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JEWEL

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完結済小説:桜人

Jun 13, 2014
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カテゴリ:完結済小説:桜人

今年の5月から連載を始めた「桜人」、漸く完結しました。

書き始めた頃は、どうやって物語を進めようかと迷ったことが何度かありましたが、書き進めている内にどんどん構想が浮かんできて、ラストシーンまで一気に突っ走りました。

千尋が死んでしまうシーンは、前から考えていました。
彼の生涯について、もっと深く掘り下げたいなと思っていたのですが、あくまでもこの作品は歳三と千尋が主人公なので、千尋の過去については割愛しました。

新連載についてですが、次回作は千尋を主人公にした『翠の光』を明日から開始しようかと思っております。
また性懲りもなく、更新停滞の無限ループに陥りそうな予感がいたしますが、今後も「JEWEL―小説館―」をどうぞ宜しくお願いいたします。


2014.6.13 千菊丸


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Last updated  Jun 14, 2014 11:54:18 AM
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カテゴリ:完結済小説:桜人
jewel_sakura
イラスト素材提供:White Board様

1905(明治38)年、甲府。

「お義父様、お茶が入りましたよ。」
「有難う、亜紀。」
自宅の縁側で桜の木を眺めていた歳三は、亜紀にそう言って微笑んだ。
「今年も、見事に咲きましたね。」
「ああ。あれは、千尋と一緒に植えた桜なんだ。」
「そうですか。お義母様も、きっと天国で桜の木を見ていらっしゃることでしょうね。」
「そうだな・・それよりも亜紀、お前まだ旦那と喧嘩していやがるのか?」
「ええ。あの人の方から折れるまで、わたしはここでお義父様と子供達と一緒に暮らします。」
「ったく、気が強ぇのはさすが、九州の娘っ子だな。まぁ、俺の姉貴も、大層気が強ぇ女だったがな。」
「お義父様、わたし買い物に行って参ります。」
「気を付けて行って来いよ。」
亜紀が子供達と買い物に出かけて行った後、歳三は茶を飲みながら桜の木を再び眺めていた。
彼はそっと目を閉じると、目蓋の裏に楽しかったころの思い出が甦って来た。

“歳三様”

何処かで千尋の声がして、歳三は少しおかしくなってしまったのではないかと思い始めた。
だが―

“歳三様”

再び千尋の声が聞こえ、歳三が目を開くと、桜の木の前に千尋が立っていた。

「千尋・・本当に、お前なのか?」
“ええ、あなたをお迎えに上がりました。”
千尋はそう言って歳三に微笑むと、白魚のような手を彼に差しのべた。
「お義父様、ただいま戻りました。」
亜紀が買い物を終えて帰宅すると、家の中には誰も居なかった。
「陸男、お祖父様は何処?」
「祖父ちゃんなら、桜の木の下で寝ているよ。」
「まぁ、そう。」
亜紀が桜の木へと向かうと、その幹に背を凭れながら、歳三が静かに眠っていた。
「お義父様、起きてください。こんな所で寝ていては、風邪をひきますよ。」
はじめ、亜紀は歳三が眠っているのだと思っていた。
だが、彼の肩を亜紀が揺さ振ると、彼の身体は大きく傾き、力なく地面に倒れた。
「お義父様、そんな・・」
亜紀は歳三が死んでいることに気付き、子供達に医者を呼ぶよう命じた。
「ご臨終ですね。」
「先生、義父(ちち)は義母(はは)と植えた桜の木の下で眠るように死んでいたんです。」
「そうですか・・きっと、歳三さんを千尋さんが迎えに来てくれたのでしょうね。」

1905年4月2日、元新選組副長・土方歳三は、古希でその生涯を終えた。

幕末の動乱期を息抜き、明治の世を妻・千尋とともに甲府に裁縫学校を設立し、女子教育に力を注いだ。
二人の“子供”というべき甲府裁縫学校は、後に甲府女子大学へと名を変え、平成の世に至るまで数々の著名人を輩出した。

千尋と歳三が自宅の庭に植えた桜の木は、大学の構内に場所を移され、もうすぐ樹齢130年を迎えようとしている。


~了~

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Last updated  Jun 13, 2014 01:44:53 PM
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Jun 12, 2014
カテゴリ:完結済小説:桜人
jewel_sakura
イラスト素材提供:White Board様

「奥様の身体はかなり衰弱しています。余命は長くても三ヶ月です。」
「そんな・・」
歳三は往診に来た医師から千尋の余命が三ヶ月であることを知らされ、狼狽した。
「あなた、どうなさったのですか?」
「千尋・・」
「わたくし、この時を覚悟しておりました。」
千尋はそう言うと、そっと歳三の手を握った。
「千尋さん、死んだらいや!」
「亜紀さん、泣いてはいけませんよ。」
枕元で亜紀がそう言って泣きじゃくると、千尋はそっと亜紀の頭を撫でた。
「あなた、亜紀さんのことを宜しくお願いいたしますね。」
「わかった。」
歳三の手を握り、千尋は彼に優しく微笑んだ。
数日後、千尋は歳三と亜紀に見守られながら、静かに息を引き取った。
「千尋さんがこんなにも早くお亡くなりになるなんて、信じられなかったな・・」
太田は千尋の通夜の席でそう呟くと、歳三を見た。
「土方さん、これからどうするんだ?」
「千尋の代わりに、学校を守りますよ。学校は、俺と千尋の子供のようなものですからね。」
「そうか。」
千尋の訃報を受け、千尋の兄夫婦も葬儀に参列するために甲府へやって来た。
「土方さん、千尋のことを最後まで大事にしてくださって有難う。」
「義兄さん、俺は千尋が遺した学校を死ぬまで守っていきます。」
「そうか。」
千尋の四十九日の法要を終えた後、歳三は千尋の遺品を整理することにした。
「お父様、これなぁに?」
「ああ、これは俺が昔、千尋に贈った簪だ。」
木箱の蓋を開け、歳三は一本の簪を取り出した。
それは、京で歳三が千尋に結婚の証として贈った鼈甲の簪だった。
「この簪を、あいつは祝言の席で挿していた。」
「お母様の花嫁姿、さぞかしきれいだったんだろうなぁ・・」
「ああ。まるで天女が空から舞い降りてきたかのような美しさだった。亜紀、この簪はお前が持っておけ。」
「いいの?」
「お前は俺達の娘だ。母親の形見を娘が持って当然だろう。」
歳三はそう言うと、鼈甲の簪を亜紀に握らせた。
「お前が嫁に行くとき、この簪を挿せばいい。」
「はい・・」
歳三は何度か周囲から再婚を勧められたが、そのたびに歳三は縁談を断った。
「土方さん、どうして再婚しないんだ?」
「俺が愛したのは、千尋ただ一人です。他の女など、愛せません。」
「そうか。千尋さんが死んで、もう四年になるのか・・」
「そうですね。俺はまだ、あいつがまだ家の中に居るんじゃないかって思うことがあるんですよ。」

歳三はそう呟くと、太田家をあとにした。

「お父様、お帰りなさい。」
「ただいま。」
「今日、お茶の先生に褒められました。」
「そうか、それは良かったな。」

四年前、筑豊から来た時は九歳だった亜紀はもう十三歳となり、少し大人びた雰囲気を漂わせていた。

「その櫛、良く似合うな。」

千尋の形見の櫛を髪に飾った亜紀は、歳三からそう褒められると頬を赤く染めた。

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Last updated  Jun 12, 2014 03:32:09 PM
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カテゴリ:完結済小説:桜人
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イラスト素材提供:White Board様

「もう、お父っちゃんとは暮らしたくなか。」
「亜紀さん、お父様と何かあったのね?わたくしにわかるように話して頂戴。」
亜紀はしゃくりあげながら、千尋と離縁した後、博多の若い芸者を後妻として迎え、その後妻から虐められ、耐え切れずに筑豊から逃げてきたことを千尋に話した。
「そんなに辛いことがあったのね。」
「うち、千尋さんの娘になりたか。」
「そう・・」
泣きじゃくる亜紀の背を優しく撫でながら、千尋は一度大岩と話し合ってみようと思った。
「大岩の娘が、わざわざ筑豊からお前に会いに来たのか・・」
「ええ。大岩様は、わたくしと離縁なさった後若い芸者を後妻に迎えたそうですわ。その後妻に、亜紀さんは酷く虐められていたと・・」
「酷い話だなぁ。でもなんだってその亜紀って子は、お前を頼って筑豊から甲府までやって来たんだ?お前が筑豊であの子と一緒に暮らしていた頃、あんまり仲が良くなかったんだろう?」
「ええ。あなた、一度わたくし今回のことで大岩様とお話をしてみたいと思っております。」
「そうした方がいい。俺もその話し合いの席に同席するよ。」
「有難うございます。」

数日後、千尋と歳三はホテルで大岩と彼の若い後妻・キヌと会った。

「大岩様、亜紀さんの事ですが、わたくし達は亜紀さんを土方家に養女として迎えたいと思っております。」
「そうか。お前がそう言うのやったら、好きにしたらよか。」
「あんた、この人が金で買った前の嫁さんね?」
キヌはそう言うと、無遠慮な視線を千尋に送った。
「キヌさんとおっしゃいましたね?あなた、亜紀さんを虐めていたようですけれど・・」
「あの子はちっともうちに懐かんから、躾けてやっただけたい。それをあの子が大袈裟にあんたに吹聴しただけたい。」
キヌは悪びれもなくそう言うと、椅子から立ち上がってレストランから出て行ってしまった。
「それでは大岩様、御機嫌よう。」
七日後、千尋と歳三は亜紀を土方家の養女に迎えた。
「亜紀さん、一度わたくし達の学校に見学にいらっしゃらないこと?」
「学校?」
「ええ。学校ではあなたと同じ年頃の女の子達がお裁縫やお茶を習ったりしているのよ。」
千尋に裁縫学校へと連れてこられた亜紀は、同じ年頃の少女達に囲まれながら裁縫の授業を受けた。
「亜紀ちゃんはどこから来たずら?」
「筑豊から来たと。」
「筑豊って、どんな所ずら?おらに教えてくりょう。」
千尋は同年代の少女達に囲まれながら彼女達と談笑する亜紀の姿を見て、思わず頬が弛んでしまった。
「どうした?」
「さっき、教室の前を通ったら、亜紀ちゃんが生徒達と仲良くお裁縫の授業を受けていました。」
「亜紀って子、今まで同年代の子供達と遊ぶことがなかったんだな。」
「ええ。亜紀さんは、筑豊の家で暮らすより、わたくし達と一緒に暮らした方がいいかもしれませんね。」
土方家の養女となった亜紀は、歳三と千尋が運営する裁縫学校に入学した。
「亜紀さん、わたくし達はあなたにいっさい特別扱いはしませんからね。」
「はい、わかりました・・」
亜紀はひたすら学校で勉学に励んだ。
「ただいま帰りました。」
「お帰りなさい、亜紀ちゃん。おやつを頂く前にちゃんと手を洗いなさいね。」
「はい。」

外にある厠で手を洗った亜紀が家の中に戻ると、竈の前で千尋が胸を押さえて倒れていた。

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Last updated  Jun 12, 2014 03:22:00 PM
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Jun 11, 2014
カテゴリ:完結済小説:桜人
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イラスト素材提供:White Board様

「わたくしは、本日を以(もっ)てあなたとは親子の縁を切らせていただきます。」
「よくもこのわたくしに向かって生意気な口を利いて・・妾の子の癖に!」
千尋の言葉に激昂した由美子は、ソファから立ち上がると彼の頬を打とうと腕を振り上げた。
「俺の女房に手を出すんじゃねぇ。」
歳三は由美子の腕を掴むと、彼女は憎悪に満ちた目で歳三を睨んだ。
「あなた、わたくしにこのような事をしてもいいと思っているの!?」
「俺はただ、女房を守っているだけだ。おい婆、いつまでも千尋があんたの言いなりになるとでも思っていたのか?」
「離しなさい、この無礼者!」
歳三は由美子の腕を離すと、彼女は彼の頬を平手で打った。
「奥様、夫に何をなさいます!」
「お黙り!まったく、あなたといい、この男といい・・似た者同士の夫婦ね!乱暴で、自分勝手で・・」
「それはあなたのことでしょう、奥様。わたくしを歳三様と無理矢理離縁させ、大岩様にわたくしを嫁がせたのはどなたです?」
「あなた、わたくしを・・」
「もういいでしょう、母上。」
「道貴・・」
「千尋、この家と縁を切るというのなら、わたしはお前を止めない。今までわたし達は、お前に酷な扱いばかりしてきた。お前は土方さんと新しい人生を送るといい。」
「兄様、有難うございます。」
「道貴、あなたは千尋から縁を切られてもいいというの!?」
「母上、あなたは母親を亡くした千尋を荻野の家に引き取ってから、千尋をまるで使用人のようにこき使っていたことを、もうお忘れですか?」
道貴の言葉を聞いた由美子はバツの悪そうな顔をして俯いた。
「兄様、わたくし達はこれで失礼いたします。」
「土方さん、千尋のことを宜しく頼む。」
「義兄さん、また来ます。」
荻野伯爵邸を後にした千尋と歳三は、新橋にある洋食屋で昼食を取った。
「千尋、大丈夫か?」
「ええ・・」
「今日は東京に泊まるか?さっきあの婆とやり合ったから、お前の心臓に負担がかかったんじゃないか?」
「そうですね。甲府へは、始発の汽車で帰ることにいたしましょう。」
その日の夜、千尋と歳三は赤坂にあるホテルで一泊した。
「千尋、やっと二人きりになれたな。」
「ええ。」
千尋はそう言うと、歳三に抱きついた。
「歳三様、わたくしを抱いてくださいませ。」
「わかった。」
歳三はそっと千尋をベッドの上に寝かせ、彼の帯を解き始めた。
「千尋、もうお前を離しはしねぇ。」
「わたくしもです、歳三様・・」
一年振りに千尋は歳三と愛を交わした。
翌朝、二人は始発の汽車で甲府へと帰った。
「教頭先生、お客様がお見えです。」
「わたくしに、お客様ですか?」
「ええ。何でも、筑豊からいらした大岩亜紀さまという方です。」
「そう・・応接室にお通しして。」
「わかりました。」
数分後、千尋が応接室に入ると、ソファに座っていた亜紀が立ち上がって彼に抱きついてきた。
「亜紀さん、どうしてわたくしがここに居るとわかったの?」
「千尋さん、筑豊に帰ってきてくれんね?」
亜紀は涙を流しながら、千尋を見た。
「亜紀さん、お父様に何かあったの?」

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Last updated  Jun 11, 2014 04:13:53 PM
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Jun 10, 2014
カテゴリ:完結済小説:桜人
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イラスト素材提供:White Board様

大岩と離縁し、千尋は歳三とともに甲府へ戻り、裁縫学校の経営に携(たずさ)わった。

「歳三様、こちらの書類を用意しておきました。」
「有難う。千尋、余り無理をするなよ。」
「大丈夫です、書類仕事くらいさせてください。」
校長室で、千尋はそう言いながら机に座って書類仕事をしていた。
彼は教頭として、校長である歳三の補佐や、秘書をしていた。
「何だか、筑豊に居た時よりも時が慌ただしく過ぎていってしまいますね。」
「そうか。なぁ千尋、今幸せか?」
「まぁ、今更何を仰います。幸せに決まっているではありませんか。」
千尋はそう言うと、歳三に微笑んだ。
「それよりも歳三様、生徒の方は集まりましたか?」
「ああ。開校してから生徒募集のチラシを書いて太田さん達に頼んで町中に貼って貰ったんだが、100人くらい集まった。」
「そうですか。これから頑張らないといけませんね。」
「ああ。」
裁縫学校が開校し、100人の女子生徒達が入学した。
千尋は彼女たちに裁縫や和歌、英会話や茶道・華道などを教えた。
「午前の授業はここまで。」
「有難うございました。」
裁縫の授業を終え、千尋は溜息を吐きながら教壇の前に置いてある椅子に座った。
「土方先生、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ・・」
「午後の授業はわたくし達がいたしますから、土方先生はおうちに帰ってお休みになってください。」
「ごめんなさい、頼むわね。」

午前の授業が終わり、千尋は学校を出て帰宅することにした。

「歳三様、ただいま戻りました。」
「千尋、お帰り。顔色が少し悪いぞ、大丈夫なのか?」
「暫く奥で休んでいます。」
「わかった。」
歳三は千尋を家に残し、学校へと向かった。
校長室で歳三が書類仕事をしていると、そこへ事務員がやって来た。
「校長先生、お手紙です。」
「有難う。」
「では、失礼いたします。」
校長室で歳三が“荻野千尋様へ”と書かれた封筒を裏返すと、差出人の名前には、千尋の義母・荻野由美子の名が書かれていた。
(由美子って、千尋を子供の頃から虐めてきた鬼婆か?どうしてその鬼婆が、千尋に手紙なんか・・)
歳三は千尋宛ての手紙を懐にしまうと、校長室から出て家へと戻った。
「あなた、どうなさったのです?」
「千尋、荻野の家からお前宛に手紙が届いた。」
「そうですか・・」
千尋は歳三から手紙を受け取ると、差出人の名が由美子になっていることに気付き、彼は眉間に皺を寄せた。
「何て書いてあったんだ?」
「あの方は、明日わたくしと一緒に荻野の家に来て欲しいそうです。」
「そうか。大丈夫なのか、あの鬼婆と会って、お前の体調が悪化したら・・」
「わたくしはそんなに弱くはありません。それにもう、わたくしは非力な子供ではありません。」

数日後、歳三と千尋は由美子に呼び出され、荻野伯爵家を訪れた。

「お久しぶりです、奥様。」
「千尋、あなた大岩様から離縁されたそうね。まったく、どうしようもない子ね、あなたって!」
「奥様、お言葉ですがわたくしはもうあなたの言いなりにはなりません。」
「まぁ、何ですって!?」

そう叫んで千尋を睨みつけた由美子の顔は、怒りで赤く染まっていた。

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Last updated  Jun 10, 2014 09:29:19 PM
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カテゴリ:完結済小説:桜人
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イラスト素材提供:White Board様

千尋が喀血して倒れたという電報を受け取った歳三が筑豊の大岩家に向かうと、母屋の玄関先で大岩の秘書・大杉が彼を出迎えた。

「あなたが、奥様の別れた旦那様ですね?」
「ああ。あんたは?」
「わたしは、大岩の秘書をしている大杉と申します。」
「大杉さん、千尋は何処にいるんだ?」
「奥様は、離れの洋館にいらっしゃいます。こちらへどうぞ。」
歳三が大杉とともに離れの洋館に入ると、丁度階段を往診に来た医師と看護婦が降りてくるところだった。
「先生、千尋の具合は・・」
「失礼ですが、どちら様ですか?」
「先生、この方は奥様の別れた旦那様の、土方様です。」
「千尋さんは心臓をお悪くされている上に、肺病に罹っています。もう長くはないでしょう。」
「そんな・・」
医師の残酷な宣告を聞き、歳三はその場にへたり込んでしまった。
「土方様、大丈夫ですか?」
「ああ・・」
大杉とともに千尋が眠っている二階の部屋に歳三が向かうと、部屋の中から大岩と千尋の話し声がドア越しに聞こえてきた。
「あなた、突然わたくしと離縁したいとは、どういう事でしょうか?」
「どうもこうもなか。わしは気位が高い嫁は要らん。さっさとわしと離縁して、甲府に帰らんか。」
「あなた・・わたくしのことを想って・・」
「千尋。」
「歳三様、どうしてここに?」
「お前のことが心配で来たに決まっているだろうが!」
歳三はそう言うと、千尋を抱き締めた。
「帰ろう、千尋。俺と一緒に甲府に帰ろう。」
「歳三様・・」
「千尋、もうわしはお前に愛想が尽きた。さっさと甲府に帰れ。」
大岩はそう言って千尋と歳三を見ると、部屋から出て行った。
荻野家に大岩から千尋と離縁する旨が書かれた文が届いたのは、その日の夜の事だった。
「まったく、大岩様に迷惑を掛けた上に離縁なんて・・千尋は荻野家のとんだ恥さらしだわ!」
「おやめください、母上!もう千尋のことは放っておいてやってください!」
「あなた、わたくしに口答えする気なの!?」
由美子がそう言って道貴を睨んだ。
「母上、あなたはいつまで千尋のことを傷つけるおつもりですか?」
「あなたに、わたくしの気持ちなどわかるものですか!」
千尋は大岩と離縁し、大岩家を去ることになった。
「旦那様、短い間でしたが、お世話になりました。」
歳三とともに甲府へと帰る日の朝、千尋が大岩家の玄関先で大岩にそう挨拶すると、彼は無言で千尋に背を向けて廊下の奥へと消えた。
「奥様、お元気で。」
「大杉さん、主人のことを宜しくお願いいたします。」
「道中、お気をつけて。」
「ええ。皆さん御機嫌よう、さようなら。」

千尋が歳三とともに大岩家を出て駅へと向かおうとしたとき、二人の前に亜紀が現れた。

「もう帰ってこんと?」
「ええ。亜紀ちゃん、お父様と仲良く暮らすのですよ。」

亜紀は目に涙を溜めながら、千尋と歳三が馬車に乗り込むのを黙って見送った。

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Last updated  Jun 10, 2014 05:14:55 PM
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カテゴリ:完結済小説:桜人
jewel_sakura
イラスト素材提供:White Board様

初と洋館で揉み合いとなり、ピアノに頭をぶつけた千尋だったが、幸い後遺症もなく一日病院で入院しただけで済んだ。

「奥様、お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ。」
千尋が大岩とともに母屋の玄関先に立つと、部屋の奥に居た女中達が慌てて彼らを出迎えた。
「あら、初さんは?」
「お初さんなら、昨夜里の方へお帰りになられました。」
「そう・・」
「千尋、そげなところに突っ立っとらんで、中に入らんか。」
「はい・・」
千尋が大岩とともにダイニングルームに入ると、そこには大岩の秘書である大杉の姿があった。
「大杉さん、どうなさったの?」
「奥様がご入院されたと聞いて、居てもたってもいられずこちらに伺ってしまいました。お元気そうで、良かったです。」
「わざわざわたくしの為に来てくださって有難う。大杉さん、朝ごはんはまだ召し上がっていらっしゃらないの?」
「ええ。」
「あなた、わたくしお腹が空きましたわ。」
「そうか。おい、朝飯の支度をせい。」
「かしこまりました。」
「あら、亜紀ちゃんは?」
「あいつは、部屋に引きこもっとる。母親が突然居らんくなって寂しくなったんやろう。」
「母親って・・あなた、もしかして亜紀ちゃんの母親は、初さんですの?」
「ああ。」
大岩から亜紀の母親が初であることを知らされ、千尋は一気に食欲が失せた。
「千尋?」
「あなた、わたくし離れで休ませていただきます。」
逃げるように母屋から出て、離れの洋館のリビングに入った千尋は、ピアノの前に座り、無意識に漆黒の蓋を開け、象牙の鍵盤の上に両手を滑らせていた。

(初さんが、亜紀ちゃんの母親なんて・・)

初が亜紀の母親であることを、千尋以外大岩家の者たちは皆知っていた。
大岩は、自分を騙していたのだ。
初を大岩家から追い出し、自分に離れの洋館とピアノを与えたのは、罪滅ぼしのつもりなのだろうか。
千尋はショパンの『幻想即興曲』を奏でながら、涙を鍵盤の上に落とした。
大岩に騙された怒りと屈辱に身を震わせ、千尋は狂ったようにピアノの鍵盤を叩いた。
両手首が悲鳴を上げても、千尋はピアノを弾き続けた。
今ピアノを弾くのを止めてしまったら、心が壊れてしまいそうだからだ。
「奥様、おやめください!」
リビングに入った大杉は、千尋が狂ったようにピアノを弾いているのを見て、彼にピアノを弾くのを止めさせようとした。
だが、千尋は大杉を無視して、ピアノを弾き続けた。
急に彼は胸の底から何かがせり上がってくるのを感じ、演奏を止めて口元を両手で押さえた。
彼の白い指の隙間から、真紅の血が滴り落ちた。

「奥様、しっかりしてください!」

朦朧とした意識の中で、千尋は総司が自分に微笑んでいるのを見た。

裁縫学校の校長室で、歳三は何故か胸騒ぎをおぼえた。

「校長、電報が届いております。」
「有難う。」

事務員から電報を受け取った歳三は、千尋が筑豊の自宅で喀血したことを知り、すぐさま筑豊へと向かった。

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Last updated  Jun 10, 2014 12:18:21 PM
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Jun 9, 2014
カテゴリ:完結済小説:桜人
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「あなた、わたくしに何か用?」
「旦那様から離れを貰っただけで、いい気にならんでくださいね。」
初はそう言うと、千尋を睨んだ。
「あなた、大岩の妾としてこの家で今まで権勢をふるってきたつもりでしょうけれど、わたくしが大岩の妻となったからには、あなたの好きなようにはさせませんからね。」
「何だって!」
初は千尋の言葉を聞いてカッとなり、彼の頬を平手で打った。
千尋は無言で初の頬を平手でたたき返した。
「金で売られた癖に、何様のつもりね!」
「お黙り、この女中風情が!」
初は金切り声をあげ、千尋に飛びかかって来た。
「千尋は何処に居る?」
「奥様でしたら、洋館の方に・・」
会社から帰宅した大岩が女中に千尋の居場所を尋ねた時、洋館の方から大きな物音がした。
「千尋、どげんしたと?」
「旦那様・・」
大岩が洋館のリビングに入ると、そこにはグランドピアノの前で倒れている千尋と、その前で蒼褪めている初の姿があった。
「何があった?」
「奥様が、突然うちに掴みかかって来て・・揉み合いになるうちに、奥様がピアノに頭をぶつけてしまって・・旦那様、うちはどうしたら・・」
「退かんか、この馬鹿たれ!」
大岩は千尋を近くの病院に運んだ。
「先生、女房は・・」
「奥様はピアノに頭をぶつけてしまって、その衝撃で脳震盪(のうしんとう)を起こされていますね。」
「女房の意識は、戻るんでしょうか?」
「今夜、様子を見ましょう。」
病院を後にした大岩は、自分の部屋に初を呼び出した。
「きさん、何かわしに隠しとることがあろうが?」
「旦那様、何をおっしゃっておるのですか?」
「千尋をお前が突き飛ばして、怪我をさせたのはわかっとる。素直に白状せんね。」
「うちは、そげなことしとりません。」
「千尋が死んだら、わしはお前を死ぬまで許さん。」
「旦那様・・」
大岩の全身から溢れ出る殺気を感じ、初は彼から一歩後ずさった。
病室のベッドで寝ていた千尋がゆっくりと目を開けると、自分の前には労咳で死んだ筈の総司が立っていた。
「沖田・・先生?」
「荻野君、久しぶりだね。」
「どうして・・あなたは、死んだ筈では?」
「荻野君、今は辛いだろうけれど、希望を捨てないで。」
総司はそう言うと、ある物を千尋に握らせた。
「じゃあね、荻野君。」
「待ってください、沖田先生!」
千尋が総司を追いかけようとしたが、彼が立っていた場所には誰も居なかった。
「千尋、どうした?」
「あなた・・」
「話は初から聞いた。身体の調子はどうね?」
「大丈夫です。あなた、初さんは?」
「あいつには、暇を出した。千尋、怪我が治るまでここでゆっくりしとれ。」
「はい・・」
大岩が病室から出て行った後、千尋は総司が自分に握らせた物を見た。
それは、歳三が誕生祝いに贈ったペリドットの指輪だった。
その指輪は、甲府から去る際に歳三と暮らした家の引き出しにしまった筈だった。

(有難うございます、沖田先生・・)

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Last updated  Jun 9, 2014 09:39:16 PM
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カテゴリ:完結済小説:桜人
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大岩からの文には、千尋が心臓を悪くして寝込んでいること、歳三に会いたがっている事などが書かれていた。

(千尋・・)

「土方さん、体調の方はどうだね?」
「大丈夫です、太田さん。俺、暫く筑豊に行ってきます。」
「筑豊へ?」
「ええ。千尋が倒れたので、見舞いに行こうかと思いまして・・」
「土方さん、あなたの気持ちはわかるが、今はわたし達にとって大事な時期だ。どうか、堪えてくれないだろうか?」
「わかりました・・」
筑豊では、大岩が病に臥している千尋にグランドピアノを贈った。
「旦那様、こげな大きい物、何処に置くんです?」
「離れの洋館に置いたらよか。」
「まったく、こげな物置いても、邪魔なだけじゃ。」
「お前は黙っとれ。」
大岩はそう言って初を睨むと、千尋の部屋に向かった。
「あなた、どうなさったのです?」
「お前に見せたい物がある。」
「何でしょう?」
「わしについて来い。」
大岩は千尋に目隠しすると、彼の手をひいて離れの洋館へと向かった。
「足元に気ぃつけろ。」
「はい・・」
千尋は大岩とともに洋館のリビングに入った。
「これをお前に見せたかったんじゃ。」
「まあ・・」
大岩から目隠しを外された千尋が見たものは、リビングの中央に置かれている漆黒のグランドピアノだった。
「これは、一体・・」
「少しでもお前の気晴らしになるち思うて、買うてきた。何でも、こんピアノはベーゼンドルファーっちゅうウィーンのピアノ屋が作ったもんらしい。」
「まぁ、そんなに高価な物をわたくしに?」
「こんピアノはお前のもんじゃ、好きに使え。」
「有難うございます。」
「それと、この洋館もお前が好きに使ってもよか。」
千尋が倒れてから、大岩は彼に優しくなった。
離れの洋館を千尋に使わせ、彼に高価なピアノを買い与えたことを知った初は、ますます千尋に対する敵愾心が強くなっていった。
「旦那様、何故奥様には洋館を好き勝手に使わせとるの?あれはもともと、旦那様がうちに贈ったものじゃ・・」
「せからしか。あれはお前のものやなか、わしが稼いだ金で買ったものたい。文句を言うなら、この家から追い出すぞ。」
「わかりました・・」
悔しさで唇をかみしめながら、初は大岩の部屋から出て行った。
三月、甲府に裁縫学校が開校し、真新しい校舎に隣接した道場で、開校祝いのパーティーが開かれた。
「土方さん、このたびはおめでとうございます。」
「有難うございます。太田さん達のお蔭で、裁縫学校を開校することが出来ました。」
「筑豊の千尋さんとは、連絡を取り合っているのかい?」
「ええ。千尋は大岩からグランドピアノを贈られたようで、毎日飽きもせずにそれを弾いていると、文に書いてありました。」
「千尋さんが元気そうでよかった。」
「ええ、本当に・・」

“千尋、漸く今日裁縫学校が開校しました。俺とお前の子供であるこの学校を、俺はお前が帰る日まで守っていきます。愛を込めて、歳三”

千尋が洋館のリビングで歳三の文を読んでいると、そこへ初がやって来た。

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Last updated  Jun 9, 2014 07:54:54 PM
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