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JEWEL

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完結済小説:わたしの彼は・・

May 18, 2014
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太田を殺した犯人は、彼と同棲していた女だった。

「痴情の縺(もつ)れってやつですか・・その女が、太田さんを殺したのは。」
「ええ。わたしはこの仕事をやって長いですが、男と女の間にはいつも事件が起きますね。」
「そりゃそうでしょう、男と女は全然違う生き物ですからね。」
歳三はそう呟くと、丸岡が持って来てくれたクッキーを頬張った。
「丸岡さん、陸の事で色々とお世話になりました。」
「息子さんが退院できて良かったですね。」
丸岡は黒猫と遊ぶ陸の姿を横目で見ると、リビングから出ていった。
「陸、ジュリーと遊んでないで少しは手伝え。」
「わかった。」
陸はそう言うと、ジュリーをゲージの中に戻した。
「ねぇお父さん、今日の夕飯はハンバーグ?」
「ああ。お前の退院祝いだから、豪勢にいこうと思ってな。海老フライも後で作ろうな?」
「うん!」
千尋が病院から帰宅してリビングに入ると、キッチンの方から良い匂いが漂ってきた。
「千尋さん、お帰りなさい!」
「陸君、今日の夕飯は?」
「海老フライとハンバーグだよ。お父さんが、僕の退院祝いにって作ってくれたんだ!」
「よかったですね。」
その日の夜、陸と歳三が作った夕飯を三人で囲んだ。
「どう、美味しい?」
「ええ。」
「さっき丸岡っていう刑事が来て、このマンションで起きた殺人事件の犯人が捕まったってさ。犯人は、太田と暮らしていた女だった。」
「あの人が、太田さんを・・」
千尋の脳裏に、あの日エレベーターの中で千尋に向かって自分は幸せだと言い張った葉瑠の何処か寂しそうな横顔が甦った。

彼女は、幸せになりたかったのだろうか。

刑事の話によると、葉瑠は太田の子を妊娠していて、子どもを生む、生まないで太田と揉めて彼を殺してしまったらしい。
『子どもが出来たら、彼は変わってくれると思った。』と、葉瑠はそう供述した。
彼女は今、どんな気持ちで居るのだろうか。
子どもの父親を手にかけ、殺人犯となってしまった彼女は、この先どう生きるのだろう。
「どうしたの、千尋さん?食欲ないの?」
「いいえ、何でもありません。」
我に返った千尋は、慌てて箸を取り、海老フライを一口齧った。
「千尋、この事件のことは早く忘れた方がいいぜ?」
「そうですね・・」
「嫌な事はさっさと忘れた方がいい。じゃないと、延々と引き摺っちまう。」
歳三はそう言うと、グラスの中に入った水を飲んだ。
「千尋、乾杯しようか?今日は陸の退院祝いなんだから、パーっとやらねぇとな。」
「ええ・・」
歳三は冷蔵庫から冷えたワインを取り出すと、そのコルク栓を素早くワインオープナーで開けた。
「いいなぁ、二人ともお酒が飲めて。」
「お前ぇも大人になったら飲めるさ。」
歳三は千尋と自分のグラスに赤ワインを注いだ後、自分のグラスを持ってそれを高く掲げた。

「それじゃぁ、乾杯~!」
「乾杯~!」

END

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Last updated  May 18, 2014 07:54:17 PM
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「・・子どもが出来たら、あの人は変わってくれると信じていました。」

切迫流産で入院した鈴木葉瑠(すずきはる)は、そう言うと丸岡刑事を見た。

「・・事件があった日の事を、詳しく話してくれませんか?」
「はい・・」
事件当日、葉瑠は太田に彼の子を妊娠したことを告げると、彼は突然烈火の如く怒りだし、その辺に置いてある物を片っ端から葉瑠の腹に向かって投げつけたという。
「“ガキなんか欲しくない、金はやるから堕ろせ”って・・わたしは彼に産みたいと言いました。赤ちゃんが生まれれば、彼もきっといい父親になってくれるだろうって・・そう思っていたのに・・」
命の危険を感じた葉瑠は、キッチンの近くに置いてあった金属製の花瓶で太田の後頭部を殴った。
そして、太田は絶命した。
「最初、彼は気絶した振りをしたと思っていました。でも、彼は死んでいて・・」
葉瑠はそう言葉を切ると、唇を微かに震わせた。
「鈴木さん、あなたは罪を償って、人生をやり直してください。」
「刑事さん、赤ちゃんはどうなります?わたし、この子を育てたいんです。」
葉瑠はそっと下腹を撫でると、丸岡を見た。
「刑務所内で出産できますが、赤ちゃんは養護施設で育てられることになるでしょうね。」
「そんな・・」
「あなたは、殺人を犯したんだ。その罪を一生背負っていかなければなりません。」
「わたし、何て馬鹿なことを・・」
葉瑠はそう言うと、両手で顔を覆った。
一方、歳三と千尋は、陸の病室へと向かった。
「もう大丈夫か、陸?」
「うん、大丈夫。ねぇお父さん、僕を襲った犯人は捕まったの?」
「ああ。それに、殺人事件の犯人も捕まった。」
「ねぇお父さん、ひとつお願いがあるんだけど・・」
「何だ?」
「猫、飼ってもいい?」
「飼ってもいいが、死ぬまで面倒を見られるか?」
「見られるよ。」
「動物を飼う事は、簡単な事じゃねぇぞ。わかったな?」
「うん、わかった。」
「陸君、元気そうで良かったですね。」
「ああ・・」
病院の帰りに寄ったホームセンターのペットコーナーで、千尋と歳三は猫用のトイレやキャリーバッグ、キャットフードをカートの上に載せた後、レジに並んだ。
「猫の名前、どうします?」
「それは、陸につけて貰う。飼い主はあいつだからな。それより千尋、マンションの管理組合には話をしたのか?」
「ええ。管理人さんは、他の住民達に迷惑を掛けないのなら飼っていいと・・」
「そうか。」
一週間後、退院した陸がマンションの部屋に入ると、そこには部屋の新しい住人となった黒猫が彼を出迎えた。
「ジュリー!」
陸が黒猫の名を呼ぶと、黒猫は嬉しそうに鳴いて陸の足元に擦り寄って来た。
「こいつ、メスなのか?」
「うん。ねぇお父さん、ジュリーと遊んでいい?」
「いいよ。」
「やったぁ!」
歳三がキッチンで夕飯の支度をしていると、玄関のインターフォンが鳴った。
「はい、どちら様ですか?」
『すいません、わたし新宿署の丸岡と申します。少しお時間、頂けますか?』
「はい、どうぞ・・」

数分後、部屋に有名洋菓子店の紙袋を提げた丸岡刑事が部屋に入ってきた。

「すいません、散らかっていて・・あの、今日は何の用でこちらに・・」
「こちらのマンションで起きた殺人事件の、犯人が判りました。」

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Last updated  May 18, 2014 07:53:07 PM
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「死ねぇ!」
歳三の背後で野太い男の声がしたかと思うと、彼の顔を金属バッドが掠めた。
「てめぇか、陸を殴ったのは!?」
「あのガキ、前から目障りだったんだよ!」
黒の目出し帽を被った男はそう叫ぶと、歳三に襲い掛かって来た。
狭い工場内を逃げ惑いながら、歳三は男に反撃する機会を狙っていた。
「隠れているのはわかっているんだ、出て来い!」
歳三が工場の二階に置いてある資材の陰に隠れていると、男が鉄の階段を上がって来る音が聞こえた。
警察に通報しようとした彼が携帯を取りだした時、男が歳三の手から携帯を取り上げた。
「見つけたぞ。」
そう言って自分に笑みを浮かべる男の手には、バタフライナイフが握られていた。
歳三は男の隙を突いて、彼に近くに置いてあったゴミ箱を投げつけた。
「畜生、舐めた真似しやがって!」
怒気を孕んだ声でそう言った男は、鉄パイプで自分と応戦する歳三の右腕をナイフで切りつけた。
男のナイフで右腕を切られた歳三は、痛みに呻いた。
「これで、おしまいだ!」
男は地面に蹲った歳三に向かって、バタフライナイフを振り下ろそうとした。
だがその時、何処からともなく低い唸り声が聞こえたかと思うと、サッと黒い影が歳三の傍を通り過ぎた後、男が苦悶の悲鳴を上げた。
歳三が男の方を見ると、男の顔に一匹の黒猫が覆い被さり、鋭い爪を男の顔に突き立てていた。
「この野郎、ぶっ殺してやる!」
男がバタフライナイフで猫を刺そうとしたので、歳三は男に体当たりを喰らわした。
バランスを崩した男は、黒猫が顔に覆い被さったまま階段から転げ落ちた。
歳三が階段を降りて一階に向かうと、そこには地面にのびて気絶している男と、男の傍で毛繕いをする黒猫の姿があった。
「お前のお蔭で助かったよ、ありがとう。」
歳三がそう言って黒猫の頭を撫でると、黒猫は嬉しそうに喉を鳴らした。
「土方さん、ここに居たのかい!」
「江田さん、どうしてここに?」
「いやぁ、さっきね、あんたが廃工場に向かっているところを見かけてさ、その後こいつが土方さんを尾行していたから、おかしいなぁって思ってこいつのことをつけていたんだよ。」
「こいつが、陸を殴った犯人です。」
「こいつはぁ・・金田の倅じゃねぇか!」
男から目出し帽を剥ぎ取った江田は、そう叫ぶとポケットから携帯を取り出した。
「もしもし、警察ですか?あのねぇ、さっき廃工場で土方陸君を殴った犯人を捕まえたんですが・・」
数分後、陸を鉄パイプで殴った金田紘一は、警察に逮捕された。
「よかったねぇ、土方さん。陸君を殴った犯人が捕まって。」
「ええ・・」
歳三が陸の自転車に跨って自宅マンションに帰ろうとした時、自転車の前かごに黒猫が飛び乗って来た。
「お前ぇは家には連れて行けねぇんだよ、悪いな。」
歳三はそう言って黒猫の首根っこを掴もうとすると、黒猫は低く唸って歳三に威嚇した。
「わかったよ。」
「お帰りなさい、歳三さん。その猫は?」
「陸が餌をやっていた野良猫だ。こいつらに餌をやっている時、陸を殴った犯人に襲われそうになったんだ。でも、こいつが俺を助けてくれたんだ。」
「命の恩人なのですね、この猫ちゃんは。」
千尋がそう言って黒猫を撫でると、黒猫は嬉しそうな声で鳴いた。
「なぁ千尋、こいつ飼ってもいいかな?」
「どうでしょう・・わたしの一存では決められませんからね・・」
「そうだなぁ・・」

千尋と歳三がそんな話をしていると、ダイニングテーブルに置かれている千尋の携帯がけたたましく鳴った。

『千尋ちゃん、陸君の意識が戻ったよ。』

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Last updated  May 18, 2014 07:51:56 PM
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「一体何をしているんですか?」
「千尋、お帰り。ちょっと調べ物をしていたんだ。」
「調べ物?」
「ああ。もう終わった。」
歳三はそう言うと、ノートパソコンを閉じた。
「お風呂、入りますか?風邪をひいてから、もう一週間も入っていないでしょう?」
「ああ。身体は洗わなくても平気なんだが、髪がベタついて気持ちが悪くて仕方ねぇんだ。」
「そうですか・・じゃぁ寝間着の着替え、後で持って行きますね。」
「ああ。」
歳三が浴室に入ったのを確かめた千尋は、歳三が使っていたノートパソコンの蓋を開いた。
スリープモードになっていた画面が解除され、液晶のディスプレイに騎手時代の歳三の写真が表示された。

(これは、一体・・)

「千尋、シャンプーもうすぐ切れそうだぞ?」
「すいません、明日買ってきます。」
シャワーを浴びた後、寝室に戻ってきた歳三は、千尋があの業者のHPを見ている事に気づいた。
「見ちまったか・・」
「一体どういうことなのですか?この会社のHPに、あなたの写真が載っているなんて・・」
「実は・・」
歳三は千尋に、マンションのエントランスで見知らぬ青年と言い争いになったことを話した。
「その時俺に殴りかかって来たやつが持っていた週刊誌の広告に、俺の写真が載っていたから、広告を出している会社をネットで調べてみたんだよ。」
「それで、このサイトに辿り着いたというわけですね?」
「ああ。競馬必勝法詐欺って知ってるか?必ず当たるって言って、金を騙し取る・・」
「ああ、この前ニュースでやっていましたね。」
「どうやら、俺がこの競馬必勝法詐欺をしている会社の広告塔になっているみてぇなんだ。何処から俺の騎手時代の写真がこの会社に渡ったのか、何で俺がこの会社の広告塔になっているのか、わけがわからねぇんだ。」
「余り気にしない方がいいですよ。それよりも、まずは風邪を治してください。」
「わかったよ。それよりも千尋、陸が誰かに鉄パイプで頭を殴られてお前の職場に運ばれたんだってな?」
「ええ。幸い命に別条はありませんでしたが、意識はまだ戻っていません。歳三さんに陸君のことを連絡しようと思っていたんですが、昨日はひっきりなしに急患が来てそれどころではなかったんです。」
「陸以外にお前を必要としている患者が居るんだから、別に謝らなくてもいいよ。早く犯人が捕まるといいな。」
「ええ。」
朝食の卵粥を食べた歳三は、寝間着の上にダウンジャケットを着て寝室から出た。
「何処へ行くのですか?」
「ちょっと出掛けて来る。」
「わかりました。余り遠くに行かないでくださいね?」
「わかってるよ、そんなこと。ガキじゃねぇんだから、心配すんな。」
歳三はそう言って千尋の頬に素早く唇を落とすと、陸の自転車の鍵を掴んでマンションの部屋から出て行った。
数分後、彼は息子の自転車を廃工場の前に停め、廃工場の中へと入った。
歳三が人気のない工場の中を歩いていると、何処からともなく猫の鳴き声が聞こえた。
もう帰ろうかと歳三が廃工場から出ようとすると、彼は自分の足元に猫が身体を擦りつけていることに気づいた。

「済まねぇなぁ、餌は持って来てねぇんだよ。」

歳三がそう言って腰を屈めて猫の頭を撫でた時、彼は誰かが自分の背後に立つ気配を感じた。

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Last updated  May 18, 2014 07:50:31 PM
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(千尋、遅ぇなぁ・・)

歳三は千尋の帰りが遅いことに苛立ちながら、激しく咳き込んだ後ベッドから起き上がった。
熱は昨夜より少し下がったものの、まだ全身がだるくて仕方がない。
風邪薬を飲もうとして、冷蔵庫を開けた歳三はポカリスエットのペットボトルがなくなっていることに気づいて舌打ちした。
数分後、厚手のダウンコートを着た彼は、財布と携帯を持ってマンションの近くにあるコンビニへと向かった。
「土方さんじゃないか、久しぶり!」
「どうも・・」
コンビニのオーナー・江田に話しかけられ、歳三はそう言うと彼に会釈した。
「お宅の陸君、大変だったねぇ。」
「陸に、何かあったんですか?」
「土方さん、知らないの?陸君、廃工場の野良猫に餌をやっていた時、誰かに鉄パイプで頭を殴られて病院に運ばれたんだよ。」
「それ、本当ですか?」
「ああ、本当さ!さっき、糸田さんが話していたんだから、間違いないって!それに、救急車を呼んだのも、糸田さんだし・・」
「江田さん、教えてくれてありがとうございます。」
「いいってことよ。土方さん、まだ本調子じゃないんだから、余り無理しない方がいいぜ?」
「わかりました。」
コンビニを出た歳三がポカリスエットとポテトチップスが入ったレジ袋を提げながらマンションのエントランスから中へと入ろうとした時、突然彼の前に一人の青年が現れた。
「あんたが、土方歳三だな?」
「ああ、そうだが・・俺に何か用か?」
歳三がそう言って青年を見ると、彼はいきなり歳三に殴りかかって来た。
だが歳三は青年の拳が己の頬に届く前に、青年に足払いをかけた。
「てめぇ、何処のどいつだ?」
「祖母ちゃんの金を返せ、この泥棒!」
「俺はお前ぇの祖母ちゃんなんて知らねぇし、その祖母ちゃんから金を騙し取ったこともねぇよ。」
「とぼけんな、こんな広告出してる癖に!」
青年はそう言うと、一冊の週刊誌を歳三に向かって投げた後、そのままマンションのエントランスから外へと出ていった。
「なんだぁ、あいつ・・」
大理石の床に投げ捨てられた週刊誌を拾い上げた歳三は、そこに載っている広告を見て目を疑った。
そこには、“素人でも楽に稼げる、競馬必勝法!”という派手な飾り文字の下に、騎手時代の歳三の写真が添えられていた。

(一体何処からこんなもの持ってきやがったんだ?)

部屋に戻った歳三は、寝室に置いてあるノートパソコンを起動させると、広告の下に掲載されている業者をグーグルで検索した。
すると、その業者の名とともに、「○○社 詐欺」、「○○社 マルチ」といった言葉が出て来た。
業者のHPにアクセスした歳三は、そこでまたしても騎手時代の自分の写真が載っていることに気づいた。

“祖母ちゃんの金を返せ、泥棒!”

マンションのエントランスで自分に憎悪の籠った視線を向けてきた青年の言葉が、歳三の脳裏に甦った。

「千尋ちゃん、もう帰っていいよ。」
「すいません、失礼します。」

夜明け前、病院から漸く帰宅した千尋は、寝室で歳三がノートパソコンで何かをしている事に気づいた。

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Last updated  May 18, 2014 07:48:13 PM
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「いらっしゃいませ!」
「あの、ホットコーヒーください。」
「かしこまりました。」

駅の地下ビルにあるファストフード店に入った女は、店員から注文したコーヒーを受け取ると、奥のソファ席に腰を下ろした。
自分の隣に置いているリュックから手鏡を取りだした女は、あのマンションを出てから初めて自分の顔を見た。
あの日、彼から殴られた顔の右半分の痣はすこしひいているものの、右目の目蓋の上には痛々しい内出血の痕があった。

(酷い顔・・)

手鏡を化粧ポーチの中に戻した女はコーヒーを飲み終わった後、全財産が入ったリュックを背負うと、そのまま店を後にした。
「ありがとうございました!」
店を出た女は、ショルダーバッグから財布を取り出した。
今の所持金はあの男が部屋に隠していた金庫の中から奪い取った金と、自分の所持金とあわせて400万ほどある。
暫く東京から離れて、実家に帰ってそこで新しい生活を始めるには充分な額だ―女はそう思い、新幹線の切符売り場へと向かった。
「先輩、太田のマンションから姿を消した女の素姓がわかりましたよ。」
「何!?」
「女の名前は鈴木葉瑠(すずきはる)。27歳で、太田とは六本木のダーツバーで知り合ったそうです。」
「鈴木葉瑠の実家は何処だ?」
「福岡です。それに、太田のマンションの部屋にあった金庫から、300万の現金が消えています。」
「今すぐ東京駅に行くぞ!」
東京駅まで車を飛ばしながら、丸岡は太田を殺したのは鈴木葉瑠だとにらんでいた。
「畜生、混んでいるな・・」
「丁度帰宅ラッシュの時間帯ですからねぇ。」
「内田、俺はここで降りる。」
「え、ちょっと待って下さいよ、先輩!」
運転席でうろたえる後輩刑事を残し、丸岡は素早くシートベルトを外すと、助手席側のドアを開けて外へと出た。
東京駅まで全力疾走した丸岡は、荒い息を吐きながら鈴木葉瑠の姿を探したが、彼女の姿は何処にもなかった。
(畜生、遅かったか・・)
渋滞に巻き込まれていなければ、鈴木葉瑠を逮捕できたかもしれないのに―丸岡がそう思いながら来た道を戻ろうとした時、彼は登山用のリュックを背負った一人の女性とすれ違った。
「すいません、ちょっとお時間よろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
丸岡に呼び止められ、恐る恐る振り向いたその女性は、右目に眼帯をつけていた。
「ちょっとしたアンケートに答えていただけないかと思いまして・・余りお時間は取らせませんから・・」
「あの、わたし急いでいるんで・・」
女性はそう言うと丸岡に背を向けて歩き出そうとしたが、丸岡が突然彼女の手を掴んだ。
「何するんですか、離してください!」
「あなた、鈴木葉瑠さんですよね?」
丸岡の言葉に、女性はビクリと背を微かに震わせた。
「逃げても、罪が重くなるだけですよ?」
「わたしは・・わたしは・・」
女は身体を小刻みに震わせたかと思うと、その場に蹲(うずくま)った。
「どうしました?」
「お腹が・・痛い・・」

額に脂汗を浮かべながら、女はそう言うと下腹を押さえた。

「誰か、救急車!」

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Last updated  May 18, 2014 07:46:59 PM
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千尋と総司が勤務する病院のERに搬送された陸は一命を取り留めた。

「千尋ちゃん、これ飲んだら?」
「ありがとうございます・・」
集中治療室のガラス窓越しにベッドに寝かされている陸を見ながら、千尋は一体どうしてこんなことになってしまったのか、訳がわからなかった。
「土方陸君のご家族の方ですね?」
「はい、そうですが・・」
千尋が俯いていた顔を上げると、廊下には今朝マンションを訪ねて来た二人組の刑事の姿があった。
「陸君はどうやら、近所の廃工場で野良猫に餌をあげていた時に何者かに後頭部を鉄パイプで殴られたようです。」
「そうですか・・刑事さん、陸を襲った犯人は捕まりますか?」
「廃工場の近くで黒いダウンコートを着た怪しい男を見かけたという通報がありました。ただ、時間帯が夕方なので、人相まではわからなかったと・・」
「通報して下さったのは、どなたですか?」
「学校の近くで文房具店を営んでいる糸田さんという方です。廃工場で倒れている陸君を見つけて救急車を呼んだのも、糸田さんですよ。」
「糸田さんは今どちらに?」
「あちらです。」
丸岡刑事が手術室前に置かれているソファを指すと、そこには赤いダウンコートを着た中肉中背の男性が座っていた。
「すいません、糸田さんですか?わたくし、陸の保護者で荻野千尋と申します。」
「糸田です。陸君、大丈夫なの?」
「ええ。いつ意識が戻るかわかりませんが、本人の生命力を信じて陸の意識が戻るのを待ちましょう。」
「あの子ねぇ、いつも学校の行き帰りには毎日必ず挨拶してくれていたんですよ。礼儀正しい良い子なのに、どうしてあんな目に・・」
「さっきあちらの刑事さんから、陸が廃工場で野良猫たちに餌をやっていたって聞きましたが・・」
「あぁ、陸君はマンションに住んでいるから、猫が飼えない分廃工場に居る野良猫たちを可愛がってあげているんだって言っていましたよ。」
「救急車を呼んでくださってありがとうございます。」
「いいえ、わたしは当然の事をしたまでです。じゃぁわたしは、これで失礼します。」
「お気を付けてお帰り下さい。」
「陸君、早くよくなるといいですね。」
屈託のない笑みを千尋に浮かべた糸田は、彼に手を振りながら病院を後にした。
「先輩、土方陸殴打事件と、この前の殺人事件が繋がっていると思います?」
「まぁ、あらゆる可能性を探っていかないと、二つの事件の解決には繋がらないな。取り敢えず、俺達は二つの事件の目撃者探しをするか。」
「そうですね。」
病院を後にした丸岡と内田は土方陸殴打事件現場周辺で目撃者探しをしていたが、収穫はなかった。
「丸岡、どうだ?土方陸殴打事件の方で何か進展があったか?」
「いいえ。」
出前の蕎麦を啜りながら、丸岡はそう言って同僚の菊内を見た。
「土方陸殴打事件で使われた凶器は、現場周辺に置いてあった鉄パイプだったな?」
「ええ。土方陸の傍に落ちていた鉄パイプから、彼の血液と毛髪、それに犯人の指紋が検出されました。」
「こんな平和な町で、事件が立て続けに起きるとはなぁ・・」
「菊さん、岡崎千尋が太田と暮らしていた女の事を話していたでしょう?その女、事件が起きた後失踪したそうです。」
「におうな、その女。」
「太田から日常的に暴力を振るわれているようでしたし、日頃の恨みが募って殺意に発展したって考えると、太田の同居人だった女が一番怪しいですね。」
「後で女の素姓を洗ってみることにするか。」

菊内はそう言って持病のヘルニアを抱えた腰を擦って椅子から立ち上がると、刑事課のオフィスから出て行った。

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Last updated  May 18, 2014 07:44:10 PM
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「千尋ちゃん、今日は夜勤?」
「はい。歳三さん、大丈夫かなぁ・・」
「土方さんなら大丈夫だって。それに、陸君が居るでしょう?」
昼休み、総司と千尋が病院内のベンチに座って昼食を食べていると、千尋の携帯がけたたましく鳴った。
「出てもいいよ。」
「すいません・・失礼します。」
千尋は携帯の液晶画面に、“学校”と表示されていることに気づいた。
いつでも学校と連絡がつくようにと、千尋は自分の携帯の番号とメールアドレスを陸の担任に教えていたが、一度も学校から電話やメールが来た事はなかった。
「もしもし、岡崎です。」
『岡崎さん、陸君お家に戻っていませんか?』
「陸に、何かあったんですか?」
『ええ。先程学校から電話がありましてね、文房具屋のご主人が陸君を見かけたようなんです。でも、少し様子が変だったって・・』
「陸の様子が変?あの子、クラスの子からいじめられているんでしょうか?」
『それはないと思います。陸君、クラスの人気者ですし、塾にも沢山お友達が居ますから・・お忙しいのに、申し訳ありません。』
「いえ、こちらこそお忙しいのに、陸の事を教えて下さってありがとうございました。では、失礼致します。」
陸が自宅に帰っていない事を担任から告げられた千尋は、不安になって歳三の携帯に掛けた。
『どうした?』
「陸、そっちに帰って来ていませんか?」
『ああ。どうかしたのか?』
「いえ・・」
『今日夜勤だろう?余り無理するんじゃねぇぞ?』
「ええ・・」

携帯を閉じてそれをポケットにしまった千尋は、陸の身を案じた。

一方、学校を出て自転車に跨った陸は、自宅マンションとは逆方向にある廃工場の前で自転車を降り、廃工場の中へと入った。
「みんな、ご飯だよ。」
陸が暗闇の中でそう叫ぶと、何処からともなく可愛らしい鳴き声とともに50匹もの猫達が一斉に陸の元へとやって来た。
陸は斑模様の猫の背を撫でながら、背負っていたリュックを地面に下ろすと、その中から数日前にペットショップで購入した猫缶を開けてその中身を猫達の前に置いた。
「そんなに慌てないで。まだまだ沢山餌はあるからね。」
餌の取り合いをする猫達にそんな言葉を掛けながら、陸は食事をする猫達を微笑ましそうに見ていた。
そんな彼の背後に立った男は、傍に置かれていた鉄パイプで躊躇いなく陸の後頭部を殴打した後、廃工場から立ち去った。
「陸君、家に帰ってないの?」
「ええ。」
「何だったら、僕が夜勤変わってあげようか?看護師長に事情を話せば、わかってもらえるよ。」
「わかりました。」
ナースステーションに向かった千尋は、看護師長に陸が行方不明になっていることを話した。
「そう・・岡崎さん、あなたは早く家に帰りなさい。陸君、無事に見つかるといいわね。」
「すいません・・」
「謝らなくてもいいわよ。困った時はお互い様。」
「じゃぁ、わたしはこれで失礼します。」
千尋が病院の職員専用出入口から外へと出ようとした時、救急車がサイレンを鳴らしながら病院の前に停まった。
「千尋ちゃん、申し訳ないけどこっちに来て手伝って!」
「はい、わかりました!」

千尋がERに運ばれた患者を見ると、その患者は行方不明になっていた陸だった。

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Last updated  May 18, 2014 07:43:04 PM
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「まさか、ここで殺人事件が起きるなんて思いもしませんでした。」

数分後、千尋は部屋を訪ねて来た年配の刑事にコーヒーを出すと、そう言って溜息を吐いた。

「先輩、遅くなりました!」
「お前、遅いぞ!」
千尋がソファに座ろうとした時、ドアが開いてリビングに若い男が入ってきた。
「あの、そちらの方は?」
「すいません、こいつは内田といって、わたしの相棒です。自己紹介が遅れました、わたしは新宿署の丸岡と申します。」
「わたしは岡崎千尋と申します。西田総合病院で看護師をしております。」
「そうですか。岡崎さん、殺された太田さんとはどういう関係でした?」
「どういう関係と申しますと・・太田さんとは、同じマンションの住民同士で、それ以上の関係ではありませんでした。それにあの人、余りご近所づきあいをされない方でしたから・・」
「そうですか。じゃぁ聞きますが、太田さんがご近所の方達と何かトラブルを抱えていたとかは・・」
「そうですねぇ、太田さんはルーズな方で、ゴミ出しのルールを守らなくて、良く管理人さんや他の住民の方と揉めていました。それにここのマンションは月2回溝のドブ浚(さら)いを近所の方達と総出でするんですけどね、その行事に一度も太田さんは出なかったんです。せめて一度だけでも参加して下さいとわたしが太田さんに言いましたけど、無視されました。」
二人の刑事達に太田の事を話しながら、千尋は彼が殺される数週間前の事を思い出していた。
「馬鹿野郎、俺が頼んだ物と違う物を買ってきやがって!」
その日の朝、千尋が陸と歳三の為に弁当を作っていると、突然太田の怒鳴り声が12階から聞こえた。
彼は些細な事で妻によく暴力を振るっていた。
千尋達が住んでいるのは15階で、太田夫妻が住む部屋とはかなり離れていたが、彼の怒声はマンションの最上階まで響いていた。
「相変わらずうるせぇなぁ、あいつ。朝からいい迷惑だぜ。」
「ねぇお父さん、太田さんの奥さん、どうして離婚しないの?毎日旦那さんに殴られて、奥さん平気なのかなぁ?」
「さぁなぁ。夫婦の事なんか、ガキのお前ぇにはまだわからねぇよ。」
「何だよ、またそうやって僕を子ども扱いして!」
「へん、そう言われて悔しいのなら、早く大人になるんだな!」
怒声を聞いた後、千尋がゴミ袋を両手に提げながらエレベーターに乗り込むと、そこへ顔の右半分を赤紫色に腫らした太田の妻が乗って来た。
「すいません、またお騒がせしちゃって・・」
「いいえ。」
「うちの人、いつもわたしには優しいんですよ。この前のわたしの誕生日に、ダイヤのネックレスを買ってくれたんです。」
「へぇ、そうなんですか・・」
「あの人は、わたしが支えないといけないんです。」
そう言った太田の妻は、千尋に寂しげな笑みを浮かべながら、一足先にエレベーターから降りていった。
「岡崎さん、どうかされましたか?」
「いえ・・あんな事があって、太田さんの奥さんは今どうされているのだろうと思いまして・・」
「岡崎さん、太田さんは独身ですよ?」
「え・・けどわたし、太田さんが奥さんを連れて近所のスーパーで買い物をしているところを何度か見ましたよ?」
「それは、本当ですか?」
「ええ。それに事件の数週間前に、わたし太田さんの奥さんとエレベーターで会いました。太田さん、奥さんにいつも些細な事で怒鳴り散らして、暴力を振るっていたんですよ。その時奥さんと会った時、彼女顔の右半分に酷い痣をつくって・・」
「貴重な情報を教えて下さって、ありがとうございます。我々はこれで失礼致します。」

二人の刑事は、コーヒーを一口も飲まずに、リビングから出て行った。

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Last updated  May 18, 2014 07:41:17 PM
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「行って来ます!」
「陸君、お弁当忘れてるよ!」
「ありがとう、千尋さん。」
「ったく、陸の奴いつも騒がしいなぁ。」
陸が出て行った後、寝室から出て来た歳三がそう言って欠伸を噛み殺しながら椅子に座った。
「お熱、少し下がったみたいですね?」
「ああ。お前ぇの看病のお蔭だ。」
歳三は千尋に微笑むと、彼の唇を塞いだ。
「やめてください・・」
「いいじゃねぇか、誰も見てねぇんだし。」
「もう、歳三さんったら・・」
千尋は頬を羞恥で赤く染めながら、歳三を見た。
歳三と結婚式を挙げ、男同士でありながら夫婦として暮らし始めてから、もう二ヶ月になる。
歳三はまるで急に子どもに戻ったかのように、時折千尋に甘えてくる。
「なぁ、今日は一日中家に居てくれよ?」
「それは出来ません。」
「そんな事言うなよぉ。」
歳三がそう言って千尋に抱きついていると、マンションのエントランスから来客を告げるチャイムが鳴った。
「あなたはお部屋で寝ていてください。」
「わかったよ・・ったく、お前ぇ最近冷てぇよなぁ?」
歳三は小声で千尋に文句を言いながら、寝室へと引っ込んでいった。
千尋がインターホンの画面の電源を入れると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
「あの、どちら様ですか?」
『すいません、わたしこういう者なんですけど・・』
男はそう言うと、写真付きの警察手帳を見せた。
「刑事さんが、うちに何のご用ですか?」
『実はねぇ、数日前にこのマンションの12階に住む太田さんが殺された事件で、このマンションの住民に話を聞いているんですよ。すいませんが、少しお時間いただけないでしょうか?』
刑事の言葉を聞いた千尋は、数日前にこのマンションで起きた殺人事件のことを思い出した。
あの日、休みだった千尋がベランダで洗濯物を干していると、突然外が騒がしくなった。
「なんだよ、うるせぇなぁ・・」
リビングのソファに寝ていた歳三が、そう言って舌打ちしながらベランダに出て外の様子を見ると、マンションのエントランス前には数台のパトカーが停まっていた。
「何かあったのでしょうか?」
「さぁ。また、酔っ払いが騒いでたんじゃねぇのか?最近、ここら辺でそういうの、多いみたいだぜ?」
「そうですか・・」
その時、千尋と歳三は住民の誰かが泥酔して騒ぎを起こしたのだろうと思い、そのまま何の気にも留めなかった。
マンション内で殺人事件が発生したことを二人が知ったのは、その日の夕方だった。
「まさかここで殺人事件が起きるなんてなぁ・・」
「物騒ですね。」
「ねぇお父さん、うちにも刑事とか来るのかな?ほら、よくサスペンスドラマであるでしょう、厳つい顔をしたスーツ着たおじさんが、ドア越しに警察手帳ちらつかせたりする・・」
「あるんじゃねぇの?まぁ、お前ぇは学校があるから刑事には会えないな!」
「何だ、つまんないの!」
インターホン画面越しに刑事の姿を見ながら、千尋は思わず歳三達の会話を思い出して笑ってしまった。
『どうしました?』
「いえ、何でもありません。少し待って頂けますか?部屋の中が少し散らかっているので、片付けたいんです。」
『わかりました。』

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Last updated  May 18, 2014 07:39:33 PM
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