ショート・シナリオの館

2021/01/11(月)09:31

「氏神」様そして杉、シュロとのご縁

散歩道のルート上に一昔前は、かやぶき屋根の農家が並んでいたのではないかと思わせる雰囲気を残している集落があります。別所町という立派な町名を持っていますが、家屋は36世帯のみ、店舗ゼロ、公的施設ゼロ、集落内の道は狭くてくねっており、コミュニティバスも入って来ません。一言で言うなら「箱庭」のような集落です。日本一小さな町の一つかもしれませんね。この集落はとても古く、私の住む新興住宅団地はこの集落を保存するように、新設の幹線道路を隔てた向かい側にあり、今でも周りから隔絶された区域です。集落を歩いていると、高低差あり、凹凸のある入り江のような地形もありで、変化に富んでいます。高台では畑や竹林が多く、低地では田んぼの水田が広がる里山の絵を写し撮ったような環境です。他にも特徴があります。それは古い集落なので家々の敷地内にある垣根や庭木が、太く大きく100年以上と言われる古木が多いことです。それだけ、何世代にも渡って受け継がれてきた家々が多いのです。今と昔が混在していて時代感覚がマヒする雰囲気が残されているので、私は好んで散歩道として歩いています。参照:本ブログ「屋敷守りとなった巨樹たち」2020年6月15日 最近になって集落内に気になる空き地を見つけました。大きな農家があったと思われる空き地の一角に、「氏神」と書かれた碑が残されているのです。碑は太い杉の木の根元にあり、杉の枝の葉で雨風から守られているようです。そして、面白いことに、その杉の木の葉で陽ざしをさえぎられては大変だと、懸命に杉の枝の中から背伸びをして頭を出している、ひょろひょろと成長したシュロの木が寄り添っています。まるでポパイまんがのポパイがガールフレンドのオリーブの肩を抱いているようです。(さすが老人は言うことが古いね) この敷地が空き地になった理由は知る由もありませんが、転居した住人が、「氏神」様の碑と杉の木そしてシュロの木を三位一体として、この地に残したものであることは間違いないと思うのです。碑はしっかりと地面に固定されていますが、野ざらし状態であり、小さな欠けがあったりで、大切に扱われているようには見えません。この集落に住む人はほとんどが氏子だと思うし、氏神様を大切にする心を持った人たちばかりだと思うのです。なぜ「氏神」様の碑がこのような姿でこの場所に置かれているのかが気になりました。 スギ :オイ!起きろ!久し振りに俺たちにカメラを向けている人間がいるぜ。もう    忘れられた存在になっちまったと嘆いていたけど、嬉しいじゃないか。初め    ての顔だな。シュロ:いい気持ちで寝ていたのに起こさないでよ。人間なんて何も珍しくないじゃ    ないの。氏神さまに手を合わせに来る人はいるんだからさ。スギ :氏神さまじゃなくて、俺たちに関心を持ってカメラを向けている人間が珍し    いのだよ。俺たちをいつも見上げてくれる、お爺ちゃん、お婆ちゃんもコロ    ナの影響だろうね、最近はすっかりご無沙汰だから、俺たちに注目してくれ    たのが嬉しいな。シュロ:お屋敷が無くなってもう何年になるかしらね。あの当時は私たちの仲間も多    くいたし、人間の声も鳥のさえずりも賑やかに聞こえていたわね。本当に寂    しくなったわ。スギ :ところで、いつまでも俺の枝を枕にして寝るのはやめてほしいね。カメラを    向けてくれているんだぜ。しゃきっと立ったらどうなんだ。シュロ:私だってしゃきっとしたいけど、このスタイルになったのはあなたにも責任    があるのよ。あなたがどんどん背が伸びて枝を大きく張るから、私はお天と    うさんの陽を求めてこんなヒョロヒョロな姿になったのよ。枝枕ぐらいの労力    を提供したって罰が当たらないわよ。氏神さまもそう言っていたじゃないの。    これでいいのよ。スギ :俺は枝枕でお前さんに貢献しているけど、お前さんからは何も恩恵を受けたこ    とがない。不公平じゃないか。シュロ:話し相手になっているじゃない。あなたにとってはものすごく大きな恩恵よ。    私がいなければここで独りぼっちなのよ。枝枕ぐらいは我慢しなさい。スギ :相変わらず減らず口を叩くな。オイ!カメラマンが氏神さまの存在に気付いた              ようだ。氏神さまは小さいからな、知る人ぞ知るで、知らずに通り過ぎる人が    ほとんどだから、気付いてくれて嬉しいじゃないか。おや!なぜここに氏神さ    まの碑がこんな形で残されているのか気になっているようだぜ。シュロ:氏神さまは、この地域に住む人達を守っている神様だから、転居する時に移せ    なかったのだと思うわ。私たちがここにいられるのも、氏神さまが寂しくない    ようにと願ったからだと思っている。スギ :俺たちはここを動けないけど、氏神さまはいつも忙しいな。今もいないよ。シュロ:氏神さまは今日も千の風に乗って氏子さんの家々を巡っているのよ。スギ :オイオイ!ここは墓じゃないんだから、氏神さまが千の風に乗ってはないだろう。シュロ:まあ~マ!固いことを言わないでよ。昔はここに氏子さんが大勢集まっていたの    にね。みんなが集まらなくなって、氏神さまがかわいそうに思う時があるわ。スギ :それにしても氏神さまは律儀だよな。人間たちが気付かないところでしっかり見    守っているのだからな。それにしてもこの姿はみすぼらしいね。もっと大切に扱    ってあげて欲しいと思うよ。シュロ:私も同感よ。でも私たちができることは、この碑がこれ以上風化して壊れないよ    うに、枝を張って、風雪から守ってあげることだけよね。あ~あ!又、眠くなっ    ちゃった。もう起こさないでよ。スギ :早や~い!もう寝ちゃった。確かに一本杉としてここで孤独でいるよりは、こん    な口うるさいやつだけど、話し相手がいる方がいいかもしれないな。お~い、    カメラマン。いい写真が撮れたかい。又、ここを通ったら声を掛けてくれよな。 この集落では古い習慣やご先祖さんとの絆を大切にしている人が多いと思うのです。それにしては「氏神」様の扱いに神経が通っていないように思えて気になりました。私には分からない事情があるのかもしれないですけどね。 皆さま、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。 コロナ禍で静かなお正月を迎えている方が多いでしょうね。私もこの一年間、「感染しない」「感染させない」行動で一日でも早いコロナ禍の収束に貢献して参ります。 

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