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JEWEL

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薄桜鬼 バットエンド二次創作小説:出会わなければよかった

Jan 24, 2021
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

死ネタ・バッドエンドです。苦手な方はご注意ください。


こんな夜遅くに、一体彼女が何の用でここへ来たのだろう――歳三がそんな事を思いながらインターフォンの通話ボタンを押すと、信子は何処か興奮した様子で一方的に歳三に向かって捲し立てた。
『あの人殺しの従妹の女が、何処に住んでいるのかもわかったわよ!わたし達、あの女の職場に行って大暴れしてやるつもり!ねぇ、土方さんも参加してみない?』
「‥参加しません。」
“若葉会”は元々犯罪被害者・被害者遺族の交流会として発足したのだが、前会長から今の会長である信子に代替わりしてから、会の活動内容や主旨が大きく変わってしまった。
『わたし達、これ以上泣き寝入りしていたら損よ!やられたら倍返し、悪は許さない!』
信子がそう声高に犯罪者、もしくは犯罪加害者家族への迫害と糾弾を叫ぶようになったのは、昨年悲惨な交通事故で、加害者の青年が資産家の息子で、警察に便宜を図って貰って無罪になったのがきっかけだった。
信子達は、SNS上で加害者の情報を集め、彼が過去に犯した数々の犯罪行為などを公式HPにUPし、警察を批判した。
結果、加害者は逮捕されて終わったが、“若葉会”はいつしかネット上で、“正義の執行人”と呼ばれるようになった。
歳三は“若葉会”から距離を置きたくて、会員を辞めた。
だが信子は、しつこく歳三に会へ戻って来るよう催促しに来る。
『もう、どうして!?』
「・・あなたとはこれ以上話したくないので。」
暫くドアノブを回す音とチャイムがけたたましく鳴ったが、近所の住民から通報すると言われ、信子が漸く立ち去ったのは、朝の六時頃だった。
「土方さん、おはよう。」
「おはようございます。昨夜はお騒がせしてすいません。」
「世の中、変な人が多いわよね。」
「え、えぇ・・」
今日は仕事が休みなので、歳三はりんたろうのケージを買いに近所の複合商業施設の中にあるペットショップへと向かった。
「いらっしゃいませ。」
「あの、ゴールデンハムスター用のケージってありますか?」
「それでしたら、水槽や爬虫類用の水槽、衣装ケースケージなどがございます。」
店員は歳三に、それぞれのケージの長所・短所を懇切丁寧に教えてくれた。
「衣装ケースケージは一番安価ですが、やはり湿気がこもるのでお勧めできませんね。一番お勧めなのは、ハムスター用ケージですね。」
「ありがとうございます。」
ハムスター用のケージと、床材とかじり木を買って帰宅した歳三がリビングに入ると、りんたろうが巣箱の中から顔を出して大きなあくびをしていた。
「ただいま。」
歳三がりんたろうのケージにある床材を交換していると、玄関の方からチャイムが鳴った。
また信子かと身構えていると、ドアの向こうから麗子の声が聞こえて来た。
「歳三さん、いる?」
「どうしたんですか、お義母さん?」
「あなた、“若葉会”の会員じゃないわよね?」
「えぇ。それが何か?」
「これ、見て。」
麗子がそう言って歳三に見せたのは、一本の動画だった。

『犯罪者を許すな!』

 動画の中では、一人の少女が恐怖に震えている姿があった。

“また”だ。
新しい職場にも漸く慣れ、職場の人達と打ち解けた頃に、“あの人達”が現れた。
「雪村千鶴、何処だ!?」
「出て来い!」
千鶴が清掃作業の為あるオフィスビルで作業をしていると、そこへ“あの人達”がやって来た。
「すいませんが、どちら様でしょうか?」
「あなたの会社は、殺人犯の身内を雇っているの!?」
そう言って社長に詰め寄ったのは、リーダー格と思しき中年女性だった。
「あの女はね、わたし達の家族を殺した男の従妹なのよっ!」
「雪村さん、どういう事っ!」
「‥申し訳、ございません。」
「後で話しましょう。」
「はい・・」
会社に戻った千鶴は、女社長から解雇を告げられた。
「どうして、本当の事を話してくれなかったの?」
「・・本当の事を話せば、わたしを雇ってくれましたか?」
千鶴の問いに、女社長は何も答えてくれなかった。
それが、答えだった。
「短い間でしたが、お世話になりました。」
「退職金は、後で口座に振り込んでおくから。」
「はい・・」
“また”、仕事を失った。
「あ、雪村さん・・」
「大家さん・・」
「はいこれ、あなたの荷物。」
「どういう事ですか?」
「あのね、工事の日程が予定より早まっちゃってねぇ、ごめんなさいねぇ。」
「え・・」
「それじゃ。」
大家はそう言って、千鶴に背を向けてさっさと家の中へと入っていった。
仕事も、家も失った。
仕事を探せば、何とかなる。
でも、家は・・
千鶴は少ない荷物を詰めたスーツケースをひきながら、駅前のビジネスホテルに泊まった。
ここはあの古いアパートよりも快適だから、次の仕事が見つかるまでここで暮らそうと思った。
「はぁ・・」
広い部屋の中で、千鶴の溜息がやけに大きく響いた。
「いらっしゃいませ~」
夕食を買いにホテルの近くにあるコンビニで買い物をしていると、千鶴は一人の男とぶつかった。
「すいません・・」
「大丈夫か?」
「はい・・」
俯いていた顔を上げた千鶴は、目の前に立っている一人の男に、見惚れた。

美しい射干玉のような漆黒の髪、雪のように白い肌、そして美しいアメジストのような紫の瞳。

「どうした、俺の顔に何かついているか?」
「すいません。」
「おい、待て!」

歳三はそう言って、慌てて千鶴の後を追ったが、彼女は店から出て、何処かへ行ってしまった後だった。

「参ったな・・」

歳三は彼女が落としていった古めかしいデザインの手鏡を見た後、そう言って溜息を吐いた。

ない。

千鶴はホテルの部屋に戻ると、コンビニで母の形見の手鏡を落とした事に気づいた。
母は、あの手鏡を肌身離さず持っていた。
――お母さん、それきれい!
――そうでしょう?これは、あなたのお祖母様が嫁入り道具として持って、この家に嫁いで来たのよ。
――じゃぁ、あの綺麗なかんざしも、お祖母様の形見だったの?
――そうよ。あなたが結婚するときに、この手鏡とかんざし、お祖母様の形見を全部あなたにあげますからね。
――うわぁ、楽しみ!
そんな風に母と楽しく笑い合った日を、千鶴は涙を流しながら思い出していた。
もう、優しい母は居ない。
みんな、居なくなってしまった。
(泣いてばかりいられない、仕事を探さないと・・)
千鶴はそう思いながらなんとか疲れている身体に鞭打ち、ハローワークへと向かった。
しかし、窓口で彼女は職員に冷たくあしらわれた。
「申し訳ないけど、今は何処も厳しくてね・・」
「わかりました。」
履歴書を持って、何軒か飛び込みで面接を受けたが、全て断られた。
「あなた、転職ばかりしているわね?申し訳ないけれど、うちは客商売だから・・」
「うちは経験者だけ募集をかけているの。」
(今日も、駄目だった・・)
昼食を取りに行ったファストフード店でもアルバイトを募集していたが、千鶴は疲れ果てていた。
「ここ、いいですか?」
「は、はい・・」
千鶴が俯いていた顔を上げると、いつの間にかコンビニで会った男が自分の前に立っていた。
「ど、どうぞ・・」
「奇遇ですね、こんな所で会うなんて。」
「えぇ・・」
「これ、あなたのですか?」
男がそう言って千鶴に手渡した物は、彼女が探していた手鏡だった。
「はい、わたしのです!」
「良かった、古めかしいデザインですが、見事な蒔絵細工のものなので・・」
「これは、亡くなった祖母と母の形見なんです。あの、本当にありがとうございます!」
「礼なんて不要です。俺は当たり前の事をしただけなので。」
「でも、お礼がしたいんです!せめて、お名前だけでも教えて下さい!」
「土方歳三だ。」
その名を聞いた途端、千鶴は全身を雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「どうか、されましたか?」
「いいえ。」
「それじゃぁ、また。これ、俺の名刺です。」
「ありがとうございます。」

(土方歳三さん、か・・)

妙に懐かしい名前だな―千鶴がそう思いながらホテルへと戻る途中、彼女は一人の女から声を掛けられた。

「千鶴・・ちゃん?わたしの事、憶えている?」
「もしかして・・千ちゃんなの?」
「そうよ、中学の時三年間一緒だった、鈴鹿千!」

そう言った女性―鈴鹿千は、嬉しそうに笑った。

「ねぇ、これから二人きりで話さない?久しぶりに会ったんだし。」
「うん!」
「そう・・色々あったのね。」
「うん。でも、心配しないで。今わたし、とっても幸せだから!」
「良かった、それ聞いて安心したわ。」
「お千ちゃんは、今何をしているの?」
「東京の大学に通っているわ。」
「へぇ、そうなの。」
「親が早く戻って来て結婚しろってうるさいから、嫌になっちゃう。」
そう言いながらマグカップを持つ千の左手薬指には、結婚指輪が光っていた。
「それ・・」
「あぁ、これ?男除けよ、あいつ嫉妬深いから。」
恋人の事を時折屈託のない笑みを浮かべながら、千は彼とは大学を卒業したら結婚するつもりだという事を千鶴に話した。
「そう・・おめでとう。」
「ありがとう、結婚式には呼ぶね!」
「うん・・」

(うらやましいな・・)

自分には、帰る家も家族もない。
千には、全てある。
家族、恋人、そして明るい未来が。

「千鶴ちゃん?」
「あ、ごめん・・少し考え事してた。」
「そう。ライン交換しよう!」
「わかった・・」
「今日は会えて良かったわ、じゃぁね!」
「うん、またね・・」

カフェの前で千と別れ、ホテルの部屋へと戻った千鶴は、溜息を吐きながらベッドの上に大の字で倒れこんだ。

「お客様、いらっしゃいますか?」
「はい。」

千鶴がドアのスコープから廊下を覗き込むと、そこには一人の見知らぬ男が立っていた。

「頼んでいませんけど?」
「これは失礼致しました。」
男が立ち去った後、千鶴はホテルのフロントへ電話した。
すると、千鶴が廊下で見た男はこのホテルの従業員ではないという。
「わかりました、ありがとうございました。」
千鶴は、廊下で見たあの男が一体何者なのかをわかったような気がした。
彼は、どこかの記者だ―しかも新聞社ではなく、週刊誌の。
ここにチェックインする時、フロントスタッフには誰かが自分を訪ねに来ても絶対にここに居ると言わないで欲しいと伝えた。
スタッフの者達を疑いたくないが、もしかしたらここのスタッフの誰かが―

(もう、嫌な事を考えるのは良そう。)

千鶴は着替えもせず、そのまま泥のように眠った。

「お疲れ様で~す。」
「はい、お疲れさん。」

歳三がカフェで閉店作業に追われていると、そこへ一人の男性客が入って来た。

「すいません、もう閉店なんで・・」
「久しぶりだな、トシ。」
「え、勝っちゃん?勝っちゃんなのか!?」
「あぁ。本当に久しぶりだな、トシ。お前と最後に会ったのは、早苗さんの結婚式以来だな?」

そう言った親友は、屈託のない笑みを歳三に浮かべた。

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Last updated  Jan 24, 2021 09:46:52 PM
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Dec 25, 2020




「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

死ネタ・バッドエンドです。苦手な方はご注意ください。

2020年12月24日。

タワーマンションが建ち並ぶ湾岸エリアで、一人の若い女性の遺体が発見された。

彼女の死因は、頸動脈を切ったことによる出血性ショック。

現場に争った形跡がないこと、また遺体の近くに置いてあったリュックサックの中から遺書が見つかり、警察は自殺と判断した。

女性の身元は、すぐに判明した。

『昨日午後7時頃、東京・お台場の近くの遊歩道で女性の遺体が発見されました。女性の所持品のリュックサックの中からは遺書が見つかり、警察は自殺と判断し・・』

「店長、大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ・・」

テレビに流れるニュースを聞いた土方歳三は、蒼褪めた顔で床をモップ掛けしていたが、そのまま蹲ってしまった。
彼が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

「過労ですね、暫く入院してください。」
「はい・・」

一人で病室のベッドの上で何もする事がないので、歳三はスマートフォンで今朝のニュースの続報がないかどうか調べた。
すると―

“お台場自殺女性は、あの通り魔殺人事件の犯人の従妹・雪村千鶴”

(あぁ、やっぱり・・)


「雪村さん、もう来なくていいから。」
「わかりました。」

まただ。
これで何度目だろう、職場をクビになったのは。
何も迷惑を誰にも掛けていないのに、上手くいかない。

(これから、どうしよう・・)

溜息を吐きながら雪村千鶴が街中を歩いていると、周りには幸せそうな家族連れやカップルの姿があった。

ほんの少し前まで、千鶴は“彼ら”の中に居た。

千鶴は、金沢で温泉老舗旅館「ゆきむら」を営む両親に大切に育てられた一人娘だった。
裕福な家庭に育った彼女は、お茶やお花、箏などを習った。
いずれ両親の跡を継ぐのかと、千鶴は信じて疑わなかったし、彼らもそう思っていた。

従兄が、あんな事件を起こすまでは。

千鶴の従兄―父方の従兄にあたる登は、東京のエリート官僚の父と、大学教授の母、医師の兄が居る、所謂“エリート一族の落ちこぼれ”だった。

彼は父親と同じ名門進学校を受験したが失敗し、それ以来二十年間も自室に引き籠もる生活を送っていた。
彼の生活は、インターネットの巨大掲示板を中心に回っていた。

現実での満たされぬ生活の憂さを晴らす為、彼はいつしかネット上で他人を誹謗中傷する事に喜びと存在意義を見出していた。
彼の家族は世間体を重んじ、彼の存在を無視した。
暫くは平穏な生活が続いていたが、彼に転機が訪れたのは、長兄の結婚だった。

『穀潰しのお前はさっさと出て行け。』

家族に捨てられ、自棄を起こした登は、クリスマスに事件を起こした。
彼は、両親と兄、兄の婚約者を金属バッドで撲殺し、その後無差別に妊婦や家族連れ、カップルなどを襲った。
その日は、クリスマス=イベントが近くの商業複合施設で行われており、登によってその場は惨劇の舞台と化した。
登は約二時間凶行に及び、約十五人もの尊い命を奪った後、商業複合施設が入っているビルの屋上から飛び降り自殺した。
事件は、マスコミによって大きく報道され、ネット上で登の家族構成や家庭環境、親族の顔写真と氏名住所、そして職場の住所と電話番号などが晒された。
その所為で、「ゆきむら」には連日嫌がらせの電話が一日中鳴り響き、旅館の壁には何度消しても“人殺しの宿”と赤いペンキで落書きされ、ホームページの掲示板には誹謗中傷の書き込みで溢れた。
やがて旅館の経営が傾き、銀行から融資を断られた両親は、絶望の余り旅館の鴨居に首を吊って死んだ。
犯罪者家族として一人取り残された千鶴は、世間から迫害を受けながらも、ただ只管歯を食い縛り、耐え忍ぶ日々を送っていた。
学校は、中学校で止まっていて、高校進学なんて到底考えられなかったし、何より彼女に学費の援助をする親族が一人も居なかった。
千鶴は生きる為に、何度も職を転々とした。
コンビニ店員、スーパーのレジ打ち、ファミリーレストランの店員、スナックのホステス・・どの仕事も、彼女があの“通り魔殺人犯の従妹”だとわかると、一方的に解雇された。
そんな千鶴が住んでいるのは、今にも崩れ落ちそうな築四十年の、木造アパートにある四畳半の部屋だった。

家具も調理器具もなくても、雨風をしのげる“家”だけあれば千鶴にとっては充分だった。

千鶴の遺品を引き取りに来て欲しいと警察から歳三に連絡が来たのは、彼が過労で入院して退院してから一週間も過ぎた頃だった。

『彼女の親族は誰も居ませんし・・それに、彼女のスマホにあなたの連絡先だけが残っていたので・・』
「わかりました。」
年の瀬が迫り、寒さが厳しさを増す中、歳三は千鶴の遺品を引き取りに車で湾岸署へと向かった。
「彼女の遺体は、どうなりますか?」
「遺体の引き取り手が居ないので、火葬してすぐ無縁墓地に葬られます。」
「そうですか・・」
「遺品は、あちらの部屋にまとめておきましたので、どうぞ。」
「わかりました・・」
歳三は警察官に連れられて千鶴の遺品がある部屋へと入った。
机の上に広げられていたのは、彼女が死んだ時に身に着けていた衣服とネックレスだった。
ペールグリーンのタートルネックのセーターと、アイボリーのダウンジャケットは赤黒い染みで汚れており、プラチナのハートのネックレスはチェーンがちぎれていた。
それらを全て見た時、歳三は彼女が死に間際身に着けていた物が、自分が彼女に贈った物だという事に気づいた。
千鶴の黒いリュックサックの中には、所持金二千円とレシートしか入っていない財布、スマートフォン、そして―母子健康手帳が入っていた。

『土方さん、あの・・』

 あの日―千鶴と最期に会った日、歳三は彼女が何か言おうとしてやめていたことを思い出した。

「解剖の結果、彼女は妊娠十四週に入っていました。」
「そうですか・・」
「これが、彼女の遺書です。」

警察官がそう言って歳三に手渡したものは、赤黒い血と、涙の跡と思しき染みで汚れた、一枚の便箋だった。

“出会わなければよかった。”

たった一行。

その一行だけを書き、その命を絶つまで、千鶴はどんな思いでいたのだろう。

千鶴から一方的に別れを切り出され、カフェから出て行った彼女をすぐに追い掛けていれば。
彼女の事を知った妻の親族が彼女を激しく詰った時、もっと彼女を気遣ってやっていれたら。

「済まねぇ、千鶴・・」

 彼女は―千鶴は、純真で、優しくて、春の月のような存在だった。

それなのに、彼女はあの事件の所為で家族や、自分と産まれてくる筈だった子供と三人で歩む未来を、自らの手で断ち切るしかなかった。

(どうして、俺は・・また、てめぇの惚れた女を守れなかったんだ!)

「土方さん?」
「あの、俺が彼女の葬式を出す事は出来ますかね?」
「そうですね・・」
「仮にも俺は・・彼女の、婚約者だったので・・いや、婚約者になる筈だったので、こいつを・・」

 最後まで平静を装うとしていたが、無理だった。

床に蹲り、警察官から毛布と優しい言葉を掛けられるまで、歳三は激しくその場で嗚咽した。

「行ってきます。」

今は亡き両親の遺影に向かってそう語りかけた後、千鶴は部屋を出て、ハローワークへと出かけた。

検索機の画面にかじりつきながら求人情報を見ていたが、介護や飲食、清掃などの人手不足の業界のものが多かった。

中卒で、何も資格がない彼女は、贅沢に仕事を選べる立場ではなかった。

「ご両親は事故で亡くなっているのね。そう・・じゃぁ聞くけど、身内に犯罪者が居るとか、そういうのはないわよね?ほら、うちは客商売で、顧客からの信用が第一だから・・」
「それはありません。」

従兄一家とは姓が違うので、大丈夫だ。

「あなた、スマホや携帯は?」
「持っていません・・」
「そう。だったら、採用するわ。スマホ代はこちらで払うから、これからわたしと一緒にスマホを契約しに行きましょう。」
「はい・・」

女社長の決断と行動は早かった。
千鶴は女社長と共に会社の近くの携帯ショップへ行き、生まれて初めてスマホを持った。

「これで、すぐに連絡が出来るわね。ラインもやっておきましょう。」
「はい。」

こんなに早く、仕事が決まるなんて思わなかった。
千鶴が少し高揚した気持ちで帰宅すると、部屋の前にはアパートの大家が立っていた。

「あら、やっと帰って来たのね。」
「大家さん、どうしたんですか?」
「あのねぇ、このアパート、来月老朽化で取り壊される事になっちゃってね。だから、今月いっぱいでここから出て行ってくれないかしら?」
「そんな・・」
「まぁ、新しい住み家はちゃんとこっちで探しておくから、心配しないで。」

大家は一方的にそう言うと、さっさとその場から立ち去っていった。

(これから、どうしよう・・)

新しく部屋を探すといっても、女性一人で部屋を借りるのは大変だった。
保証金や敷金・礼金をやけに高く請求してくる業者も居たし、“『男と一緒に暮らす前提』で部屋を借りられては困る”といった偏見に満ちた理由で断られた所もあった。
千鶴が溜息を吐きながらカレンダーを見ると、もうすぐあの事件の日が近づいている事に気づいた。
クリスマス―それはかつて、自分達家族にとって幸せの象徴だったが、今は違う。

“人殺し!”
“あの人を返せ!”

道を歩けば、擦れ違う人達から、罵声を浴びせられる。

“あいつの従兄、人殺しだって。”
“こっち睨んでるよ。”
“あたしらも殺されるんじゃない?”

学校で家庭科の調理実習があると、千鶴は必ず自習させられた。
クラスでは孤立し、それまで仲が良かった友人達も次々と離れていった。

そして―

両親が自殺した日は、奇しくもクリスマス=イヴの、雪の舞う日だった。

両親へのささやかなクリスマス・プレゼントを買い、息を弾ませながら千鶴が帰宅すると、そこには首を吊っている彼らの姿があった。

「うわぁ、雪!」
「珍しいですね、今年は暖冬だから降らないって思っていたのに。」
「二人共、寒いから店の中へ入れ。」
「は~い。」
歳三はアルバイトの店員二人を帰らせた後、カフェの閉店準備に取り掛かった。
一人になり、静かになった店内で清掃作業をしていた彼は、ふと掃除をする手を止めて、外のクリスマス=イルミネーションを見つめた。

(もう、そんな時期か・・)

歳三は、左手薬指にはめている結婚指輪を見つめ、溜息を吐いた。
あの事件から、もうすぐ五年の歳月が過ぎようとしている。
掃除を終わらせ、歳三はカフェの戸締りをした後帰宅して帰宅した。

「お帰りなさい、歳三さん。」
「お義母さん、いらしていたのですか。」
「えぇ。もうすぐあの子の月命日だからね。」

玄関先で靴を脱ぎ、歳三が自宅マンションの部屋に入ると、リビングには妻の母・麗子の姿があった。

「冷蔵庫に、ケーキ作ったの置いておいたから、食べてね。」
「はい・・」
「じゃぁ。」

義母との気まずい関係は、今に始まった事ではなかった。

―どうして、あの子と一緒に居てあげなかったの!?

事件の一報を受け、歳三が霊安室で妻と再会した後、彼は義母に激しく詰られた。
その後、彼女が妊娠していた事を、彼は知った。
クリスマス・イヴに大切な家族を理不尽な暴力によって奪われた歳三をはじめとする事件の遺族は、“若葉会”を結成し、月に一回会合をカトリック教会で開くようになった。
会合の日は、毎月二十五日だった。
歳三はキッチンで夕飯の支度をしようとした時、ふとダイニングテーブルの片隅に置かれている一枚の葉書を見た。

“遺族会 会合のお知らせ”

歳三はその葉書を読んだ後、それをゴミ箱へと投げ捨てた。
ガサガサ、という音がリビングから聞こえたので、歳三が鍋の火を止めて音がした方へと向かうと、麗子が一方的に歳三に押し付けたハムスター・りんたろうが空腹を訴えてケージの金網を噛んでいるところだった。
「待ってろ、今エサをやるからな。」
歳三はこのクロクマハムスターが自分の帰りを待っていると思うと、仕事を頑張れるのだった。
りんたろうの餌皿にペレットを入れる為にケージの扉を開けると、彼は歳三の掌の上に乗った。
「そろそろ、お前ぇのケージも新しくしねぇとな。」
一人だけの寂しい夕食を終え、歳三はりんたろうと楽しい時間を過ごした後、そのままこたつの中で寝た。
歳三が翌朝こたつの中で寝返りを打っていると、玄関チャイムのドアがうるさく鳴った。

(誰だ、こんな時間に?)

歳三が眠い目を擦りながらインターフォンの画面を見ると、そこには“若葉会”のメンバー、篠山信子の姿が映っていた。

『土方さ~ん、いるんでしょう!?』


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