GAIA

日光御神領村々荒地起返方仕法

日光御神領　村々荒地起返方仕法付見込之趣申上候書付
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　御普請役格　二宮金次郎

荒地起返方仕法付見込之趣申上候書付
今般格別之以　御仁恵、日光
御神領村々荒地起返方仕法付見込之趣、委細可奉申上旨被　仰付。難有と申も恐多、難有　御趣意、往々手違無御座様仕度、前々取扱来候手続を以雛形組立奉伺候、其発端、私五歳之時、寛政三亥年大洪水之砌、田畑不残致流失、暮方に差支、家内養育之ため、父母之丹誠徹心魂、歎息仕居候処、猶又享和二戌年大洪水に付、帰発田畑不残流失、無是非荒地起返、米麦取増、口腹を養ひ、家名致相続度一途に力を尽居候処、文政元寅年、大久保故加賀守殿在城之砌、兼々本業精出し心懸宜敷趣相聞、近頃惰弱なる風俗中、殊に一段奇特之儀に付誉置と、直に被申渡、猶又相励罷在候処、同四巳年御同人分家知行所、人少致困窮、退転亡所同様罷成、無余儀趣を以、荒地起返し、入百姓人別増、窮民撫育、借財返済、暮方取直、村柄旧復之仕法見分被申付、彼地へ罷越、去る天保十四卯年、下総国岡田郡大生郷村同様及見聞候次第、有体申立候処、取行方被相尋候に付、素より薄地麁田之儀、何程入用相掛候共、荒地起返り可致熟作哉、又家小屋致普請、入百姓人別増取立遣候共、急度可致相続哉、何分見留無御座候間、先過去候年数凡十ヶ年も、米永小物成共微細に取調致平均、天命自然之分度を探り為定則、其余多少不限、荒地起返り、米麦雑穀産出次第、其潤沢を以窮民撫育、或は孝養奇特人、或は耕作出精人取立遣候はゞ、終自然と致古復可申候、仮令幾度手違候共、出方にも相拘申間敷旨申立候処、深く被致感服、彼地へ引越、見込之趣存分可取計旨被相任候に付、乍聊身代限り売捌致持参、凡十有余年取行申候処、天なる哉時至候哉、人気相進、追々荒地起返り、米麦雑穀産出、其潤沢を以戸数人別相増、暮方立直り候仕方を見受、前後左右より相慕ひ来り、取行度旨嘆願有之候得共、全く繁多に付堅く相断置申候処、不得止事年々歳々歎願有之、殊に大久保故加賀守殿、右荒地起返り産出候報徳金貸付之仕法引移、存分可取扱旨被申付、仕掛取乱置候間、何に一つ目当無御座候に付眼前田畑山林、百種百草、春は生立、夏は花咲、秋は実法熟して身命を養ひ、人皆相助居候衣食之大恩、粒々幾百万倍罷成、其徳功算勘数量にも難及候間、仮に種金壱両と見積り、五分より五分増、六段に積り立、百行勤惰之得失を顕し、右同断荒地壱反歩起返り、賃金壱両、起返田取米壱石と見積、極難窮民余荷作り、又は壱反歩起返し賃金右同断、取米壱石之内冥加米壱斗より五斗迄、六拾ヶ年繰返雛形組立、右同断重きは鍬下三拾ヶ年季、起返賃金壱両より六両迄、右同断軽きは鍬下二十ヶ年季右同断、当荒之儀は十ヶ年季右同断、其外当時荒地に罷成居候薄地麁田之儀は起返し為作立候共容易に地成可致熟作哉致す間鋪哉も難計候に付、鍬下十ヶ年置据、十一ヶ年目より十ヶ年賦産出方、或は七ヶ年賦右同断、或は五ヶ年賦右同断、別に仕法種金百両と見積り、廃地起返、其作徳浮米、或は質地田畑受戻右同断、又は山々、神社、堂寺御修復金御貸付、同様利足浮金三段之内、何れ歟一廉手段仕、年壱割前後之利足を産出し、出廃り同様荒地起返し、其外夫食種穀肥代年々貸付、一家一村宛も取立遣候はゞ、急度立直り可申筈に候得共、是迄迚も種々様々手違、殊に当時荒地罷成居候難村之儀は、人気風儀も同様荒居、止てやめ難く、述てのべがたき親先祖致相続来候仕業、いつとなく相流、余業に力を尽し、田畑麁作に罷成取穀相減じ、御年賀諸役高掛り物等は不及申、夫食種穀肥代、今日之暮方に差詰り、手入不行届荒地に罷成、困窮致難渋居候間、仕法種金百両と見積り、無利十ヶ年賦三段陰陽六行、同七ヶ年賦同断、同五ヶ年賦同断、都合拾八段中勘組立、貸付取立遣申度候得共、何分虚実相分不申候に付、勤惰之正業を探り、詰り成就不成就之根元を相試申度、日掛縄壱房より五房迄、家数五拾軒より百軒迄、六段に組立、壱房より二房、二房より三房と致出精候村方より、前条之通り無利足金貸付取立遣候はゞ、当人儀は勿論、老人妻子親類縁者に至迄、一同難有相励、致出精可申見込、取行方左に奉申上候



（読下し）日光御神領　村々荒地起返方仕法付見込之趣申上候書付
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　御普請役格　二宮金次郎
荒地起き返し方仕法付見込みの趣き申し上げ候書付
今般格別のご仁恵をもって、日光ご神領村々荒地起き返し方仕法付見込みの趣、委細申し上げ奉るべき旨仰せつけられ、ありがたしと申すも恐れ多くも、ありがたきご趣意、おうおう手違いござなきようつかまつりたく、前々取扱い来候手続をもって雛形組立て伺い奉り候。
その発端、私５歳の時、寛政３亥年大洪水のみぎり、田畑残らず流失いたし、暮し方に差しつかえ、家内養育のため、父母の丹誠心魂に徹し、歎息つかまつりおり候ところ、なおまた享和２戌年大洪水につき、おこしかえし田畑残らず流失し、ぜひなく荒地起き返し、米麦取り増し、口腹を養い、家名相続いたしたく一途に力を尽しおり候ところ、文政元寅年、大久保故加賀守殿在城のみぎり、かねがね本業精出し心がけよろしき趣きあい聞え、近頃惰弱なる風俗中、ことに一段奇特の儀につき誉めおくと、じきに申し渡され、なおまたあい励みまかりあり候ところ、同４巳年御同人分家知行所、人少なく困窮いたし、退転亡所同様まかりなり、余儀なき趣きをもって、荒地起き返し、入百姓人別増し、窮民撫育、借財返済、暮し方取直し、村柄旧復の仕法見分申しつけられ、かの地へまかりこし、さる天保１４卯年、下総国岡田郡大生郷村同様見聞におよび候次第、ありてい申したて候ところ、取り行き方あい尋ねられ候につき、もとより薄地そ田の儀、何ほど入用あい掛り候とも、荒地起き返り熟作いたすべきか、また家・小屋普請いたし、入百姓人別増し取り立て遣し候とも、きっと相続いたすべきか、何分見留めござなく候あいだ、まず過去候年数およそ１０か年も、米永小物成とも微細に取り調べ平均いたし、天命自然の分度を探り定則となし、その余多少限らず、荒地起き返り、米麦雑穀産出次第、その潤沢をもって窮民撫育、あるいは孝養奇特人、あるいは耕作出精人取り立て遣し候わゞ、終に自然と古復いたし申すべく候、たとえ幾度手違い候とも、出方にもあいかかわり申すまじき旨申し立て候ところ、深く感服いたされ、かの地へ引越し、見込みの趣きぞんぶん取り計らいあい任じられ候につき、いささかながら身代限り売りさばき持参いたし、およそ１０有余年取り行き申し候ところ、天なるかな、時至り候かな、人気あい進み、おいおい荒地起き返り、米麦雑穀産出し、その潤沢をもって戸数・人別あい増し、暮し方立ち直り候仕方を見受け、前後左右よりあい慕い来り、取ち行いたき旨嘆願これあり候えども、全く繁多につき堅くあい断り置き申し候ところ、やむ事をえず年々歳々歎願これあり、ことに大久保故加賀守殿、右荒地起き返り産出候報徳金貸付の仕法引き移し、ぞんぶん取り扱うべき旨申しつけられ、仕掛け取り乱しおき候あいだ、なに一つ目当てござなく候につき眼前田畑山林、百種百草、春はおいたち、夏は花咲き、秋は実のり熟して身命を養い、人皆あい助かりおり候衣食の大恩、粒々幾百万倍まかりなり、その徳功算勘数量にも及びがたき候あいだ、仮に種金１両と見積り、５分より５分増し、６段に積り立て、百行勤惰の得失を顕わし、右同断荒地１反歩起き返り、賃金１両、起き返し田取米１石と見積り、極難窮民余荷作り、または１反歩起き返し賃金右同断、取米１石の内冥加米１斗より５斗まで、６０か年繰り返し雛形組み立て、右同断重きは鍬下３０か年季、起き返し賃金１両より６両まで、右同断軽きは鍬下２０か年季右同断、当荒の儀は１０か年季右同断、その外当時荒地にまかりなりおり候薄地そ田の儀は起き返し作り立たせ候とも容易に地成熟作いたすべきまじきかも計りがたき候につき、鍬下１０か年置き据え、１１か年目より１０か年賦産出方、あるいは７ヶ年賦右同断、あるいは５か年賦右同断、別に仕法種金１００両と見積り、廃地起き返し、その作徳浮米、あるいは質地田畑受け戻し右同断、または山々、神社、堂寺御修復金御貸付、同様利足浮金３段のうち、いずれかひとかど手段つかまつり、年１割前後の利足を産出し、出廃り同様荒地起き返し、そのほか夫食・種穀・肥代年々貸し付け、一家一村あても取り立て遣し候わば、きっと立ち直り申すべきはずに候えども、これまでとても、種々様々手違い、ことに当時荒地まかりなりおり候難村の儀は、人気風儀も同様荒れおり、止めてやめがたく、述べてのべがたき親先祖相続いたし来たり候つかまつり業、いつとなくあい流れ、余業に力を尽し、田畑そ作にまかりなり取穀あい減じ、御年賀諸役高掛り物等は申すに及ばず、夫食・種穀・肥代、今日の暮し方に差しつまり、手入れ行き届かず荒地にまかりなり、困窮難渋いたしおりあいだ、仕法種金１００両と見積り、無利１０か年賦３段陰陽６行、同７か年賦同断、同５か年賦同断、都合１８段中勘組み立て、貸付け取り立て遣し申したく候えども、何分虚実あい分り申さず候につき、勤惰の正業を探り、つまり成就不成就の根元をあい試し申したく、日掛け縄１房より５房まで、家数５０軒より１００軒まで、６段に組み立て、１房より２房、２房より３房と出精いたし候村方より、前条の通り無利足金貸し付け取り立て遣し候わば、当人儀は勿論、老人妻子親類縁者に至るまで、一同ありがたくあい励み、出精いたし申すべき見込み、取り行き方左に申し上げ奉り候。