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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

『天使の手鏡』・第6章~第8章

『天使の手鏡』・第6章『始動』・・・第1話

私の使命は変わらないと真っ先にトマスが伝えてくれたので、いつものように診療所を開けていました。
 
しかし、他の天使たちは毎日のように、新しい使命について話し合っていましす。

私は何だか取り残されたようで余計に落ち着かず、診療所の片付けや掃除などを
していました。すると、

〔先生、いらっしゃいますか?〕

と、一人の女性が訪ねてきました。

「はい、どうぞ」

〔失礼します〕

患者ではないように感じました。

「どうしましたか?」

〔この子たちの翼を診てほしいのです〕

彼女はそう言うと天使のゆりかご(天使の羽で作られた浮かぶゆりかご)を七つ紐で繋いだものを引っ張り入れました。

「その子たちはまさか・・・」

〔はい、昨日生まれ変わった子供たちです。今日は初めての検診をお願いしようかと、お忙しいですか?〕

「いえ・・・」

私は慌ててその子たちに駆け寄りました。そう、彼を探したのです・・・

「オルガ・・・」

姿が変わっても私には分かりました。

〔まさか、お知り合いだったのですか?〕

「はい、以前ここに・・・」

〔彼は中でもリーダー的な存在だったと聞きました〕

「そうですか・・・」

彼はもちろん記憶はないでしょうが、つぶらな瞳で私を見つめ、満面の笑顔で小さな手を伸ばしました。

「・・・」

涙が自然と出ました。私は抱きかかえ、抱きしめました。そして、私の狭い心で辛くあたったことを謝りました。

「オルガ・・・1番辛い思いをしていたのは君たちだったんだね、私は何も見ず、聞き入れず君を拒否してしまった・・・本当にすまなかった」

〔先生・・・〕

「すみません、どうしても謝りたくて」

〔いえ・・・〕

「それでは診てみましょう」

〔お願いします〕

私は1人ずつ抱きかかえ、翼の具合を診ました。

プットたちの翼はとても元気で良い翼を持っていました。・

「みんな大丈夫です。とても良い天使になることでしょう、どうかこの子たちを大切に育ててやってください・・・この子たちは未来です。どうかよろしくお願いします」

〔はい、それが私の使命です。私の全てをかけて大切に育てます。それではまた次の検診の時に〕

「はい、お願いします・・・」

私は最後にまたオルガに手を伸ばしました。すると、オルガは小さな、小さな手で私の指を握りました。

「大きくなったら、沢山話そうな・・・」

そうして、彼女とプットたちは帰っていきました。

彼が変わったことが私の心の痛みになっていましたが、あの笑顔を見てやっと良かったと思えました・・・


それから、今日はあの子たち以外誰も訪れませんでした。
こんなに長く、孤独に感じる日は初めてでした・・・

そして、夜になるとまたサラの事を想い、それを打ち消し、それを朝まで繰り返しました・・・

その日、昨日の静けさが嘘だったように朝から沢山の天使たちが新しい使命を知らせにやってきてくれました。

と、同時に戸惑いを打ち明ける天使たちも沢山居ました。それはやはり以前、人と関わりを持つ者ばかりでした。

そんな中、祭典の時に一緒だったヴィクターがやってきたのです。

「ヴィクター待っていたぞ、新しい使命は言い渡されたかい?」

[はい、もう知っていらっしゃるでしょうが、今回から同じ使命を言い渡された者同士、班を組み、使命を複数でします]

「また迷う者がでないように、そして、助け合えるようにだね?」

[はい、私たちの班の使命は地をよみがえさせるという使命です]

「地をよみがえさせる?」

[そうです。人によって草木が生えなくなってしまった地をよみがえさせるのです。また、草木に直接、強い生命力を与え、地に力を与えるのです]

「君が来る前にも何人か同じように自然や人以外の動物に関わる使命の者がいた」

[はい、ほとんどがそうなりました]

「時間がかかっても、いずれ人に影響を与えられると、ここの主天使様が言っていた」

[はい、ひとたび人に気付かせられれば、人は変わると私は信じています]

「そうだな、良い使命をもらったな」

[はい、そして私はその班のリーダーに任命されました]

「素晴らしい!やったじゃないか、君なら大丈夫だ、自信を持ってやりなさい!」

[・・・はい・・・]

「嬉しくはないのかい?何か不安でもあるのかい?」

すると、ヴィクターは悩みを打ち明けました・・・

つづく。
『天使の手鏡』・第6章『始動』・・・第2話


[・・・実は班の中に弟が居るのですが、以前の使命に未練を残しています・・・]

「となると、人に関わる使命だったんだね?」

[はい、弟の使命は希望をなくした子供たちの夢の中に現れ、希望を持たせるというものでした]

「そうか・・・」

[弟は何の罪もない子供たちを裏切ったと、見捨てたと自分を責め、悩んでいます・・・このままでは新しい使命を拒否するのではないかと]

「なるほど、私が直接、話せればいいのだが・・・」

[先生ならそう言ってくれると思って今、外で待たせています。一度、話を聞いてやってはいただけないでしょうか?]

「やはり悩み苦しむ者が多いか・・・私にどれだけのことが言えるかわからないが、連れてきなさい」

[はい、お願いします]

そして、ヴィクターと入れ代わり、とても穏やかな感じの青年が入ってきました。

〔初めましてヴィクターの弟のシャルルです・・・〕

「よろしく、シャルル、話はヴィクターから聞いている、まぁそう緊張せずに楽にしなさい」

〔はい・・・今日は兄から先生が誰よりも信頼でき、頼れると聞いておじゃましました〕

「私はそんなたいした者ではないが、話くらいは聞いてやれる、君は以前の使命に未練があるらしいね?」

〔はい、だからといって新しい使命に不満があるわけではありません。ただ・・・〕

「子供たちの事が気がかりなのだね?」

〔はい、あまりに突然だったので・・・まだ地上には私のことを信じ、心の支えにしている子供たちがいるのです・・・〕

「君はその子供たちを裏切ると、見捨てると思っているのだね?」

〔はい、本当に地上は人によって荒れています。でも、子供たちにまで罪があるでしょうか?・・・私はあの子供たちに夢や希望を失うことなく正しい道に導きたいのです〕

「君は本当にその子供たちのことを愛しているのだな」

〔はい〕

「確かに君の言うことは間違いではない、しかし、この星にはもう余裕が無いのだ、今すぐに私たちが力を合わせて守らなければ人どころか全てが壊れてしまう・・・」

〔しかし・・・〕

「君だけじゃない、皆、同じように苦しんでいる。しかし、主天使様たちは口をそろえて言ってるだろ?人を見捨てるわけじゃないと、これからは以前と違って今、何が重要化を皆で考え、使命もそのつど変わるだろう、私たちは人のように自分の考えを押し通してバラバラになってはいけない」

〔・・・〕

「いいかいシャルル、地上で生きる全ての生命は繋がっているのだ、だから新しく言い渡された使命も人に関係ないものではない、それに私は私たちの行いにより、人が自ら気づいてくれると信じている。
人はまず、この星の一部だと気づかなくてはならない、人もまた守る側だと気づかなければいけないのだ。君は天使と人の両方を信じることだ」

〔信じる・・・〕

「そうだ」

〔あの子供たちは大丈夫でしょうか?〕

「きっともう君の想いが伝わっている、信じなさい」

〔はい、分かりました。もう一度、先生のお言葉をしっかり考えてみます〕

「そうしてくれ」

〔兄を信じてここに来て良かったです。本当にありがとうございました。また機会があれば話を聞いてください〕

「もちろん、いつでも来なさい。君たちには期待し、応援をしている」

〔はい、頑張ります。それでは失礼します〕

そうして、シャルルは去りました。そして、またヴィクターが入れ代わり入ってきました。

[先生、ありがとうございました。あれだけ落ち込んでいた弟がとてもいい顔をして帰って行きました。いったい何と言ってくれたのですか?]

「特別なことは言っていない。しかし、人も私たちもほんの少しのことで大きく助けられるものなのだ・・・」

[はい、分かります]

「ほら、君も忙しいのだろ?またいつでも寄ってくれ」

[はい。でも、もう一人、問題がある者が・・・]

「そうか、連れてきているのかい?」

[いえ、まだ一度も顔すら合わしてないのです・・・集会にも来てくれないのです、この辺に最近、東の国から来た女性なのですが・・・知っている者に聞くと、とても美しく天使としての力もずばぬけて強いと聞いています]

「・・・名は何と?」

[サラと。先生に心当たりはないですか?]

「ある、その天使のことは私に任せなさい、君は気にせず他の者と進めなさい」

[分かりました、よろしくお願いします。それでは私も失礼します]

「頑張ってくれ」

[はい]

そうして、ヴィクターも帰っていきました。

「サラ・・・」

今、何処で何を考えているのだ・・・

本当に地上に行ってしまうのか・・・

私は離れていくサラの事ばかり考えるうちに、確実に愛していきました・・・

つづく。





『天使の手鏡』・第7章『融合』・・・第1話

 ヴィクターとシャルルが訪れた翌日から少しずつ患者も来るようになり、少しずつでしたが平常に戻りつつありました。

その反面、サラへの想いがつのっていきます・・・

それは自分らしくなく、戸惑っていました。

しかし、どうしようもなくただ時間が過ぎていきます。

サラには祭典以来、会っていませんでした。私はできればこのまま来てほしくないとまで考えましたが、

とうとう・・・サラはやって来たのです。

祭典から少しの時間しか経っていないというのにやつれていました。

「サラ・・・元気に過ごしていたかい?新しい使命の話し合いにも参加してないと聞いたが、一体どこで何をしていたんだい?とても心配したよ」

〈すみません、心配をおかけして・・・ずっと一人で部屋に居ました、いろいろ考え事をしたり、気持ちの整理をしたり、昔を思い出したり・・・〉

昔とは・・・私のことでしょうか・・・

「そうか・・・それでも気持ちは変わらなかったのかい?」

〈はい。でも、私の身勝手な想いとは別に、なぜかそうしないといけないという思いがあるのです〉

「そうしなくてはいけない?」

〈はい・・・理由も分からないのですが、地上に行かなくてはいけないという想いにかられるのです〉

「サラがそう感じるのなら何かあるのかもしれないな・・・とにかく私はできる限りサラの想いを大切にしてやりたい」

〈ありがとうございます・・・〉

「しかし、気持ちが決まっているというのにどうしてそんな思い悩んだ顔をしているんだい?何か他にも心配事があるのかい?」

私がそう言うとサラは涙を溜めて言いました。

〈先生のことです・・・〉

「・・・」

〈私は1度心の中に入った者の心を覗くことができます・・・私のために先生の心が震えています、泣いています・・・〉

「・・・そうか、サラへの想いが伝わってしまったんだね・・・」

〈はい、嬉しかったです。ずっと憧れていたから・・・だから、同時に苦しかったんです・・・〉

「私の想いがサラを苦しめることになってしまうなんて・・・でも、苦しむことはない、私はサラに思うようにしてほしい、私のために苦しいことになってしまうのは辛い」

〈先生・・・〉

「私はサラを待っているつもりだ、たった数十年・・・人の生は短い、だからそんな悲しい顔をしないでおくれ、そして、約束しておくれ、ここに戻ることを」

〈先生・・・〉

「サラ、一度だけ抱きしめさせてくれないか?」

〈はい〉

私はサラを強く抱きしめました・・・

〈先生が待ってくれるのなら戻ってきます。でも、翼を取ってしまう私は天使じゃなくなってしまう・・・〉

「いや、何の根拠もなしに言ったわけじゃない、翼を取ってもまた天使に戻れる方法が1つだけあるんだ」

〈本当ですか?〉

「あぁ、翼を生かしておくことだ」

〈生かしておく?・・・どうやって取った翼を何10年も・・・そんな事が可能なんですか?〉

「私の考えでは可能だ、そのためにある男に協力を頼む」

〈私のことを話したのですか?〉

「いや、何も言ってはいない、訳など聴かずとも協力してくれる私が一番信用できる男だ」

〈・・・分かりました、先生がそこまで言うのなら私も信用します〉

「よし、それなら今から呼んでくる、少しここで待ってておくれ」

〈はい・・・先生、本当にありがとうございます〉

「いいんだ・・・」

そうして、私はその男を呼ぶために飛びました。

コンコン!

「ダニエル、私だ!」

[・・・先生?・・・ご無沙汰しております]

翼の医者として私が育てた教え子でした。

「懐かしいな、しっかりやっているか?」

[はい、先生の教えを守って一生懸命やっています]

「ダニエルは私が教えた中で1番優秀だったからな、元気そうで良かった・・・」
[私の出来が良かったわけではありません、先生の教えが良かっただけです]

「ダニエルは誰よりも素直だったから成長したんだ、本当に立派になった」

[・・・いつか先生に立派になったと言われるようにと頑張ってきたかいがありました、ありがとうございます・・・ところで頼みたい事とは何ですか?]

「とにかく一緒に来てくれないか?話はそこでする」

[・・・はい、分かりました]


つづく。




『天使の手鏡』・第7章『融合』・・・第2話


私はダニエルを連れ、診療所に戻りました。

「待たせたね、サラ」

〈いえ・・・そちらの方ですか?〉

「教え子のダニエルだ」

〈初めまして、サラです。よろしくお願いします〉

[・・・こ、こちらこそ・・・先生の弟子のダニエルです]

「私の大切な女性だ」

〈先生・・・〉

[・・・]

「ダニエル、早速で悪いが手術を手伝ってくれ」

[手術ですか?彼女を?・・・]

「そうだ、彼女の翼を取るのを手伝ってくれ」

[えっ!今、何と?]

「今から彼女の翼を取る。そして、その翼を私に移植する手術を手伝ってくれ」

〈えっ!〉・[えっ!]

「頼む、訳は言えないが、どうしてもダニエルの力が必要なんだ」

[本気なのですね・・・分かりました。先生の頼みとあれば何でもしますが・・・そんな事がこの私にできるでしょうか?]

「私と君となら出来る」

[分かりました、最善を尽くします]

「ありがとう」

[しかし、出来たとしても、その後のお二人が心配です]

「大丈夫だ、問題ない」

[分かりました・・・]

〈先生?どうして私の翼を先生に?〉

「サラの翼を生かしておく為だよ」

[翼を生かしておく?・・・なるほど、その方法なら翼を生かせておけるかもしれないですね]

「帰る時の為だ」

〈・・・〉・[・・・]

「それでは準備を始めよう。サラ、大丈夫かい?怖くないかい?」

〈・・・はい、先生を信じているから大丈夫です〉

サラはこの状況でも微笑んでみせました。

「サラ、そこで横になって」

〈はい〉

「ダニエル、眠りの実を」

[はい]

そして、横になったサラにダニエルが眠りの実という強い睡眠効果のある木の実を磨り潰して飲ませました。

「気分はどうだい?」

〈凄く眠いです・・・〉

「薬が効いてきたようだな」

[先生、本当に翼を?]

「あぁ、私が取った翼をダニエルが私に移植してくれ」

[・・・私にできるでしょうか?]

「私は眠らずに最後まで手ほどきをする。大丈夫だ」

[かなりの痛みが伴うはずです・・・しかし、先生の精神力なら大丈夫かもしれませんね]

「よし、サラが完全に眠りについた、始めるぞ」

[はい]

美しく滑らかな翼でした・・・

「ダニエル、慎重に少しずつ翼を切除してくれ、私はその後について傷を消していく」

[分かりました]

ダニエルはサラの翼を少しずつ慎重に切除していきました。
私はその傷を全ての力を使って修復していきました。

大切な彼女に痛みも傷も残さぬように・・・

そして、切除は成功しました。

[見事です、神業と言ってもいいぐらいに・・・]

「はぁ、はぁ・・・悪いが感心している暇も無い、もたもたしていると翼が死んでしまう・・・すぐに私に・・・」

[は、はい!]

「まずはサラの翼を素早く私の翼の内側に縫い合わせてくれ」

[はい!]

ダニエルは期待通り、素早く私にサラの翼を縫い合わせました。

「よし、よくやった・・・今から残りの力を使って馴染ませる」

[はい、私も力を!]

「すまない・・・」

そして、移植したサラの翼に集中すると、翼から私の体の中に熱い何かが流れ出しました。

「くっ、熱い・・・」

体中が焼けるようでした。

[せ、先生!・・・ひどい熱です、どんどん上がっていっています]

「サラの力と私の力が体の中でぶつかっているのだ・・・サラの力が強すぎる・・・ダニエル、私をサラの隣に・・・」

[はい!]

ダニエルは私を抱え、サラの隣に寝かせました。

[先生、サラさんの体が冷たくなっています]

「・・・やはり、力が翼に来過ぎていたのだ・・・力を少し戻す」

私はサラの手を掴み、私の中でさまようサラの力を戻しました。

[サラさんの熱も先生の熱も正常に戻りました!]

「良かった・・・成功だ、ありがとうダニエル・・・後はサラが目覚めるのを待つだけだな」

[大丈夫ですか?]

「何だか眠い・・・サラが目覚めるまで少し眠らせてくれ」

[分かりました、ゆっくり休んでください]

「すまない・・・・・・」


つづく。



『天使の手鏡』・第8章『別れ』・・・第1話

どれだけ眠っていたのでしょう・・・

サラが頭を撫ぜてくれているのに気が付いて起きました。

「・・・サラ・・・大丈夫かい?痛まないかい?」

〈はい、私は何とも・・・それより先生は?〉

「私も大丈夫のようだ・・・」

〈私の翼が先生に・・・〉

サラは私に付いた自分の翼に触れた。

「不思議な気分だ、力がみなぎる」

〈私は軽くなりました。というより やっぱり力が抜けたのが分かります〉

「サラの翼と力は私が守るよ、ところでダニエルは?」

〈ダニエルさんは私に 先生は眠っているだけだから後は任せると、先ほど帰って行きました。あと、自分は自惚れていたと言ってました。先生にはまだまだ学ぶことが沢山あると・・・でも、なぜだか嬉しそうでした〉

「そうか・・・礼ぐらいは言いたかったが・・・」

〈とてもいい方ですね。私と2人の時も何も聞かず、ただ先生のことを話していました〉

「・・・本当にありがたい・・・ん?もうすぐ夜明けじゃないか、みんなが起き出すと面倒になる、それに診療所を休むわけにはいかない・・・」

〈はい、先生がよければいつでも・・・〉

「そうか、もう心は向かっているんだね?」
〈・・・〉

「行くかい?・・・」

〈はい、その前にこれを〉

サラは持ってきた袋からあの手鏡を取り出しました。

〈これを先生に・・・持っていてほしいのです〉

「それは大事な家宝じゃないか、そんな大事な物を私に?」

〈いえ、これは家宝ではありません。私が祖母に直接もらった形見です〉

「どちらにしても大事な物じゃないか、手放さずに持っていきなさい」

〈いえ、どうしても先生に・・・〉

「・・・分かった・・・預からせてもらうよ」

私は手鏡を受け取り、机の引き出しにしまいました。

「それじゃあ行こう・・・」

〈はい・・・〉

私とサラは診療所を出ました。

「綺麗な月だ・・・」

〈はい・・・先生、すみません・・・本当にありがとうございます〉

「もういいんだ、これも全て導きと運命だろう、それに、愛するサラの望み・・・悔いはもうない」

〈先生・・・〉

「さぁ、私に身をかして」

〈はい〉

私はサラを抱きかかえました。

「しっかり手を回しているんだよ」

〈はい〉

私は4枚の翼を広げ、飛び立ちました。

「怖くないかい?」

〈大丈夫です・・・〉

「じゃあ降りよう・・・」

雲を抜けると夜で真っ暗でした・・・

翼を無くしたサラには落ちる感覚だったでしょう、大丈夫だと言っても目を閉じ、手に力が入っていました。

そして、しばらく飛んでいると下に少しの光が見えてきました。

その光は降りる度に多く、強く輝きました。

「これは?・・・」

私は思わず停止しました。

〈先生、着いたのですか?〉

「いや、地上が夜というのに光り輝いているんだ」

〈本当ですね・・・美しい、まるで宝石たちを散りばめたよう・・・街の光りですね〉

「街の光り?すると、あの光りを人が?」

〈はい、人の住む街です〉

「なんと・・・人があんな沢山の光りを・・・」

〈先生は本当に何も知らないのですね?〉

「そうだな・・・とにかく人が沢山居そうだ、あの光りを避けて降りよう・・・」

私は光りを避け、薄暗い地上へと舞い降りました。

〈海・・・〉

そこは浜辺でした。小さな月が優しい光りで海をキララと光らしていました。

「立てるかい?」

〈はい〉

足元は砂で不安定でしたが、心地良くもありました。

「あの光る街に彼はいるんだね?」

〈はい・・・〉

「本当に大丈夫なのかい?私は地上も人のことも理解できるほど知らない」

〈はい、私は大丈夫です〉

「サラは小さな時から大丈夫じゃなくてもそう言うから心配だ」

〈・・・見守ってください・・・〉

「あぁ、私たちは一緒だ・・・」

私は大きく4枚の翼を広げ、サラに見せました。

〈そうですね〉

すると、海の彼方から少しずつ明るくなってきました。

「もう夜が明けてしまうね、行かなくては・・・さよならは言わないよサラ・・・」

〈先生!〉

サラは泣きながら私に抱きつきました。

「愛しているよ・・・ちゃんと待ってるからね・・・しかし、今からは彼の事だけを考え、彼のために生きなさい」

〈はい・・・〉

「さぁ、泣くのはもうこれで終わりだ、これからは微笑みなさい、そして、前へと進みなさい、サラの笑顔はきっと人々を、彼を幸せにできるだろう」

〈はい、分かりました・・・〉

サラは涙をぬぐい、最後に微笑んでみせてくれました。そして、私はその笑顔を胸に深く刻み込みました。

「朝が来る・・・もう行くよ」

〈はい、お元気で・・・〉

私は再び4枚の翼を広げ、サラを見つめながら ゆっくり昇って行きました。

「サラ・・・」

サラが離れるにつれ、胸が強く痛みました。

「・・・」

見えなくなるまでサラは ずっと手を振っていました。

朝日が地上を照らし、その姿を見せます。青い海、大地と緑・・・全てが光り輝き、美しい光景でした。

「サラ・・・頑張るんだよ・・・」

私に初めて涙が流れました。

しかし、すぐに涙をぬぐい、診療所へと戻りました・・・


つづく。


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