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JEWEL

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完結済小説:月光花

2008年09月28日
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2006年8月21日、オーストリア・ウィーン。

ルドルフは、難産の末に二卵性双生児の男児を出産した。
金髪碧眼と、黒髪翠眼の可愛い男の赤ちゃんだった。

「おめでとうございます、ルドルフ様。」

ユリウスはそう言って双子をルドルフに見せた。

「可愛いな・・」

ブロンドと黒髪の赤ん坊の頭を交互に撫でながら、ルドルフは口元に笑みを浮かべた。

「名前は、いかがいたしましょう?」
「そうだな・・ブロンドの方はルドルフ、黒髪の方はシャルロットでどうだ?」
「ルドルフ・・あなた様と同じ名前ですね。でもシャルロットは女性の名前ですよ?」
「いいじゃないか、元気に産まれてきたのなら性別の区別なんて関係ない。」

ルドルフはそう言って、ルドルフJrに微笑んだ。

ブロンドの赤ん坊は、紅葉のような手でルドルフの指を握った。

アフロディーテが死んでから半年、“キメラ”の猛毒による後遺症がルドルフの身体を徐々に蝕み、一時は昏睡状態に陥ったこともあった。
しかし、ユリウスとジュリオ達の懸命な看護のお陰で、ルドルフの病状は徐々に回復していった。

「産まれたの、ママ?」

ルドルフが破水したという知らせを受け、イタリアから飛んできたジュリオは、そう言って病室に入ってきた。

「ああ。こっちがルドルフ。私に似て可愛いだろう?」
「うん。抱いてもいい?」

ジュリオはそう言って、ルドルフJrをそっと抱いた。

「暫くウィーンにいるね。家のことはパパと相談してするから、ママはゆっくり休んでね。」
「ああ。」

ルドルフは双子に授乳してから、眼を閉じて眠った。

「どうしたんだ、眠れないのか?」

ユリウスがキッチンで1人、月を眺めていると、サリエルがそう言ってワイングラスを持ってきた。

「ああ・・ルドルフ様は、もうすぐ眠りに就くかもしれない・・」
「そうか・・アフロディーテは死んでしまったんだな・・受胎期のリスクは最後まで避けられなかったか・・」
「そんなこと、百も承知だった・・だが、今わたしを悩ませているのは、子供達のことだ。」

ユリウスはそう言ってワインを飲んだ。

「ルドルフとシャルロッテは母親の顔を知らずに育っていく。あの子達にルドルフ様のことを説明できるかどうか、自信がない。わたしもいずれ朽ち果てる身だ。だから・・」
「わかった。その時は俺とジュリオが子供達のことを育てる。それよりもユリウス、ルドルフの体調が回復したら、カプリ島の別荘に行かないか?ウィーンは何かと暑いだろう。」
「考えておこう。」

ユリウスはそう言ってワイングラスをシンクで洗い、寝室へと入って行った。

「ルドルフ様、お体の調子はいかがですか?」
「いい。毒が身体からなくなったようだ。」
「そうですか・・ルドルフ様、イタリアのカプリ島へ行きませんか?太陽を浴びて、のんびりしましょう?」
「ああ・・明日にでも・・行きたいな・・」

ルドルフはそう言って静かに目を閉じた。

「ルドルフ様・・子供達は、わたしが育てますから・・ゆっくりとお休みください・・」

ユリウスはそう言って涙を流した。

数日後、ユリウスはジュリオ達とともに双子を連れてカプリ島へと向かった。

蒼い空と海をバルコニーで眺めながら、ユリウスはワインを飲んだ。

「ルドルフ様・・この空と海を、あなたと一緒に見たかった・・」

ユリウスはそう呟き、ベッドに入った。

イタリアから戻ったユリウスは、双子の育児に奮闘した。
ジュリオ達の助けもあり、ユリウスは双子達の育児と仕事を両立しながら、楽しい日々を送った。
ルドルフが眠りに就いてから2年後、ユリウスは双子と一緒にルドルフが眠るカプツィーナ教会へと向かった。

「ねぇ、ママ何処にいるの?」
「あそこにいるよ。」

ユリウスはそう言って、白い棺へと向かった。

「これはお祖母様とお祖父様が眠っているんだよ。そしてこれがママ。」
「ふ~ん。」

ユリウスの説明に、双子達は興味津々だ。

「ねぇ、ママはいつ起きてくるの?」
「ルドルフとシャルロッテがいい子にしてたら、きっと起きてくるよ。」
ユリウスはそう言って双子に微笑んだ。
「ねぇ、ママの棺にお花があるよ。」

シャルロッテは母の棺を指した。
そこには、誰かが供えた翠の薔薇の花束が置いてあった。

「あれ、どうして翠なの?」
「変なの~」

シャルロッテは白い棺に駆け寄り、翠の薔薇を突いた。

「駄目だよ、花を乱暴に扱っちゃ。それはママの薔薇なんだから。」
「ママの薔薇なの?」
「うん。大切な、大切な薔薇だよ。」

ユリウスは双子の手を引き、カプツィーナを後にした。

3人と入れ違いに、1人の男がカプツィーナ教会に入ってきた。

「・・ルドルフ、久しぶりだな。」

そう言ってサングラスをかけた男は、ルドルフの棺に向かって話しかけた。

「やっと会えると思ったのに、さっさと眠っちまうなんてズルイぜ。」

男は苦笑して、翠の薔薇を見た。

「この花、お前が好きだった花だよな。」

男は薔薇の隣に、スズランの花束を供えた。

「また来るぜ、じゃあな、ルドルフ。」

教会を出て男は空を仰いだ。
夏の蒼い空が、男を優しく包んだ。

―FIN―






最終更新日  2016年08月25日 22時01分23秒
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「ほんと、兄様って弱くなったわね。つまんないわ。」
アフロディーテはそう言ってルドルフの手を踏みつけた。

ルドルフはサーベルを拾おうとしたが、それが手に届く前にアフロディーテに蹴飛ばされてしまった。
「命乞いしたって今更聞いてあげないから。兄様はわたしと一緒に死ぬのよ。」
犬歯を覗かせながら、アフロディーテはそう言って笑い、ルドルフに馬乗りになった。
「さよなら、兄様。」
日本刀の切っ先が、ルドルフの首筋に刺さった。
だが、アフロディーテはルドルフを殺せなかった。
「どうした、殺せないのか?」
ルドルフはそう言ってアフロディーテを見た。
「わたしを馬鹿にしないで!すぐに殺してやるんだからっ!」
そう叫ぶも、アフロディーテの刀を握っている手は小刻みに震えていた。
「アフロディーテ・・」
「・・どうしてわたしを嫌うの、兄様?わたしは兄様の事大好きなのに!それなのにどうして兄様はわたしのことを憎むの!?」
アフロディーテの涙が、ルドルフの顔を濡らす。
「わたしは・・ただ兄様と一緒にいたかったのに・・兄様とユリウスと3人で、いつも一緒に暮らしたかったのに・・」

(殺したくない・・兄様を殺したくない・・)

「アフロディーテ・・」
「アフロディーテ様・・」

ユリウスとカエサルは、2人の様子を呆然と見ていた。

「今からでも遅くないでしょう?仲直り、できるわよね?」
「それは出来ないな。お前が私の上から退かない限り。」

ルドルフはそう言って、アフロディーテに微笑んだ。

「それじゃあ・・仲直りするのね、私達?」

さっきまで泣いていたアフロディーテの顔が、突然明るくなった。

「ああ。私は思ったんだ、心中よりも他にできることがあるって・・選べる道があるって。」
ルドルフはゆっくりと立ち上がり、アフロディーテを見た。

「お前はとても手強い敵だった。だがこれからは、心強い味方となる。」
「兄様・・」

ルドルフはアフロディーテに手を差し出した。
アフロディーテは歓喜に満ちた表情を浮かべ、ルドルフの手を握ろうとした。

その時、教会内に銃声が響き、アフロディーテの身体がグラリと揺れた。

「アフロディ・・」

アフロディーテを抱留めようとしたルドルフの胸と腹を、クレメンティル夫人が放った銃弾が貫いた。

「ルドルフ様!」

ユリウスとカエサルは主の元へと駆け寄った。

「化け物なんて、死んでしまえ!」

クレメンティル夫人は、マシンガンを乱射した。
銃弾はアフロディーテの身体を貫いた。
ルドルフは一瞬何が起こったのかがわからなかった。
ふと顔を上げると、虫の息のアフロディーテが自分に覆い被さっていた。

「兄様・・無事で・・よかった・・」
「アフロディーテ・・?」

ルドルフはアフロディーテを抱き寄せた。
アフロディーテは全身を“キメラ”に撃たれ、真紅の血を流していた。

「しっかりしろ、アフロディーテ!」

「ごめんなさい・・いままで・・人間達に・・酷いこと・・ばかりして・・ごめんなさい・・兄・・様・・を・・傷つけて・・ごめん・・なさい・・」

アフロディーテはルドルフの頬を優しく撫でた。

「大丈夫だ、お前は助かる!だから・・」

死ぬな。

「兄様・・わたしね、今度生まれ変わったら・・また・・兄様の・・弟として・・生まれ・・たい・・」


兄様、泣いているの?

わたしは兄様が大切にしている人間達を虐殺した化け物よ?

それなのに、わたしの為に泣いてくれるの?

ありがとう、兄様。
わたしの為に泣いてくれて。

わたしは、今まで誰かを傷つけて、泣かせてきた。
いつも独りぼっちだった。

初めはユリウスのことが好きだったけれど、兄様のことはもっと好きになったわ。

兄様に振り向いて欲しくて、わたしはいろんな事をした。
でも兄様はわたしを見てくれなかった。

それどころかわたしを拒絶し、憎んでしまった。

兄様に憎まれるより、わたしは兄様と心中して一緒に天国へ行きたかった。
そうすれば兄様と一緒にいられるから。

いつも笑顔で一緒にいられると思ったから。
でもそんなの、はじめから無理だったのよね。

だってわたし達は相容れない存在だもの。

兄様が「善」ならば、わたしは「悪」。

同じ顔をしていても、わたしと兄様は違う。
だから、和解できない。

そんなのはじめから解ってた筈なのにね・・

兄様・・わたしの為に・・初めて・・泣いてくれた・・
ありがとう・・

「アフロディーテ!」

兄様の声が聞こえる。

「兄様・・ありがとう・・」

そこでわたしの意識は、永遠の闇へと消えた。
握っていたアフロディーテの手が、力なく床に落ちた。

「アフロディーテ・・?」

アフロディーテは、安らかな死に顔をしていた。

「アフロディーテ様・・そんな・・嘘だ・・」
カエサルはそう言って、呆然と主の死に顔を見た。

「さようなら、アフロディーテ・・」

ユリウスは静かに目を閉じ、涙を流した。

「アフロディーテ・・」

ルドルフはアフロディーテの頬を撫でた。
アフロディーテの死により、長い戦いは終わった。

本当は嬉しい筈なのに、喜ぶ筈なのに、何故自分は泣いているのだろう?
心にポッカリと、大きな穴が開いたようだった。

「ルドルフ様?」
「行こう、ユリウス。」

涙を流しながら、ルドルフはアウグスティーナ教会を後にした。






最終更新日  2016年08月25日 22時00分32秒
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「兄様、来てくれたの。それにユリウスまで。嬉しいわ。」

アフロディーテはそう言ってゆっくりとルドルフとユリウスの方へと歩いて行った。

「アフロディーテ・・」

ルドルフは血を分けた双子の弟を見た。
今日まで多くの人間を傷つけ、虐殺した弟。
その弟の息の根を、この手で絶つ。

「早く終わらせましょう、兄様。そしてわたしと一緒に死にましょうよ!」

アフロディーテはそう言って、鯉口を切ってルドルフに突進した。

「ユリウス、手出しはするな!」

ルドルフはアフロディーテの攻撃に応戦した。

「剣の腕が落ちたんじゃない、兄様?」
アフロディーテはそう言ってせせら笑った。
「ぬかせ!」
ルドルフはアフロディーテの攻撃をかわしながら叫んだ。
「まだ迷っているのね、わたしと心中することを?もしかして兄様、この期に及んでわたしと手を取り合おうなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そんなこと・・一度も思ったことはない!」
ルドルフはアフロディーテを睨みながら攻撃を繰り出した。
「そう・・ならどうして手加減するの?わたしを殺したくないんでしょう、兄様!」
アフロディーテは蒼い瞳を光らせながら、ルドルフを射るような眼で見た。
「忘れたの、兄様、わたしを拒絶したのは兄様よ。わたしは兄様と和解したかった・・でも兄様がそれを拒んだの。」
アフロディーテの刃が、ルドルフの脇腹を掠めた。
「わたし達は生きている間は和解できないわ。でも一緒に死んでしまえば和解できるでしょう?兄様もそれを望んでいるのでしょう?」
「アフロディーテ・・」
寂しげな光を宿すアフロディーテの蒼い瞳を、ルドルフは見つめた。
「どっちみちわたし達どちらかが死ぬのよ。人生なんて儚いものよね?」
アフロディーテは自嘲めいた笑みを浮かべると、攻撃を繰り出した。
「ルドルフ様・・」
激しい剣戟を繰り広げているルドルフとアフロディーテを、ユリウスは静かに見守っていた。
ユリウスは拳銃を内ポケットから取り出し、それに“キメラ”が入った銃弾を装填し、アフロディーテの頭部を狙って引き金を引こうとした。
だがその時、拳銃が空を舞った。
「アフロディーテ様に手を出すな。」
「カエサル・・」
ユリウスが振り向くと、そこには憤怒の形相をしたカエサルが立っていた。
「お前の相手はこのわたしだ!」
「・・わかりました。」
ユリウスはカエサルが放り投げた剣を掴むと、その鞘を抜いて彼に突進した。
2つの剣戟が教会内に不協和音を響かせる中、ヴァチカンからやってきた男が影のように教会に入ってきた。彼の隣には、クレメンティル夫人が立っていた。
「手筈はさっき説明した通りだ。」
「わかったわ・・」
クレメンティル夫人はそう言って、暗闇へと身を潜めた。
彼らに気づいていないユリウスとカエサルは、激闘を繰り広げていた。
「お前はアフロディーテ様を殺すつもりか?」
カエサルはそう言ってユリウスの横腹を薙いだ。
「アフロディーテはこの世の元凶。そしてわたしがアフロディーテを外に出してしまった。だから後始末はわたしがつける。」
「それは自己満足な正義感に過ぎん!」
憤怒の声をあげて、カエサルはユリウスに突進した。
クレメンティル夫人は、目の前で繰り広げられている戦いを見つめていた。

(なんと美しい・・)

黒いドレスに身を包み、闇に溶け込んだ彼女は、ある作業に取り掛かった。
取り出した箱の中には、“キメラ”入りの銃弾が装填されたマシンガンが入っていた。
彼女はそれを持ち、標的に狙いを定めた。

「もうおしまいかしら、兄様?」

そう言ってアフロディーテは目の前で蹲っているルドルフを嘲笑った。

「大したことないわね。今夜の兄様はとっても弱いわ。」

アフロディーテはルドルフの手をハイヒールで踏みつけた。






最終更新日  2011年07月26日 20時47分25秒
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「準備はよろしいですか、アフロディーテ様?」
カエサルはそう言ってアフロディーテの控室のドアをノックした。
「ええ、いいわよ。」
部屋に入ると、今宵一夜限り開かれるコンサートの為に用意したドレスを身に纏ったアフロディーテが、ドレッサーの前に座っていた。
醒めるようなロイヤルブルーの布地に、黒薔薇の繻子模様がアフロディーテの髪と瞳の美しさを引き立てていた。
今夜のアフロディーテにはいつもの明るさはなく、まるで大親友の通夜にでも行くような顔をしている。
アフロディーテが暗い顔をする理由は、カエサルにはわかる。
今夜が自分の最後のコンサートとなることを、アフロディーテは知っているからだ。
「アフロディーテ様?」
「・・あら、いたの?気がつかなかったわ。」
アフロディーテはそう言って無理に笑顔を作った。だがそんなことで簡単に誤魔化されるカエサルではなかった。
「怖いのですか?戦いの先に待ち受ける永遠の闇が?」
「馬鹿なこと言わないで。わたしはちっとも怖くなんかないわ。寧ろ嬉しいくらいよ・・」
口ではそう言っているが、アフロディーテの手は小刻みに震えていた。
「行きましょ、カエサル。もう開演の時間だわ。」
「・・はい。」
小さく震える背中をカエサルは見つめながら、その背中を優しく抱き締めてやりたい衝動に駆られた。
「いよいよだな・・」
ルドルフはそう言って、ミヒャエル門をくぐった。
かつて自分が住んでいたホーフブルク宮は、現在は観光スポットとして一部の部屋が一般公開されている。アウグスティーナ教会もそのひとつだ。
アウグスティーナへと向かうと、そこにはドレスアップした男女が次々と会衆席を埋めていくのが見えた。彼らはアフロディーテの歌を聴きにやってきたのだ。
ルドルフも観客の1人だった。
しかし能天気で平和ボケしている他の観客達とは違い、彼はただ1つの目的でここに来ていた。
長い戦いを終わらせる為に、彼はここに来たのだ。
自分の命と引き換えに。
「ルドルフ様、そろそろ開演の時間です。」
「ああ、わかっている。」
ユリウスとルドルフはステージである祭壇の方を見た。
その時、アフロディーテが裾の長いドレスを纏い、胸元には黒薔薇と真珠のネックレスで着飾ってステージに現れた。
それと同時に、楽団が『アヴェ・マリア』を奏で始めた。
天使の歌声が、教会内に響いた。
歌っている時のアフロディーテの姿は、NYで見た時とは違い、少し青ざめていた。いつもは自信満々の光で満ちている蒼い瞳は、これから迎える死の恐怖に怯えているように見えた。

(アフロディーテ・・)

死を前にしても、美しい姿で立ち、美しい声で熱唱する歌姫。
ユリウスの脳裏に、アフロディーテと地下牢の扉越しで初めて言葉を交わした時のことが浮かんだ。

“あなた、誰?”

鈴を転がすような声で自分に問いかけた声。
ユリウスはその声を聞き、名もない扉越しの少年に名を与えた。

春の女神の名を。

それから歳月が過ぎ、少年は地下牢からユリウスの手によって外に解き放たれた。
彼はいつも死を纏い、虐殺を繰り返した。だが彼は天性の歌声で名声を高めていった。
だが彼は今夜死ぬ。
扉越しに自分に名を与えてくれた少年と、血が繋がった双子の兄の手にかけられて。
歌い終わったアフロディーテは、丁寧に観客達に向かってお辞儀をした。
そしてゆっくりと顔を上げた。

アフロディーテの目に飛び込んできたのは、自分と同じ顔をした、真紅の軍服を纏った男と、濃紺の燕尾服を着た男の姿だった。






最終更新日  2011年07月26日 20時42分06秒
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「お帰りなさいませ。」

大学からルドルフが帰ると、濃紺の燕尾服に身を包んだユリウスがそう言って彼に頭を下げた。
「よく似合っているぞ。」
「馬子にも衣装ですね。」
ユリウスはそう言って苦笑した。
「夕食はどうなさいますか?今から作るとコンサートに間に合いませんし・・」
「そうだな、外で食べよう。ユリウス、私が着ていく服はあるか?今夜はドレスを着て外に出かけたくないんだ。」
「しばらくお待ちください。」
ユリウスはそう言って寝室へと入っていった。
クローゼットを開け、彼はその奥に仕舞われた金モールボタンの豪奢な真紅の軍服を取り出した。
これはルドルフが皇太子時代に好んでよく着たものだ。
ユリウスは軍服を傷つけないよう慎重にそれをクローゼットから取り出し、それを抱えて寝室を出た。
「これは・・?」
ユリウスが大事そうに抱えている軍服をルドルフは目を丸くして見た。
「あなた様の為に、今日まで大事に取っておきました。手元に残っているのはこれだけでしたので。」
ロシアへと発つ際、ルドルフは何着か軍服を持っていったが、長い放浪の旅の末にそれらは戦争や災害で失ったり、または生活費の足しにして売ったりして、手元に残っているのはユリウスが抱えている真紅の軍服だけだ。
「生活が苦しくなっても、これだけは手離さなかったんです。あなたのお気に入りの軍服ですから。」
「そうか・・ありがとう。」
ルドルフはそう言ってユリウスの頬にキスし、寝室に入って軍服に着替えた。
数分後、ユリウスは軍服姿のルドルフを見て、息を呑んだ。
「どうした?」
「いえ・・」
「もしかして、見惚れていたんだろう?」
ルドルフはそう言って意地悪そうな笑みを浮かべた。
「よくお似合いです。やはり残しておいてよかったです。」
ユリウスはコートを羽織ながらそう言って頬を赤く染めた。
「もう行こうか。食事は外で適当に取ればいい。」
「ええ。何を召し上がりたいですか?」
「そうだな・・マクドナルドかバーガーキングにでも行きたいな。」
「あなた様という方は・・」
ユリウスは苦笑しながら、ルドルフと共に家を出た。
「最後の晩餐はこの前したのに、今日またするとはな。」
ルドルフはそう言って笑いながらコーヒーを飲んだ。
「ええ。」
ユリウスはポテトを摘みながら、それを口に放り込んだ。
「そうだな・・見ろ、ユリウス。みんな私達に注目しているぞ。」
そう言ってルドルフは周りを見渡した。
店内には家族連れと10代の若者のグループだけしかおらず、空いているが、皆ルドルフとユリウスに注目していた。2人はこの場には似つかわしくない格好を、特にルドルフは軍服姿をしていたので妙に目立っていた。
「それはそうでしょう。あなた様はこの場におられるだけでもオーラがあるのですから。」
「いや、違うな。私達の恰好がおかしすぎるのだろう。特に私はまるで舞台俳優みたいな服を着ているし・・」
ルドルフはそう言ってコーヒーを飲んだ。
「食事が終わったら・・」
「わかっている。」
これが本当の、最後の食事だ。
ここを出たら、自分達はもう2度とファーストフードを口にすることはないだろう。
「ユリウス、お前は私に付いてきてくれるか?」
「何をおっしゃいます。わたしはあなたの傍以外に居場所はありません。」
ユリウスはそう言ってルドルフに微笑んだ。
「長かったな・・昨夜、今までお前と過ごしてきた日々のことを夢に見た。ロシアやフランス、イタリア、ベトナム、そして沖縄での日々を・・だが一番夢に出てきたのは、私がここにいた時のことだった・・」
昔を懐かしむような顔をしながら、ルドルフはそう言って昼間よりも一層静かに降り続ける雪を窓から眺めていた。
「・・ルドルフ様、わたしはいつどんな時でも、あなたのお傍におります。」
ユリウスはそう言って、ルドルフの手を優しく握った。
「・・ありがとう。」
ルドルフはユリウスの唇を塞いだ。
2人は食事を終えて店を出た。
「寒いな・・」
「ええ・・」
「でもこの雪を見るのは最後かもしれない。」
ルドルフはそう呟き、静かに歩き出した。
ユリウスも静かにその後についていった。






最終更新日  2011年07月26日 20時40分55秒
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2006年2月14日、ウィーン。

「いよいよ今日だな・・」

ルドルフはそう言ってカレンダーを見た。
今宵、アウグスティーナ教会でアフロディーテがバレンタインデーコンサートを開く。
そこでルドルフはアフロディーテを倒し、ユリウスと一緒に死ぬ。
もう後戻りはできない。

「ルドルフ様、あと少しで・・今夜で終わるんですね。」
「ああ・・」

脳裏に、これまでのことが走馬灯のように過った。
いままでユリウスと過ごしてきた115年間のことを。
初めて出会ったときのことや、アフロディーテが地下牢から解放されて戦いが始まったときのことなどが、次々と浮かんでは消えていった。
「ユリウス、もし私が死んだら・・子供達を・・」
「わかりました。」
ユリウスはそう言って沈痛な表情を浮かべた。

(この人はもう覚悟を決めている。)

この世の元凶ともいえる自分達の存在を自分の手で消そうとしている。
ルドルフの決意は固く、アフロディーテとの戦いに終りが訪れる時、ルドルフは闇の中へと消える。

光が当たらない暗闇へ。

(ルドルフ様・・わたしは・・)

「もう時間だから、大学へ行ってくる。」
「行ってらっしゃいませ。」
ユリウスはそう言ってルドルフに頭を下げた。
大学へと向かうと、どこもかしこも雪で覆われていた。
ルドルフは白い息を吐きながら、図書館へと向かった。
本を読みながら、ルドルフはアフロディーテとの戦いのことを考えていた。
(今夜、私は永遠にいなくなる・・ユリウスとこの子達を残して・・)
そっと優しく、下腹を撫でた。
すると、双子がお腹を蹴る感触がした。
ルドルフは涙を必死に堪えた。
バッグから便箋と封筒を取り出し、ルドルフは何かを書き始めた。
書き終わったものを封筒に入れると、ルドルフは窓の外を見た。
そこには、淡雪が舞っていた。
「今夜も雪か・・」
ルドルフは溜息を吐いて、図書館を出て行った。
淡雪をそっと、掌に乗せる。
するとそれは瞬く間にルドルフの体温で溶けていった。
自分の命もこの雪のように儚く消えてしまうのだろうか。

(せめて、この子達を産んで、その顔を見て死にたかったな・・)

だがそんな小さな願いも叶えられない。
自分は今夜、死にに行くのだから。

(私はもう・・この雪を見ることはできない・・)

大学を出る前、ルドルフは空を仰いだ。
相変わらず雪は降り続いている。
これが最期に見る雪かもしれないールドルフはそんなことを思いながら純白の雪をじっと見つめていた。

(この子達には色々な景色を見てほしい・・たとえ私がいなくても、私が生まれ育ったこの街で元気に育ってくれたら・・)

いつか自分達が化け物と知ったとき、この子達は自分と同じように苦しむのだろうか?
親としては、そんな姿は見たくない。

(わたしは・・この子達を殺すしかないのか・・?)

淡雪が降り続く中、ルドルフは己の決意が揺らぎ始めるのを感じた。

アフロディーテを殺し、自殺すると決意した以上、一度決めたことは変えてはならないとルドルフは思っていた。
だがアフロディーテとの戦いを今夜に控え、ルドルフはユリウスと子供達、そしてアフロディーテ達と手を取り合って生きていけるのではないかーそんなことを思いながらルドルフは淡雪が舞い散る中、静かに歩き出した。






最終更新日  2011年07月26日 20時40分34秒
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「ねぇカサンドラ、あの方とアフロディーテ様は心中する気だって本当なの?」

ジュリアーナはそう言って姉を見た。
「ああ、本気さ。そんなことはお前にとっては何も関係ないだろう?」
カサンドラは煙草を吸いながら椅子に腰を下ろした。
「明日はアフロディーテ様のコンサートね・・」
ジュリアーナは憂いを帯びた表情を浮かべながら、フォークでケーキをつついていた。
「そうだね。ジュリアーナ、今までいろいろあったけど、アフロディーテ様が勝利すれば、この世はあたし達のものさ。もうお前が辛い思いをすることはないんだよ。」
「姉さん・・」
ジュリアーナの脳裏に、悲しい記憶が過った。
「姉さんはアフロディーテ様の味方なのね?」
「まぁね。でもあたしはどうでもいいのさ。ただ、あいつがこの世からいなくなればそれでいいんだ。」
「そう・・じゃあわたし、仕事に行かなきゃ。会えて嬉しかったわ、姉さん。」
「あたしもだよ。」
ジュリアーナは姉と抱き合い、カフェを去り、職場へと向かった。
「遅かったわね。」
「姉さんと会ってたのよ。」
自分のデスクに腰を下ろすと、同僚がジュリアーナの言葉を聞いて目を丸くした。
「姉さん!?あんたに姉さんいたの!?」
「ええ。前に話したわよね?」
「うん・・でも覚えてないわ。」
同僚はそう言って、仕事を再開した。
ジュリアーナはパソコンの電源を入れながら、明日のコンサートのことを考えていた。
もし明日、アフロディーテが“あの方”に勝利したのなら、この世界は変わるのだろうか。
憎しみと破壊に満ちたこの世界が、少しでも良くなるのだろうか?
変る筈はないだろう。
それよりもますますこの世界が酷くなるだけだ。
ひとつ気掛かりなのは、ルドルフとアフロディーテの子供達のことだ。
自分達の頃のように、迫害される日々を送るのだろうか。
(人間は自分達とは違うものは迫害する。分かり合えることなんて、ないのよね・・)
ジュリアーナは溜息を吐き、仕事を再開した。
「じゃあ、あとお願いね~」
そう言って同僚は飲み会へと向かった。
(今日も残業か・・文句言わずに黙ってやるしかないわね・・)
ジュリアーナは目の前に積まれた書類の山を見ながら溜息を吐き、仕事に取り掛かった。
仕事が終わったのは朝の3時だった。
強張った体をシャワーでほぐしながら、ジュリアーナはベッドに寝転んだ。
その頃、アフロディーテはアウグスティーナ教会で最終リハーサルを行っていた。
(兄様、明日が楽しみだわ。だって明日、兄様と一緒に死ねるんですもの。)
チケットは半年前からもう完売している。
明日、ここで自分は兄と死ねるのだ。
大勢の観客の前で。
(早く明日が来ないかしら・・)
「お疲れ様でした、アフロディーテ。」
カエサルがそう言ってミネラルウォーターを渡した。
「ありがとう。」
「いよいよ明日ですね。」
「ええ、楽しみだわ。」
アフロディーテは犬歯を覗かせながら笑った。
「兄様と明日、死ねるんだもの。こんなに嬉しいことはないわ。」
そう言いながら笑うアフロディーテを、カエサルは複雑な表情を浮かべながら見ていた。
(たとえアフロディーテ様が死んでも、この世界は何も変わらない・・)
彼も、ジュリアーナと同じことを思っていた。






最終更新日  2011年07月26日 20時39分33秒
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ウィーンへと戻ったアフロディーテとカエサルは、高級レストランで食事をした。

「ここのステーキはとても美味しいのよ。知ってた?」
「ええ。」
カエサルはそう言ってアフロディーテを見た。
「ねぇ、カエサル、わたしが死んだら、この子達をお願いね。」
アフロディーテは下腹を優しく擦った。
「その子達はわたしの子でもあります。」
「そうね・・どんな子が産まれるのかしら?」
「きっとあなたに似た、かわいらしい女の子でしょうね。」
カエサルはそう言ってアフロディーテに微笑んだ。
「ええ、そうね・・」
寂しげな表情を浮かべながらアフロディーテは静かに頷き、ステーキを食べた。
デザートが運ばれてくる間、2人は何も話さなかった。
これが2人で過ごす最後の晩餐だということを知っていたから。
「美味しかったわね、あそこのレストラン。もうお腹がいっぱいよ。」
アフロディーテはそう言って溜息を吐いた。
「アフロディーテ様、お話したいことがあります。」
「なぁに?もしかして兄様と和解しろっていう話?それなら嫌よ。わたしは兄様に拒絶されたの。兄様はわたしのことが嫌いで、憎んでいるのよ。だからわたしは兄様と死ぬの。だってそれしか方法がないもの。」
また雪が降ってきた。
「足もとにお気をつけください。」
カエサルはそう言って、アフロディーテの手を取った。
「ありがとう。」
雪降るウィーンの街を、2人は静かに歩いた。
「バレンタインデーまで、あと3日ね・・」
アフロディーテはそう呟き、カエサルの手を握った。
シュティファニーから受けた傷が癒えたルドルフは、病院から退院した。
「もう2月か・・」
キッチンの壁に掛けてあるカレンダーを見ながら、ルドルフはそう呟いてソファに腰を下ろした。
「お身体のお加減はいかがですか?」
「大丈夫だ。ただ少しダルイが。」
「お疲れなのでしょう。しばらくお休みになってください。」
ルドルフが寝室へと向かうのを、ユリウスは静かに見送った。
ユリウスはルドルフを傷つけたことを彼に謝ったが、ルドルフは許してくれなかった。
「バレンタインデーまであと3日か・・」
サラダを作りながら、ユリウスはカレンダーを見た。
3日後、アウグスティーナ教会でアフロディーテのコンサートが開かれる。

(ルドルフ様が死ぬ時は、わたしもお傍にいよう・・)

いままでずっと一緒に険しい道を歩いてきた。だからゴールを迎えた時も一緒にいたい。
ユリウスはそんなことを思いながら夕食を作っていた。
「夕食ができました。」
「そうか。」
テーブルの上に所狭しと並べられたディナーに、ルドルフは目を丸くした。
「これはいったいどういう風の吹きまわしだ?」
「最後の晩餐ですよ、わたしとあなた様の。」
ルドルフはユリウスの言葉に何も返さずに、静かに椅子に腰を下ろした。
「あなたが好きなものを作ってみました。」
「そうか。」
2人の間に、重苦しい沈黙が流れた。
「このステーキは、確かNYのレストランで食べたな。」
「ええ。あの時エルジィとアナスタシアがあなた様の隣に座ると言って大騒ぎして、店から追い出されそうになりましたね。」
「そうだったかな?」
そう言ったルドルフは、ユリウスを見た。
「ユリウス、あと3日だな。」
「ええ・・」
その夜、ルドルフとユリウスは愛し合った。
互いの温もりを忘れぬように。






最終更新日  2011年07月26日 20時39分09秒
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吹き荒ぶ吹雪と濃霧の中、アフロディーテとカエサルはゆっくりと遠くに見える建物へと向かった。

「あそこが、兄様の“墓”ね。」
「ええ。厳密に言うならば、あの小娘の“墓”でもあります。」
カエサルはそう言って足を滑らせ、転びそうになった主の手を取った。
「ありがとう。」
「アフロディーテ様、何故ここに来たいとおっしゃったのですか?もうあの事は歴史の闇に葬り去られております。それにあの小娘は黄泉の住人です。あなたが拘ることではないと存じますが?」
榛色の瞳が、アフロディーテを見つめた。
「ねぇカエサル、兄様はなぜここで、あの小娘と死のうとしたと思う?お前、そんなこと一度考えたことがある?」
アフロディーテは前髪を鬱陶しそうに掻き上げながら、濃霧の向こうに見える“墓”を見た。
「あの小娘と現世では結ばれないから、この世を儚んで自害したと、世間一般では言われております。」
「そんなの体よく誰かが作り上げた陳腐なラブロマンスよ。兄様はあんな小娘のことなんて何とも思ってなかった。兄様は自分の死を以て、父様にドイツ皇帝・・あのガタイがいいだけで何の取り柄もない男の陰謀を知らせようとしたのよ。兄様は“暗殺”されたのよ、あいつらに。」
あの日―兄がこの地で“死んだ”日、アフロディーテは狼狽し、悲嘆に暮れた。
だが兄があの成り上がり者の小娘と心中するなど、ありえないと思った。
そして知ったのだ、兄の死の真実を。
あのドイツの熊野郎―ヴィルヘルムが放った者達によって、兄は殺されたのだ。
だが、兄の“死”は馬鹿馬鹿しいラブロマンスへと変わってしまった。
「真実は都合よく覆い隠されて、残ったのは陳腐なラブロマンスだけ。兄様は何の為に“死んだ”のかしら?」
アフロディーテは溜息を吐いた。
「アフロディーテ様、あなたは本当に、皇太子様のことが好きなんですね。」
「さあ、わかんないわ。初めは大っ嫌いだった。わたしからユリウスを奪った糞生意気なガキだと思って、兄様のこと凄く憎んだわ。けれど外の世界に出て、分かったの。この世で家族と言えるものは、兄様とユリウスしかいないってことが。もちろん、お前もだけど。」
アフロディーテはそう言って、カエサルに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「ねぇカエサル、兄様はわたしを殺してくれるのかしら?わたしと一緒に死んでくれるのかしら?もしそうだとしたら嬉しいわ。だって今まで、わたしは兄様に好かれた事なんかないもの・・憎まれた事は何度もあるのに、兄様に愛された事なんて一度もないの。」
寂しげな笑みを浮かべながら、アフロディーテは静かに降り続ける雪を静かに見ていた。
アフロディーテは深呼吸して、澄んだ声で歌い始めた。
これは自分と、兄への鎮魂歌だ。
(もうすぐわたしは兄様と死ねる・・これはわたしが兄様の為に歌う最後の歌・・)
「もう行きましょうか、風邪をひきますよ。」
「ええ、わかったわ。」
アフロディーテはそう言って、“墓”に背を向けた。

(さようなら、兄様・・わたし達は結局、解り合えなかったわね・・でもこれからわたしは兄様と一緒に死ぬんだもの。そんなこと気にしないわ。)

その頃、ルドルフは静かに降る雪を見つめながら、溜息を吐いた。

“あなたは産まれてくる子供達を、殺めるおつもりですか?”

ユリウスに投げつけられた鋭い言葉の刃に、ルドルフは深く傷ついた。
子供を殺すなんて、考えたことがない。
だが、アフロディーテと決着をつける時、この子達は自分達のエゴに巻き込まれ、闇へと葬られる。
(許してくれ・・)
まだ見ぬ我が子に、ルドルフは詫びた。
その時、天使の歌声が聞こえたような気がした。
(気の所為か・・)
ルドルフはゆっくりと目を閉じて、深い眠りに落ちていった。
天使の歌声は、まだ聞こえていた。






最終更新日  2011年07月26日 20時38分13秒
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「子供達のこと?」
ルドルフはそう言ってユリウスを見た。

「あなたがアフロディーテと心中すると決めたことはわかっております。それに、あなたがそう簡単に一度決めたことを変えないことを。」
「何が言いたい?私はオブラートに包むような言い方は嫌いだ。はっきり言え。」
「では言わせていただきます。あなたは産まれてくる子供達を、その手で殺めるおつもりですか?」
一瞬、時が止まったように感じられた。
ルドルフはそっと下腹を撫でると、その手でユリウスの頬を打った。

「私が・・殺せると思うか?いままでやっと、待ち望んできたお前との子を・・わが子を殺せると思うか!?それともお前は、自分の目的の為ならわが子を平気で手にかける人非人だと思っているのか!?」

打たれた頬の痛みに、ユリウスは呻いた。

「お前だけは・・そんなことは絶対に言わないと思っていた・・だがお前は私を裏切り、傷つけた。出て行け、お前の顔など見たくもない!」
ルドルフはそう言ってユリウスにそっぽを向いた。
「失礼・・いたします・・」
ユリウスは病室を出て行った。
その足で彼は、病院の近くにある教会へと向かった。
遥か昔―ルドルフと出会う前からずっと愛用していたロザリオを取り出し、ユリウスは祭壇に向かい、天上におわす神に向かって静かに祈りを捧げた。

(主よ、今日は大切な人を傷つけてしまいました・・言葉は時として人を励まし、時には人を深く傷つける刃となる・・そんなこと充分に解っている筈なのに・・わたしは今日、大切な人を傷つけました・・)

天上にいる神は何も答えない。
自分達は神に背き、多くの人間を虐殺した穢れた存在。
この世に生きてはならぬ化け物。
神が自分達の声など聞いてくれる筈がないーユリウスはそう思い、教会を後にした。
「ユリウスさん?」
背後から声をかけられ、振り向くと、そこには大きな買い物袋を抱えたソロモンが立っていた。
「そうですか・・そんなことが・・」
ソロモンはそう言ってコーヒーを飲んだ。
「わたしは馬鹿なことを言ってしまいました・・あの方が・・ルドルフ様が、子供を道連れにして死ぬことなんて絶対にしない方だとわかっているのに・・。」
脳裏に、ロシアでの悲しい記憶が甦った。
初めて受胎期を迎えたルドルフは、ユリウスとの間に子供を宿したが、その子はこの世に生を享ける前に闇へと葬られてしまった。あれから半世紀以上経っても、あの時の悲しみは未だに癒えることがない。
「あなたは、どうしたいんですか?」
「わたしは・・ルドルフ様と一緒に死ぬつもりです。もしあの方が1人で死ぬと言い出しても、わたしはあの方と一緒に死にます。」
「僕はあなたが羨ましい・・まっすぐにあの方を見つめ続けているあなたが。」
ソロモンはそう言って溜息を吐いた。
「あなたはいつもあの方と一緒だった。あなたは彼に影のように寄り添っていた・・僕はあなたになれたらどんなにいいのかと何度思ったことでしょう。」
「ソロモン・・」
ユリウスは目の前に座っている男の悲しく光るトルマリンの瞳を見た。
「僕はもうお暇するとしましょう。あなたは1人で考えたいことがあるでしょうし。」
ソロモンはそう言って椅子から立ち上がり、リビングを出て行った。
(ソロモン・・わたしはあなたになりたいと何度思ったことか・・ただ純粋にルドルフ様を恋い慕い、自分の想いをぶつけてきたあなたが時々羨ましく思った・・いつも一緒にいるから、互いの距離が近すぎるから、見えないこともある本心を、ルドルフ様はいとも簡単にあなたの前ではさらけ出すことができた・・)
ユリウスはコーヒーカップを洗いながら、静かに冬の空に浮かぶ月を見た。
憂いを帯びた蒼い月が、静かにユリウスの顔を照らした。
その頃、アフロディーテとカエサルはある場所へと来ていた。
「ここが、兄様が“死んだ”場所ね?」
そう言ってアフロディーテは霧の向こうに幽かに見える元狩猟館を眺めた。
「はい。アフロディーテ様、どうしてこんなところに?」
「気分転換よ。」
アフロディーテはそう言って、黒貂の頭を撫でた。
「行きましょうか、カエサル。」






最終更新日  2011年07月26日 20時36分21秒
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