ショート・シナリオの館

2021/11/18(木)08:22

茨城味自慢:鹿行の「さつまいも」には先端技術が生きている

 「農業総産出額」という言葉をご存知でしょうか。農業総産出額とは、農家の人が稲作や、野菜栽培、果実栽培、畜産などの農業生産によって得られた農畜産物と、その農畜産物を原料として作られた加工農産物を販売した売上額のことです。2019年の日本の農業総産出額は8兆8,938憶円でした。農業の部門別の順位は、1位 野菜( 21,515憶円)、2位 米(17,426憶円)、3位 果実(8,399憶円)、4位 肉用牛(7,880憶円)、5位 生乳(7,628憶円)です。 茨城県は農業総産出額が1位の野菜部門の中の「さつまいも(かんしょ)」の部で全国第1位、26%のシェアを誇ります。作付面積・生産量でも、全国第2位の大産地です。生産量が2位で、総産出額が1位ということは、生産量1位の県よりも高い付加価値のあるさつまいもの栽培と、さつまいもの加工品の生産がなされているということになります。今回は茨城県の高質な「さつまいも」を紹介します。 <日本のさつまいも栽培の歴史>さつまいもの原産地は、メキシコを中心とする中央アメリカと言われており、古くから南アメリカで栽培されていました。日本には、1597年に中国から宮古島に入ったのが最初と言われています。その後、薩摩、長崎と順次、九州地方に広がっていき、江戸時代初~中期のたび重なる飢饉によって救荒作物として注目されていきました。そして、1735年に幕府が蘭学者の青木昆陽(甘藷(かんしょ)先生)に試験栽培を命じ、1737年に栽培に成功し、以後関東地方でも広く栽培されるようになりました。 <茨城県のさつまいも栽培の歴史>茨城県の鹿行(ろっこう)地域(鉾田市、行方市が中心)は、かつて献上品用の葉たばこの一大産地として知られていました。ところが2011年に葉たばこ廃作の奨励があったことで、同じくこの土地に適したさつまいもに転作する農家が激増したのです。こうして作付面積2位となったので、さつまいもの大産地としての歴史はまだ浅いのです。さつまいも栽培では後発ですが、この地域にはアドバンテージがありました。それはイモづくりに最高に適した気候と土地があり、ひとつの区画で複数の品種を育てることが可能だったことです。サツマイモは品種によって、収穫後に糖度が増す速さが異なります。これを利用し、収穫後すぐに食べ頃をむかえる品種から、寝かせることで糖度を増す品種までを、リレー方式で出荷しました。つまり、品種と熟成期間を変えながら、いつでも市場に食べ頃のサツマイモを届けられるように調整したのです。また、PRには糖度や食感の特性といったデータ、お勧めの調理法などを記した冊子も活用しました。更に、サツマイモの出荷量を底上げすべく、加工品にも力を入れました。目をつけたのは焼き芋。当時としては珍しい石焼き機をスーパーマーケットの店頭に設置し、焼き芋の販売を開始して大成功、現在では加工品の種類は広がり、干し芋は全国シェア90%を占める大商品となっています。こうして消費者ニーズを正しく捉え、的確な配分で栽培することで、短期間でさつまいもの総産出額1位、そして生産量2位までに急成長したのです。当初は転作農家の突然の激増で、余剰生産が心配でしたが現在では引く手あまたなのです。 <さつまいも生産量ランキング>さつまいもの生産量日本一(2020年)は鹿児島県でシェアは31.2%、2位茨城県(26.5%)、3位千葉県(13.1%)、4位宮崎県(11,3%)で4県あわせて、国内生産量の80,5%を生産しています。鹿児島県は作付面積、生産量共に1位です。品種としては、芋焼酎の原料になる「黄金千貫」に加え、でんぶんの原料になる「シロユタカ」の栽培が盛んです。一方、茨城県は東日本の代表品種であり甘く焼き芋に向いた「紅あずま」が主な栽培品種で、次いで甘くなめらかな「紅はるか」が栽培されています。すなわち鹿児島県は「飲むためのさつまいも」で、茨城県は「食べるためのさつまいも」だということです。さつまいも総産出額が逆転1位の理由はこの用途の違いに起因していると思います。 <鹿行地域で栽培されるさつまいもの代表的な品種>①紅あずま:関東で根強い人気を誇る品種。鮮やかな紅色の姿をしており、果肉は   黄色く粉質で、繊維質が少ないのが特長。煮くずれしにくいことから煮炊き   料理に向く。②紅はるか:皮色が美しく、熱を加えたときの糖度が高いのが特長の品種。甘味は   強いけれど、後味はすっきり爽やかです。焼き芋、干し芋に人気。③紅こがね:JAなめがたしおさいのオリジナルブランド。紅あずまの選抜品種。ま   るでスイーツのようなホクホクした食感と、口の中いっぱいに広がる豊かな   甘みが特徴。④シルクスイート:平成24年から種苗の販売が始まった新しい品種。絹のようななめ   らかな食感と、甘さが特徴で近年人気です。焼き芋、干し芋に人気。 <保存方法>サツマイモは寒さに弱く、冷蔵庫に入れると黒ずんで痛んでしまいます。外で保存する場合も同様ですので冬季には外に置かないようにして下さい。また、水気がつくと腐りやすくなりますので注意が必要です。寒さと、乾燥から保護するためにも新聞紙に包んで、日の当たらない暗所で保存して下さい。 <さつまいもの豆知識>(1)さつまいもの旬:秋のイメージがありますが、最もおいしく食べられるのは     秋~冬にかけてです。さつまいもは収穫後、2~3か月ほど貯蔵すること     で水分が抜け、甘くおいしいさつまいもに変化します。収穫されるのは     8~11月頃ですが、おいしく食べられるのはその2~3か月後の10~1月     頃というわけです。スーパーで手ごろな価格で手に入るのもこの時期で     す。(2)さつまいもの栄養価と効能:食物繊維が豊富で、また切り口から出るヤラピ     ンが腸の働きを促し、食物繊維との相乗効果で便秘の改善に効果的で     す。ビタミンCやパントテン酸が多く含まれています。皮部には肉質部     よりもカルシウムが多く含まれています。また、皮の紫色には抗酸化作     用の高いアントシアニンが含まれています。よく洗って皮も活かしま     しょう。(3)選び方:皮の色が鮮やかで傷や黒ずみがなく、ヒゲ根が少ないものを選びま     しょう。年明けから春にかけて出荷される貯蔵もののサツマイモは、デ     ンプン質が糖化し、水分も抜けることで甘さが濃くなっています。(4)おなら:サツマイモは食べた後にでるおならが気になりますね。実は、その     時のおならは臭くないことを知っていましたか?サツマイモを消化する     時に発生するガスの種類は炭酸ガスで、臭さの素になるアンモニアがほ     とんど含まれていないのです。 <旬のリレーで365日おいしい、鹿行産の「さつまいも」>鹿行地域内にあるJAなめがたしおさいは、生産量・品質ともに全国トップクラスを誇っています。ここも旬の品種をリレー形式で供給しているのが、大きな特色で「春夏秋冬、365日しっとり甘いさつまいも」を消費者へ届ける体制を整えています。管理環境にもこだわり、平成17年にはキュアリング定温・定湿貯蔵庫を建設。収穫後のさつまいもを定温・定湿度条件で貯蔵することで、熟成し甘くしっとりしたさつまいもを、1年を通じて安定的に出荷することを可能にしました。2017年に行方産さつまいもは最高栄誉である農林水産祭天皇杯を受賞しています。高品質の証明ですね。 <鹿行産のさつまいもには、貯蔵性、甘み、しっとり感を高める先進技術が生きている>熟成過程で行うキュアリング処理とは、温度32℃、湿度90%以上で4日間保管し、表皮下のコルク層を増やすことで、貯蔵性をグッと高める技術です。さらに、定温・定湿状態(温度13℃、湿度90%以上)で貯蔵しているのもポイント。研究によって、この貯蔵条件こそが「さつまいもが最も消耗しにくく、長期保存できる」という結果が出ています。また、さつまいもは貯蔵することによって、βアミラーゼ酵素の働きでテンプンが麦芽糖に変化し、甘味としっとり感が増します。 キュアリング処理と最適な貯蔵条件により、9ヵ月間も熟成された「熟成紅こがね」は、糖度が非常に高く、焼き芋にすると甘味がさらに増し、しっとりとした口あたり。冷めても柔らかで、濃厚な風味を味わうことができます。 鹿行産のさつまいもは旬の時期に入っています。店頭で見つけて、是非、是非、ご賞味あれ!

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