咲也のおしゃべり玉手箱

そのうち、吐いた息の行方がほんの少し見える時期になる。11月だ。

指先や足先は自分でもぞっとするくらい冷たい。中学生の時もピアノの実技試験では
一年中カイロと手袋はかかせなかった。
指先で熱い物に触れた直後なんかにする耳たぶをつまむ、なんてことはする必要な
い。だって、耳たぶの方がずっと温かい。
そもそも、レンジで熱くなったお皿を触っても熱さの伝導速度が普通よりは遅いか
ら。

つまり、あちーーーっ！　って感じるまでが行灯状態だということ。気付かぬうちに
テーブルに置いちゃえば、キッチンミトンなんて不必要だ。ハガネのテ！

放物線を描いていたひこうき雲も、落ちてくる夜に行き場をなくしている。
私の好きな苔寺は、一体どんな闇に包まれるんだろう。

今では予約をして、更に庭園の見学だけはできなくなったという苔寺。
一人で歩いていたら、世塵を避けた何者かに出くわすかも知れない。にしむくさむら
い、西向く侍。

11月。