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テーマ:木枯し紋次郎(185)
カテゴリ:本を読む
続・木枯し紋次郎を読む 第20話
「与作さんも、無宿だとかおっしゃいやしたねえ」 「そうだとも。わしが人別帳外にされてからは、もう三十五年にもなるんだよ」 「だったら、おわかりだと思いやす。無宿の渡世人に、故郷なんてものがあるんでござんしょうかね」 「生まれ故郷に、あまりいい思い出はねえみてえだな」 「何かを思い出せるうちは、まだ心が繋がっているんでござんしょう。生まれ故郷もほかの知らねえ土地と同じものになっちまえば、もう思い出すようなことさえありやせん」 「とんでもござんせん。遠慮は抜きで、こちらの土間の片隅を貸して頂きやす」 「そうかね。だったら、是非そうしなせえよ。互えに無宿同士、明日は見も知らねえ間柄だ。気楽に過ごせるってのも、もてなしのうちだろうからな」 「そいつは、他所者に聞かせたくねえ話じゃあねえんでござんせんかい」 「そうだとも。だから、他所者は追い払ったでねえか」 「他所者は、まだおりやすぜ」 「え・・・?」 「この、あっしでござんす」 「知ったふうなことを、吐かしおって・・・。やい、紋次郎!この婆アはな、痩せこけた餓鬼の時分のおめえに何度も、粥の残りや芋のシッポを食わしてやったことがあっただ。その度におめえは、涙を浮かべてガツガツと喰らいやがった。それが、何でえ!見も知らねえだの、通りすがりだのって・・・。いまでこそ行方知れずになってこの土地にはいねえが、おめえの親兄弟だって昔は何かと村の衆の世話になっていただあ。ひとりで生きのびて来たみてえな、でけえ口を叩くんじゃあねえ!」 「恐れ入りますが、新田郡の三日月村は・・・」 「申し訳ござんせん。あっしはただの、通りすがりの者で・・・」 ※上州新田郡(群馬県太田市) ブログランキング★TV お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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