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GAIA

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報徳外記 下

 第十五 助貸(上)
 国家の患は負債より甚だしきは莫し。負債なるものは年々其の利を出さざるを得ず。苟も其の利を出さざれば、則ち利中に利を生じ、遂に国を滅ぼし家を亡ぼすに至るや必せり。今夫れ負債一万金なるとき、什二の利を以て之を計らば、一周度の積、五億六千三百四十七万金に至る。是れ国家を滅ぼすに非ずして何ぞ。縦ひ年々其の利を清するも、亦た二千金は之を歳入より出さざるを得ず。苟も之を歳入より出さば、則ち租額の減ずる蕪田と同じきなり。其れ之を済ふの術は独り我が助貸の法あるのみ。之を命けて報徳金と曰ふ。其の財に息を起こさず、其の嘗て出せし所の利息を留め、以て之を償はしむ。則ち僅々たる五年にして而も清債の功成るなり。是に於て二千金の租入は我の有つところと為る。実に墾荒と同じきなり。之を鋤鎌を用ひずして座上の荒蕪を開拓すと謂ふも亦た可なり。抑々報徳金の徳たるや、猶ほ日月の大地を照らすが如きなり。夫れ両間に生々するもの、誰か日月の徳を被らざらんや。朝陽升れば、則ち草木花を発き、虫飛び魚躍り、禽は囀り獣は走りて、各々其の生を遂ぐ。況んや人倫に於てをや。王侯より以て庶民に至るまで、各々其の道を守り其の業を勤め、家国天下以て治まる。蓋し日月の大地を照らすや、万古以来年々歳々、万物を生々して、而も多きを加へず光を減らさず、終古一輪なるのみなり。且つ父母の子を育み、農夫の農を為す、惧に其の費を顧みず、故に之に法りて以て息を起こさざるなり。夫れ日の行くや卯に出て酉に入り、其の地を照らすや六時と為す。故に万物発育す。若し夫れ朝に出でて朝に入らば、則ち一物も発育するもの有らんや。之に法りて以て年を逐ひて微納す。乃ち冬の短日に本づきて五年と為し、夏の長日に本づきて十年と為し、春秋二分の節に本づきて其の中を執り、以て七年となす。苟も此を以て之を行ふときは、則ち負債有る者は之を償ひ、以て其の利贏を得ん。或いは典する所の田畝を復し、耕耨して以て秋穫の利を得ん。或いは荒蕪を墾き、米粟を得て以て家道を優にせん。或いは田畝無き者は田畝を得、山林無き者は山林を得、居室無き者は居室を得、衣食無き者は衣食を得、馬匹無き者は馬匹を得、農器家財無き者は皆之を得、以て其の業を勧め、以て其の生を安んぜん。夫れ其の資金は、或いは百金、或いは千金、或いは万金にして、助貸循環して一周度に至れば、則ち諸びとと其の苦しむ所より免れ、諸びとと其の利とする所を得て、而も資金は増さず減らさず、日月の大地を照らすと一般なり。人若し之に効ひて、奢侈を省き節倹を守り、余財を譲りて以て其の法を行ふときは、則ち是れ衆を済ふの事にして善行焉れより大なるは莫し。人若し其の助貸を受くるも、亦た業を勤めて以て之を償はば、則ち其の償ふ所の財は直ちに他に及ぶ。亦た是れ人を済ふの域に入れるなり。且つ夫れ叔世の弊たるや、君は聚斂を以て益と為し、民は欠租を以て益と為し、富者は放債にして利を得るを以て益と為し、貧者は負債して償はざるを以て益と為し、富者は益々富を求めて以て奢侈に溢れ、遂に亡滅を免れず、貧者は益々貧に陥りて以て怠惰に流れ、遂に流氓を免れず。是れ国家衰廃の本なり。其の衰へたるを挙げ其の廃れたるを興さんは、他無し、其の弊を矯むるに在り。之を矯むる術も亦た助貸法に在るなり。斯の法苟も行はるれば、則ち君は分を守りて以て民を沢し、民は農を勤めて以て貢を納れ、富者は奢を省みて以て之を貧者に推し、貧者は惰を改めて以て其の徳に報ゆ。則ち貧富相ひ和して貸財其の中に生ず。天地相ひ和して万物を生じ、男女相ひ和して子孫を生ずると同一般なり。是に於てか、富奢と貧惰の二弊、蕩然として銷鑠し、天下の貧民は窮乏を免れて富優を得ば、則ち国家の興復すること、豈に他に求む可けんや。然りと雖も、利に奔り、恵を懐ふの小民、安んぞ其の徳を視るを得ん。独り国君恤民の費を顧みず、黎庶の安息を以て益と為し、父母は育児の費を顧みず、児子の長育を以て益と為し、農夫は培養の費を顧みず、五穀の豊熟を以て益と為す者にして、而る後始めて其の徳を視る可きなり。故に我が道の天下に於けるや、王公の任と為し、群邑に於けるや郡長里正、一家に於けるや主人、之を要するに其の主為る者自りして行ふ可きなるのみ。

 第十六 助貸(下)
 国家の憂ひは、荒蕪と負債とに在り。夫れ其の憂ひを除かんと欲すれば、貧民を賑はすに在り。、貧民を賑はさんと欲する者、財を施すに非ざるよりは能はざるなり。然り而して猥りに之を施すときは、則ち財尽きて而も広済の功廃せらる。是れ我が助貸法の創設せらるる所以なり。夫れ助貸の徳為るや、欲有るに非ず、欲無きに非ず、損有ること無く、益有ること無きは何ぞや。十金を貸して十金を取り、百金を貸して百金を取ればなり。僅々たる一百資金も、助貸の循環すること一周度に及ぶときは、則ち其の貸額一万二千八百五十五金に至り而も荒蕪墾かれ、負債償はれ、貧民は富み、衰邑は復し、廃国は興る。嗟呼、其の資金は増さず減ぜずして、而も広済の功成る。恵みて費へず、欲して貪らざるものと謂ひつ可きなり。然りと雖も、其の法を行はんと欲する者は、貧に居らず富に居らず、以て借者の心察せざる可からざるなり。貧民の若きは、則ち借りる時の心と償ふ時の心と齟齬す。何となれば則ち家を富まし財を優にするの道は、人事を尽して以て天命を得るに在るを知らず、徒に借りる所の財を費やして其の求むる所を得ること能はず。人事を尽して以て天命を得るに在るを知らず、徒に借りる所の財を費やして其の求むる所を得ること能はず。人事を尽さずして而も人を尤め、天命に背きて以て天を怨み、遂に仇を以て恩に報ゆるに至る。是れ誠に歎ず可きなり。世人、播種の時に当たり、種子を借りる者、秋実を得るに及ぶときは、則ち損益を計らずして之を償ひ、厚く其の徳に報ゐ、益々親睦を為すや必せり。苟も助貸を行ふ者、宜しく明らかに此の理を弁じ、予め借者の心を察して以て其の生計を利する所以を図るべし。此に貧民有り。数々不慮の災ひに罹り、負債して以て之を補ひ、而して之を償はんと欲すと雖も、唯だ其の利を出すのみにして本金を還すに至らず、以て遺憾と為す。是に於てか、我が助貸の資を借り、以て旧負を償はんことを請ふ。乃ち其の負債の母子、或いは田畝山林の入、及び一歳の経費を細査して、以て天命の分度を探り、其の利息及び贈遺の礼物に係るの資、五年或いは七年、若しくは十年の出を通計し、以て助貸の額と為す。若し夫れ以て旧負を清くするに足らざるときは、則ち山林及び不急の衣服什器を散鬻すべし。猶ほ且つ足らざれば、則ち債主の旧情を慕ひ、約するに数年の後之を償ふを以てし、而して奢怠を改め、倹勤を守り、歳課畢りて後、更に助貸を請ふて以て其の旧負を清くす可きなり。夫れ人の屎尿を論ずる無く、或いは馬矢魚膏、或いは酒糟醤粕、若しくは腐草朽葉、諸々の不清浄の物を以て田畝を培養し、以て穀粟菜果清浄の物を生ぜしむ。蓋し地に於ては則ち荒蕪、人に於ては則ち負債、皆家道を腐敗せしむる所以なり。今は荒蕪を墾きて以て穀を生じ、負債を清くして以て利息を留め、其の憂ふる所を除きて其の安んずる所を与ふ。是れ亦た不清浄の物を用ひて、以て清浄の物を生ずると同一般なり。吁、荒蕪の憂ひを取りて以て田畝に易へ、負債の憂ひを取りて以て清債に易へ、貧窮の憂ひを取りて以て富優に易ふ。吁、助貸の徳為る、亦た大ならずや。

 第十七 備荒(上)
三十年にして小凶臻り、五十年にして大凶臻る。是れ天変自然の数なり。国家を保つ者、上下各々王制四分の法に循ひて、平時は必ず儲蓄を広め、以て其の変に応ず。是れ守中持盈の道なり。蓋し豊年に飽く者は必ず凶歳に餒ゆ。豊凶を均しくすれば則ち何の豊凶か之有らん。夫れ、百畝の田、十歳の収を校べ、其の中を執りて以て分度を制し、耕三余一の法を守らば、則ち大祲は論無く、不慮の災患輻輳するも亦た何ぞ憂ふるに足らんや。仮令、毎歳其の十一を蓄ふるも亦た四十年にして一年の食を得、以て飢渇を免るべきなり。然りと雖も、惷愚の民焉んぞ其の法を知りて、而して予め之を備ふるを得ん、年豊かなるときは、則ち米粟を糞土視して放飯流歠、年凶なるときは、則ち合勺を珠玉視して哀號悲歎す。天下滔々として皆是なり。故に国君、政教を施して以て予め之を防ぐに非ざるよりは、安んぞ国民をして飽餒の患莫からしむることを得んや。故に我が興復の法、一邑全く復するに及べば、一口一日粟五合を以て率と為し、戸口を通計し見在の実数を給し、以て儲蓄と為すなり。而して其の之を蓄ふるや、廩は則ち土を以てし、之を叢林の中に建て、樹枝の屋を蔭ふを善と為す。粟は則ち美稲を刈りて笐曬存芒、包みて以て之を蓄ふ。是れ紅腐陳蟲を防ぐ所以なり。且つ禁令を立てて曰く、大祲に非ざるよりは、必ず発くこと勿れ、糶糴利を計らんも、亦た必ず許すことなかれと。豊穣なること積年に及ぶときは、則ち必ず饑饉の患を忘れ、其の空しく蔵せられて腐螙せしめんよりは、寧ろ貴糶して、賎糴し、或いは陳を貸して新を執らんとす。只だ目前の利を計るは是れ人の常情なり。苟も一たび之を動かさば、則ち凶歳に至り倉廩必ず空しふして之が用を為さざるなり。故に当初美粟を撰みて以て之を蓄へ、禁令を厳にして以て大祲を待たば、即ち四五十年を経ると雖も、亦た動かすこと無くして可なり。能く是くの如くなれば、則ち或いは腐螙の損耗を免れずと雖も、大祲に至り果たして其の用を為すなり。曰く、諸れを平時に峙して以て饑饉に応ず、政教宜しく然るべし。今衰廃の国、偶々饑饉に遇ふときは何を以てか之に応ぜんやと。曰く、邦君は民を牧司する者なり。平時政教具はらずして而も凶饑に民を死に至らしむ、牧司の職、何くにか在る。其れ何を以て天に謝せん。況んや執政大夫及び郡官、君を佐け民を牧す者にして、而も斯の民をして飢えて死せしむ、牧民の任、何くにか在る。亦た何を以て民に謝せん。邦君大夫郡官、各々其の罪を知り、自ら其の身を責めて悉く余財を出し、以て救荒の資と為し、困民と其の衣食を同じふせば、則ち民も亦た吾が過ちを知りて他に求めざるなり。苟も他に求めざれば、則ち貧富相ひ助け、有無相ひ通じ、其の余は草木を食ふも亦た以て飢渇を免る可きなり。伝に曰く、患難に素し、患難に行ふと。邦君、苟も饑饉に素し、饑饉に行ひ、或いは飲酒を禁じ糜粥を用ふるに至らば、則ち救荒の政、令せずして行はるるなり。庶民之に效はば、則ち一人一口糧を余すこと、豈に易々たらざらんや。苟も一人一口糧を余さば、則ち百人を以て百人を養ひ、千人を以て千人を養ひ、万人を以て万人を養ふ。此を之れ財無くして而も民を養ふと謂ふ。亦た何ぞ飢渇の患有らんや。

 第十八備荒(下)
 衰廃の国、備荒全からずして一度饑歳に遇ひて、老贏は溝壑に転び、壮者は四方に散り、餓莩は塗に満つ。是れ固より邦君の失政に因ると雖も、誰か之を哀しまざらんや。若し其れ有道の邦君、余粟を譲りて以て与国に及ぼさんとす、則ち其の之を救ふに道有り。先づ其の封邑をして飢に迫るの邑を投票せしめ、以てその邑を挙げて、分かちて三等と為し、上を無難と為し、中を中難と為し、下を極難と為す。明らかに之に諭して曰く、汝無難の民は、此の荒歉に啻に飢渇を免れたるのみならず、穀価翔貴の為利を得るは、平素勤倹の報ずる所なり。其れ極難の民、飢渇に迫り餓莩を免れざるは、生平遊惰の応ずる所なり。勤倹以て福を得、遊惰以て禍を得、此れ理の必然なり。然らば則ち貧困飢に迫る者、自得の天譴にして以て恤れむに足らざるなり。然りと雖も、世々邑を同じうし、同水を飲み、同風に沐し、疾病相ひ扶け、死葬相ひ弔し、苦楽相ひ倮にすること一朝一夕に非ざるなり。且つ乞児の若きは固より無頼の凶人にして産を失ひ漂蕩す。豈に悪む可き者に非ずや。猶ほ且つ一孔銭を施し、一掬米を与ふるは、人の常情なり。豈に同邑の民をして、立ちて其の死を見るの理有らんや。汝、其れ之を済ふを欲せざるか。同邑同体にして尚ほ其の死を済ふの心無ければ、則ち我に於て何ぞ之を済ふの理有らんや。汝、即ち之を済ふを欲せば、則ち我が無息の粟を賑貸す可し。然りと雖も、朝に夕を謀られざるの困民は、何を以て其の債を償はん。故に無難の民、日に五銭を積み、中難の民、日に三銭を積み、極難の民、日に一銭を積み、五年を以て償還す可し。其れ五銭三銭の微、之を乞児に施す可し。来歳若し稔らば、則ち汝が邑施さざるも亦た乞児飢ゆべからず。是れ未来の豊登を以て見在の飢渇を済ふの術なりと。諭し畢りて其の邑に臨み、毎戸に其の貯穀を検し、一口一日五合を以て率と為し、其の足らざるは之を足し、或いは孝弟なる者をして富家に僕とし、壮強なる者をして荒蕪を墾きて以て口食に就かしむ。或いは老小羸弱なる者をして之を草廠に養ひ、明年麦秋に及びて米銭を与へ、以て家に帰らしむ。則ち是くの如くして賑貸救荒の術を施さば、則ち一邦の天民全活を得。果たして能く五年を以て償還するを得るときは、則ち廩は一粟を損せず、国一民を失はざるなり。嗚呼、是れ已むを得ざるの術に出づ、又た何ぞ平時の予備あるに若かんや。

 第十九 教化(上)
 教養は先王の民を治むる所以なり。然して或いは先づ養ひて而る後之を教へ、或いは先づ教へ而る後之を養ふ。何となれば、則ち貧困の民は衣食常に乏しく、平生一たびは飽暖を得んと欲するのみ。一旦秋実を得るときは、則ちを其の飽暖を逞しくして来歳を顧みるに暇あらざるなり。此くの如き者は、先づ之を養ひて其の心を厭足せしめざれば、則ち欲念胸中に充塞して教への以て入る可き莫し。遊惰の民は其の念多く奸悪を醸して常に飲博を事とす。此くの如き者は、先づ之を戒めて其の悪念を断たざれば、則ち悪業増長して、亦た養ひの以て施す可き莫し。教養苟も其の序を失ふときは、則ち猶ほ寒に向かひて播種し、耘ずして糞培するがごとく、終に其の成功を得る能はざるなり。嗟、其れ教養の民に於けるや、猶ほ人の二足に於けるが如く、互ひに相ひ須ちて而る後行く可し。而して其の之を教ふるや、躬を以て之を導くに非ざれば、則ち又行はれず。今吏有りて鶏晨に邑里を巡行し、里正嚮導を為す。下弦月無く、陰雲雨を帯び、闇黒咫勺を弁ぜず。唯だ里正に従ひて行く。里正は路に熟して謬たず。曰く左、曰く右、曰く溝、曰く橋と。従行して以て巡行を全くす。若し其れ里正親ら路を引かざれば、則ち終夜して邑図を展べて順路を説くも、亦た数歩も豈に行くことを得んや。如し巡行すること数回なれば、則ち熟すること猶ほ里正の如し。衰邑の民、生まれて貧困偸惰にして夙興夜寐の何事為るかを知らず。況んや孝弟忠信の義に於てをや。躬を以て之を導くに非ざるよりは、耳提面会誨して日を累ること弥々久しきも、亦た何を以てか此れを異ならしめん。故に衰邑の民を導くは、鶏晨回邑を以て先務と為すなり。其の閭閻を行るや、早起きを問わず、晩起を咎めず、寒暑雨雪、一朝も怠らず。然りと雖も晩起の民、何を以て我が早行を見るを得ん。縦ひ偶々之を見る者有るも、必ず曰ん、吏又た過ぐ。何ぞ数々吾が宅地を過ぐるやと。亦た回邑の何故為るかを知らざるなり。之を箸を以て盤水を回らすに譬ふれば、其の始めて之を回らすや、箸と水と異にして、水為めに回らざるなり。其の久しくして止まらざるに及ぶや、水と箸と回ること極まり無く、終に箸を投ずれば、則ち水の回らす所と為るに至るは、是れ自然の勢ひなり。故に回邑之を久しくして怠らざるときは、則ち薄雪の朝、我が履迹を見る者有りて曰く、誰か吾が宅地を過ぐる者ぞと。或いは偶々早起きして我が早行を見る者有り。吏曰く、回邑を為すなりと。一人倡ふれば則ち衆人和す。民挙りて相ひ謂ひて曰く、君、恩沢を布き、吏をして農を勧めしめたまふものは何ぞや。吾をして吾が生を安ぜしめんと欲したまふなり。吏寒暑と無く、日夜と無く、風雨霜雪を冒して回邑を為すは何ぞや。吾をして吾が家を保たしめんと欲するなり。然るに吾終日偸惰し終夜安眠して吏の過ぐること尚ほ知らざりき。是れ至仁の恩を忘れ、至愛の教へに背くものなり。何を以てか自ら天地の間に立たんやと。是れ平旦の清気、良心を発見して互ひに羞耻を生じ、挙邑相ひ率ゐて夙興夜寐して励精勤業し、終ひに板梆の暁を報じ、怠惰相ひ戒むる喧呼の声、吏の夢を破るに至るも、亦た自然の勢なり。誠に是くの如くなれば、行と教と並び行はる。而る後孝弟忠信導く可し。倹譲の教へ施すべし。

 第二十 教化(中)
 行と教は一なり。譬へば稲草の如く然り。種子、芽を生じて藁となり、藁、穂を生じて粟と為る。粟は粟を生ずること能はず、藁は藁を生ずること能はざるなり。行ひて而る後教へ、学びて而る後行ふ。夫れ行ひて而る後教へ、学びて而る後行ふ。故に其の功必ず修斉より以て治平に至る。苟も学びて行はず、行はずして教ふるは、則ち口耳の学問なり。一身すら尚ほ修む可からず。況んや民を治るに於てをや。孔子曰く、之に先んじ、之に労すと。又曰く、倦むこと無しと。我、夙に興きて而る後之を民に推し、我、倹を行ひて而る後之を民に及ぼし、。我、推譲して而る後之を諭し、我、孝悌忠信にして而る後之を導く。百行皆な然り。然り而して民尚ほ作らざる者有らば、是れ我が心の誠実ならざるのみ。昔在は延喜の帝、寒夜に御被を推したまひて民と寒苦を同じうしたまひき。是の時に当たりてや、四海の貧民被無くして而も寒気を覚えざりきと云ふ。豈に厳寒に寒気無けんや。天子は宜しく錦衾綾被を襲ねたまふべきなるに、而も貧民と寒さを同じうしたまふ。万乗の尊きにましまして尚ほ是くの如し。而るを況んや細民に於てをや。被の無き、固より其の所なり。此の心一たび定まらんか、寒気を覚えざりしなり。至誠にましますこと神のごとし。誰か感動歔欷せざる者有らんや。吁。衰邑に臨みて其の民を治る者、必ず当に自ら誓ふべし。邑中若し蚊幬無き者有るときは、則ち我も蚊幬を張らず、夜三更に至りても若し未だ休まざる者有るときは、則ち我も寝に就かず、若し法を冒して罪に陥る者あるときは、則ち謂ふ。君、我をして孺子を守らしめたまふに孺子井に陥る、孺子の罪に非ずして守る者の罪なりと。以て誠、以て実、日月と心力を尽すことの久しくして而も倦まざるときは、則ち民の之に応ずること景響の如く、感発興起せざる者莫きなり。若し夫れ心焉に在らず、口耳を以てのみ之を喩し、、詐術を以て之を率へ、刑罰を以て之を威さば、則ち夜を畢るまで心力を尽すとも亦た終ひに風化の功を見る可からざるなり。曽て俗吏有りき。衰邑に臨みて早起きを導き、私に禁令を立てて民を起こすに鶏晨を以てす。従はざる者有るときは、則ち索綯を課して以て之を贖はしめたり。一旦は効有るに似たりと雖も、而も吏の過ぐるを窺ひて、火を焚き以て早起きの如く表し、苟も索綯の責を免るるのみ。是れ所謂之を導くに政を以てし、之を斉ふるに刑を以てし、民は免れて恥づる無き者なり。我が興復の法は、怠惰を振起するに鶏晨回邑を以て急と為し、之に応ずるに誠実を以てし、之を導くに躬行を以てす。是れ所謂之を道くに徳を以てする者なり。民、観感興起して、中心より自ら怠惰を耻ぢ、夙興夜寐して励精勤業し、終ひに廃家を復し、衰邑を興すに至るなり。夫れ是れの如くんば、猶ほ粟と藁と互ひに生ずるが如く、行と教と並び行はれ、而る後教化の功以て見る可きなり。

 第二十一 教化(下)
孔子曰く、之を道くに徳を以てし、之を斉ふるに礼を以てすれば、耻有り且つ格ると。夫れ、徳を以て民を道く、固より教化の本にして前論既に之を言へり。何をか礼を以て斉ふと謂ふ。曰く、礼の実は譲に在り。譲は分に生ずるなり。何をか分と謂ふ。今、百室の邑有りて、田畝の秩を千石と為す。即ち邑の天分なり。何をか天分と謂ふ。天地剖判して大地不易の分定まる。大地判れて万国と為り、郡判れて千石の邑と為り、千石判れて十石の家と為る。此れに由りて之を観れば、分の本源は天に出でて而して易ふ可からざるや審かなり。然らば則ち此の邑に生まるる者は、天の時に因り地の利に就き、十石の田を樹芸し、耕耘培養して其の力を尽し秋穫を収めて賦税を出し、種子を蓄へて其の残数を四分し、其の一を以て儲蓄と為し、其の三を以て十二月三百六十日之を節制し、仰ぎては父母を養ひ、俯しては妻子を育つ。此れ是の邑の生民の道なり。何をか道と謂ふ。天開けて而る後両間に生々するものは、人類を論ずる亡く、禽獣虫魚及び草木まで皆自づから止まる所の命有りて存す。松の山嶺に生じ、柳の水辺に生ずるは命なり。禽獣の山野に生じ、魚鼈の河海に生ずるも亦た命なり。人類の漢土に生まれ、皇国に生まる、皆命に非ざるもの莫し。況んや千石の邑に生まれるは固より自然の天命なり。然らば則ち千石の邑に生まれ、十石の分を守る所以のもの、本原又た天に出でて而して易ふ可からざるや明らかなり。然り而して千石の邑、百戸の民、之を均しくするときは、則ち一戸十石にして、是れ一家の命分、一邑の中庸なり。然りと雖も祖先の積徳せると否とに因りて互ひに増減を生じ大小貧富の差を為す。何をか大と謂ふ。一戸の秩、天分以上なるを大と為す。何をか少と謂ふ。一戸の秩、天分以下なるを小と為す。大、之を富と謂ひ、小、之を貧と謂ふ。富めるものは天に位す。則ち天命は貧小なるものを覆育するに在り。貧しきものは地に位す。則ち天命は覆育を受け、勤動して以て其の徳に報ゆるに在り。夫れ天分十石の邑に生まれ、五石を増して以て富大の福を得る者有るは何ぞや。五石を減じて以て貧小に苦しむ者有るが故なり。我に増せば必ず彼に減ず。彼の小は則ち我の大、我の富は則ち彼の貧なり。然らば則ち大小貧富は固より一物にして相ひ離れざるや、猶ほ天地の一物にして男女の一体なるが如きなり。蓋し天余り有りて地足らず、余り有るもの必ず足らざるを補ふ。故に天覆ひ地載せ、天気下降し地気上謄し、絪縕相ひ和して万物生ず。男の女に於けるも亦た然り。男女相ひ和して子孫生まる。富の貧に於けるも亦た然り、貧富相ひ和して万物生ず。男の女に於けるも亦た然り。男女相ひ和して子孫生まる。富の貧に於けるも亦た然り、貧富相ひ和して貨財生ず。若し夫れ天地睽けば則ち万物生ぜず。万物生ぜざれば則ち人類も亦た滅ぶ。貧富睽けば則ち子孫生まれず、子孫生まれざれば則ち人類も亦た滅ぶ。貧富睽けば貨財生ぜず。貨財生ぜざれば則ち貧富倶に滅ぶ。是の故に富者は天分に止まり、余財を譲りて以て之を貧者に推し、貧者は夙夜勤動し余力を推して以て其の徳に報ゆ。貧富大小各々其の分に止まり、其の業を楽しみて其の生を安んず。夫れ是の如くなれば、則ち貧富相ひ和し、一邑は一家の如く然り。富者は長く富有を失はず、貧者は遂に離散亡滅するを免れ、戸足り人給し、孝弟忠信行はれ、政は刑を措くに至り、教化の能事終はるは何ぞや。天分を明らかにしおて推譲の道行はるるが故なり。

 第二十二 全功(上)
国家衰廃の時に当たり、其の衰へたるを挙げ、其の廃れたるを興し、国家を富嶽の安きに措かんと欲するは、豈に大業ならざらんや。古より以来、大丈夫志を立て道を行ひ、廃国を興し、善政を布き、君をして堯舜と為し、民をして無窮の沢を蒙らしめんと欲する有りと雖も、而も往々初め有りて終はり莫し。豈に其の慮ひ未だ周ねからず、其の道未だ尽さざるや、蓋し国用を制する、王制の法に循へば、則ち国家富盛にして衰廃の患無きなり。此の陵夷して、費出経無く、奢侈行はれて、国用節無し。苟も費出経無く、国用節無ければ、則ち一歳の入を尽すも亦た猶ほ足らず。賦を加へて以て之を足し、諸れを他に借りて以て之を補ふ。是れ衰国の常なり。是の時に当たり、有志の大夫、其の衰へたるを挙げ其の廃れたるを興さんと欲する。必ず先づ弊政を改め、奢侈を禁じ、入を量りて以て出を制し、倹を行ひて以て民に厚うす。夫れ国家衰弱、租税随って減ず。苟も入を量りて以て出を制せば、則ち上は公用より下士禄に至るまで、其の度に由りて裁減せざるを得ざるなり。苟も士禄を減ずれば則ち必ず曰く、我が禄や、先君吾が租百戦の勲労に報ひたまふなり。君何ぞ之を私したまはんや。君に非ざるなり、大夫なりと。苟も民に厚うすれば則ち必ず曰く、四境虞れ無くして社稷を安んずるもの、虎臣矯々、多士済々の故に非ずや。何ぞ民に厚うして士に薄うするや。此れ豈に君の慮ならんや、必ず大夫の為すところなり。大夫微んば則ち此の窮苦無しと。盛衰の天分を知らず、例を引き株を守り、徒らに禄の減少を以て憂ひと為す。衆口金を鑠し積毀骨を鎖す。咎無くして咎を帰し、罪無くして罪に陥る。是れ大業の其の終はりを全ふする能はざる所以なり。匹夫餉器を持すれば則ち蠅必ず集まる。職録高崇なれば則ち怨望必ず帰す。餇器を棄つれば則ち蠅集の患無く、職録を去れば則ち怨望頓みに解く。大夫苟も其の衰廃を興さんと欲せば、則ち先づ職禄を辞し、閑家具は論ずる無く家宝重器と雖も之を鬻ぎ、以て荒蕪を墾き、僅かに其の産粟を以て自奉と為し、小臣貧士と衣食を同じうし、日夜孜々として此に従事せば、則ち必ず曰はん、憂国の大夫、尚ほ重禄を辞し墾田を以て自奉と為し、衣食我に如かざるなり。我豈に徒然として録を食むべけんや。況んや禄の減少、固より其の所なりと。徒食の耻心勃然として興り、減禄の怨心釈然として解く。而して小大各々其の分を知り、其の貧に安んず。語に曰く、国を有ち家を有つ者、寡きを患へずして均しからざるを患ふ。貧しきを患へずして安からざるを憂ふ。蓋し均しければ貧しきは無く、和らげば寡きは無く、安ければ傾く無しと。八口の貧家、偶々一衣を得、一人之を取れば則ち七衣足らず、乃ち之を乃租に献ず。乃租曰く、老髐何ぞ此の新衣を用ひるを為さんと。之を長子に与ふ。長子之を弟に譲る、弟又た之を甥に推す。終ひに七人の徧くして皆辞す。之を取れば則ち七衣足らず。之を譲れば則ち一衣余り有り。大夫一たび禄位を辞して、一国の士自づから其の分を知り其の貧に安んず。是れ大業其の終はりを慮りて功を全ふするの道なり。然れども道を信ずること篤うして国の為に其の身を忘るる者に非ずんば能はざるなり。

 第二十三 全功(中)
 衰へたるを挙げ廃れたるを興すは、聖賢の道にして、人君の職なり。之が為に身を委ね力を尽して、以て其の功を成すは、大夫の任なり。創業の大夫禄位を辞して其の成功を全ふするは、前論備はれり。然り而して興国の大業、豈に大夫一人の得て為す所ならんや。成功は必ず胥吏田(しゅん)に頼る。苟も其の人を得れば則ち成り、其の人に非ざれば則ち敗る。蓋し叔世の人心、往々功名利禄の外に出でざるなり。其の心功名利禄に在るや、上に事へば則ち阿諛苟合、下に臨めば則ち残忍酷薄、君是と曰へば、対へて是と曰ひ、大夫非と曰はば、答へて非と曰ふ。黙々以て阿り、諾々以て諛ふ。甚だしきに至りては、則ち禄位を貪り賄賂を釣り、民の膏血を浚つて己の一身を利し、国の興亡、民の安危に於けるや漠然たり。詩に云く、赤くして狐に非ざるは莫く、黒くして烏に非ざるは莫しと。嗚呼、廃国の俗、滔々として皆是れなり。若し此の輩をして大業に任じ仁政に与からしめば、則ち徒らに攫竊を資くるのみ。縦ひ偶々忠直の臣有り、一旦憤激し、身を報国に忘るるも、志を得て道行はるるに及ぶや、身家得失の念生じ、高位重禄を覬ひ、諂諛面従、唯々諾々、終ひに附益聚斂、民を残ひ国を滅ぼすに至る。亦た庸人と以て異なる無し。庸人固より彼が如く、忠直尚ほ是くの如し。倶に成功を全ふするを得ざるは何ぞや。国を興すは、固より聖賢君子の道にして、庸人の与かる可きに非ざればなり。民を安んずるは、固より王公君大夫の業にして、小臣僕隷の任ず可きに非ざればなり。其の与かる可からざるに与かり、其の任ず可からざるに任ず、是れ大業の功を全ふする能はざる所以なり。然らば則ち大業終ひに成る可からざるか。夫れ国は功臣の忠義に興り、世臣の素餐に廃る。今将さに其の廃れたるを挙げんと欲して、尸位素餐と行を同じふす。是れ猶ほ覆屋上に坐して、其の家を興さんと欲するが如きなり。尸位素餐は屋上に在る者なり。屋を下らずんば則ち其の覆を興す可からず。素餐を去らずんば則ち其の廃を挙ぐる可からず。故に大業に任ずる者、必ず先づ禄位を辞し、澹泊に甘んじ、節操を励まし、賞有りと雖も之を辞し、其れ夙夜黽勉、千酸万辛を尽す所以のもの、惟だ惟だ世々沐する所の君恩に報ゆるのみ。豈に復た後賞を求むるの意有らんや。然りと雖も衣食無くんば、則ち何を以て其の任に堪へん。是に於て大夫辞する所の禄粟を以て荒蕪を墾き、其の産粟を与へて以て世禄に易へ、任職の資と為す。蓋し、闔国の荒蕪、数十年経るに非ざるよりは、墾尽する能はざるなり。乃ち数十年墾さざれば、則ち蕪田原野のみ。然らば則ち其の墾田産する所の粟も、亦た猶ほ原野の生草の如きなり。

 第二十四 全功(下)
 国を興し民を安んずるは大業なり。豈に名利の徒の企て及ぶ所ならんや。苟も斯に従事する者、禄位名利の念を絶ち、僅かに饑寒を免るるを以て自俸の度と為す者に非ざるよりは、則ち其の功を全ふする能はざるなり。苟も禄位名利の念を絶たざるや、其の始め忠実を表して、遂に一身の栄利を求め、以て其の業を敗る者、滔々皆是れなり。故に大業に従事し、其の成功を全ふせんと欲する者、宜しく禄位を辞して身に奉ずるに綿衣飯汁を以て度と為すべきなり。夫れ綿衣飯汁は、吾が身を助くものなり。其の余は則ち戈を倒にして我を責むるのみ。蓋し綿の草たるや、人力を仮らざれば、則ち生ずる能はず。人も亦た綿に非ざれば則ち寒を禦ぐ能はず。綿は人に因りて生じ、人綿に因りて活く。実に両全と謂ふ可し。飯汁の身命を養ふや、汁は飯を導く。亦た以て偏廃す可からず。是れ我が自俸の度と為す所以なり。人苟も食を得ざれば則ち飢ゆ。衣を得ざれば則ち寒ゆ。飢寒迫れば則ち身命を害す。嗟呼、衣食は身命の係る所、一日も離る可からず。然りと雖も、中を得れば則ち身を保ち功を全ふし、過ぐれば則ち身を害い業を敗る。是れ我が飢寒を免るるを度と為す所以なり。人苟も飢寒を免るれば則ち足る。何ぞ錦衣玉食吾が身を害するものを用ひるを為さんや。然り而して名利の徒、その志を得るに及べば、則ち禄位を以て我を利し、賄賂を以て飽暖を逞しうす。道の行はるるに当たるや、害無き者の若しと雖も風波一度起これば則ち興国の成績、漠然聞こゆる無く、而して其の賄賂飽暖、人の弾ずる所と為る。譬へば蝸涎の壁に跡するが如し。是に於てか向の我が利する所のもの、俄然戈を倒にし、直ちに罰を加ふるの具と為る。我を責むるの非ずして何ぞ。是の故に大業を成さんと欲する者、綿衣飯汁を以て身を奉じ、賄賂を禁じ請托を絶ち、禄位を辞し、以て高く度外に出で、独り世々浴する所の君恩に奉ずるを以て念とし、俛焉以て力を尽さば、則ち縦令微力なるも、其の験必ず著れ、遂に衰邑を興し、廃国を挙げ、其の成功を全ふするに至る。若し夫れ半途にして風波起こり讒人の黜くる所と為るも、亦た武こく誣罔の冤罪を免れ、且つ君をして之をの黜くるも亦た功臣を廃するの名を免れしむ。此れを之れ全功の道と謂ふなり。

 第二十五 報徳
我が道は徳に報ゆるに在り。何をか徳に報ゆと謂ふ。三才の徳に報ゆるなり。何をか三才の徳に報ゆと謂ふ。日月運行し、四時循環し、万物を生滅して息む無きもの、天の徳なり。草木百穀生じ、禽獣魚鼈殖し、人をして生を養はしむるもの、地の徳なり。神聖人道を設け、王侯天下を治め、大夫士邦家を衛い、農稼穡を勤め、工宮室を造り、商有無を通じ、以て人生を安んずるもの、人の徳なり。嗚呼、三才の徳、亦た大ならずや。夫れ人の世に在るや、三才の徳に頼らざる者莫きなり。故に我が道は其の徳に報ゆるを以て本と為すなり。上は王侯より下庶人に至るまで、各々天分に止まり、節度を立て、倹勤を守り、而して分外の財を譲り、報徳の資と為し、以て荒蕪を墾き、以て負債を償ひ、以て貧窮を恤み、以て衰邑を挙げ、以て廃国を興す。其の之を施すや、一家よりして二家に及ぼし、一邑よりして二邑に及ぼし、漸次郡国天下に及ぼし、遂に海外万国に押し及ぼす。是れ天地人三才の大徳に報ゆる所以なり。曰く、内地を辟いて以て外蕃に及ぼす。公道宜しく然るべきなり。然れども外蕃の覬覦すること既に久しく、近世連りに通市を求む。其の意量る可からず。苟も之を禁絶せざれば、則ち必ず後患を生ぜん。此れを之憂へずして、将さに我が財を彼に棄てんとす。亦た戻らざるやと。曰く我が神州の邦たるや、気候融和にして、生人聡明、土壌衍沃にして、五穀豊登、人民繁庶にして百貨饒足、宇内比するもの罕なり。故に以て外蕃の覬覦を免れず。譬へば東隣の柿樹熟し、西隣の豎子之を窺ふが如し。然りと雖も古より武威桓桓外に震ふ。故に輙ち来たり侵さず。猶ほ高垣峻柿墻臨むべくして踰ゆ可からざるが如きなり。然らば則ち其の覬覦すること以て憂ふるに足らざるか。曰く、雲雀の虚空に上がるは武を習ふなり。猪に牙有り。鹿に角有るは刀槍なり。鬼拳に介有り。扁螺に貝有るは城郭なり。禽獣尚ほ外患を防ぐの備へを為す。而るを況んや人て於てをや。重門撃折以て暴客を待ち、孤矢の利以て天下を威す。固より其の所なり。然りと雖も鬼拳介を以て爐上に烹られ、扁螺貝と与に鼎中に煮らる。彼其の恃む所のもの、固より恃むに足らざれば、則ち我の高城深池、堅革利兵も、亦た何ぞ以て恃むに足らんや。語に曰く、食を足し、兵を足し、民之を信ずと。食無ければ則ち兵有りと雖も用ゆべからざるなり、今材木有り。役夫に之を挙げしむ。材木重大挙ぐる能はざれば則ち之に与ふるに餉を以てす。役夫餉を食へば則ち材木重大と雖も輙ち挙ぐべきなり。一木を挙ぐる尚ほ食を先にす。況んや外宼を禦ぐに於てをや。仮令ひ兵革堅利、武技精錬なるも、食無ければ則ち未だ敵を観るに及ばずして斃れんのみ。夫れ国用を制するや、入を量り以て出を為し、三年若しくは六年若しくは九年の蓄を生じ、以て凶旱水溢及び軍旅の不虞に備ふるもの、王制の法なり。国九年の蓄無きを不足と曰ひ、六年の蓄無きを急と曰ひ、三年の蓄無きを国其の国に非ずと曰ふ。方今列国誰か三年の蓄有る者ぞ、升平日久しく、侈靡を窮極し、一歳の入を尽して国用足らず、或いは負債を以て之を補ひ、或いは横斂を以て之を補ふ。負債は利息の為に租額を減じ、横斂は流亡の為に租額を減ず。故に不足弥々生じ、或いは明年の租を収め、甚だしきは則ち三年の後を取り、以て国用を為すに至る。国其の国に非ずと為すか。侯其の侯国に非ずと為すか。饑饉一たび至って、餓莩路に盈つ。若しくは二年若しくは三年凶旱水溢有らば則ち国墟莽と為るを恐るるなり。噫、何を以て軍旅を出さんや。夫れ負債荒蕪は租額を減じ国家を滅ぼす所以の賊なり。是の賊日に炊く所の鼎裏に埋伏して、之を攘斥するを知らず。又た何を以て外寇を禦がん。若し夫れ官命止むを得ず、益々横斂を以て軍を出せんや。夫れ負債荒蕪は租額を減じ国家を滅ぼす所以の賊なり。是の賊日に炊く所の鼎裏に埋伏して、之を攘斥するを知らず。又た何を以て外寇を禦がん。若し夫れ官命止むを得ず、益々横斂を以て軍を出さば、則ち民心の背くを恐るるなり。曽て聞く蕃舶我が漂民を護送し、浦港に来る。我が吏国法を示し肯て受けず。蕃舶将さに去らんとするや、流民を小舸に乗せ、其の岸に達するを見て乃ち去れりと。其の意蓋し法を奉じ以て崎港に赴くべしと雖も、然れども漂民絶海万里を渉り、偶々郷国を望みて陸に上るを得ず、其の悲泣の情見るに忍びざるなり。吏法を守るは固よりなり。已む無くんば則ち当さに路を引きいて崎港に至るべきなり。夫れ民情は仁に帰す。万里を渉りて送り来るは仁に似たり。仮令ひ法を奉ずも之を拒むは不仁に似たり。匹夫匹婦有り。琴瑟和合、愛敬交も至る。夫や役に于いて数年帰らず。而して婦日に羞膳を供し以て其の帰るを待つ。貞婦凛然たらば、則ち外人此の婦を窺ふ者無く、籬外必ず其の履跡を見る無きなり。若し夫れ夫、婦を愛せず
婦も亦た夫の他に在るを怨望せば、則ち外人必ず之を窺ひ、連りに履跡を籬外に遺すものなり。夫は君の如く婦は民に似たり。君民を愛すること赤子の如く、民君を慕ふこと父母の如くんば、則ち外蕃必ず窺伺せず、辺海其の風帆を見るべからざるなり。今蕃舶連りに来る。安んぞ我が虚を偵知するならざるを知らん。夫れ人身内虚すれば則ち外邪必ず冒す。内虚を憂へずして之に投ずるに撃齊を以てせば則ち内弥々虚す。内弥々虚すれば則ち外邪至らざる莫し。庸医内虚を察せず、漫りに外邪を撃たんと欲す。豈に危殆ならずや。然らば則ち何を以て其の虚を補はん。他無し。民を仁するに在るのみ。国君仁を好めば、天下に敵無し。吾曽て故主の命を奉じ、野の廃邑を脩む。故主曰く、聞く、野の州為るや、土瘠薄にして風俗乱れ、民農を去りて以て飲博を業とし、中刀を佩び以て格闘を事とし、彼を撃ち此れを斃して、人之を怪しまざるなりと。汝、何を以て之を収めんやと。対へて曰く、衰廃の国、武を用ふべからず、威行ふべからず。臣農間に長じ、未だ嘗て武技を知らず、唯だ紫茄をして実を結び、莱菔をして肥大ならしむるを知るのみ。糞培すれば則ち紫茄実多く、莱菔肥大なり。土地を墾し、米粟を生じ、以て之を鶏犬に食せば、則ち吠走我が意に応ず。草木禽獣尚ほ是くの如し。此の理を以て人倫に及ぼす。何の治め難きことや之有らん。仁沢に浴し、饑寒を免れ、妻子を蓄へ、安然改歳を為す。故に白刃を以て之に報ゆと云ふ、是れ常情の絶えて無き所、君患ふる無かれと。既にして仁術を施すこと十有余年、遊惰変じて精励と為り、汙俗化して篤行と為り、荒蕪墾して田畝と為り、戸足り人給し、一人を罸せず、一人を刑せず、囹圄腐朽して又た脩めず。歳入の分度を立て、以て度外の財を生じ、弥々恵んで弥々尽きず。四隣の侯伯法を請ふ者、連々絶へず。僅々たる三邑度外の財を挙げて以て之を譲施し、其の衰を挙げ其の廃を興すもの尠なからざるなり。三邑は神州の如く、隣国は外蕃に似たり。所謂る仁者に敵無き者の如し。蓋し仁不仁の応を見るは猫に如くは無し。之を撫する順なれば則ち喉を鳴らし睡を為す。之を撫する逆なれば則ち忿然爪を露す。三邑を順撫すれば三邑治まり、隣国を順撫すれば則ち隣国治まる。順撫して敵する者、未だ之有らざるなり。仮令ひ食足り兵足るも、元元をして肝脳地に塗れしむるは、君子の好まざる所なり。曰く、民を仁する所以の道如何。曰く、一歳の入を計り、四分の三を以て国用を制するは王制の法なり。此の法立ちて則ち国衰廃の患無し。此の法廃して分度を失ひ、侈靡行はれて国衰廃に陥る。故に衰を挙げ廃を興すは、分を立て度を守るに在るなり。夫れ道は、上躬から行ふに非ざるよりは則ち下従はず。故に幕府宜しく十歳の入を校量し、以て分度を立て、分度によりて以て国用を制し、分内の十の一を譲り、以て侯伯の衰を興すべきなり。衰廃は奥羽より甚だしきは無し。先ず奥羽の侯伯をして衰廃甚だしき者を投票せしむ。而して其の邦邑を挙げ、十歳の入を平均し、其の中を執りて以て衰時の天分と為し、其の分内に於て負債利息の為に出す所の数を除き、以て国用を制し、朝覲を免じ、唯だ衰時の天分を守り、食を足し兵を足すを以て朝覲に易るの職と為す。乃ち幕府譲る所の財を発し、興国安民の路を施し、其の負債を償ひ、其の荒蕪を墾し、其の衰邑を興し、其の困民を安んず。全国旧に復するに及び、度外の粟の粟、当初発する所の数を償ふに及び、然る後古今盛衰平均中庸の分度を堅立し、以て侈靡の本を塞ぎ、四分の制度を確立し、以て持盈の道を立て、乃ち其の国を与ふべきなり。侯伯の藩士を率ゐるも亦た然り。衰時の分度に随ひ、以て禄奉を制し、仕官を免じ、農兵に帰し、筋骨を労し、武技を練り、兵器を修め、家道を復するを以て、以て官職に易ふべきなり。則ち是くの如く一国よりして二国に及ぼし、循環止まざれば、則ち数十年の後、七道悉く古の治強に復し、倉に九年の蓄へ有り、百姓洽く仁沢に浴し、養生喪死憾み無く、君を戴くこと父母の如く、一国和睦一家の如く然り。猶ほ人身内充実して外邪冒すを得ざるが如く、外患当さに銷すべきなり。仮令ひ蕃舶偶々之を窺ふも」、君民和睦し、国家平治するを見れば、当さに艪を回らして去るべきなり。曰く、外蕃通市を求むる甚だ逼る。許さざれば則ち将さに兵を用ひんとす。将た之を許さんか。一度租宗の法度を変じ、互市の端を開かば、則ち諸蕃綿々として来たり乞ふべし。我が疆り有るの財を以て、彼の限り無きの求めに応ず、何を以て之を能くせんやと。曰く、此れ世人の疑ふ所、唯だ自然の乱を怖れて、敝政を革めず、苟且つ因循、長計無くんば則ち不可なり。澆季の時勢に応じ、長計を慮り永安を期し以て之を許さば、則ち何の不可か之有らん。今此に三邑有り、上邑は山下に僻在し、田畝少なく、江海無し。故に炭薪余り有りて、米粟足らず、魚塩乏し。中邑は平田多く、山海無し。故に米粟余り有りて、炭薪魚塩乏し。下邑は海際に在り。田畝少なく、山林無し。故に魚塩余り有りて、米粟足らず、炭薪乏し。是れ天地自然の命分なり。故に有無を易へ、有余不足を通ずれば、則ち三邑倶に安し。然らざれば則ち僅々たる小邑、尚ほ安息するを得ず。而るを況んや国天下に於てをや。然らば則ち交易は固より当然の道なり。外蕃海外に在りと雖も、而も之を通視すれば、則ち何ぞ隣邑と異ならん。蓋し神州は天地の中和に位し、膏土沃壌、五穀豊登。外蕃或いは絶域に僻在し、多くは是れ窮髪不毛。故に我が嘉穀を慕ふ。猶ほ苦寒の流氓朝陽を拝し煖を取る如くなり。饒使進止倨傲、乞言不遜なるも、亦た憐れむべし。朝陽の照す所、流氓を避けずんば、則ち天日の嗣、皇化宜しく四夷を蓋ふべきなり。天理を極むれば、則ち有無を易へ、有余不足を通ずべきの理有り。天徳に法れば、則ち四夷を撫すべきの義有り。理義を以て之を許さば、又た何の不可か之有らん。彼万里の鯨波を渉り、利を我に求め、志を得ざれば則ち将さに殊死して戦はんとす。亦た陋ならずや。

我が道若し行はるるを得ば、則ち神州土外の廃地を墾し、無尽の粟を産し年に之を巨艦に積み、以て諸を窮髪の地に施さば、則ち痛快言ふべからざるなり。何をか土外の廃地を墾し、無尽の粟を産すと謂ふ。幕府は公邑八百万石、租入十年の通を以て、国用の額と為し、其の余は荒蕪は論ずる無く、原埜廃河湖沼沙洲に至るまで、地の利に就き、以て之を墾辟し、其の産粟を集め、以て度外の財と為す。是れ国初以来の廃蕪にして、変じて以て産する所、尽く公邑の度外に帰す。然らば則ち永く撫蕃の資と為すも亦た何か有らん。但し其の之を施すや道有り。天地開けて万国と為る。小大同じからざる有りと雖も、而も各々不易の命分有りて存す。其の命に率ひ、其の分を守り、分内を倹して以て海内を撫し分外を譲りて海外に及ぼす所以の理、宜しく曲折反復告諭すべし。然らざれば則ち彼の求め窮まり無くして、諸蕃の非望塞ぐ可からず。故に始施の時に方り、明確に厳愉し、其の膽を奪って後、焉れを与ふべし。数蕃宜しく之を頒つべく、頒つべきの数無きに至れば、則ち宜しく歳を逐ひて更互に之を与ふべきなり。此の如くんば則ち外蕃●(豈+頁)覦の念銷じ、報恩の心興り、天朝に賓服する、猶ほ東隣柿を施して西隣徳に報ひ、二家輯穆以て永安を得るが如きなり。抑も幕府分内を譲つて以て沢を海内に施し、分外を譲って以て海外に恩を推す。実に天下の長計にして、仁政焉れより大なるは莫し。嗚呼、侯伯窮を免れ、守備脩まり、兵気振るひ、倉廩満ち、仁沢海内に洽く、施して海外に及ばば、則ち赫々たる神州、万国と峙し、終古富嶽の安きを得べし。是れ報徳の及ぶ所、我が道の終はりなり。








































































































































































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