2008/11/17(月)16:45
【会津ころり三観音】如法寺:鳥追観音(にょほうじ:とりおいかんのん)
【会津ころり三観音】
山号:金剛山(こんごうざん)
宗派:真言宗
本尊:聖観世音菩薩
巡拝日:2008年10月12日
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中田観音をお参りしたあと、遅い昼食をとったり寄り道をしたりで、
日はずいぶん西に傾いてきてしまった。秋の東北の、とりわけ山あいは、
午後4時にもなればかなり気温が下がって、夕暮れ時の寂しさに包まれる。
三観音はなんとしてもこの日のうちにまわりたかったので、
会津坂下から西会津まで一区間だけ高速に乗り、急いで鳥追観音へと向かう。
西会津インターを降りた時点で太陽はさらに西へ傾いて、
着くころにはすでに真っ暗なのではないだろうかと不安になりながら車を走らせたが、
インターから鳥追観音までは意外と短時間で到着した。
鳥追観音がおわす如法寺は現在も広い境内を有していて、
片側一車線の道路を挟んで北側に本堂、南側に観音堂が建っている。
駐車場へ着くと、売店のおばさんがもう店じまいを始めている。
こんな時間にお参りに来る人は、そう多くはないのだろう。
その売店のすぐ横に、簡素な仁王門が建っていた。
立木観音の恵隆寺、中田観音の弘安寺と同様、一層の簡素な門で、
これも同様大きなわらじが吊り下げられている。
福島県指定重要文化財。
仁王門をくぐると正面に観音堂が見えてくる。
ちょうど、沈みかけた西陽が観音堂の向こう側から差し込んでいるところだった。
この如法寺は“会津西方浄土”と称されていて、
鳥追観音へお参りすることで西方浄土への極楽往生が叶うとされているそうだけれど、
まさに西方からの希望の光がまばゆく刺しこんでいるような情景で、
この時間に訪ねることになったことも何かのお導きに違いないと、
西方浄土のいわれを信じてしまいそうな美しさだった。
ところでこの観音堂、仁王門方面から眺めてみると、
よくある寺社建築のような左右対称の造りにはなっていない。
建物の中心からやや左に寄ったところに向拝がついているのだ。
そしてさらに特徴的なことに、唐破風の向拝が東西南の三方向についている。
これこそまさに西方浄土という教え・考えを具現化したもので、
東の向拝から参り、鳥追観音に祈願し、西の向拝から降りることで、
西方浄土へ導かれるというわけだ。
東の向拝に掲げられた“曜光堂”の額があらわしているように、
向拝が東西を貫いていることによって、西陽が堂内に刺し込むようになっている。
黄金色の光に満たされる夕暮れ時こそ、このお堂を味わう絶好の時間帯なのだった。
建立は1612年。寺のパンフレットによれば日本唯一の構造とされ、
仁王門同様、観音堂も福島県指定重要文化財。
さて、堂内へと足を踏み入れる。
東の向拝から入って右手、つまり南を向いた状態で、
ご本尊の鳥追観音=聖観世音菩薩がいらっしゃる。
南にも向拝がつけられているのは、ひとえにご本尊のためなのだろう。
でなければ、ご本尊は一生壁に向かっていなければならなくなる。
ころり三観音の他のふたつは立像で背丈も高いけれど、
この鳥追観音さまは坐像で小ぶり。しかし、金色の光背がまさに後光のように輝いて、
その背丈以上の存在感を醸しだしている。上体をやや右側に傾け、
さてはおたくさん、なにか悩み事でも?
とでもこちらへ問いかけていそうな姿に見える。
福島県指定重要文化財。
内陣へは、靴を脱いで入ってゆくことができる。
そのおかげで、ご本尊の前に正座しじっくりと拝むことができる。
さらに内陣を奥へ進むと、顔や手を失い胴にさらしを巻いた金剛力士像が、
もはや金剛力士像であったのかすらわからないほど傷んだ姿で立っている。
身代わりなで仏と呼ばれるこの像は今も実際に撫でて拝むことができ、
極楽往生を願う多くの人から信仰されている。
傷んだ姿は、多くの人々からの信心の証し。
県指定重要文化財。
靴を履いて外陣へ戻る。
立木観音、中田観音と同様、このお堂にも抱きつき柱がある。
しかも男柱と女柱の2本。しっかり抱きついて心願する。
外陣の中にあるご朱印所で納経を済ませ、
ゆっくりと踏みしめながら西の向拝へ出た。
外へ出て、観音堂を四方から眺めてみる。
このお堂、南側から見ればきれいにシンメトリが保たれていて美しい。
お堂の周囲にはモミジが何本も植えられている。
もう少し訪ねる時期が遅ければ、
きっと鮮やかな赤に包まれたお堂を見ることができただろう。
ところで、このお堂の東の向拝部分には“隠れ三猿”と呼ばれる猿の彫刻がある。
かの有名な日光東照宮の三猿と同じ左甚五郎の作といわれるもので、
その居場所を探し当てた者には福がやってくるといわれているが、
日光の三猿のように三匹の猿がまとまっているのではなく、
しかもところどころ彩色が剥げてしまっているため、発見はかなり困難。
やっとの思いで二匹を見つけたものの、どうしてもあと一匹が見つからない。
さんざん探し回ったものの遂に根負けし、ご朱印所の男性にその居場所を教えてもらったのだった。
三猿探しに熱中しているうちに、すっかり夕暮れ時となった。
西方浄土の教えを具現化した観音堂の威厳と、ご本尊の存在感、愛嬌ある三猿。
どれも魅力に溢れていて、時間を経つのも忘れてしまうような美しく素晴らしい霊場だった。
金剛山如法寺
福島県耶麻郡西会津町野沢字如法寺乙3533 tel.0241-45-2061
http://www.torioi.com/index.php
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これで会津ころり三観音巡りはおしまい。
いずれも歴史と風格に満ちていて、見ごたえがあった。
また、合間に訪ねた湯川村の勝常寺、柳津町の円蔵寺(柳津虚空蔵尊)も含め、
会津の仏教文化の価値の高さを思い知らされた。
福島県出身者としてこうした寺を今まで訪ねたことがなかったことを、かなり悔いた。
今度は会津三十三観音巡りで、会津を訪ねる予定。いつになるかはわからないけれど。
しかし、その意思を固めるのに充分な旅になった。