
「トシさん、会いたかった~!」

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Last updated  2021年01月17日 22時48分49秒
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2020年12月31日

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1876(明治9)年5月5日、端午の節句に歳三は士族の子息として生まれた。

士族といっても、長州や肥後、土佐、薩摩といった新政府側のそれではなく、土方家は会津藩の元家臣という旧幕府軍―所謂“賊軍”だった。
戊辰の戦(御一新)からまだ8年という短い歳月の中で、旧会津藩士達は不毛の地・斗南へと強制移住させられ、そこで辛酸を舐めた。
土方家は、かつては名家として名を馳せていたが、御一新後は没落の一途を辿り、遂に先祖伝来の家宝まで売り飛ばし、雀の涙ほどの金を生活費に充てる程、困窮していた。
「何ですって!?」
「これはもう、決まった事なのだ。」
「そんな・・歳三を奉公へ出すなんて・・この子は、いつかお家を再興する為には・・」
「もう、いい加減目を覚ませ、恵津。わたし達には帰る郷も、仕える主も居ないのだ。」
「どうして、どうしてわたくし達がこのような目に遭わねばならぬのです!我ら会津藩を一方的に賊軍扱いしたのは薩長だというのに!」
そう言って嘆き悲しむ母の顔を、歳三は不思議そうな顔をしながら彼女を見ていた。
その日の夜、恵津は歳三と心中しようとしていた。
「一緒に死にましょう、歳三。」
そう言って涙を流しながら自分の首を絞める母の顔しか、歳三は思い出せなかった。
目が覚めると、両親は棺の中で眠っていた。
「奥方様・・」
「何という事でしょう、こんな・・」
「薩長が憎くて堪りません・・若様をみなし子にして・・」
土方家は会津藩士であったが、江戸屋敷詰めで長い間江戸で暮らし、一度も国元へと帰った事がなかった。
その為、孤児となった歳三を引き取る親族が居なかった。
漸く連絡がついたのは、大阪・道頓堀で芝居小屋で営んでいるという胡散臭い男だった。
「どうか、若様をお願い致します。」
「へぇ、任しておくんなはれ。」
男はそう言うと、歳三を道頓堀へとつれていった。
しかし、彼の話は全くの嘘だった。
彼が歳三を連れて行ったのは、京都・宮川町にある女郎屋だった。
「阿呆、男を女郎屋へと連れて来てどないすんねん。女ならまだしも・・」
「じゃかぁしぃ、わしかてこいつをここまで連れて来とうなかったわ。」
「われ、こんな小僧一人で借金帳消しに出来ると思うてんのけ?」
「汽車代位出して貰うてもええやろ。わざわざここまで来たんやさかい。」
「よう言うわよ。まぁ、こないな別嬪滅多にお目にかかれへんから、下働きとして雇ったるわ。あんた、名前は?」
歳三は頑として女に自分の名を教えなかった。
「これ、食うけ?」
女が歳三にそう言って手渡したのは、食べかけの大福だった。
歳三は首を横に振った。
他人の食べ残しなんて、死んでも食べたくない。
「ふん、元侍の子やなんか知らんけど、お高くとまってんちゃうぞ。おいお前、今から雑巾で廊下拭いてこい。」
「はい・・」
女郎屋での仕事は、辛くきつかった。
女郎部屋や厠掃除、使い走りに至るまでありとあらゆる雑用をさせられ、少しでも遅れると女将から罵倒と折檻の嵐を受けた。
「この穀潰し!お前なんか死んでまえ!」
歳三はまともに食事を貰えず、いつもひもじい思いをしていたが、決して他人の食べ残しには手をつけなかった。
そんなある日、歳三は女将が母の唯一の形見である簪を質屋へ売ろうとしているのを見て頭に血がのぼった。
彼は彼女を近くにあった折檻用の棍棒で殴って気絶させ、周囲が慌てふためいている隙に女郎屋から飛び出した。
「誰か来てくれ、人殺しや~!」
粉雪が舞う中、歳三は母の形見の簪を握り締めながら、京の街を只管走った。
「こっちや!」
「逃がすな!」
追手の声が近づいて来たので、歳三は路地裏に隠れた。
空腹と寒さで、歳三はそのまま意識を失った。
「お芝居、楽しかったなぁ。」
「あんた、簪のまねきには好きな役者に名前書いて貰うたんか?」
「へぇ。」
「それは良かったなぁ。ほんまは三が日に行きたかったんやど、色々忙しゅうていつの間にかこんな時期になってしもうて、堪忍なぁ。」
祇園甲部にある屋形「野村」の芸舞妓達と女将・佳代がそんな事を話していると、玄関前に一人の子供が簪を握り締めながら倒れている事に気づいた。
「何や、どないしたん?」
「おかあさん、この子どないしまひょ?」
「奥村先生を呼び。さえ、あんたはこの子を奥の部屋へと運びよし。」
「へぇ。」
歳三はこうして「野村」の“子”となったのだった。
「先生、あの子は?」
「栄養失調に軽い肺炎になってる。それに全身に折檻の痕があるわ。」
「お~い、誰ぞおらんか!」
「何ですの、そない大きい声出さんでも聞こえてますえ。」
「ここにガキが一人逃げ込んで来たやろ?はよ出せ。」
「うちら、そないな子見た事ないわ、なぁ?」
「へぇ。」
「おいこら、ふざけた事抜かすな、はよ出せいうとんのや!」
「あんたみたいなヤクザ者に、うちの子は渡せまへんなぁ。」
「何抜かしとんねんボケェ!あいつはうちが金で買うた子や!あいつを煮るなり焼くなりしようがこっちの勝手じゃボケェ!」
「ほな尚更あんたみたいな人には渡せまへんなぁ。うちで預かったからには、あの子はもううちの子どす。」
「畜生!」
顔に青痣がある女郎屋の女将は、舌打ちして「野村」から去っていった。
「さえ、あないな事言うてもな、ここは屋形なんよ。男子を預かってどないする気やの?犬猫の子を拾うとは訳が違うんやで。」
「せやかておかあさん、男子でもこないに別嬪はそうは居てまへんえ。いっそこの子をこの屋形の跡継ぎとして育てたらどうやろか?」
「そないな事、出来るかいな!」
「やってみぃひんとわからへんやないですか?」
「京の芸妓は、京生まれでないと務まりまへんえ。」
「何言うてはりますの。うちとおかあさんは紀州の出やないですか?」
「まぁ、ここでこの子と会うたのも何かの縁や。」
佳代とさえがそんな話をしていると、歳三がゆっくりと紫の瞳を開いて二人を見た。
「気ぃついたか?」
「あの、ここは?」
「いやぁおかあさん、綺麗な瞳してはるわぁ、この子。」
「安心しぃ、今日からここがあんたの家や。あんた、名前は?」
「歳三・・」
「勇ましい名前やなぁ。でもあんたは芸妓になるんやさかい、華やかな名前にしよか。そうや、竜胆ていうのはどうや?あんたの瞳の色とぴったりや。」
元士族のみなし子・歳三が、芸妓・竜胆への道を一歩歩み出した瞬間(とき)だった。
「へぇ、そないな事が・・」
「すいまへん、誰か居てはりますやろうか~?」
「うちが出ます。」
歳三がそう言って「野村」の玄関先に出ると、そこには洋髪姿の女が立っていた。
女は、歳三の顔を見ると、口端を上げて笑った後、彼に向ってこう言った。
「いやぁ、誰かと思うたらトシちゃんやないの。うちの事、覚えてる?」
「・・八千代姐さん。」

もう二度と会いたくないと思っていた女との再会に、歳三は酷く狼狽えた。

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Last updated  2020年12月31日 22時56分23秒
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2020年12月26日




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。


1912(大正元)年8月1日、京都。

この日は、「八朔」と呼ばれ、芸舞妓が日頃お世話になっている芸事の師匠やお茶屋に感謝の思いを伝える行事である。
その日に、晴れて舞妓として店だしを迎えた一人の少女が居た。
「千鶴ちゃん、おめでとうさん。」
「おおきに、おかあさん。」
白粉で顔を塗り、下唇だけ紅をつけたその少女の名は、雪村千鶴。
元は医者の娘であったが、ひょんなことから祇園甲部にある屋形(置屋)「野村」の仕込み(見習い)となり、厳しい修業を経てこの晴れの日を迎えたのであった。
「おかあさん、これからは千鶴ちゃんやのうて、“春月”ちゃんどす。」
「あぁ、そうやったなぁ。いつも呼んでたさかい、気がつかへんかったよぉ。」
「もう、おかあさんたら。」
「春月ちゃん、これから色々と辛い事あるやろうけれど、気張りよし。」
「へぇ。おおききに、鞠千代姐さん。」
「まぁ、あんたには竜胆さん姐さんがついてはるから、大丈夫や。」
「そやなぁ。」
さえと鞠千代がそんな事を話していると、二階から一人の芸妓が降りて来た。
「春月、おめでとうさん。」
「おおきに、竜胆さん姐さん。」
「ほな、そろそろ行きまひょか。」
「へぇ。」
黒紋付の振袖とだらりの帯姿の千鶴は、男衆に手をひかれながら、贔屓筋の置屋や料亭、そして芸事の師匠宅への挨拶回りをした。
「八朔の日にお店だしは、えらい縁起が良いなぁ。春月ちゃん、これからもお気張りやす。」
「おおきに、これからも精進致します。」
そう言って、千鶴は頭を深く芸事の師匠へと下げた。
「あぁ、疲れた。」
「そんな事を客の前では二度と言うんじゃぁねぇぞ。」
「竜胆さん姐さんこそ、そないな言葉遣いは、やめておくれやす。」
「うるせぇ、俺ぁ、こんななりしているが、江戸の男だ。」
「今は江戸やのうて、東京どす。」
「うるせぇ、どっちも同じだろうが。」
そう言って竜胆こと土方歳三は、乱れた髪を直す振りをして、鼈甲の簪で頭を掻いた。
地毛で日本髪を結う舞妓とは違い、芸妓の髪は殆んどカツラだ。
だが、歳三だけは舞妓時代から伸ばしている髪で、「島田」という芸妓の髷を週に一回、髪結いに結って貰っている。
それ故、髪を結ったら最低七日は洗えないのだった。
「暑くて仕方ねぇや、畜生。」
京都の夏は、東京のそれとは違い、盆地であるが故に、うだるような暑さだ。
千鶴と歳三は、上半身や顔には全く汗を掻いていないものの、下半身は汗で濡れ、それが黒紋付の振袖や着物に吸い込まれ、自然と二人の足取りが重くなった。
「大丈夫か?」
「へぇ。」
「あと少しで屋形に着くさかい、お気張りや。」
「へぇ。」
漸く挨拶回りを終えた二人が屋形に着くと、二人を迎えた「野村」の仕込み・さゆりは、すかさず二人に冷たい麦茶を出した。
「さゆり、何べんも言うてるやないの、そないな冷たい飲み物出したらすぐにお腹壊してしまうやろ!」
「へぇ、すいまへん!」
「まぁまぁ、そないに怒らんでもええやないの。さゆりかてこの暑い日に挨拶回りした姐さんの事気遣ってくれたんや。」
「さゆりちゃん、おおきに。」
「今日は夜までお座敷詰まっているさかい、二人共鰻でも食べて精を出しよし。」
「おおきに、おかあさん。」
「ただいま~!」
玄関の戸が開き、一人の少年が居間に入って来た。
彼は野村利三郎、女将の一人息子だった。
「あら利ぃちゃん、お帰り。」
「その呼び方、やめてよ。」
利三郎はそう言うと、栗鼠を思わせるかのような大きな緑色の瞳を瞬かせた。
「あんたも鰻食べたらどう?」
「いや、いい。この後、友達の家に行くから。」
「そうか。あんたは小さい頃はお母さんお母さんとうちの後ろを金魚の糞みたいについてきてくれたのに、えらい薄情な子に育ったもんやわ。」
「まぁおかあさん、男の子なんてそんなものどす。」
「竜胆・・いや、トシちゃん。あんたがうちへ来た時は、利ぃちゃんが生まれる前の事やったわな。まだあんたは六つか七つやったねぇ。」
「えぇ、姐さんにもそんな時期が?」
「あんた、阿呆か。誰もが生まれた瞬間から歩ける訳ないやろ。」
「そりゃそうだけど・・」
「まぁ、この際やからあんたにも話しとくわな。トシちゃんが何でうちへ来たんかをな。」
さえはそう言って一旦言葉を切った後、茶を一口飲んで静かに話し始めた。
「あれは、岐阜で板垣退助はんが襲われはった、三月前の事やったわ。丁度松の内の事やった。その日は、えらい朝から大雪が降って寒かった事をよう覚えてるわ。なぁ、トシちゃん?」
「あぁ・・」

歳三は、少しぬるくなった麦茶を一口飲み、初めて「野村」の敷居を跨いだ日の事を思い出していた。

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Last updated  2020年12月31日 22時51分26秒
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