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JEWEL

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全4件 (4件中 1-4件目)

1

薄桜鬼 刑事パラレル二次創作小説:埋み火(完)

2021年08月18日
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※画像はGIRLY DROP様からお借りしました。

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

その日、一人のOLが家路を急いでいた。

(あ、もう降ってる・・)

彼女は駅から自宅があるマンションまで早足で歩いた。
 その途中にある児童公園で、彼女は茂みの中で何かが動いている事に気づいた。
最近この近辺ではラブホテル代わりに人目を気にせずHに励む若者が多いらしい。
なので、彼女は大して気に留めずにその場を通り過ぎた。
翌朝、一組の若いカップルの遺体がその茂みの中で見つかった。
二人共全裸で、遺体の近くには彼らの衣服と使用済みのコンドームが散乱していた。
「二人の死因は、出血性ショック死。おそらく行為の最中に何者かに鋭利な刃物のようなもので刺されていたのでしょう。」
「それにしても、どうして外でHするのかね?」
「若さ故、でしょうか?ちなみにあの公園は若者の間でHスポットとして有名ですよ。」
「そうか・・それよりも山南さん、その袋は何だ?」
「あぁ、これは夜食ですよ。近くのスーパーで色々と買って来ました。」
山南はそう言うと、スナック菓子やアイスクリームなどを袋の中から取り出した。
「あんた、こんなので足りるのか?」
「えぇ。」
「それにしても、あいつらの他に公園をラブホテル代わりにしている若者達が居るって事だよな?」
「公園の監視カメラに若者達の顔が映っているかもしれませんねぇ。」
「そうか。」
山南の話を聞いた歳三は、真っ先にサイバーセキュリティ課へと向かった。
「斎藤、居るか?」
「土方さん、どうかされたのですか?」
「事件現場の公園の監視カメラの映像見られるか?」
「はい。」
斎藤は何処かせわしない動きでキーボードを叩くと、現場となった児童公園の監視カメラ映像をパソコンの画面に表示した。
「被害者二人が公園に入ったのは昨夜の八時過ぎか。それから一時間後に殺害されたのか。」
「事件当時、現場周辺では雨が降っていました。」
「そうか・・」
「それと、被害者のSNSにこんな書き込みが。」
斎藤はそう言うと、被害者の一人のSNSを歳三に見せた。
そこには、“バカが死んだ”という書き込みがあった。
「この書き込み、誰が書き込んだのかわかるか?」
「はい。少しお待ちくださいね!」
妙に張り切っている斎藤のお尻に犬のそれが歳三に見えたような気がした。
「えぇと、書き込みをしたのは被害者の同級生でした。」
「そうか。」
翌日、歳三は勇と共に被害者達が通う高校へと向かった。
そこは、中高一貫の私立校だった。
「あの、お二人共刑事さんですか?」
「そうだが・・」
「初めまして、わたしこういう者です!」

そう言って歳三達に話し掛けた女子生徒は、二人に自分の名刺を渡した。

“新聞部 部長 木下由美”

「木下って、まさか・・」
「あ、いじめ被害者に殺されたバカ女は、わたしの姉です。いつかはこうなると思っていたんですよね。」
「それで、俺達がどうして刑事だとわかったんだ?」
「あぁ、この前うちに線香上げに来てくれたじゃないですか。それにわたし、イケメンには弱いんです。」
木下由美に連れられ、歳三は新聞部の部室に入った、
するとそこには撮影機材や自撮り棒などがきちんと机の上に並べられていた。
「あ、ごめんなさいすぐに片付けるので。」
「へぇ、今時の新聞部は進んでいるなぁ、動画配信がメインなのか。」
「まぁ、今は何でもスマホですよ。それに、新聞は編集しやすいからデジタルが主流ですね。」
「そうか。」
「あ、見せたいものはこれです。」
木下由美は、歳三達にある映像を見せた。
それは、事件現場となった公園から、犯人と思しき人物が走り去っているものだった。
「こいつが着ているジャージ、うちの隣の高校ですよ。」
「へぇ。」
「うちの高校、何というか令和の居間に昭和の精神論をやっている時代遅れ。隣は自由な校風で、ここ無理!って思った生徒達が次々と転校していってます。」
「あの公園の事、どこまで知ってる?」
「みんな知ってますよ。」
「また何かわかったところがあったら、連絡してくれ。」
「わかりました。」
由美に自分達の名刺を渡した後、歳三達は私立校に隣接している公立校へと向かった。
「この写真に写っているこのジャージ、お宅の学校指定のものですよね?」
「はい・・あぁ、これは安田のだなぁ。」
「その生徒を、呼んで頂けませんか?」
「いえ、それが・・その生徒は、既に退学してしまいまして・・」
「原因は?」
「一身上の都合、です・・」
そう言った教頭の目が少し泳いでいるのを見た歳三は、“何かある”と勘で解った。
「おい、今警察の人来てる!」
「マジ!?」
「もしかして、公園の事件絡み?」
「つーか、あんた達ヤバいんじゃないの?」
「は?俺ら別に悪くねぇし!」
「まぁ、いいけど。」
歳三達は、公園の監視カメラに映っていた“安田”という生徒の自宅へとやって来た。
「確かに、うちの子です。」
玄関先に出て来た主婦は、そう言ってパニックになっている心を落ち着かせようと、エプロンの紐を指先で弄っていた。
「息子さん、今何処にいらっしゃるかわかりませんか?」
「いいえ、あの・・」
「マーマ、ポテチ切れちゃったよ!」
階段の方から人の足音と共に、一人の肥満体の男が玄関先にやって来た。
「拓ちゃん、後でね。」
「マーマ、ポテチぃ!」
年の頃は歳三と同じ三十代前半だろうか、男は自分達の存在など無視して母親に菓子をしつこくねだっている。
「すいません、出掛けなければいけないので・・」
「わかりました。」
「マーマぁ!」
安田家を後にした歳三達は、近くにあるファミリーレストランへと向かった。
「いらっしゃいませ~!」
平日の昼間とあってか、店内は閑散としていた。
歳三達は豊富なメニューの中から、“日替わり和定食”を選んだ。
「あの安田って家、何かありそうだな。」
「あぁ。」
「今回の事件は、色々と複雑な問題が絡んでそうだ。」
「何だか、安田家で見たあの男・・あいつが犯人かもしれねぇな。」
「それはないだろう。彼と公園の監視カメラに映っている男とは全くの別人だろう?」
「あぁ、そうなんだが・・でも、何かひっかかるんだよな・・」
「また安田家へ行ってみよう。」
そんな会話を歳三達がファミレスでしている頃、安田家では長男・拓がひと騒動起こしていた。
「いつものポテチじゃない!」
「ポテチはこれでいいでしょう。」
「違うもん、これじゃない!」
拓はそう叫ぶと、母親に向かって手当たり次第に物を投げつけた。
「やめて!」
「ポテチ、ポテチ~!」
「うるせぇな、勉強に集中できないだろ!」
「ポテチ、ぎゃぁぁ~!」
拓は三歳の頃、高機能自閉症と診断され、その上コミュニケーションに対して非常に困難な面を持っていた。
彼はその所為で小学校入学と同時に不登校となり、三十年も自室に引き籠もっている。
拓の弟である健は、引き籠もりが居る兄の所為で働いている母の代わりに家事やアルバイトに励んでいたが、学校にアルバイトの事がバレ、退学させられた。
それでも何とか自宅で勉強しようとしたが、兄の所為でそれも出来ない。
「うるさい!」
激情の余り、健は兄の首を彼の背後から登山用のロープで絞めた。
拓ははじめ足をバタつかせていたが、暫く動かなくなった。
「母さん、俺・・」
「早くこれ、何処に捨てないとね。」
「え?」
「何ぼさっと突っ立っているの、早くして!」
母の余りの変わりように驚きつつも、数分前までは兄だった“それ”を母と二人がかりで風呂場まで運んだ。
「バラすのは母さんがやっておくから、あんたは外を見張っていなさい。」
「うん・・」

母が風呂場の中へと入った後、玄関のチャイムが鳴った。

逃げられない―そう思った。

「もう、限界だと思ったんです。」
取調室で安田和子は、そう担当の刑事に零すと、ハンカチで目頭を押さえた。
「三人での暮らしは、もう限界でした・・主人が生きていた頃はまだ収入は安定していたのですが、主人が昨年の五月に亡くなって、その上コロナでパートのシフトもなくなって・・」
「それで、息子さんを手に掛けたと?」
「手を掛けたのは下の子です。あの子は引きこもりの兄の所為で、色々と辛い思いをしてきました。」
「生活保護などは、考えられなかったのですか?」
「持ち家を手放せないんです。拓は環境の変化を嫌うんです。福祉を頼ろうにも、お金がかかります。」
「健君の事は、我々がしっかりと支えていきます。」
「ありがとうございます!」
公園のカップル殺人事件は、被害者の元交際相手が逮捕された。
 彼は、公園でHに励む若者達の写真や動画を撮り、それをネタに金銭を要求していた。
「今時の子はこわいな。」
「勝っちゃん、あんた俺と飯を食うよりも、家に帰った方が・・」
「実は、常子と喧嘩しているんだ。たま子の事で。」
「喧嘩の原因は?」
「実は、たま子にS女初等部を受験させると言って常子と揉めているんだ。」
確か勇の一人娘・たま子はまだ三歳の筈だ。
「それで、勝っちゃんはどうなんだ?」
「三歳の子にはのびのびして欲しいと言ったんだが、“学歴が全てを制する”って言って常子は・・」
「それで?」
「たま子を連れて実家に帰ってしまったんだ。」
「まぁ、お受験の事でうちも一度揉めたな。千鶴は意地悪なママ友からマウント取られたから、見返してやりたいと思ったらしい。結局お受験はさせなかったが。」
「そうか・・」
「学歴が全てじゃねぇ。今は二人共頭に血が上っているんだから、少し冷却期間を置いた方がいいぜ。」
「わかった、そうする。」
勇とスーパーの前で別れた歳三は、誰かに尾行されている事に気づいた。
「土方さん、どうしたんだ?浮かない顔をして・・」
「あぁ、実はな・・」
翌朝、歳三は原田に昨夜の事を話した。
「土方さん、ですよね?」
自宅の前で、歳三は見知らぬ女性から声を掛けられた。
「あの、あなたは?」
「銀座のクラブ、“シャルタン”を調べて下さい、お願いします。」
「あ、ちょっと!」
女性は歳三に告げると、闇の中へと消えていった。
「“シャルタン”ねぇ・・」
「何か心当たりがあるのか?」
「組織犯罪課で今、大がかりな違法ドラッグの捜査をしていたが、そこで“シャルタン”が違法ドラッグの捜査をしている情報を掴んだんだ。」
「何かあるな・・」
「俺が潜入捜査したい所なんだが、向こうには顔が知られていてな・・」
「じゃぁ、俺が行く。」
「頼んだぜ。」
「おう。」
こうして、歳三は“シャルタン”に潜入する事になった。
「へぇ・・歌舞伎町で働いていたの。でも、ここは銀座だから・・わかるわよね?」
「はい。」
“シャルタン”のママ、純子はそう言うと歳三を見た。
彼女は加賀友禅の訪問着に、名古屋帯を締めていた。
簪も指輪も、全て高級品だとわかる。
「あなた、ドレスより着物の方が似合うわね。」
「着付けは資格を持っています。」
「そう。」
嘘は、言っていなかった。
「やっぱり、あなたには暖色系より寒色系の方が似合うわねぇ。」
「そうですか?」
「明日から来て。うちはコロナで人手不足でねぇ・・」
「はい!」
歌舞伎町のキャバクラとは違い、銀座のクラブは、政財界の名士や文化人などが集う、“サロン”のような所だった。
「ねぇママ、例のアレ、ある?」
「えぇ、あるわよ。」
 他の客と飲みながら歳三は、ママと常連客が店の地下へと消えてゆくのを見た。
「ごめんなさい、ちょっとトイレ。」
「もう、すぐに戻って来てね~」
「はぁ~い。」
歳三が店の地下へと向かうと、そこはワインセラーだった。
「例のアレよ。」
「ありがとうございます。」
ママがそう言って常連客に差し出したものは、ワインだった。
「あっ、これ忘れていたわ。」
ママがそう言ってワインの中に入れたのは、白い粉だった。
「警察だ、そこを動くな!」
「アヤちゃん・・」
「土方さん、ありがとう。」
「今度焼肉奢れよ。」
「わかったよ。」

数日後、歳三は原田の奢りで焼き肉を満腹寸前になるまで食べた。

「あぁ食った、食った。」
「土方さん、食い過ぎだぜ。」
「あ~、やっぱり人の奢りで食った肉は美味いな!」
「・・綺麗な顔なのに、言動がオヤジ臭いな。」
「あ、何か言ったか?」
「何も言ってねぇよ。」
「そうか。さてと、デザートでも頼むか。」
「おいおい、まだ食うのかよ・・」
「すいませ~ん、アイス下さい!」

店から出た後、原田は酔い潰れてしまった歳三を介抱する為、駅前のラブホテルに入った。

「二人かい?」
「親爺、何か飲み物あるかい?」
「これだったらあるよ。」
そう言ってフロントの親爺が差し出したのは、エナジードリンクだった。
「いや、そんなのじゃなくて、ただの水くれ。」
「はいよ。」
フロントの親爺の何処か詮索めいた視線から逃れるように、原田は泥酔した歳三を背負って部屋の中へと入った。
翌朝―
「ん・・」
歳三は、何故か自分と原田が全裸で横たわっている事に気づいた。
「よぉ土方さん、起きたか?」
「おい、これは一体どうなっていやがる?」
「それは、そのぅ・・」
「トシさ~ん、おはよう!」
歳三がシーツに包まって原田を睨みつけていると、そこへ間が悪い所に八郎が部屋に入って来た。
「トシさんは、僕のだぞ~!」
「八郎、落ち着け~!」

(完)

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Last updated  2021年08月19日 16時01分10秒
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2021年07月13日



※画像はGIRLY DROP様からお借りしました。

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


「おばちゃん、いつものやつね!」
「あいよ~」
椎名透が行きつけの飲み屋でビールジョッキを片手に目を通しているのは、二十年前日野市で起きた、陰惨な資産家一家殺人事件の捜査資料のコピーだった。
犯人の二人組の男達はピザの配達員を装い被害者宅に侵入、長女と次女をゴルフクラブと金属バッドでそれぞれ撲殺、妻・恵津子を刺殺し、夫・隼人を絞殺した後、逃走した。
現場には荒らされていた形跡があり、隼人の書斎にある金庫には乱暴に何者かがこじ開けた形跡があった。
事件当日、現場周辺には台風が接近中で大雨洪水警報が出ていたので、目撃者は一人も居らず、犯人達の足取りは未だに掴めていない。
この事件の生存者である当時十歳の長男は、事件後母方の親族に引き取られていった。
(二十年前よりも、かなり印象が変わったなぁ。)
捜査資料に添付されていた事件当時十歳だった頃の長男―歳三の写真を見ながら、椎名は先程会った彼の顔を思い出していた。
人間というものは、あんなに変われるものなのか―椎名はそんな事を思いながら鶏の唐揚げにレモンを掛けていると、鞄の中に入れていたスマートフォンが彼に着信を告げた。
「うわ、やっべ。」
画面には、“まだ帰って来ないの?”という、妻からのラインメッセージが映っていた。
慌てて店で勘定を済ませ、タクシーで椎名が帰宅すると、夜の九時を回っていた。
「ただいま・・」
リビングに椎名が入ると、キッチンで洗い物をしていた妻は、全身に殺気を漲らせながらゆっくりと彼の方へと振り向いた。
「遅い。」
「ごめん・・」
「仕事忙しいのはわかるけれど、少しは連絡してよね。」
「わかったよ・・」
「ねぇ、来週幼稚園の親子遠足なんだけれど、透君が行ってくれない?あたし、その日急な用事が出来ちゃって・・」
「ディズニーランドだっけ?いいよ、たまには気分転換したいし。」
妻の由美は、丸岡商事で正社員として働いている。
週刊誌記者は大手商社の社員の収入と比べるとそんなに高くはないが、妻と娘を含む家族三人の生活を賄える程の収入が椎名家にはある。
二人の一人娘である望は、来年小学校入学を控えていた。
経済面の事を考え、二人は彼女にお受験をさせない事にした。
「ねぇ、今朝お義姉さんから電話あったんだけれどさぁ、そろそろお受験準備させないとか言ってきてウザイのよね。」
「姉さんは、マウント取るの好きだからな。」
透の姉・真紀子は、夫が高給取りで都内の一等地にあるタワー=マンションの最上階に住み、一人息子を名門幼稚園に通わせている、“セレブママ”である。
生活水準が天地程の違いがある椎名家に対して彼女が何かと口出ししてくるのは、彼女が所謂“マウント取り女”だからだ。
「ま、無視が一番よね。そういえば、お父さん達が遊びに来ないかって言っていたわよ。」
「今度の連休に遊びにでも行くか。」
親子遠足の日は、雲ひとつない快晴だった。
「えんそく、たのしかったね~」
「そうだね。なぁ望、今度福岡のおじいちゃん家に遊びに行こうか。」
「うん、いく~!」
椎名は、訳あって実の両親と絶縁しており、由美と結婚する時、椎名家に婿養子として入った。
両親の消息は、偶に真紀子から聞いているが、最近はそれすらもしなくなった。
親子遠足が終わり、椎名が帰りのバスに揺られていると、スマートフォンが振動した。
休憩に立ち寄ったサービスエリアで着信を確認すると、それは警察からだった。
『もしもし、こちら警察からですが・・』
知らされたのは、両親の死だった。
「透、良かった!」
「姉さん、あの人達が死んだのは・・」
「焼死だって。ガソリンを撒かれて火をつけられたって。まぁ、いつかはこうなると思っていたけれど。」
「そうだな・・」
真紀子と椎名が両親の遺体が安置されている警察署の霊安室へと向かうと、その前には全身黒の喪服姿の刑事と、実家の家政婦の姿があった。
「あ、坊ちゃま、お嬢様!」
「滝さん、無事だったのね、良かった!」
「高田真紀子さんと、椎名透さんですね。はじめまして、この事件の捜査を担当する事になった、土方歳三と申します。」
「ど、どうも・・」
「あら、知り合い?」
「まぁね・・」
田園調布にある住宅で火災が発生し、中からその家の住人である石田高夫、紀子夫妻の焼死体が発見された。
検死解剖によると、二人は何者かにガソリンを撒かれ、火をつけられた事がわかった。
「犯人ねぇ・・あの二人を恨んでいる人間は山程いますよ。父はワンマンでパワハラ・セクハラは当たり前、母は父と同じです。超がつくほどの毒親でしたから、我が子である私達も散々あの二人に苦しめられてきましたから。」
歳三に対して、真紀子は堰を切ったかのように両親に対する恨みを吐き出した。
「葬儀はしません。」
「そうですか・・」
「では、これで失礼致します。」
「毒親、ねぇ・・まぁ、“親子だからわかり合える”なんていうのは、幻想なのかもしれねぇな。」
「そうかもしれねぇ・・」
仕事帰り、歳三はいつものスーパーのフードコートで原田と味噌チーズラーメンとフライドポテトを頬張りながら、そんな話をしていた。
「それよりも土方さん、これを聴いてくれないか?」
「それは?」
「二十年前の、あの事件の犯人の肉声だ。」
「何だって、こんな物が・・」
歳三は原田からウォークマンを受け取ると、イヤフォンを耳につけ、ウォークマンの中に入っていたカセットテープを再生した。

“わたしは、罪を犯しました。”

それは、衝撃的な告白だった。

「犯人は死刑囚の中谷雄介。こいつは、五年前の殺人放火事件で死刑判決を受けた。このテープは、俺の知り合いの記者から借りたコピーだ。」
「知り合いの記者?お前ぇ、知り合いにそんな奴居たか?」
「椎名って奴でな、俺の娘とそいつの娘が同じ幼稚園に通ってるんだ。」
「へぇ・・」
「そういや、そいつの親父さんとお袋さんが殺された事件なんだけどな、犯人が捕まったぜ。」
「犯人は誰だ?」
「被害者の長男で、長い間引き籠もっていたらしい。何でも定職に就かずにパチンコ店に入り浸って借金を作り、親の財産を食い潰していたらしい。全く、“灯台下暗し”とはまさにこの事だな。」
「あぁ。それよりも左之、このテープに吹き込まれている内容は信用できるのか?」
「出来るさ。それに、中谷の証言を裏付ける証拠が見つかった。」
「証拠?」
「二十年前の事件現場に残されていた煙草の吸い殻だよ。そいつに奴と、共犯者の唾液のDNAが付着していた。」
「そうか。」
「じゃぁ、俺はもう帰るぜ。」
「あぁ、またな。」
帰宅してドアを開けた歳三は、部屋の中が妙に静まり返っている事に気づいた。
「ただいま~」
そう言いながら玄関先で靴を脱ぎ、歳三がリビングに入ると、そこは真っ暗だった。
「ただいま~」
いくら彼が呼び掛けても、返って来る筈の家族の声は聞こえなかった。

(一体、どうしちまったんだ?)

その日から歳三は、愛する妻子の声が一切聞こえなくなった。

「土方さん、おはようございます。」
「おはよう・・」

歳三の部下であり、現在はサイバーセキュリティ―課に所属している斎藤一は、上司の顔色が優れない事に気づいた。

「どうかされましたか?」
「いや、何でもねぇよ・・」

歳三は急に眩暈に襲われ、その場に蹲った。

「過労ですね。」
「先生、最近家族の声や姿が見えなくなったり聞こえなくなったんです。」
「そうですか・・」

歳三の主治医は彼の話を聞いた後、病室から出て溜息を吐いた。

「先生、トシは・・」
「幻覚や幻聴といったものが治まりつつありますが、彼はその事を受け入れられないようです。」
「そんな・・」
「なぁ勝っちゃん、俺はこれからどうなるんだ?」
「それは後で話そう。今はゆっくり休んでくれ、トシ。」
「わかった・・」
過労で暫く入院する事になった歳三だったが、その日から彼は夜な夜な妻子の姿を探して病院内を徘徊するようになった。
「何とかして下さい、他の患者さん達からも苦情が殺到しているんです。」
「すいません・・」
勇は病院から許可を得て、歳三を自宅で療養させる事にした。
「トシ、暫く俺達と暮らそう。」
「いいのか?あんたに、迷惑を掛けちまう・・」
「そんなの、気にするな。」
「暫く世話になる。」
最初は親友の家で暮らす事に戸惑っていた歳三だったが、勇の娘・たまこと遊んでいる内に、次第に彼の精神は安定していった。
「勝っちゃん、少し俺に付き合ってくれねぇか?行きたい所があるんだ。」
「わかった。」
歳三が勇と共に向かったのは、自分達の家族と千鶴達が眠る墓地だった。
「悪い、来るのが遅くなっちまった。」
歳三はそう言うと、妻と子供達が眠る墓の前に白薔薇の花束を供えた。
「トシ・・」
「千鶴達の幻覚や幻聴がなくなってから、俺はあいつらが居ない現実と向き合う事から今まで逃げていたんだ・・」

愛していた、心の底から。

だから、妻を喪ったという現実から目を背けた。

そんな事をしている内に、歳三はいつしか妻の幻覚を視るようになった。

幻覚の中の妻は、いつも笑っていた。

いつまでも、そんな幸せな生活が続くと思っていた。
だが、そんな“生活”は、突然終わった。

「これからはもう、逃げねぇ。」
「そうか。」

墓地を後にした二人は、帰る途中で一軒の喫茶店へと立ち寄った。

「いらっしゃいませ。」
「コーヒーを二つ。」
「かしこまりました。」

店内は少し洒落たアンティークの調度品で飾られていた。

「良い店だ。」
「あぁ。」
「なぁ、この店はチーズケーキが美味いらしいぞ?」
「あんた、ダイエット中だろ?」
「う・・」
勇が喫茶店の人気メニューであるチーズケーキを注文しようかどうか迷っている頃、店の奥にある厨房では、一人の女が誰かに電話していた。
「うん、わかった・・えぇ、時間通りに。」
女はスマートフォンの通話ボタンを切ると、それをエプロンのポケットにしまった。
「初めて見る客ね。」
「そうね。身なりからすると、お堅い職業の人みたいね。」
「弁護士とか?」
「あたしが、あの二人にコーヒーを持っていくついでに、さり気なく確かめてみるわ。」
「お願い・・」
「任せて!」
喫茶店「エリーゼ」のホールスタッフ、中村留美は、同僚である石田静の頼みを受け、スーツ姿の男性客二人組が座るテーブルへと向かった。
「コーヒー、お待たせしました~」
「ありがとう。」
「勝っちゃん、本当にチーズケーキ頼むのか?」
「あぁ。」
「すいません、チーズケーキひとつ。」
「かしこまりました。」
留美は注文を取る振りをしながら、左側に座っているスーツ姿の男の前に置かれているものに手をやった。
それは、映画やテレビドラマでよく見る“あれ”―警察手帳だった。
「勝っちゃん、また警察手帳をこんな所に置くなよ!」
「す、すまん・・」
「鞄にしまえっていつも言っているだろう。ああ、何で、こんな所におにぎりが入っているんだよ!しかも、賞味期限三日前に切れてる!」
「あぁ、それは食べるの忘れていた・・」
「もう、しっかりしろよ!」
“勝っちゃん”と、イケメンさんに叱られている人は、そう言いながら照れ臭そうに笑った。
「何だか・・」
「口煩いお母さんみたいな人ね。」
「確かに・・」
「お待たせ致しました、チーズケーキです。」
「うわぁ、来た!頂きます!」
「勝っちゃん、またこぼして!」
歳三はそう叫びながら、ナプキンで勇の口の端を拭った。
(やっぱり、あの人、お母さんみたいね。)
「お疲れ~」
「お疲れ様でした~」
留美と静が「エリーゼ」のバイトを終えたのは、午後四時だった。
今日は平日だというのに、モーニングもランチも忙しかった。
「何だか、今日は疲れたわね。」
「そうね。明日は大学もバイトも休みだから、ゆっくり出来るわ。」
「働きづめは、疲れるわ。」
二人がそんな事を話しながら帰路へ着いていると、突然公園の方から悲鳴が聞こえて来た。
「何、今の!?」
「警察呼ぼう!」
「こりゃ酷いな・・」
「全身滅多刺しの上に、顔面を潰されている・・きっと、ホシはガイシャに相当強い恨みを持っていたんだろうな。」
「あぁ。」
通報を受けて公園に駆け付けた歳三達が見たものは、全身を鋭利な刃物で滅多刺しにされた上に顔面を潰された女性の遺体だった。
遺体の身元は、すぐに判明した。
 山下秀美、人気雑誌の読者モデルだった。
「こんなに美人さんだったのに、残念だなぁ。」
「あぁ。」
歳三は被害者が通っていた高校へと向かうと、一人の女子生徒がじっと自分達の方を見ている事に気づいた。
「どうした、トシ?」
「いや、何でもない。」
「山下秀美さんは、この学校ではどんな生徒でしたか?」
「そうですねぇ・・余り亡くなった生徒の事を悪く言うのは・・」
そう言葉を濁した校長は、木下秀美がクラス内でいじめをしていたという事を歳三達に話した。
「学校側は、いじめが発覚した際どういう対応をされたんですか?まさか、隠蔽などはしていませんよね?」
「それは・・」
歳三は、校長の目が少し泳いだ事に気づいた。
「では、もう失礼致します。」
歳三と勇が校長室から出て行くと、校門の所で見かけた女子生徒が、また自分達の方を見ていた。
「あの、警察の方ですよね?」
「あぁ、そうだが・・」
「あいつの事を、聞きに来たんでしょう?」
ついて来て下さい―彼女がそう言って歳三達を連れて来たのは、音楽室だった。
そこには、木下秀美のいじめの被害者達が居た。
「“美しい薔薇には棘がある”か。」
「一見人から羨ましがられる奴ほど、かなり人から恨まれている奴なんだぜ、勝っちゃん。」
「そうなのか?まぁ、“学校は社会の縮図”というのは昔から変わらんな。」
「そうだな。いじめはネットやSNSが主流になってますます陰湿化しているみたいだし。」

歳三はそう言うと、木下秀美のインスタのアカウントを見た。

そこには、彼女への中傷コメントで溢れ返っていた。

木下秀美の悪業は、瞬く間にネット上に拡散された。

「ねぇ、あいつのインスタ、見た?」
「いい気味だよね。」
「本当、あいつが居なくなって、ストレスなくなった。」

木下秀美殺害の犯人は、彼女のストーカーだった。

交際を迫ったが、木下秀美に罵倒され激昂し、殺害したと犯行を認めた。

「後味の悪い事件だな。」
「殺人事件に爽快感なんてあって堪るかよ。」

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Last updated  2021年07月13日 17時37分07秒
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2021年04月16日



※画像はGIRLY DROP様からお借りしました。

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「え~、本日午前六時頃、東京都日野市にある不動産会社役員・大塚幸三六十五歳宅にて、大塚氏の長女・由美二十四歳と、由美の娘である四歳の長女・みるくと、二歳のみんとが共に刺殺体で発見された。現場には犯人が残したと思われる一枚のメッセージカードがダイニングテーブルの上に、裏庭の茂みには真珠のネックレスがそれぞれ残されていた。そしてその真珠のネックレスには、約二十年前に発生した資産家一家殺人事件の被害者の一人である、土方恵津子のものである血液と、犯人の汗と思しきDNAが検出された。」
事件の捜査本部で、管理官・佐々木只三郎が発した言葉を聞いた刑事達の視線が、一斉に歳三に向けられた。
「え、土方さんの家族って・・」
「平助、後で駐車場に来い。斎藤、お前もだ。」
「わかった。」
「第一班はガイシャの人間関係、第二班は事件現場への聞き込み・・」
「土方君、大丈夫ですか?」
「山南さん・・」
捜査会議が終わり、歳三が暫く呆然としていると、そこへ白衣の裾を翻しながら監察医・山南敬助がやって来た。
「山南さん・・」
「少し、話せませんか?」
「あぁ・・」
山南に連れられ歳三が向かったのは、自販機コーナーだった。
「わたしの奢りです。」
「そ、そうか・・珍しいな。」
「過去の亡霊は、厄介ですね。」
「一体、何が言いたいんだ?」
「今回の事件の捜査、あなたは捜査を外されるかもしれません。」
「わかっているよ、そんな事ぁ。」
歳三はそう言いながら、ブラックの缶コーヒーを飲んだ。
「俺は、あの事件の被害者家族で、唯一の目撃者だ。だから・・」
「これはわたし個人の見解ですが、今回の事件の犯人は、あの事件の犯人とは別人です。被害者の学生時代―中学・高校時代の同級生の中に犯人が居ると思われます。」
「どうして、そんな事を俺に・・」
「わたしは、あなたの事が嫌いではありませんよ。」
では、と山南はロイヤルミルクティーのペットボトルを手に取ると、白衣の裾を翻しながら何処かへと消えていった。
(何考えているのか良くわからねぇ人だな・・)
歳三がそんな事を思いながら缶コーヒーを飲んでいると、突然彼は背後に強い衝撃を感じた。
「トシさ~ん、やっと見つけた!」
「・・誰かと思ったら、てめぇか。」
歳三がうんざりした顔をしながら背後を振り向くと、そこには制服姿の青年が立っていた。
彼の名は伊庭八郎、歳三とは違い、生まれながらのエリート、所謂“キャリア組”である。
「どうした、その格好?ハロウィンはまだ先の筈だが?」
「酷いや、トシさん!」
そう言って頬を膨らませる姿は、まるで頬袋に餌を詰め込んだハムスターのように愛らしい。
「カレンダーの撮影?」
「そうだよ、聞いていなかったの?」
「忙しくてな。」
「あ、トシさんもカレンダーの撮影メンバーに入っているからね。」
「は?聞いてねぇぞ、そんな事。」
「今、僕が決めたんだ。」
そう言って歳三の前に現れたのは、八郎と同じ“キャリア組”で、歳三は大学時代からの友人である大鳥圭介であった。
「はぁっ、勝手に決めんなよ!」
「だって君、警察の“顔”にしては最高だし、伊庭君と並んだら警察志望者増えると思うよ!」
「おいおい、あんたもあの警察学校で地獄のような半年間送ったんだよな?こんなキラキラしたイメージポスター撮ってどうすんだ!?」
「何事もイメージが大事だからね!ねぇ土方君、聞いているの?」
自分よりも年上の上司は、そう言うと頬を膨らませた。
「はいはいわかったよ。それで撮影は何時なんだ?」
「今から三十分後だよ。」
「は!?」
「もしかして制服、持ってないの?」
「持ってるが・・家の何処かにあるかもしれねぇ。」
「じゃぁ早く取って来て!」
「は、今から!?」
「うん、今から!」
「ったく、わかったよ!」
突然の上司の無茶振りに困惑しながらも、歳三はすぐさま自宅へと戻り、制服を探した。
「あ~、もう何処だよ!?」
“どうしたんですか、歳三さん?”
「千鶴、俺の制服知らねぇか?」
“それなら、和室の箪笥の二番目の引き出しに入っていますよ。”
「ありがとうな、千鶴。」
“パパ、お仕事行ってらっしゃ~い!”
「おう、行って来る。」
歳三はそう言った後、二人の幻影に向かって手を振った。
「うわぁ~、やっぱりイケメンは何着ても似合うねぇ。」
「おい、撮るな。もういいだろ?」
「え~、まだ駄目。」
「俺昼飯まだなんだよ。俺を飢え死にさせるつもりか?」
「じゃぁ、僕が奢るからさ、一緒にランチ行こうよ!」
「あ、あぁ・・」
大鳥に連れて行かれたのは、高級ステーキ店だった。
「ここは、シャトーブリアンがお勧めだよ~!」
シャトーブリアンは一万五千円もするので、歳三は一番安いチーズインハンバーグランチにした。
「え、何でそんなの頼んでいるの?」
「いや・・」
「もぉ~、忖度しなくていいのにぃ!」
「そうですよ、トシさん。」
「うるせぇ、お前らとは金銭感覚が違うんだよ!」
「もぉ~、そんな事気にしな~い!」

小動物系男子な上司と部下に挟まれ、歳三は気まずい時間を過ごした。

日野母子殺人事件は、犯人が自首した事により解決した。
犯人は、山南の読み通り被害者の高校時代の“親友”だった。

「あたしは、あの女にいつも虚仮にされて来ました。あの女は、ガリ勉とあたしを笑いました。でも、あの女にあたしは勝った!そう思ったのに・・それなのに!」
犯行の動機は、被害者にマウントされ、逆上したからだった。
「どうして、子供達まで殺した?」
「あの女の邪悪な遺伝子を抹消する為です。」
そう言った犯人は、嬉しそうに笑った。
「そうですか、やはりね・・」
「女ってのは、わからねぇ。」
「性別関係なく、人間はわからない、謎に満ちた動物です。」
「そうだな。」
「お待たせ致しました。」
「これ、頼んでねぇぞ?」
「あちらのお客様からです。」
歳三がバーテンダーの指し示す方を見ると、そこには中東の民族衣装を着た男の姿があった。
彼は歳三の視線に気づくと、嬉しそうに歳三に向かって手を振った。
「相変わらずモテモテですね、土方君。」
「う、うるせぇっ!」
男にモテてどうすんだ――そう思いながら歳三はカクテルを一気に飲み干した。
「土方君、大丈夫ですか?」
「あぁ・・」
カクテルを飲んでから、歳三は酷い眩暈に襲われ、山南に肩を貸して身体を支えて貰いながら、覚束ない足取りでホテルのショットバーから出た。
「救急車呼びましょうか?」
「暫く、ロビーで休む・・」
歳三はそう言いながら山南の顔を見ようとしたが、何故か床が波打っているかのように見えた。
おかしい、さっきまで何ともなかったのに。
(畜生、あの野郎一服盛りやがったな!)
歳三はそんな事を思いながら意識を失った。
目が覚めた彼は、一糸纏わぬ姿でベッドの中に居る事に気づいた。
それに、腰と尻に鈍痛が走る。
訳がわからぬままふと歳三が隣を見ると、そこには見知らぬ金髪の男が眠っていた。
彼が男を起こさぬよう、そっとベッドから抜け出そうとした時、シーツの中から男の腕が伸びて来て、彼はあっという間にシーツの中へと引き摺り込まれてしまった。
「てめぇ、何しやがる!?」
「逃がさんぞ。」
「てめぇ、離しやがれ!」
歳三はそう叫びながら自分を真紅の瞳で熱く見つめる男の頬に平手打ちを喰らわした。
「土方さん、今日京都府警から新しく警視庁に赴任してくる管理官がここに来るんだってさ!」
「へぇ、そうか。」
「邪魔するぞ。」

そう言いながら伊東と共に会議室に入って来たのは、今朝歳三をシーツの中へと引き摺り込んだ男だった。

(最悪だ!)

歳三と目が合った男は、口端を上げて笑った。

「また会えたな。」
「土方君、風間さんとは知り合いなの?」
「ま、まぁな・・」
「酷いではないか、昨夜は愛し・・」
「わ~!」
「どうしたの、トシさん?大声なんか出して?」
「大鳥さん、済まねぇ。ちょっとこいつかりるぜ!」
「え、いいけど・・」
「お前、ちょっと来い。」
「何だ、愛の告白か?それならば・・」
「うるせぇ、黙れ。」
誰も居ない喫煙所へ男を連れて行った歳三は、そう言うと彼の頭を鷲掴みにした。
「痛い・・」
「昨夜の事をもし大鳥さん達の前で言ってみろ、お前ぇの髪を全て引っこ抜くぞ!」
「やめろ・・」
「だったら黙っておけ。」
「わかったから、頭を掴むのはやめろ。」
(さてと、あいつの口止めは出来たし、あとは仕事をするだけか。)
「トシさん、その男誰?」
「は、八郎・・」
歳三は失念していた、八郎の存在を。
「いや、これだな・・」
「僕とは遊びだったんだね!」
「おぉい、何でそうなる!?」
「そいつは間男か?」
「違う!」
「あなた、トシさんとはどういう関係なんですか?」
「貴様にそれを話す義理があるのか?」
「トシさん・・そんな、うわぁぁ~!」
何かを悟った様子の八郎は、ゲシュタルト崩壊しながら喫煙所から出て行った。
「うっ、うっ・・」
「どうしたんだ、伊庭さん?話だけなら聞くぜ?」
八郎が行きつけの居酒屋でミックスナッツをつまみながらビールをちびちびと飲んでいると、そこへ警視庁三馬鹿トリオこと、原田左之助、永倉新八、藤堂平助がやって来た。
「うっ、うっ、トシさんが・・」
「土方さんが、どうしたって?」
「トシさんが、僕という者がありながら浮気したんだ~!」
「へぇ、そりゃ大変だな・・」
「うん・・」
「なぁ・・」
(おい、これはかなりヤバいぞ。)
(何で声かけたんだよ、左之!)
(仕方ねぇだろ・・)
三人が目線を交わし合うだけでそんな話をしていると、八郎の前にはいつの間にか焼酎と熱燗の瓶が転がっていた。
「おいおい、空きっ腹で酒を飲むと悪酔いするぜ?」
「そうだね・・」
八郎はそう言うと、テーブルの近くに置いてあったタブレット端末で料理を注文し始めた。
「うう、トシさ~ん!」
(おい、こいつどうすんだ?)
(どうするも・・)
「あ、会計はこれで。」
そう言って八郎が三馬鹿に差し出したのは、あの有名な黒いクレジットカードだった。
「あ~、昨夜は酷い目に遭ったな。」
「確かに。」
「まぁ、飲み代はあの人持ちだからいいじゃねぇか?」
「それも、そうだな・・」
「あぁ・・」
翌朝、歳三が喫煙所の前を通りかかると、中で三馬鹿がそんな事を話しながら時折自分の方をチラチラと見ている事に気づいた。
「お前ら、昨夜何があったんだ?」
「なぁ土方さん、伊庭さんとはどんな関係なんだ?」
「どんな関係って・・ただの幼馴染だよ。」
「本当かぁ?」
「昨夜のあの様子だと、それ以上の関係に見えるぜ・・」
「おい、話が全然見えねぇんだが・・」
「実はなぁ・・」
三馬鹿は、歳三に昨夜八郎が騒いでいた事を話した。
「カラオケで泣きながら失恋ソングを歌ってよぉ・・」
「そうそう。何だかもう、見ていられなかったぜ。」
「土方さん、後で八郎さんに会ったら色々と弁解しておけよ。」
「あぁ、わかった。」
「それじゃ、俺達はこれで。」
「じゃぁな。」
「また後でな。」
喫煙所の前で三馬鹿と別れた後、歳三が捜査一課の部屋に入ると、何やらチラチラと同僚達の視線を感じた。
(何だ?)
「土方君、ちょっと。」
そう言った大鳥の顔が、少し怖かった。
「さっき、伊庭君のお父上から電話があってね。」
「それで?」
「お父上曰く、“息子がお宅の捜査員に弄ばされて部屋から籠って出てこない。”と・・」
「不味いな。」
「そうだよ、かなり不味い状況だよ。」
「八郎は、何か勘違いしているようだな。俺が直接会いに行って来る。」
「今、それを僕が言いに来たんだ。今から伊庭さんの所に行こう。」
「わかった。」
歳三は大鳥と共に八郎の元へと行くと、そこには厳めしい顔をした彼の父親がリビングのソファに座っていた。
「今回は、わたしの部下がとんでもない事を致しまして・・」
「頭を上げて下さい。どうやら息子と、あなたの部下との間にささやかな誤解があったようです。」
「誤解、ですか?」
「えぇ。」
「トシさ~ん、あの男とは何もなかったんだね!良かったぁ~!」
「おい、苦しいから離せ。」
「嫌だよ~!」
「土方さん、どうか息子をお願い致します。」
「は、はぁ・・」

何だか更なる誤解を生んだような気がして、歳三はならなかった。

「風間、てめぇ何の用だ?」
「貴様、警視総監の息子と結婚するとは本当か?」
「はぁっ!?」
驚きの余り、歳三は声が裏返ってしまった。
「おいおい、一体何処からそんなデマを聞いたんだ?」
「本人の口から聞いたぞ。」
「俺は八郎とは結婚しねぇ。」
「そうか、それを聞いて安心した。」
「は?」
「明日十五時にここへ来い、絶対遅れるなよ。」
「わかった・・」
その日は一日中事務仕事に追われ、歳三が職場から出たのは午後六時頃だった。
「はぁ~、疲れた。今日は外で飯食うか。」
歳三は、そう言いながら最寄駅で電車を待っている間、千鶴に“今日は外で食う”というラインを送った。
“わかりました、お仕事お疲れ様です。”という返事と共に、既読マークの幻が歳三の目に見えた。
「もう、閉まっているか・・」
いつもの店に行った歳三は、そこがもう閉まっている事に気づいた。
仕方がないので、彼はそこから少し離れたファミレスへと向かった。
「いらっしゃいませ~」
メニューを開きながら、歳三は最近ファミレスに行ってから何年経っただろうと思いながら、メニューを決め、呼び出しボタンを押した。
「唐揚げとハンバーグ定食、ドリンクバーつきで。」
「かしこまりました。」
料理を待っている間、歳三は鞄の中から駅前の書店で購入したまま半年間も読まずにいた文庫本を取り出し、ページを捲った。
独身時代は良くジャンルを問わず本を読んでいたが、結婚してからは生活に追われて読む暇が無くなった。
三人が亡くなり、ガランとした部屋の中で布団に包まって丸くなるよりも、もっと他の事がしたかった。
文庫本の内容は、アメリカのハードボイルド物で、ダイナーを営みながら悪人を成敗する老刑事が主人公だ。
このシリーズは長年愛読していたが、久しぶりに新作が出たので手に取ってみたら、やはり面白い。
(はぁ~、また気になる所で終わるのかぁ。新作出るのが楽しみだ。)
ファミレスで夕食を取った後、歳三が人気のない道を歩いていると、誰かの視線を感じた。
(気の所為か?)
そう思いながら歳三が再び歩いていると、カーブミラーにパーカー姿の男が映った。
「おい、見えてんぞ。」
「あらら、バレたら仕方ないなぁ。わたし、こういう者です。」
パーカー姿の男は、そう言って歳三に一枚の名刺を手渡した。

“週刊ミスト 椎名透”

「済まねぇな、記事のネタになるようなものは・・」
「二十年前の事件について、お聞かせ願えないものでしょうか?」
「ノーコメント。」

(手強いなぁ・・)

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Last updated  2021年04月16日 21時54分14秒
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2021年01月08日



※画像はGIRLY DROP様からお借りしました。

「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。


その日は、朝から雨が降っていた。

「うわぁ、これじゃぁ遊園地に行けないね。」
「残念だね。」

二人の姉達がそんな話をしているのを、歳三は少し離れた所で聞いていた。

「ピザでも頼みましょうか?」
「わ~い、やったぁ!」

優しい両親と姉二人の、穏やかで裕福な家庭。

いつまでも、そんな幸せが続くと歳三はそう思っていた。

だが―

「ピザが来たわよ!」


その日、土方家を訪れたのは、ピザの配達員ではなかった。


家族の命を奪った犯人の消息は、杳として知れない。


ネオンが輝き、人間の欲と業が溢れる歓楽街。
その中にあるクラブに、一人の男が客として来た。
「いらっしゃいませ。今夜はどの娘をご所望で?」
「そうだなぁ・・」
男はそう言うと、赤いドレスを着た黒髪のホステスと目が合った。
雪のように白い肌に、整った鼻筋、紫色の瞳―彼女の美しさに、男は一目で心を奪われた。
「あの娘は?」
「あら、お気に召しましたか?」
クラブのママはそう言って男に微笑むと、黒髪のホステスを呼んだ。
「はじめまして、レイコです。」
「レイコちゃんかぁ、可愛いなぁ。」
「お客サン、とってもハンサム、わたしの好みネ。」
レイコはそう言うと、男にしなだれかかった。
彼女の少し筋肉質な乳房が腕に当たり、男の股間が熱くなった。
「二人きりでお話、シタイナ。」
「さぁ、こちらへどうぞ。」
ママに案内され、男はレイコと共に奥の部屋へと向かった。
このクラブは、表向きは高級クラブだが、その裏の顔は高級娼館だった。
このクラブで違法な人身売買と売春斡旋が行われている情報を掴み、レイコと名乗った土方歳三はこのクラブで潜入捜査をして早一ヶ月、漸く彼は犯罪組織の親玉の尻尾を掴んだのだった。
「それでは、ごゆっくり。」
「お客サン、早く抱いテ。」
わざと拙い日本語で歳三がそう言って男―毒島にしなだれかかると、彼は堪らず歳三をベッドの上に押し倒した。
「レイコ~!」
感じている振りをしながら、歳三はガーターベルトに挟んでいたダガーナイフを取り出し、その刃先を毒島の喉元に突き付けた。
「運が悪かったな。」
「レイコ・・」
「警察だ、大人しくお縄につきな!」
「畜生!」
我を失った毒島はそう叫ぶと、歳三に殴りかかったが、彼は毒島の股間に強烈な膝蹴りを喰らわせた。
「土方さん!」
「斎藤、後は任せた!」
「はい!」

こうして、毒島とクラブのママ達は人身売買と売春斡旋の容疑で逮捕された。

『今回の売春組織の摘発は、わたくし共の長期間の潜入捜査により・・』
「何だよ、汚れ仕事は全て俺らに任せて、手柄だけちゃっかり持っていきやがって!」
「本当だぜ、新八っつぁん!キャリアの奴らは汚ねぇよなぁ!」
「あれ、土方さんは?」
「あぁ、土方さんなら、いつもの場所だろ。」
「いつもの場所?」
「大きな事件が解決した後、土方さんは一人でラーメンを食べるのがあの人のルーティーン(習慣)なのさ。」
「へぇ、変わってんなぁ。」
「ぶへくしゅ!」
美しい顔に似つかわしくない、親父臭いくしゃみをした後、歳三は週刊誌の記事を読んだ。
それは、芸能人の薬物汚染について取り上げたものだった。
以前の薬物は覚醒剤だったが、最近は大麻や危険ドラッグなどが摘発される事が多くなっている。
薬物摂取といえば、静脈注射のイメージがあるが、飲み物に混入して飲んだり、葉巻にして煙草のように吸ったりなど、手が込んでいる。
一度摘発しても、また別の組織が薬物を売る―まさに、いたちごっこだ。
溜息を吐きながら歳三が週刊誌を閉じると、丁度呼び出しベルが鳴った。
「お待たせしました~、味噌チーズラーメンとフライドポテトセットで~す!」
こんな夜中に炭水化物の重ね食いはどうかと思うが、大きな事件が解決した後、大型スーパーや商業施設に淘汰されそうになっていながらも、地元の常連客達から愛されているスーパーのフードコートで食べる、味噌チーズラーメンとフライドポテトセットが歳三は好きだった。
ここには、大切な家族の思い出が詰まっているから。
ラーメンを食べ終わった歳三は、ふと学用品コーナーに陳列されている色とりどりのランドセルを見ながら、亡くなった娘の事を想った。
あの子も、あんなランドセルを背負って、妻と三人で桜の木の下で笑顔を浮かべている筈だった。

あの日、急に仕事が入っていなければ。

あの日、妻と口論して、すぐに謝らずに意地を張っていなかったら。

二人はまだ、生きていたかもしれない。

(畜生・・)

雨の日は、嫌いだ。

フードコートを後にした歳三は、適当に店内をぶらついた後、家路に着いた。

「ただいま。」

“お帰りなさい、歳三さん。”
“パパお帰り~!”

今はもう聞こえない家族の声に迎えられながら、歳三は妻と娘の遺影が置かれている部屋に入った。

二つの十字架の前には、妻・千鶴と、娘・千歳の遺影がそれぞれ置かれていた。

リビングのカレンダーは、あの日以来―妻と娘の命を奪った事故の日から、時を止めている。

二人の命を奪った事故の日も、雨が降っていた。


『話してぇ事って、何だ?』
『実は・・』
『用件なら手短に行ってくれ。』
『妊娠したんです。あなたの子を。』
歳三は、千鶴の言葉を聞いた瞬間、全ての音が止まったような気がした。
千鶴とは警察学校時代に付き合い、卒業後に結婚する予定だったが、それは彼女の言葉で狂った。
『ご迷惑でしたね・・こんな・・』
『産んでくれ。』
『でも・・』
『俺は、男としてのけじめをつける。それに、父親になるんだから、お前一人でこの子を育てさせねぇよ。』
『土方さん・・』
『もうそんな呼び方は止せ。これからは夫婦になるんだから。』
『はい、歳三さん。』
こうして、急ではあったが歳三と千鶴は夫婦となった。
歳三は今まで無宗教だったが、千鶴に倣ってキリスト教に入信した。
『天にまします我らの父よ、若き二人の門出を祝福し給え。』
あの時、歳三達は希望と幸福に満ちていた。
歳三は悪阻で苦しむ千鶴を気遣いながら家事をしたり、彼女を労ったりした。
『痛い、痛い!』
『大丈夫だ、俺がついているから。』
千鶴が産気づいた時、歳三は仕事を放り出して彼女の出産に立ち会った。
助産師と歳三に励まされながら、千鶴は娘を出産した。
その後歳三は上司から散々絞られたが、上司の一言でキレた。
『家の事なんか女に全て任せときゃいいんだよ。女房の出産で仕事放り出すなんて社会人失格だ!』
上司を殴った歳三は一週間の自宅謹慎処分で済んだが、男性優位社会である職場では、“軟弱”だというレッテルを貼られた。
元々女顔の所為で周囲から散々、“お嬢ちゃん”だの、“女は帰れ”だとのと陰口を叩かれていたが、それは自分の事だけなので耐えられた。
だが、千鶴があんなに苦しい思いをしていた出産を、“たかが女房の出産ごとき”と決めつけられ、貶されたのは我慢ならなかった。
『千鶴、不甲斐ない亭主で済まねぇな。』
『わたしが稼ぎますから、歳三さんは心配しないでください。』
慣れない育児と家事を並行してやっていて毎日寝不足で疲れているのに、千鶴はそう言って笑った。
娘の千歳が一歳になった時、千鶴は彼女を保育園に預けて働き始めた。
歳三は千鶴と協力して育児と家事を分担しながら穏やかな生活を送っていた。

あの日までは。

その日、歳三は家族三人で幼稚園の親子遠足に参加し、東京ディズニーランドへ行く予定だった。

「どうして、そんな・・」
「仕事だから、仕方ないだろ!?」
「じゃぁこの前、女物の香水をプンプンさせながら帰って来たのは、お仕事だっていうんですか!?」
「あれは付き合いだよ、付き合い!」
「いいですよね、あなたは外で好きな事出来て!」
「なぁ、どうしたんだ!?」
「やっぱり、あなたとはもう無理です!」
「おい、話を・・」
「もういいです!」
それが、夫婦で交わした最後の会話となった。
「後で千鶴に謝った方が良いぜ。こういう時は男が折れた方がいいんだよ。それに、一人家族が増えるんだから・・」
「何だって!?」
「もしかして、千鶴から何も聞いていなかったのか?今、四ヶ月目だってさ。二人目でも、不安になって八つ当たりするのは仕方ねぇさ。」
「後で、あいつと話し合おうと思う。その前に、このヤマを片付けてからな。」
「おうよ。」

都内で起きた強盗立てこもり事件の後始末を歳三が終えたのは、その日の夕方の事だった。

(今からだと、もう間に合わねぇな・・)

「土方さん、さっき無線で事故の連絡があった。」
「それがどうした?」
「舞浜方面だと。」
「何!?」
「何でも、渋滞の車列に大型トラックが突っ込んできて現場は一面火の海だと・・」
「すぐに向かうぞ、原田!」
事故現場は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
タイヤと人の肉が焦げるような臭いと、紅蓮の炎に包まれた車とバスの姿がそこにはあった。
「千鶴、千歳、何処だ!?」
半狂乱になりながら、歳三は救助者の中に妻子の姿を探した。
もしかしたら、二人は無事かもしれないという、儚くも脆い希望を抱いて、歳三は彼らの姿を探した。
だが、運命は残酷だった。
『土方歳三さんですね。先程、奥様と娘さんのご遺体が・・』
歳三は、全身を白い布を被せられた二人と病院の霊安室で再会した。
「死ね、この糞野郎!お前さえ居なければ妹達は死ななかった!お前と一緒にならなければ、お前が妹を孕ませなければこんな事にはならなかったんだ!」
自分に憎悪と怨嗟の言葉をぶつける薫の怒りを、歳三は静かに受け止めた。
「ざまぁねぇな・・日本を守るとか偉そうな事を抜かしている癖に、一番大切なもんを守れねぇで、てめぇ一人だけ生き残って!」
血を吐くような思いでそんな言葉を吐き出した歳三は、隠し持っていた拳銃の銃口をこめかみに当て、躊躇いなく引き金を引いた。
「トシ~!」
「はは、ざまぁねぇな、自殺しようと思ったのによ、神様は意地悪だぜ・・」
あの事故から、半年が経った。
「勝っちゃん。」
「トシ、元気そうだな。」
「あぁ。勝っちゃん、俺はいつここから出られるんだ?早く家に帰らねぇと、二人が心配しちまう。」
「トシ・・」
「この前千鶴が、二人目は男の子だって手紙で・・」
「トシ!」
「早く帰ってやらねぇと。なぁ、勝っちゃん、そんな顔してどうしたんだ?」
「トシ、暫く休んでくれ・・」
「ここから出してくれよ!」
暴れる歳三を、精神閉鎖病棟担当の看護師達が取り押さえ、彼の身体をベッドに拘束した。
「PTSD(心的外傷ストレス傷害)だね。無理もないよ、あんな形で家族を喪ったんだから・・」
「いつ、トシは出られるんだ?」
「それはまだわからない。それにもし退院するとしても、“自殺出来るような物”を家の中に置いてはいけない。」
大鳥圭介は、そう言うと歳三のカルテを見た。
『重度のうつ状態、それに加え希死念慮の傾向あり。』
「トシ、それは?」
「これか?千歳の為に作った手提げかばんだよ。小学校へ上がる前に、ピアノを習わせようって、千鶴と・・」
「トシ、二人は死んだんだ。」
「何、言っていやがる。三人共ここに居るじゃねぇか?」

そう言って歳三は、誰も居ない空間を指した。

 その事件は、閑静な住宅街の中で起きた。

「ガイシャは?」
「四歳と二歳の女児二人と、母親と思われる二十四歳の女性です。」
「そうか・・」

 靴カバーとヘアキャップを装着した後、歳三は事件現場となったベージュ色の家の中へと入った。
リビングの中央に、血の海が広がっていた。

「あ・・」

(落ち着け、今日は、“雨”じゃねぇ。)

「警部補、こんなものが・・」

そう言って鑑識の山崎が歳三に見せたものは、一枚のメッセージカードだった。
そこには、『もうすぐ会えるね。』とだけ書かれていた。

“トシ、逃げて!”
“父さん、母さん!”

奥の方から、犯人達に襲われた姉達の悲鳴が聞こえた。

“トシ、早く!”

恐怖で固まる歳三の白い肌に、母の鮮血が飛び散った。

「うぁぁぁ~!」

歳三は堪らず現場から飛び出し、裏庭で嘔吐した。
彼が呼吸を整えて立ち上がろうとした時、茂みの中に光る物を見つけた。

それは、生前母が事件の時につけていた真珠のネックレスだった。

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