以前、保険会社の調査員をしていたときの話です。
調査員とは言っても、事故当初より被害者の対応をしている
ので、被害者からすれば「保険会社の人」と勘違いされるほど。
新人の社員を連れて、研修めいた仕事もありました。
新卒は、最初は簡単な仕事から始めるのですが、損害査定の
仕事に慣れてきたときに、被害者宅訪問を突然言い渡されるの
ですが、不安で仕方ありません。そんなとき僕や熟練さんが
引き連れて同行するわけです。
半年もすれば、損害査定の仕事に慣れはしますが、日常の
業務自体が被害者からの督促や罵倒で慢性的なストレスを
感じることも…
でも払い渋りの体勢を貫くわけですから、断る方もストレスが
溜まるのは当たり前。熟練なら酒に逃げることを憶えるのですが、
若手はそうはいきません。
ストレスの逃げ場所が見つからず、引きこもりや出社拒否も
珍しい話ではありません。
大学で柔道部の主将をしていたほどの新人さんとヤクザ屋さん
の対応に行った事がありました。
元柔道部主将、身長180センチ、体重推定120キロ、服の
サイズは5L、見るからに頼もしい存在です。
それが、ヤクザ屋さんの前に立つと一転、完全に縮こまって
しまい、何も言えず下を向いてばかり。
これでは研修になりません。
目の前ではヤクザ屋さんが怒り狂っています。
緊張と怖さがピークに達したのでしょうか、何を思ったか、
「僕は関係ありません。あとはこの人に聞いてください」
と、僕を指さし、そそくさと帰ってしまいました。
取り残された僕と、さっきまで怒り狂っていたヤクザ屋さんは、
目が点になり、引き留めることも出来ません。
仕方なく、その場をしのぎはしたものの、逃げ出した元柔道部が
気になります。後に、出社拒否を3ヶ月続けた彼は、配属替えと
なってしまったそうです。
「強靱な肉体には強靱な精神が宿る」
あれはごく一部の人間か、ケンシロウぐらい。
保険会社の仕事も大変です。
こういう面では同情してしまいます。