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こころのオアシス

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July 31, 2007
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テーマ:怪談十夜(19)
カテゴリ:カテゴリ未分類
***


大阪で高校教員になってから
何年目かの冬だった。

私は2回目の1年生の担任になり
2度目の「スキー訓練合宿」の引率で
4泊5日のM温泉スキー場に行った。

そこは大阪からバスで
延々15時間もある山ん中である。

その騒ぎは、
最終日の就寝時間後の
11時頃におきた。


「先生ェ! 大変ですッ!」

血相を変えながら
飯島がロビーに慌ててやってきた。

「どないしたんや?」
「川島が、なんだか変なんです!
霊に憑かれたみたいになって・・・」
「レーエー?」

一緒にいた数人の先生たちは鼻で笑った。
「何、言うてんねん。
アホか・・・」

気の毒に、せっかくご衷心にも
教員に報告に来てくれた真面目な飯島は
アホ呼ばわりされてしまった。

男子生徒の202室に入ると
5人部屋の真ん中の布団で
川島が眠っているのでなく、
ノビているふうであった。

「おい、川島。
どないしたんや?」
と呼びかけると、
歯をカチカチと震わせて
「すぐそこに、いてんねん・・・」
と窓の方をやっと指さした。

どうも窓の外に
霊なるものが、
へばりつくようにいるらしい。

見れば、しっかりカーテンが閉まっているし
だいいち、そこは2階の窓でべランダもない。

(なに寝ぼけてるんや)
と思ったが・・・、
「誰がいるんや?」
と訊いてみた。

川島は意識はしっかりしていて
「男と女のアベック・・・」
と応えた。

「ほお・・・。で、どんな格好の?」
「どっちもスキーウェアやねん」
「色は?」
「男は白っぽい・・・。
女は黄色みたいな・・・」
「ふん。で、顔は?」
と訊くと、
川島は眼をしっかりつぶると
カチカチ歯を鳴らしながら言った。
「睨んでる・・・。
俺のこと、睨んでる・・・」

「なんで?」
「しらん・・・。んなの・・・」
「女もか?」
「うん・・・」

「どんな女や?」
「めっちゃ髪長い・・・」
「あと?」

川島はそこで
押し潰されるような声を出した。

「顔の半分がヤケドしてるし・・・」

「どっちの半分?」
「右っ側・・・」
「どんな色に?」
「黒っぽい・・・」

そこで確認してみた。

「いまも窓にへばりついて
お前を睨んでるんか?」
「・・・・・・」

ちょっと間をおいて応えた。
「少し離れた・・・」

「どのくらい?」
「5メーターぐらい・・・」
「ほお・・・。なるほど。
でも、まだ、いてんねんな?」

川島はあいかわらず
眼をしっかり閉じたままで
黙ってうなずいた。

その時、畳の上に
白いものがパラパラと
乾いた音を立てて落ちた。

「ん? ・・・」

見ると、飯島が左こぶしの中から
塩をつかんでは窓や川島めがけて
投げつけていた。

「おまえ、何しとん?
だいいち、その塩・・・
どっから持ってきてん?」
「・・・・・・し、食堂の調理場から・・・」
「勝手にパチッてきよったん?」

私は、笑いたい気分を抑えながらも、
それでも、これも友情なんだろうな、
と思うことにした。

他の同室の男子もかわいそうに、
この騒ぎで寝るどころではなかった。
眠そうな眼をこすりながら
壁によりかかっている者もいる。

「おい、飯島。
おまえ、川島の左の目蓋ぁ、
指で開けいッ!」
と私はとんでもない指示をした。

飯島は驚きながらも
「早くせいッ!」
と脅かされたんで、
私が右の目蓋を開けるのと同時にやった。

「おい、川島。
眼ぇつぶらんと、
天井の蛍光灯の光を見てみぃ。
眼ぇつぶったら、
誰でも真っ暗闇になるさかいな・・・」

川島は目蓋をピクつかせながらも
頭上の蛍光灯に眼の焦点を
結ぼうとしていた。

30秒ほどそうしておいてから
「どうや? まだ、アベックいてるか?」
と訊いてみた。

川島は目の玉を開かれたまま
小さくコクコクと首を折った。

「さっきと同んなじあたりにおってか?」

目ん玉男は今度は首を横にふった。

「どのあたりや?」
「10メーターくらい向こう・・・」

(ずいぶんシツコイ霊やのぉ・・・)
と私は内心ひとりごちた。

そして、とっておきの「お守り」を出した。
タネを明かせば、何の事はない。

それは白いメモ用紙を
四つ折りにしただけのものである。
それを目玉男に腹の上で握らせた。
どーせ見えっこないし。

「これはな、先生がいつも
肌身離さずつけてるお守りなんや。
これ手に持っといたら、
どんな悪霊でも退散するさかいな。
しっかりグッと握ってみぃ!」


そう暗示にかけると、
目玉男は腹の上で
護符を握りしめた。

「悪霊退散ン―ッ!!
って、大きな声出して
言うてみぃ!」

そうけしかけると
「あーくりょ~・・・
た~いさ~ん・・・」
と震えながら
弱っちい声をあげた。

「よっしゃ。
これで、もう大丈夫やで・・・。
どや? 
まだ、ヤケドのネーチャンおるか?」

川島は眼ン玉を剥き出しにしたまま
震えるように首を振った。

「もう、いーひんのやな?」
確認するとコクンとうなずいた。

(はぁ~。やれやれ・・・
やっと「除霊?」が終わった・・・)
と思った。

その晩は、特別、
蛍光灯をつけたまま寝ることを許可して、
男子の部屋をあとにした。





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Last updated  July 31, 2007 08:37:08 AM



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