2015/07/12(日)23:54
ハーディング・新日フィル&ストーティンらによるマーラーの復活
久々にコンサートの感想を書いておきます。
新日フィル第545回定期演奏会
2015年7月11日 すみだトリフォニーホール
マーラー 交響曲第2番「復活」
指揮:ダニエル・ハーディング
メゾソプラノ:クリスティアーネ・ストーティン
ソプラノ:ドロテア・レシュマン
合唱:栗友会合唱団
ハーディングの復活は、数年前東フィルとの演奏を聴きました。今回再びハーディングの復活が聴けるということだけが頭にあって、独唱者は誰か知らないで行きました。そしてプログラムを見てびっくり。メゾソプラノがクリスティアーネ・ストーティンさんです!
ストーティンさんは、最近ある歌曲集のCDで知って、その現代的で思索的な歌唱が非常に気に入っていたオランダの歌手です。公式ホームページでディスコグラフィーを見ると、ハイティンク・シカゴ響やユロフスキ・ロンドンフィルとマーラー復活を録音しているし、マーラー歌曲集も録音しています。この人の歌で復活が聴けるとは、期待が高まります。
舞台配置は、弦は舞台下手からCb, 1stVn, Vc, Va, 2ndVnの両翼配置で、舞台上手側(向かって右側)の端にハープ2台です。ハープの少し後方に、チューブラーベルがおいてありますが、通常のものよりもすごく太いベルでした。合唱団はステージ後方の雛壇に普通に横並びで、独唱者は合唱団と同じステージ後方のセンターです。
合唱団はオケの入場に先立って最初から入場し、ステージ後方の雛壇に、3列ほどで横にずらっと並びました。結構な大人数です。普通に下手側半分が女声、上手側半分が男声です。合唱に引き続いてオケが入場し、ステージ上を埋め尽くしました。そしてハーディング登場。
第一楽章は、気合が入っていましたが、やや硬さが感じられました。第一楽章が終わって、一呼吸おいている間に、オルガニストが入場し、もう一呼吸おいて、独唱者が入場してきました。このときに少し拍手が起こってしまったのは惜しかったです。2人の独唱者は、合唱団のすぐ前のセンターに位置して、座りました。
第二楽章から、音楽が俄然しなやかな感じを帯び始め、僕としても音楽に没入できました。ハーディングの体の揺れが実に音楽的で、ワルツが豊かに歌われ、とても魅力的です。そして第二楽章が終わってから、そのままアタッカで第三楽章に入りました。マーラーの指示は第三楽章以降がアタッカですが、ハーディングは第二楽章以降をすべてアタッカでやりました。演奏するオケは大変でしょうけれど、緊張が保たれてとても良いです。
第三楽章の終わりごろに、ストーティンさんが静かに立ち、そのまま第四楽章に。この歌い出しが、非常に小さな声で、はっとする驚きとともに、思わず涙が出てしまいました。そしてここからストーティンさんの、きわめて個性的で感動的な歌を聴くことができました。この人、声そのものが特別美しいということではありません。発声も、ときどきこの曲で聴けることがある深々とした聴きほれるような声質ではなく、何かちょっと独特な「浅さ」を感じます。おそらくマーラーを歌う上で意識的にそういう声を出しているのだろうと思います。音程も、ときどき微妙に低かったりします。ですので普通に聴いて美しい、というものではありません。むしろ普通に聴いたら、この人それほどうまくないじゃん、と思われてしまうかもしれないです。それなのになぜだろう、この歌には、真実を訴えて来る中身がしっかりあります。私この楽章の数分間、ほぼ涙が出っ放しで止まりませんでした。復活の第四楽章で、ここまでの体験はそう滅多にしたことがありません。この第四楽章はちょっと忘れられません。ストーティンさん、只者ではない。
第五楽章、合唱部分のテンポがぐっと落とされ、合唱の緊張感が非常に高く、かなり聴きごたえがありました。ストーティンさんのやや抑えめの歌唱は、第五楽章でも聴きものでした。しかしソプラノはその方向とちょっと違い、ストレートに押してくる歌唱で、全体の中でソプラノだけ少々浮いてしまうような違和感があり、残念でした。なお合唱は、歌いだしはずーっと座ったままで、最後近くにアルトとソプラノの二重唱が始まる直前(練習番号44)で一斉に立つ、というタイミングでした。
それからもう一つ良かったのは、終楽章のバンダの響きです。練習番号3で出てくるホルンのエコーは、本当に遠くから響いてくる感じで、ゆったりとしてテンポとともに、素晴らしかったです。ただし、練習番号22~24の、舞台裏のトランペットと打楽器がファンファーレを繰り返しながら次第に盛り上がっていくところは、舞台下手のドアのすぐ裏でやっている感じで、距離感がなくていただけませんでした。しかしそのあと、練習番号29~30の、ホルンのエコーがふたたび出るところと、引き続いてマーラーが「大いなる呼び声」と呼んだ、4本のトランペットが遠くから響き、舞台上のフルートとピッコロとともに合唱を導入する部分、ここの響きも、とても遠くから響いてきて、文句なく素晴らしかったです。僕は1階の前寄り・左寄りの席で聴いていたのですが、そこの席できいた感じでは、バンダのホルンはやや前の遠くの方から、そしてバンダのトランペットは後ろの方から聞こえて来るような感じがしました。もしかしたらトランペットは実際にホール後ろの方の舞台裏で吹いていたのかもしれません。(このホールは、後上方の左右に、ホールの空間より少し左右に引っ込んで半分通路になっているようなスペースがあり、そこで演奏することが可能なようです。だいぶ以前に井上道義さんがマーラー3番をやったとき、ここに少年合唱団を配置して、独特な効果を上げていました。)今回そこでバンダのトランペットが演奏したのかどうか、定かではありませんが、ともかく今回の練習番号3と29~30の空間効果は見事でした。
ところでハーディングが数年前に東フィルと復活を演奏したときの記憶は、もう一部しか覚えていませんが、今回と同じように、1)第二楽章以下を全部アタッカで演奏、2)普通より太いチューブラーベルを使用、3)合唱団が入るところですごくテンポを落とした、などの点が印象に残っています。総じてなかなか感動的な演奏だったと記憶しています。今回も基本同じ路線だったと思います。
もしもハーディングに欲を言うとすれば、ハープの一音などのちょっとしたところに、さらなるこだわりを見せてほしいです。鐘の音も、折角通常より太いチューブのベルを使っているわりには平凡な、目立たない音で、鐘の音にこだわる僕としてはいささか物足りなかったです。ハーディングのマーラーは、よくも悪くも純粋な感じ、まっすぐな感じがします。うまく言えないのですが、もう少し余分なもの、きれいに整理できないものが出てくれると、僕の好きなマーラー演奏像に近づいてくれるのですが。
しかしもちろん、ハーディングの指揮は、非常に気合がはいっていて、素晴らしい復活だったです。オケも、すごく気合が入っていて、ハーディングの棒と真剣勝負、という気迫が感じられました。二日公演の二日目ということもあってか、オケのパフォーマンスもかなり充実していて、大きな傷なく健闘していました。ハーディングとの強い信頼関係を感じました。良い復活を聴くことができて、感謝です。
ハーディングは来年8月、マーラー8番をやります。これが新日フィルのミュージック・パートナーとしての時代の、一つの区切りになるのだろうと思います。かつてアルミンクが8月のマーラー3番で音楽監督を終えたように。