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じゃくの音楽日記帳

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2010.12.23
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カテゴリ:演奏会(2010年)
12月3日サントリーホール、ドレスデン聖十字架合唱団ほかによる、バッハのマタイ受難曲を聴きました。合唱、独唱、器楽、指揮、みなみなすばらしく、感動のひとときでした。

ドレスデン聖十字架合唱団
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ローデリッヒ・クライレ(聖十字架教会カントール)
ソプラノ:ユッター・ベーネルト
アルト:マルグリート・ファン・ライゼン
テノール(福音史家):アンドレアス・ヴェラー
バス(イエス):クラウス・メルテンス
バス:ヘンリク・ベーム

バッハのマタイ受難曲。この音楽を初めて聴いたのは、タルコフスキーの映画「サクリファイス」の冒頭場面に流れるアリアでした。もう20年以上前、まだバッハの声楽曲にはほとんどなじみがない頃で、この音楽の意味がわからないばかりか、音楽自体にもそれほど心に響くものを感じませんでした。

僕が一番最初にバッハのマタイを生で聴いたのは、その少し後の頃だったと思います。オーチャードホールで、ロッチュ指揮、聖トーマス教会合唱団ほかによる演奏会でした。マタイ受難曲をほとんど聴いたことがないまま、ともかくご当地の演奏だから聴いてみようくらいの気持ちでした。少年合唱のコラールの響きがとても美しかったです。でもその他のことは良く覚えていません。まだ当時の自分には、マタイを受容する準備が整っていなかった、ということです。

その後、ガーディナー盤のCDを買い、少しずつマタイを聴きました。それでもなかなか僕にとってはなじみにくい音楽でした。大きな転機になったのは、90年代半ばに出版された礒山雅氏著の「マタイ受難曲」を買ったことです。とてもわかりやすく書かれたこの本を読みながら音楽を聴いていくことで、ようやくマタイの意味がわかり、音楽が少しずつ心に響いてくるようになりました。そしてマタイと言えばもう1冊、柳田邦男氏著の「犠牲 サクリファイス わが息子・脳死の11日」を丁度その頃に読んだことも、僕にとっては大きい体験でした。この本の中で重要な位置を占めるマタイ受難曲、その音楽の大きさ、深さを、マタイになじみつつあった僕は、漠然とながらも強く実感しました。この2冊の本との出会いがなかったら、マタイへの興味・共感を持つのにもっともっと時間がかかった事は間違いなく、その意味で僕にとって貴重な出会いでした。

次にマタイを生で聴いたのは、2003年4月のバッハ・コレギウム・ジャパン。彼らのアメリカ・ツアー終了直後の凱旋公演として、カザルスホールでヨハネ受難曲、東京オペラシティでマタイ受難曲、カザルスホールでマタイ受難曲と、3日続けての演奏会が行われときでした。丁度このときは、僕自身の仕事が大きく変わったときで、自分にとっての大きな節目のときでした。そのときにこの演奏会を3日続けて聴いたことで、またこれから頑張って行こうという自分の気持ちの区切りにもなりました。

その後、バッハ・コレギウム・ジャパンの定期会員になった関係で、彼らの演奏によるマタイを毎年聴くようになりました。一昨年には東京オペラシティで、聖トーマス教会合唱団ほかのマタイを、約20年振りに聴きました。回を重ねるたびにマタイの理解が深まる、かどうかはわかりませんが、マタイにだんだんと慣れ親しんできているのは確かです。信仰とは縁のない自分ですが、マタイの音楽の素晴らしさが、じわじわと体にしみてきています。

そして今回聴いたドレスデン聖十字架合唱団ほかによるマタイ。飾らず、ひたむきな、素晴らしい音楽でした。自分のマタイ体験の中でも、格別に感動的なものでした。

今回、親切に字幕があって、意味が分かりやすくて、良かったです。(バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会では字幕がありません。プログラムあるいは解説書などの日本語訳を見ながら聴けばわかるのですけど、それだとついつい手元ばかり見てしまいがちです。折角の演奏会なので演奏者も見ながら聴きたいと思う僕にとっては、字幕はやはり直感的に理解しやすくて、とても良いです。)

アルトは、カウンターテナーでなく女声のアルトでした。カウンターテナーもいいですが、僕はこの曲のアリアは良いアルトで歌われるのが好きです。今回のアルト歌手は、少しこもった感じの独特な声質で、ちょっと神秘的で、この音楽にあっていて、とっても気に入りました。この人、マーラーの大地の歌のCDを録音しているそうで、聴いてみたいと思います。

福音史家は、美声で、切々とした情感がこもっているかと思えば、ときに非常に劇的な迫力の表現もあり、熱唱にひきこまれました。イエスは、福音史家と対照的に、劇的な表現を抑え、静かな威厳と気品が保たれていて、とてもよかったです。

そして少年合唱が、すばらしかったです。この合唱団は、なんと800年!の歴史を持ち、現在は9歳から19歳までの男子150名からなるということです。彼らだけでソプラノ、アルト、テノール、バスの全パートが歌われました。とりわけコラールの響きは、このような少年合唱で歌われると、もうなんとも言えない響きです。

指揮の聖十字架教会カントールのクライレさんは、ゆったりしたテンポで、間合いをとって、音楽をじっくりとまとめてくれていました。こういうバッハ、僕はとても共感を覚えます。

演奏終了後、残響が消え、まだ指揮者が手をあげたままのときに、拍手がぱらぱらと始まりかけました。しかしその拍手はすぐに止んで、ホールは再び静寂につつまれ、しばらくして指揮者が手を下ろしてから、拍手が始まりました。その後温かな拍手が続き、スタンディングする人も少しずつ増えていき、僕も立って、彼らに感謝の拍手を心から送りました。ありがとうございました。

バッハ・コレギウム・ジャパンによるマタイは、毎年毎年新しい試みとして版や楽器の工夫を凝らしています。鈴木雅明さんのたゆまぬ研究意欲と情熱には頭が下がりますし、演奏者の超ハイレヴェルな技術(とりわけ器楽陣)から生まれる繊細で緊張感ある音楽は実に聴き応えがあります。彼らの音楽は、どちらかといえばとんがった方向、といったら語弊があるかもしれませんが、なにかしらユニークなものを生み出そうという姿勢(もちろん良い意味で)が感じられます。それと比べると、今回のドレスデンのマタイは、素朴というか、より自然体です。親から子へ、またその子へと脈々と受け継がれてきている、信仰と生活の共同体。その基盤の上で、日々ひたむきに修練することで、はじめて生まれ出てくる音楽。生活が伝統に根付いていて、その中から形作られてくる音楽。

その音楽が、共同体を超えて、世界の人々の心に滲みていく。






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Last updated  2010.12.23 19:59:32
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