月と太陽 4
素材は、NEO HIMEISM様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です。苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。一部加虐描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。「う・・」「はぁ、お前の中、きつくて気持ちいい・・」仁が目を開けると、俊匡が己の最奥に欲望を放っていた。「何で、こんな事・・」「仁が好きだからに決まってんじゃん。」「何その自己中DV彼氏みたいな台詞。」仁は痛む腰を擦りながら、ベランダに出て煙草を吸っている俊匡を睨んだ。「父さんと、昼間何を話していたの?」「沙穂と、別れようと思ってさ。」「だからさっき、あんな事を・・」「沙穂は良く出来た女だよ。あいつも仕事しているのに、毎日家事を頑張ってくれてさ・・俺は、とんだ果報者だ。」「どうして、別れるなんて・・」「もう、あいつが子供の事で悩んだり苦しんだりする姿を見たくない。あいつには、あいつの人生がある。」「子供が全てじゃないけど、一人で勝手に決めないで、沙穂さんと話し合いなよ。」「有匡さんと同じ事を言うのは、やっぱり親子だなぁ。あ、前から聞いてみたかったんだけれど、仁の瞳って綺麗な色をしているけれど、それって遺伝なの?」「亡くなったお祖母様・・グランマが英国人でね、隔世遺伝ってやつ?父さんも少し碧が入っているけれど、僕よりは少ないかな。」「ふぅん。俺のお袋、碧い目をしているから、俺も碧い目をしているんだよね。その所為で子供の頃に虐められていたけど、気にはならなかったよ。」「僕もそうだったかなぁ。姉さんは金髪紅眼だから、中学・高校の時に生活指導の先生から黒染め指導されていたよ。まぁ、姉さんはフィギュアスケートしていたから、窮屈な日本を飛び出して、海外に行ったから今の成功があるんだけどね。」「仁も、スケートしてたの?」「うん。中学入る前に辞めたよ。才能なかったからね。それで、自然と警察官になったんだ。」「そうか。でも、警察学校を卒業した後、何処に行っていたんだ?」「警察大学校。そこは厳しかったけど、辛くはなかった。でも・・同期生からの、虐めは辛かったなぁ・・」仁はそう言って煙草を吸った後、唇を噛んだ。「仁・・」キャリアの、しかも“大物”である祖父と父を持った仁をやっかんだりする輩は少なからず居るだろうと思っていたが、彼がいじめに遭っていた話は初めて聞いた。「まぁ、やられた事は私物隠されたり、壊されたり・・顔以外の所を殴られたりしたな。反撃はしたけれど、あいつらはいつも、僕に責任を押し付けて来た。」今でも、悪夢にうなされる、虐めの記憶。中でも一番酷かったのは、性的なものだった。風呂に入っている時に下着や服を盗まれたり、捨てられたり、裸を勝手に撮られたりした。そして、あの嵐の夜―「どうした、仁?」「ううん、何でも・・」仁の煙草を持つ手が震えている事に気づき、俊匡はそっと彼を抱き締めた。「大丈夫、ここにはお前を傷つける奴は誰も居ないよ?」「うん・・」仁は深呼吸すると、あの嵐の夜の出来事を話し出した。その日、仁は警察学校時代の友人と酒を飲んだ後、寮の部屋で寝ていた。外から激しい雷鳴と雨音が聞こえ、仁が目を覚ますと、そこにはいつの間にか自分を虐めていた同期生の五人組グループが居た。彼らは結束バンドで仁の両手首を拘束し、容赦なく仁を犯した。嘔吐し肛門から出血している仁を嘲笑いながら、彼ら、いや奴らは仁を性欲処理用の人形のように雑に扱った。殴られ、意識を失う前に仁の瞼の裏に焼き付いたのは、奴らが着ていた青いシャツだった。有仁と有匡は、仁の事件を内密に処理し、公にする事はなかった。その後遺症で、仁は青いシャツを着る事はおろか、見る事すら出来なくなった。「僕は・・あんなのは、“悪ふざけ”だと、“体育会系の悪ノリ”だと、自分に言い聞かせて来た。そうされるのは、僕が弱いからと、思っていた。」仁は俊匡の腕の中で、激しく小刻みに震えた。「あの日、僕が酒で酔っていなければ・・僕が隙を見せたから・・」「お前は悪くない。」俊匡は過呼吸になりそうな仁の背中を、まるで赤子をあやすかのように優しく、トントンと一定のリズムで叩いた。仁はやがて、俊匡の腕の中で眠った。「大丈夫だよ、仁。」翌朝、俊匡が起きると、隣に仁の姿は無かった。「おはよう、二人共。良く眠れたかい?」「はい・・」ホテル内のレストランで有仁からそう声を掛けられた俊匡は、少し気まずくなった。「仁は?」「あの子なら、有匡とわたし達の部屋で話しているよ。その様子だと、仁の事件を知ってしまったんだね?」「はい。」有仁は俊匡の言葉を聞くと、渋面を浮かべた。「実は、こんな動画がネット上で拡散されてね。」 有仁がそう言って俊匡に見せたのは、あの事件の動画だった。「何で、こんなのが・・」「この前、わたしが警察庁に来たのは、仁を虐めていた同期生達の処分をする為だよ。彼らは皆、懲戒処分にした。」「多分、その内の一人が、逆恨みでこの動画をネットに上げた・・」「俊匡君、仁はまだあの時の苦しみや痛みを抱えている。どうか、あの子を支えてやってくれ。」「仁を支えるのは、俺だけではなく、あなたも有匡さんもでしょう。」「そうだね。」有仁と俊匡がそんな話をしていると、コートのポケットに入れていたスマートフォンが鳴っている事に俊匡は気づいた。その頃、仁は有匡と向かい合うような形でソファに座っていた。「本気なのか、裁判をするという事は、お前は今まで隠していた恥部を晒け出す事になるんだぞ?」「それでもいい、一生あの時に奴らに与えられた痛みに苦しむ位なら。」仁はそう言うと、シャツの袖を捲って有匡に手首の傷をつけた。「今はもう目立たなくなっているけど、あの事件の後は死にたいと思っていた。」「済まなかった、仁。わたしはお前と向き合う事をしなかった。」「いいんだよ、謝らなくても。」仁は、生まれて初めて父と抱擁を交わした。「裁判となると、長くて辛い戦いになるぞ。」「それは、覚悟しているよ。」こうして、仁は自分を虐めていた同期生達を訴える事にした。裁判に勝つまで、有匡の言葉通りそれは長く辛いものとなった。ネット上には仁に対する誹謗中傷で溢れ、殺害予告までされるようになった。それでも、仁は歩みを止めなかった。「大丈夫?あんた顔色悪いわよ?」「そうかな?」年末に火月と共に日本に帰国した雛からランチに誘われ、仁がメニューを見ていると、何処からかコーヒーの良い香りがして、それが自分の鼻先をくすぐった時、彼は激しい吐き気に襲われた。「大丈夫なの、本当に?」「大丈夫、ストレスの所為で消化不良になっているだけだから。」「そう。」雛にはそう言って笑って誤魔化した。「パパから裁判の事、聞いたよ。勝ったんだってね。」「うん・・」「嬉しくなさそうね。」「裁判が終わった後、相手の一人に、“人の人生壊して楽しいか?”って、詰られたんだよね。僕は、“それはこっちの台詞だ”って言ってやった。」「やるじゃん。あんたも強くなったねぇ。子供の頃は、泣き虫でいつもあたしの後をついて回っていたもんね~」「ちょ、いつの話だよ!?」姉は、いつも仁の心を明るくする太陽だった。母が、闇に包まれていた父の心を照らしたように。「あ~、楽しかった。僕も姉さんみたいになりたいなぁ~」「無理だね。あんたは太陽になれない。でもさ、あんたは太陽にはなれなくても、月にはなれるよ。」「月?」「そう、月。悩んでいる人や苦しんでいる人に優しく寄り添う、月のような存在だよ、あんたは。」「なれるかなぁ・・」「なれるって!あんた、何泣いてんの~!もう、泣き虫なのは昔から変わってないね~!」「う、うるせぇ!」雛とカフェの前で別れた仁が日本橋を歩いていると、突然彼は誰かに腕を掴まれた。「お前の所為で、人生滅茶苦茶だ!」一方的に男に罵声を浴びせられ、首を絞められた仁は、男と揉み合ったはずみで川の中へと落ちてしまった。にほんブログ村