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2022年08月11日
全2件 (2件中 1-2件目) 1 薄桜鬼 魔法学校パラレル 二次創作小説:その愛は、魔法にも似て
テーマ:二次創作小説(767)
![]() 「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが両性具有です。苦手な方はご注意ください。 目が覚めたら、歳三はこの殺風景な部屋に監禁されていた。 「畜生、ここ開けろ!」 「無駄だよ、ここに入れられたら最後、死ぬまで出られねぇのさ。」 「何で俺が、こんな目に・・」 「あんた、その身なりからして、貴族の坊ちゃんだね?居るんだよぉ、金持ちが親の遺産目当てに、親兄弟を精神病患者に仕立てて、一生ここに閉じ込めるのさぁ。」 鉄格子の窓の隙間から顔を覗かせた警備員・ウィードはそう言うとヤニで黄ばんだ歯を剥き出しにしながら笑った。 「どうすれば、ここから出られる?」 「兄ちゃん、ちょいと耳貸しな。」 「先生、あの子はどうですの?」 「かなり酷い状態ですね。幻覚を見て暴れたり、奇声を上げたり・・回復は望めない状態でしょう。」 「まぁ、何てこと・・」 シャルロットはハンカチで目元を拭う振りをしながら、口端を歪めて笑った。 歳三をこのまま精神病院に監禁し、夫の遺産を独占し、邪魔な者を完全に排除して伯爵家を我がものにするのだ。 「あの子に、会えますかしら?」 「ええ・・」 閉鎖病棟は、独特の臭気と雰囲気に満ちていた。 「あちらです、奥様・・」 「トシゾウ、お母様よ。」 シャルロットがそう歳三に呼びかけると、彼は唸り声を上げて鉄格子の窓を叩いた。 「わたくしがわからないの?」 彼女の顔を見た歳三は、眉間に皺を寄せて牙を剥き出しにしながら唸った。 「先生、失礼致します。」 養母と院長が去っていく気配がした後、歳三は唸るのをやめた。 「お疲れさん。」 「あのババアをさっき本気で噛み殺しそうだったぜ。」 「さてと、ここからが勝負だ。この病院は地下に沢山パイプが張り巡らされているんだ。」 ウィードはそう言うと、病院の地下通路の地図を歳三に見せた。 「随分と狭くて細いな・・」 「だろう?ここを通って出られるのは、ネズミくらいさ。」 「ネズミ、ねぇ・・」 杖さえあれば、ネズミに変身できるのだが、杖はシャルロットに奪われてしまった。 (クソッ、一体どうすれば・・) 「なぁあんた、ふたなりかい?」 「は?」 「実はなぁ、あんたがここに来る時に、あんたの裸を見ちまったんだよ。」 「そうかい。俺がふたなりだからどうだっていうんだ?」 「色仕掛け、ていうのはどうだい?」 「色仕掛けだぁ!?あんた急に何を・・」 「あんた、自分がどう周りに見られているのか気づいてねぇだろう?」 ウィードはそう言うと、歯を剥き出しにしながら笑った。 彼の言葉を聞いた歳三は、ストーカーに付きまとわれたり、ラブレターを大量に貰ってその処分に困ったりした学生時代の事を思い出した。 「その顔だと、色々あったみてぇだな。」 「まぁな。」 「あんた、恋人は居るのかい?」 「あ、あぁ・・」 歳三は首に提げているダイヤモンドの婚約指輪に触れた。 その指輪は、学生時代に勇から誕生日に贈られたものだった。 『本当は、エメラルドの指輪を誕生祝に贈ろうと思っていたが、ダイヤモンドの指輪しか買える金がなくてな・・』 『いいんだ、勝っちゃんが俺の為に贈ってくれたものなら・・』 (勝っちゃん、今どうしているのかな・・ちゃんと飯、食ってるのかな?) 「あんた、恋人の事を考えている時、優しい顔をしているんだな。」 「まぁな・・それよりも、誰に色仕掛けをすりゃぁいいんだ?」 「決まっているさぁ、ここの院長だよ。」 「は!?」 「あいつは、いつもあんたの部屋の前であんたの裸を想像してマスかいてるんだぜ。あいつはなぁ、女房が男と逃げてから、ずっと独り身で溜まってんのさぁ。それにな、この病院から出るには、一番手っ取り早くていい方法がある。」 「それは何だ?」 「耳貸しな。」 その日の夜、ジェスリー=ブラッドショー医師は溜息を吐きながら自分のオフィスから出た。 どうせ家に帰っても、広い部屋の中には誰も居ない。 ジェスリーは重い足取りで病院内に設けられている患者のレクリエーション用のプールの前を横切ると、そこには全裸で泳いでいる歳三の姿があった。 ジェスリーは、彼がこの病院に入院したその日から、毎晩彼を抱く妄想をしては自慰をする日々を送っていた。 その彼が、全裸という無防備な姿で自分の前で現れた。 「先生、俺と一緒に泳ごうぜ?」 そう言って舌なめずりをしながら上目づかいで自分を見つめる歳三の姿に、ジェスリーは興奮した。 ―この病院から一番手っ取り早く出る方法って何だ? ―権力を握る事さ。 「君は最高だ・・ずっとわたしの傍に居ておくれ・・」 「勿論だ。」 ジェスリーに抱かれ、歳三は彼に微笑みながらも偽りの言葉を口にした。 あの時、ウィードが自分の耳元で囁いた言葉は嘘ではなかった。 歳三がこの病院に入院してから一年過ぎ、彼はジェスリーを凌ぐ程の絶大な権力を持っていた。 「君の退院の日が決まったよ。」 「へぇ、そうかい。」 「お願いだ、わたしから離れないでくれ。ずっと傍に居てくれ・・トシ。」 「その名で俺を呼ぶんじゃねぇ。」 歳三は眉間に皺を寄せると、赤いピンヒールでジェスリーの股間を踏みつけた。 「俺をその名で呼ぶのを許されているのは、唯一人だけだ。」 「ごめんなさい・・」 歳三はジェスリーのオフィスから出ると、ジェスリーが特別に自分の為に用意してくれた部屋へと戻った。 「お帰りなさいませ、女王様。」 「その呼び方やめろ、気色悪い。」 「あいつ、あんたをここから出す気はねぇようだぜ。」 「それは本当か?」 「あぁ。あいつはあんたをここで一生薬漬けにして飼い殺しにするつもりだぜ。」 「そんな事、させて堪るか!」 「何かあったら、これを使いな。」 ウィードはそう言うと、ある物を歳三に手渡した。 その日の夜、歳三はいつもの自分専用の部屋ではなく、一年前自分が入院していた部屋で眠っていた。 「トシ、そこに居たんだね。随分と探したんだよ・・」 ジェスリーが荒い鼻息を吐きながら、そう言うと歳三の乳房を乱暴に揉みしだいた。 「君を退院なんかさせないよ・・君はここで、わたしの子を産んでずっとここで暮らすんだ・・」 「・・それがてめぇの本心か。」 歳三はそう言うと、メリケンサックを嵌めた拳でジェスリーを殴った。 「嫌だ、行かないでくれ~!」 「世話になったな。」 こうして歳三は、約一年間過ごした精神病院を後にした。 「達者でな。」 「あばよ。」 ウィードから車の鍵を受け取った歳三は、その車で一路ロンドンへと向かった。 同じ頃、ロンドン郊外の低所得層団地がある地区の路上で、一人の男性の遺体をゴミ清掃員が発見した。 男性は外傷がなく、司法解剖の結果、男性の死因は“心臓麻痺”だとわかった。 男性は、恐怖の表情を浮かべたまま死んでいた。 (霧が濃くなって来やがったな・・) 精神病院から脱出した歳三は、自分の逃亡を手助けしてくれた警備員・ウィードの車で一路ロンドンへと向かっていた。 霧が多い山岳地方を歳三が車で走っていると、ますます霧が濃くなってきた。 それと同時に、正体不明の“何か”が自分に迫ってくるような感覚に彼は襲われた。 (この感覚、まさか・・) 歳三が前を見て只管ハンドルを握っていると、フロントガラスに黒い布が突然はりついた。 すると、車内の空気が急激に下がり、車の窓ガラスが凍り付き始めた。 (こいつは・・吸魂鬼!) 吸魂鬼―その名の如く、人間の魂を喰らう化物。 フードの下から干からびた唇で、吸魂鬼は歳三から“幸福”を奪った。 「やめろ・・やめてくれぇ!」 歳三はハンドル操作を誤り、車ごと崖下へと転落した。 ―あの子、いつも周りからトラブルを起こして・・ ―この前だって・・ ―産まれてこなければよかったのに。 脳裏にこだまする、自分への呪詛と怨嗟の声。 呼吸をしようとする度に、歳三は鮮血を吐いた。 肋骨が折れ、肺が傷ついているのだ。 このままだと、あと数分ももたない。 死にたくない。 死にたくない。 ―やっと、見つけた・・ 何処からか、衣擦れの音がしたかと思うと、ドレスを着た、自分と瓜二つの顔をした女が歳三の顔を覗き込んでいた。 ―あなたを、こんな所で死なせる訳にはいかせない。 女は、そう言うと歳三の唇を塞いだ。 すると、歳三の脳裏にある映像が流れて来た。 それは、女が赤ん坊を抱いて幸せに笑っている姿だった。 ―何て可愛いのかしら・・ ―陛下、そろそろ閣議のお時間です。 ―えぇ、わかっているわ。 女は、赤ん坊を名残惜しそうに乳母へと渡すと、そのまま子供部屋を後にした。 ―また会いましょうね、わたしの坊や。 そこで、脳裏に流れていた映像はそこで途切れた。 「先生、患者さんの意識が戻りました!」 「大丈夫ですか?」 「ここは?」 「病院ですよ。誰か、ご家族に連絡を・・」 「家族は、居ない・・」 「そうですか・・」 歳三は、たまたま近くにあったメモ用紙に、勇の連絡先を書いた。 「トシ!」 「勝っちゃん・・」 「いきなり連絡して来たと思ったら、事故に遭ったって聞いて驚いたぞ!」 「済まねぇな、勝っちゃん。」 あれ程の大怪我をしたのにも関わらず、歳三は全治一ヶ月で済んだ。 「大丈夫か、トシ?」 「あぁ、大丈夫だ。勝っちゃん、あいつらはどうしているんだ?」 「総司達は何とかやっているよ。それよりも、杖はどうしたんだ?」 「・・失くした。」 「そうか。退院したら一緒に選びに行こう!」 「あぁ、そうだな・・」 歳三はそう言うと、事故の時に見た、あの女の事を想った。 他人の空似とは思えぬほど、自分がまるで鏡に映っているかのような、あの女。 「じゃぁ、また来るからな、トシ。」 「あぁ。」 勇が病室から出て行った後、歳三はベッドに横になり、目を閉じた。 夢は、見なかった。 「なぁ、こんな事したら退学だって!」 「へん、そんな事でビビる位なら、スリザリン生が務まるかよ!」 「さて・・始めるか。」 人気のない男子トイレで行われようとしているのは、闇の魔術に関する、ある儀式だった。 「これでいいか?」 「あぁ、完璧だ。あとはこれを・・」 「おやおや、君達、真夜中に夜遊びなど、いけませんねぇ。」 彼らの頭上から涼やかでいて、しかし何処か不気味さを漂わせるかのような声が聞こえたかと思うと、紫色の液体で煮え立っていた大鍋が突然消えた。 「さ、山南先生!?」 「俺達は、あの・・」 「スリザリン、一人200点減点です。これ以上わたしを怒らせたくないのなら、さっさとベッドへ戻りなさい。」 「は、はい・・」 「全く、生徒の夜遊びには困ったものですね。」 山南はそう言って、杖を自分に向かって威嚇しているハムスターへと振った。 「助かったよ、山南君!」 「大鳥さん、何故彼らの儀式の生贄となったのかはわかりませんが、真夜中の散歩も程々にして下さいね?」 「わかったよ。」 魔法薬草学教授・大鳥圭介はそう言うと、シュンとした様子で男子トイレから出て行った。 ホグワーツから少し離れた“禁じられた森”では、数人の女子生徒達が肝試しをしていた。 「みんな、どこ~?」 グリフィンドール生の雪村千鶴は、足元をランタンと杖で照らしながら、友人達の姿を探していた。 “禁じられた森”は不気味で、今にも何か出て来そうな雰囲気を醸し出していた。 (どうしよう、早く戻らないと・) どこからか、狼の遠吠えが聞こえて来た。 広い森の中を千鶴が走っていると、狼の気配が徐々に近づいてきた。 「きゃぁっ!」 千鶴が地面の窪みに躓いた時、銀色の月光に狼人間が照らされた。 狼人間は、鋭い牙を光らせながら口元から涎を垂らしていた。 「ひぃ・・」 逃げたいのに、まるで金縛りに遭ってしまったかのように千鶴はその場から動けなかった。 狼人間は、荒い息を吐きながら千鶴に飛びかかろうと、その鋭い牙と爪を光らせていた時、さっと黒い影が千鶴の前を横切った。 それは、漆黒の毛を持った、紫眼の黒豹だった。 黒豹は鋭い爪で狼人間の目を潰すと、狼人間は情けない声で鳴くと何処かへ行ってしまった。 「あの、助けてくれてありがとうございます。」 千鶴はそう言って黒豹に一礼すると、黒豹はじっと彼女を見つめた後、ホグワーツ城へと向かって歩き出した。 「あ、待って!」 慌てて千鶴が黒豹を追い掛けると、徐々にホグワーツ城の灯りが見えてきた。 「千鶴~!」 「千鶴ちゃん!」 千鶴がホグワーツ城に入ると、彼女の元に友人の鈴鹿千と、彼女の妹で鈴鹿家の幼女である小鈴が駆けて来た。 「良かった、無事に戻って来てくれて!」 「ほんまやで。中々帰ってけぇへんから、どないしようかと思ったわ。」 「二人共、心配かけてごめんね。親切な黒豹さんが・・」 「黒豹?」 「そんなん、何処にもおらへんで?」 「え?」 千鶴が辺りを見渡すと、そこには黒豹の姿は何処にもなかった。 (気の所為だったのかな?) そう思いながら、千鶴は友人達と共にグリフィンドール寮へと向かった。 「あれ、土方先生は?」 「今日は自習です。土方先生は、体調不良で暫く休まれるそうです。」 えぇ~、と、女子生徒達から不満そうな声が聞こえて来た。 「ヒルダ様、“準備”が整いました。」 「そう・・」 「あの方は、まだ・・」 「そろそろよ、あの方は復活されるわ。」 闇の魔女・ヒルダは、そう言った後水晶玉の中に映る歳三の姿を見てほくそ笑んだ。 ![]() にほんブログ村
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2021年09月06日 16時47分21秒
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2021年01月10日
テーマ:二次創作小説(767)
![]() 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが両性具有です。苦手な方はご注意ください。 その日、ホグワーツ魔法魔術学校の上空は、不気味な黒雲に覆われていた。 「クソ、一体どうなっているんだ!?」 「どうなっているのか、わたしにもわかりません。ですが、今わたし達に出来る事は、生徒達を悪の脅威から守る事です。」 「そうだな・・」 飛行術教師・原田左之助は、そう言うと愛用の杖をしごいた。 「なぁ、さっきから土方さんの姿が見えねぇんだが・・」 「おかしいな、トシならこんな時真っ先に現れるのに・・」 近藤がそう言った時、突然向こうから轟音が鳴り響いた。 「何だ、今のは!?」 「わからねぇ・・」 そう言った原田は、黒煙の中で蠢く“何か”の存在に気づいた。 「どうした、左之?」 「なぁ、あれ・・」 原田が指し示した先には、漆黒のローブの裾を翻しながら自分達の方へと向かって来るかつての同僚の姿があった。 「土方さん、なんで・・」 原田と目が合った“彼”は、口端を歪めて笑った。 三年前― 新学期を迎えたホグワーツ魔法魔術学校へと向かう真紅の蒸気機関車の車内は、生徒達で賑わっていた。 「なぁ、みんなどの寮に入るか決めたのか?」 そう言ったのは、今年ホグワーツに入学する入学する藤堂平助だった。 彼は栗色の癖のある髪をピョコピョコと振りながら、リスのようなクリクリとした澄んだ青い瞳で、自分の向かいに座っている沖田総司と斎藤一を見た。 「僕は断然グリフィンドールかな?だってグリンフィンドールに入ったら、毎日土方さんに嫌がらせ出来るじゃない?」 「理由はそれかよ!?はじめ君は?」 「俺はグリフィンドールだ。土方先生のご尊顔を拝見できる・・」 「ウン、ソウダネ・・」 「貴様ら、何を楽しそうに話しているのだ?」 突然背後から何処か神経を逆撫でするかのような声がして三人が振り返ると、そこには特注の制服を着た風間千景が立っていた。 「あれぇ、誰かと思ったら土方さんのストーカーじゃない?」 「フン、おおかた貴様ら、どの寮に入れるかどうか話していたのだろう?俺は断然、グリフィンドールだ。」 「どうせ土方さんにいつも会いたいからとかいう理由なんでしょう?下らないなぁ・・」 「ふ・・その通りだ。」 「図星じゃねぇか!」 そんな話をしながら四人はホグワーツの中へと初めて足を踏み入れた。 組分け帽子の儀式で、平助以外の三人はスリザリンとなった。 「スリザリンか~、まぁいいや。」 「何故、俺がグリフォンドールではないのだ!もう一度やり直せ!」 「認めぬ・・俺は認めぬぞ!我妻との甘い学園生活を送る為に、特待生として入学したのだ!」 風間は組分け帽子が出した結果に満足がいかず、そう叫ぶと歳三の方へと突進した。 「嫁~!」 「いい加減にしなさい、風間。」 天霧がそう言って風間にアームロックをかけて気絶させたので事なきをえたが、諦めきれない風間は、夜中にグリフィンドール寮に侵入しようとして“太ったレディ”と口論になった。 「女、そこを退け、俺が嫁に会いに行くのを何人も止める事は出来ぬ!」 「うるせぇ、夜中に騒ぐな!スリザリン減点150点!」 「嫁、抱かせろ~!」 「うるせぇ黙れ、スリザリン更に減点50点!」 「嫁~!」 歳三は一晩中謎の頭痛に襲われて一睡も出来なかった。 「どうした、トシ?顔色が悪いぞ?」 「あぁ、昨夜色々とあってな・・」 朝食を歳三が大広間で勇と食べていると、そこへ金髪碧眼で真紅のローブを着た男が大広間に入って来た。 「近藤さん、あいつ誰だ?」 「あぁ、彼は確か、“闇の魔術に対する防衛術”の教授だ。」 「ふーん、何だか鬱陶しい野郎だな・・」 「そう言うな、トシ。」 「お、おぉ!」 真紅のローブの裾を翻した金髪碧眼の男は、突然そう叫ぶと歳三の手を握った。 「まるで黒檀を思わせるかのような艶やかな漆黒の髪、雪のように白く抜けるような肌、そして上質のラピスラズリを思わせるかのような紫の瞳・・君はまるで、闇夜の柩に眠る白雪姫!」 「おい近藤さん、こいつ殴っていいか?」 「落ち着け、トシ。」 「はじめまして、わたしはジュリア=レオンハート。本日から、“闇の魔術に対する防衛術”の教授として、このホグワーツ魔法魔術学校に着任する事になりました。どうぞ、よろしく。」 「ど、どうも・・」 少しハイテンションなジュリアに引きながら、歳三は彼と握手を交わした。 「おや、こちらが新しくいらっしゃった先生ですね。はじめまして、わたしはこの学校で魔法薬学を教えている山南敬助と申します。以後お見知りおきを。」 「どうも。」 ジュリアは素っ気ない口調でそう言うと、そのまま大広間から出て行った。 「何だか気持ち悪い奴だな・・」 「まぁまぁ・・」 朝から変な奴に絡まれ、昨夜は風間が一晩中自分い会わせろとうるさく騒いだので、その所為で一睡も出来なかった歳三は、午前の授業が終わった後、自室の机に突っ伏して眠ってしまった。 ―嗚呼、こちらはいらっしゃったのですね。 歳三は目を開けると、そこには自分を見つめる見知らぬ音の姿があった。 ―さぁ、わたくしと共に参りましょう。戴冠式の主役が遅れてはなりません。 歳三はドレスの裾を摘まむと、男と共に歩き出した。 (何だ、今の夢は・・) 夢にしては、何処かリアルで、まるで歳三がその世界に生きているかのようだった。 コンコンと、窓に小石が当たるような音がしたので歳三が我に返って窓の方へと向かうと、そこには一羽のワシミミズクの姿があった。 歳三がワシミミズクの足首に括りつけられている手紙を受け取り、ワシミミズクに金貨を渡すと、彼は満足そうに鳴いて去っていった。 手紙には、歳三の養父であるアシュレイ伯爵が急死したとだけ書かれてあった。 「そうか、お義父様が・・」 「済まねぇな、こんな忙しい時期に学校を留守にしちまって。向こうが落ち着いたら戻ってくる。」 「わかった、気を付けて行って来い。最近、この近辺ではマグル狩りが頻発しているようだからな。」 マグルー所謂魔法使いではない者達の呼称でもあるのだが、近年は“マグル生まれの魔法使い”の略称でもある。 「そうか。また、あいつらの仕業なのか?」 「いいや、どうも違うらしい。魔法省は犯人探しに躍起になっているようだが、まだ何の手掛かりも掴めないらしい。」 「近藤さん、それじゃぁ行って来るぜ。」 「あぁ。」 歳三はホグワーツを出て、ロンドン行きの汽車に飛び乗った。 荒涼な草原を車窓から眺めながら、歳三は初めて養父と会った時の事を思い出した。 歳三は、この世に産まれ落ちた瞬間から両親の顔を知らぬ孤児だった。 物心つく頃には孤児院で暮らしていたが、彼の周りで不可解な怪現象が起こるので、子供達も職員達も気味悪がった。 里親先を転々としては、孤児院に戻される日々を送っていた歳三の心は、孤独でささくれ立っていた。 マグルの学校に通っていたが、喧嘩を繰り返しては何度も退学・転校した。 ナイフと拳だけが己の友だと思っていた歳三を救ったのは、アシュレイ伯爵だった。 その日、歳三はまた学校で喧嘩をし、何度目かの退学となった。 「本当にあの子でよろしいのですか?」 「ああ。」 「あの子は乱暴で手に負えませんわ。まるで野生の獣のよう・・」 「愛される事を知らない人間が、人を愛する事が出来るのかね?」 突然住み慣れた孤児院から離れ、英国貴族の養子をとなった歳三は、はじめはアシュレイ伯爵を疑っていた。 だが、そんな疑いはすぐまさ消えた。 養子として引き取って、またあいつらみたいに自分を捨てるのではないかと。 だが、そんな疑いは、すぐさま消えた。 アシュレイ伯爵は、何の見返りを求めず、最高の教育を与えてくれた。 孤独でささくれ立っていた心は、いつしか愛で満ちるようになっていた。 11歳の時、ホグワーツ魔法魔術学校の入学許可証が歳三の元に届くと、アシュレイ伯爵は快く彼をホグワーツへと送り出してくれた。 自分に愛を教え、愛を与えてくれた養父は、恩返しをする前に天国へ逝ってしまった。 歳三は養父を喪った悲しみに襲われ、涙を流した。 町中に、弔いの鐘が鳴り響いた。 アシュレイ伯爵の遺体はロンドン市内の病院に一旦安置され、領地にある一族代々の墓地に埋葬された。 「父上、父上!」 埋葬人によって土をかけられる父親の柩を見た伯爵の実子・ジョンは涙を流した。 (安らかに眠って下さい、お義父様・・) 真新しい養父の墓石に跪き、歳三は静かに彼の冥福を祈った。 「あら、まだ居たの?」 「奥様・・」 伯爵邸の中へ歳三が入ろうすると、玄関ホールには冷たい目で自分を見つめている養母・シャルロットの姿があった。 「ここへは何しに来たの?」 「養父の形見を取りに・・」 「そう。では書斎へ行きなさい。」 「わかりました。」 歳三が書斎へ向かうと、そこでは養父の私物を物色する親族達の姿があった。 「あら、来たのね。」 「何をしているんですか!?やめて下さい、こんな泥棒のような事は!」 「お黙り、貰い子の分際で!」 歳三が養父の形見として受け取ったものは、彼が生前愛用していた懐中時計だった。 その日の夜、歳三が寝室で眠っていると、何処からか誰かが自分を呼ぶような声がした。 寝室から出た歳三が、人気のない廊下を歩いていると、再びあの声が聞こえた。 (誰なんだ、俺を呼ぶのは?) 「あ~あ、全く嫌になっちゃうよね。“闇の魔術に対する防衛術”だっていうのに、何で“魔法史”のレポートが出されるんだろう?」 「文句を言うな、総司。」 「あれ、この人土方さんじゃない!?」 図書館で“闇の魔術に対する防衛術”の宿題のレポートを仕上げる為に“禁書”の棚へとやって来た総司、平助、斎藤は、ある書物に歳三と瓜二つの顔をした女性の顔を見て思わず叫びそうになった。 「“闇の女王・カタリナ、1834~1869。”土方さんが女装しているのかと思っちゃったよ。」 その夜、歳三はまたあの不思議な夢を見た。 ―貴女は、とても綺麗だ。 仄かな月明かりの下、自分に似た“彼女”を抱き締めた男は、そう言うと己の膝上へと“彼女”を抱き寄せた。 奥深くまで貫かれ、思わず悲鳴を上げた。 ―辛いのなら、やめましょうか? そう言って男は“彼女”から離れようとしたが、“彼女”は彼の背に爪を立てた。 ―やめないで、もっとあなたを感じたいの。 二人は一晩中、互いの身体を貪り合うかのように激しく愛し合った。 ―今夜は月が満ちている。魔力が最も高まる時期よ。 ―この事が知られたら、どうなさるおつもりです? ―父上はもう何の力も持たない、唯の老人よ。それに、もう手は打ってある。 ―では、陛下はいずれ退位されると・・ ―いいえ、父上は民衆によって、“退位させられる”のよ。 ―あなたは、恐ろしい女(ひと)だ・・ ―わたしは、あの男への復讐をこれで終わらせるつもりなどないわ。これからが、復讐の始まりよ。 東の空が徐々に白み始め、“彼女”を抱いていた男の顔が天蓋の隙間から見えた。 その男は、風間千景と瓜二つの顔をしていた。 「トシゾウ様、朝食の時間です。」 「あぁ、わかった・・」 今まであんな夢など一度も見た事などなかったのに、この家に来てから、時折あの夢に出て来る“彼女”の存在が気になって仕方がなかった。 「旦那様の書斎ですか?」 「あぁ、義父(ちち)の書斎を少し見てみたいんだ。」 「そうですか。では、これを。」 伯爵家の執事長・ジョージは、そう言うと書斎の鍵を歳三に手渡した。 「旦那様が生前、この鍵をあなた様にお譲りするようにと・・」 「義父が?」 「はい。“来たるべき日が来たら、この鍵があの子を真実へと導いてくれる。”と・・」 「そうか・・」 歳三が書斎に入って養父の蔵書を調べていると、書棚に不自然な隙間が空いている事に気づいた。 (何だ、これ?) 歳三がその隙間を押すと、書棚の裏に隠されていた真紅の扉が現れた。 彼は首に提げている鍵を、扉の鍵穴にさし込んだ。 軋む音を立てながら扉が開き、埃と澱んで湿った空気が歳三の鼻腔を刺激し、彼は慌ててハンカチで口元を覆った。 部屋の中は薄暗く、不気味だった。 「“ルーモス。”」 杖を取り出した歳三がそう呪文を唱えて部屋の中を照らすと、壁には二枚の肖像画が掛けられてあった。 一枚目は、家族の肖像画で、ブロンドの男性と黒髪の女性がそれぞれ膝上にブロンドと黒髪の女児を抱えていた。 二枚目は、一枚目の肖像画に描かれていたブロンドの女児と同一人物と思しき喪服姿の女性が、物憂げな表情を浮かべているものだった。 歳三は額縁の裏を調べたが、何もなかった。 部屋から出ようとした歳三は、ブロンドの女性が、ちらりと自分を見たような気がした。 (気の所為か・・) 「待って。」 歳三が振り向くと、肖像画の女性は必死に額縁の中から出ようとしていた。 その様子を見た彼は、その女性が魔法族だとわかった。 「あなたは、誰ですか?」 「わたしは、シャルロット。あなたの叔母よ。」 「叔母?」 「その様子だと、あなたは自分自身の事を何も知らないようね。」 シャルロット―肖像画の女性はそう言うと、慈愛に満ちた眼差しを歳三に向けた。 「本当に、あなたは姉様・・カタリナにそっくりだわ。」 「カタリナ・・」 その名は、魔法史の本で見かけた事がある。 “冷酷無比、エディンバラの大殺戮を起こした、闇の女王”カタリナ。 「俺は、一体何者なんだ?」 「そこの机の、上から二番目の引き出しを開けてみて。その中に、真実が隠されているわ。」 シャルロットに言われるがままに、歳三がその引き出しを開けると、そこには赤革の古びた日記帳が出て来た。 「真実?」 「もう、時間がないわ・・」 「おい、向こうに誰か居るぞ!」 「ここから逃げて、早く!」 歳三が部屋から出た直後、彼は数人の警察官達に取り囲まれた。 「早くこの泥棒を捕まえて!」 そう金切り声で叫ぶシャルロットに、歳三は失神呪文を放った。 「母上!」 失神呪文を受けて床に力なく倒れた母親の方へとジョンが駆け寄ると、彼女はまだ意識があった。 「早くこいつを捕まえろ!」 歳三は書斎の窓から外へと逃げようとしたが、警官の一人が彼に向かってテーザー銃を撃った。 歳三は、盾の呪文で電撃を避けようとしたが、遅かった。 全身に電撃を喰らい、歳三は書斎の窓からまっさかさまに地面へと落下した。 「これで、邪魔者は居なくなったわね。」 「母上・・」 「大体わたしはあの子をこの家の養子にするのは反対だったのよ。」 意識を取り戻したシャルロットは、そう言うと地面に転がっている歳三の杖を拾い上げた。 「あいつはどうします?」 「わたくしに良い考えがあるわ。」 シャルロットはそう言うと、邪悪な笑みを浮かべた。 「何だと、教頭が行方不明だと!それは確かなのか、近藤!?」 「はい。本日こちらへ帰って来る予定だったのですが、未だに連絡が取れなくて・・」 「生徒達を余り動揺させぬようにしろ。」 「わかりました・・」 「山南さん、悪いが・・」 「生徒達はわたしの方から説明しますから、安心して下さい。」 「済まないな・・」 「いいえ、困った時は団結するのが一番です。」 山南はそう言うと、勇の肩を優しく叩いた。 「変身術教授である土方先生は、一身上の都合により暫く休職する事になりました。皆さん何かと不安だと思いますが、土方先生がお戻りになられる日まで、勉学に励んで下さいね。」 山南はそう言って笑顔を浮かべたが、生徒達の間には動揺が広がっていた。 「ねぇ平助、土方さんから何も聞いていないの?」 「あぁ。土方先生、かなり秘密主義だからなぁ。」 「そうか。」 “闇の魔術に対する防衛術”の授業が始まるまで、総司と平助がそんな事を話していると、教室にはキンキラハート教授ではなく、山南が入って来た。 「皆さん、おはようございます。」 「何で、山南さんが・・」 「レオンハート先生は、土方先生欠乏症で療養生活に入りました。」 山南の言葉に、何人かの生徒が吹き出した。 「さて、本日の授業は、“光と闇について”です。」 山南はそう言うと、教室の窓を全て閉め、ある映像を再生した。 「これは、闇の女王・カタリナの生涯を描いた映画です。後で感想をレポートとして羊皮紙二巻分提出して貰いますので、居眠りしないように。」 彼の言葉を聞いた生徒達が一斉にメモを取り始めた頃、歳三は一面白い壁に囲まれた精神病院の閉鎖病棟に監禁されていた。 ![]() にほんブログ村
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2021年09月06日 16時47分49秒
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