命は一度捨てるもの
新・木枯し紋次郎を読む 第21話「冗談じゃない。ここでこうして待っていて、お前さんを掴まえたんじゃないか。今日は、高砂屋に是が非でも、草鞋を脱いで貰うからね」長兵衛が、ムッとした顔で言った。命令する権利があると、その顔には書いてあった。二十数年前、飢えていた紋次郎にさんざ食べる物を恵んでやったではないかと、長兵衛は貸しがあることを明らかに意識しているのだった。「折角ですが、旅籠になんぞ泊まれるような身分じゃあござんせん」紋次郎は、腰を屈めた。「駄目だよ、紋次郎」長兵衛は、紋次郎の腕を掴んだ。そうなると紋次郎も、振り切ることはできなかった。二十数年前のことにしろ、借りがあるという弱味は捨てきれなかった。「幼馴染みってえのは、大したもんでござんすね」「この三日の間で、借りは返しやしたぜ」※奈良井宿(長野県塩尻市)福島(長野県伊那市)ブログランキング★TV