東日本大震災第3次支援1
東日本大震災第3次支援報告怒りの仮設-希望の持てない被災者たちの苦悩とたたかい 「NPOまちづくり神戸」と神戸人権交流協議会は合同で、「阪神・淡路大震災の経験と教訓を伝え、被災者中心の復興に役立ててもらおう」と、宮城県内の仮設住宅自治会の支援を継続しています。今回、第1次支援(2011年11月)、第2次支援(2012年8月)の経験と教訓をもとに、第3次支援を9月の8・9・10・11日の4日間にわたって行いました。 支援先は、宮城県内の石巻仮設住宅自治連合推進会、亘理仮設住宅団地、NPO法人亘理いちごっこ、東通仮設住宅町内会、岡田西町仮設住宅自治会、あすと長町仮設住宅自治会の6ヶ所で、激励と一年間にわたる募金活動で集められた総額で20万円の自治会活動支援金を渡し、仮設住宅自治および復興の現状と課題についてお聞きしました。 また、今回は「被災者の今」を、神戸市民をはじめ可能な限り全国に発信したいと、今の気持ちやご意見を葉書と手紙に書いていただき送付していただくように自治会の皆さんにご協力をお願いしました。すでに20人をこえる被災者から支援に対する感謝とともに、復興にかける想いが寄せられてきています。その内容を紙数の都合で紹介できないのが残念ですが、また、機会があれば紹介したいと考えています。 老朽化の進行と苦悩し、たたかう自治会 仮設の居住期間は2年、すでに仮設住宅は老朽化してきています。天井は浮き上がってきており隙間から外が見える。はきだし窓(人の出入りする開口部)がない。結露、カビ問題も深刻化してきています。石巻仮設自治会の山崎信哉会長は「断熱材の入っていない仮設があった。換気も悪い、湿気が多いのは住宅敷地に排水路がないため水が溜まるのが原因だ。国は居住期間を延長したが、自力再建、災害復興公営住宅の建設、集団移転事業が進まず、仮設住宅での生活が長期化する可能性も高くなっている。老朽化がさらに進めば、さらに劣悪な居住環境のもとで被災者は生活することになる」と将来の不安を語っていました。 災害が頻発し、緊急に仮設住宅が絶対必要とされる状況が生まれることを想定すると、国が大手のプレハブメーカーと契約し、大量にストックしておくことは重要なことです。しかし、東日本大震災では大手のプレハブ仮設には欠陥が多く、たびたび問題を起こしています。本多昭一京都府立大学名誉教授は「阪神・淡路大震災の時から指摘されてきた問題点を改善していない。国は仮設住宅の構造や設備については基本的人権が最低限守られる基準を確立することが必要である」と指摘しています。 さらに、ソフト面でも大きな問題があります。当然のようにどこの仮設住宅でも被災者が被災者のお世話をしていますが、仮設住宅自治会で活動されている方のほとんどが家を失っており、中には家族・親族を失った人もいるのです。当然ながら自らも住宅・生活再建という課題を抱えています。そうした人たちにコミニュテイと復興の課題を背負わせているという問題です。 いずれの自治会長に聞いても電話代は月3万円かかる。連絡や行政との懇談・交渉に走り回るのでガソリン代もかかる。毎日苦情を聞かされる。時には「同じ人に50回も苦情を聞き精神的に限界に来ている」という会長もいました。 さらに、自治会運営に協力しないのに、批判、誹謗、中傷だけする心ない人もいるそうで、そのために「役員なんかやってられない」とやめる人も出ているそうです。また、自力再建して転出する役員も出るために力量が低下する。後継者が育たないという仮設住宅の宿命ともいえる問題もあります。 仮設を「収容施設」ではなく生存権を保障する施設に 仮設は避難所の延長であり、プライバシーが最低限守られる避難所です。災害救助法は23条1項において「収容施設」として位置づけられ、応急仮設住宅の居住期間は2年となっていますが、国の判断で延長することができ、東日本大震災では、すでに居住年限の延長は決められています。しかし、被災者を支援すべき具体的な指針となる法令上の根拠はありません。当然ながら、自治・コミュニティについては想定されていず、すべて自治体と居住者任せになっています。 自治体は仮設自治会と連携し、生活・医療・福祉などの相談活動を展開し、被災者を支援していますが、仮設住宅にはいろんな人が集まるのでルールを守り安全・快適な生活を保障することは大変です。日常的に駐車場の利用、騒音、高齢者の支援などでトラブルが発生します。残念ながらトラブルメーカーもいます。そうした解決はすべて自治会役員が背負うことになり、相当なストレスになっているようです。 この点について各自治会長に聞くと、ほとんどの人が「自治会まかせにせず、政府や自治体が金を出し、専門スタッフを多数入れることが必要だ」と、答えていました。 被災者に仮設住宅を提供することは、被災者の生存権を保障することであり、それは国の法的義務であることはいうまでもありません。仮設住宅は「収容施設」ではなく、「自立支援・援護施設」であるべきで、被災者が心を癒し、自立への決意を固め、生活と住宅の再建を実現するための出発点とすべき居住空間でなければなりません。 「無料(タダ)で住んで、支援を受けて贅沢を言うな」という声がありますが、それは仮設住宅が被災者に多大な犠牲を強いる居住空間となっていることを理解せず、国や自治体が恩恵的に支援している「収容施設」であるという前近代的意識から生まれているように思います。 私たちは仮設住宅が最低限の人権さえ守られていない「収容施設」であるという実態を広く知らせ、世論を高め、国に必要な法改正を行わせ、仮設居住者をはじめ、災害被災者の生存権を保障するための必要な施策を明確にすべきであると考えています。被災者の声を聞かず決められた災害公営住宅建設計画 宮城県の被災者に対する冷酷さは定評があります。福島県や岩手県が延長した医療費の免除制度をはやばやと打ち切りました。さらに、災害公営住宅の建設計画も「被災者の意向を聞かず計画した」ことに対する批判が広がっています。 それを示す根拠が次の数字です。宮城県内仮設住宅は19,919戸あります。さらに、仮設建設が間にあわなかったために被災者自身が捜して入居した「みなし仮設」(仮設と同じ扱いで家賃が無料)が21,275戸あり、被災者が必要とする住宅は41,194戸です。しかし、宮城県は災害公営住宅の計画戸数を約13,600戸(今年8月末計画)と決定しており、仮設の戸数より少ないのです。 石巻市仮設住宅自治会の内海徹事務局長は、宮城県の災害公営住宅の建設計画について、「宮城県は災害公営住宅の計画をつくりましたが、そのうち石巻市の戸数は2,878戸(民間借り上げ含む)になっています。この戸数では石巻市内の仮設7,000戸あまりからみても不足することは明白です。さらに、「みなし仮設」は市内に5,800戸、市外に5,000戸もあり、この災害公営住宅の計画戸数では、希望する被災者が到底入居できないのは明白です」と、計画のずさんさを指摘しています。 この問題は仙台市内の各仮設、亘理町の仮設住宅の自治会役員からも指摘されており、宮城県が住宅の再建を被災者の自力建設を主に進めようとしていることを明確に示しているのです。 内海事務局長(前出)は「高齢化社会の居住者の実態に正確に反映している。高齢者と低所得者の比率は高く、自力再建が出来る人がどれだけいるか?」と不安を語っています。さらに、仙台市内の岡田西町仮設住宅自治会の二瓶勝男会長は、自力再建の障害に、大工、左官などの職人の不足からくる日当の高騰(震災前8,000円、震災後14,000円)と、建設資材の高騰を上げています。「注文してもいつ完成できるかわからない」という。 また、危険区域に指定された被災者の多い東通仮設住宅町内会の山本靖一会長は、「避難所にいる時に、災害危険区域に勝手に指定された。仙台市の提案は、土地は市が買取るから、集団移転先の土地を買って家を建てろというが、被災地の地価は低く、移転先の地価は高い。金がなければ融資を受けろ、利子は払ってやると言っているが、みんなが財産を津波でほとんど失っている。高齢者に2,000万、3,000万円の借金ができるわけがない。また、どこの銀行が金を貸してくれるというのか」と、仙台市の被災者の実態無視の姿勢に強い怒りの気持ちを表していました。 共に東日本大震災の復興を進める決意新たに 第3次支援を通じ復興の問題点や課題が明らかになってきました。特に、仮設住宅に居住する被災者や「みなし仮設」に居住する被災者の生存権の基盤となる住宅再建が展望の持てないまま不安な状態にあるということです。そうした中で、被災者でありながら、被災者の声を聞き、行政と懇談・交渉し、被災者の声を実現しようとストレスと経済的負担に耐えながらたたかう人たちがいます。それが仮設住宅自治会役員の皆さんです。 私たちは阪神・淡路大震災の支援への恩返しという気持ちとともに、「地域人権憲章」がめざす国民の基本的人権が尊重される地域社会を実現するという理念を果たす意味からも被災者が1人残らず仮設住宅から出て行ける日が来るまで、東日本大震災の復興を支えていこうと考えています。 文責・地域人権連神戸人権交流協議会副議長 森元 憲昭