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2016年11月16日
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   炎の縁、人の縁より(松田社長との出会い)
○昭和四十年代、陶工の道に踏み入れた紫峰氏は、自転車操業状態で借金を返すのに借金をするという悪循環は、次第次第にその金額が膨らんでいた。こういう弱みにつけこみ、騙そうという者さえ現れた。
その頃、紫峰氏は黒楽の窯づくりの研究をしていて、その窯に取り付ける温度計を調達したかったが、資金がなかった。電話帳を眺める日が続いた。すると広告の中でも一番小さな広告が目に止った。
 紫峰氏は思わず受話器をとってダイヤルを回していた。呼び出し音が聞こえて、ハッとして受話器を置いた。そして本当に自分にとって温度計が必要か自分の胸に問うてみた。釉薬の研究をする上で不可欠だと答える。再び受話器をとってゆっくりダイヤルを回した。
「私、陶工の神崎と申しますが、社長さんはおられますでしょうか」
「お待たせしました。松田ですが」はきはきとした大きな声だった。
「私、大阪北区で焼物を焼いている陶工の神崎紫峰と申しますが、社長さんの所ではパイロメーターは作っていただけるのでしょうか?」
「はい!はい!作らせていただきますよ」
「実は・・・。実は・・・ですね・・・」
「どうかなさいましたか?」
「私は陶工といっても、まだ駆出しですので、作っていただいてもすぐには代金をお支払いできないのです。初めてお電話をさせていただいて、虫のいいことをとお笑いかも知れませんが、出世払いということでお願いしたいのですが・・・・・」
「ワッハッハッハッ。貴方もなかなか面白いことをおっしゃる。出世払いとは・・・・・。私は、貴方に会ったこともないのですよ。でも、初めての電話で、支払いできぬが作ってほしいという貴方が気に入りました。分かりました。分かりました。出世払いということで作らせていただきましょう」
このような身勝手なお願いは取り合ってもらえると思ってなかった。
「本当ですか?」
電話をして一時間ほどたったころ、背が高く、色艶もよく、がっちりした体つきの人が私の仕事場に入ってきた。年の頃なら四十歳前後。
「先ほど電話をいただいた松田ですが・・・・・」。
 紫峰氏は現在の経済状態について事細かに話した。自転車操業も行きつくところまで行き、もはや破産寸前の経済状態であることを。いまは幻といわれている古信楽・古伊賀を、将来必ず私の手で再現するつもりでいることを熱っぽく語った。
「私はね、紫峰君の声を電話で聞いたとき、なにかしら閃くものを感じた。これは直感です。紫峰君の困っているのが手に取るように伝わってきた。誰でも一生のうちには、いろんなことがあります。それでこそ人生、楽しいじゃないですか。温度計は作らせてもらいます。お断りするなら先ほどの電話で断わってます」
その翌日のことだ。取引先から電話があり、今日支払うと約束したがどうしても都合がつかないので、待ってくれという。その入金をあてにして手形をふりだしていた。資金繰りに走り回ったがどうにもならない。その時、昨日会ったばかりの松田社長が思い浮かんだ。
「こんにちは! 社長さんはいらっしゃいますか?」
川島先生から「金がなくとも心豊かであれ。それには先ず表情から変えよ。」と云われていた。
「よお! よくきたね。まあまあ、こちらへ・・・」
「昨日は社長と初めてお目にかかったに拘わらず、厚かましいお願いを快く引き受けていただき、ありがとうございました。実は・・・。今日は、またまた厚かましいお願いに伺ったのですが・・・」
紫峰氏は、今朝からの事情を話した。
「ワッハッハッハッ。そうだったのか。そうだったのか・・・」。
「かあちゃん、今朝のことは紫峰君のことだったよ!」
しばらくすると奥さんが、紙袋を応接室まで持ってきた。社長はその紙袋を奥さんから受け取ると、袋の中を確かめもせずに、
「はい。これをもって早く銀行に行きなさい」
「紫峰君、実はなあ、今朝のことなんだよ」
「私の会社は、集金も支払いもすべて銀行振込を使っている。だから、現金を持ってくる人は滅多にない。ところが今朝、現金で五〇万円持って支払いにきた人がいた。こんなことは滅多にないことだから、この五〇万円は誰かが必要なのだろう、と思ったんだ。それで、かあちゃんに、誰かがこの金を欲しがってるから、今日一日だけ預かっといて、といって渡しておいたんだ。」
「そういうわけだから、これは気にせずに使えばよいから・・・。」
紫峰氏は、溢れる涙を拭き拭き階段を掛け下りた。階段の下から、社長室に向かって、頭を深ぶかと下げ、銀行へ急いだ。
○この話には続きがある。社長の父親から、その五十万円を紫峰氏が期限までに返さなかったら、社長自身が不渡りを出すおそれがあったというのである。 





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最終更新日  2016年11月16日 01時40分33秒
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