1850487 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

JEWEL

全10件 (10件中 1-10件目)

1

薄桜鬼 平安パラレル二次創作小説:鬼の寵妃(完)

Feb 10, 2021
XML




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「まぁ、また笑いました。」
「本当だ、可愛いなぁ。」
はじめと総司との間に翠が産まれてから二月経った。
夜泣きの所為で寝不足気味であったが、それよりも親子三人水入らずで過ごせるのが、はじめにとって何よりも嬉しかった。
「はじめ、ちょっといいか?」
「はい、姉上。」
「なんだ、誰かと思ったら義姉上か。僕達の邪魔をしないで下さいよ。」
「うるせぇ、俺はまだお前ぇの事を認めた訳じゃねぇからな!」
歳三はそう言うと、総司を睨んだ。
「あ~あ、嫌われちゃったみたい。」
「総司、ふざけるのは止せ。姉上、お話とは何でしょうか?」
「実はな・・鞍馬の山奥にある魔物の封印が、何者かによって破られたらしい。」
「それは、まことなのですか?」
「ああ。」
「鞍馬といったら、一度あそこの寺に鬼が忍び込んでその封印を解こうとして失敗した事があったよね。」
「鬼、だと?」
「うん、確かその鬼は半妖だったから、すんなりと寺の結界内に入れたみたいだよ。」
「総司てめぇ、何でそんな事知ってるんだ?」
「嫌だなぁ土方さん、僕は妖狐族の端くれですよ。妖の世界の事は、あなたより少し詳しいんです。」
「へぇ、そうか。」
「それと、最近雪村家の一の姫が、妙な動きをしているみたい。」
「一の姫って、静の事か?」
「えぇ。彼女、何でも義姉上達だけが注目されている事が気に入らないみたいですよ。」
「だからと言って嫌がらせするか?」
「わかってないなぁ。義姉上はともかく、彼女はずっと格下認定していた千鶴ちゃんがちやほやされている事が気に入られていないみたいですよ。だから、千鶴ちゃんが大切にしている笛を取り上げて・・」
「笛?あいつ笛なんて持っていたか?」
「あれ、僕の勘違いかな?」
千鶴が大切にしているものは、生みの母の形見である箏だった。
それに歳三は、一度も千鶴が笛を吹いている姿など見ていない。
「もしかしたら、鬼に取り憑かれてしまったのかもしれませんよ、千鶴ちゃん。」
「そんな、どうして・・」
「それは・・」
「僧正様、大変です!」
「何事じゃ?」
「内裏の上空に、突如として黒雲が現れました!」
「黒雲じゃと?」
「はい、黒雲の中から夥(おびただ)しい魔物が――」
「雪英、雪英はおるか!?」
「はい、僧正様。」
「黒雲の事は聞いたか?」
「鞍馬の封印が破られた事により、過去の怨霊達が目覚めてしまったのでしょう。」
「急ぎ黒雲を消すのじゃ!」
「しかし・・」
(あれは、簡単に“消える”ものではない。あれは・・)
「僧正様、黒雲の中から女が現れました!」
「何!?」
内裏上空を突如として覆った黒雲の中で、千鶴は誰のものなのかわからぬ笛を吹いていた。
すると、その音に合わせて次々と魔物が内裏に降りて人を喰らう。
何故、自分がこんな状態になってしまったのかがわからない。
(誰か、助けて・・)
声なき声でそう叫びながら、千鶴は涙を流していた。
「千鶴~!」
何処からか、懐かしくも優しい声が聞こえて来た。
「姉様・・」
「千鶴、どうして・・」
歳三はそう言うと、白銀の髪をなびかせ、金色の瞳を涙で濡らしながら自分を見つめている千鶴の姿があった。
「助けて下さい・・わたしは、うぅ!」
「どうした?」
「中宮様、なりません!」
雪英が制止する声を無視して、歳三は千鶴の元へと向かった。
「千鶴、一体どうし・・」
歳三がそう言って彼女の方を見ると、彼女は低い唸り声を上げて彼に襲い掛かって来た。
その姿は、自分が知っている優しくて可愛い妹ではなかった。

“・・シテ”

「千鶴?」

ふと魔物と化し、瘴気に冒された千鶴を見ると、彼女は涙を流していた。

“殺シテ、ドウカ・・”

人間として、理性を保てる間に。

(わかった・・)

歳三は千鶴に優しく微笑むと、懐剣の鞘を払い、白銀の刃を彼女に向かって閃かせた。

“マタ、来世デ・・”

千鶴は、歳三の顔を優しく撫でて微笑むと、桜の花弁に包まれて消えていった。

「千鶴・・」

内裏上空を覆っていた黒雲は、瞬く間に消えていった。

「中宮様・・」
「暫く、一人にしてくれねぇか?」
「はい・・」

歳三は、千鶴が遺していった衣を掻き抱くと、激しく嗚咽した。

1863年、京。

「土方さん、珍しいですね。」
「トシ、来てくれたのか。」
「当たり前だろう。」

その日、歳三は新選組の入隊試験を見学していた。
壬生浪士組から新選組から名を変えてから、ひとつの問題が浮上した。

 それは、圧倒的な人手不足だった。

大坂で隊士を募集したら、あっという間に百人前後位集まったが、面接・実技へと進めたのは三十人前後しか居なかった。

「どうだ、骨のある奴は居るか?」
「居ますよ、ほら。」

総司がそう言って指した方には、斎藤と互角に打ち合っている小柄な少年の姿があった。

「あいつ、結構やるな。」
「でしょう?」

少年は暫く斎藤と打ち合っていたが、斎藤の突きをまともに喰らって彼は道場の壁に頭をぶつけたまま動かなくなってしまった。

「おい、大丈夫か?」
「誰か、山崎を呼べ!」

歳三はそう隊士達に指示を出した後、そっと気絶した少年の顔から面を外した。
するとその中から、雪のように白い肌をした、黒髪の美少年が現れた。

「う・・」

彼は、微かにまつ毛を揺らした後、琥珀色の瞳で歳三を見つめた。

「お前ぇ、名は?」
「雪村・・千里と申します。」

名は違うが、歳三は彼が長い間探していた“千鶴”だと気づいた。

―兄様

(嗚呼、漸く会えた・・)

「あの・・」

気づけば、歳三は涙を流していた。

桜の花弁が、ふわりと二人の間に舞った。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Sep 27, 2021 08:39:29 AM
コメント(0) | コメントを書く


Jan 29, 2021




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「どうした、泣き止めというに・・」
「おやおや、尻が濡れておりますね。主上、姫様をこちらへ。」
柚彦はそう言うなり、千景から千歳を受け取った。
「中宮様は今どちらに?」
「・・あいつは、実家に戻った。」
「もしや、中宮様と喧嘩でもされたのですか?」
「まぁ、そういう事だ・・」
歳三と千景が喧嘩したのは、些細な事が原因だった。
それは―
「縦抱きか、横抱きにするのかで揉めてしまわれたと?」
「あぁ。中宮いわく“こいつは縦抱きにしねぇと夜寝てくれねぇ”と・・俺は、そんな事などどうでも良いと言ったら・・」
「“どうでも良い”事など、子育てにはありませぬ。」
「おのれ貴様、この俺に・・」
「満足に娘のむつきが替えられぬ男が何を言うても、この柚彦の胸には響きませぬ。」
「うぬぬ・・」
年端もゆかぬ少年に言い負かされ、千景はぐうの音も出なかった。
「うるさいなぁ、一体何の騒ぎ?」
「お騒がせしてしまって申し訳ありませぬ、総司様。」
「あ、誰かと思ったら土方さんの旦那さんじゃない。こんな所でどうしたの?」
「貴様には関係のない事だ、消えろ。」
「あれぇ、何その態度?あ、もしかして土方さんに振られたの?」
「黙れ!」
「ふ~ん、図星みたいだね。」
「貴様・・」
総司と千景が睨み合っていると、向こうからはじめの呻き声が聞こえた。
「はじめ、どうしたの!?」
「痛い・・」
「どうやら、産気づかれてしまわれたようですね。」
「どうしよう!?」
「柚彦、すぐに薬師を呼べ。沖田様は・・何もせずに、はじめ様の手を握って下さいませ。」
「わ、わかったよ・・」
はじめは突然産気づき、陣痛に襲われ苦しんでいた。
「大丈夫だ、僕がついているから!」
「総司様・・」
はじめが元気な男児を産んだのは、夜が明ける頃だった。
「可愛いなぁ・・」
「何を言う、まるで産まれたての猿のようではないか。」
「ねぇ君、ちょっと黙っててくれないかな?」
「主上、姫様が泣いておられますよ!」
「わかった。」
「早うこちらに来られませ!」
「わかった、わかったから耳を引っ張るな・・」
「ねぇ、この子の名前、何にする?」
「そうですね・・翠(あきら)というのはいかがでしょう?」
「良い名だね。」
総司はそう言うと、皺くちゃの顔をした息子の小さな手を、そっと握った。
「歳三様、主上から文が届いております。」
「捨てておけ。」
「まぁいけませんわ、姫様!主上からの反省の文かも知れませんわ!」
「あ、こら!」
「まぁ、何て事!」
江は、千景からの文に目を通した後、そう叫んだ。
「まさか、千歳に何かあったのか?」
「いいえ、はじめ様が、元気な男子をお産みあそばしたそうです。」
「はぁっ!?」
はじめの妊娠を全く知らなかった歳三にとって、その知らせはまさしく寝耳に水の事だった。
「父親は誰だ?」
「妖狐族の御曹司の、総司様です。」
「あいつ、いつの間に・・」
「良いではありませぬか。」
「まぁ、な・・」
「めでたいわねぇ。今まであの子は苦労した分、幸せになれるわ。」
綾の方は、そう言うと袖口で涙を拭った。
「それにしても歳三、あなたが主上と喧嘩するなんて珍しい。おしどり夫婦だと思っていたのに・・」
「おしどりは巣作りの時にだけ仲良くなるんだ。あいつはちっとも俺の苦労をわかっちゃいねぇ。」
「全く、困ったものだわ。」
歳三の頑固な性格を知っているだけに、この喧嘩は長引くだろうと綾の方は思った。
「姉上、こちらにおられたのですか。」
「おう、太郎君か。どうした?」
「はじめ姉様を知りませんか?」
「あぁ、はじめならつい先程文が届いてな、元気な息子を産んだんだ。」
「え、それではわたしはおじとなるのですか!?」
「まぁ、そうなるだろうな。」
「早く姉様の赤さんにお会いしたいです!」
「いずれ会えるさ。」
歳三はそう言うと、乳が張っている事に気づいた。
(あいつ、大丈夫か?)
「おい、泣き止め!」
「乳が欲しいのでしょう。」
「俺は何も出ぬぞ。」
千景は胸を肌蹴させ、乳首を泣き喚く娘の口元に宛がった。
「あの・・よろしければ、わたくしの乳をあなたの姫様に差し上げましょうか?」
「はじめ君、何言っているの?」
「どうか、姫様をわたくしに・・」
「かたじけない。」
千景から千歳を受け取り、彼女を抱いたはじめは、そっと己の乳首を彼女の口元に宛がった。
すると、彼女は音を立ててそれを吸い始めた。
「良かったですね、主上。」
「あ、あぁ・・」
「いいの?はじめ君、まだ体調も本調子じゃないのに。」
「困った時はお互い様だろう?それに、仮にもあの姫様と翠とはいとこ同士となるのだから。」
「まぁ、そうだよね。」
やがて千景達とはじめ達が雪英の元へ身を寄せてから、二月が経とうとしていた。
「はじめ様、お迎えに上がりました。」
「済まないな、江。姉上達はお元気か?」
「えぇ。まぁ、可愛らしい赤さんですこと!」
「翠というんだ、これから仲良くしてやってくれ。」
「はい。あの、主上はどちらに?」
「あぁ、主上は今姫様のむつきを替えておられる。」
「まぁ、あの主上が・・」
「はじめ、元気そうで良かった。」
「ご心配お掛け致しました、兄上。」
「はい。」
はじめはそう言うと、壺装束姿の歳三と抱き合った。
「歳三、反省しているから、許してくれ。」
「ふん、どうだか。お前の言葉は信用できねぇ。」
自分に向かってそう平謝りする千景に、歳三はそっぽを向いた。
「姉様、もう許して差し上げては?主上も充分に反省していらっしゃるようですし・・」
「そうですよ姫様、意地を張らないで下さいませ。」
「わかったよ!」
歳三はそう叫ぶと、千景と仲直りした。
「それにしても、お前ぇ俺が居ない間に、随分こいつのむつきを替えるのが上手くなったな。」
「フン、この俺にかかれば、赤子のむつき替えなどたやすい・・」
「何をおっしゃいますか、はじめは“赤子の尻を拭けぬ”と抜かしていた貴方様を、この柚彦めが一から教育して差し上げたのですよ、忘れましたか!?」
「う・・」
ふふんと胸を張って自慢劇に千景がそう歳三に話していると、そこへすかさず若草色の水干を着た少年が横槍を入れた。
「主上、一本取られましたなぁ。」
「うるさい・・」
「千景、こいつは誰だ?」
「はじめまして、柚彦と申します。雪英様の小姓をしております。」
「小姓?稚児とはどう違うんだ?」
女色を禁じる僧侶や呪術師の間では、男色が盛んだと噂に聞いたので、歳三がそう柚彦に尋ねると、彼の傍に居た雪英が堪らず噴き出した。
「何がおかしい?」
「生憎ですが、柚彦は拙僧の世話係です。中宮様がお思いになられておられるような疚しい関係などではございませぬ。」
「そうか、悪かったな・・」
「いえ、良いのです。誤解される事は良くあります。」
「そうか・・」
「ここまでの長旅はさぞやお疲れだったでしょう。さぁ、宿坊にてごゆるりと長旅の疲れを癒してくだされませ。」
「かたじけない。」
「ちょっと、わたくし達の部屋を横取りするつもり!?」
突然歳三達の前にそう叫びながら現れたのは、はじめを虐待していた斎藤家の者達だった。
「おやおや、これは異な事を。宿坊の部屋を押さえておられたのは中宮様ですぞ。」
「金ならいくらでもやるわ、だから・・」
「これは異な事を。いくら金を積まれても、あなた方に部屋は用意できませぬ。」
「何と・・」
淡路は横目でちらりとはじめを睨みつけると、そのまま寺から去っていった。
「あの・・」
「気にするな。」

その日の夜、歳三達は久しぶりに四人で楽しい夜を過ごした。

(これから、何事もなければ良いが・・)

鞍馬の山奥に、魔物を封じ込めた祠があったが、その祠の封は、何者かによって破られていた。

“我を呼んだのは、何者ぞ”

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 29, 2021 11:08:57 PM
コメント(0) | コメントを書く
Jan 17, 2021




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「まぁ、可愛い事。」
「目元なんて、姫様にそっくり。」
「将来美人になる事、間違い無しですわね。」
歳三は産後の肥立ちが悪く、産室で臥せっていた。
「姫様、江でございます。」
「入れ。」
「失礼致します。」
江が産室に入ると、そこには苦しそうに呻いている歳三の姿があった。
「姫様!」
「俺に、構うな・・」
「それは出来ませぬ!」
 江はそう言うと、薬師を呼んだ。
「中宮様はどうやら、“鬼の毒”にその御身を侵されておりまする。」
「“鬼の毒”ですと?」
「はい。」
「治るものではないのか?」
「はい。これは、厄介なものでして、治すものは純血の鬼の血しかございませぬ。」
「何と・・」
「子供は・・娘は・・」
「ご安心下されませ、姫君様には毒は効きませぬ。」
「そうか。」
「中宮様、お客様が・・」
「俺に客だと?」
「はい、雪英様と申されるお方で・・」
「わかった、通せ。」
「お初にお目にかかります、中宮様。雪英と申します。」
そう言って自分に自己紹介した有髪の僧は、澄んだ緑碧の瞳で歳三を見た。
「失礼致します。」
「俺の顔に、何かついているか?」
「いいえ・・あなた様は、ほんにお母上によう似ておられる。」
「母上に?」
「えぇ。霞の方様は拙僧が幼き頃、我が母のように慕ったお方。まさか中宮様が霞の方様の娘御様とは、何という縁の巡り合わせにございましょう。」
「あぁ、そうだな・・」
「今日お伺いしたのは、中宮様にお渡ししたい物があるからです。」
そう言って雪英は、懐からある物を取り出した。
「高麗伝来の、貝殻の粉薬です。気休めにしかなりませぬが、少しは楽になれましょう。」
「ありがとう。」
雪英から渡された粉薬を飲んだ歳三は、少し症状がマシになったような気がした。
「ねぇあなた、皇太后様の事をどう思いになっているのかしら?」
「どう、とおっしゃいますと?」
「あの方は、事あるごとに中宮様を蔑ろにされるのです。此度の出産の事でも、“次こそは若君を”といやみったらしい文を・・」
「何て嫌な方なのかしら!」
「皇太后さまは、早う夫君を亡くされ、主上を女手ひとつで育て上げられた故、その愛情もひとしおなのでございましょう。」
「ですが、あれは度が過ぎているでしょう!」
「中宮様の御手を煩わせてはなりません。」
「は、はい・・」

(やはりな・・思っていた通りだ。)

「皇太后様、只今戻りました。」
「中宮の様子はどうであった?」
「中宮様におかれましては、産後の肥立ちがお悪いご様子。拙僧めがあの薬を中宮様にお渡し致しました。」
「そうか。」
「それよりも、雪村家で拙僧が傍聞いたのは、女房達が皇太后様に対し不満を抱いている事にございます。」
「何、それはまことか?」
「中宮様のご快癒もままならぬというに、若君をすぐにご所望されるは何たる酷なお方と・・」
「笑止。妾は同じ母として、中宮にその道を説いたまで。」

(困った御方だ、頑固な性は主上に似ている。“この親にして子あり”といったところか。)

内心雪英は溜息を吐きながら、鈴の方を宥めにかかった。

「皇太后様、余り中宮様をいじめてはなりませぬぞ。」
「全く、主上もそなたも妾を悪者にするのか・・あぁ悲しや。」

鈴の方はそう言うと、袖口で涙を拭った。

「中宮様の女房達にも、言い分がおありなのでしょう。どうか、余りお怒りにならないで下さいませ。」
「主上は、妾の事を蛇蝎の如く嫌う。」
「そんな事はございませぬ。」
「妾はもう・・」
「余りお気を落としませぬな。」

(面倒な事になったものだ・・)

「雪英様、お帰りなさいませ。」
「げに恐ろしきは宮仕えと、よう言うたものよ。」
「そのお顔、何かあったのですね?」
「あぁ・・」
雪英は頭を掻きながら、自分の小姓・柚彦に愚痴をこぼした。
「嫁姑の問題は、何も出来ぬ。」
「中宮様と皇太后様はまさしく水と油、いかに混ぜ合わせようともひとつにはなれませぬ。」
「それはわかっておる。」
「聞き役に徹するは苦労もございましょう。柚彦が今茶でも淹れて参りましょう。」
「頼んだぞ。」
柚彦が寺の厨で茶を淹れていると、そこへ寺の稚児達がやって来た。
「おや、誰かと思うたら雪英の小姓ではないか?」
「そなたの主は何処におる?」
「また皇太后様に尻尾でも振っておるのではないか?」
「おやおや皆様、わたくしのような者相手に我が主の事をお尋ねになられても、わたくしは何も皆様にお話しするような事などありませぬが?」
「そなたの主は、近頃皇太后様のご寵愛を受けておるそうじゃが、余り調子に乗るなと主に伝えよ。」
「言いたい事は、それだけですか?」
「ふん、可愛気のない!」
「主も主なら、小姓も小姓じゃ!」
稚児達は一方的にそう柚彦に向かって吐き捨てると、厨から出て行った。
「遅かったな?さては、あの者達の稚児に絡まれたか?」
「はい。」
「相手にするな。力無き者は徒党を組みたがる。放っておけば良い。」
「はい・・」
「雪英様、雪英様!」
突然、切羽詰まったかのような稚児の声が、廊下の方から聞こえて来た。
「何じゃ、どうした?」
「“鬼”が・・“鬼”が現れました!」
「それはまことか?」
「はい・・」
「雪英様、わたくしも参りまする!」
「そなたはここで待っておれ。」
「ですが・・」
「安心しろ、すぐに戻る。」
雪英はそう言った後、柚彦に優しく微笑んだ。
「そなた、何者だ?」
「妖狐、あの妖狐の若造を出せ!」
そう叫びながら雪英に詰め寄ったのは、あの大江山の生き残り、酒呑童子だった。
「そのような者、拙僧は存じませぬが?」
「えぇい、とぼけるでない!あの妖狐の若造を大江山へとつかわせたのは、貴様であろう!?」
「拙僧には預かり知らぬ事。どうぞ、お引き取りを。」
「黙れ!」
酒呑童子は激昂し、雪英に向かって何を放った。
だが、雪英はそれをかわした。
「何!?」
「大江山へお帰りなされ。」
雪英がふぅと酒呑童子に向かって息を吹きかけると、彼はまるで強風に吹かれたかのように、何処かへと飛ばされていった。
「全く、しつこい奴だよね。」
「おられるのならば、すぐに出て下されば良いものを。」
「嫌だよ。」
そう言いながら藤棚の下から顔を出したのは、他ならぬ“妖狐の若造”―総司だった。
「一体あの方と何があったのかは聞きませぬが、そちらの方は?」
「この人は、僕のお嫁さんで、雪村はじめ。ねぇ、突然で悪いんだけれど、僕達を匿ってくれない?」
「何故に?」
「実は・・」
「総司様・・」
そっと総司の背後から出て来た壺装束姿のはじめの下腹は、大きく迫り上がっていた。
「成程・・さぁ、宿坊の方へどうぞ。」
「ありがとう。」
「雪英様、あの方達は・・」
「あの方達は、妖狐の若君ご夫妻だ。」
「妖狐の方々とお知り合いなのですか?」
「あぁ。柚彦、裏庭の薬草を摘んできておくれ。」
「かしこまりました。」
柚彦が裏庭の薬草畑へと向かうと、そこには様々な種類の薬草が生えていた。
(あ、これは中宮様の為に摘んでおこう。)
柚彦がそんな事を思っていると、薬草畑の中を覗き込んでいる一人の男と目が合った。
「この寺に何かご用ですか?」
「雪英はおるか?」
「おりますが、主とはどのようなご関係で?」
「貴様にそれを教える義務はない、そこを退け。」
「それは出来ませぬ。」
「えぇい、そこを退けというに!」
「おやおや、主上が御自らお越しになられるとは・・」
「雪英、暫くこの子を預かってくれまいか?」
そう言って千景が雪英に手渡したのは、彼の娘である千歳だった。
「そのご様子だと、中宮様に何かあったのですか?」
「あぁ、実は・・」

千景が事の次第を説明しようとした時、千歳姫が突然火がついたかのように泣き出した。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 17, 2021 08:14:55 PM
コメント(0) | コメントを書く
Jan 14, 2021




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「何と、それはまことか?」
「はい。」
「何とめでたい!」
「しかし中宮様は男の身、産み月までに半月程ありますが、色々と・・」
「そうか・・」
「ご安心下され、この唐渡りの薬湯さえあれば、中宮様も御子も無事に・・」
「そなたを信じよう。」
「はっ」
薬師は中宮の部屋から辞すると、屋敷の中庭へと出た。
「中宮様に、例の薬は渡したか?」
「はい、言われた通りに。」
「そうか。必ず、あの薬を中宮様に飲ませるのだぞ、良いな?」
「おおせの通りに致します。」
「・・さて、役者は揃った。この芝居が駄作となるか否かは、役者次第。」
雪英はそう言うと、口端を上げて笑った。
「はじめ君、起きて。」
「ん・・」
はじめが目を開けると、そこには翡翠の瞳で己を見つめている青年の姿があった。
「あなた様は?」
「嫌だなぁ、毎日君に文を送っているのに、僕の事がわからないなんて。」
茨木童子から牢を出され、用意された局で休んでいると、青年はそう言いながら局に入って来た。
「君を迎えに来たんだよ。」
「わたくしを迎えに?」
「あぁ、そうだよ。」
「曲者!」
「者共、出合え!」
「折角の恋人達の逢瀬を邪魔するなんて、不粋だね。」
青年―総司は、小声でそう呟き、口端を歪めて笑った後、腰に帯びた太刀で兵達をバッタバッタと薙ぎ倒した。
「貴様、何者だ!その姫を何処へ連れて行く気だ!?」
「そんなの君には関係ないでしょ?だから、そこを退いてくれないかな?」
「ならぬ!その姫は我が花嫁として迎え入れる!」
「へぇ・・」
茨木童子を睨みつけた総司は、殺気を全身に纏うと、そのまま彼と斬り結んだ。
(何という力・・これは・・)
「漸く、僕が“何者”なのか気づいたようだね?」
「おのれ、貴様・・」
「雑鬼如きが、僕の恋路を邪魔するなんて、笑止。」
「うわぁぁ~!」
断末魔の悲鳴を上げ、魂ごと消えてしまった茨木童子を、総司は静かに見送った。
その姿は、銀髪金眼の妖狐の姿をしていた。
「沖田様、その御姿は・・」
「君は、僕が恐ろしくないの?」
「はい・・」
はじめは、そっと総司の銀髪に触れた。
「ふふ、くすぐったいよ。」
先程の、恐ろしい形相を浮かべた姿は何処へやら、総司はまるで陽だまりのような優しい笑みをはじめに浮かべていた。
「ねぇ、僕のお嫁さんになってくれないかな?」
「はい・・喜んで。」
「これからよろしくね、僕のお嫁さん。」
総司は少し藍色がかったはじめの髪を一房取ると、それに口づけた。
「う、うぅ・・」
歳三は、千景の子を妊ってからというものの、酷い悪阻に苦しめられていた。
外の風を運ぶ土や空気の臭いを嗅ぐだけでも強い嘔気を催し、水を飲み干すにもひと苦労な有様であった。
「中宮様は一体どうしたものか・・」
「あれ程までに酷い悪阻に苦しめられておるのならば、神仏の力を以てしてでも・・」
「笑止。痛苦に耐えるが母の性ぞ。」
「皇太后様・・」
「中宮は弱い。同じ母として妾が喝を入れてやろうぞ。」
そう言った皇太后・鈴の方は数人の女房達を引き連れ弘徽殿へと向かった。
「兄様、しっかりなされませ!」
「俺ぁもう駄目だ・・このまま死んぢまうかもしれねぇ・・」
「弱気な事をおっしゃいますな!」
「中宮、中宮はおるか!」
「まぁ皇太后様、何故・・」
「そなたがどのような様子か見に来たのじゃ。」
鈴の方はそう言うと、樋箱の中に顔を埋めている歳三を睨んだ。
「そなたは気が弱い故、悪阻に苦しむのじゃ。今日から産着を毎日十着縫いなされ。」
「何と・・おそれながら申し上げまする、皇太后様。姫様は針を持つどころか、起き上がる事もままなりませぬ。どうか、ご容赦を・・」
「ならぬ!痛苦に耐えるは母の性じゃ!」
鈴の方はそう言うと、そのまま弘徽殿から去っていった。
「口惜しい、帝の子を妊っている中宮様に対し何たる仕打ち!」
「皆、それまで言うな。皇太后様は俺の事を心配して・・」
歳三はそう言って女房達の怒りを鎮めようとしたが、強い嘔気に襲われて倒れてしまった。
「中宮様!」
「中宮様、お気を確かに!」
悪阻に襲われ意識を失った歳三は、またあの藤の木がある池に居た。
「また、会えたわね。」
「母上・・」
歳三はそう言うと、女―亡き実母・霞の方に抱き着いた。
「辛かったでしょう?」
「はい・・」
「わたしが、お前の苦しみを取り去ってあげますからね・・」
霞の方は、そう言った後そっと歳三の下腹を撫でた。
「さぁ、ゆきなさい・・」
「はい、母上・・」

三日三晩床に臥せった歳三が目を覚ますと、あれ程自分を苦しめて来た悪阻が嘘のように無くなっていた。

「おや、もう起き上がっても良いのかえ?」
「はい。皇太后様、ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「そなたの体調が回復してよかったぞ。」
鈴の方はそう言うと、歳三に桐の箱を手渡した。
「これは?」
「高麗の商人が献上した、高麗人参じゃ。これをすり潰した薬湯を飲み、滋養をつけるが良い。」
「忝(かたじけの)うございます。」
「全く、調子が良い事。」
江はそう言いながら、高麗人参を親の仇のようにすり潰し始めた。
「母上、どうか妻には厳しく当たらないで下さいませ。」
「千景、妾は中宮を母として鍛え上げておるのじゃ。」
千景は月夜を眺めながら、母と久方振りに酒を飲んでいた。
「あの者の何処が良いのだ?そなたに釣り合う女なら、星の数ほどいよう。」
「わたしは、歳三しか要りませぬ。」
「ふん、何という事・・あの鬼姫に腑抜けにされたか。」
鈴の方はそう言って不快そうに扇を閉じた。
彼女は、千景にとっては己の母にあたるが、正確に言えば父の側室の一人に過ぎなかった。
「全く、あの女は好かぬ。我が強い。」
「我が強くなくては、わたしの妃は務まりませぬ。」
「そなたは、いつまで経っても側室を迎えぬから、貴族達が自分の娘達を側室にという話を持ち掛けて来ておる。」
「わたしは側室など要りませぬ。」

(全くこの頑固さは、亡き殿に似たのか・・)

鈴の方は、今は亡き夫に想いを馳せた。

千歳は、里を人間から守ろうとして自害して果てた。

「母上、いかがなさいましたか?」
「いや・・少し、そなたの父の事を思い出しておったのよ。:
「父上は何故、自害されたのでしょうか?」
「人間どもが里を襲ったからだ。それよりも、中宮の様子はどうじゃ?」
「薬師は、もうそろそろ産まれるのではと・・」
「ほぉ、そうか。」
「主上、中宮様が産気づかれました!」
「何、それはまことか!?」
「はい。しかしながら、お産の進みが遅く・・」
「すぐに産婆を呼び、安産祈願の加持祈祷を致せ!」
「は、はい!」

同じ頃、雪村家では歳三の加持祈祷が行われ、時折産室から聞こえて来る歳三の呻き声を聞きながら、千鶴は只管歳三達の無事を祈った。
やがて夜が明け、産声が産室から聞こえて来た。

「産まれたか?」
「はい。」
「して、どちらじゃ?」
「元気な姫君様にございます!」
「・・そうか。もう下がってもよい。」
「はい・・」

女房は、鈴の方に命じられ、“ある物”を雪村家へと届けた。

「皇太后様からの贈り物にございます。」
「まぁ、何でしょう?」

江がそっと桐の箱の蓋を開けると、そこには風間家当主の証である懐剣が入っていた。

“次はこの懐剣を若君に”

「ほんに憎たらしい姑じゃ。」
「ほんに役立たずな嫁御じゃ。」
「母上・・」
「さて、中宮に労いの文でも贈るとするか。」

(げに恐ろしき女だ・・母上は。)

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 14, 2021 10:30:33 PM
コメント(0) | コメントを書く
Jan 5, 2021




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「う・・」
「目が覚めたか?」
歳三がゆっくりと目を開けると、そこは洞窟の中だった。
「こいつが、本物の方か?」
「ああ、間違いない。」
 そう言ったのは、赤髪の大男の隣に立つ、銀髪の男だった。
「お前ら、何者だ?」
「済まない、自己紹介が遅れたな。俺は茨木童子、こっちの赤い方は酒呑童子だ。あんた達には悪いが、少し俺達に付き合って貰うぜ。」
「嫌だと言ったら?」
「悪いようにはしねぇさ。」
酒呑童子はそう言うと、歳三とはじめを交互に見た。
「申し訳ありません兄上、俺の所為で・・」
「過ぎた事はどうにもならねぇよ。それよりもはじめ、お前どうしてあいつらに攫われたんだ?」
「はい、実は・・」
はじめは歳三に、二人に攫われた日の事を話した。
その日は、いつものようにはじめが太郎君に箏を教えていると、外から女房達の悲鳴が聞こえた。
「姉様・・」
「太郎君、お前はここに居ろ。」
「はい・・」
はじめがそう言って外を見ると、自分の前に赤髪の大男が立っている事に気づいた。
「貴様、何者だ!?」
「ちょっと、俺に付き合って貰おうか?」
「な・・」
反撃する間もなく、はじめは彼に鳩尾を殴られて気絶した。
「それで、目が覚めたらここに居たって訳か。」
「はい。それよりも兄上、彼らは何故か兄上の事を以前から知っているようです。」
「そうか。何だか怪しいな。」
「あぁ・・確か、兄上の懐剣の事を、彼らは知っているようでした。」
「知っている?」
「はい。少しだけ、あの二人が兄上の懐剣について話しているのを聞きました。」

―まさか、あの方が霞様の・・
―では、どうするつもりだ?
―それはまだ、考えていない。

「詳しくは聞けませんでしたが、兄上、心当たりはありませんか?」
「ないな。だが、一度俺は、鬼に会った事があるんだ。」
「鬼に、会ったのですか?」
「あぁ。」
歳三は、幼少期に体験した不思議な出来事をはじめに話した。
「そんな事が・・」
「もしかしたら・・あの鬼が、俺を産んでくれた母親なのかもしれねぇ。」
「それは、確かなのですか?」
「さぁ、わからねぇ・・」
「兄上、顔色が悪いですよ?」
「大丈夫だ・・」
歳三はそう言うと、冷たい床の上に横になった。
身体が、燃えるように熱かった。
 一方、屋敷では酒呑童子が酒を飲んで眠っていた。
「全く、こやつの酒好きには困ったものよのう。」
「あなたがこいつに酒呑と名付けたからでしょう?」
「言うてくれる。それにしても、鬼姫達をどうするつもりじゃ?」
「それは・・」
「妃にするつもりなら、やめておけ。鬼姫達はそなたらの手には負えぬ。」
「そうか。」
「茨木、もうそろそろ帝が動き出すぞ。」
「帝が?」
「妻を攫ったお主達を殺める事など、あの男にとっては容易い事よ。」
少年はそう言うと、酒を一口飲んだ。
「大変でございます!」
「どうした?」
「茨木様、客人が・・」
「今行く、案内せよ。」
「はい!」
下働きの婢と共に茨木童子は地下の洞窟へと向かった。
「兄上、しっかりして下さい!」
「一体、何が起きた?」
「あの方が、突然苦しまれたかと思うと・・」
婢はそう言うと、震える指先で歳三が居る牢獄を指した。
するとそこには、苦しそうに呻きながら横たわっている一匹の鬼の姿があった。
「これは・・」
「どうやら、覚醒めの時が来たようじゃのう。」
「覚醒めの時だと?」
「今宵は朔(新月)じゃ。妖力が高まる時、この者は半妖故、己の流れる血の所為で苦しんでおる。」
「血だと?」
「そうじゃ。この者の母親は、北方の誇り高き鬼の一族ぞ。だが、父親の方は名もなき雑色よ。」
「霞様は、人の子を身籠り家を追われたと・・」
「そうじゃ。」
「何と・・」
「この者を救う為の方法は、ひとつしかない。」
「それは?」
「鬼の精を、その者に注ぐ事よ・・」
「漸く見つけたぞ、雑鬼共。」

背後から地が震えるかのような声がして茨木童子達が振り向くと、そこには怒りで真紅の瞳を滾らせながら彼らを睨みつけている千景の姿があった。

「さぁ、我妻を返して貰おう。」
「それは出来ぬな。何故なら、そなたの妻は今、死にかけておる。」
「何だと!?」
「妻を救いたくば、その身に鬼の精を注ぐがいい。」
「そこを退け。」
「部屋を用意せよ。」
「わかりました。」
婢と共に、歳三を横抱きにした千景は地下の洞窟を後にした。
自分の腕に抱かれている歳三は、銀髪に三本の角を生やした姿だった。
「お前は下がれ。」
「はい・・」
御帳台の上に歳三を寝かせた千景は、そっと彼の頬を優しく撫でた。
「お前は永遠に俺のものだ。」
千景はそう言うと、歳三の唇を塞いだ。
歳三は、闇の中を歩いていた。

(ここは、何処だ?)

暫く歳三が歩いていると、彼は藤の木がある池へと辿り着いた。

(ここは、一体・・)

「漸く来たわね。」
「あんたは・・」
歳三が向こうからやって来た、一人の女の顔を見ると、彼女は銀髪で自分と同じ三本の角を持っていた。
「その懐剣、ずっと持っていてくれたのね。」
女はそう言うと、歳三を抱き締めた。
「あんたが、俺の・・」
「会いたかった、吾子よ。」
女は涙を流しながら、歳三を抱き締めた。
「あなたがここに居るという事は、あなたは今、死にかけているのね?」
「あぁ・・」
「歳三、良くお聞きなさい。わたいはあなたと共に過ごした時間は短かったけれど、わたしはあなたをいつまでも見守っているわ・・」
女は、歳三の頬を撫でた後、寂しそうな顔をして彼に微笑んだ。

―歳三

遠くで己の名を呼ぶ声が聞こえているというのに、歳三は何故かずっと女の傍に居たかった。

「さぁ、もう行きなさい。」
「でも、俺は・・」
「お前の帰りを、待っている者が居ます。」

さぁ、と歳三を促すかのように女は彼の背を押した。

「待ってくれ、まだ話を・・」

歳三は慌てて女の元へと向かおうとしたが、女は徐々に藤の花に埋もれ、その姿が見えなくなっていった。

「待ってくれ、お願いだ!」

―その子の為に、生きなさい。

女は、歳三の下腹を指すと、消えた。

「お願いだ、待ってくれ・・」
「歳三、目が覚めたのか?」
「千景・・どうして、ここは・・」
「お前は三日も眠り続けていたのだ。」
「三日も・・」
「熱は、下がっていたようだな?」

千景はそう言うと、歳三の額に手を当てた。

「薬湯だ。」
「ありがとう・・」

千景から受け取った薬湯を歳三が一口飲もうとした時、彼は突然激しい吐き気に襲われた。

「大丈夫か?」
「あぁ・・」

程なくして、薬師が呼ばれた。

「どうだ?」
「恐れながら申し上げます・・中宮様、ご懐妊おめでとうございます。」
「え?」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:40:04 PM
コメント(0) | コメントを書く


「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「はじめ、お前は今日からあの家の事など全て忘れなさい、いいわね?」
「はい。」
「あなたが可愛がっている太郎君も、あなたと一緒に雪村家の養子として迎えたから、これからは気兼ねなく会えるわよ。」
「ありがとう・・ございます。」
「それよりも、あなたのお道具類・・あなたのお母様の形見の品々ですけれど、全てこちらで取り戻しましたからね。」
「え?」
「まぁ、あの人達への手切れ金というか、縁切り代わりね。どれも素晴らしいものばかりで、これならばいつあなたを入内させても良さそうね・・」
「奥様、本当にありがとうございます。」
「やめて。」
はじめが綾の方に向かって頭を下げると、彼女はぴしゃりとそう言った。
「え?」
「そのような呼び方はやめて頂戴。家族になったのだから、これからはわたしの事は、“お母様”と呼んで頂戴。」
「はい・・お母様・・」
「姉様~!」
「太郎君っ!」
はじめはそう言うと、太郎君と抱き合った。
「そうか・・はじめは母上に可愛がられているのか。」
「えぇ、わたしも以前、気になっていたので、はじめさんがわたし達の家族になって良かったです。」
「あぁ、俺もそう思う。」
「これでひと安心、ですわね。後は・・」
「もうそれ以上言うな、江。」
「現実から逃げてはいけませんわ、姫様!」
「あのなぁ、いくらお前が色々な呪いやらお札やらを試しても、男だから子は産めないんだって!」
「まぁ、そんな事はありません!神仏の力を持ってすれば、御子は必ず授かります!」
「勘弁してくれ~!」
歳三が弘徽殿に入内してから、一月が経った。
中宮―帝の正妃という地位と、実家という強力な後ろ盾があるお蔭か、はじめは何かと歳三に突っかかって来た藤壺女御達も、すっかり大人しくなった。
だが、ここでひとつの問題が浮上した。
それは、後継者、すなわち子供の事であった。
男同士である二人の間に子が出来ぬのは当たり前の事なのだが、それ世間は許さなかった。
「早く、二人に御子が出来れば良いのだが・・」
「しかし、一向に御子が授からないのは、何が原因が・・」
「やはり、鬼が・・」


(あ~、うるせぇな・・)

歳三は日に日に大きくなる周囲の雑音に耳を塞ぎながら、琵琶を奏でていた。
この時代、姫君の楽器と言えば箏、若君の楽器といえば横笛や琵琶だったが、何故か歳三は後者の楽器を奏でるのが好きだった。
琵琶を奏でると、周囲の雑音が消え、心が研ぎ澄まされるような気がした。
「誰か、居るのか?」
はらりと中庭の紅葉が散り、歳三は琵琶を奏でる手を止めると、何者かの気配を木の上に感じた。
「そなたが、噂の鬼姫か?」
そう言いながら木の上から降りて来たのは、墨黒色の水干姿の少年だった。
「てめぇ、何者だ?」
「・・その懐剣、見覚えがあるぞ。あの御方の物だ。」
「あの御方?」
「ほぉ・・その様子だと、そなたは何も知らぬようだな?」
そう言った少年は、黄金色の瞳で歳三を見た。
「何だ?」
「中宮様~!」
「中宮様~!」
渡殿から何処か慌てたような衛士達の声が聞こえ、歳三が少年に背を向けた後、彼の気配は煙のように掻き消えた。
「どうした、何があった?」
「はじめ様が、攫われました!」
「何だと!?」
「はい・・」
「姫様、どちらへ?」
「決まっているだろうが、はじめを探しに行くんだよ!」
「姫様~!」
弘徽殿を飛び出した歳三は、鬼に攫われたというはじめを探す為、闇に包まれた京へと向かった。
「歳三は何処だ?」
「中宮様なら、鬼に攫われた妹君様を探しに都へと向かわれました。」
「何だと!?」
「はじめ、何処だ~!」
闇に包まれた都の中で、歳三ははじめを探していていた。
彼はいつも着ている小袿姿ではなく、白の狩衣姿だった。

(畜生、あいつは一体何処に・・)

「そのように闇雲に探しても、そなたの弟は見つからぬぞ。」
「てめぇ・・」
「そう怒るではない。」
少年はそう言って笑うと、そっとその指先を大江山の方へと向けた。
「そなたの弟は、あの山におる。」
「そうか・・」
「一人で行くには、遠過ぎるであろう。どれ、馬を貸してやろうぞ。」
少年はそう言って指を鳴らした。
すると、美しい白馬が歳三の前に現れた。
「ありがとう、恩に着るぜ!」
歳三は白馬に跨り、大江山へと向かった。
「礼には及ばぬ。」
 少年はそう小声で呟くと、そのまま闇の中へと消えていった。
「おい、こいつがあの鬼姫か?」
「はい、間違いありません。」
「そうか・・」
一方、大江山では酒呑童子と茨木童子が、手燭で自分達が攫った鬼姫の顔を照らすと、それは全くの別人だった。
「おい、こいつは俺達が狙っていた姫君とは全くの別人じゃないか!」
「何だと!?」
「お前、ちゃんと顔を確認しろと言っただろうが!」
「す、すいません!」
「どうすんだ!?」
「そんな事言われてもなぁ・・」
二人がそんな事を言い合っていると、はじめがゆっくりと目を覚ました。
水が滴る音ではじめが目を覚ますと、そこは暗くて狭い洞窟の中だった。

(ここは、一体・・)

はじめがそんな事を思いながら洞窟の外へと出ようとした時、指先に鋭い痛みが走った。

「逃げようとしても無駄だ。この洞窟には、強い結界を張っておいた。」

そう言いながらはじめの前に現れたのは、赤髪の大男だった。

「貴様、何者だ?」
「この結界に反応しているという事は、どうやらあんたは鬼・・俺達と同じようだな?」
「俺が、鬼だと?」
「その様子だとあんた、自分の出自について何も知らないようだな?」
「あんたは一体何を・・」
はじめがそう言って赤髪の大男を見た時、彼は気を失った。
「あれ、どうした?」
「お前が臭いから気を失ったんだろ。」
「そうか?」
酒呑童子はそう言うと、自分の体臭を嗅いだ。
「そんなに臭くないぞ。」
「ったく、お前ぇは・・」
茨木童子は溜息を吐きながら、洞窟を出た。
「ここから逃げようなんて考えるなよ?」
「おい、何処へ行く気だ!?」
はじめはそう言って洞窟から出ていく二人に呼び掛けたが、彼らの姿はそこにはなかった。
(どうすれば、ここから出られるんだ?)
はじめが大江山の洞窟にある牢で幽閉されている頃、歳三は白馬で大江山を目指していた。
「あと少しか・・」
歳三は馬を休ませる為、近くにある泉で水浴びする事にした。
晩秋に差し掛かる頃だというのに、長時間馬で走っていた所為か、歳三は汗を掻いていた。
「あ~、気持ちいい。」
そろそろ歳三が泉から上がろうと思った時、突然ざぶんと大きな水音がした。
と同時に、先程まで澄んでいた泉の水が急に濁り始め、そこから悪臭が漂ってきて、堪らず歳三は泉から上がった。
「はぁ~、久しぶりだぁ、こうして水浴びするのは。半月振りかぁ~!」
(何だ、こいつは?)
歳三が訝し気に赤髪の大男を見ると、彼が黄金色の瞳で歳三を見つめた。
「あれぇ、先客が居る!」
「てめぇ、何者だ?」
「あんた、鬼だな?」
酒呑童子はそう言うと、歳三を見つめた。
「は、何言って・・」
「俺にはわかるぜ、同じ眷属に会えば一目でわかる。」
彼は、そう言うと歳三を自分の方へと引き寄せた。
「俺に触れたら殺す!」
歳三は懐剣を彼に突き付けると、彼は少し驚いたような顔でそれを見つめていた。
「これを、何処で手に入れた?」
「この懐剣を、知っているのか?」
「あぁ・・これは・・」
「おい酒呑、これは、霞様のものだ。」
そう言ったのは、茨木童子だった。
「あんた、悪いが俺達と一緒に来て貰うぜ?」

酒呑童子はそう言うと、臭い息を歳三に向かって吐いた。
それをまともに喰らった歳三は、気を失って倒れた。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:35:39 PM
コメント(0) | コメントを書く


「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「姫様、頭中将様が・・」
「文なら送り返せ。」
「いいえ、それが・・」
「歳三様~!」
歳三が江に髪を梳いて貰っていると、外から男の声が聞こえて来た。
「何故、文を送っても色好い返事をしてくれないのです!?」
頭中将は文を送るだけでは飽き足らず、雪村家へ歳三に一目会う為にやって来た。
だが、歳三は彼の想いに応えるどころか、留守を決め込んだ。
(しつけぇな・・)
「貴様、そこで何をしておる?」
「そなたこそ、何者だ!」
「まずはそちらから名乗るが、礼儀であろう。」
「わたしは頭中将、藤原頼光だ!こちらへは、歳三様に求婚しに参った!」
「求婚だと?笑止!」
千景はそう叫ぶと、大きな声で笑った。
「何が可笑しい!」
「歳三姫は、我妻となる女だ。それを、求婚しに来るとは片腹痛いわ、去ね。」
「何!?」
「去ねと言っておる。」
千景はそう言うと、頭中将に向かって何かを小声で唱えた。
すると、彼の周りに黒い蛾のようなものが突然現れ、彼は悲鳴を上げながら雪村家を後にした。
「助かったぜ。」
「これから三日、お前の元へ通う。」
「は?」
「歌を詠むのが苦手でも、俺の為に歌を詠め、わかったな?」
一方的に千景は歳三にそう言うと、そのまま供の者と共に雪村家を後にした。
「姫様、どう致しましょう?」
「無視すりゃいい。」
本気で千景が自分の元へ通う訳がないだろうと、歳三はたかをくくっていた。
だが、千景は宣言通り、雪村家を後にした。
この時代、男性が女性の元へと訪れ、歌を贈り合い、結ばれた後、「後朝の文」を男性側が女性側へと贈り、そして女性側の両親の許しを得て、三日目に所顕(披露宴)を行うのが、貴族の結婚であった。
歳三は江や千鶴に手伝って貰いながら、三日間千景と歌を贈り合った。
「歳三、そろそろ俺に肌を許してくれぬか?」
「それは出来ねぇ。」
「何故だ?」
「俺は、男だぞ。それなのに、どうして俺を入内させようとしているんだ?」
「惚れた者を傍に置くのに、理由はあるまい?」
 さらりと、恥ずかし気もなく歯が浮くような台詞を言うと、千景は歳三を褥の上に押し倒した。
「おい、待て・・」
「もうこれ以上、待てぬ。」
「あぁ、やめっ・・」
「やめぬ。」
灯台の火が、仄かに睦み合う二人の姿を照らした。
「まぁ姫様、“後朝の文”を頂いたのですね!早速返事を書かなくては!」
「あぁ、そうだな。」
 雪村家で、歳三と千景の所顕が行われた。
それは、豪華絢爛なものだった。
「これで雪村家も安泰じゃ。」
「さよう。鬼の妃となられた歳三様ならば、必ずやこの家に福を招きましょうぞ。」
親戚の男達がそう言いながら新郎新婦を見ると、彼らはまるで一巻の絵巻物に出て来るかのような美しさだった。
新婦の歳三は、深紅の唐衣を纏い、目元に紅い化粧を施し、頭にはかざしを挿していた。
対する新郎の千景は、祝いの場に相応しい金色の直衣姿だった。
「まぁ、これは見事ですわね。」
「鏡箱の美しい蒔絵といったら!」
「衣も香も、全て一級品ですわね!」
「お館様は、本当に姫様を愛しておられるのですね!このような見事なお道具類を全て揃えられるとは・・」
入内する際、歳三の道具類―屏風や几帳などの家具をはじめ、衣や香、和琴や横笛などの楽器類に至るまで、全て正道が用意してくれた。
「当然でしょう、我が娘は弘徽殿に入内するのですから、これ位揃えなければね。」
そう言った綾の方は、終始嬉しそうな顔をしていた。
正室(北の方)である彼女は、常日頃張り合っている側室の荻の方が悔しがるさまを見て、彼女の鼻っ柱を折ってやって胸がすくような思いであった。
綾の方は、側室の子でありながらも乳兄妹である千鶴を可愛がり、彼女の道具類も歳三と同様のものを正道に用意させた。
「千鶴は、あの憎たらしい女の娘ですけれど、この子は上の二人と違って全く似ていないから、可愛いわ。」
「お義母様・・」
「千鶴、これから歳三の事を支えてやってね。」
「はい。」
「ねぇ、歳三とあなたが入内するまで、宮中の“鬼騒ぎ”が収まればいいのだけれど。」
「えぇ。」
こうして、歳三と千鶴の入内は、内裏が美しい桜が咲き誇る季節の頃であった。

―見ろ、あの方だ・・
―流石右大臣様の姫君様だけあってか、美しい衣だ・・
―あの射干玉の如き黒髪、美しい。

「好き勝手言いやがって。」
「良いではありませんか、兄様。」

入内した歳三は、清涼殿に近い弘徽殿へと千鶴と共に入った。
後宮の女達は、帝の心を射止めた妃の顔見たさに、挨拶に来る者が絶えなかった。

「ふん、人のご機嫌取りに忙しい奴らだぜ。」
「まぁ、姉様・・」
「姉様、藤壺女御様がいらっしゃいました。」
「わかった。」
「あら、あなたが弘徽殿女御様ね。主上の心を一瞬で射止めたとだけあって、噂通りの美しい方ね。」

そう言った藤壺女御は、後ろに控えている女房達と顔を見合わせながら笑った。

(何だ?)

「どうした、俺の顔に何かついているのか?」
「いいえ。」

(変な女だな。)

「ねぇ、噂通りの御方だったわね。」
「お綺麗な方だったけれど、口はまるで男のようにがさつだったわ!」
「あんなお方が、中宮様なんて笑っちゃう。」
「本当よね。」
藤壺女御達が、そんな事を言い合って渡殿を歩いていると、向こうから走って来た女童とぶつかり、彼女が手に持っていた樋箱の中身を彼女達は頭から被ってしまった。
「おぉ臭い、まるで肥溜めのようね。」
「新しい麝香ではなくて?」
周囲の嘲笑う声と視線に耐え切れず、藤壺女御達は逃げるようにして自分達の局へと戻っていった。
「あれはやり過ぎじゃないのか?」
「何をおっしゃいます!主を侮辱されたお返しとして、これ位しないと気が済みませんわ!」
江はそう言って鼻息を荒くした。
(これから何もなきゃいいんだが・・)
そんな歳三の心配は、杞憂に終わった。
「ねぇ、これから鬼姫が入内されるらしいわよ。」
「鬼姫?」
「ほら、斎藤家の・・」
「あぁ。」
女房達の話を聞きながら、歳三は暑い夏が過ぎ去った事を肌で感じ、安堵の表情を浮かべた。
やがて、京に秋が訪れた。
「斎藤家が、打毬大会に出場すると?」
「はい。何でも、大会の賞品は美しい螺鈿細工が施された今は亡き皇女様の箏だとか。」
「へぇ・・」
「若様?」
「面白そうだね。」
「もしかして、出場なさるおつもりで?」
「最初から、そのつもりだけど?」
打毬大会は、宮中で行われた。
大会には、武芸に秀でた者達が出ていた。
「お義母様、あれは母上の形見なのです。どうか・・」
「お黙り!」
斎藤家の家計は火の車で、家財道具一式や調度品を売り払っても焼け石に水で、唯一価値のある螺鈿細工が施されていた箏を、この大会の賞品として差し出す事でしか家計を救う方法がなかった。
はじめは母の形見を取り戻そうと大会に出たが、生まれてから一度も馬に乗る事はおろか外出すらしなかった事がない彼は、敵に勝てる筈がなかった。
(もう、駄目だ・・)
「はじめ、お前ぇの仇は俺が討つ。」
「歳三様・・」
腰下までの長い髪をひと纏めにし、狩衣姿で颯爽と馬に跨る歳三の姿は、まるで絵巻物に登場する貴公子のように凛々しかった。
「あれは・・」
「中宮様・・」
「中宮様が御自ら、大会にご出場なされるとは。」
打毬大会は、歳三達の組が勝ち、はじめは母の形見を取り戻した。
「はじめ、うちへ来い。あんな家に居ても、お前ぇは幸せになれねぇ。」
「歳三様・・」
「母上、よろしいでしょうか?」
「お前がそう言うのなら、わたくしは何も言いませぬ。」

こうして、はじめは雪村家の養女となった。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:32:46 PM
コメント(0) | コメントを書く




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「さっさとこの汚い手を離しやがれ!」
「気が強い女は好きだ。お前が入内したあかつきには、我妻にお前を迎えようぞ。」
「うるせぇ!」
千景の態度に苛立った歳三は、彼の頬を平手で打ち、池を後にした。
「千景様、こちらにおられたのですね。どうなさったのです、嬉しそうな顔をして?」
「何、天女に会っただけだ。」
「天女、ですか?」
「あぁ。菫色の瞳を持った、射干玉の美しき髪を持った天女だ。」
「先を急ぎますよ。」
「あぁ、わかっている。」
西国から遠路はるばる京へとやって来た千景一行は、雪村家で暫く世話になる事になった。
「歳三兄様、どうして水浴びなどされたのですか?」
「こんなに暑い日に、家ん中で引き籠もってられるかっての!」
「だからって、髪も乾かさずに・・」
「なぁ千鶴、父上達の局が何やら騒がしいようだが、何かあったのか?」
「帝がおかくれあそばしてから、次の帝が中々決まらない事は兄様もご存知でしょう?」
「あぁ。」
「西国から、鬼の頭領のご一族の方達がいらして暫くこちらに滞在されるそうです。」
「へぇ。ま俺には関係のねぇこった。」
歳三はそう言うと、気怠そうな様子で寝転がった。
「あ~、暑くてやってられねぇ~」
「まぁ、姫様!いけませんわ、そのようなだらしのない格好をなさっては!」
「ちっ、見つかったか。」
歳三は舌打ちすると、ゆっくりと起き上がった。
「姫様、頭中将様から文が届きました。」
「またあの気障野郎からか。江、お前ぇは俺の代わりにあいつに文を出しておいてくれ。」
「姫様・・」
「俺ぁ歌を詠むのは好かねぇ。まわりくどくて苛々する。」
「嘆かわしい事、雪村家の一の姫様ともあろうお方が・・」
 歳三の乳母・江は、そう言うと袖口で涙を拭った。
「あら、こちらにおられたのね、姉様。」
サラサラと衣擦れの音が聞こえたかと思うと、千鶴の長姉で歳三の異母妹・静が歳三と千鶴の局へと入って来た。
「千鶴、あなたはいつもこちら(西の対屋)にいるのねぇ。そんなにわたし達の事が嫌いなの?」
「そんな訳では・・」
「そう。では、こちらの縫い物を明日の朝までに仕上げておいてね。」
「はい・・」
「それじゃぁ、わたしは風間様にご挨拶してくるわね。」
少し胸を張り、静はそう言って笑うと、そのまま局から去っていった。
「ふん、側室の娘の癖に、偉そうにしやがって。あ、千鶴、てめぇはあいつらとは違う。」
「わかっています。」
「手伝うぜ。歌を詠むのは苦手だが、楽器を奏でる事と針仕事は好きなんだ。」
「ありがとうございます。」
「さっさと針仕事済ませるぞ。」
「はい。」
「はじめ姉様、いらっしゃいますか?」
「どうした、太郎君?」
「帝の死者から、文が届いております。」
「わかった。」
太郎君から帝の文を受け取ったはじめは、外に人の気配を感じた。
「どうかなさいましたか、姫様?」
「・・外に、誰か居るような気がしてならいのだが。」
「気の所為でございましょう。」
「そうか。」
(あ~、危なかった。)
“斎藤家には鬼姫が棲んでいる”という噂の真偽を確かめる為、沖田総司はその姫君の顔を一目垣間見ようとしたが、失敗してしまった。
「総司様、申し訳ありませぬ。姉様に気づかれてしまいました。」
「謝らないで。それより、僕の文は渡してくれた?」
「はい、確かに。」
「ありがとう、はい、これ。」
総司がそう言って太郎君に渡したのは、唐菓子だった。
「あの鬼婆には内緒だよ?」
「わかりました!」
元気よく駆けてゆく太郎君の背を見送りながら、総司は斎藤家を後にした。
「若様、また外へ・・」
「烝か。ねぇ、斎藤家の姫君の事、何かわかったの?」
「三の姫様でしたら・・」
「違う、僕が言っているのは、“落窪の君”の事だよ。本当に、あの子は鬼姫なの?」
「いいえ。はじめ姫様は、亡くなられた母君が高貴な血筋のようでして・・」
「ふぅん。でも、実母が亡くなったから、冷遇されているんだね。あの鬼婆から一刻も早く、あの子を救い出してやりたいなぁ。」
「若様、もしかして何か変な事を企んでいるんじゃないですよね?」
「まさかぁ。」
そう言った総司の翡翠色の瞳は、妖しく煌めいていた。
「あ~、やっと終わったな。」
歳三は朝から始めた膨大な針仕事を終え、凝り固まった肩の筋肉を少し指先でほぐした。
「あの女、一体何様のつもりなんだ?てめぇの仕事を俺達に押し付けやがって。」
「兄様・・」
「ふん、入内するからって、最近調子に乗っているんだな。ま、あちらの方は娘を入内させてゆくゆくは帝の御子を産ませたいのだろうよ。」
「いけません、それ以上言っては。」
「だがなぁ・・」
「兄様、久しぶりに兄様の横笛を聞きたいです。」
「そうか。俺も、千鶴が弾く箏が聞きてぇなぁ。」
「では、合奏致しましょう。」
西の対屋の方から美しい横笛と箏の音が聞こえ、千景は酒宴からそっと抜け出し、額の音に導かれるようにして渡殿へと向かった。
「千景様、どちらへ?」
背後から声を掛けられ、千景が振り向くと、そこには側室の荻の方が立っていた。
「少し、酔いをさましに・・」
「まぁ、そうでしたか。」
荻の方はそう言って、そのまま東の対屋へと向かった。
(解せぬ女だ・・)
 千景は、そのまま西の対屋へと向かった。
御簾越しに局の中を垣間見ると、そこには泉で会った黒髪の女が優雅に横笛を拭いていた。
(美しい・・)
夏の月夜に仄かに照らされたその女の白い肌は雪のように美しく輝いていた。
その女の隣で箏を弾く姫君は、春の女神のように愛らしかった。
「楽しかったな。」
「えぇ。」
千鶴がそう言って灯台の火を消そうとした時、一陣の強い風が吹いた。
「きゃぁっ!」
千鶴は少しよろめき、倒れそうになったが、歳三が慌てて彼女を抱き留めたので、彼女に怪我は無かった。
「大丈夫か?」
「はい。」
「お前、泉で会った女だな?」
突然背後から何者かに抱き締められ、歳三が振り向くと、そこには泉で会った男が立っていた。
「こうすることで、俺を拒まぬ女は居なかった。」
「うるせぇ!」
歳三はそう叫ぶと、男に頭突きを喰らわせた。
「おのれ・・」
「その汚ねぇ手を俺から退かしやがれ!」
「ますます気に入ったぞ。」
男はそう言って笑うと、そのまま局を後にした。
「なぁ千鶴、誰だあの気色悪い男は?」
「あの方は、西の頭領である風間千景様ですよ。」
「へぇ。あいつが帝になるんなら、もうこの世は終わりだな。」
「歳三様、お館様がお呼びです。」
「父上が?」
「はい。」
「わかった、すぐに行く。」
歳三はそう言うと、局から出て父達が居る東の対屋へと向かった。
「父上、お呼びでしょうか?」
「歳三、そこへ座れ。」
「はい。」
東の対屋に入ると、そこには父・正道とその正室で母である綾の方と、静、そして今しがた自分を抱き締めた男の姿があった。
「てめぇ・・」
「歳三、こちらの方は帝となられる風間千景様だ。」
「帝だぁ!?」
「酷いわ、お父様!わたくしの代わりに歳三姉様を入内させるなんて!」
そう叫んだ静は、わっと泣き叫んだ。
「はぁ、俺が入内!?」
「そうだ。」
「何で、俺が・・」
「俺は、お前が気に入った・・俺の妃となれ。」
「父上・・」
「これはもう、決まった事なのだ。」
「な・・」
静は恨めしそうな顔で歳三を睨むと、寝殿から出て行った。
こうして、歳三は入内する事になった。
「一体、どうなっていやがる?」
「兄様・・」
「大丈夫だ、千鶴。」
「本気なのですか、殿!?本当に、あの子を入内させると?」
「あぁ。」
「また、あの陰陽師に何か吹き込まれたのですね?」
「歳三の入内は、天が決めた事だ。」

そう言って正道は、夜空に輝く星空を見つめた。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:29:31 PM
コメント(0) | コメントを書く




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「去(い)ね、ここは我らの土地ぞ!」
「そうか。だが、そなたらは人に害を及ぼす・・」
「我らは誇り高き鬼ぞ!お主らのような雑魚を相手にする程、衰えておらぬわ!」
両者共にひかず、暫く膠着状態になっていると、彼らの前にコロコロと一個の毬が転がって来た。
「貴様ら、何奴だ?」
黄金色の髪を揺らしながら、少年は真紅の瞳で帝の軍を睨みつけた。
「千景様、さぁ・・」
「父上。」
「千景、中へ入っておれ。」
「はい。」
少年はそう言うと、女房に連れられて屋敷の中へと戻っていった。
「千景、また外へ行っていたのですね。外には人間が居るから、あれ程外へは行くなと・・」
「申し訳ありません、母上。」
「わかれば良い。」
千景の母・萩の方はそう言うと、衣擦れの音を立てながら部屋の奥へと消えていった。
「父上、話とは何ですか?」
「千景、京では近頃“鬼騒ぎ”が起きておる事は知っておろう?」
「はい。それが我らと何の関わりが?」
「あやつらは、我らが京に居る鬼たちを唆しておると思っておるのだ。」
「笑止。我らがそのような事をする筈はありませぬ、大方、我らの名を騙る雑魚共の仕業にございましょう。」
「あぁ、そうだ。我らがそのような卑劣な真似をする訳がない。」
「大江山の者達でしょう。あやつらは我らと同族であっても、格下ですからね。」
そう言った千景の声には、あのならず者達への蔑みと嘲りが含まれていた。
鬼と言っても、日本全国各地に様々な鬼が存在する。
雑魚のような低級の鬼も居れば、千景達のような神に近い鬼も居る。
しかし、上級の鬼、とりわけ“四家”と呼ばれる鬼の一族達と、“はぐれ鬼”と呼ばれる鬼達は互いに憎み合っている。
人と同じように、鬼や妖の世界にも派閥や序列といったものが存在し、千景が言う“大江山の者達”は、鬼の世界に於いて最下層の身分に属する者達である。
そんな者達と同等に扱われる事は、千景達にとって屈辱以外の何者でもなかった。
「人間どもの浅知恵には困ったものです。人間を襲うなど、餌に困った野良犬がする事でしょう。」
「千景、そなたはいずれ、この西国を統べる者となる。良いか、決して人間に心を許してはならぬぞ。」
「はい、父上。」
「お館様、大変です!」
「どうした?」
「帝が・・おかくれあそばしました!」
「何と・・それはまことか?」
「はい。」
「父上?」
「この国に、嵐が起こるやもしれぬ。」
千景の父・千歳は、黒雲に覆われた空を見つめた。
京では、帝の急逝にともない病弱な東宮の千代丸が帝となったが、彼はその座に就いて僅か数日余りで床に臥せ、そのまま亡くなった。
「何と恐ろしい・・主上も東宮様も相次いで亡くなられるとは・・」
「これは祟りじゃ。」
「あの桐壺の女房の呪いに違いない!」
帝と東宮が相次いで亡くなり、京に居る貴族達は皆口々に、非業の死を遂げた桐壺の女房の祟りだと騒ぎ始めた。
それよりも、彼らにとって一番の問題は、帝と東宮亡き後誰がこの日の本の国を統べる事になるのかということだ。
「主上の側室の御子らはまだ幼く、縁者にも主上のような頑健な者はおらぬ、どうしたものか。」
「このままでは、この国が滅びてしまう・・」
「神力に頼るしかないものか・・」
ある日の朝、貴族達がそんな事を話していると、そこへ一人の僧侶が通りかかった。
彼の名は雪英、僧侶にしては珍しい有髪でありながら、先帝からの信頼が厚かった。
彼は占い―予見の力を持ち、この世に起こる全ての出来事を予言出来るという。
「鬼に、この国を統べさせてはいかがでしょう?」
「鬼に?」
「さよう。人の命など儚いもの。されど鬼ならば人よりも長く生きられまする。」
「しかし、あやつらは人喰いぞ!」
「人喰いというても、それをするは下等の雑鬼共だけです。彼らの多くは神に近しい存在。こちらが畏敬の念を抱いて接すれば、上手く行きましょう。」
「そうか・・」
「それは良いのう。」
雪英の予言に従い、貴族達ははじめて鬼の頭領を次の帝として選ぶ事を決めた。
「おお~い、酒呑、居るか!?」
「うるせぇな・・」
京からさほど離れていない大江山。
その一角に、無類の酒好きである越後からやって来た鬼の頭領・酒呑童子が構える屋敷があった。
その母屋の中で、赤い髪をなびかせた酒呑童子は、今日も酒を飲んでいた。
「どうした、茨木?そんなに慌てて、何かあったのか?」
「実は、人の代わりに鬼の頭領が帝に選ばれるんだと!」
「それは、本当か!」
「あぁ。もしかしたら、俺達も・・」
淡い期待を抱いていた酒呑童子と茨木童子だったが、それは儚く砕け散った。
「まさか、そなたが帝に選ばれるとはな・・千景。」
「精進致します、父上。」
「良いか、決して人間に心を許してはならんぞ。人間と鬼は違うもの。決してわかり合えぬ。」
「わかっております。」
「これを持ってゆけ。」
千歳は、そう言うと里を離れる千景に風間家当主の証である懐剣を持たせた。
「この懐剣が、そなたを守ってくれる。」
「わかりました。」
「耳を貸せ。」
「はい。」
千景に、千歳は懐剣の秘密を明かした。
「この懐剣は、“夫婦刀”だ。必ず、その懐剣がお前を魂の伴侶の元へと導いてくれる。」
「大切にいたします。」
「父は、離れていてもそなたの事を思ってるぞ、吾子よ。」
「わたしもです、父上。」
それが、父と子の今生の別れだった。
千景が京へ向かった数日後、里は人間に襲撃された。
「お館様、早くお逃げください!」
「もはやこれまで。」
千歳はそう言うと、炎に包まれた御帳台の中で自害した。
(来世で会おうぞ、吾子よ。)
「そうか、父上が・・」
「千景様・・」
「暫く、一人にしてくれ。」
「かしこまりました。」
里の襲撃と、父の自害を知った千景は、真紅の瞳で京を―人間達が住む都を見た。
「人間と鬼は、決して相容れぬ・・」
(だから、俺は・・)
「若様~」
「歳三様~」
「どうなさったの、皆さん?」
「千鶴様、いいところに!」
「歳三様が・・若様のお姿が、お屋敷の中を探しても何処にもいらっしゃらないのです!」
「これから歌合せの時間だというのに・・一体何処へ行ってしまわれたのか・・」
「千鶴様、歳三様がどちらに行かれたのか、わかりませぬか?」
「さぁ、わからないわ・・」
歳三の異母妹・千鶴は、そう言葉を濁した。
歳三が、歌合せがある時には何処かへ行ってしまう事を千鶴は知っていた。
彼は、歌を詠うのが苦手なのだ。
貴族としての嗜みで一番大切な和歌を詠んでそれを贈る事が、歳三は大の苦手だった。
横笛や箏を奏で、美しい字を書ける歳三だったが、和歌だけは駄目だった。
「ったく歌合せなんて冗談じゃねぇ・・」
肌に纏わりつくかのような暑さを凌ぐ為、歳三は幼少の頃から遊び場にしている泉で水浴びをしていた。
夏の陽光に照らされ、歳三の白い雪のような肌は時折水を弾いて美しく輝いていた。
「はぁ~、生き返る。」
一日中風通しが悪い部屋の中に居て、女房達から宮中の噂話を延々と聞かされてうんざりしていたのだ。
「女ってやつは、何であんな下らねぇ事を話せるんだか・・」
歳三は、男でありながらも父の方針で姫君として育てられていた。
それは、彼が一度生死の境を彷徨った後、高名な僧侶から“若君は姫君として育てた方が、災いから身を守れる”と言われ、父はその戯言を信じてしまったのだった。
その所為で歳三は貴族の若君として馬に乗る事も蹴鞠をする事も出来ずに、鬱憤を溜め込んでいた。
しかし、水浴びをした事でそういった負の感情が洗い流されてゆくようだった。
そろそろ彼が水浴びを終えて泉から上がろうとした時、一人の少年が泉へとやって来た。
彼は旅装束姿で、黄金色の髪を揺らしながら真紅の瞳で歳三の裸体を見ていた。
(何だこいつ?)
「女、名は?」
「てめぇこそ何者だ?人に名を尋ねるならまずはてめぇから名乗りやがれ。」
「・・気に入ったぞ、女。」
少年はそう言うと、歳三の腕をつかみその身体を己の方へと引き寄せると、そのまま彼の唇を塞いだ。
「てめぇ、何しやがる!」
「俺の名は風間千景だ。」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:26:29 PM
コメント(0) | コメントを書く




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。



華やかで美しい京の都。

だが、それは表だけの“顔”で、その裏の“顔”は貧困や飢え、疫病に苦しむ民達が暮らしている。
「ねぇ、また鬼が出たそうよ。
「嫌だわ・・」
「今度は、一体誰が?」
後宮で女達がそんな事を話していると、外から悲鳴が聞こえた。
「大変よ、また鬼が出たわ!」
「何ですって!?」
「今度は何処に出たの!?」
「桐壺だそうよ・・」
「桐壺・・“あの方”が亡くなられた場所だわ・・」
女達がそう言って恐怖に顔を引き攣らせた後、鬼が出たという桐壺の方を見た。

―あぁ、恐ろしい・・
―あの方の祟りだわ・・
―恐ろしくて堪らない。

「今宵は女共が煩く騒いでおるな。」
「えぇ・・また、鬼が出たとか。」
「桐壺か?」
「“あの方”の祟りだと・・」
「女共の噂は放っておけ。」
「はい。」
「主上、東宮様がいらっしゃいました。」
「そうか。」
「父上。」
衣擦れの音と共に帝の寝所へと入って来たのは、彼の一人息子である東宮・千代丸であった。
千代丸は豪胆で頑健な帝とは対照的で、病弱で繊細な性格であった。
こんなかよわい者が帝になれるものかという、口煩い宮中雀の陰口を聞いて育った千代丸は、武術ではなく和歌や琵琶などに長けていた。
「身体の具合はどうだ?」
「父上から頂いたあの丸薬を飲んで良くなりました。」
「そうか、それは良かった。」
「それにしても父上、また桐壺で鬼が出たとか・・」
「女達は、あやつの祟りではないかと怯えておる。」
「そうですか・・」
「それよりも千代丸、そなたもそろそろ元服を迎えるな。そなたには、美しく高貴な姫を・・」
「父上、わたくしはまだ結婚など考えておりませぬ。」
「そう言うな。」
千代丸は溜息を吐きながら、父の与太話に付き合っていた。
京の“鬼騒ぎ”は、治まるどころか、ますます酷くなってゆき、次第に都中が鬼に怯え、“鬼狩り”と称して民達が浮浪者の集落を焼き払ったりする事件が頻発していた。
そんな中、一人の赤子が産声を上げた。
「ごめんなさいね・・」
女は涙を流しながら、白絹の産着に包まれた赤子を雪村家の正門前に置いた。
「姫様、そろそろ行きませんと・・」
「わかっているわ。」
女はそう言うと、我が子を抱き締めた。
「これはね、あなたのお祖父様の形見なの。どうか、迎えに来るまで元気でね・・」
それは、雪の降る夜の事だった。
同じ頃、雪村家の北の方・綾の方は、今まさに命を産み出そうとしていた。
「お方様!」
「どうか、お気を確かに!」
綾の方は最後の力を振り絞ると、男児をその身体から産み落とした。
「あぁ、これでこの家は安泰ね・・」
そう言って安堵の溜息を吐いたのも束の間、綾の方は赤子が乳を吸う前に息をしていない事に気づいた。
「お願い坊や、乳を吸って!」
「お方様・・」
我が子を喪った彼女の前に、下男が泣き叫ぶ赤子を抱いてやって来た。
「この子は?」
「正門前に捨てられておりました。」
「そう・・」
綾の方は、泣き喚く赤子を抱いた。
その瞳は、美しい紫をしていた。
「産まれたのか?」
「はい。」
綾の方はそう言うと、夫に捨て子を抱かせた。
「何と可愛い子だ。」
「殿、どうかこの子に名前を付けて下さいませ。」
「歳三というのはどうだ?」
「まぁ、良い名ですわね。」
こうして、捨て子は歳三と名付けられ、健やかに育った。
「若様~」
「歳三様、どちらにおられますか~?」
女房達が自分の姿を探して慌てふためく姿を、歳三は桜の木の上から眺めて笑っていた。
そろそろ部屋に戻ろうかと彼が木から降りようとした時、足を滑らせて地面にその身体を叩きつけられた。
「若様~!」
「若様~!」
歳三は、雲の上から自分を取り囲みながら泣き叫ぶ女房達を見ていた。
―どうしたの、坊や。
振り向くと、そこには頭に三本角をはやした銀髪の女―鬼が立っていた。
「俺は、このままあんたと一緒に居られるのか?」
「いいえ。」
鬼は、何処か寂しそうな顔をしてそう言うと、すっと雲の下―歳三の世界を指した。
「戻りなさい・・」
「待ってくれ、待って・・」
―また、会えるわ。
「待って!」
「歳三様がお目覚めになられました!」
「あぁ、良かった!」
死の淵から蘇った歳三を、そう言って綾の方は抱き締めた。
母の温もりを感じた歳三は、いつしかあの鬼の事を忘れてしまった。
同じ頃、斎藤家の、落ち窪んだ部屋に住んでいる一人の“姫君”が、今日も溜息を吐きながら針仕事をしていた。
「はじめ、居るかい、はじめ!」
部屋の戸から濁声と衣擦れの音が聞こえた後、一人の女が部屋にやって来た。
艶のない、乱れた髪にあばただらけのその女は、“姫君”に向かって何かを投げつけた。
「さ、仕事だよ。明日の朝までにやっておくんだよ、いいね!?」
「はい・・」
「全く、相変わらず陰気な子だこと。」
女―はじめの継母・淡路は、そう言った後部屋から出て行った。
一人部屋に残されたはじめは、涙を流しながら針仕事を続けた。
はじめの亡き母は皇女で、はじめの父は母が存命中だった時は優しくしてくれていたが、母が病で亡くなり、淡路と再婚してからは冷たくなり、次第にはじめは母屋から離れた部屋を、落ち窪んだ床の部屋を与えられて、使用人同然の扱いを受けるようになった。
寝る間もなく、食事を満足に与えられず、破れた古着ばかり与えられ、はじめはこれまで幾度も死にたいと思う事があったが、継母に対しては育ててくれた恩義があった。
「姫様、またあの婆にこんな針仕事を・・」
「大丈夫だ、阿漕。」
「お前、母屋に居ないと思ったらこんな所に居たのか!」
「あら、あんたあたしを心配してここへ?」
「いいや、残念ながら違う。また宮中で鬼が出たそうだ。」
「まぁ・・」
「また、“あの方”絡みなのか?」
「さぁ・・それよりも姫様、もうお休みになられてはいかがです?もう夜も遅いですし・・」
「あぁ、そうしたいところなのだが、この部屋は寒くてかなわん。」
「姫様・・」
冬を迎え、寒い日が続くというのに、はじめは薄着をさせられ、冷たい板張りの床には敷物一枚すらなく彼はひたすら針仕事ばかりさせられていた。
「あらお前、こんな所に居たのね。」
「三の君様・・」
「これを明日の朝までにやっておいて。」
「はい・・」
「嫌ぁね、惨めったらしい顔。」
はじめの義姉・三の君はそう言うと、彼の姿を見て笑った。
「なぁに、その顔は?わたしに何か言いたそうね?」
「いいえ、何でもありません。」
「そう・・」
三の君は、はじめに背を向けてそのまま部屋から出て行った。
「何ですか、姫様に向かって何と無礼な!わたくしが一言・・」
「良い。放っておけ。」
「姫様・・」
「はじめ姉様、こちらにおられますか?」
外から、何処か弱々しい少年の声が聞こえてきたので、はじめは部屋に彼を招き入れた。
「どうした、太郎君(たろうぎみ)?また誰かに苛められたのか?」
「はい・・」
「相手は大方、鈴丸だろう。」
「あいつ、姉様の事を余りにも馬鹿にするものですから、殴ってやりました。」
「親子揃って姫様を馬鹿にするなんて、許せませんわ!」

阿漕がそう息巻いている頃、京から遠く離れた西国では、そこに住まう鬼の一族が帝の軍と対峙していた。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村






Last updated  Jan 6, 2021 09:22:07 PM
コメント(0) | コメントを書く
このブログでよく読まれている記事

全10件 (10件中 1-10件目)

1

PR

X

© Rakuten Group, Inc.