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釣鐘星のつぶやき

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読書日記57

映画日記4

[読書日記] カテゴリの記事

全57件 (57件中 1-50件目)

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苺をつぶしながら（田辺聖子著）

苺をつぶしながら（講談社文庫） [ 田辺聖子 ]価格：770円（税込、送料無料) (2023/1/14時点)「乃里子三部作」の最終作だ。主人公・乃里子は35歳。財閥の御曹司と離婚して、久しぶりの独身生活を謳歌するが、別れた夫を「刑務所の看守」に例え、自らを「出所」と表現して自由を満喫するくだりが延々と続き、このまま結末かと思ったら、元夫と友達のような関係に。「優しい声を出すキカイは、一たんこわれたらもう修繕できなくなってしまう。叩いてもダメである」と乃里子が云うように、決して以前のような関係には戻らない。過去に関係のあった男たちに友情を感じ、それは「おひとりさま」として生きていく上で必要なものと締めくくる。それってワガママじゃないのか？たぶん女性の意見は違うのだろう。

2022.12.17

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言い寄る（田辺聖子著）

言い寄る（講談社文庫） [ 田辺聖子 ]価格：836円（税込、送料無料) (2022/12/9時点)「乃里子三部作」の第一作で、主人公・乃里子はまだ31歳。先日、連作と知らずに第二作を読んでしまい、どうしようかと迷ったが、とりあえず先に入手できた第一作に戻ってみる。乃里子は長く恋焦がれた最愛の人（五郎）が自分を愛さないことを早々に見抜き、逃げ場がないほどに追い詰めることをしなかった。もしかしたら、世の中には「言い寄れる人」と「言い寄れない人」の二種類の人間が存在するのかも知れないが、そもそも相手がその気になってくれないとどうしようもない。一方で時を同じくして好きでもない人（後に夫となる財閥の御曹司）から「言い寄られ」、それはそれで楽しんで、さらに他の男とも関係するし、不器用そうに見えて結構「恋愛体質」ではないかとも思える。約50年前に発表された作品だが、今の時代の方がいろいろな意味で痛みが少ないかも？

2022.11.20

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私的生活（田辺聖子著）

私的生活（講談社文庫） [ 田辺聖子 ]価格：770円（税込、送料無料) (2022/10/16時点)主人公・乃里子は33歳。財閥の御曹司に嫁いで贅沢三昧の生活だが、一方で自分らしさが失われていくことへの何とも言えない不安が少しずつ頭をもたげていた。「夕焼けの色が褪せるように、変わってゆく人の心というものは、なんとふしぎなものだろう」と著者が表現するように、ドラマがそこにある。読み終えてから調べて分かったが、本作は「乃里子三部作」と呼ばれる作品の第ニ作目で、連作になっているようだ。当然単独でも楽しめる作りになっており、全作品では文庫本で優に1,000ページを超える大作だ。乃里子がこの後に離婚する流れは想像できるが、第一作に戻るか第三作に進むかは迷うところ。

2022.10.16

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アキラとあきら（池井戸潤著）

【送料無料】アキラとあきら／池井戸潤価格：1100円（税込、送料無料) (2022/9/5時点)映画化に合わせ、書店には集英社文庫版が上下巻セットで並んでいたが、元々は徳間文庫から刊行されており、運良く入手することができた。こちらは一冊（約700頁）にまとまっている。かなりの長篇だ。巻末の解説によれば、原稿用紙だと約1,000枚相当になるという。瑛と彬はともに社長の息子として生まれる。山崎瑛は伊豆河津の零細工場の経営者の息子として、一方の階堂彬は日本の海運業の一翼を担う東海郵船社長の息子だ。瑛は小学生の時に父の経営する工場の倒産とその後の夜逃げ同然となった暮らしを経験する。一方の彬は裕福な家の跡取りという運命に嫌悪感を抱きながらも成長し、あの「半沢直樹」の出身行である「産業中央銀行」で瑛と出会う。「相手を見て生きた金を貸すのがバンカーだ」そんな矜持を胸に、同期入行のふたりは力を合わせて難局に立ち向かう。オイルショックからバブル期、そして失われた10年へと、時代はふたりを翻弄する。池井戸作品なので、いつ悪役が出てくるのか期待しながら読み進めたが、最後まで現れなかった。

2022.09.05

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ムッシュ・クラタ（山崎豊子著）

ムッシュ・クラタ改版（新潮文庫） [ 山崎豊子 ]価格：506円（税込、送料無料) (2022/8/14時点)戦前から戦後にかけて、大手新聞社のパリ特派員を勤め、フランス文化をこよなく愛したがため「ムッシュ・クラタ」と呼ばれた倉田玲氏を主人公とした表題作を含め、4作の中・短篇集。筆者は社会派の長篇作品が多いなかで、昭和30年代・40年代に書き下ろされた中・短篇はある意味で新鮮だ。しかし、表題作以外の3作は女性の生き方を描くものだが、家庭を顧みない夫や妻に捨てられる夫が妙に生々しく、話の成り行き上で救いが無いだけに何とも後味が悪い。（女性の恐ろしさが痛烈）

2022.08.14

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最強の経営者・アサヒビールを再生させた男（高杉良著）

最強の経営者　アサヒビールを再生させた男（講談社文庫） [ 高杉良 ]価格：836円（税込、送料無料) (2022/7/30時点)モデルとなった樋口廣太郎氏は昭和61年に住友銀行副頭取からアサヒビール社長に転じ、当時「夕日ビール」と揶揄されていたこの会社を業界トップに導いた。誰もが知っている「アサヒスーパードライ」が世に出たのは昭和62年3月で、その翌年にはサントリー、キリン、サッポロを巻き込んで「ドライ戦争」が勃発している。バブル絶頂期、アサヒは3年間で4.660億円の巨額設備投資を行い、ビールの鮮度には特にこだわった。組織を活性化させる極意とサラリーマンが経営者として成功するまでの道のりを企業小説としてダイナミックに描いている。ただ、巨大企業におけるトップ・ダウン型の経営は見事だが、果たしてこれからの時代にも通用するのだろうか。

2022.07.30

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4TEEN（フォーティーン）（石田衣良著）

4teen （新潮文庫） [ 石田衣良 ]価格：605円（税込、送料無料) (2022/7/10時点)東京の下町・月島を舞台に、14歳の少年4人（テツロー、ナオト、ダイ、ジュン）が、恋愛や事件など思春期特有の悩みを抱えながら、皆で一緒に乗り越えて行く姿を描く連作短篇集で、第129回直木賞受賞作。「スタンド・バイ・ミー」よりは少し年上だけど、初々しい青春の日々が描かれる。これほど純粋に深く友人と関わることが出来るのは、多分この頃までだったような気がする。自分の14歳の頃を振り返ってみると、大人への不信感でいっぱいだったかな。夜、眠れないほど悩んでいたなんて、今はただ懐かしい。

2022.07.10

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長く高い壁（The Great Wall）（浅田次郎著）

長く高い壁 The　Great　Wall （角川文庫） [ 浅田　次郎 ]価格：748円（税込、送料無料) (2022/6/19時点)舞台は1938年11月の中国大陸。日本軍はこの年の春には徐州を占領し、秋には中部の武漢と南部の広東を目指して大規模な軍事作戦を展開していた。従軍作家として万里の長城の一角・張飛嶺に派遣された主人公・小柳逸馬が、「第一部隊全員が死亡。しかし戦死ではないらしい」という事件に挑むミステリー。不謹慎だが、戦争を扱うミステリーでは、人が殺されるにしろ手の込んだ方法をとらないと成り立たない。もっとスケールの大きな物語を期待していたが、本作はわずか3日間の出来事で描かれる。読み終えて考える。当時、日本では「支那事変」と呼ばれていたこの戦いの大義とは、いったい何であったのか。国民に対しては「軍閥の支配から支那国民を解放する聖戦」だと説明していたらしい。もちろん学校では教えてもらえなかったけれど。

2022.06.19

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非常識家族（曽野綾子著）

【中古】非常識家族 (徳間文庫)価格：400円（税込、送料無料) (2022/5/21時点)主人公・佐藤大介は大学生。親子三世代がひとつ屋根の下で暮らす中で、ことあるごとに「そりゃぁ、非常識だろう」と難詰されている。変わり者家族のやりとりはエッセイ風に、いや落語風に「けち」、「肥満」、「金儲け」など23のテーマで繰りひろげられるが、屁理屈に感じる部分が多いのは、自分が世の常識に対して多くの疑問を持っているからかも知れない。著者独特の厳しい意見も随所に散りばめられているが、常識は世代によっても変わるものなので、屁理屈だと感じた時点で、自分が歳をとったことを意識しないといけない。

2022.05.21

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流浪の月（凪良ゆう著）

流浪の月（創元文芸文庫） [ 凪良ゆう ]価格：814円（税込、送料無料) (2022/4/29時点)楽天で購入李相日監督による映画化を報道で知り、気になって原作を手にする。2020年本屋大賞受賞作。10歳の少女を自分の部屋に入れたために誘拐罪で逮捕された男が、15年後に成長した彼女と再会する。世間から見れば被害女児と犯罪者だが、彼女にとっては、男の側にいることがこの世界で生きるための拠り所になっていた。「普通」の感覚では理解し難いこの状況の厄介さが丁寧な言葉で綴られている。「事実と真実は違う」、そして真実は男と彼女だけが知っていることで、それはとても切ない。人は誰もが何かしらの秘密を抱えて生きている。

2022.04.29

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今はちょっと、ついてないだけ（伊吹有喜著）

今はちょっと、ついてないだけ（光文社文庫） [ 伊吹有喜 ]価格：682円（税込、送料無料) (2022/4/3時点)楽天で購入タイトルに惹かれて手にした作品は、初めての著者だったため、失礼ながら、読み進める途中で女性の作品であることに気付く。主人公の写真家・立花浩樹は、かつて秘境を旅する番組でカメラマンとして人気を博したが、やがてバブルの終焉とともに表舞台から姿を消すことになる。その後、約20年の月日が過ぎ、東京・目黒のシェアハウスを舞台にして、失職した元テレビマンの宮川、求職中の美容師の瀬戸、復活を望む芸人の会田とともに、それぞれの「心が本当に求めるもの」を見つけようとする。全7篇の連作集。それぞれの再生の物語。読み終えて考える。「人生に敗者復活戦はあるのか？」あってほしいが、一歩を踏み出すその勇気は、本人次第だと思う。

2022.04.03

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星々の舟（村山由佳著）

星々の舟（文春文庫） [ 村山由佳 ]価格：825円（税込、送料無料) (2022/3/12時点)楽天で購入2003年第129回直木賞受賞作。６つの短篇からなる連作小説で、叶えられない幾つかの恋の物語がていねいに綴られているが、ただ恋と括るには重すぎて、さらに大きなテーマが隠されているような気がする。それは家族の物語でもあり、兄妹の禁断の恋や不倫、いじめや暴力、そして先の大戦における従軍慰安婦に至るまで、それぞれの目線で切り込んでいる。著者が指摘するように、人間は「自由であること」を突きつめれば、「孤独であること」にも耐えなくてはならない。

2022.03.12

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百花（川村元気著）

百花／川村元気【1000円以上送料無料】価格：1650円（税込、送料無料) (2022/3/7時点)楽天で購入主人公・葛西泉はレコード会社で働く37歳の男性。アルツハイマー型認知症を患う母・百合子は、シングルマザーとして彼を育てた。彼女には過去に1年間、息子を捨てて男に走った時期があった。その記憶を封印していた泉であったが、母親が「記憶を手放していく」過程で、それを見せつけられることになる。泉には社内結婚の妻・香織との間に息子が誕生するが、親になることへの戸惑いと、母親が記憶を失う一方で自分には記憶が戻ってくる（受け取っている）という不思議な現実が、実にリアルに描かれる。無防備になった晩年の百合子から、泉はたくさんの記憶を受け取り、それが今度は泉から息子に引き継がれる。そう考えると、認知症も怖くない。

2022.03.07

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元彼の遺言状（新川帆立著）

【新品】元彼の遺言状　新川帆立/著価格：750円（税込、送料別) (2022/2/27時点)楽天で購入「第19回このミステリーがすごい！大賞」作品で、受賞時は「三つ前の彼」というタイトルだったようだが、刊行時には改題されている。普段ミステリーはあまり読まないが、昨年、新聞で盛んに広告が打たれていたのと、この4月からドラマ化のニュースを観たので、どれだけ面白いのか興味半分で手に取ってみた。一見ラノベ風の表紙だが、中身は思ったより骨太だ。ただ、ミステリーとしての感動は「?」。残念ながら今の自分には判断がつかない。主人公は丸の内の大手法律事務所で働く剣持麗子・28歳。金に目がない敏腕女性弁護士という設定だが、大学時代に3ヶ月だけ付き合った元カレが、「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言を残して亡くなる。エンタメ的に見ればつかみはＯＫだが、伏線の描き方も丁寧で、主人公のキャラにも共感できる。さらに、やや誇張した法律解釈は気になりつつも、作者が現役の弁護士ということもあり、その視点で描く世界は実に興味深く、話題になるのも確かに頷ける。

2022.02.27

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とんび（重松清著）

とんび（角川文庫） [ 重松　清 ]価格：704円（税込、送料無料) (2022/2/20時点)楽天で購入広島県を舞台に、妻を事故で亡くした主人公・市川安男は残された息子を周囲の支えを受けながら男手ひとつで育て上げる。反抗期や受験、就職、結婚と、それぞれのステージで悩み、迷い、不器用で真っ直ぐな優しさは、ときに空回りしてしまうが、随所で父親の愛情の深さがストレートには表現され、躓きながらも一歩一歩大人へと成長していく息子の姿につい涙腺が緩む。昭和の父親像としては少し大げさと思えるキャラクター設定で、ストーリーもいたって平凡だが、それが作者の真骨頂で、過去に２度ドラマ化されたのに続いて、いよいよ4月8日には映画（瀬々敬久監督）が公開される。

2022.02.20

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「ある男」（平野啓一郎著）

ある男（文春文庫） [ 平野啓一郎 ]価格：902円（税込、送料無料) (2022/2/13時点)楽天で購入武本里枝は2歳の次男を脳腫瘍で亡くしていた。離婚後に長男と地元に帰って家業を手伝ううちに「谷口大祐」と知り合い再婚し、長女をもうけ、幸せな家庭を築く。そんなある日、夫の大祐は仕事中の事故で亡くなるが、その後に大祐が全くの別人だったという衝撃の事実が発覚する。「愛にとって過去とは何か」が、ミステリータッチで描かれる。いわゆる戸籍の交換（戸籍の売買）が行われていたということだが、当事者の利害が一致すれば簡単で、現実にありそうで怖い。不法行為であることは間違いないが、取り締まる法律が気になった。公務員に対する虚偽の申立てだから「公正証書原本不実記載罪」あたりか。不謹慎だが、自分の周りにも他人の人生を生きている人がいるかも知れない。

2022.02.13

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20歳のソウル（中井由梨子著）

20歳のソウル（幻冬舎文庫） [ 中井由梨子 ]価格：737円（税込、送料無料) (2022/2/5時点)楽天で購入主人公は千葉県の市立船橋高校吹奏楽部トロンボーン奏者・浅野大義さん。約100人の仲間とともに「音楽は人間関係だぞ」をモットーとする顧問教師のもとで、コンクール出場などの大きな目標に向かってお互いを支え合い、困難をも楽しみながら自身の才能も開花させた、短くとも濃い高校生活。卒業後は作曲家になる夢を叶えるべく音大に進学するも、肺癌を患い20歳でこの世を去る。高校在学中に母校の応援歌「市船soul」を作曲するなど、部のムードメーカーとしての彼の功績は大きく、多くの仲間を惹きつけた。告別式ではかつての仲間達が164名も集合し、「市船soul」で送り出す。たった1日限りのブラスバンド。これら多くの関係者の証言をもとに描くノンフィクションだが、まさに「音楽とともに駆け抜けた青春」だった。母親の「息子は高校時代、365日のうち355日は部活をやっていた。もちろん先生も同じだ。」というくだりがあったが、自分も高校時代は吹奏楽部だったので、この作品には久々に胸が熱くなった。「1日練習を休むと3日遅れる」と本気で思っていたし、妥協することも知らなかった。今はあの頃がただ懐かしい。高校野球などの応援ではチャンスを掴んで演奏されるが、生徒の作曲とは知らなかった。浅野大義さんは今も「市船soul」とともに生き続ける。

2022.02.05

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サファイア（湊かなえ著）

サファイア（ハルキ文庫） [ 湊かなえ ]価格：693円（税込、送料無料) (2022/1/30時点)楽天で購入真珠、ルビー、ダイヤモンド、猫目石、ムーンストーン、サファイア、ガーネットと、それぞれ宝石の名前がタイトルとなった7作の短篇集だ。すべて女性の視点で描かれているが、どれも短篇にしては中身が濃く、登場人物の醜さとアイテムとしての指輪や宝石の対比がある意味で新鮮。氏の作品に多い、心がザワッとくるところは少ないが、陰と陽、まさに後味の悪いものと清々しいものを織り交ぜて、人の恨みや残酷さ、心の奥に潜んだ闇の部分を気づかせてくれる。

2022.01.30

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収容所から来た遺書（辺見じゅん著）

収容所から来た遺書（文春文庫） [ 辺見じゅん ]価格：682円（税込、送料無料) (2022/1/8時点)楽天で購入第二次世界大戦敗戦のあと、シベリア各地の収容所で長い年月抑留された日本人捕虜たちの群像を、その一人であった主人公・山本幡男氏の生涯を軸として描く。帰国の日を待ち侘びつつ亡くなった山本氏が書き残した長い遺書を、抑留を共にした友人たちが日本に持ち帰って遺族に渡そうとする。しかし収容所から書面での持ち出しが禁じられているため、手分けして記憶するという尋常でない手段に頼らざるを得ない。こうして復元された遺書のなかで、とりわけ4人の子供たちに宛てた遺書が感動的なので、一部をここに引く。「日本民族こそは将来、東洋、西洋文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化——人道主義を以て世界文化再建に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ。また君達はどんなに辛い日があらうとも、人類の文化創造に参加し、人類の幸福を増進するといふ進歩的な思想を忘れてはならぬ。偏頗で矯激な思想に迷ってはならぬ。どこまでも真面目な、人道に基く自由、博愛、幸福、正義の道を進んで呉れ」人としてどうあるべきか、日本人としての誇りを持ち続けることの大切さを諭す言葉の数々。苛酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとはどういうことかを端正な筆致でやさしく教えてくれる。

2022.01.08

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平場の月（朝倉かすみ著）

平場の月（光文社文庫） [ 朝倉かすみ ]価格：748円（税込、送料無料) (2021/12/25時点)楽天で購入主人公の青砥健将は50歳。老いた母を看るため地元に戻り、妻とは離婚し、小さな印刷会社で働く彼は、検査で訪れた病院の売店で、中学の同級生だった須藤葉子と会う。ごくありふれた男女の再会。すぐに飲みに行く間柄になっても恋がぱっと燃え上がったりせず、ゆっくりと距離を詰めていく二人。これまでの人生でそれぞれに修羅場をくぐり、分別を身につけ、「身の丈」を案じるあまり臆病になっているからこそ、若い日のようにはいかない。「愛する女性が亡くなる」、ある意味で悲恋物語の王道を行っているが、そこはふつうの「平場」に生きる人々の、ふつうの幸せを希求することが、なんと尊く、いかに人間くさいことかを静かに教えてくれる。すでに映画化が決定しているようだが、まだ監督も公表されておらず、キャストも気になるところ。

2021.12.25

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妻が椎茸だったころ（中島京子著）

妻が椎茸だったころ（講談社文庫） [ 中島京子 ]価格：605円（税込、送料無料) (2021/12/19時点)楽天で購入妻と死別した男が自炊を始めて、妻が残したレシピを頼りに格闘する日々をユーモラスに描く表題作を含めた5篇の短篇集。最初から「タイトル買い」を狙ったような表題の本だが、この怪しい装丁からホラーの予感があったが、見事に外れた。（実は苦手）すべて「偏愛」がテーマのようだが、ハクビシンやラフレシアナ（食虫植物）も登場し、ちょっと不気味で、現実にあるような無いようなシュールさにゾクゾクする。一方で文学的な部分もしっかりあって、不穏な読後感とともに期待を裏切らない。

2021.12.19

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Nのために（湊かなえ著）

Nのために（双葉文庫） [ 湊かなえ ]価格：693円（税込、送料無料) (2021/12/12時点)楽天で購入東京の超高層マンション「スカイローズガーデン」の48階で、そこに住む大手総合商社課長とその妻が殺害された。主要な登場人物は、死亡した2人を含めて6人。全員のイニシャルにNがあり、本書タイトルの「Nのために」とは一体誰のことなのかは最後まで分からない。現場に居合わせた4人の男女は、自分以外の者が抱えている秘密を知らないばかりか、それぞれが一番大切な人のことだけを考え、すべてを証言しない。人間の哀しいすれ違いだが、「その人のためなら」何でもできる。

2021.12.12

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カラフル（森絵都著）

カラフル（文春文庫） [ 森絵都 ]価格：682円（税込、送料無料) (2021/12/5時点)楽天で購入しばらく本の調達をサボっていたので、次女の本棚から再び拝借。鮮やかな黄色の表紙が眩しい。生前に犯した罪により輪廻のサイクルから外された「ボク」の魂が、天使業界の抽選に当たり再挑戦の機会を得るという、とんでもない設定の話だが、人はそれぞれ多種多様な色を持っているということと、すべてを「許す」ということを優しく教えてくれる。こういう小説は若い時に読んでおくべきだとつくづく思う。過去に映画化されアニメにもなったが、早速、次女にこれを最後まで読んだか訊ねると、スマホの画面に顔を向けたままで「2周した」と短い返事。ぜひ感想を聞きたいところだが、後に続く長い「演説」を警戒している様子だったので、ここは自重する。

2021.12.05

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きみはいい子（中脇初枝著）

きみはいい子（ポプラ文庫　日本文学　238） [ 中脇　初枝 ]価格：726円（税込、送料無料) (2021/11/27時点)楽天で購入 5篇からなる連作短篇集で、それぞれが児童虐待やネグレストに絡んでいる。「子どもは親を選べない。だけど親から受ける影響は一生もの」とよく言うが、与えられた環境の中で必死に生きる姿に心が痛む。本書は決して明確な答えは示していないが、親もひとりの人間として、その未熟さに気づく余裕もなく、日々の暮らしに追われてしまっているということもあるだろう。一度負った心の傷は一生消えないが、その記憶が自分を救ってくれると信じたい。

2021.11.27

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青春の構図（曽野綾子著）

【中古】青春の構図 / 曾野綾子 / 文藝春秋 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】価格：328円（税込、送料別) (2021/11/20時点)楽天で購入昭和39年にNHKのドラマ用に書き下ろされ、その後に松竹から映画にもなった作品だが、読んでいる途中で再読であることに気づく。 3人の女子大生（谷口美穂、西貝洋子、林倫子）がお互いにライバル意識を燃やしながら、大人へと成長していく青春物語で、むかし流行った学園ドラマによくあったクサイ感じがある意味で新鮮だ。（なぜか勉学では悩まない。）映画はかなり脚色されていたが、原作は人間関係も複雑で、当時の風俗や若者たちの行動様式がとても興味深い。

2021.11.20

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燃えさかる薪（曽野綾子著）

【中古】燃えさかる薪ある復讐の物語 / 曽野綾子 / 中央公論社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】価格：310円（税込、送料別) (2021/11/14時点)楽天で購入主人公・亜季子はシンガポールに暮らす38歳。度重なる夫の浮気に耐えかねて離婚を決意し、帰国。旧知の画家と新生活を始める。そんな時、前夫はガス爆発事故で重症を負い、介助無しでは生活出来なくなった。普通ならば「もう私には関係ない」となるのかも知れない。センチメンタリズムと言えば簡単だが、ここでは「何が尊いのか」を問う。聖パウロの教えである、「悪に負けることなく、善をもって悪に勝つ」。そして、「復讐をしたいのなら許す」。この言葉を改めて噛み締める。許すとか許さないとかということは、本当は神と人間との関係なのかも知れない。

2021.11.14

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さよならドビュッシー（中山七里著）

さよならドビュッシー（宝島社文庫） [ 中山七里 ]価格：618円（税込、送料無料) (2021/11/6時点)楽天で購入ハンデキャップを背負いながらピアノコンクール優勝を目指す少女の青春物語で、文庫本400頁を超える長篇だが、ミステリーなので読み進めるのも気が抜けない。以前に読んだ「護られなかった者たちへ」が結構クセがあって印象深かったので、別の作品も読んでみたいなと思っていたところ、次女の本棚でこれを発見。危うくネタバレされそうになりながら借用したが、とにかく緊迫感のあるコンクールの描写が音楽好きには堪らない。本作は2009年の第8回「このミステリーがすごい！」大賞を受賞してデビュー作となったそうだが、その後映画・ドラマ化もされた。内容的には決して珍しくない音楽ミステリーに「スポ根」の要素が加わったことで、エンタメ的にも厚みが増し、読む者を飽きさせない。

2021.11.06

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コンビニ人間（村田沙耶香著）

コンビニ人間（文春文庫） [ 村田沙耶香 ]価格：638円（税込、送料無料) (2021/10/31時点)楽天で購入 2016年の芥川賞受賞作だが、初めての作家ということもあり、期待しながらページを繰る。主人公・古倉恵子・36才は大学時代に始めたコンビニでのアルバイトを18年間続けている。子供の頃から変わり者とされ、「普通」であることの難しさを日々感じながらも、コンビニと繋がることで「普通」をうまく演じてきた。実際にコンビニで働く筆者が描く世界はリアルで大変興味深い。商品陳列の巧拙が売上に直結することやマニュアル以外の部分でも店舗単位で工夫を求められる範囲が意外に広いということは、何となく気づいていたが、客が肌で感じることはない。「普通」とは何か？。マジョリティの見えない圧力について考える。

2021.10.31

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不時着する流星たち（小川洋子著）

不時着する流星たち（角川文庫） [ 小川　洋子 ]価格：704円（税込、送料無料) (2021/10/23時点)楽天で購入実在したモデルを基にした10作の短篇集。それぞれの物語の最後に、モチーフとなった人物や事柄が短く解説されており、全体を通して感じるのは「密やかな出来事」といったところか。どれも、そこはかとなく不穏さが漂い、読後感が良くないものが多かった。常人では気付かないような部分にも焦点を当てながら繊細な言葉で淡々と綴られ、著者の優しい眼差しを随所に感じることができる。「臨時実験補助員」では米国の社会心理学者スタンレー・ミルグラム博士の考案した「放置手紙調査法」を題材にしており、とても興味深い。少し前に博士の実験を題材にした映画があったことを思い出す。

2021.10.23

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黒い結婚　白い結婚（中島京子他著）

黒い結婚　白い結婚（講談社文庫） [ 中島京子 ]価格：792円（税込、送料無料) (2021/10/16時点)楽天で購入結婚にまつわるアンソロジー。黒が4篇、白が3篇で、すべて女性作家の短篇集だ。ハードカバー本では黒と白でそれぞれ表紙も文も逆さまについていて、どちらからでも読めるようになっているらしいが、私が手にしたのは文庫本なので、順に「黒い結婚」から読み進ることになった。ただ、内容からするとそれが正解のようだ。読み終えて思うのは、結婚そのものを黒だ白だと括ることができるのだろうかということ。さらに拘れば、果たして白だから幸せで黒だから不幸だと言えるのか。それは隣り合わせで、或いは表裏一体のものではないのか。まあ、正解はないのかも知れないけれど。

2021.10.16

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護られなかった者たちへ（中山七里著）

護られなかった者たちへ（宝島社文庫　『このミス』大賞シリーズ） [ 中山七里 ]価格：858円（税込、送料無料) (2021/10/3時点)楽天で購入貧困と生活保護の制度、さらに東日本大震災からの復興などについて、ミステリを交えながら問題を提起する。瀬々敬久監督により映画され、この10/1に封切られたばかりだが、予告映像を観た途端に原作に興味がわき、文庫本470頁を一気読み。「どんでん返しの帝王」と呼ばれる著者ではあるが、「誰が犯人なのか」という、ある意味でのハラハラ感は少なかったかな。ただ、「護られなかった者」として、生活保護と自然災害を一つに括ってしまうのはどうかと思う。また、映画はどの部分を切り取って再編成したのかが非常に気になるところ。

2021.10.03

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世界最悪の旅ースコット南極探検隊ー（チェリー・ガラード著/加納一郎訳）

世界最悪の旅スコット南極探検隊（中公文庫） [ アプスレイ・チェリー・ガラード ]価格：921円（税込、送料無料) (2021/9/23時点)楽天で購入すごいタイトルの本だ。つられて手にする。 1912年1月にロバート・スコット英国海軍大佐率いる南極探検隊が幾多の困難の末に極点へ到達するまでと、誰もが知っているその後の悲劇を息詰まる筆致で描く。もとになった邦訳が1944年のもので、何度も改編・圧縮されたためか、こま切れで読みにくいところがあるものの、南極点到達隊のメンバーではなかったが支援隊として無事に帰還した筆者だけが知る臨場感は凄まじい。さらに筆者は、極点到達行進に先駆けて皇帝ペンギン営巣地の調査のために冬の南極を旅している。まさに世界最悪の修辞に相応しいもので、例えば、一日中太陽の出ない闇の中を歩き通し、「凍って箱のようになった寝袋に1時間以上かけて体を収める」という状況の苛烈さをどう想像できよう。遭難の原因のひとつは食料にあると筆者は指摘するが、この歴史があるからこそ、現在のような恒久施設を備えた南極基地が整備されたわけで、自然環境は当時から変わっていない。「探検とは知的情熱の肉体的表現である」と筆者は締めくくる。南極点への先陣争いは後に日本帝国陸軍白瀬中尉隊も参入したが、国家の威信をかけた競争の狭間にあっても、決して知的情熱は失せなかったことを信じたい。

2021.09.23

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彼女に関する十二章（中島京子著）

彼女に関する十二章（中公文庫） [ 中島京子 ]価格：726円（税込、送料無料) (2021/9/18時点)楽天で購入昭和28年に「婦人公論」に連載され話題となった伊藤整氏のエッセイ「女性に関する十二章」をモチーフにした長篇小説。息子は巣立ち、夫との二人暮らしの主人公・宇藤聖子は会計事務所にパートで勤めの５０歳。何でもない日々の暮らしの中で、ふとしたきっかけで読み始めた60年前の女性論が響き合う。「個人が、自分らしい幸福を追求する権利」とは何か。伊藤氏も指摘した、「戦禍を招いた日本的情緒」に対する懐疑は今の平和な時代にあっても決して忘れてはならない。そして、著者は云う。「明日という日に意味があるのは、今日と違うことが起こるからなのだ」人生の真髄はそこにあるのかも知れない。

2021.09.18

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九月の四分の一（大崎善生著）

送料無料【中古】九月の四分の一大崎善生価格：300円（税込、送料無料) (2021/9/11時点)楽天で購入暦が変わった頃に、タイトルと装丁につられて手にした初めての作家の作品は、少し切ない青春恋愛小説が4作の短篇集。どれもが淡白な表現だが、文体が何となく村上春樹氏に似ている。一方で中年男の自分探し的なところが気になりだすと、せっかくの純粋な部分が見えなくなってしまう。表題作だが、「quatre septembre」は英語読みで「九月の四分の一」、フランス語で「9月4日」になり、残念ながらそこが鍵になっていることに最後まで気づかず。

2021.09.11

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紙の月（角田光代著）

紙の月（ハルキ文庫） [ 角田光代 ]価格：649円（税込、送料無料) (2021/9/4時点)楽天で購入わかば銀行すずかけ台支店の契約社員・梅澤梨花は仕事で出会った若い男のために一億円を横領し、海外へ逃亡する。当時は結構話題になった作品で、たまたま手元に2012年2月発行の初版本があったので繰ってみた。これまで映画（主演:宮沢りえ）やテレビドラマ（同:原田知世）になっていたので、あらすじは知っていたが、原作がここまで長篇だったのに驚くと同時に、あらためて「紙の月」というタイトルの意味について考える。（偽物ということか？）ここで著者が描いていることは犯罪となる部分を除けば、誰にでも、どこにでもある日常のエピソードばかりだが、「自分にとっての本当の幸せとは何か」それをきちんと考えながら生きていくことの大切さを教えてくれる。

2021.09.04

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夜と霧「新版」（V・Eフランクル著／池田香代子訳）

夜と霧新版 [ ヴィクトル・エミール・フランクル ]価格：1650円（税込、送料無料) (2021/8/21時点)楽天で購入第二次大戦中にナチスのホロコーストによって収容所へと送られ、凄惨な生活を2年以上にわたり送った経験を持つユダヤ系オーストリア人精神科医V・E・フランクルの著書。以前、何かの本に「死ぬまでに一度は読むべき本」と紹介されていたが、世界の名著としても評価が高いようである。本書の邦訳は「もし世界が100人の村だったら」でも知られる池田香代子氏。全体を通して強制収容の悲惨さを感じにくいのは、フランクル氏が「精神の自由」を手に入れた側の人間で、被収容者の内面や精神状態の分析がメインになっているからだろう。人生の中ではいろいろな苦難に遭遇するが、この本から学ぶのは、生きていれば、苦しさに向き合う中で、どのような行動を選ぶのかが人生を決定づけていく、ということ。著者は云う。「生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない」言い換えれば、「生きる意味を探すのではなく、生きることが私たちに何を期待しているのか、と考える」ということなのだと思う。

2021.08.21

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号泣する準備はできていた（江國香織著）

【中古】号泣する準備はできていた / 江國香織 / 新潮社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】価格：235円（税込、送料別) (2021/8/16時点)楽天で購入書店で平積みされた「新潮文庫の100冊」を眺めていたら、本書が今年も選定されていることに気づいた。これまで直木賞受賞作だったこと以外、特に意識したことはなかったが、たまたま自宅の本棚にハードカバー本があったので繰ってみる。表題作を含む12の短篇集。著者があとがきで触れているように、短篇集といってもお菓子の詰め合わせのようなものでなく、ひと袋のドロップという感じだが、分かるようで分からない、行き詰まり感のある恋の話が多かったかな。ある意味洗練されているのか、或いは自分がもう若くないのか、泣ける要素はまったく感じられないが、何も考えずに生きていてはダメだと、そんな気持ちにさせられる。

2021.08.16

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珊瑚（新田次郎著）

【中古】珊瑚 / 新田次郎 / 新潮社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】価格：1728円（税込、送料別) (2021/8/12時点)楽天で購入山岳小説のイメージが強い著者には珍しい海洋もの。長崎県五島列島の福江島を舞台に、珊瑚漁を営む３人の青年の友情と一人の女性に対するそれぞれの愛を描いた長篇で、ハードカバー・2段組で約270頁は読みごたえがあった。明治の終わりから昭和初期にかけての風俗や海難事故とその原因となった気象条件が丁寧に描かれ、何度も地図を確認しながら読み進む。まだ帆と手漕ぎの時代に命懸けで珊瑚を獲る男たちと家を守る女たち。嵐のたびにいとも簡単に人命が失われるが「生きていくため」にまた船に乗る。著者の取材力もさることながら、宝飾品としての珊瑚の歴史が非常に興味深い。

2021.08.12

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君が降る日（島本理生著）

[書籍のメール便同梱は2冊まで]/君が降る日[本/雑誌] (幻冬舎文庫) (文庫) / 島本理生/〔著〕価格：586円（税込、送料別) (2021/7/24時点)楽天で購入中3の次女が読む気がありながらも部屋に放置していた本書をこっそり拝借して読んでみた。女性が主役の恋愛短篇が3作。どれも切なくてそして残酷で、生きていくことの難しさについて考える。「生きるということはきっと特別なことではなく、次に必要なものに手を伸ばし続けること」。確かにそのとおりかも知れない。人は過去には生きられない。

2021.07.24

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八甲田山死の彷徨（新田次郎著）

八甲田山死の彷徨（新潮文庫） [ 新田次郎 ]価格：693円（税込、送料無料) (2021/7/22時点)楽天で購入盛夏の候になると、このような「猛吹雪もの」につい手が伸びる。それにしても凄いタイトルだ。何度目の再読かは定かでないが、日露開戦を控えた明治35年の惨劇を、軍隊という特殊な集団の極限状態における人間ドラマに仕上げている。自らも気象庁の技官として厳冬期の富士山測候所勤務経験のある著者だからこそ、この迫真力がある。森谷司郎監督の映画も衝撃的だったが、改めて組織のマネジメントの面がいろいろ気になるのは、自分が歳をとったせいかも知れない。

2021.07.22

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ポイズンドーター・ホーリーマザー（湊かなえ著）

ポイズンドーター・ホーリーマザー（光文社文庫） [ 湊かなえ ]価格：660円（税込、送料無料) (2021/7/10時点)楽天で購入女性が主役のミステリー短篇が6作品で、過去にドラマにもなった。全篇に通ずるテーマは「毒親」か。後味の悪さで定評がある湊氏だが、これが結構クセになり、普段ミステリーにあまり親しんでなくてもヒューマンドラマとして楽しめる。清く正しく生きても決して幸せな人生を送れるわけではない現実に対し、それを何かのせいにしたいのは至極当然で、そこから「毒親」という概念が生まれたのかも知れない。

2021.07.10

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みちのくの人形たち（深沢七郎著）

みちのくの人形たち改版（中公文庫） [ 深沢七郎 ]価格：649円（税込、送料無料) (2021/7/3時点)楽天で購入「楢山節考」でその独特の文体に触れてから、他の作品も気になっていた。少し前に小川洋子氏がラジオで紹介していた本書は表題作を含め7作の短篇集で、1980年刊行の表題作はその翌年に第17回谷崎潤一郎賞を受賞している。楢山節考が姥捨の伝説なら、「みちのく〜」は間引きの伝説を怪奇な民族誌的にまとめており、ゾクゾクするような読後感はそれ以上の理解を拒んでいるようで戸惑う。

2021.07.03

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楢山節考（深沢七郎著）

楢山節考（新潮文庫　ふー5-1　新潮文庫） [ 深沢七郎 ]価格：539円（税込、送料無料) (2021/6/19時点)楽天で購入表題作を含む4作の短篇集だが、あまりにも有名な「姥捨の伝説」に材をとった表題作は映画のイメージがとにかく強すぎて、原作がこれほどまでシンプルだったことに驚くと同時に、その潔さに畏れをも感じる。残酷であってもそれは貧しい村の掟で、当事者はその日を心待ちにしている。「すべては神の御心のままに」。それがただの伝承であったかどうかはもう知る由もない。

2021.06.19

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猫を抱いて象と泳ぐ（小川洋子著）

猫を抱いて象と泳ぐ（文春文庫） [ 小川洋子 ]価格：748円（税込、送料無料) (2021/6/12時点)楽天で購入以前から独特なタイトルの小説は敬遠する傾向があり、本書もそのひとつだった。唇に奇形を持って生まれた無口で優しい少年が、ふとしたきっかけで大人からチェスの手ほどきを受け、自らはチェス盤の下に潜り、からくり人形を操りながら試合を行うチェスの指し手となるという、些か奇抜な設定ではあるが、全般的に静謐で美しく、どこか詩的な雰囲気が漂う。しかし、終始うら寂しく、とても「チェスの海に身を任せる」という気分にならない自分は、やはり凡人なのだと思う。

2021.06.12

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人質の朗読会（小川洋子著）

人質の朗読会（中公文庫） [ 小川洋子（小説家） ]価格：607円（税込、送料無料) (2021/5/9時点)楽天で購入地球の裏側の国で反政府ゲリラ組織によって人質となった8名の日本人旅行者が、監禁された時間を怺えるために開いた朗読会で語るそれぞれのものがたり。全員が帰らぬ人となる設定が怖すぎて、しばらく読むのを躊躇っていたが、氏の綴る人質たちの思い出話は美しく、そして温かい。何でもない日常を幻想的で静謐な世界に変える筆力にただ感服するばかり。作中では「未来がどうあろうと決して損なわれない過去」と表現されていたが、未来の見えないこの時代にあって、改めてこの言葉を噛み締める。

2021.05.09

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母性（湊かなえ著）

母性（新潮文庫） [ 湊かなえ ]価格：693円（税込、送料無料) (2021/4/25時点)楽天で購入母親になってもずっと「娘」であり続けたい女性とその娘を軸に「母親の視点」と「娘の視点」が交互に語られながら物語が進んで行く。母と娘の関係は一見異常とも見える不穏さを醸しながら結末を迎えるが、期待どおり読後感はさっぱりしない。「時は流れる。流れるからこそ、母への思いも変化する。それでも愛を求めようとするのが娘であり、自分が求めたものを我が子に捧げたいと思う気持ちが、母性なのではないだろうか」と著者は云うが、現実はすれ違いばかりかも知れない。

2021.04.25

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帰りこぬ風（三浦綾子著）

【中古】帰りこぬ風新潮文庫／三浦綾子(著者) 【中古】afb価格：200円（税込、送料別) (2021/4/11時点)楽天で購入主人公である23歳の看護師・西原千香子の約13ヶ月にわたる日記で物語は進む。舞台となる石狩病院に勤める青年医師との恋愛と破局。さらに同僚の看護師や患者たちとの交流を通して「本当に真実に生きるとは」を問い続ける。昭和40年代の作品なので、やや時代を感じる部分もあるが「愛する人を信じたい」という若き日の絶望に対する一種の清々しさは貴重だ。患者である広川氏が彼女に告げた「一生に一度も転んだことのない人はいない。転べば立ち上がればいいのだ」というメッセージを何度も噛みしめる。

2021.04.11

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スローグッドバイ（石田衣良著）

スローグッドバイ（集英社文庫） [ 石田衣良 ]価格：660円（税込、送料無料) (2021/3/21時点)楽天で購入 2002年発刊、自身初の恋愛短篇集。表題作を含めた「ささやかだけれど、でも当人たちにとってはとても大切な十の恋の物語」は甘く切ない男女の出会いと別れを軽妙に描いており、爽やかな読後感であり且つ温かい。若者たちの都会的でオシャレな暮らしぶりには若いころ随分憧れたものだが、男性が描く恋愛だと一旦思いはじめると、逆に深みを楽しめない。

2021.03.21

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孤独な夜のココア（田辺聖子著）

孤独な夜のココア（新潮文庫） [ 田辺聖子 ]価格：605円（税込、送料無料) (2021/3/7時点)楽天で購入昭和53年に発刊された12作の恋愛短篇集。装画が目をひく。氏の紡ぐ恋愛話は決してハッピーエンドとは限らないが、結末が近づくごとにドキドキする感覚が、若い頃とは確実に違うことに気づき、瞼を閉じる。そして、ここに描かれる女性の優しさが不変のものであってほしいと願うのも根っこは同じかも。氏は云う「恋というものは、生まれる前がいちばんすばらしいのかもしれない」

2021.03.07

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フェイク（楡周平著）

フェイク（角川文庫） [ 楡　周平 ]価格：733円（税込、送料無料) (2021/2/28時点)楽天で購入銀座の高級クラブ、駆け出しのボーイ・岩崎陽一・22才は安月給と長時間労働に喘いでいたが、ライバル店から移籍してきた同年代の雇われママと結託して悪巧みをし、大金をせしめる。コン・ゲーム小説というのにはストーリーがべただが、華やかな水商売のヒエラルキーの一端を垣間見て、知っているようで知らないことがまだまだあり、いろいろと勉強になった。とりわけ最後の京王閣競輪のくだりは、作者の熱情を感じる。（競輪好きなんだろうなぁ）

2021.02.28

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