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2021年10月09日
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カテゴリ:広井勇&八田與一
「背教者」小山内薫
全集第2巻
p.727
「さて、愈(いよいよ)これから聖書の研究にかかります・・・・・・」
 先生はかう言ふと、家から持つて来た中型の新約聖書の第一頁を明けたー
「ーアブラハムの裔(こ)なるダビデの裔(こ)イエス・キリストの系図・・・・・・けふの午後の演題はこれであります・・・・・・」
 先生はさふ言ふと、直ぐー
「・・・・・・アブラハム、イサクを生み、イサク、ヤコブを生み、ヤコブ、ユダとその兄弟を生めり・・・・・・」
と読み出した。
 会員の内には聖書を持つてゐるものと、持つてゐないものとがあつた。聖書を持つているものは直ぐとその場所を明けて見たー
「・・・・・・ユダ、タマルに由りて、パレスとザラを生み、パレス、エスロンを生み、エスロン、アラムを生み、・・・・・・サルモン、ラハブによりてボアズを生み、ボアズ、ルツに由りて、オベデを生み・・・・・・エツサイ、ダビデ王を生み、ダビデ王、ウリヤの妻に由りて、ソロモンを生み・・・・・・」
 それは一頁に亙る単なる人名の連続であつた。・・・・・・
「・・・・・・マツタン、ヤコブを生み、ヤコブ、マリヤの夫ヨセフを生めり。このマリヤよりキリストと称ふるイエス生れ給ひき。」
ここまで読むと、先生は聖書を机の上に置いて、にこにこ笑ひながら、みんなの顔を見たー
「どうです、諸君。面白いですか。ちつとも面白くないでせう。」
さう言つて、又にこにこ笑つた。
「・・・・・・聖書ー殊に新約聖書は世界唯一の書物だと言はれてゐます。世界第一の有益な書物、世界第一の興味深い書物だと言はれてゐます。ところが、その巻頭第一に書いてあることは、この乾燥無味な系図であります。コオランの序品(じょぼん)第一には『神を頌へよ。万物の主宰、最大慈悲、審判の日の王をわれ礼拝す』とあります。埃及(エジプト)の死者の書は『天の東部にラアの昇る時、これに奉る讃美の歌』を以て始まつてゐます。論語は『学んで時にこれを習ふ。また悦ばしからずや。』で始まつてゐます。法華経は阿羅漢の頌徳を以て始まつてゐます。然るに、新約聖書は、その巻頭、馬太(マタイ)伝の第一章に於いて、無愛想にも『アブラハムの裔なるダビデの裔イエス・キリストの系図』と称して、唯人の名を列記してゐるのであります・・・・・・」

p.729
「書籍の趣意が若し巻頭の一句にありとすれば、聖書は砂を嚙むが如き無味乾燥な書物だと言はなければなりません。なぜ、山上の垂訓を巻頭第一に置かなかったのでせう。なぜ、愛の頌讃を以て始めなかつたのでう。読者を引きつける手段として、拙の又拙なる道をとつてゐるのであります・・・・・・」

p.730
 併し、その砂礫のやうに無味なるところに、また砂礫のやうに意味深長なところがあるのであるー先生はさう説くのである。ー
「アブラハムの裔なるダビデの裔イエス・キリストの系図」。この一句の内に、もう重大な意義が含められてゐるのである。イエスはアブラハムの子であつて、又ダビデの子であつたのである。即ち、イエスはその肉体に於いて、アブラハムの信仰とダビデの権威とを代表してゐたのである。アブラハムとダビデー即ち、信仰と権威とを一つの身に体得したものが、キリスト即ち完全な救ひ主なのである。そしてイエスは実にその人であつたのである。
「アブラハムの裔なるダビデの裔イエス・キリスト・・・・・・」この一句の内に、もう重大な意義が含められてゐるのである。これは決して無味乾燥な詞ではない。歴史的事実に拠つた最も意義深い詞である。聖書に於いて、アブラハムと言へば、神に喜ばれる信仰を表す名であつて、既に固有名詞ではない。ダビデの名も亦同じことである。聖書智識に養はれて育つたユダヤ人が、アブラハムの子にしてダビデの子イエス・キリストと聞けば、もうその一句の内に深遠量るべからざる意味を読んだものである。これを乾燥だと言つて嘲り、これを無味だと言つて笑ふのは、その人の無識を表すに過ぎないのであるー
 アブラハムからダビデ王に至るまでには、父子孫十四代の間があつた。その間にも、イサクの沈着、ヤコブの熱情、ユダの剛毅ー語るべき性格の人物は多々あるが、今それを語る必要はないーそれでは唯、遊牧の民であつたアブラハムとその孫とが、ダビデに至つて終にユダヤ国の王となつたといふ一事だけを記憶するに留めて、この系図が示すもつと重大な意義を探らなければならない・・・・・・」
p.731
「この系図に於いて、最も注意しなければならないことは、アブラハムからソロモンに至るまでの間に、婦人の名が特に四つだけ記されてゐることである。第一がタマル、第二がラハブ、第三がルツ、第四がウリヤの妻即ちバテシバであるーこの外はイエスの系図全部に求めても、その生母マリヤの外に婦人の名を見出すことは出来ないのである。然らば、旧約聖書はアブラハム家の婦人として、以上の外に記録するところがなかつたであらうか。決して、さうではなかつた。アブラハムの妻サラの名が載つてゐる。イサクの妻レベカの名が載つてゐる。ヤコブの妻レアの名が載つてゐる。なぜ、マタイ伝の記者はこれらの有名な婦人の名を省いて、特にタマル以下三人の婦人の名を書いたのであらうかー
 そこに、新約聖書巻頭の系図が単なる系図として書かれたのではないといふ深い理由があるのである。この系図は乾燥無味な唯の系図のやうに見えて、実は一大福音なのである。砂のやうに見えて、実は砂金なのである。・・・・・・」
p.732
「先づ第一に名の出て来るタマルはどういふ婦人であつたらう。タマルはユダの長男ヱルの嫁であつた。ところがヱルが死んだので、その弟のオナンの妻になつた。ところが、このオナンが又死んでしまつたので、三男シラの妻になることになつた。併し、ユダは長男も次男もエホバに罪を犯して早く世を去つてしまつたので、シラも亦同じ運命を追ひはしまいかと思つて、シラが一人前になるまで暫く寡婦になつて父の家にゐろと言つた。タマルはユダの言ふ通りにした。その内に、ユダの妻が死んだ。ユダはその悲しみを紛らす為に、友人のヒラと一緒に、テナムといふところへ羊の毛を剪りに行った。
 タマルは、シラが既に一人前の男になつてゐるにも関らず、相変らず寡婦の儘で置かれたのを憤慨した。そこで、舅のユダがテナムへ登つたといふ噂を聞くと、寡婦の着物を脱ぎ捨て、被衣(かつぎ)に顔を隠して、テナムへ行く道の広場に坐つて待つてゐた。折から、そこを通りかかつたユダはタマルを娼妓だと思つて、お前の家へ行きたいものだと言つた。では、それまでの証拠に何か質物をくれと言ふので、ユダは持ち合わせた印と綬と杖とをタマルに渡して、つひにタマルの家にはひつた。やがて、タマルは被衣を脱いで、また寡婦の着物を着て、知らん顔をしてゐた。
 ユダは女に預けて置いた質物を取り返そうとして、友人のヒラに託して山羊の子を届けさせたが、もうその時は女の行方が分からなかった。」
p.733
「三月程すると、タマルが娼妓になつて人の子を姙んだと報告するものがあつた。ユダは非常に怒つて、即刻媳(よめ)を連れて来て、焚き殺してしまへと言つた。
 タマルは舅の前に引き出されると、例の印と綬と杖とを見せて、自分はこれを持つてゐた人に依つて姙んだのだと言った・・・・・・
 タマルはかうした婦人であつた。自分の肉欲が満たされない復讐に、身を娼妓に装うて、わが舅を罪に陥れたのである。旧約聖書には、唯「装うた」ことだけが記されてゐるが、彼女の素性は元々娼妓か何かであつたのであらうーこの人倫に反した行為によつて出た双生児がパレナとザラとであつた。そして、イエスの祖先の内には、かういふ人間があつたと言ふのである。マタイ伝の記者は殊更にかうした記事を掲げたのである。祖先の恥辱をわざと明白に系図の中に書き入れたのである・・・・・・
 さて、第二のラハブは如何なる婦人であったらう。ラハブは明かに娼妓であつた。旧約聖書にも「妓婦ラハブ」とはつきり書いてある。ラハブはヨシユアがエリコに送つた間者二人を助けたのであつて、その行為は義侠的でもあり、エホバの神に忠実でもあつたのであるが、彼女の素性の卑しかつたことは否むべからざる事実であるーこの婦人が後にヨシユア配下の名将サルモンに嫁して儲けた子が、ルツの夫になつたボアヅであつたのである。」

(続く)





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最終更新日  2021年10月09日 16時44分26秒
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