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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

『願い石』・第1話~第5話

『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第1話』


コロン・コロコロコロ・・・

ここは遠い、遠い思い出の道・・・

この道は特別な道・・・

月日が重なるにつれて思い出というものは薄らいでいく

でも、全てを忘れていく中、いや・・・全て忘れたとしても消えない光り輝く思い出が僕にはあった。



 それは遠い昔の話し、僕がまだ小学校6年生の時だった。

ある時、近所に小学生になったばかりの小さな男の子が引っ越してきた。

その子は難病を抱えていたため大きな病院があるこの街に田舎から出てきたらしい。

名前は和義(かづよし)、カツと呼んでいた。

カツは他の1年生と比べてもひときわ小さく、集団登校ではいつもみんなに遅れて手を焼いた。

「おい、それでせいいっぱいなのか?」

〔うん、ちゃんと一人でも行けるから先に行っていいよ〕

何だか独りになりたがる子だった。

「そういうわけにはいかないよ、ここには僕しか6年生がいないんだから責任があるんだ」

〔ふ~ん・・・〕

と言ってもカツはマイペースを変えない

「仕方ないな、みんなには先に行ってもらうよ」

こうして、仕方なく2人きりの登校が始まった。

「体育もできないんだって?どんな病気なんだ?」

〔知らない・・・でも、僕は長くないんだって、パパが言ってたのを聞いた〕

「そんなこと・・・きっと良くなるよ」

〔みんなそう言う〕

「じゃあ、みんなの言う通りだよ」

〔お兄ちゃんは奇跡を信じる?〕

「奇跡?」

〔ううん、何でもない・・・〕

僕らは日を重ねるごとに仲良くなっていった。

「学校は楽しいか?」

〔うん、今はお兄ちゃんと毎日会えるから〕

「友達は出来たか?」

〔ううん、いらない〕

「病気の方はどうだ?」

〔薬は飲んでるけど・・・わからない〕

「そっか、でもこうして毎日学校へ行けているんだから大丈夫だよ」

〔うん・・・〕

僕らはいつしか本当の兄弟のように思えるほど仲良くなった。

そして、そんなある日の夕方、僕の家にカツのお母さんが訪ねてきた。

〈いつもお世話になっている和義の母です。涼君だよね?〉

「はい、涼です。一緒に登校させてもらっています。お世話なんてそんなものじゃ・・・」

〈それでもあの子の話はお兄ちゃんのことばかりなのよ、病院が変わるごとに引越ししてきたせいか、友達が出来たのも初めてなのよ〉

「そうなんだ・・・今日はお迎えですか?」

〈そうそう、学校は早くに終わっているはずなんだけど、最近帰ってくるのが遅くて・・・心当たりないかな?あの子に聞いても心配ないってばかりで答えてくれないのよ〉

なぜだか下校は集団ではなかった。

「う~ん・・・何してるんだろう?・・・こんな時間じゃ心配しますよね・・・明日、聞いてみます」

〈ありがとう、世話のかかる子だけどこれからもよろしくね〉

「はい」

辛い時もあったはずなのに、いつもほがらかなお母さんだった。

翌朝、僕はさっそくカツに聞いてみた。

「昨日、カツのお母さんに会ったぞ」

〔うん、お兄ちゃんのことほめてたよ、とっても良い子だって〕

「そんなこと言われるの初めてだな・・・ってそんなことより帰るのが遅いって心配してたぞ、一体どこで道草食ってるんだ?」

〔どこにも行ってないよ〕

「どこにも行ってなかったら、あんなに遅くにはならないだろ」

〔うん・・・石ころを蹴りながらだから・・・〕

「石ころ?」

〔うん、願い石・・・〕

「願い石?何のことだか分からないけど、とにかくもう少し早く帰るんだ」

〔うん・・・〕

僕はカツの話を詳しく聞くよりも毎日何をしているのかこの目で確かめようと思った。

そして、その日の放課後・・・

僕はカツのクラスに走った。そして、気づかれないように後をついていった。

カツはあわただしい中、ゆっくりとマイペースでみんなと違う方へと歩いて行く。

「いきなりみんなと違うじゃないか・・・」


続く。





『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第2話』


カツは正門と反対にある裏門の前まで行き、そこで何かを探すように下を向いてうろうろしだした。

「何か落としたのか?・・・」

しばらくするとカツはただの石ころを拾い上げた。

「あれが願い石?・・・」

そして、そのまま石ころを手に握り、裏門を出た。

「あそこから出入りしちゃいけないのに・・・」

カツはそんなことおかまいなしで裏門の前に立ち、手に持った石ころを足元に置くと小さな声で

〔スタート〕

と、言って石ころを蹴った。

コロン・コロコロコロ・・・

「なんだ、ただの石蹴りか・・・」

コロン・コロコロコロ・・・

だけどカツは真剣な表情で一蹴り、二蹴りと石ころを蹴っていく。

コロン・コロコロコロ・・・

そうして見ていると電柱3本くらい行った所でカツの蹴った石ころが道路の脇にある溝に落っこちた。

〔あぁあ・・・〕

カツは悔しそうな顔して、また学校の方にゆっくりと歩き出す。

そして着くとカツはまた下を向きキョロキョロして石ころを拾い上げた。

「カツのやつ何がやりたいんだ?・・・」

〔よし、今度こそ〕

そう言ってカツはまた同じように石ころを蹴りだした。

コロン・コロコロコロ・・・

「また同じ事やってる・・・」

カツはさっきより順調に蹴り進んで電柱4本過ぎた三叉路まで行くと家の方へと曲がった。

「ほっ・・・何だか僕まで力が入るな」

しかし、安心するのはつかの間だった。

またすぐに石ころを溝に落とし、またまた学校へと逆戻りする・・・

〔もう少しだったのに・・・〕

「家はまだまだ先なのに・・・カツは何処を目指してるんだろう・・・・」

カツは何事も無かったように学校に戻ると同じように石ころを探して足元に置いた。

〔今度は頑張るぞ〕

僕はもう黙って見ていられなかった。

あの調子じゃ帰るのが何時になるか・・・

「カツ!」

〔あっ!お兄ちゃん!こんな所で何してるの?〕

「何してるって?カツが毎日帰るのが遅いって聞いたから様子をみにきたんだ、カツこそ何をしてるんだ?」

〔願い石・・・〕

「その石ころのことか?」

〔うん、これが目的地まで着けば願い石になるんだ〕

「目的地って家か?」

〔うん、家の前のマンホールまで〕

「マンホール?誰がそんなこと言ってたんだ?」

〔夢でおしゃべりな猫に教えてもらったんだ〕

「・・・やっぱり病気のことを願ってるのか?」

〔ううん、大きな願いは叶わないんだ〕

「じゃあ何を?」

〔お父さんやお姉ちゃんに会いたいとか・・・〕

「お父さん?お姉ちゃんがいたのか?」

〔いるよ、僕が大きな病院の近くに引っ越したから・・・お父さんは仕事があるし・・・〕

「・・・そっか・・・それじゃあ一緒にやってやる」

〔ほんと?でも、最初から最後まで一人でやらなくちゃいけないし、人の願いは願っても叶わないんだ〕

「それなら、見ててやるよ」

〔ありがとう、お兄ちゃん、じゃあ行くね!〕

コロン・コロコロコロ・・・

「ダメ、ダメ!つま先で蹴るからあちこちに行っちゃうんだ、足の横!ここで蹴るんだ」

僕はサッカーが好きでよくボールを蹴っていた。

〔こう?〕

コロン・コロコロコロ・・・

「よし、だいぶいいぞ、後は蹴りたい方へ足に角度をつけて蹴るんだ」

〔うん〕

コロン・コロコロコロ・・・

〔思い通りに石が転がる!〕

「いいぞ」

そうして僕たちは順調に最初の角を曲がった。今度の道は長い直線で距離をかせげそうだった。

〔ふぅー〕

「どうした?疲れた?大丈夫か?」

〔ううん、あの先に行けた事ないから・・・〕

「あの先って?」

カツは指を指した。

「犬小屋?」

続く。






『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第3話』


丁度、真ん中あたりの右の壁沿いに青い屋根の小さな犬小屋が見えた。

〔うん、犬が通してくれないんだ・・・〕

「怖い犬なのか?吠えるのか?」

僕も大きな犬は怖かった。

〔ううん、吠えないし大人しい犬だけど・・・〕

「大人しい犬が通してくれない?どういうことか分からないけど、今日はお兄ちゃんが一緒だから大丈夫だよ、行こう!」

〔うん・・・〕

コロン・コロコロコロ・・・

僕たちは1度も石ころを溝にも落とさずに犬小屋の前まで行くことができた。

「あの犬か・・・けっこう大きな犬だな・・・でも、優しそうな顔をしてるぞ」

〔うん、でも通してくれないんだよ〕

犬は小屋から顔と前足を出して嬉しそうな顔をしてこっちを見ていた。

「カツ、とにかく左の溝と犬小屋の間をよく狙って力いっぱい蹴るんだ」

〔うん!〕

コロン・コロコロコロ・・・コロロロロ・・・

「?」

〔やっぱりダメだ・・・〕

カツの蹴った石ころは上手く溝と犬の間に転がっていったが、まるで犬に石ころが吸い付かれるように犬の目の前に転がり止った。

そして、その瞬間、犬は嬉しそうに石ころをくわえて犬小屋の中に入って、また嬉しそうに顔をだした。

「そんな・・・」

〔何度やってもこうなんだ〕

「何度やっても?」

〔うん、いつもここまで・・・もう10個はとられてる〕

「坂になってる様子もないし・・・どうして?・・・?」

〔今日は調子がいいからもう1回やってみるよ〕

「それって、まさかまた学校に戻るのか?」

〔うん〕

「ダメダメ!そんなことやってたら今日もまた遅くなっちゃう、今日はこのまま帰って明日にしよう」

〔うん・・・分かった〕

悔しそうだったけどカツは言うことを聞いてくれた。

そして、犬小屋を通り過ぎ、家へと向かった。

時間がかかったせいか、もう家の近くだと思っていたけど、そこからの道のりはまだ長かった。
途中、道を横切る幅の広い金網の水路もあったし、犬が邪魔しなくてもカツのゆっくりとしたペースで石ころを蹴りながらだと順調にいっても遅くなる距離だった。

〈おかえりー〉

〔ただいまー〕

カツのおかあさんが家の前で待っていた。

〈涼君、一緒に帰ってくれたのね、ありがとうね〉

「いえ、僕が一緒だったのに遅くなってしまって・・・」

〈この時間くらいで涼君と一緒ならまだ安心よ。和義、先に家に入ってお薬を飲みなさい〉

〔うん。じゃあ、おにいちゃん明日ね〕

「うん、明日な」

カツは元気良く手を振って家に入っていった。

〈本当にここに来て涼君に会ってから嘘みたいに元気になったわ・・・辛いはずなんだけどね・・・〉

「おばさん、カツの病気はそんなに悪いんですか?」

〈うん、多分もうすぐ入院になると思う・・・〉

「えっ!入院?でも、治るんでしょ?」

〈私もそう信じたいわ・・・あんな嬉しそうな顔を見ていると・・・〉

「・・・」

〈あっ、ごめんなさい。涼君が気にすることないのよ、ところで和義は何して遅くなってた?〉

「願い石・・・」

〈願い石?何それ?〉

僕は今日の事と願い石の事をカツから聞いたままに話した。

〈そんな事を・・・あの子、そういう願い事や神様なんて信じないって言ってたのに・・・希望を捨ててないのね・・・〉

「はい。だからおばさんも信じてあげてください。あきらめないでください」

〈そうね、本当にありがとう〉

「じゃあ、毎日僕が一緒に帰るから心配しないでください。すごく遅くなるようなことがないようにします」

〈ありがとう、お願いね〉

「はい。じゃあまた明日の朝、迎えにきます」

そうして、僕も家に帰った。だけど、今日の事が気になって仕方なかった。

僕はその日の寝る前まで悩んでいた。

どうしたら願い石を成功できるだろう?

あの犬にどうすれば邪魔されないのだろう?

僕が犬の気を引いてみようか・・・それとも・・・

そうやって、そうこう考えるうちに僕は眠たくなって、

いつの間にか夢の中に居た・・・

「夢?・・・ここはどこだろう?・・・」

少し離れたところに大きな木があったけど、それ以外は何も無い真っ白な世界だった。

「夢って不思議だな・・・」

僕は迷わず木に向かった。

すると、その大きな木の太い枝に大きな猫が背を向けて横になっていた。

「猫さん?」

猫はゆっくり顔だけ振り向いた。そして、大きくあくびをすると、また背を向けた。

「なんて愛想の悪い猫、おーい!」

すると、また振り向いて

〈あいさつもせんと誰が愛想悪いねん!こんにちはやろ!いや、こんばんはか?〉

「えっ!こ、こんばんは」

夢だと分かっていても驚いた。

〈そうや、なんぼ知った同士でもあいさつは大事やで、まぁとにかく首疲れるわ、前に回ってくれるか?〉

「あっ、はい・・・」

こんな猫、僕は知らない・・・

〈ほな、あらためて・・・名前は涼やったかいな?わしはチャーリーや〉

「チャーリー?僕を知ってる?」

僕の夢だから?・・・それにしても姿と名前とのギャップが・・・ぼてっとした一見普通の猫なのに・・・

〈なんやカツから聞いてないんか?〉

「カツ?あっ、おしゃべりな猫って?・・・」

〈それや!って、それだけかい!〉

「願い石を教えてもらったって・・・それしか聞いてない」

半信半疑だったから・・・

〈毎日、いろんな話聞かせてやってんのに〉

「えっ?カツと毎日話しを?」


つづく。






『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第4話』


〈そうや、わしら親友なんや、カツからは涼の話いっぱい聞いてる、優しくしてくれてるみたいやな、おおきに〉

「弟みたいで可愛くて、チャーリーさんはどうしてカツと?」

〈チャーリーでええよ、わしは夢の国の住人や、こうやってちょくちょく人の夢におじゃまするんや、それである時、毎日夢で泣いてる子を見つけたんや、それがカツやった・・・最初は涼みたいに心開いてくれへんかったし、泣くばっかりやった・・・夢は唯一、現実を忘れられて誰もが幸せな気分になれる所やのに〉

「カツは病気なんだ・・・」

〈あぁ知ってる、だからわしはカツのそばを離れへん、出来る事は何でもやったる、夢の国の住人としてのルールもやぶった・・・〉

「ルールって?」

〈夢は夢、夢以上やったらあかんねん〉

「どういうこと?」

〈現実の世界に決して影響を与えたらあかんねん〉

「願い石のこと?」

〈そうや〉

「ペナルティーはあるの?」

〈ある、本来わしらは自由や、永遠に存在し、誰の夢の中にも行けるんや、でも、もうわしは永遠とは違う、もうカツの夢の範囲しか行動できない。もしカツが消えたら・・・わしはカツだけの夢になったんや、わしがここに居るんはカツが涼の夢を見るからや〉

「どうして?そこまでしてカツを?」

〈さぁな、ただほっとけなかったんや、そこは涼と一緒やろ?〉

「うん」

そして突然、悪い胸騒ぎが僕を襲った。

「カツを助けられる?」

〈わしに出来ることはささいな願いを叶える事ぐらいや・・・〉

「願い石?」

〈そうや、ほんのささいな事や〉

「カツの病気を治せないの?」

〈命に関わる事なんて、めっそうもない〉

「そんなぁ・・・じゃあチャーリーには何が出来るのさ!」

〈そんな風に言うな、わしだって助けられへん辛さでいっぱいなんや〉

「ごめんなさい・・・でも、どうして願い石なの?願い石って何なの?」

〈わしのささいな力を増幅させるんや、あきらめずに願いを込めて蹴り続ける力がそのままわしの力になるんや〉

「でも、上手くいかないよ・・・じゃまする犬がいるんだ」

〈あぁ、コロの事か〉

「コロ?あの大きな犬の事?」

〈そうや、奴はじゃましてるんやない、手伝ってるんや〉

「手伝ってる?だって石ころを取っちゃうんだよ!」

〈カツの体力を考えてわしが作った休憩地点ってとこや〉

「そんな事、カツは知らないよ」

〈だから、涼に言ってるんや、わしが直接言えないルールやからな〉

「・・・分かった、でも、どうすればいいの?」

〈カツがコロにここから始めるから石をちょうだいって言えばいいんや〉

「それでいいんだ・・・でも、どう説明すればいいんだろう・・・」

〈そこは涼に任せるわ〉

「そんなぁ・・・」

〈・・・おっと、カツが呼んでいる、もう行かなきゃ〉

「えっ、もう?もっともっと聞きたいことがあるのに」

〈また会えるといいな〉

「うん・・・ありがとう」

〈カツをよろしくな〉

「うん、チャーリーもカツをよろしくね」

〈あぁ〉

そうして、おしゃべりな猫チャーリーは消えた。

次の朝、さっそく僕はカツに夢の話をした。

「昨日、夢でおしゃべりな猫にあったぞ」

〔えっ!チャーリーに会ったの?〕

「うん、カツの言ってたようにホントおしゃべりで楽しい猫だったよ」

〔夢の中の話だけど、ずっと前から親友なんだ〕

「いい奴だな」

〔うん、大好きなんだ〕

もちろん言ってはいけない願い石のことは言わなかった。

「願い石今日もやるんだろ?」

〔うん、チャーリーにも言われたんだ、あきらめるなって〕

「じゃあ放課後、裏門で待ち合わせな」

〔うん!〕

そして、放課後・・・

先に来ていたカツはまた裏門の中でうろうろと石ころを探していた。

「カツ!」

〔あっ、お兄ちゃん!もう少し待って、まだ石ころが決まらないんだ〕

「今日は探さなくていいよ、考えがあるんだ、とにかくあの犬の所に行こう」

〔犬の所に?うん、分かった〕

そうして問題の犬がいる所まで行くと、犬は昨日と同じく嬉しそうに顔を犬小屋から出していた。

〔どうするの?〕

「あの犬から石ころを渡してもらうんだ」

〔小屋の中だよ?どうやって取るの?〕

「だから、渡してもらうんだって」

〔大丈夫かな・・・〕

僕はチャーリーを信じて犬に近づき話しかけた。カツはその様子を心配そうに離れて見ていた。

「コロ?僕はチャーリーの友達だ、その石ころはあそこにいる子の願い石なんだ、渡してくれないか?」

そう言うとコロは小屋に入り、石ころをくわえて小屋から出て、道の真中あたりまで歩いてそこに置いた。

「ありがとう」

ワン!・・・

そして、また小屋に戻った。

「カツ、おいで」

カツは犬の方を見ながら恐る恐る僕の所に来た。

〔お兄ちゃん、凄い!でも、どうして?どういう事?〕

「昨日、ずっと考えてたんだ・・・この犬は大きいけど優しそうだし・・・もしかしたらゲームのつもりなんじゃないかなって!・・・つまり遊んでいるだけじゃないのかなって!」

チャーリーに聞いたとは言えない。

〔・・・つまりどういう事?〕

「ここはゲームでいうセーブするとこなんだ、この犬は意地悪してるんじゃないんだ」

〔そうだったんだ!じゃあここから初めていいんだね?〕

「うん、そうだ」

〔じゃあここから、スタートだ!〕

カツが素直でよかった・・・もし、また学校からじゃチャーリーが言ったようにカツの体力がもたないし、時間的にも無理だった。




『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第5話』


それから僕らは調子よく願い石を蹴り続けた。

でも、ゴールも確信できるほどゴール近くで、もう一つ気になっていた道を横切る幅の広い金網の水路が僕たちの行く手をはばんだ。

「ここを通過できればゴールも夢じゃないぞ!」

〔うん、頑張る!〕

僕らはゴールを目の前に少し興奮ぎみだった。カツは精一杯の力で石ころを蹴った。

コロン・コロコロコロ・・・カチン・・・ポチャン・・・

〔あっ!・・・〕

「あぁ・・・蹴りが弱かったな・・・」

カツの蹴りが弱かったわけじゃなかった。

「まぁ、そんな落ち込むことはないよ、あの犬がまだ石ころを持っているはずだ、行ってみよう」

〔うん!〕

そしてまた僕たちはコロのいる場所まで戻った。

「よし、またもらって来るよ」

〔うん、お願い〕

僕はまた同じようにコロに頼んだ。

「コロ、またあの子の石ころが欲しいんだけど・・・まだあるよね?」

すると、コロは嬉しそうにしっぽを振りながら石ころを一つ渡してくれた。

「カツ、やったな」

〔うん、コロ?ありがとう〕

「よし、またスタートだ」

こうして僕たちは再び願い石を蹴り始めた。

 コロン・コロコロコロ・・・

先ほどと同じく順調だった。

 コロン・コロコロコロ・・・

そして、問題の場所。

「カツ、ここが勝負どころだぞ」

〔うん・・・頑張るよ〕

「いいか、ここはつま先で思いっきりな!」

〔うん!よし、行けぇ!〕

 コロン・コロコロコロ・・・カチン・・・

・ ・・ポチャン・・・

「くそっ、おしい!」

〔・・・もう一度、コロにもらってくる、今度は自分で頼んでみるよ〕

「そうだな・・・でも、もう帰る時間だ」

〔まだ大丈夫だよ〕

「うん、でもカツのお母さんと約束してるんだ、また明日、コロの所からやればいいじゃないか」

本当は僕も続けたかったけど、カツのお母さんを心配させるわけにはいかない・・・

〔明日もコロの所から始めていいの?〕

「うん、もちろん」

〔・・・分かったよ、お兄ちゃんの言うことは聞く〕

「えらいぞカツ、じゃあ帰ろう」

〔うん〕

そうして僕たちの短い挑戦は終わった。

そしてまた僕は夜、チャーリーの事を思いながら眠りについた。

〈なんや、冴えへん顔して?〉

また同じ何も無い真っ白な世界・・・そしてチャーリーは同じように木にいた。

「願い石、なかなか上手くいかないんだ、道を横切る幅の広い金網の水路のせいで」

〈そうか・・・やっぱり・・・〉

「何か良い方法はないの?」

〈そやな・・・よし、わしの友達に頼んでみよう〉

「友達?」

〈もちろん夢の中での話やけどな、レオンって猫や〉

「今度は猫?」

〈そうや、あの辺りに住んでる野良猫や〉

「野良猫・・・でも、野良猫に何を頼むの?」

〈それはわしに任せろ、今からレオンの夢にもぐり込んでくるわ〉

「えっ、もう行っちゃうの?まだ沢山話したいのに・・・」

〈わしもそうしたいけど、今はカツの願い石が優先や・・・もう時間がないんや・・・〉

「時間って?」

〈・・・とにかく急いでやってくれ〉

「うん・・・」

〈ありがとうな、じゃあ頼んだぞ〉

そうして、チャーリーは消え、僕も目が覚めた。チャーリーが言った〈時間〉とは何だったんだろう・・・僕はそのことがとても気になった。

そして登校時間、カツは居なくカツのお母さんが居た。

「おばさん、カツは?」

〈調子悪くてね・・・本人は大丈夫だって言うんだけど、心配だからこれから病院に連れて行ってくるわ〉

チャーリーの言った〈時間がない〉という言葉が頭を過ぎった・・・

「大丈夫ですよね?」

〈うん、気は元気よ、こんな時にまで涼君と石ころのことばかりで〉

「待ってるって伝えてください」

〈本当にありがとうね〉

「いいえ、弟のような大事な友達ですから、じゃあ行ってきます!」

〈はい、行ってらっしゃい〉

内心は心配で仕方なかったけど、それよりも僕は信じていた。そして祈った・・・

僕は上の空で1日を過ごし、カツが居ないというのに自然と放課後、学校の裏門に向かっていた。

すると・・・

つづく。


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