留学生のためのスタディスキルズ推進ブログ

2007/04/05(木)18:43

読書感想:Flags of our Fathers

洋書紹介(34)

ブログお休み期間中に読んだ本、余りないのだけど、こちらはかなり強烈だった。 Flags of Our Fathers  James Bradley著 あ、読んだんじゃなくて、オーディオブックでしたが。 映画見てないので、クリント・イーストウッド氏がこれをどう映像化したのか、ちょっと気になるけど、硫黄島決戦の前の、アメリカ兵の個人の描写、軍の訓練の様子、その後でメインの戦闘シーンと旗揚げのシーン、後半は戦後のFlag Raisersたちのジレンマや精神的な後遺症について、彼らの死までの経過を詳しく描写してて、それぞれの期間が違った意味で興味深かった。 (最初がちょっとだれてたけど) 最後に著者が言っているように、テーマは「普通のヒト」が、戦争というイベントに翻弄される話ではないかと思う。特に日本人にとって、「アメリカ兵」っていうのは、筋肉隆々の、無常な戦闘機械みたいなイメージがあるけど、実際はハタチそこそこの田舎のにーちゃんが、家の経済事情とか、ドラフトなんかでかりだされて、キャンプで短期間の訓練を受けて出兵してたに過ぎないんだよね。 で、彼らにしてみると、国のためにといって平気で自殺したり、世界のルールに従わずに独自の戦法(拷問含め)を繰り広げる日本兵のほうがよっぽど普通じゃなくて不気味なわけだ。これも、筆写の日本兵の描写と、自分が幼少期に読んだ日本人の戦争手記なんかに書かれた青年兵の描写のギャップが激しくて、かなり戸惑うというか、不快に感じるトコもあるのだけど、別の視点でみるとこうなるものなのかな、と割り切って読むしかないかも。 で、硫黄島の激戦終盤、あの旗を立てるシーンがあるわけだけど、これも、ふつーの兵隊が、しかも最初にたてた旗を取り替えただけふつーの行為を、たまたま写真に撮られて、それがやっぱりたまたま写りがよかった、というだけで、世界に強烈な印象を残し、被写体となった6人が半ば強制的にヒーローに祭り上げられる。 全米の国民が彼らに狂喜し、写真は売れまくり、政府はそれを利用して残りの対日本戦の資金集めにかかる。考えようによっては、あの写真が稼いだお金が、ヒロシマとナガサキに原爆を落とすのに使われたのかも、と思うと、ちょっと怖いかも。 で、写真に「偶然」写された本人たちとしては、硫黄島で果てた本当の英雄たちより、または、自分たちが戦争で本当に体験したことより、「写真に写った」という薄っぺらな事実によって自分たちが英雄に祭り上げられたことに生涯悩み続ける。戦争は、ある意味普通のヒトがヒーローになるのだけど(そもそも、戦争みたいな破壊行為が英雄行為として語られることには疑問があるけど)、「旗を取り替える」という行為はその要素に含まれない。失礼な例ではあるけど、一生懸命演技や動きを研究してアカデミー賞をとった俳優が、世間ではそのルックスしか話題にされないようなジレンマではないかと。 さすがに、生還したFlag raiserの息子が著者であるだけあって、その辺の心理描写はすごくよくできてたと思う。ところどころ、かなり脚色してるなー、と思うところはあるけど、その辺は、著者がリサーチを始めた時点ですでになくなっていた人達の行動を追って、当時の心理を想像するしかないのでしょうがないかな、と。この辺は、読者がいろいろ考えるべきなのかも。 オーディオだったんで、名前が視覚(文字)で結びつかなくて、6人のFlag raisersのうち戦死した3人については、前に描写されているキャラクターと、戦闘シーンでの行動がうまく結びつかなかったのが惜しい。自分にとっては聞くだけで名前を覚えるのは結構難しいんだな、何てことも、発見。本で読み返してみるのもいいかも。 自分にとって、第2次世界大戦の本というと、「ガラスのうさぎ」であり、「はだしのゲン」であり、「ビルマの竪琴」であり、大岡昇平であって、それも中学校くらいまでに読んだのばかりだから、この年になってこういう視点でこの戦争について考えてみるのも、自分の無知さが実感できていいかも、と思った。 日本人でない人と、第2次世界大戦について語り合うと、自分の意見が相手にぜんぜん伝わらないもどかしさ、というのを誰も体験すると思うけど、これって、お互いまったく違う土台に立って、まったく違う物語について語ってるせいなんだよね。この本読んで、そこら辺がちょっと分かった気がします。 てわけで、物語として読んでも、歴史的資料、文化研究の資料として読んでも興味深いかも。 父親たちの星条旗(邦訳)

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