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教師宮沢賢治の実習

宮沢賢治は、大正10年12月に稗貫(ひえぬき)農学校に奉職した。
稗貫農学校は、大正15年に花巻農学校に改称された。
大正15年に花巻農学校を退職されるまで、5年弱の教師生活だった。
しかしまあ、なんと素晴らしい教師ぶりだろう。
この時代に賢治先生のもとで授業を受けられた生徒達の幸せを思う。
宮沢先生は、時々新聞紙に原稿用紙を包んで教室に持ってきた。
そういうときは、きまって授業をきりあげて、作りたての童話や詩を生徒達に読み聞かせたのだ。
なんという幸せな生徒達か。

賢治先生は、こうおっしゃった。

1 先生の話を一生懸命聞いてくれ。教科書は開かなくていい
2 頭で覚えるのではなく、からだ全体で覚えてくれ。そのかわり大事なことは、からだにしみこむまで何回でも教えるから

賢治先生は実習を大事にした。
実習は午後行われ、クラスが、畑、水田、養蚕、畜産というふうに分かれ、担任の先生がついた。
賢治先生は、2時間の授業のところを一時間で終わらせて後は畦に寝転がったりして、いろいろ話をした。その実習風景はこんなふうだ。


1 横山哲男の証言
 他の先生方は、2時間の実働時間があると、その2時間全部むたーと使われて休みなんてないんです。
 ところが、宮沢先生ときたら、
「今日の仕事はこのくらいでいいですよ。
 これだけやれば、今日の実習は終わりですよ」
って最初に割り当てを決めてやらせてしまうのです。
よほど人の使い方がうまいですね。

2 長坂俊夫の証言
 麦刈りの脱穀は、もみがらが飛んで、首にささって、汗でべとついて、ほんとに嫌なんです。
 すると賢治先生が。とつぜん大声で
「おおい、氷買ってこい」なんて言うのです。
 代表がバケツを持って買いに走ります。
先生はブドウ糖液を持ってくるんです。
それをバケツにぶちこんで、みんなで麦わらで作った長いストローで立ったままチュウチュウ吸うんです。
 ふっと上向いて山が見えれば、先生は
「あのごつごつした肩のあたりはね、あのあたりまで昔は海だったんだな」なんて突然言うんです。
 賢治先生は、左手をポケットにこう入れてね、あぜ道を歩くんです。
首にペンシルぶらさげてね、麦藁帽子になっぱ服を着て、それで実習の列の先頭にたって猫背にこうして歩くんですよ。
 それがとつぜん天から電波でも入ったみたいに、サッサッと生徒を取り残して前のほうに駆けていくんです。
 そうしてとびあがって「ほ、ほっ-」と叫ぶんです。
叫んでからだをコマのように空中回転させて、すばやくポケットから手帳を出して何かものすごいスピードで書くんです。

 


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