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02. Lahinch GC

【2007年 7月】


バリーバニオンが寒さで目覚めたのなら、ラヒンチの朝は猛烈な風の音で目が覚めた


夕べからの嵐がやまず、雨は降っていないが、雲はとてつもないスピードで流れ、鳥たちは空中で止まっているようだ


今日のキャディは何度名前を聞いても覚えることができない名前の15歳の少年だった


NYから来たという3人組とのラウンドは文字通り嵐の中でスタートした


昨日の失敗は繰り返さない


自分と向き合い、恐怖と対峙するのだ


1番ホール、ドライバーでのティーショットは左のバンカーに吸い込まれたが、なんとか脱出して残り115Y、猛烈なアゲンストを6Iで打ったが、風に負けてグリーンの20Yも手前に落ちた


4オン、2パットのダボスタート、昨日と同じ自分でいいのか?




3人組みの中の唯一の女性は1番を終えるまでにボールを3つなくし、『こんなのゴルフじゃない!』と、あたりにわめきちらした


片方の男もゴルフの腕前だけでなく、ゴルフに対する思いやりが感じられない、明らかに場違いな人間だった


ショーンコネリーに似た、リタイヤ間近の男だけがゴルフというゲームを知っているように思えた





2番ホールのティーショットはドライバーが会心の当たりだったが、結果ボギーとなった




3番ホール、左前方からのアゲンストが体を揺さぶる

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<<3番ホールは打ち上げ後、左へのドッグレグ>>



この嵐の中、立っているのもやっとでゴルフをするのに必要なものは何か?

それは自分を信じ、そして、ほんのちょっぴり地面に根を下ろすこといつもより強く意識することだけ


そう、プレーンやテークバックなんて気にしている暇はない、何しろ立っているだけで大変なのだ


スタンスを広く取って、ボールを低く出して、傾斜を使ってボールを転がすことだけを考える





ラヒンチで見た小鳥が地面すれすれに飛んでいたのは何を意味しているのか

この地で生きていくためには風とうまく付き合っていかなければならないのだ



この地方にはこれだけ多くの緑があるのに、巨木は見当たらず、石の文化なのはなぜなのか

この風の中で生きていくためには木の重みではなく石の重みが必要なのだ



ならばここで遊ぶゴルフも同じ理屈に違いない!




低い弾道のドライバーが風を裂いて進んだ








ティーショットを打ち終えるとキャディに尋ねた


『今日のこの風は、この地方でもひどい方なの?』


『僕はこんな風の中でプレーしたことはない。 だって嵐の風だよ、これは』


ハンディ23の少年は答えた


そうか、地元でも滅多に出会うことのできない条件に恵まれてプレーができるのだな

面白い!  やってやろうじゃないか!





4番は短めのパー5だが厄介なホールだ



ドライバーショットを右の斜面に打ち込み、そこから前方にそびえる草に覆われた砂丘の手前にボールを運んだ


グリーンは砂丘の向こうで、その方向は砂丘に置かれた白い石が目印だった

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<<砂丘の上にある白い石がグリーン方向の目印だ>>



180Yあるが、160Y打てばあとはランでグリーンに乗ると少年は教えてくれた


砂丘を越えるためにボールを上げようとなど意識せず、目の前にあるボールを打ちぬくだけだ


薄いあたりだったが丘を越えていった


自分のマークがついたボールをグリーンに見たとき、リンクスに来て初めて自分が見栄や外聞に煩わされることなく、プレーができたと思った






続く5番はこのコースでも有名なホールだ


打ち上げのパー3だが、ティーからはグリーンがまったく見えない


見えるのは目の前に立ちふさがる緑に覆われた砂丘


先ほどのホールと同じように白い石が目印だ

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<<ティーからはピンどころかグリーンも全く見ることができない  白い石だけが頼りだ>>



完全な向かい風で、距離は150Yだが、180Yは打てと言う


4Iのショットは風の中、まっすぐに丘を越えていったが、行方はティーインググラウンドからはまったくわからない





キャディに先立って砂丘の脇を抜けて秘宝のようにひっそりと周りを囲まれたグリーンをのぞくと、ピンのそばに一つのボールがあった


他の3人は惨めなティーショットだったので、可能性があるとすれば自分のボールだ


果たして、そこにはベンホーガンのツアーディープ#3がピンから1.5メートルのところに鎮座していた


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<<ティーからはグリーンが見えないだけに、ボールを発見した喜びはひとしおだ>>


しかし、バーディパットは、、、打てなかった


それでもタップインをすると2ホール続けてのパーに満足した






続く6番ホールは受難の連続だった


ティーショットをフックさせて、150Y先の深いラフの丘に突き刺した


4Wに持ち替えて暫定球を打ったが、こちらのほうがさらに悪いところに飛んだ




ただ昨日のショーンのようにすべての感覚を使って自分のゴルフを見ていたのでボールを見つけることができたのは幸いだった


これでまだこのボールをつなぐことができたと、、、


2打目は丘を越えるように、PWで70Yほどのショットを打ちフェアウエイに戻した


残り150Yから放ったショットはこすった球で向かい風で大きく右に流されてしまった



アイルランドのシンボルであるクローバーが咲き誇る丘に落ちたと思われるがいくら探しても見つからない


何しろボールが曲がりすぎて視界から消えてしまったのだから


探しながら暫定球を打たなかったことを悔いた


ここでボールがなくなれば、 僕のこのラウンドのスコアは完全なものでなくなってしまう。昨日のバリーバニオンのラウンドがそうであったように、、、





それでも仕方がない、もう諦めよう


そう思った瞬間に、ボールが見つかった


このホール無駄なショットが多く8を叩いたが、スコアよりもボールをつなげた喜びが勝っていた

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<<すり鉢状のくぼ地のその底に待ち構えるバンカー、お前とはつきあいたくない>>





フロント9は最後の9番でも楽なパーを拾い、パー3、ボギー3、ダボ1、トリ1、+4が1の48だった






11番は140Y強のパー3だが、海からの風をまとも受けるレイアウトになっている


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<<海に向かって打っていく11番はアゲンストをまともに受ける>>



170Yは打ってくれと少年は言った

5Iのショットは芯を捕らえて風に立ち向かっていった

スポットで捕らえたボールなので、左右にブレることなくまっすぐピンに向かっているように見えた

が、途中で進むことを諦めたかのように20Yも手前に落下した


手に残る感触、風に流されることなく進んでいったボール

すべてをとっても完璧だと思った

風がなければ180Yくらいは飛んでいたと思えたのに上空で風に叩き落されたのだった




風になんて負けられない



寄せワンでパーを取った!  見たか、風よ!!!







12番のティーショットはひどい雨だった

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<<コースの向こうに見える石の塔は16世紀ごろの城跡で、海辺の見張り小屋から敵の襲来を知らせる信号の中継基地になっていたと少年が教えてくれた>>


それでもボールをつなぎパーを取った


短いパーパットを打ちに行くと、ショーンコネリーが

『そのパットはOKでいいよ』

ひと呼吸置いて

『いや、お前さん、きっと自分で沈めたいんだろうな、そのパットを』

やっぱりこいつはゴルフをする人間の気持ちがわかる奴なのだと思った

5というスコアを書くときにパー4ではなく、パー5だと気がついた





<<こんな砂の丘がどこまでも続いている>>



14番を終えると酷い天候のために3人はリタイヤした




15番になると、風が少し収まり、太陽が時折顔をのぞかせた

こんなに天気が良くなるならリタイヤしなければ良かったのに、、、

そう思ったが、ショーンコネリー以外はヘトヘトに疲れていたようだった




このホールはもっとも難しいインデックス1、440Yのパー4だった


ティーショットは悪くなかったが、その後くだらないミスを重ねて10を打った

皮肉なものだ


彼らを待つ必要もなくなり、気持ちよく自分のペースで進めるというのにミスを重ねている






16番は打ち下ろしで、190Yちょっとのパー3


フォローの風と打ち下ろして160Yを打てば良いと言う


6Iのショットはグリーンの手前にバウンドすると、そのまま奥の窪みに吸い込まれ、APを寄せ切れずにボギーを打った




17番は400Y超のパー4だ


ティグランドに立とうとする自分の中にもう恐れはなかった

キャディの少年と二人だけのラウンド

『このドライバー、打ってみるかい?』と声をかけると


突然少年の顔に戻り満面の笑みを見せ、キャディのエプロンのポケットからボールを取り出した


いつか僕が彼に「打ってみるかい」という一言を期待してずっとボールを持っていたのかもしれない


でも彼からは「打たせてくれ」なんて言葉はなく、15歳の少年でもプロの意識を持っているところが意地らしかった


彼の溢れんばかりの笑顔を見て僕も心が満たされた気がした



実はラウンド中、何度となく渡されたドライバーを仔細にわたってみていたのを横目でとらえていた





かれはスムースなスイングで2回ほど素振りをすると、ボールを低くセットして一振り、ボールはフックしていった


それでも彼は満面の笑みで『ありがとうございました』と言った


junhiroがドライバーを振りぬくと、230Y先の下り傾斜でスピードがつき、残り120Yまで転がった


これを乗せたが、3パットしボギーだった


パーを逃したことは悔しかったが、不思議と落ち着いていた





それよりもあと1ホールでラヒンチでのラウンドが終わることが寂しかった


18番は500Yのパー5、ドライバーは彼の指示通り、クラブハウスの三角屋根の頂点を目指して飛んだ


キャディは『満面の笑みでパーフェクトだ!  本当にパーフェクトだよ』と、嬉しそうに言った


2打目はどうしてもフェアウエイにボールを置きたかった


2オンは狙わず、迷わず5Iを握ると、そのショットはこの地で有効な低くランの多い弾道で、残り30Yほどまで転がった


SWでのピッチはピンの手前にバウンドしてピン横1.5メートル、リンクスで恐怖に打ち勝ち、ついに本物のバーディチャンスが訪れた


5番のパー3も確かにバーディチャンスだったが、このチャンスはショットを3つ紡いで手に入れたものだ


打てればまっすぐ、弱ければ右にほんの少し流れるように読めた


今までさんざん弱く打ってきた


保険をかけて、少しだけ左を狙って打とう


果たしてボールは左カップをなめてとまった

タップインしてパー


ここでバーディが取れないのが、自分らしいな、、、




悔しさは不思議となかった



それよりも、ボールを拾い上げたときに、このコースでプレイできたことに、『ありがとうと』いう気持ちが心の底から、湧いてきた


本当に、素直に自分の中からあふれるように感謝の気持ちが湧いてきた




終わってみれば、嵐で始まったラウンドはjunhiroの心のように晴れ、青空が見えていた

ラヒンチというすばらしいコースで自分と向き合い手に入れたのはコースに対する無条件の感謝の気持ちと、48+48というスコアだった


もっと良いスコアが出せたかもしれないが、そんな些細なことはどうでもいい


アイルランドのリンクスに来て2ラウンド目で、ゴルフの本当の楽しさ、厳しさ、それを乗り越える喜びを理解できたのだから




それに何と言ってもベンホーガンの3番、このひとつのボールを紡いでラウンドをしたのだ!



<<このボールと共にラヒンチを旅した>>

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晴れ渡った空を次の目的地に進みながら、いつかここを息子と訪れてみたいと思った








<<ショーンコネリーがポッドバンカーにつかまった>>

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<<この景色はなぜだか、風の谷のナウシカを思い起こさせた>>


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