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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第十話 スパイにされちゃった

第十話 スパイにされちゃった




「スキースクールは杉山進さんとこだけじゃないよ」

「ナイスクって知ってる? オーストリースキー教室って?」

「日本で一番古いスキー教室だよ。蔵王や志賀など全国にあるんだよ」

「規模からいっても、やはりナイスクだよ。知らなきゃモグリだよ」


以前私が働いていた会社の同僚が口を尖らせて話しかけてきました。

「よし、そこへ一緒に連れて行ってよ」

例によって即断即決です。

翌週には、オーストリースキー教室の鹿島槍校に入っていました。


私のスキーはヘタッピーですから、下から二つ目の班です。

以前の会社の同僚は一斑です。

最初からダンチの違いです。

でもそれは昼間のこと、夜のお酒の席では、やっぱり私です。


ここの校長先生が面白い。

伊藤先生と言いました。

本職は大工さんです。

スキーの技術をさまざまな例え話で解説してくれるのです。

話の面白さにつられ、「よし、それ本にしましょうよ」と突撃です。


「いやー、私よりも、もっとヘンなのがいますからご紹介しますよ」

ナイスクの東京事務所と、ある人物を紹介されました。

スキー場から帰った日に、その足で事務所に出向きました。



スパイにされちゃった

紹介された松尾喬さんが出て来ました。名刺には代表とあります。

「あれー、松尾さんは社長さんですか」

「ええ、やることがないんで、ついでに社長もやっています」

もろカウンターパンチです。

とぼけた人です。

すぐ意気投合してしまいました。


「あのー、鹿島の伊藤校長から電話が入っているのですが」

「もしもし、松尾です。何?」

「うん、それはきっとスパイだよ。うちの運営方法を探りに来たんだよ」

「さすが、とーさん(伊藤校長先生の愛称)見る目があるよ」

「うん、本を作りたいって。ナニナニ、なるほどねー。うん、間違いないね」

「それがきっと手なんだよ。注意しとくよ」

「ところでちょっと代わるね」


「もしもし、伊藤先生ですか。私、スパイの○○です」

「スキー場ではお世話になりました。またスパイに行きますので宜しく」

「…………はあ…………どうも…………」

伊藤先生、言葉が出ません。



スキーって遊びだよ。楽しい本を作ろうよ

こんな出会いから、本を作ることになりました。

あとはハチャメチャです。

「民間療法 フツーのスキー」って本です。

名前のとおり、とぼけた本です。

私が独立する直前だったので、前に働いていた出版社で出しました。


「スキー界って、体育会系なんだよね。遊び心が足りないんだ」

「お金払ってスキースクールに入って、それでしごかれたんじゃ馬鹿みたい」

「やーなんだよね。○○さん、一緒に遊ぼうよ。楽しい本を作ってよ」


丸っきり松尾さんのペースです。話がポンポン出てきます。

「あなた学生運動やってたでしょう。代々木系でしょう。ほらね、やっぱり」

「代々木系は、クソ真面目で頭もいいのが多いけど、ちょっと固いんだよね」

「ちょうどいい。ボク、三派系で軟弱だから足せばいいんだ。二人でやろうよ」


この調子で私が独立する前も、そして独立してからも付き合いが続きました。

その後の松尾さんとのエピソードは、ゆうに本一冊分ぐらいはあります。



第十一話 ただ酒、ただ飯、お土産は仕事


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