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JEWEL

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薄桜鬼 夢小説:蒼穹の華(完)

Jan 14, 2021
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薄桜鬼の二次小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

夢小説が苦手な方、嫌いな方は閲覧なさらないでください。


「お帰りなさい、歳三さん。葵さんは?」
「千鶴、子供達は?」
「マナさんの所に預けて来ました。歳三さんと二人きりで話したかったので・・」
「俺と?」
歳三の言葉に、千鶴は静かに頷いた。
「葵さんは、一体何処に行ったのですか?」
「あいつはもう、居ねぇ。」
「え?」
「千鶴、この際だから、葵の事をお前に話す。」
歳三は千鶴に、葵が未来から来た人間だという事、彼女は崖下に転落して消息不明である事を話した。
「探さなくても、いいんですか?」
「あぁ。」
「でも・・」
「マナさんの孫娘、知っているだろ?」
「アベナンカ(火の女神様)ちゃんですか?」
「あぁ。あの子は、“見えないものを見る”力があるそうだ。あの子が言うには、葵は元居た場所に戻ったから、二度と会えないと・・」
「そんな・・葵さんのお腹には、赤ちゃんが居るのに!」
「何だって!?」
「葵さん、“あなた達には迷惑はかけないから、産ませて欲しい”って、何度もわたしに謝って・・」
「畜生!」
歳三は苛立ち紛れに壁を殴った。
「ねぇ、アベナンカちゃんは占いが出来るの?」
「うん。」
「じゃぁ、父様達の事を占って!」
「わかった。」
アベナンカは、そう言うと目を閉じた。
「どう、何か見えた?」
「うん。あなた達の両親は、生まれ変わっても夫婦になる。」
「じゃぁ、葵さんは?葵さんはどうなるの?」
「あの人も、あなた達と会える。でも、今は会えない。」
「そう・・何だか、寂しいな。」
桜はそう言うと、溜息を吐いた。
「ねぇ、葵さんが今何処に居るのかわかる?」
「うん。でも彼女は、わたし達と違う場所に居る。」
「違う場所?」
「うん。」

アベナンカはそう言うと、小屋の窓から蒼く澄んだ空を見つめた。
その空の先―現代へと戻った葵は、今まさに新しい命を産み出そうとしていた。

「今よ、息んで!」

何度目かの陣痛の後、葵は元気な男児を出産した。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ。」
看護師から手渡された赤ん坊の左右の瞳は、それぞれ翠色と菫色をしていた。
葵が歳三の子を身籠った事を知ったのは、明治の土方家で暮らし始めてすぐの事だった。
彼女はすぐさま千鶴に妊娠の事を報告した後、アイヌの集落へと身を寄せた。
歳三に知られてしまった事は誤算だったが。
「これから、二人で生きていこうね・・」
そう言った葵だったが、一人だけで赤ん坊を育てるのは彼女にとっては至難の業だった。
初めての事ばかりで悪戦苦闘した末に、葵は産後うつになってしまった。
「お願い、その子をわたしの傍に近づけないで!」
彼女の主治医は、彼女の親族と相談した結果、赤ん坊を養子に出す事にした。
「あの子は?」
「あなたには育てられないわ。」
「そうね。今のわたしにはあの子は育てられない。せめて、いい人の子供として、幸せになってくれれば・・」
「大丈夫、神様がきっとあの子を守って下さるわ。」
「そう、思いたいわ・・」

同じ頃、一組の夫婦が可愛い我が子達を抱きながら、病院の前に停めてあったタクシーに乗り込んだ。
「良く寝ていますね、誠は。」
「これから、忙しくなるな。」
土方歳三がそう言った矢先に、彼が抱いていた娘の桜が突然泣き出し、それにつられるかのように息子の誠も泣き出した。
「すいません、うるさくて・・」
「いやぁ、いいんですよ。うちの娘達が赤ん坊だった頃を思い出すなぁ。」
歳三と千鶴は転生し、再び夫婦となり双子の男女を授かった。
育児で慌ただしく彼らが毎日を過ごしている中、ある新聞の一面記事が、二人の心を奪った。

“幕末の桜、西本願寺にて開花間近か”

「この桜・・」
「あぁ、あの時の・・桜だ。」
「いつか、家族で一緒に見に行きましょうね。」
「あぁ。」

 数年後、幸せだった土方家に悲劇が襲った。

千鶴が帰宅途中に事故に遭い、流産して二度と妊娠できない身体になってしまったのである。

「ごめんなさい、歳三さん・・ごめんなさい・・」
千鶴は搬送された病院で意識を取り戻し、只管歳三に流産した事を謝った。
「謝るな。悪いのはお前ぇじゃねぇ・・」
「でも・・」
「大丈夫だ、大丈夫だから・・」
事故を起こした加害者とその家族からは、千鶴が退院するまで一度も謝罪に来なかった。
「パパ、ママが変なの。」
「変?」
千鶴が退院してから一週間が経った頃、夜中に桜に起こされた歳三がリビングに行くと、そこには誰かを探しているかのような妻の姿があった。
「千鶴?」
「歳三さん、あの子を探して下さい。」
「あの子?」
「赤ちゃんが、何処にも居ないんです。」
「赤ちゃん?」
「お願いです、あの子を・・」
「しっかりしろ!」
千鶴は、お腹の子を失ったショックで正気を手放してしまった。
「歳三さん、早くあの子を・・」
「あぁ、わかったよ。」
妻の看護と育児、家事、そして仕事・・歳三の心身は、本人が知らぬ内に疲弊していった。
そしてとうとう、彼は仕事中に倒れてしまった。
「あんたは、何でもかんでも一人で背負いこみ過ぎよ。」
「済まねぇ・・」
「千鶴さんの事は、あたし達に任せて。」
「あぁ。」
だが、歳三が居なくなってしまった事に対して、千鶴は強い不安と恐怖発作に襲われるようになった。
「嫌だ、ママ~!」
「ママ~!」
 千鶴は症状が悪化し、精神閉鎖病棟へと入れられた。
「ここから出して~!」
「千鶴・・」
「お願い、あの子を・・」
土方家から笑顔が消えた日の夜、歳三は連絡を受けてある場所へと向かった。
そこは、千鶴が昔ボランティア活動をしていた乳児院だった。
「土方さん、お待ちしておりました。」
「あの、俺に会わせたい子というのは・・」
「この子です。」
そう言って乳児院のシスターに抱かれた赤ん坊は、翠と紫の瞳をそれぞれ左右に持っていた。
千鶴は、虚ろな瞳で窓の外の景色を眺めていた。
何処を探しても、“あの子”は居ない。
“あの子”に会いたい。

会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい

「千鶴。」
「歳三さん。」
病室に入って来た夫は、赤ん坊を抱いていた。
「その子は?」
「今日から、俺達の子になる千歳だ。」
「可愛い・・」
千鶴はそう言うと、嬉しそうに笑った。
こうして、歳三と千鶴の元に、一人の天使が舞い降りた。
「みんな、千歳と仲良くね!」
「うん!」
歳三は千歳を抱きながら笑顔を浮かべている千鶴の姿を見て、彼を引き取った時の事を思い出した。
『この子の母親は?』
『申し訳ありませんが、それはお教えする事は出来ません。』
『そうですか。』
「パパ、どうしたの?」
「・・いいや、何でもない。」
「ママが呼んでいるよ。」
「わかった。」
千歳が土方家の一員となってから、数年の歳月が経ったある日、千鶴が突然京都に行きたいと言い出した。
「あの時の約束、まだ憶えていますよね?」
「あぁ。」
歳三達は、家族旅行で思い出の地・京都へと向かった。
「うわぁ、キレイ~!」
「桜いっぱい~!」
丁度花見シーズンで、京都は何処も人で溢れていた。
「何だかこうして街を歩いていると、昔を思い出しますね。」
「あぁ、そうだな・・」
歳三がそう言いながら千鶴達と歩いていると、そこへ一人のセーラー服姿の少女がやって来た。
「土方ニシパ。」
「あなた、もしかして・・アベナンカちゃん?」
「パパ、ママ、このお姉ちゃん誰?」
「ママ達の古い知り合いなの。」
「ここで立ち話もなんだから、何処か静かな所で話さねぇか?」
「わかった。良い所を知っているから、ついて来て。」

そう言ってセーラー服姿の少女―アベナンカは、静かにゆっくりと歩き出した。

アベナンカが歳三達を連れて行ったのは、落ち着いた雰囲気がある、キッズカフェだった。

「ママ、パパ、向こうで遊んでもいい?」
「いいわよ。」
子供達がキッズスペースへと向かった後、歳三達はアベナンカと向かい合うようなかたちでソファに座った。
「その子・・」
「千歳だ。訳あって俺達の子となった。」
「そう。あの人の子ね。」
「もしかして、この子が、葵さんの・・」
「この子は、あなた達と出会運命だった。きっと、あなた達を幸せにしてくれる。」
「そう・・ねぇ、アベナンカちゃんは、葵さんの事を知っているの?」
「知っているけれど、彼女は会いたくないと思っている。」
「そんな、どうして?」
「あなた達の幸せを壊したくなかったから、あの人はこの場所に、元居た場所に戻って来た。でも、あの人は・・」
「火姫ちゃん、お客様なの?」
アベナンカの背後で、女性の声が聞こえて来た。
「葵さん・・」
「葵・・」
 千鶴と歳三が振り向くと、そこには紫の麻の葉模様の小袖姿の葵が立っていた。
「二人共、お久しぶりね。」
「まさか、お前ぇが京に居るなんて、思いもしなかったぜ。」
「あなた達の裏を掻こうとしたけれど、無駄だったわね。」
葵はそう言った後、半ば諦めかけたかのような笑みを口元に浮かべた。
「わたしは、このカフェを営みながら、細々と暮らしているわ。」
「元気そうで良かった。」
「その子は、あなた達の子となったのね。」
「抱いてみますか?」
「いえ、いいわ。この子に会えただけで充分。」
葵はそう言うと、千鶴の腕に抱かれて眠っている千鶴の顔を見て笑った。
「また、来ますね。」
「えぇ・・」
歳三達をカフェの前で見送った葵は、溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「火姫ちゃん・・」
「あなたがどんなに土方ニシパ達を避けても、運命からは逃れられない。」
「でも・・」
「逃げずに話し合えばいい。そうしないと、未来は開けない。」
「あなたには、敵わないわね。」
「すいません、占いお願いしま~す!」
「はい、ただいま。」
葵が火姫―アイヌの娘・アベナンカと“再会”したのは、前世で縁深い京だった。
「葵さん、お久しぶりです。」
「あなた・・もしかして・・アベナンカちゃん?」
「はい。今は、火姫といいます。」
「火姫ちゃん・・どうして、京に?」
「京には、祖母と二人でお店をやりながら住んでいます。」
「お店?」
アベナンカに案内され、葵はすぐさまこの店で雇ってくれないかと彼女に頼んだ。
観光地とあってか、店は繁盛していた。
「カフェは、ここでやれば成功すると、火のカムイが教えてくれた。」
「そう。あなたは、昔から神様に愛されているのね。」
「それは違う。カムイは、全ての人を愛する。」
「ねぇ火姫ちゃん、わたしにどうして何も聞かないの?」
「聞いても無駄だと思った。あなたとは、いつかここで会えると信じたから、それだけ。」
「そう・・」
『葵さん、また会えてうれしいわ。』
『これからよろしくお願いします。』
こうして葵は火姫達と暮らす事になったのだった。
『葵さん、ちょっといいかしら?』
『はい。』
ある日、葵がいつものように店の厨房で皿を洗っていると、火姫の祖母・マナが彼女に声を掛けた。
『こちらへお座りなさい。』
『はい・・』
マナに言われるがまま、ソファに座った葵は、彼女からある物を見せられて驚愕の表情を浮かべた。
それは、土方千鶴のインスタグラムの写真だった。
“我が家に可愛い天使が舞い降りて来ました。”
千鶴が抱いているのは、紛れもなく三年前に自分が産んだ子だった。
『あなたは、この子をこの人達に託したままでいいの?』
『わたしはこの子を捨てたの。今更母親と名乗る資格はないわ。それに、この子は歳三さん達に育てられる運命なのよ。』
まだその時は、葵は歳三達と再会するなどとは思っていなかった。
(これから、どうしよう・・)
そんな事を思っていると、ジーンズの尻ポケットに入れていたスマートフォンが微かに振動し、その液晶画面に表示された名を見て葵は溜息を吐いた。
「こんな所にわたしを呼び出して、どういうつもりなの?」
葵はそう言うと、自分をホテルのショットバーに呼び出した歳三を睨みつけた。
「お前ぇは、このままあの子に会わねぇつもりなのか?」
「えぇ。わたしはあの子を捨てたの。だから・・」
「千鶴は、お前に千歳を会わせてやりてぇと思っている。」
「でも・・」
「俺達は明日、東京に帰る。その前に、西本願寺に行く・・あの桜を見にな。」
「わかったわ。」
「お前には、話しておきてぇ事がある。」
歳三は、千鶴の身に起きた悲劇の事を葵に話した。
「そんな事が・・」
「千鶴の心が壊れそうになった時、千歳が・・お前の子が俺達の前に現れた。だから、俺は・・」
「アベナンカちゃんを知っているでしょう?あの子が、特殊な力を持っている事・・」
「あぁ、知ってる。昔、彼女は、こう言っていた。“必ず会える。でも、葵さんとあなたは結ばれない、カムイが決めた運命”と。」
「そう。」
「でも、こうも言っていた。“葵さんと、あなたとの子を通して繋がった絆は、決して切れる事はない”と。」
「そう・・」
「もう行こうか、部屋を取ってある。」
「貴方、最初からそのつもりで・・」
「葵、俺は今まで、お前の事を忘れた事は一度もなかった。千鶴と夫婦になってからも、ずっと・・お前に恋い焦がれていた。」
「歳三さん・・」
「お前は・・俺の初恋だった・・」
「それ以上、言わないで。」
エレベーターで歳三から抱き締められた葵は、そう言うと彼から離れようとしたが、彼は葵を離そうとしなかった。
「千鶴さんはこの事を・・」
「あぁ、知ってる。だから、ここへ来た。」
「そう・・」
エレベーターから降り、部屋に入った二人は、雪崩れ込むようにしてベッドへと向かった。
「歳三さんっ!」
「葵・・」
久しぶりに愛し合った後、葵はシャワーを浴びて一足先にホテルの部屋を出た。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
「ご飯、出来てる。」
「ありがとう。」
「あの人と、ウコチャヌプコロしたの?」
「・・ご想像にお任せするわ。」
葵はそう言って笑うと、コーヒーを淹れた。
「少し出掛けてくるから、店番よろしくね。」
「わかった。」
アベナンカは、何も言わずに出掛ける葵を見送った。
葵は、西本願寺の“ある場所”へと向かった。
「何だか、懐かしいな・・」
 葵は、そう呟くと桜の幹を撫でた。
「葵さん。」
「千鶴さん・・」
はらりと降る花弁の向こうに、千鶴が居た。
歳三との愛の結晶を抱いて。
「千歳君を、この子を・・一度だけでいいから、抱いてあげて。」
「えぇ・・」
葵は、そっと千鶴から千歳を受け取ると、その重みを腕に感じた。
産まれてすぐの時は、軽かったのに、いつの間にかこんなに重たくなった。
暫く葵が千歳を抱いていると、彼がゆっくりと目を開けた。
「千歳・・お母さんよ・・」
「うぁぁ~ん!」
千歳は、葵の顔を見るなり泣き喚いて暴れた。
「千鶴さん、千歳の事をお願いね・・」
「千歳、お母さんにバイバイしようね。」
「うぁぁ~!」
葵は、後ろ髪をひかれるようにしてその場から立ち去った。
「あの子と、会ったのね?」
「えぇ。あの子は、わたしの顔を見て泣いたのよ。」
「そう。」
「さてと、そろそろ仕事に戻らないと。」
「落ち込む事はない。この子はきっと、あなたとあの子、あの人達との絆を繋いでくれる。」
「それって・・」
アベナンカは、そっと葵の下腹を撫でた。
「産まれてくるのは、若草が薫る頃。」
葵が己の身の異変に気付いたのは、歳三と愛し合ってから数ヶ月後の事であった。
やけに酷い眠気に襲われたり、眩暈に襲われたりした。
それに、生理が遅れている。
「おめでとうございます、今七週目に入っていますね。」
「産みます。」
産婦人科クリニックから出た葵は、その足で役所へと向かった。

『そう・・おめでとう。』
『この子はちゃんと育てて見せるわ。』

アベナンカの予言通り、葵は5月5日に元気な女児を産んだ。

「薫、これからよろしくね。」

葵はそう言って、歳三を同じ切れ長の紫の瞳を持った我が子に微笑んだ。
その日は、奇しくも歳三の誕生日だった。

わたしは、父の顔を知らない。
一度母に、“どうしてうちにはお父さんが居ないの”と尋ねた事があったが、その時は何も答えずに悲しく笑うだけだった。
そんな母は、わたしが中学に入る時に、亡くなった。
 母はわたしを育てる為に、幾つも仕事を掛け持ちをしていて無理を重ねた末に、車で通勤中に事故を起こして亡くなった。
検死解剖でわかった事だが、母は運転中にくも膜下出血に襲われ、咄嗟にハンドルを切って電柱にぶつかったのだという。
母は、他人に迷惑を掛けるのが大嫌いで、やけに正義感が強い所があった。
その事を警察から聞いた時、母らしい死に方だとわたしは思った。
母の葬儀は、マナおばあちゃんと火姫さんが取り仕切ってくれた。
『あなたのお母さんは、いつもあなたの傍に居るわ。』
『本当?』
『ええ。彼女の肉体は滅んでも、魂はいつも傍に居るわ。だから、悲しまないで。』
マナおばあちゃんからそう励まされ、わたしは泣くのを止めた。
母の通夜には、カフェの常連客の方達や母の数少ない友人達が参列してくれた。
弔問客へのあいさつをひと通り済ませ、わつぃが奥の部屋へ休もうとした時、マナおばあちゃんに呼ばれた。
『おばあちゃん、どうしたの?』
『あなたに会わせたい人が居るのよ。』
マナおばあちゃんと一緒に入った部屋には、知らない男の人が居た。
思わず恐怖で身構えたわたしに、マナおばあちゃんは優しく声を掛けた。
『大丈夫、あなたのお父さんよ。』
『え?』
わたしがそう言ってその人を見ると、その人は切れ長の紫の瞳を涙で潤ませながらこう言った。
「会いたかった・・」
母が、時折わたしを―切れ長の紫の瞳を見て悲しそうな顔をしていた理由がわかった。
母は、わたしを通してこの人を見ていたのだと。

「アチャ(お父さん)・・」

わたしがそう言ってその人の胸に飛び込むと、その人は優しく抱き締めてくれた。


(終)


後書き

漸く薄桜鬼初の夢小説を完結させました。
最初は、オリジナルキャラと土方さんをイチャイチャさせたかったのですが、やはり土千前提設定という事で、オリキャラ主人公は可哀想な事になってしまいましたし、悲恋で終わりました。
途中でアイヌの少女とそのおばあちゃんが出て来たのは、ゴールデンカムイの影響ですかね・・アイヌの知識とか適当なんですがね。
最後は切ない終わり方を迎えましたが、ここまで書けて良かったと思っています。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


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Last updated  Jan 14, 2021 04:34:31 PM
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薄桜鬼の二次小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

夢小説が苦手な方、嫌いな方は閲覧なさらないでください。

性描写を含みます、苦手な方は閲覧なさらないでください。


「おや、この子とお知り合いですか、旦那?」
「あぁ。」
「何をしているの、早くここから出て行って!」
「お客様に何て事言うんだい!」
鶴はそう叫ぶと、すかさず葵の頬を平手打ちした。
「化物の女郎の癖に、客を一人も取ろうとしないで、この穀潰しが!」
彼女からそう罵倒され、葵はただ俯いて唇を噛み締める事しか出来なかった。
「女将、この妓は俺が買う。幾らだ?」
「やめて、そんな事しないで!」
葵はそう叫んだが、無駄だった。
「いいかい、あんたは女郎なんだ。客を選り好み出来るような立場じゃないんだ!」
「はい・・」
「わかったら、さっさと稼いで来な!」
鶴に半ば急き立てられるかのように、葵は歳三が待つ部屋へと向かった。
「どうしてここへ来たの?」
「噂を聞いたんだ。“銀髪で左右の瞳の色が違う遊女が居る”と・・まさかと思ったが・・」
「生きる為よ。」
「お前ぇ、その姿はどうしたんだ?」
「あぁ、これ?あなた達を追いかけて、全てが終わったのを悟った時、わたしはこんな姿になっていたの。」
「そうか・・」
「もう、わたしの事は放っておいえ。お願いだから、千鶴さん達の所へ帰って。」
「でも、このままお前を放って置く訳にはいかねぇ!」
歳三はそう叫ぶと、葵を褥の上に押し倒した。
「何をするの!?」
「何をするって、廓でする事っていえば、ひとつしかねぇだろ?」
「やめて、あぁっ!」
「暴れるな。」
「ひぃぃ、うぅっ!」
葵は暫く腕の中で藻掻いていたが、歳三に唇を塞がれると大人しくなった。
「大丈夫だ、優しくしてやるから・・」
「歳三、さん・・」
葵の強張った身体は、歳三の愛撫によって徐々に蕩けていった。
「あぁ、もう・・」
「一度、イッちまえ。」
歳三はそう言うと、葵の膣内を激しく搔き乱した。
「あ~!」
葵は白い喉を仰け反らしながら全身を痙攣させて絶頂に達した。
「初めてにしては、濡れてんじゃねぇか・・」
「そんな事、言わないで・・」
歳三は、執拗に葵の膣と陰核を指と舌で愛撫した。
「もう・・お願い・・」
「何をどうされたいんだ?」
「わかっている癖に、焦らさないで。」
葵はそう言った後、歳三を睨んだ。
「俺ぁ今まで抱いた女の数を数えてもキリがねぇが、生娘を抱くのは千鶴とお前ぇの二人だけだ。」
「そう・・」
「力を抜け。」
歳三はそう言うと、己のものを葵の中に埋めた。
痛みで思わず顔をしかめた葵だったが、歳三の愛撫のお蔭で暫くすると痛みとは別の“もの”が己の奥底から湧き上がって来るのを感じた。
「あぁ、変、何か、来る!」
「俺も、そろそろ限界だっ!」
歳三はそう叫んで腰の動きをはやめると。葵の膣内に己の欲を吐き出した。
「はぁ、はぁっ・・」
歳三の熱いものが、己の中に満ちてゆく感覚がして、葵は意識を手放した。
「歳三さん、遅いなぁ・・」
千鶴は、勝手場で汚れた皿を洗いながら、夫の帰りが遅い事に溜息を吐いた。
歳三が帰宅したのは、千鶴と子供達が眠った後だった。
「おはよう。」
「おはようございます、歳三さん。昨夜はお帰りが遅かったようですね?」
「済まねぇ・・」
「もしかして、あの噂を確めに廓に行ったのですか?」
「お前ぇ・・」
「葵さんは京に居た頃、色々とお世話になりましたし、わたしが歳三さんを箱館まで追いかけた時に、色々と力を貸して下さいました。だから、あの後葵さんがどうなってしまったのかをわたしは知りたいんです。」
「・・そうか。千鶴、葵は廓に居た。俺は、あいつを・・済まねぇ、千鶴!」
「謝らないで下さい。」
「葵を、あそこから引き取ろうと思う。」
「そうですか。わたしは、歳三さんがそうしたいのなら、従います。」
「千鶴・・」
「朝食の支度、してきますね!」

千鶴は努めて明るい声を出しながら、そう言うと勝手場へと向かった。

(歳三さんは、葵さんの事を大切に思っているんだなぁ・・)

今にも溢れ出そうな涙を堪えながら、千鶴は朝食の支度にとりかかった。

歳三は、まとまった金子を持って、葵が居る春屋へと向かった。

「おい、女将は居るか!?」
「あら旦那、昨夜はどうも。」
「昨夜俺が抱いた女を引き取りに来た!」
「え?」
「これで足りるだろ。」
歳三はそう言って、鶴の前に金子が入った袋を置いた。
「ま、まぁ・・」
「葵、何処だ!?」
「どうして・・」
鏡台の前に座り櫛で髪を梳いていた葵は、突然現れた歳三を見て驚きの余りその場で固まってしまった。
「お前を迎えに来た。」
「・・馬鹿な人ね、あなたって。」
葵はそう言って苦笑すると、歳三の手を取った。
「お帰りなさいませ、歳三さん。」
千鶴はそう言うと、夫の背後に立っている葵を見た。
「・・これから、よろしくお願い致します。」
「葵さん、会いたかった!」
千鶴はそう叫ぶと、葵に抱き着いた。
「あなた、わたしが憎くないの?」
「憎くない、と言ったら嘘になります。葵さんは、歳三さんにとって大切で特別な人だし、だから・・」
「もう、それ以上言わないで。」
「葵さん?」
「あなたには、敵わないわ。」
葵はそう言った後、フッと笑った。
こうして、土方家と葵の奇妙な同居生活が始まった。
「ねぇ母様、葵さんは、父様の“おめかけさん”なの?」
「誠、何処でそんな言葉を・・」
「寺子屋で、よそのお母さん達が話していたの・・」
「桜・・」
「葵さんは、わたし達にとっては大切な人だし、頼りになるけれど・・家族じゃないわ。」
桜の言葉を聞いていた葵は、そっとその場から離れた。
土方家が住んでいる所は、アイヌの集落から少し離れた所にあった。
土方家はアイヌの人々と交流があったので、葵が集落に顔を出すと、そこの長老が彼女に声を掛けた。
『どうした、お前が来るなんて珍しいな?』
『・・少し、相談したい事があるのです。』
アイヌ語でそう言って長老を見つめた葵の表情は、どこか思いつめたものがあった。
「土方ニシパ、爺ちゃんが呼んでる。」
「あぁ、わかった。」
歳三がアイヌの集落へ向かうと、長老の家には彼の妻と娘、孫達、そして葵の姿があった。
「歳三さん、わたしは今日からここで暮らす事にしました。」
「どうして・・」
「わたしの事で、千鶴さんと子供達がよからぬ噂を立てられて傷ついているの。だから・・」
「そんな、そんな事は・・」
『彼女の気持ちを考えておあげなさい。』
そう言ったのは長老の妻・マナだった。
『あなたは親切心故に彼女を引き取ったのでしょうけれど、彼女とお腹の子にとっては・・』
『彼には、その事は言わないで!』
マナと葵の会話はアイヌ語で交わされていた為、幸い歳三は彼女達の会話が理解出来なかった。
「とにかくもうわたしはあなた達の世話にはならない。」
「葵・・」
歳三は立ち上がり葵に駆け寄ろうとしたが、彼女は背を向けて外へと出て行ってしまった後だった。
「待ってくれ!」
「来ないで!」
葵に歳三が漸く追いついたのは、海沿いの崖の近くだった。
「これで良いのよ!」
「何で、一人で勝手に決めようとする!?」
「そうした方が誰にも・・あなた達にも迷惑が掛からないからよ!」
「さっき、あの人と何を話していたんだ!?」
「それは、あなたが知らなくてもいい事よ!」
歳三と激しく揉み合ううちに、葵は足を踏み外し、崖下へと転落していった。
「葵、絶対に俺の手を離すなよ!」
「歳三さん・・もういいの。」
葵はそう言うと、歳三の手を空いている方の手で爪を立てた。
「な・・」
「さよなら。」
葵は歳三の手を離し、そのまま海へと落下していった。
「葵・・」
激しい波音がした後、歳三は茫然とした様子で葵が消えた海を見た。
「あの人、帰った。」
歳三が背後を振向くと、長老の孫娘・アベナンカ(火の女神様)が、そう言って空を指した。

「あの人、元居た場所に帰った。わたし達、二度と会えない。」
「そんな・・」

(これで、良かったのか?あいつは・・)

「土方ニシパ、帰ろう。」
「あぁ。」

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Last updated  Jan 14, 2021 04:32:54 PM
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薄桜鬼の二次小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

夢小説が苦手な方、嫌いな方は閲覧なさらないでください。


「それは、どういう意味?」
「お前が土方さんの事を・・」
「それ以上言わないで、惨めになるから。」
「葵・・」
「わかっているの、あの人がわたしの“大切な人”ではない位。」
「それでも、お前は土方さんの傍に居たいんだな?」
「ええ、“その時”が来るまで。」
葵はそう言って俯いた。
「今は誰も見てねぇから、俺の胸で泣け。」
「ありがとう・・」
そんな二人を、千鶴が見ていた。
「葵さん、あの・・」
「土方さんの事を頼むわね。わたしはもうじき、居なくなると思うから。」
「え?」
「冗談よ、忘れて。」
船は江戸に着いた。
「葵、話がある。」
「何?」
「お前ぇには、済まねぇ事を・・」
「心にもない事、言わないで。未練が残ってしまうような事、したくないの。」
「それは、一体どういう意味だ?」
「あなたは、知らなくていい。」

そう言った葵の表情は、何処か寂しそうだった。

(これでいい。)

1868(慶応4)年4月3日。

「トシ、俺が・・」
「嫌だ、あんたを死なせる訳にはいかねぇ!」
「ならば命令だ、土方副長、部下を率いて会津へ向かえ!」
「何で、そんな慣れねぇ事してんだよ・・」
歳三は後ろ髪をひかれるような思いで、千鶴と葵と共に流山を後にした。
「土方さん。」
「葵、俺は・・」
「きっと、あの人は解っていた筈。」
震える歳三の背を、葵はただ黙って見つめていた。
「あの、土方さんは・・」
「この丘の上よ、早く行ってあげて。」
「葵さんは・・」
「あの人を慰めるのは、わたしの役目じゃないわ。」
葵がそう言って丘を後にすると、彼女の前にあの鬼が現れた。
「哀れだな、女鬼よ。」
「憐みなど受けない、わたしは自分の意思で決めただけ。」
「気に入った。この戦が終わったら、俺の元へ来い。」
「わたし、自分を安売りしたくないの。」
「ほぉ・・」

1868(慶応4)年9月22日。

新政府軍は会津城下に侵入し、足手纏いにならぬよう城下に残っていた者達は自刃し、中野竹子ら娘子隊は壮絶な戦死を遂げた。
そしてこの日、一月に及ぶ籠城戦の末に、会津藩は降伏した。
「葵、これからお前はどうする?」
「北へ・・蝦夷へ行くわ。」
「そうか。」
「斎藤さん、今まで共に居てくれてありがとう。」
葵はそう言うと、斎藤に頭を下げた。
「礼を言うのは俺の方だ。お前は、土方さんのように俺の剣を認めてくれた。」
「いいえ・・」
「土方さんと雪村に、よろしく頼む。」
「必ず、伝えるわ。」
葵は敵の目を避け、一路蝦夷へと向かった。
同じ頃、千鶴は箱館で歳三と再会した。
「お前、どうして・・」
「わたしは、あなたの傍に居たいんです!迷惑だと思ってくれても、わたしは・・」
「敵わねぇな、江戸の女には。」
「土方さん?」
「もうお前を離す気はねぇから、覚悟しておけ。」

1869(明治2)年5月11日。

遂に新政府軍は、箱館総攻撃を開始した。

「弁天台場が敵に包囲されました!」
「行くぞ、千鶴!」
「はい!」
歳三と千鶴は、新選組を救う為弁天台場へと向かった。
だが―
「畜生・・」
「土方さん、あなたを死なせはしない・・」
千鶴はそう言うと、鬼の血を歳三に飲ませた。
「貴様はもはや羅刹などという紛い物の鬼ではない。鬼としての名をくれてやろう・・“薄桜鬼”よ、せいぜい残り少ない余生を、その女鬼と共に生きるのだな。」
「・・望むところだ。」

こうして、新選組副長・土方歳三は、“死んだ”。

彼が千鶴と夫婦となり、人里離れた山中で暮らしていると、町で妙な噂を聞いた。

“銀髪で左右の瞳の色が違う遊女が居る”と。

(まさか・・)

「う・・」
葵が呻きながら目を開けると、そこには京の新選組屯所でも、箱館の五稜郭でもなかった。
「起きたか。」
「風間千景・・」
頭上から、神経を逆撫でするかのような声が聞こえて葵が俯いていた顔を上げると、そこには流山で別れた風間千景の姿があった。
「ここは何処?」
「ここから船に乗れば、蝦夷地へと辿り着く。」
「そう・・」
「まだ起き上がるな。いくら貴様が純血の鬼といえども、あんな大人数を相手に戦ったら体力が完全に回復するのは難しい。」
千景の言葉を聞いた葵は、彼に保護されるまでの事を思い出した。
「おい貴様、止まれ!」
葵が会津を出て蝦夷へと向かっていると、彼女は途中で新政府軍に捕まってしまった。
「そこを退いて。あなた達に構っている暇はないの!」
葵はそう叫ぶと、“鬼”の力で新政府軍を蹴散らした。
だが多勢に無勢、敵の包囲網を突破する際、彼女は深手を負った。
「何処へ行く?」
「蝦夷地に決まっているでしょう。」
「わたしは、土方さんの・・いいえ、新選組の“夢の終わり”を見届ける義務があるの。」

もし、あの時、歳三に助けて貰えなかったら。
彼らには、一生かかっても返せない程の恩がある。
だから、彼らの“行く末”を自分で見届けたいのだ。

「・・そうか。」

葵の鋼のように強い意思と決意を前に、千景は何も言わなかった。

「お前は、考えないのか?あやつらがもう・・」
「そんな事、わかっている。でも、新選組の終わりをこの目で確かめたいの。」
「わかった。」

葵が千景と共に蝦夷地へ渡ると、全てが終わっていた。
血に塗れ、泥で汚れた「誠」の隊旗を握り締めた彼女は、振り絞るかのような大声を上げて泣いた。

それはまさに、鬼の慟哭のようだった。

千景は、茫然自失状態となった葵を小料理屋の離れに保護していたが、彼が外出して葵から目を離した隙に、彼女は書き置きひとつ残して姿を消してしまった。

『お世話になりました。』

「はぁ・・」

葵は小料理屋の離れを出て、何度目かの溜息を吐いた。
あんな書き置きを残したものの、これから先どうすればいいのか後先考えずに暫く彼女が歩いていると、そこへ一人の男が現れた。
「お主・・」
「あなた、何・・」
「魔物め、成敗してくれる!」

男は祭文を唱えると、葵は“鬼”の姿となって気を失った。

(歳三さん・・)

葵の脳裏に、歳三の優しい笑顔―千鶴だけに向けられた笑顔を浮かべながら、気を失った。

「目を覚ましたな。」

顔が濡れる感覚がして葵が目を覚ますと、目の前にはあの男と、女郎屋の女将と思しき女の姿があった。

「ここは、一体・・」
「大した上玉だねぇ。」
「そうであろう?」
「あんたは生娘だから、あんたの初物はちゃんと大切な人に取っておかないとねぇ。」
「わたしに触るな!」
「お黙り、女郎の癖にお高くとまっているんじゃないよ!」

そう叫んだ女―遊郭・春屋の女将、鶴は葵の頬を張った。

「ここに居る以上、あたしの言う事には全て従って貰うよ!」
「はい・・」

葵は、鶴から与えられた小部屋に置かれている鏡台で、己の顔を見た。
白銀の髪に、翡翠の瞳と金色の、それぞれ違う色の瞳をした、“鬼”の姿がそこには映っていた。
「あぁぁ~!」
“人”にはもう戻れぬとわかった時、葵は絶望の余り泣き叫んだ。
 その日から、魂が抜けた生ける屍のように、葵は廓で陰鬱とした日々を送っていた。
そんな中、彼女は五稜郭で死んだと思っていた歳三と、ある客の座敷で再会した。

「葵・・」
「歳三、さん・・」

戊辰の戦から、五年もの歳月が過ぎていた。

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Last updated  Jan 14, 2021 04:25:55 PM
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薄桜鬼の二次小説です。

制作会社様とは関係ありません。

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夢小説が苦手な方、嫌いな方は閲覧なさらないでください。


自分の縄を解いてくれた少女は、佐々木葵と千鶴に名乗った。

「あの、わたし、どうなるんでしょうか?」
「大丈夫、事情を話したらみんなわかってくれるわ。」
千鶴と広間へと向かっている間、葵はそう言って不安がる彼女に優しく声を掛けた。
「葵、連れて来たか。」
「はい。歳三さん、そんなに怖い顔をして睨まないであげて。この子、怖がっているじゃないの。」
「俺は睨んでなんかねぇ。」
「葵ちゃんの言う通りですよ。」
歳三は葵と総司からそう言われて、軽く咳払いすると千鶴を見た。
「お前は何者だ?」
「わたしは雪村千鶴と申します。京へは、江戸で蘭方医をしている父を探しに来ました。」
「父親の名は?」
「雪村綱道といいます。」
「何と、君綱道さんの娘さんなのか!?」
そう驚きの声を上げたのは、歳三の隣に座っている勇だった。
「父を、知っているんですか!?」
「あぁ。だが、綱道さんは半月前から行方をくらましてしまってな。今も何処に居るのかわかっていないんだ。」
「そうですか・・」
「お前の今後の処遇だが、女のお前を新選組内に置いておけば風紀が乱れる。かと言って、外へ出す訳にはいかねぇ・・お前ぇは、“あれ”を見ちまったんだからな。とは言え、隊士には出来ねぇし、誰かの小姓にでもした方が・・」
「じゃぁ土方さん、お願いしますね。」
「はぁ、何で俺が!?」
「言い出しっぺの法則ですよ、知らないんですか?」
「それじゃ、仕方ないな・・」
こうして、千鶴は歳三の小姓となった。
「あの、葵さん、これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくね。」
小姓といっても、千鶴は隊士ではないので稽古をしたり巡察に同行したりする事が出来ないので、主に炊事・洗濯・掃除などの家事を担当する事になった。
「ねぇ歳三さん、千鶴ちゃんを大切にしてあげて。」
「何だ葵、急に・・」
「千鶴ちゃん、きっと心細くて堪らないと思うの・・まるで昔の私と同じように。」
葵はそう言うと、歳三の肩を揉みながら、彼の広い背中を見た。
(この背中に、わたしはいつも守られていたのよね・・)
「どうした、葵?」
「ううん、何でもない。」

1864(元治元)年6月5日。

歳三や葵達新選組は桝谷喜右衛門と名乗っていた長州の過激派志士・古高俊太郎を捕縛し、屯所である前川邸の蔵で勇や歳三が厳しい取調べをしたが、頑として古高は口を割ろうとしなかった。
「たくっ、これじゃぁ埒が明かねぇ。おい誰か、五寸釘と百目蝋燭持って来い!」
葵は歳三の言葉を聞き、そっと蔵を後にした。
「京都守護職を殺し・・京の街に火をつけ、帝を長州へとお連れする・・」
苛烈な拷問を受け、古高は漸く自白した。
歳三はすぐさま会津・桑名藩に連絡したが、一向に返事は来なかった。
「どうする、近藤さん?早く手を打たねぇと・・」
「そうだな・・俺達は池田屋へ、トシは四国屋へ向かってくれ。」
「おう!」
こうして近藤達は池田屋へ、歳三達は四国屋へと向かった。
「四国屋は空振りか・・会津藩からの連絡はまだなのか?」
「あぁ。」
「伝令~、本命は池田屋!」
四国屋の前で葵達が苛立っていると、そこへ肩で息をしながら千鶴が彼らの前に現れた。
池田屋へ歳三達が向かうと、そこでは既に戦闘が始まっていた。
「副長、あれを・・」
「来るのが遅いんだよ。」
会津・桑名藩の援軍の前に立ちはだかった歳三は、彼らにこう言い放った。
「我ら新選組、池田屋にて御用改めの最中である!一切の手出し無用!」
「千鶴ちゃん、わたしから離れないで!」
「はい!」
葵と千鶴は、池田屋の中へと踏み込んだ。
二階へと彼女達が上がると、そこには総司と金髪紅眼の男が対峙していた。
「沖田さん!」
「女鬼が二人とは・・」
金髪紅眼の男はそう言うと、千鶴と葵を見た。
「あなた、一体・・」
「その様子だと、己が何者なのかまだ知らぬようだな?」
「千鶴ちゃん!?」
男が銀髪金眼へと姿を変えた時、総司を守るように立っていた千鶴も徐々にその姿へと変化していった。
「総司、千鶴、葵、何処だ~!」
「興が削がれた、行くぞ。」
男―西の鬼の頭領・風間千景はそう言うと、二階の窓から飛び降りた。
「お前ら、無事か!?」
「はい、でも沖田さんが血を吐いて・・」

1867(慶応3)年、11月15日。

「土方さん、大変だ!」
「どうした?」
「土佐の坂本龍馬が、殺された!」
その日、近江屋で坂本龍馬と中岡慎太郎が何者かに暗殺された。
その時、犯人が発した、“こなくそ”という言葉を聞いた者が、原田が犯人だと決めつけた。
「何かの間違いだ、俺はやってねぇ!」
「そうよ、左之さんが殺す訳ないわ!」
「二人共、落ち着け!俺は坂本を殺ったのは何も原田だと決めつけた訳じゃねぇ。」
「じゃぁ、一体誰がそんな事を?」
「・・心当たりのある奴が、一人居る。」
「副長、失礼致します。」
「入れ。」
「斎藤さん!?」
副長室に入って来たのは、藤堂平助と共に御陵衛士として新選組から離隊した斎藤一だった。
「斎藤には、間者として御陵衛士」に潜入して貰った。」
「そう・・じゃぁ、さっき歳三さんが言っていたのは・・」
「伊東は、近藤局長暗殺を企てています。」
「そうか。」

11月18日。

伊東甲子太郎は、油小路で暗殺された。
その遺骸を引き取りに来た御陵衛士と新選組隊士が戦闘になった。
「平助君!」
「葵、何で・・」
「お願い、戻って!今なら、まだ・・」
「もう無理だ!」
平助はそう言うと、葵達に背を向けた時、彼は事情を知らない隊士に斬られた。
「これは、もう・・」
「暫く、彼と二人きりにさせて貰いませんか?」
「わかったわ、山南さん・・」

葵はそう言うと、副長室へと向かった。

「歳三さん、今いいかしら?」
「平助は?」
「山南さんが、彼に変若水を今飲ませていると思うわ。」
「そんな、わたしの所為で・・」
「千鶴ちゃん、自分を責めないで。平助君は自分の意思で羅刹となったのよ。」

泣いている千鶴を、葵はそう言って励ました。

「葵、お前ぇは何でそんなに冷静でいられるんだ?」
「“振り”をしているだけよ。」

(そうしないと、貴方に縋りついてしまいそうなってしまうから・・)

1868(慶応4)年1月3日。

鳥羽・伏見にて、旧幕府軍と新政府軍が衝突し、戊辰戦争が勃発した。
新選組は伏見奉行所に陣をしいたものの、後方の御香宮神社を薩摩軍に取られ、旧幕府軍は窮地に陥った。
「くそ、やられた!」
そう叫んで愛刀を握り締めた歳三の包帯が巻かれた右手には、血が滲んでいた。
「淀藩に援軍を頼むしかねぇな。」
「わたしが行こう。」
「わたしも、皆さんのお役に立ちたいです!」
「頼んだぞ。」
葵は嫌な予感がして、二人と共に淀藩へと向かった。
だが、新政府軍側に“錦の御旗”が掲げられた事により、旧幕府軍は、“賊軍”となった。
「トシさんに伝えておくれ、今まで良い夢を見させてくれてありがとうと・・」
「井上さ~ん!」
「源さん!」
淀藩の兵士数名は歳三によって殺されたが、それと同時に、彼は薩摩藩からの銃撃受けた。
「もうその状態では長くいられまい。」
風間千景がそう言って冷たく歳三を見下ろすと、彼は懐からある物を取り出した。
それは―
「土方さん、駄目~!」
歳三の黒髪が、白銀のそれへと姿を変えていった。
「よくも、俺の顔に傷をっ!」
「そこまでにしなさい、風間。」
「今度会うときは殺してやる。」
千景はそう言って歳三達の元を去った。

「怖くねぇか?」
「・・はい、土方さんと一緒なら。」

(あぁ・・)

わかっていた。

二人が、惹かれ合っていることに。

かつて自分の“定位置”だった場所には、彼女が居る事に。

(貴方は、わたしの運命の人じゃない。)

葵はそんな事を思いながら、歳三達と共に船で江戸へと向かった。

「葵、ちょっといいか?」
「原田さん・・」
「土方さんとは、これからどうするつもりなんだ?」

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Last updated  Jan 14, 2021 04:21:03 PM
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「葵、こいつとは知り合いなのか?」
「えぇ。夕霧さんとはお針友達なんですよ。」
「お針友達?」
「ここで立ち話は何やから、お茶でも飲みながら話しまひょ。」
歳三は半ば強引に夕霧達によって茶店へと連れて行かれた。
「お針友達ってのは、一体どういう事だ?」
「へぇ。うちら陰間は、昼はこうして自由に歩き回れるさかい、ここ二月程お針と三味線教室に通うてます。そこで、“凜様”と知り合うて仲良うなったんどす。」
「そうか。葵、どしてお前ぇ、こいつに“凜様”と呼ばれているんだ?」
「“凛々しくて素敵な殿方様”を短くして、“凜様”とうちらは呼んでますえ。土方様のお噂は吉原で色々とお聞きしていますえ。」
夕霧は団子を頬張りながらそう言うと、歳三に微笑んだ。
「ほんま、こうしてお二人の姿を見ると錦絵の美人絵みたいどすなぁ。」
「男に美人って・・」
「“凜様”、今日は何で、“高田屋”様に?」
「今度、お見合いする事になって、そのために歳三兄さんに着物を見繕って貰っていたの。」
「へぇ、そうどすか。それやったら、うちもお手伝いさせて貰いますえ。」

夕霧はそう言うと、歳三を見て笑った。

(何だ?)

茶店から出た二人は、簪や櫛などを扱う店へと向かった。

「この簪、お前ぇの髪に合うな。」
「うちもそう思いますえ。」

歳三が葵の為に選んでくれたのは、紫の蝶を象った美しい簪だった。

「それでは、行って参ります。」
「上手くやれよ。」

数日後、葵は勇と共に見合いの場へと向かった。

「おぉ・・」
「貴女様のお話は、倅から色々と聞いておりますが、このように美しいお嬢さんだったとは・・」
「いつも男のなりばかりしているので、こういった格好をするのは何だか気恥ずかしくて・・」
そう言って目を伏せた凜の姿を見た浅田父子は、その美しさに見惚れてしまった。
「おい左之、押すなって!」
「新八こそ、押すなって!」
「ねぇ、一体どうなっているのか、全く見えないんだけど!」
見合いの様子を密かに覗いていた原田、永倉、総司の三人の前に、眉間に皺を寄せた歳三が現れた。
「てめぇら、ここで何していやがる!?」
「何って、敵情視察ですよ。土方さんも、混ざります?」
「はぁ!?」
「そんなに大声出さないで下さい。」
「あの、葵殿・・」
「申し訳ありませんが、今回のお話はなかった事にさせて頂きたいのです。」
「・・やはり、貴女には想い人がいらっしゃるのですね。」
浅田友之はそう言うと、寂しそうに笑った。
「あちらの、役者のような御仁・・あの御方が、あなた様の背の君様なのですね?」
友之は、総司達が隠れている木陰の方を見た。
「土方さん、こっちに来ますよ。」
「うるせぇ、押すなって!」
「歳三兄さん、どうしてここに?」
「そ、それは・・」
「もう、もしかしてお見合いが気になって来たんですか?」
「う・・」
「安心して下さい。わたしはこの話を断りますから。」
友之はそう言うと、歳三を見た。
「どうか、彼女を幸せにしてあげて下さい。」
「わかった・・」
見合いの後、歳三は赤面しながら葵の隣を歩いた。
「歳三兄さん?」
「その“兄さん”っていうのはやめてくれ。」
「どうして?」
「あ~、もうっ!」
歳三はそう言うと、葵を抱き締めた。
「惚れた女に、“兄さん”なんて呼ばれたくねぇんだよ!」
「え・・」

(そんな、じゃぁ、ずっとあなたは・・)

「歳三兄さん・・いいえ、これからは歳三さんと呼んでも、いい?」
「俺が、断れる訳ねぇだろ・・」

1863(文久3)年2月。

勇達は、将軍警護の為、浪士組に入隊し、上洛する事になった。

「葵、本当に江戸に居なくていいのか?」
「わたしは、歳三さんと一緒に居たいんです。どんな事があっても。」
「そうか・・」

大志を抱いて京へと向かう歳三達の前に、長身で意志が強そうな眉を持った男が現れた。

「毛唐の餓鬼か。」

男はそう言うと、葵を見た。
男の名は、芹沢鴨といった。

(嫌な奴・・)

事件は、本庄宿で起きた。

本庄宿で自分達の宿が用意されていない事に立腹した芹沢は、その腹いせに焚き火を宿の中心で始めたのだ。

「もっと燃やせ!」
「芹沢さん、どうか・・」
「何をしている、さっさとせぬか!」
「歳三さん、放っておいていいんですか!?」
「そうですよ、斬っちゃいましょうよ、あんな奴!」
「ここでてめぇらが事を起こしたら、土下座している近藤さんの気持ちを踏みにじる事になるだろが!」
「でも・・」
葵がそう言って歳三の方を見ると、彼は怒りに滾った紫の瞳を芹沢に向けていた。
一番怒っているのは、彼だ。
でも、勇の為に必死に己の内側に滾る怒りを彼は抑え込んでいるのだ。
「宿に戻るぞ。」
「はい・・」
芹沢の高笑いを聞きながら、葵は唇を噛み締めて歳三と共に宿へと戻っていった。
芹沢の横暴ぶりは、京でも続いた。
商家に押しかけ金を強請り、角屋で暴れて店を営業停止に追いやった。
「芹沢さん、あんたには筆頭局長としての自覚が足りねぇ!」
「ふん、生意気にもこの俺に意見を申すか、土方?多摩の百姓の倅如きが随分と偉くなったものだな?」
芹沢はそう言って薄笑いを浮かべると、鉄扇を振り下ろした。
だが、歳三は全く動じなかった。
「ふん、つまらん!」
「歳三さん!」
「葵、俺は大丈夫だ。」

葵が芹沢への怒りを募らせていたある日の夜、彼女は勇と共に島原へと向かった。

「今夜は無礼講だ、飲め!」
「芹沢さん、そんなに飲んだら・・」
「うるさい、女の癖に指図する気か!?」
「そうだ、黙っていろ!」
「いいえ、黙りません!あなたの今までの横暴ぶりは・・」

葵が芹沢に抗議した時、芹沢は激昂して徳利を彼女に投げつけた。

「芹沢さん、やり過ぎだろ!」
「無礼講でも、これはねぇぜ!」
「葵、大丈夫か?」
「こんなの、平気です。わたし、先に屯所へ戻っていますね。」
葵はそう言って部屋から出たが、誰も居ない廊下で悔し涙を流した。
「土方さん、葵ちゃんを探しているんですか?彼女、さっき廊下で泣いていましたよ?」
「そうか。済まねぇな、総司。」
「・・二人共、もっと素直になればいいのに。」

総司はそう呟いた後、笑った。

芹沢が「大和屋」に火をつけたという知らせを受けて歳三達が駆けつけると、もう手の施しようがなかった。

「何て事だ・・」

芹沢は、「大和屋」の上で笑っていた。
その姿は、まるで悪鬼のようだった。

「会津中将様から、芹沢殿を暗殺せよという命令が下った。」
「そうか・・」

雷鳴が轟く中、歳三達は芹沢を暗殺した。

「葵、何処だ?」

歳三が葵の姿を探すと、彼女は雨に濡れ、曇天を仰いでいた。
雷鳴に照らされた彼女の髪は銀色に輝き、自分を見つめる瞳は黄金色をしていた。

「葵、お前・・」
「こんな姿、歳三さんには見られたくなかったな・・」
葵はそう言うと、涙を流した。
「怪我はねぇか?」
「驚かないの、こんなわたしの姿を見て?」
「お前が無事なら、それでいい。」
歳三は、そっと葵の涙を手の甲で優しく拭った。
「歳三さん・・わたしは、貴方の為なら何だってします。」
「そうか・・」

1864(元治元)年4月。

一人の少女が、京の街を走っていた。

「居たか!?」
「決して逃がすな!」

少女―雪村千鶴は、建物の陰に隠れて息を潜めた。
すると突然、闇を切り裂くような甲高く禍々しい笑い声が響いた。
恐る恐る千鶴が物陰から様子を見ると、白銀の髪を振り乱しながら、得体の知れない化け物が、人の血を啜っていた。
「ひぃっ!」
千鶴は思わず悲鳴を上げてしまい、化け物に気づかれてしまった。
「あ~あ、僕がやろうと思ったのに、はじめ君、仕事早いよね。」
「俺は与えられた仕事をしているだけだ。」
「どうするの、この子?見ちゃったんだよね?」
「それは俺達が決める事ではない。」
千鶴の背後で、砂を踏む草履の無機質な足音が響いた。
「逃げるなよ、背を向ければ斬る。」
美しい漆黒の髪をなびかせ、美しい紫の瞳をした男の姿を糖蜜色の瞳に焼き付けながら、千鶴は気を失った。
翌朝、千鶴が目を覚ますと、一人の少女が部屋に入って来た。

「ごめんね、すぐに解くわね。」

彼女はそう言うと、千鶴の身体を縛っている縄を解いた。






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薄桜鬼の二次小説です。

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2018年、京都。

今年は、明治維新から150年という節目の年であったのか、新選組ファンや幕末ファンなどの者達が、壬生寺や西本願寺など、新選組ゆかりの地を巡っていた。
その中に、一人の少女の姿があった。

(懐かしいな・・)

彼女は、金色の髪をなびかせながら、“ある場所”へと向かった。
そこには、150年経っても未だに美しく咲き誇っている一本の桜の木があった。

「また、来ましたよ・・」

彼女はそっと、桜の黒い幹に触れた。

「貴女も、来ていたのね。」

鈴を転がすかのような声が聞こえた後、幼子を連れた一人の女性が現れた。

「やっと、逢えたわね・・葵さん。」
「千鶴さん・・」

二人の再会を祝福するかのように、桜の花弁が降り注いだ。

その日、白い雪が東京の街を白く彩り、横浜の街も雪化粧されて幻想的な雰囲気を醸し出していた。

佐々木葵は、両親と共にカトリック教会でのミサを終えた後、ボランティア活動の一環として軽井沢にある老人ホームでヴァイオリンのミニ・コンサートを開いた。

「アオイ、最高だったよ。」
「ありがとう、お父様。」
「お前は、周りの人を幸せにする力を持っている。」
「本当?」
「あぁ。」

葵の父・アランは、翡翠の瞳を煌めかせながら、大きな手で娘の頭を撫でた。
それが、最愛の両親と過ごした最後の夜だった。

「雪が降って来たわね・・」
「酷くなる前に、早く東京に帰らないと・・」

アランがそう言って険しい山道を運転していると、突然車のブレーキが利かなくなった。

「貴方、どうしたの!?」
「ブレーキが・・」
「ママ、パパ、怖いよ!」
「大丈夫だからね、葵!神様がきっとわたし達を守って・・」

突然、世界が暗転した。

「畜生、降って来やがったぜ。」

大きな薬箱を背負いながら、土方歳三は舌打ちしながら、多摩の河原を歩いていた。
ふと周囲を見渡せば、河岸には季節外れの彼岸花が咲いていた。

 鮮やかな緋色の花が、歳三は好きだった。

だが、その花は「地獄花」、「死人花」と呼ばれ、不吉がられていた。

(こんな夜には、雪女が出るんじゃねぇのか?)

そんな事を思いながら歳三が家路を歩いていると、彼は彼岸花に囲まれているかのように、一人の血塗れの少女が倒れていた。

「おい、しっかりしろ!」

訳の分からぬ、珍妙な着物姿の少女は、苦しそうに呻いた後、ゆっくりと宝石のような翡翠の瞳を開いた。

「マリア・・様・・」

少女はそのまま置き去りにすることが出来ず、歳三は彼女を自宅へと連れて帰った。

それが、二人の運命の出会いだった―

「鬼だ~、鬼が来たぞ~!」
「鬼に喰われる前に、逃げろ~!」

クリスマスの夜に両親と共に交通事故に遭い、佐々木葵が現代から幕末へと飛ばされてから、五年の歳月が過ぎた。
血塗れの状態で河原に倒れていた彼女を偶々そこを通りかかった土方歳三に救われ、佐藤家の一員となった葵は、自分の名前以外、何も憶えていなかった。
優しい両親の事や、彼らの命を奪った恐ろしい事故の事も全て、葵の中から消え失せていた。
はじめは現代とは違う幕末の生活様式に戸惑ったが、次第に慣れていった。
歳三をはじめとする佐藤家の者や、歳三の親友である近藤勇は、葵に温かく接してくれた。
だが、試衛館から一歩外を出れば、葵は周囲の人々から好奇の視線を向けられた。
それは、金髪翠眼という、日本人離れした容姿の所為だった。
日本人の母と、フランス人の父の間に生まれた所謂“ハーフ”の葵は、幼少の頃からその容姿を周りから揶揄われていた。

―ママ、どうしてわたしは皆と違うの?

父・アランの故郷であるパリでは、現地の子供達からは“アジア人”と言われ、苛められた。

―いい、葵。あなたは特別なのよ。
―特別なの?
―人は誰しも、特別なものを生まれて来たのよ。だから、自分を嫌いにならないで。

そんな母が遺してくれた言葉を思い出しながら、葵は俯いていた顔を上げて歩いた。

「遅かったな、葵。何かあったのか?」
「うん、ちょっとね・・」
「トシさん、その子は誰だい?」

葵が試衛館道場の中に入ると、そこには栗色の髪と翡翠色の瞳をした青年が中庭に立っていた。

「葵、こいつは伊庭八郎。俺の悪友みたいなもんだ。八郎、こいつは葵・・」
「もしかして、この前トシさんが言っていた“大事な女”かい?」
「馬、馬鹿!」

そう叫んで頬を赤く染める歳三の姿を見て、葵は思わず吹き出してしまった。

―パパ、ママ、わたしは独りじゃないから大丈夫だよ。

「わたしに縁談、ですか?」
「あぁ、そうだ。相手は、旗本のご子息だそうで、出稽古先の道場で君を見初めたと・・」
「まぁ・・」

葵は試衛館の世話になった頃から、勇から剣術を習うようになり、時には師範代として歳三達と共に出稽古へ他の道場に赴いていた。
着物に袴姿、背中まで長さがある髪を後ろで一纏めにした葵の男装姿は、凛々しくて素敵だと町娘たちから、初々しさがあって何処か放っておけないと吉原の遊女達から評判が良かった。

同性からモテる者は、異性にもモテる。

勇の話を聞いた葵は、この前自分に行きつけの茶店で結び文を渡してくれた青年の事を思い出した。
精悍な顔立ちの、爽やかな雰囲気を纏った青年だった。
「その格好だと・・」
「う~ん、確かに・・」
動きやすさを重視しているので、葵はいつも男物の袴や着物姿で、髪など一度も結った事がない。
「という訳で、少し見繕ってくれないか、トシ?」
「何で俺が!?」
「いやぁ、蛇の道は蛇っていうだろう?こういうのは、俺よりトシの方が詳しいだろうし。」
「わかった・・」
こうして、歳三は葵の為に着物を誂えてやる事にした。
「この色なんかどうだ?」
そう言って歳三が葵に見せたのが、葵の金髪に良く映えるであろう、藍色の布地であった。
「わたしはこっちの方がいい。」
そう言って葵が指したのは、浅葱色に桜の花が散っているものだった。
「お前ぇ、その色は・・」
 浅葱色は、武士が切腹の際に着る“切腹裃”に用いられる色でもあり、『死を覚悟する』という意味があった。
歳三の顔が曇ったのを見た葵は、慌てて次の言葉を継いだ。
「大丈夫、わたしは自害しないから。」
「そうか・・」
二人が呉服屋から出た時、彼らは一人の女とぶつかった。
「すいません、大丈夫ですか?」
「へぇ・・あらぁ、誰やと思うたら“凜様”やないの。」
そう言った女―もとい陰間で、かつて吉原で男花魁としてその名を馳せた夕霧は鈴を転がすかのような声で笑った。
「あら、夕霧さん、お久しぶりです。」
「そちらの方が、“凜様”の背の君どすか?いやぁ、まるで役者絵から出て来た美丈夫どすなぁ。」

夕霧はしなを作りながら、葵の隣に立っている歳三の方を見た。

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Last updated  Jan 14, 2021 04:17:51 PM
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