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JEWEL

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薄桜鬼 ヴィクトリア朝風オメガバースパラレル二次創作小説:闇の柩に眠る白雪姫

January 11, 2021
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「薄桜鬼」のオメガバースパラレル小説です。

詳しい設定についてはコチラのページをご覧ください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

制作会社様とは関係ありません。


街は、クリスマスに向けて浮き立っていた。

「まぁ、アイシングクッキーね!」
「えぇ、今朝焼いたのよ!」
「お母様!」
「あら、アリョーシャ、良い所へ来たわね。」
宮殿の厨房にアレクセイが入ると、丁度母がこの時期にしか焼かないクッキーを、伯母のヴィクトリア(ヴィッキー)と焼いていた。
二人が焼いていたクッキーは、雪だるまやトナカイ、サンタなどがアイシング(砂糖衣)で作られていた。
「美味しい!」
「そうでしょう?」
「いつか姉様にも、食べさせてあげたいなぁ!」
「アリョーシャ・・」
「ねぇマリア、あの子をそろそろ宮殿に呼び出した方がいいのではなくて?」
「そうね・・クリスマスは、家族で過ごすものですものね。」
そう言ったマリアの蒼い瞳は、涙で潤んでいた。
「もうすぐクリスマスですわね、姫様!」
「そ、そうだな・・」
「あの方、来ませんわね。」
「あの方って?」
「ほら、この前お見舞いに来てくださった、近藤さんですよ。」
「は!?」
歳三はオリガの言葉を聞いた時、天パンごと焼き上がったカヌレを落としそうになった。
「大丈夫ですか!?」
「お怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。オリガ、急に変な事を言うんじゃねぇ!」
「変な事とは?」
「あの人と俺は、そんな関係じゃねぇから!」
「あら、ではそのカヌレはどちらへ?」
「こ、これは孤児院の子供達に・・」
「うふふ、恋心は隠せませんわね。」
オリガがそう言って笑った時、外から馬のいななきが聞えて来た。
「誰か、おりませぬか~?」
「何だ?」
「歳三皇女様にお目通りしたく、王都より馳せ参じました、相馬主計と申します!」
「そうか。オリガ、こいつを客間へ連れて行け。」
「かしこまりました。」
馬車から降りた青年―相馬主計は、熱い視線を歳三に送った後、恭しい仕草で歳三の雪のような白い手の甲に接吻した。
「お初にお目にかかります、歳三皇女様。」
「初めて見る顔だな?」
「はい・・陛下から、この手紙を預かって参りました。」
相馬はそう言うと、一通の手紙を歳三に手渡した。
その封筒には、王家の紋章である一角獣と羽根が生えた獅子の蜜蝋が捺されていた。
「父上から?」
「はい。」
歳三がその封を破ると、中から皇位継承者の証である紅玉と金剛石のブローチが出て来た。
「どうして、こんな物が・・」
「陛下からのお手紙をお読み頂ければ、わかるかと。」
「姉上、今何と申された!?」
「あの子に・・歳三に、この国を継がせます。」
「これは前代未聞ですぞ、皇妃様!」
「Ωである皇女様が、皇位継承者などと・・」
「お黙りなさい、これはわたしと陛下が決めた事です。」
「しかし・・」
「これから、この事で変な噂を立てる者は直ちに処罰致します。」
「かしこまりました。」
マリアの執務室から出たヴェントルゼン子爵は軽く舌打ちした。
「どうした?」
「エトレーゼン伯爵・・」
「何処か、静かな所でお話いたしましょうか?」
「えぇ・・」
ヴェントルゼン子爵は、エトレーゼン伯爵に、歳三の事を話した。
「Ωの皇女に、次期女王が務まる筈がない!」
「そうだ、何とかして姉上の気を変えさせなければ・・」
「わたしに、良い考えがあります。」
「そうですか。是非、お聞かせ願えませんでしょうか?」
ヴェントルゼン子爵は、そう言って笑った。
「皇妃様、どちらへ?」
「歳三に・・あの子に会いに行くのよ。」
「まぁ、わたくし達もお供致します。」
「一人で行きたいの。」
「わかりました。」
マリアが宮殿から出て歳三の元へと向かっている頃、歳三は皇帝からの手紙を読んで絶句した。
「俺が、この国を継ぐ?」
「皇位継承権は、性別やバース性に関係なく第一子が得られる・・」
「どうして、今まで俺を捨て、放っておいた癖に!」
「皇女様は、もうすぐ十五歳となられますね?」
「あぁ、そうだが・・それがどうした?」
「陛下は、クリスマスまでに皇女様を王都へお連れしたいとの仰せです。」
「あの人が、そんな事を?」
「歳三。」
さらりと衣擦れの音がしたので歳三が背後を振り向くと、そこには十年間離れて暮らしていた母の姿があった。
「母上・・」
「まぁ、すっかり大きくなって・・」
歳三とマリアは、十年振りに親子としての抱擁を交わした。
「これからは、ずっと一緒に暮らしましょう。」
「はい・・」
「勇兄ちゃん、あの人来ないね。」
「あぁ・・」
「ねぇ勇兄ちゃん、あの人の事が好きなの?」
「そんな・・」
「だって、あの人から贈られた上着をいつも着ているじゃない。」
勇はそう孤児院仲間であるコゼットから指摘され、頬を赤く染めた。
「勇、あとでわたしの部屋へ来なさい。」
「はい、院長先生。」
「勇、お前はこれからどうするつもりなのだ?」
「いずれここから出て、神に仕える身でおります。」
「そうか。先程、このような手紙がわたしの元に届いた。」
「それは?」
「お前宛に届いた、エルク神学校入学を許可する旨が書かれた手紙だ。向こうでしっかりと学んで来ると良い。」
「ありがとうございます。」
「正直、お前を手離すのは惜しい。だが、お前は巣立ちの時を迎えた。“親”として、喜ばなければ・・」
「院長先生、今まで俺を育ててくださり、ありがとうございました。」
「自分が思うままに生きなさい。そうすれば、自ずと道が開ける。」
「はい。」
「これを。」
そう言って院長のジョゼフは、勇にある物を手渡した。
それは、真珠が中央に嵌め込まれた、美しく華奢なロザリオだった。
「これは?」
「お前の母親のものだ。」
「母は、死んだ筈ではなかったのですか?」
「あぁ。表向きは、“死んだ”事になっている。だが、お前の母は、生きているのだ。」
「何処に居るのですか、母は?」
「それはわからない。だが、そのロザリオがお前を母の元へ導いてくれる。」
「はい。」
「勇兄ちゃん、見て!」
「雪か・・」
「綺麗~!」
「馬鹿だな、雪なんて何度も見ているだろう?」
「でも・・これが勇兄ちゃんと一緒に見る最後の雪かもしれないもん。」
「コゼット・・」
勇はもうすぐ十五―成人を迎える。
「みんなと別れるのがつらいなぁ・・」
「勇兄ちゃ~ん!」
「大丈夫だ、毎月手紙を送るから。」
勇はそう言って涙を流しながら、“きょうだい”達との別れを惜しんだ。
一方、森の中に建つ城のダイニングルームでは、マリアと歳三が十年振りに食卓を囲んでいた。
「このガレット、美味しいわね。あなたが作ったの?」
「はい。」
「あぁそうだ、これ持って来たの。」
「これ、昔この時期だけに母上が焼いてくれたクッキーだ・・」
「そうよ。今朝ヴィッキーと二人で焼いたのよ。」
「頂きます。」
アイシングクッキーを歳三が一口食べると、甘くて懐かしい味がした。
「ねぇ歳三、あなた、今好きな人居るの?」
「そ、それは・・」
「隠さなくてもいいのよ。もし好きな人が出来て、その人を心から愛したいと思うのなら―その本能に従いなさい。」
「母上・・」
「さてと、今夜は親子の再会を祝して乾杯しましょう!」
「はい。」

こうして、母娘二人で過ごす夜は静かに更けていった。

クリスマスまで、あと一週間を切った。

王都ではクリスマス・マーケットが開かれ、宮殿では大きな樅の木が使われたクリスマスツリーが飾られ、アレクセイはクリスマスを指折り数えて待つようになった。
「今日は上の空でしたね、アリョーシャ様。」
「ねぇ、いつお母様はあそこから帰って来るの?」
「クリスマスまでにはお帰りになられると思いますよ・・トシゾウ様と一緒にね。」
そう言ったドミトリィの表情は、沈んでいた。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもありません。さぁ、今からこの前の復習を致しましょう。」
「うん!」
宮殿から少し離れた場所で、二人の男が雑談をしていた。
「ほぉ、その情報は確かなのですか?」
「えぇ。」
「それならば、早く動いた方が良いですな。」
「では・・」
そう言った二人の男は、互いの顔を見合わせながら笑った。
「アリョーシャ様、お休みなさいませ。」
「お休み、ミーチャ。」
ドミトリィは、アレクセイの寝室から出て廊下を歩いていると、彼の前にヴェントルゼン子爵が現れた。
「おやおや、誰かと思ったらアレクセイ様の家庭教師様ではありませんか?」
「わたくしに何かご用でしょうか、ヴェントルゼン子爵?」
「あなたは、ご存知なのでしょう、Ωの皇女が、次期女王となられるとかいう噂・・」
「さぁ、存じ上げませんね。」
「そうですか・・」
「それにしても、皇妃様はどちらに?」
「あなたがそれを知ってどうなさるのです?」
ドミトリィはそう言うと、そのままヴェントルゼン子爵に一礼すると、その場を立ち去った。
(流石皇帝ご夫妻から厚い信頼を得ているだけの事はある・・口が堅いな。)
「あら、ヴェントルゼン子爵ではありませんの。」
「カレーギー伯爵夫人、お久しぶりです。」
「さっき、あの方と何を話していらしたの?もしかして、トシゾウ様の事かしら?」
「えぇ・・」
自分は何て運が良いのだろうと、ヴェントルゼン子爵は内心ほくそ笑んだ。
彼女は、宮廷で一番のおしゃべり―“情報通”なのだ。
「カレーギー夫人は、皇妃様がどちらにいらっしゃるのかご存知なのですね?」
「えぇ、勿論。皇妃様は、ヴィシュタル城にいらっしゃいますわ。」
「ヴィシュタル城・・冬の離宮ですね。」
「トシゾウ様は、そのお城に住んでいらっしゃるのよ。」
「ありがとうございます、色々と教えて頂いて。」
「いいえ、こちらこそ久しぶりにお話し出来て嬉しかったわ。」
「では、わたしはこれで。」
「えぇ、またお会い致しましょう。」
(良い事を聞いた・・)
「おや、これはこれは・・今日は一体、どんなご用ですかな?」
「ヴィシュタル城の事を調べてくれ・・それと、トシゾウ様の秘密についても。」
「かしこまりました。」
(姉上、あなたの思い通りにはさせない!)
王都から離れたヴィシュタル城の近くにある村の孤児院で、勇は自室で荷造りをしていた。
最後の荷物をトランクに詰めると、勇は溜息を吐いた。
十五年間、この部屋で過ごした日々を思い出した。
勇は、母が亡くなってすぐ、この孤児院の前に捨てられていたのだという。
『お前は幼い頃は病弱で、すぐに熱を出す子供だった・・その時、お前を助けてくれた方が居たんだよ。』
その、自分の命を助けた者が、亡くなった筈の母だったとは―
勇は、そっとジョセフから渡されたロザリオを見た。
母が、何処かで生きている―そう思いながら、勇はそのロザリオを首から提げた。
「勇兄ちゃん!」
「どうしたんだ、コゼット?」
「火事なの、早く来て!」
「何だって!?」
勇がコゼットと共に自室から外へと出ると、孤児院の東棟が紅蓮の炎に包まれていた。
「みんな、無事か!?」
「うん・・でも、院長先生が居ないわ!」
「そんな・・」
勇は、燃え盛る東棟を見つめた後、頭から水を被ってその中へと突っ込んでいった。
「お父様、どこですか~!」
「勇・・」
ジョセフは、四方を取り囲まれ、苦しそうに喘いでいた。
「今、助けますから!」
「来るな!」
「ですが・・」
「わたしはもう長くない・・このままわたしを置いて逃げなさい!」
「しかし・・」
「行きなさい!」
ジョセフはそう叫ぶと、自分を助けようとした勇を炎の中から突き飛ばした。
その直後、天井の梁が焼け落ちた。
「お父様~!」
「兄ちゃん、ここから出よう!」
勇とレミが東棟から出た後、そこは瞬く間に炎によって崩れ落ちた。
「姫様、大変ですわ!」
「どうした?」
「孤児院が火事に・・」
「被害は?」
「東棟は全焼、院長先生がお亡くなりになられました・・でも、幸い子供達は無事でしたわ。」
「そうか。」
歳三は、孤児院の火事を知り、残された子供達の事を思うと胸が痛んだ。
「姫様、お客様ですわ。」
「こんな夜中にか?」
「えぇ、どうしても姫様にお会いしたいと。」
歳三が城から外へと出ると、そこには煤に塗れた子供達を連れた勇の姿があった。
「こんな夜分遅くに申し訳ない・・一夜の宿を、我々に与えて頂けないだろうか?」
「オリガ、すぐに子供達に温かいスープと毛布を。」
「どうしたの?」
「母上、近くの孤児院が火事になり、子供達に一夜の宿をお与え頂きたいのです。」
「まぁ、構わないわ。困った時はお互い様よ。」
マリアはそう言うと、勇達を温かく迎え入れた。
「あなた達、行く当てはあるの?」
「いいえ・・」
「じゃぁ、ここに居なさい。このお城は今、人手不足でね、管理人や料理人、庭師が必要なのよ。」
「まぁ、それは素晴らしい提案ですが・・俺達は・・」
「どうか、わたくし達を雇って下さい、お願いします!」
「シスター・・」
いつもは子供達に優しく、冷静沈着だったシスターが、突然マリアの足元にひれ伏してそう懇願した。
「院長先生が亡くなって、わたし達は行く場所がありません、どうか・・」
「母上、いかが致しましょう?」
「わたくしは、彼女達をこの城に住まわせるつもりで、お願いをしたのよ。」
「ありがとうございます!」
「さぁ、温かいスープを召し上がれ。」
「皇妃様に神の祝福がありますように!」
「ありがとう、あなたもね。」
孤児院が火災に遭い、コゼット達はヴィシュタル城に住む事になった。
「まぁ、いらしたのね。」
「オリガさん、何のご用でしょうか?」
「姫様が、あなたをお呼びです。」
「わかりました。」
歳三の部屋に勇が入ると、彼女は窓の外の月を眺めながら、何かを刺繍していた。
「俺を、お呼びでしょうか?」
「えぇ。」
歳三は刺繍をする手を止めると、勇に抱き着いた。
「歳三様・・」
「“トシ”と呼んで下さい。」
そう言った歳三の頬は、赤く染まっていた。
勇は、彼女の全身から甘い匂いが漂っている事に気づいた。
「わたしを、抱いて下さい。」
「いいのですか?」
「あなたしか、この疼きを止められないのです。だから、お願い・・」
勇は己の奥底に眠るαの本能のままに、歳三を抱いた。
「ほぅ・・その情報は、確かなのですか?」
「えぇ。トシゾウ様の洗礼式で、わたくしは件の魔女に会いました。」
「魔女だと?」
「トシゾウ様の五歳の誕生日に、呪いの予言をされた方ですわ。」
「彼女の名は?」
「マーレ、といったかしら。」

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最終更新日  January 12, 2021 06:32:40 PM
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「薄桜鬼」のオメガバースパラレル小説です。

詳しい設定についてはコチラのページをご覧ください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

制作会社様とは関係ありません。

この世には、男と女の他に、三種類の性がある。

特権階級に属し、圧倒的な権力を持つα(アルファ)。
社会に於いてすべての人間が属するβ(ベータ)。
そして、繁殖に特化し、それ故蔑視と迫害の対象となっている、Ω(オメガ)。

三ヶ月に一度訪れる、“発情期”を迎えたΩは、誰彼構わずフェロモンを出して誘惑する為、性被害に遭う事が多い。
性被害を防ぐ為、多くのΩは発情フェロモンを抑える抑制剤を服用しているが、それらが流通するのは二十世紀末の事である。
抑制剤の他に、Ωの発情フェロモンを抑える方法が一つある。
それは、αと番になる事である。
Ωだけが、αの子を産める―性別に関係なく。
身分も何も関係なく、Ωは性的にαに搾取され、隷属されて来た。
 そんなα至上主義社会に抗議し、Ωの人権保護運動が高まりを見せたのも、二十世紀末の事である。
しかし、十九世紀末、Ωとして生まれながら王位に就き、王国を「太陽の沈まぬ国」にした一人の“女王”が居た。

その名は―土方歳三。

初夏の風が薫る頃、歳三は生まれた。

「陛下、お生まれになりました!」
「男か、女か!?」
「それが、両性のお子様でございます。」
「そうか。」
国王・ウラジミールは女官から報告を受け、産室へと向かった。
「あなた・・」
「美しい・・」
 皇妃・マリアの腕に抱かれた子供は、黒檀のような艶やかな黒髪に、血のような紅い唇、そして上質な紫水晶を思わせるかのような美しい紫の瞳―まるで、闇夜の柩に眠る白雪姫のようだった。
「この子の名前は、どうしましょう?」
「そうだな・・歳三にしよう。」
「まぁ、良い名ですわね。」
αばかりの王室に生まれたΩである歳三は、両親から深い愛情を注がれて育った。
そんな中、歳三が五歳の誕生日を迎えた頃、一人の魔女が王宮にやって来た。
「皇女様は、三十五度目の朝を迎える頃、その生を終えられる事でしょう。」
「何と・・」
「何故ならば、皇女様はΩだからです。」
「あぁ、何という事でしょう!あの子がΩだなんて・・」
「嘆くばかりでは何も出来ぬ、マリア。あの子を人目に触れぬ場所に隔離しなくては・・」
こうして歳三は、鬱蒼と茂った森の中に建つ城へと隔離された。
「ねぇ婆や、お父様とお母様はいつ迎えに来るの?」
「可哀想な姫様・・」
乳母のオリガと、歳三の世話係の女官達は、Ωというだけで両親から引き離された幼い主の不憫さを嘆いた。
そんな事も知らずに、歳三は只管両親が自分を迎えに来てくれるのを待っていた。
 だが、そんな日は来なかった。
皇帝夫妻に、αの王子が生まれたのである。
その知らせを乳母から聞いた歳三は、はじめて自分は両親から捨てられた事を知った。

「姫様・・」
「一人にして。」

歳三はそう言うと、外套も羽織らずに雪が降る中森へと向かった。

(お父様もお母様も、わたしを捨てたんだ!)

歳三は悲しみの余り、森の中で泣き叫んだ。
その時、彼女の全身から紫色の“光”が放たれ、木々を激しく揺らし、なぎ倒した。

「あなた、このまま歳三をあの森へ縛り付けるおつもりですか?」
「あぁ。歳三はΩだが、あの森にあの子を閉じ込めておくのは、別の理由があるからだ。」
「別の理由、ですか?」
「あの子には・・歳三には、“闇の魔力”がある。」
「では、あの魔女が言っていた事は本当なのですか?」
「あぁ。“闇の魔力”を授かったものは、その代償としてその寿命を削られてしまうのだ。」

(よりにもよって、何故あの子に・・)

己の内側に宿った“闇の魔力”の存在など知らずに、歳三が城で暮らし始めてから、十年もの歳月が過ぎた。
「うん・・」
朝日を浴びながら、歳三はまだ寝台の中で微睡んでいた。
「姫様、起きて下さい!」
「寒ぃ!」
「冬だから寒いのは当たり前です!」
歳三のシーツを引き剥がしたオリガは、そう叫んで彼女を半強制的に起こした。
「オリガのケチ、クソ婆ぁ!」
「レディがそのような汚い言葉を使うのではありませんよ、姫様。」
「何だか麓の村の方が賑やかだな?」
「今日は年に一度のお祭りがあるんですって。」
「お祭りねぇ・・」
この城で暮らしてから十年、歳三は一度も森の外に出た事がない。
 一度、オリガ達の目を盗んで麓の村まで遊びに行った事があったが、村の子供達から石を投げられて以来、行っていない。
『魔女だ!』
『森へ帰れ!』
石を投げられ、泣いていた歳三に、一人の少年が優しくハンカチを差し出してくれた。
『大丈夫か?』
『うん・・』
『ごめんな、あいつらはただ君が怖かっただけなんだ・・君が余りにも、美し過ぎて。』
そう言った少年は、頬を赤く染めて去って行った。
琥珀色の、美しい瞳を持ったあの少年は、元気にしているのだろうか。
「オリガ、馬車を用意してくれ・・いや、橇の方が早いな。」
「姫様、もしかしてお祭りに?」
「あぁ。一人で居るのも、飽きたからな。」
「まぁ、すぐにお召し替えをしなくては!」

それから小一時間、オリガに髪を弄り回され、コルセットをきつく締められた後、歳三は侍女達を連れて麓の村へと橇で向かった。
「勇兄ちゃん、早く、早く!」
「そんなに急いでいたら、転ぶぞ。」
そう言って幼い“弟”達に注意したのは、村に住む心優しい青年・近藤勇だった。
彼は教会付属の孤児院で育ち、いずれこの村から出て神にこの身を捧げるつもりだった。
しかし―
「おい、あれ見ろよ・・」
「この村の者じゃねぇな?」
「あぁ。あんたに綺麗な女、見た事がねぇ。」
村人達がそう噂している先には、金で装飾された橇から降りて来た美しい女が居た。
黒貂のコートを羽織り、紫のドレスを着た彼女は、漆黒の髪をなびかせ、雪のように白い肌と、血のように紅い唇を持っていた。
刹那、勇の琥珀色の瞳と、女の宝石のような美しい紫の瞳が交差した。

その瞬間、勇は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

(まさか・・)

暫く女と見つめ合っていた勇は、彼女こそが自分の“運命の番”だと直感的にわかった。

「あ・・」
「姫様、どうかされましたか?」
「身体が、熱い・・」
「まぁ、それは大変ですわ。」
オリガに身体を支えられながら、歳三は橇へと戻った。
外は凍えるように寒いというのに、中々身体の火照りは治まらなかった。

(こんなの、初めてだ・・)

「大丈夫ですか?」
不意に頭上から声を掛けられ、歳三が俯いていた顔を上げると、そこには日に焼けた顔をした青年が立っていた。
「急に、気分が悪くなって・・」
「それはいけませんね。俺と共に教会へ・・」
「あぁっ!」
青年の手が歳三に触れた時、突然快楽の波に浚われた歳三はそう叫ぶと、そのまま蹲った。
「大丈夫ですか?」
勇がそう言って歳三を助け起こそうとすると、彼は歳三が着ているドレスに血の染みが広がっている事に気づいた。

「やだぁ、見ないで・・」
「あなた、それは・・」
「Ωだ・・」
「何処かにΩが居るぜ・・」
「いい匂いだ・・」

いつしか村の男達が、鼻息を荒げながら歳三の周りを取り囲んでいた。

「・・嫌だ・・」

“Ωの皇女なんて・・”
“王家の恥ね。”

「なぁ姉ちゃん、俺らと・・」
「俺に触るな!」
歳三はそう叫ぶと、“闇の力”を発動させた。
「うわぁっ!」
「何だこいつ!」
歳三の周囲に張り巡らされた紫の茨を見た村人達は、恐怖の表情を浮かべながら歳三を見た。
「オリガ、帰るぞ。」
「お待ちください、姫様!」
歳三は村人達に背を向け、森の中へと入っていった。
(俺は、一人だ・・今までも、そしてこれからも!)
この国の皇女として生を享けながらも、人気のない鬱蒼とした森の中にある城で、死ぬまで独りで暮らすのだ。
何故なら、自分は出来損ないのΩだからだ。
(俺は、誰にも愛されない・・誰にも!)
無我夢中で森の中を走っていた歳三は、ドレスの裾に躓いて転んでしまった。
「畜生・・」
経血と泥で汚れたドレスを脱いで裸となった歳三は、そっと冷たい湖の中にその身を浸した。
すると、茂みから微かな音が聞こえ、その中から村で会った青年が出て来た。
「す、済まない・・」
「み、見るな!」
「あなたの事が心配で、様子を見に来たんです。」

一方、森から遠く離れた王宮の図書室には、この国の皇太子・アレクセイがパラパラと退屈そうにラテン語の本を読んでいた。

「アリョーシャ様、どうなさったのですか?」
「ねぇヘレナ、僕にはお姉様が居るんでしょう?」
「えぇ、おられますよ。」
「どうして、僕達と一緒に暮らさないの?」
「そ、それは・・」
無邪気な皇太子の問いへの答えに女官が窮していると、そこへ皇太子の家庭教師・ドミトリィがやって来た。
「お前はもう下がりなさい。」
「はい、失礼致します。」
ドミトリィは、ヘレナが図書室から出て行ったのを確かめた後、アレクセイに向き直った。
「ミーチャ(ドミトリィの愛称)、お前は何か知っているんでしょう、僕の姉様の事?」
「えぇ。」
ドミトリィは軽く咳払いした後、幼い皇子に歳三の事を話した。
「姉様はΩだから、僕達と一緒に暮らせないんだね。」
「えぇ。」
「僕、お父様達にお願いしてみるよ!」
「いいえ、それはなりません。わたくしの方から、皇帝陛下にお願いしてみましょう。」
「ありがとう、ミーチャ!」
「いいえ・・」

(少し、厄介な事になったな・・)

「アレクセイがそのような事を・・」
「はい。」
「あの子の事は、一生隠していこうと思っていたのに・・」
「アレクセイ様は、最近己の出自やご家族の事に興味がおありなのです。何故、家族であるというのに、姉皇女だけが蔑ろにされているのか、何故父母が姉の存在を隠しているのかを知りたがっているのかを知りたがっておられるのです。」
「一体、どうすれば・・」
「包み隠さず、真実をお話しする事です。隠し通す事など、到底出来ません。」
「そうか・・」
「あなた、あの子は物の分別や善悪の判断が出来る年頃です。そろそろ、あの子に真実を伝える時期ですわ。」
「そうだな・・」
ウラジミールとマリアは、その日の夜アレクセイを呼び出した。
「アレクセイ、あなたには、離れて暮らすお姉様が居るのよ。」
「知っております。」
「あなたは、どうしたいの?」
「姉様に一度、お会いしたいです!」
「そう・・」
マリアはそう言うと、溜息を吐いた。
「これから、どうなってしまうのかしら?」
「それは、天にしかわからん・・」
「あの魔女の予言を信じていなかったら、わたくし達の家族はもっと良い関係を築けた筈なのに・・」
「過去を悔やむよりも、未来に向かって生きようじゃないか。」
ウラミジールはそう言うと、妻を抱き寄せた。
「ぶへくしょい!」
「全く、冬の湖で水浴びをするなんて、正気ではありませんわ!」
「小言は聞き飽きた・・」
「姫様、もう寝て下さい!」
「わかりました・・」
オリガの剣幕に押され、歳三は寝台の中で大人しく寝ていた。
その時、窓に何かが当たるような音が聞こえ、歳三はゆっくりと起き上がった。
窓の外には、村で会った青年の姿があった。
「姫様、お客様が・・」
「わかった。」
歳三は、夜着の上に黒貂のケープを羽織り、玄関ホールで客を出迎えた。
「このような格好で、もてなす事も出来ずに申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそ急に来てしまって申し訳ないです。」
青年―近藤勇は、そう言うと照れ臭そうに笑いながら頭を掻いた。
「あの時、村人の皆さんは・・」
「村人達は、あなたの事を知らなかったのです。それに、今まで狭い価値観の中で生きていた彼らにとって、あなたの存在は・・」
「恐ろしいと?」
「いいえ。彼らはみんな、あなたの美しさに見惚れていました。」
「見惚れていた?」
「えぇ。」
「失礼致します、紅茶が入りました。」
「ありがとう。」
オリガがそう言って歳三と勇の前に置いたのは、高級茶葉を使った紅茶と、美味しいと城内で評判のオリガの手作りクッキーだった。
「美味い!」
「まぁ、嬉しいですわ。」
「材料は何を?」
「卵と小麦粉と、砂糖ですわ。」
「村では、こういった物は扱っていないので、嬉しいです。」
「姫様、例の物をお出ししては?」
「あぁ。」
歳三はそう言うと、勇にある物を手渡した。
それは、クッキーの袋詰めだった。
「村の子供達に、配ってあげて下さい。」
「ありがとうございます!」
「では、また・・」
勇が城から去ってゆく姿を、歳三は寂しそうな表情を浮かべながら見送った。
「まぁ、姫様もそういうお年頃ですのね。」
「そういう年頃って、どういう事だ?」
「恋をする年頃という事ですよ。」
「馬鹿、そう言うんじゃ・・痛っ!」
歳三はそうオリガに怒鳴った時、刺繍針を指に刺してしまった。
「何を作っていらっしゃるのですか?」
「あいつの上着、ボロボロだったから・・刺繍したのを着たら、マシになるかなと・・」
「まぁ、恋ですわね。」
「ふふ、羨ましい事・・」

(二人して何笑ってんだ?気色悪い・・)

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最終更新日  January 11, 2021 06:53:08 PM
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