ショート・シナリオの館

2014/06/09(月)08:16

郷愁を誘う 水郷・潮来(いたこ)の「嫁入り舟」

「いずれ アヤメか、カキツバタ」という言い回しがあります。現在では、優劣をつけが たいほど素晴らしいものに対して使っていると思いますが、5~6月にかけて開花する アヤメ科の植物はアヤメ・カキツバタ・ハナショウブなど、いささか見分けるのが難しい のです。  「あやめ祭り開催中」というパンフレットを目にした途端、無性にその花を見たくなり、 潮来市の会場へ足を運びました。すでに6月。ということは、あやめ園と名前がついて いますが、今、盛りを迎えようとしているのはハナショウブです。ノハナショウブを原種 として改良されたそうで、江戸系・肥後系・伊勢系等がそれぞれ特色のある姿かたち の花を美しく咲かせていました。  観光客たちが一ヶ所に集まり始めました。お目当ては「嫁入り舟」。園内を徒歩で やって来た花嫁さんと仲人さんが、これからサッパ舟に乗り込むのです。私が前川 沿いにポジショニングしていると、妻は一目散に駆け出して行ってしまいました。 少し先にある橋の上から写真を撮ることにしたようです。あっという間に、橋に到着し、 欄干の上にカメラを乗せてスタンバイ。二人が違う視点で撮影するのはグッド・アイ デアです。  いよいよ、嫁入り舟が動き始めました。サッパ舟とは底が平たい小型の和船。 文金高島田に白い角隠しを付けた白無垢姿の花嫁さんが仲人さんと共に乗っていま す。船頭さんの櫓さばきも滑らかに、ゆっくりと進みます。新郎の待つ潮来市の縁結 びスポットである「WAi WAiファンタジア」へ向かうのだと、そばにいた人から情報を得 ました。それは妻が陣取った橋のたもと。期せずして撮影には最高の場所を、妻は 選んでいたのです。  昭和30年前半までは日常的に使われていたサッパ舟も、生活形態や交通手段の 変化によって見られなくなっていた「嫁入り舟」。昭和60年に開催された「つくば科学 万博」の「潮来市の日」のイベントとして復活させたのがきっかけで、現在の「あやめ 祭り」でのイベントにつながったそうです。  舟で行く花嫁を目で追いかけながら、一瞬、昔の映画のワンシーンでも見ているよ うな錯覚に陥りました。水郷の花嫁は「こうでなくっちゃ!」と思いつつ、なぜか懐かし さが胸いっぱいに広がることが不思議でたまりませんでした。  目的地に到着し、新郎に手を引かれて下船した新婦は、恥ずかしがりながらも嬉しそう な微笑みを浮かべていました。縁結びスポットでの一連の式次第を終えて、車に乗り込 み新郎新婦は去って行きました。 周りで見守っていた観光客たちの拍手を背に受けながら。  帰りの車中での私たちの会話です。 私:いや~、今日はイイモノを見させてもらったね~ 妻:舟で行く花嫁って、すごく素敵。昔の歌では、馬に揺られて行く花嫁が多かったよう    な気がするけど、私たちの時代は、なんといっても「♪花~嫁は~ 夜汽車~に乗    って~♪」よね。私もそのうちの一人だったのに、夜汽車も次々に消えちゃった。    寂しいな。 夫:まさに「昭和は遠くなりにけり」だよ。 妻:そういえば、今日の「嫁入り舟」も昭和の文化遺産じゃないの?例え、一年のうちの    一時期だけでも、「かつては日常的に見られた風景です。」というものを、皆に見て    もらうことは、とても大切だと私は思うわ。人々の記憶に残す意味でもね。 夫:そうか!昭和の遺産か。それで、無性に懐かしい思いが胸に沸き起こったんだな。    僕たちの青春は昭和と共にあったんだから。 妻:私たちが過ごしたのは、戦後だけなんだけどね。 夫:それに今日の二人は正真正銘の花婿・花嫁だったから、単なるイベントではないん    だよ。見ず知らずの人たちからも拍手をもらって、最高の結婚式だったんじゃない    かな。 妻:きっと、幸せになれるわね。 夫:昭和の話に戻るけど、僕たちにとってはスカイツリーよりも東京タワーだよね。    「ALWAYS 三丁目の夕日 」っていう映画を見たときはあまりの懐かしさに涙が出    そうだったよ。あの中の風景や人々は、まさに僕がリアルタイムで生きた、そのも    のズバリだったから。 妻:東京出身のあなたにとっては、あの映画の中に自分自身が出てくるような気がした    んじゃないの。私はあの当時、修学旅行で東京に行ったけど、オリンピックの準備    で、あちこちが工事中。味気ない所だな~って印象だったわ。 夫:あらからウン十年。2020年の東京オリンピックに向けて、また東京が変身すること    になる。東京から、昭和の遺産が次々に消えていく・・・なんてことにならなきゃいい    んだけどね。ア~、あの頃は良かったな~

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