詩集 3若き人へ若き私から 若き人よ 君は華美におぼれることなく質素にしなさい 魚や肉は余り食べずに植物を食べなさい 煙草は吸わぬほうがいい 酒は余り飲まぬよう 自動車なぞにはなるべく乗らず 二本の足で歩きなさい たまには田んぼのあぜ道を思いっきり走るのもよいでしょう そして 雨に打たれた雀の姿を忘れないで下さい 夜には星をじっと見つめるのを忘れないで下さい 時には山へ入り静かに坐り 純粋な宇宙線を頭のてっぺんからあびて下さい それからまた街へもどって働くのです 心はどこにも とめておかぬよう 君の異性にも父にも母にも心をとめてはいけません 君に夫や妻や子があるのなら その夫にも妻にも子にも 心をとめてはいけません 形のあるものにも形のないものにも 心をとめてはいけません 心は いつもあそばせておいてやって下さい 若き人よ 人生最高の目的は 五蘊は皆空と観じ 無上正等菩提を証し それを伝えることです 私が愛したあの人は 私が愛したあの人は 一人 二人 三人 四人 私が愛したあの人は 五人 六人 七人 八人 今から思えば遠いこと 私の昔は私の抜け殻 風にカサカサ吹かれゆく 愛したなんて錯覚で ほんとは何もなかったことを 錯覚しつづけこの日まで 息をしてきたこの私 真実まことにあの人を 愛していると思ったのも それは私の心の思い 真実まことの私は 何も思わず生きている 息もしないで生きている 私が愛したあの人は ほんとは誰もいなくって 私が愛したあの人は みんなみんなぬけ殻で 私が愛と思ったのも 執らわれの日々の中での出来事で 真実まことの私は 昔も今もこれからも 何も愛さず生きている 何も思わず生きている 息もしないで生きている 真夜中に 真夜中に ひとりでじっとしていると 世界の声がきこえてきて 涙がにじみでてくる 真夜中に じっとたえてすわっていると 世界の姿がみえてきて 私はますます静かになる ひそやかに息づき 心を凝らし 私は世界に感応する 真夜中に 私は世界宇宙の核となり 森羅万象を支配し 天地星座を運行する 真夜中は私の命の燃えるとき 真夜中の太陽は白く白く燃え続け 暗闇は白日のもとにひきずりだされる 真夜中は燃え始め白き光芒を放つ 燃えさかる真夜中に 私の目はみつめみつめゆき 私の命は燃え燃えつづける ねがい はれわたる空を飛ぶ まっさおな海に泳ぐ 緑ふかき大地にひれふす 大いなるあなたの腕の中で眠る そして私は目ざめたとき この手のひらの中に 宇宙をそっとつつみこむ ひろう 真夜中 街を歩いていて 誰にもひろわれず 私をまってくれていた 一円玉をひろう 水中嘘歩き 楽しいことも 悲しいことも 今はみんな水の中 窓ガラスをトントンたたくと 魚がいっぴき返事する あーあ 水の中 水の中 嘘歩き 嘘歩き 水の中じゃ 楽しいことも 悲しいことも みんな濡れて光ってる ピカピカ ピカピカ 光ってる 玄米 一粒の玄米を 水にひたしておいたら いつのまにやら 芽をだしてきた ああ 生きていたんだな 遠い所にいるまだ見ぬ友へ 僕が生きているのは あの星が輝いているからであり 僕が今歩いているのは 帰るべき家をさがして 僕が煩悶しているのは 自分自身にであり 自分自身とは イコール世界宇宙であり 世界宇宙は個人の象徴であり 僕は生きています 絶対孤独の存在の人間として 哀しみの存在として 苦しみの存在として 一瞬のうちに体内を噴き上げる 歓びのうずの中で 僕は生きています 遠い所にいるまだ見ぬ友よ 僕が生きているのは あなたを愛しているからです |