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薄桜鬼 夢小説:融雪

Jan 14, 2021
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薄桜鬼の二次小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

夢小説が苦手な方、嫌いな方は閲覧なさらないでください。


“訃報”が俺の元に届いたのは、あいつが死んだ日の夜の事だった。

「歳三さん、葵さんが・・」
「嘘だろ!?」
夕方のテレビのニュースで、俺は葵が事故で死んだ事を知った。
「父さん、どうしたの?」
「千歳、俺は暫く留守にするから、母さん達の事を頼む。」
「わかった・・」
俺はすぐさま家を出て、数日分の着替えが入ったスーツケースを持ってタクシーに乗り込むと、何とか最終の新幹線に間に合う事が出来た。
『歳三さん、うちの事は心配しないでください。』
『わかった、ありがとう。』
千鶴からのラインに返信した後、俺は新幹線が京都に着くまで仮眠した。
京都に着いた俺は、JR京都駅のすぐ近くにあるホテルにチェックインして、部屋でスーツから喪服に着替えて、あいつの通夜へと向かった。
それは、弔問客が少なく、ひっそりとしたものだった。
「土方ニシパ。」
「アベナンカ・・」
『久しぶりね。』
「一緒に来て、土方ニシパ。あなたに会わせたい人がいる。」
「会わせたい人?」
「そう、あなたの娘。」

俺は一瞬、耳を疑った。

娘?

葵が、俺が知らない娘を産んで、今まで育てて来たっていうのか?

『ここよ。』

マナさんが部屋の襖を開けると、そこには中学生くらいの、セーラー服姿の少女が居た。
彼女は俺の顔を見るなり、軽く恐怖でその美しい顔を引き攣らせながら身構えた。
そりゃぁ、いきなり見ず知らずの男が入って来たら、誰だって怯えるだろう。

『大丈夫、あなたのお父さんよ。』
『え?』

マナさんとその子はアイヌ語で何かを話しているようだったが、俺にはその内容がさっぱり解らなかった。
やがて、その子はゆっくりと、俺の方を見た。
切れ長の、紫の瞳―その瞳に見つめられ、俺は一瞬でこの子が自分の娘だと―葵が遺してくれた宝物だと気づいた。
「会いたかった・・」
喉奥から絞り出すような声でそう言った俺は、涙を流した。
「アチャ(お父さん)?」
娘からそう呼ばれて、俺は堪らずその子を抱き締めていた。
「これから、俺はどうすれば・・」
「カムイが、あなた達親子の絆を繋いだ。これは運命。」
「そうか・・」
俺はアベナンカ達の家を出て、ホテルへと戻った。
『歳三さん、お休みなさい。』
ホテルに戻って、ルームサービスで食事を済ませた後、俺は千鶴のラインに気づいた。
俺はすぐさま、娘の事をあいつのラインに書いた。
『歳三さん、あなたにとって葵さんがどんなに大切な存在なのか、あなたが言葉で伝えなくてもわかっています。だから、彼女があなたに遺した宝物を、わたしにもあなたと共に慈しんで育てさせて下さい。』
(千鶴・・)
自分が不倫の末に産ませた“不義の子”だというのに、あいつは怒るどころか俺を許し、その上あの子を一緒に育てようと言ってくれた。
俺は、とんだ果報者だ。
溜息を吐いて缶ビールのプルトップを開け、その中身を一気に胃まで流し込んだ後、俺は浴室に入ると、頭から冷たいシャワーを浴びた。
翌朝、俺は娘を迎えに行った。
『いらっしゃい。また来ると思っていたわ。』
マナさんはそう言って俺に微笑むと、俺を家の中へと招き入れてくれた。
「あの子は?」
『奥の部屋に居るわ。』
俺が奥の部屋へと向かうと、中からアベナンカとあの子の声が聞こえて来た。
「どうして、そんな・・」
「葵は、強い人だった。でも、あなたを残して逝くのは辛かった筈。」
俺はあの子の泣き声が止むまで、暫く廊下で待っていた。
「すいません、折角いらして下さったのに、お待たせしてしまって・・」
そう言ったあの子―俺の娘・薫は、泣き腫らした目元を俺に見せまいと俯いていた。
「それは?」
「母の形見です。母が“あんな事”になる数日前、必ず、あなたと・・兄に渡して欲しいと・・」
「中を、見てもいいか?」
「はい・・」
その箱は、美しい桐で作られていて、蓋には伝統的なアイヌの文様が彫られていた。
中には、千歳と俺達の写真―千鶴が毎日あいつに送っていたものを纏めたアルバムと、あいつの日記帳が入っていた。
「いつの間に・・」
「母は、進行性の肺癌でした。」
薫はそう言うと、大きく深呼吸した後、次の言葉を継いだ。
「解剖を担当されたお医者様は、数ヶ月の命だったと・・事故死しなくても、遅かれ早かれ母に残された時間は、少なかったと・・」
「そうか。」
「あの、わたしはこれからどうなるんでしょうか?」
「もし、お前さえ良ければ・・うちへ来ないか?」
「いいんですか?」
「あぁ。俺とお前ぇは家族だ。一緒に暮らすのは当然だろう。」
「アチャ・・」
薫は、そう言って俺に抱き着いた。
「じゃぁ、また来る。」
「はい・・」
薫を引き取る事で起こる問題は山積みだが、ひとつずつ解決していかなければならない。
『あんた、妾の子を引き取るなんて、正気なの!?』
案の定、親代わりの姉に薫を引き取る旨を話したら、彼女は烈火の如く怒り出し、まるで機関銃のように俺を罵倒した。
『とにかく、一度その子に会わせなさい!』
「わかった。」
厄介な事になったな―俺はそう思いながら、スマートフォンをサイドテーブルに投げると、泥のように眠った。
姉が、俺と薫に会いに来たのは、葵が死んで一週間経った頃だった。
「この子が・・」
「はじめまして・・」
「この子の事、千鶴さんは認めているの?」
「あぁ。」
「そう。誠君と桜ちゃんには、あんたの方からちゃんと説明しておくのよ、いい?」
そう言って姉は、これ以上俺達と同じ空気を吸いたくないというように、乱暴にテーブルの上に置いていたショルダーバッグのストラップを掴んでそのまま去っていった。
「やっぱり、わたしあの家で今まで通り暮らします。」
「姉貴は気が強くて、言いたい事は何でも言う性格だから、気にするな。」
「はい・・」

そう言ってリュックのストラップを持った薫の手は、震えていた。

「大丈夫だ、俺がついている。」

薫は、実父の姉―義理の叔母と初めて顔を合わせた。

「この子が・・」
「はじめまして・・」
彼女は、まるで自分を射殺さんばかりに睨みつけていた。
彼女の反応は、無理もない。
自分の母は、父の妾―愛人だ。
その娘である自分が、受け入れられる筈がない。
薫は彼女と別れ、父と共に新幹線に乗り、彼の妻子が待つ東京へと向かった。
「色々と疲れただろうから、少し休め。」
「はい・・」
そう言われたものの、不安と緊張で薫は東京に着くまで眠れなかった。
「トシ。」
「勝っちゃん。」
新幹線から降りた二人を、歳三の親友・近藤勇が迎えた。
「わざわざ迎えに来なくてもいいのに。」
「お、君が薫君か。いやぁ、お母様に似て美人だな。」
「薫、この人は・・」
「近藤勇だ。まぁ、ここで立ち話も何だから、何処か昼飯でも食いに行こう!」
勇の笑顔を見て、薫の心は一瞬和んだ。
三人は、駅前の近くにあるラーメン屋へと入った。
「ここは、安くて美味いんだぞ。」
「いただきます。」
緊張が解け、薫は胸の前で両手を合わせた後、その店の名物である味噌ラーメンを一口啜った。
「どうだ?」
「美味しいです・・」
「そうか。」
「なぁ勝っちゃん、どうして俺達が今日帰って来る事を知ったんだ?」
「あぁ、千鶴さんから聞いたんだ。」
「そうか・・」
「さっき、信子さんと会ったよ。あの人の事を昔から知っているが、あんなに怒った彼女は見た事がなかったな・・」
「わたしの事が気に入らないんでしょうね・・」
「そ、そんな事はないと思うぞ!」
「大丈夫です、わたしは、あの人にとっては、受け入れたくない存在ですから。」
「薫君・・」
「ラーメン、ご馳走様でした。」
薫はそう言って自分のラーメン代を払うと、歳三達よりも先に店から出た。
「あ、雪・・」
ふと薫が空を見上げると、空からは白い雪が舞い降りて来た。
 そっと雪を掌に乗せると、それはすぐに溶けて消えていった。
「薫、行くぞ。」
「はい。」
薫が歳三と共に土方家に着いたのは、その日の夕方の事だった。
「お帰りなさい、歳三さん。」
「ただいま。」
「あなたが、薫ちゃんね?」
「はい・・これからよろしくお願いします。」
「今日は疲れたでしょう?お風呂に入って、ゆっくり休んでね。」
「はい・・」
千鶴は、薫に優しく接してくれた。
だが、歳三と千鶴の長女・桜は違った。
「あなたが、薫さんね?はじめに言っておきますけれど、わたしはあなたの事を認めていませんから。」
「はい・・」
「姉さん、そんな事を言うなよ。恐がっているじゃないか!」
「何事もはじめが肝心よ。誠、この子と仲良くしちゃ駄目。」
「姉さん、そんな・・」
「いい加減にしろ、桜!薫はお前ぇの妹だろうが!」
「生物学的にはね。でも、法的には、違うでしょう。薫さんは非嫡出子で戸籍だって土方家の籍ではなく佐々木家の籍に入っているじゃありませんか。」
「桜姉さん、食事の席でもうこんな話は止めてくれ、飯が不味くなる。」
そう言った千歳は、食事中だというのに席を立って、自室に入っていってしまった。
「ごめんね、薫ちゃん。」
「何を謝るの、誠?わたしは土方家を代表して、当然の事を言っただけよ。」
桜の容赦ない口撃に晒され、薫は押し黙ってただ只管箸を動かしていた。
 口の中には、砂の味だけが広がっていた。
「姉さんは、潔癖過ぎるし、曲がった事は大嫌いなんだ。それに父さんの事を尊敬しているから、きっと・・」
「桜姉さんは父さんを神格化しすぎなんだよ。父さんがうんこしないとでも思っているのかね?」
「すいません、わたしの所為で・・」
「気にしなくていいよ、あんなの。」
「そうそう。」
千鶴と歳三、そして二人の兄達は薫の事を温かく受け入れてくれたが、桜だけは彼女に対して頑なな態度を崩そうとはしなかった。
それは、家の中だけでなく、学校でも同じだった。
「土方先生、家庭内の事情を学校に持ち込まないでくれます?」
「どういう意味だ、総司?」
「あなたの娘さん・・桜ちゃんが、薫ちゃんと口を利くなって中等部の生徒達にお触れを出したんです!」
「何だって!?」
元教え子で、今は薄桜学園中等部で英語教師をしている沖田総司の口から、歳三は信じられない事を聞いて溜息を吐いた。
「ねぇ、あの子でしょう?」
「土方先生の・・」
「駄目よ、話しかけちゃ・・」
薫は教室の中でも、部活動の中でも孤独だった。
だが、自分を優しく受け入れてくれた歳三達に心配をかけぬよう、薫は無理に明るく振る舞っていた。
そんな中、土方家で、土方家当主・喜六の法事が行われる事になり、薫は歳三達と共に土方家へ向かったが、そこで待っていたのは、信子からの心ない仕打ちだった。
「あなたは、お手伝いさんと一緒の部屋で食べてね。」
「はい。」
「全く、お父さんは何を考えているのかしら?妾の子を連れて来るなんて、とんだ恥晒しだわ。」
もうそれ以上聞きたくなくて、薫は土方家の台所へと逃げ込んだ。
「はい、これも頼むよ。」
「これも。」
「わかりました。」
時折縁側を挟んだ広間の方から響いてくる、賑やかな笑い声を聞きながら、寒い台所で薫は只管洗い物をしていた。
冷水に長時間晒された所為で、彼女の両手は赤くなってかじかみ、湿疹が出来ていた。
漸く洗い物から解放されたかと思ったら、薫は信子から渡り廊下の掃除を命じられた。
「はぁ・・」
 雑巾を固く絞りながら、薫は泣きそうになるのを必死に堪えて渡り廊下の拭き掃除を始めた。
(わたし、どうしてここに居るんだろう?)
父や、彼の妻、それに半分血が繋がっている兄達は自分には優しいが、何処か彼らが自分をまるで腫れ物に触るような扱いをしているような気がしてならないのだ。
この家では、自分は邪魔者でしかないのだ。
「うっ・・」
堪え切れず、薫は廊下の板目を数えながら、誰にも聞えぬよう押し殺した声で泣いた。
暫くすると、薫の足音に何か柔らかくフワフワしたものが触れた。
「クロ、クロやぁ~」
何処からか男の声が聞こえて来たかと思うと、鈴を軽快に鳴らしながら豊かな黒毛を波打たせた猫が薫の前に現れた。
猫はじっと金の眼で彼女を見つめた後、彼女の膝上に乗った。
「クロやぁ、その子は誰だい?」
薫が突然自分の膝上に乗って来た猫を何とか退かそうとしていると、そこへ一人の老人がやって来た。
「すいません、あの・・」
「あんたが、もしかして信子が言っていた子かい?」
「あの・・」
男は急に、薫の手を掴んだ。
「こんなに荒れて、冷えちまって・・ちょっくら、俺の部屋で炬燵でも入って暖まっていきな。」
「でも・・」
「なぁに、心配要らねぇ。」
そう言った男―土方為次郎は、薫に微笑んだ。
盲人である彼は、彼女の手に触れ、彼女がかなり精神的に追い詰められている事に気づいた。

(後でトシと信子に灸を据えてやらねぇとな。)

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Last updated  Jul 23, 2021 06:39:22 AM
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