Der Nakajistil

2005/06/23(木)01:32

ドイツ人はバイエルを知っているか 第1回

ピアノ雑感(41)

登校拒否ならぬ出社拒否という言葉がある・・・気がする。 僕はしばしば、「帰社拒否」という症状に襲われた。 日本で調律をしていた頃の話である。調律に出かけて夕方になるとまた事務所に戻るわけであるが、時として気が重たくなる。長引いているクレームがあったり、展示会の日が近いのにピアノ販売の見込みがなかったり・・・。そうすると事務所に帰るのが嫌で逃げ出したくなる。 そのような時、(今だから言える話だが)喫茶店だとお茶代がかかるし、意外と長居できないので、よく図書館へ行って上司や先輩の帰る時間まで本を読んでいた。そんなある日、一冊の本を見つけた。バイエルの伝記のマンガだった。そう言えばバイエルの生涯について何も知らなかったので、非常に興味を引かれた。はっきり覚えていないが、こんな内容だったと思う。 ピアノに魅せられたバイエルはツェルニーのもとをたずね、ピアノを勉強する。バイエルの才能は花開き、めきめきと上達する。ある時、自分のレッスンの時間なのに、見知らぬ少年がレッスンを受けていた。「悪いけど、急に大事なレッスンが入ったんだ。後にしてくれないか」とツェルニーはバイエルに言った。渋るバイエルに少年が言った。「邪魔だから早く出てってよ。」 この言葉に憤慨したバイエルだったが、ある日ツェルニーに連れられてしぶしぶその少年のリサイタルに出かけた。「あんな生意気な小僧に音楽などできるわけがない」そう高をくくってたバイエルだったが、演奏が始まるや否や唖然としてしまった。少年は本物の才能を持ったピアニストだった。この少年とは、幼き日のフランツ・リストだった。 バイエルはリストのピアノを聴いて驚嘆するとともに自分の才能のなさに落胆した。この日からバイエルはピアノに身が入らなくなり、ついには師ツェルニーからも愛想をつかされた。生きる目的を失ったバイエルは途方にくれ、廃人同然となった。 しかし、落ちぶれたバイエルにある仕事の依頼が来た。それは子供のためのピアノメソッドを作曲することだった。バイエルはやがてこの仕事にのめり込み、新たな生きがいを見出すようになる・・・ 単純な僕はこんなありがちなストーリーにいたく感動してしまった。「なんていい話だろう。仕事から逃げていた自分が恥ずかしい。僕ももっと前向きに生きていこう・・・。」そう思って席を立とうとした時、ぱらりとあとがきのページがめくれ、そこにはまずこう書かれてあった。 「この物語はすべて作者の創作したフィクションです」 そのあと僕が何を思ったかどう行動したのか全く記憶にない。もう10年以上前の話である。かなり前置きが長くなったが、バイエルの生涯についてはほとんど記録がないらしい。しかしいくらか史実に基づいた部分もあるのではないかと思った僕は昨日出版元である「ドレミ楽譜」に質問のメールを送った。多分返事はないと思うが、もし返答があったらこの場で発表するつもりである。 これから、ドイツでバイエルがどれくらい認知されているのか調査して発表していきたいと思う。これは昨日の日記で書いたようにピアノ関係者であるドイツ人が「バイエル」を知らなかったことが動機である。まず、手始めに僕の手持ちの本やネットサーフィンでバイエルについて知りえた事柄から始めていきたいと思うが・・・それは次回。(つづく)

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