現代俳句(抜粋:後藤)(35) 渡辺水巴(2)
5月5日(日)現代俳句(抜粋:後藤)(35)著者:山本健吉(角川書店)発行:昭和39年5月30日渡辺水巴(2)さみだれのさゞなみ明り松の花十和田湖での作。前書き:「蓬莱の嶋」即興感偶の句でありながら、しかも調子高く陰翳深く、生命の息づきをおのずからにして秘めている。「さざなみ明り」とは美しい言葉だが、かきくらし降る雨景に、ほんのり白い波の花が松の花より白くとでも言った具合に、眼前に立ってはくずれている光景が眼に浮ぶ。ひとすぢの秋風なりし蚊遣(かやり)香立ちのぼる蚊遣のけむりのかすかな揺れに、秋風の姿をとらえたのである。立秋のころのいかにも秋の到来を感じさせる一抹の涼風で、「秋きぬと目にはさやかに見えねども」といったあれだ。ふとした身辺の動きに、はっきりとさやかに秋風を見たのである。 (つづく)