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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表

第七章 物書き稼業と編集者稼業の裏表


■著者名という名の新たなブランド商品

「ゴーストライターって、何のことか知っていますか?」

「著者が自分で書けなくて、お金をだして、人に書いてもらうことでしょう」

「著者に代わって、実際に書く人がゴーストライターですよね」

実はこの答、そのとおりなのですが、実態は、はるかに先へと進んでいます。

いくつかのパターンがあります。

まずは、タレント本によく見られる例です。

これはまさしく、その著者であるタレントさんに代わって、ライターが文章にします。

タレントさんに下書きをしてもらって、リライトすることも、たまにはあります。

でも、ほとんどは、インタビュー一本です。

実は私も、何点か手がけたことはあります。

でも私などは、その他大勢のゴーストライターです。

著名なスターのゴーストライターができる人は、限られています。

少し読むと、この原稿はあの人が書いたんだ、と名前が浮かびます。

この場合、ゴーストライターを使うのを、私はいいことだと思っています。

スターの人たちは、歌うことや演じることはプロですが、文章までも一流って人は、ほとんどいません。

たどたどしい文章を読まされて幻滅するよりも、やはり本は、読みやすいほうがいいのではないでしょうか。

第三者が客観的に文章化したほうが、メッセージも伝わります。


■著者名があとから付いてくる

その次のパターンは、社会的地位のある人、著名な人の著作です。

主にはインタビューや、講演会の資料を元に、ライターが文章化します。

でも最近では、「この先生なら、たぶんこのように書いてもおかしくない」と、先に文章を仕上げることもあります。

出版社が原稿を仕上げて、そのうえで、その著者のところへ、もち込むのです。

「この本、先生のお名前でだしたいのですが……」

もちろんその著者(書いていないので著者ともいえないのですが)が、原稿チェックはします。

一人の著者の名前の本を、数人が別々に書いている例も結構あります。

だから同じ著者の本が、毎月のようにでることになります。

なぜそれほどまでに、次々と本をださなければならないのか、ほかの例をあげる前に、出版業界の裏事情を説明しておく必要がありますね。


■ブランドイメージの薄れた出版社

いまや、個々の出版社のブランドイメージは、低下の一途をたどっています。

出版社の名前だけで、売れる時代ではなくなりました。

「岩波少年少女文庫」。

少しお年を召した方なら思いだすでしょう。

私の小学生のころは、新刊がでるたびに、父親が買ってきてくれました。

中学生のころになると、中央公論社や河出書房の全集です。

「世界文学全集」「日本文学全集」「日本の歴史」「世界の歴史」などがありました。

高校生になると、小遣いを貯め、岩波書店の予約出版物を、つぎつぎと買いました。

「西田幾太郎全集」や「三木清全集」などです。

「亀井勝一郎全集」なんてのも買ったような気がします。

岩波新書も、新刊がでるたびにつぎつぎと買って読んでいました。

むつかしくて、チンプンカンプンでした。

でも必死で読み漁っていた記憶があります。

出版社さえ選べば、当たり外れのない時代でした。

その出版社の選んだ著者なら、たとえ無名でも期待がもてました。

いまはどうでしょう? 

一つひとつの出版社のカラーが、希薄になったのです。

規模は拡大しても、オリジナリティーに欠ける出版社が、林立しています。


■著者のブランドイメージに頼る出版社

出版業界の寡占化は、総合の看板を掲げた「何でも屋さん」を生みだしました。

規模の大きさだけを競いあう出版社の登場です。

読者の、個別の出版社へのブランドイメージも低下しました。

それに代わって、著者のブランドイメージがクローズアップしてきたのです。

売れっ子の著者のところには、出版社が殺到します。

まして著者は、浮き沈みの大きい浮き草稼業です。

毎月のように新刊をださないと、世間から忘れられてしまいます。

社会的地位のある人の名前の出版物を、ゴーストライターを使ってでもだそうとするのは、著者と出版社の苦肉の策です。


■今や著述も共同作業

もう一度本題へ戻します。

先に掲げた二つのパターンなんてまだ序の口です。

松本清張さんがスタッフを使って、情報収集と整理をおこなっていました。

いまや多くの作家さんが、スタッフを使って情報収集と整理に取り組んでいます。

著述業が、個人の能力の限度を超えて、スピードを要求される時代になったともいえます。

こうなれば、一人の著者名を使った共同作業です。

漫画家の藤子不二雄さんをご存知でしょうか。

ドラエモンの作者です。

お一方が亡くなられて始めて、藤子不二夫は、二人の方の名前だと知った方もおられるようです。

同じような例がほかにもあります。

ある分野の小説で有名な方のお名前です。

実は、四人の方が共同で使っておられるのです。

イメージを統一するために、最後のチェックをする人は一人です。

でもそれまでは、個別のテーマを追いかけて、それぞれが一冊の本を書きあげています。

理由は単純です。

知名度を上げるためです。

さらにはファン層を逃さないためです。

そのために、毎月のように切れ目なく新刊をだしつづけなければならないのです。

これだと、一人が四カ月に一冊書きあげれば、毎月新刊がでることになります。

読者も月刊誌のように、今月は何がでるのだろうと期待しています。

時代の変化とともに、執筆するほうも変化してきたというお話です。

ほかにも幾つものパターンがあります。

でもあまり書きすぎると営業妨害になるのでここまでにします。

今のところは、ね。


■物書き・作家になる方法

どの分野の仕事でも同じです。

出版業界にもグローバル化が押し寄せています。

誰もが多くの情報をもち、同じ条件で選択できることになった結果です。

売れる商品はさらに売れ、売れない商品はさらに売れなくなっています。

音楽CDでも本でも、一部の突出した商品だけが売れています。

先に出版業界の売上げが、長期低落傾向にあることを書きました。

統計では毎年数%の減少です。

でも実感では毎年十数%の減少です。

この数値の違いが、実は、売れ筋商品の突出にあります。

ごく一部の商品だけが売れて、トータルの数値の減少をかろうじて下支えしているのです。

狭い地域で、ほそぼそのんびりとやっていたお店に似ています。

交通の便が良くなり、突然、隣町のデパートやスーパーとの競争になったのです。

お客さんは品物豊富な隣町の大型店へ行ってしまいます。

物書きや作家の分野でも、同じことがいえます。

一部の著者の本は売れるけれども、ほかは押しなべて激減です。

地方区から全国区へと私は表現しています。

物書きや作家になっても、職業としては厳しい時代です。

私は物書きとしてはC級、編集者としてはB級だと思っています。

そんな程度の私ですが、いまの状況のもとで、物書きを仕事にしたい人へ、思いつくままの言いたい放題を、つぎに紹介させていただきます。


■小説家になる方法

作品よりも、著者の知名度勝負の時代になってしまいました。

それも時代の流れは加速度を増しています。

華々しくデビューを果たしても、すぐ忘れられます。

売れっ子のミュージシャンのように、人気を維持することも大変です。

二十四時間全力疾走していないと、時代の波から取り残されます。

だから、デビュー前にありとあらゆる分野の短編小説を書きためてください。

最低でも、五十編程度は必要です。

これだけのストックが必要なのです。

小説家は、最初の作品がヒットしてからが大変なのです。

数カ月間、つぎの作品がでないと、もう世間からは忘れられてしまいます。

つぎつぎと一カ月間程度で、つぎの作品を仕上げなければなりません。

それも地位を確立するまでは、自分の書きたいテーマとは限りません。

出版社の希望に沿ったテーマで、まとめなければなりません。

依頼がきてから書き始めるのでは、よほどの天才でないと不可能です。

依頼内容に近い短編をつなぎ合わせ、まとめあげるならば可能です。

そのための短編のストックです。


■ある作家の場合

私が雇われ社長をしていた会社に、小説家志望の女性がいました。

文章力と知識は群を抜き、ゴーストライターの仕事もしていました。

「もう充分通用するんじゃない?」と私がオーナーに尋ねたことがあります。

「まだまだですよ。この程度だと一流の下で終わってしまいます」

「○○さんも、甘やかさないでください。いまのあいだに短編をストックさせないと」

その会社のオーナーは、彼女の書いてきた短編に、細々とケチをつけていました。

社員旅行でグアムへ行ったときも、彼女は食事のとき以外はでてきませんでした。

彼女の名前は諸田玲子。

この二、三年、つぎつぎと新作を発表しています。

いまでは連載も、週刊現代をはじめ、多数もっています。

まもなく大輪の花が咲くことでしょう。

一気にね。


■作家デビューの方法

作家の登竜門の懸賞募集からデビューした人も結構います。

でも最近では、さまざまな賞ができすぎて、権威が落ちてきました。

さらに懸賞募集と銘打った、新たな客寄せ商法も登場しています。

懸賞の代わりに請求書が送られてきたなんて、笑えない話も多いのです。

いずれにしても、懸賞募集に応募するなら、名のとおった賞にしてください。

応募規定のすみずみまで、目をとおすことも必要です。

文芸雑誌に投稿することも一つの方法です。

でも文芸雑誌自体は、それほど売れていません。


■コピーライターになる方法

慣れがすべてです。なぜならギャラが安いからです。

はるか昔、私も大企業の、会社案内のコピーライトで稼いでいました。

松本清張さんよりオレのほうが、原稿料が高いと豪語していました。

だって、原稿用紙一枚で十万円になったのです。

ときには二十万円にも。

いまは違います。

一日中パソコンにしがみついて、三万円になれば上できです。

取材や企画の打合せの時間を考えると、一日一、二万円がいいところです。

数で稼ぐしかないのです。

要領よくやらないと交通費にもなりません。

だから慣れが必要なのです。

専門分野をもっていることも必要です。

フリーライターなんて掃いて捨てるほどいますものね。

何でもこなせるライターよりも専門性のあるライターが有利です。


■実用書・一般書のライター兼編集者になる方法

これも専門性が必要ですが、職業になるかどうか……。

今から十年以上前だと、一冊まるごと引き受けて、百二十万円程度が相場でした。

いまでは、八十万円がいいところでしょう。

そうでないと出版社だって採算がとれないのです。

著名人のゴーストライター兼編集者。

まだこちらのほうがお金にはなります。

著者印税のうちの、何パーセントかをバックしてもらうのも常識です。

また別途、編集印税をもらうことも可能です。

でも、ずーっとつづけていると空しいものですよ、ゴーストライターって。


■翻訳者になりたい人に一言

こと出版物に関しては、翻訳者は、ライターでなければならないのです。

ただ直訳するだけなら、翻訳ソフトのお手伝いです。

いまや翻訳本は、意訳どころか異訳の世界です。

翻訳もののビジネス書など、元の原稿は影も形もありません。

原本にヒントを得て、読者の興味にあわせた書き下ろしの、何と多いことか。

私はチョット行きすぎだと思っています。

でも翻訳出版を職業にするためには、知っておかなければなりませんね。

翻訳しただけで売れる本って意外と少ないのです。


■文章を書きたい衝動って

文章を書くってことは、自己顕示欲の表れかも知れません。

物事を表現したいってことは、遊び、道楽の行き着くところです。

私は食えない物書き、食えない出版屋の境遇には、満足しています。

でも本を作りたい、もっと自分の感情や感性を表現したいという思いに、飢えています。

仕事としてとらえると、ますます厳しくなっている出版界です。

同じ仕事でもライフワークとしてとらえてみませんか。

趣味を仕事にしようと考えると、出口のない迷路に迷い込みます。

趣味のままだと、あなたの人生をより豊かにしてくれます。

それでも、職業として物書きを目指すかたもおられるでしょう。

しょうがない、共に地獄の道行きを楽しみましょう。


■自分のスタンスが分からずに迷走する編集者

出版の意味を考えるには、仕事の全体像を把握することが大切です。

でも、いまや仕事の流れを把握できる編集者が減ってしまったように思えます。

どのような業種でも同じですが、一つの事業は、多様な職種の結合体です。

言い換えれば、さまざまな仕事が寄せ集まって商品ができます。

出版でいえば、まず企画があり、出版計画があります。

つぎに著者の選定があり、依頼業務があります。

さらに装丁を考えます。

原稿の整理、デザイン、DTP、校正、校閲もあります。

印刷・製本・用紙の発注業務から原価管理も必要です。

できあがった本の販売計画、出版取次との交渉も不可欠です。

さらに書店への販売促進活動、広告の手配、広告の制作。

できあがった本の納品手配に、注文への出荷手配もあります。

返品受け作業、在庫管理、請求業務も必要です。

これ以外にも、まだまだ数え切れないほどの、細かな作業があります。

この一つひとつを知らずに、出版は語れません。


■分業化・専門化がもたらした編集者への弊害

私が始めて勤めた出版社は、このほとんどの作業を社内でこなしていました。

私も新入社員のころは、まずは商品管理、そして営業に回されました。

最後に編集に回されましたが、さまざまな職種を経験しました。

そのことが、独立して自分の出版社をもったとき、どれほど役に立ったかはいうまでもありません。

否応なしにすべての業務に関わるのです。

たとえ直接関わらない業務があっても、垣間見ることはできました。

ところがその後はどうなったでしょうか。

寡占化と外注化によって、分業化が急速に進みました。

いまでは倉庫業務や出荷業務、商品管理などは、外注が当たり前です。

作った本が売れなくて、うず高く積まれた返品の山を見て、嘆いていた編集者はもういません。

本の売れ行きや返品状況は、数字でしか見ることができないのです。

さらに社内分業も進みました。

それぞれの担当する分野と職種だけは専門家です。

でも、出版全体のことになると、何も知らない編集者が増えてきました。

よくそれで出版でメシが食えるといいたいような編集者がほとんどです。

零細規模の出版社だけが、一人何役もこなしています。

小さい規模の出版社のスタッフのほうが、仕事の流れも見えているので業界が分かるようです。

規模の大きな出版社に入社した方へ、小零細出版社へ転職しろとまではいいませんが、全体像を把握するために、人一倍の努力が求められています。


■編集者にこそ出版流通の現状を知って欲しい

売れた本、売れなかった本のそれぞれの原因が何だったのか。

いまや、まともに答えられる編集者はほとんどいません。

分からないのです。

物流や小売りの現場の感触が。

企画の問題、著者の知名度など、いまさらと思う答しか帰ってきません。

そんなことは素人にだって分かります。

それはそうです。

的確な企画なら売れるでしょう。

著名な著者なら売れるはずです。

なかなか受け入れてもらえない企画だけれど、本にしてみたい。

無名の著者だけれど、その着眼点や構成能力をかって本にしたい。

何とかこの著者を売りだしてみたい。

編集者が力を発揮できるテーマは無数に転がっています。

それが本当の職務です。

ただ漫然と本を作り、既存の物流ルートに乗せただけでは売れません。


第八章へとつづく

38万円で本ができた


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