エネスコ:ルーマニア狂詩曲
曲名は知らなくても,聴いたとたん「あっこれは知っている」と思う曲の代表格がエネスコのルーマニア狂詩曲です。この珍しい曲を2曲も録音してくれているのがアンタル・ドラティです。クラリネットの可愛らしいソロから始まるこの狂詩曲は1分後にはその主題が弦楽器に受け継がれ、いきなり晴れ晴れとした楽しい展開になります。こういう曲になるとドラティはバレエ伴奏指揮者の経験がものをいい、特上のリズム感溢れる演奏を披露してくれます。この躍動感はとても自然で、演奏しているロンドン交響楽団もみずから楽しんでいるように思えます。ただの一音たりとも不自然なものはなく、まるで滝から流れてくる水のように音が天からこぼれ落ちてくるような自然さです。リストのハンガリア狂詩曲集も同じ印象で、この曲集の他の指揮者からは感じられない民族的な迫力にも溢れていました。(ハンガリーの民族楽器ツェンバロンを使用しているので余計にそう感じるのかもしれません。)60年代のロンドン交響楽団は音に芯があり男性的な力強さを前面に出した演奏でした。録音は1960年と63年となっていますが、管楽器、弦楽器、打楽器の全てのパートがバランスよく溶け合っていました。たとえ全合奏の大音響でも音の分離は鮮明で会場の特等席で聴いているような気分です。とにかくどの曲も素晴らしく、これは間違いなくベスト・ワンのCDでしょう。