女性作家、ジョーン・フレミングの犯罪スリラー小説を
1983年、土曜ワイド劇場にてドラマ化したのが
「母に捧げる犯罪　美しい女相続人」である。

幼い頃、母親から「お前は美男子なんだよ。
いつかその事があんたを幸せするんだよ」と
言われ続けていた速水貴夫（沖雅也）

その生まれつきの美貌を武器に速水貴夫は
不動産会社に勤め、裕福な女性に取り入り
一生遊んで暮らせる金を求めていた。

目的の為には手段を選ばない速水貴夫は
まず勤務先の不動産会社会長・高井雪江
（加茂さくら）を翻弄し

そして秘かに速水貴夫を慕う新藤アキ（浅野真弓）
その母親の新藤シズ（馬淵晴子）の母娘を
速水貴夫は騙し、次々に殺人を重ねた。

速水貴夫の次の標的は莫大な額の不動産を相続した
佐伯加代子（酒井和歌子）に絞った。

そんな中、連続殺人事件を追い
次第に速水に興味を持つ武内刑事（長門裕之）は
速水貴夫の出生の秘密に触れ
更なる謎に巻き込まれてゆく・・・

本作は沖雅也の遺作となった作品であり
当時の土曜ワイド劇場は完成作品の納期が
とても速く、作品ストック数が多い為
撮影終了から放送されるまで一年ほど掛るのだが
沖雅也の死で急遽繰り上げ放映になった。

主役を演じた沖雅也は1968年日活俳優として
映画「ある少女の告白・純潔」でデビューし
翌年には早くもエランドール新人賞を受賞。

「さぼてんとマシュマロ」で明るい青年を演じ
アイドル的な人気を博し、「必殺仕置人」の
棺桶の錠役では血の気盛んな青年を演じている。

何かと明るいキャラを演じてきた沖雅也だったが
「必殺仕置屋稼業」でクールで冷徹な殺し屋を演じた事で
沖雅也の俳優人生が変わってしまった。

テレビ、映画制作陣は沖雅也にクールな演技を求めてしまい
「太陽にほえろ」スコッチ刑事「姿三四郎」檜垣源之助
「大奥」徳川家光「悪魔が来りて笛を吹く」三島東太郎
「乱れからくり」馬割朋浩など非情かつ表情のない
クールな役を与えられ続けられ
これが沖雅也の苦悩の日々の兆候となった。

役作りのため極端に肥満を忌避する様になり
ほぼ野菜だけの食生活を送る中、
過密スケジュールも重なり心身のバランスが乱れてしまった。

このギャップの中、自由な演技を俳優陣が求めた
「大追跡」「俺たちは天使だ」では
本来持っている明るさでアドリブを連発し
作品設定を自由に変えるなど楽しい撮影となった。

しかし「太陽にほえろ」スコッチ刑事復活を機に
クールな役に戻ってしまい
この苦悩の中で本作に取り組んだ沖雅也は
回想シーンでは高校生、ラストシーンは
白髪頭になり母親の墓石に頬づりして口づけするという
かなりインパクトの強い演技をこなしていた。

苦悩に耐え切れず自ら命を絶ったが
役づくり、アドリブの名手、役者としての拘りと
沖雅也は松田優作との共通点が多いが

もし、この二人が現在生きていたら
今の俳優の世界は変わっていたと思う。



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