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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

『願い石』・第6話~第10話

『願い石~夢猫チャーリーの贈り物』・第6話


「あれ?」

幻かと自分の目を疑ったけど、それは間違いなくカツの姿だった。

「おい、カツ!」

〔あっ!お兄ちゃん!〕

「あっ!じゃないだろ?何してるんだ、調子悪いんだろ?病院はどうなったんだ?」

僕は喜びよりも心配で仕方なかった。

〔うん、いつもの事だから・・・大丈夫と思う〕

「大丈夫と思うって、おばさんは知ってるのか?」

〔うん〕

「・・・まぁとにかく安心したよ、ホントに、ホントに大丈夫か?」

〔うん、コロの所に行こうよ、今日は僕が自分で頼んでみるよ〕

そうして歩き出したはいいけど、カツはいつもにましてスローペースで、やっぱり少し調子が悪いのかと心配した。

「なぁカツ、どこも痛くないか?」

〔うん、薬が効いてる間は大丈夫だよ〕

「薬が切れたら痛むのか?」

〔体中痛いよ、だからまたすぐ薬を飲んだ・・・朝も昼も夜もずっと・・・〕

「・・・辛いな・・・」

それしか言えなかった。

〔ううん、もう慣れたよ・・・あっコロだ!〕

「・・・」

心配をよそに無邪気に喜ぶ姿に少し安心した。

〔大丈夫かな・・・〕

「大丈夫だよ、名前を呼んで撫ぜてやれ、喜ぶから」

〔うん・・・〕

そうして、カツは怖がりながらもコロに近づいた。

〔コロ・・・〕

ワン!

まだ怖がるカツにお構いなしでコロは激しく尻尾を振って喜んでいた。

〔き、昨日はありがとう・・・僕は和義・・・よろしくね〕

ワン、ワン!

〔意地悪をしてるのと思ってた、ホントは良い子なんだね〕

ワン・・・

カツは頑張ってコロに手を伸ばして頭を撫ぜてやった。コロもとても嬉しそうに尻尾を振り答えた。

〔コロ、僕の願い石、まだある?〕

・・・

コロは小屋に入って石ころを口にくわえ、カツの目の前に置いた。

〔・・・ホント、間違いなく僕の願い石だ・・・ありがとうコロ!〕

カツは自分が選んだ石たちをしっかり憶えていた。そして、コロをいっぱい撫ぜて褒めた。

〔成功しても失敗しても必ずまた会いにくるからね、コロも僕の友達になってね〕

ワン!

まるで言葉が通じているようだった。

〔ありがとう・・・じゃあ頑張ってくるよ〕

そうして、僕たちはコロの所から再スタートした。

コロン・コロコロコロ・・・

ここからは何事もなく順調だった。

コロン・コロコロコロ・・・

そして、問題の場所・・・

〔ここを抜けたらゴール出来るんだね。よしっ!〕

カツは気合を入れたけど、僕はそれを止めた。

「カツ、待つんだ!ここでどれだけ頑張って蹴っても無理だと思うんだ」

〔えっ、あきらめろって言うの?まだコロの所に願い石は残ってるんだよ?〕

「誰もあきらめろなんて言ってないよ、また作戦があるんだ」

〔作戦?〕

「うん、この辺に確か・・・野良猫が居たはずなんだ」

〔野良猫?・・・〕

「うん、コロのことを考えると、もしかして猫だって助けてくれるんじゃないかと思ったんだ、このスタートからゴールまでの道はきっとチャーリーが用意してくれた願い石のための道なんじゃないかな?」

〔うん、そうかもしれないけど・・・野良猫にどうしてもらうの?〕

僕らは完全にこの不思議な体験を信じきっていた。

「頼んでみる、この金網の向こう側まで運んでもらおう」

〔でも、猫がそんなことやってくれるかな?それに何処にも居ないよ?〕

「まぁ、また任せてみてくれ、確か・・・レオン!この辺に昔から居る野良猫のレオンだ・・・レオン!レオン!」

僕は大声でレオンの名前を呼んだ。

〔・・・〕

「レオン!野良猫のレオン!この声が聞こえたら出ておいで!」

〔レオン・・・〕

そして、しばらくすると微かに猫の鳴き声が聞こえた。

ニャーオ・・・

「ここだよ!出ておいで!」

〔レオン!〕

ニャーオ

近づいた猫の声に耳を傾け顔を向けると、建屋の高い塀にちょこんと猫が1匹、僕らを覗き込んでいた。

「レオン?」

僕はその猫に近づき話しかけた。

「僕は涼、そしてあの子がカツ。君、夢猫チャーリーの友達のレオンだよね?助けてほしいんだ」

ウニャ!

すると、猫は高い塀を見事に飛び降り、僕の足に体を寄せ当て、カツにも体を寄せ当てて願い石を加えてあの幅の広い金網を軽々と飛び越えた。

ニャーオ!

そして、願い石を置いてすぐまた高い塀に飛び乗り、ゆっくりと姿を消した。

僕たちはそれを呆然と見ていた・・・

「・・・凄い・・・でも、ホンとにここをクリアできた・・・クリアできたぞ!」

〔・・・ホントなの?〕

「うん、後は何もないぞ、これでゴールできるぞ!」

〔うん、頑張るよ!〕

そうして、僕たちは最後の難関を突破してゴールを目指した。

コロン・コロコロコロ・・・

コロン・コロコロコロ・・・

僕たちは順調に進んだ。そして、とうとうゴールのマンホールが見えた・・・

「いよいよだな」

〔うん・・・何か緊張する・・・〕

コロン・コロコロコロ・・・コロン。

「よし!やったぞ!ゴールだ!」

〔やったー!やったー!〕

僕たちは肩を抱き合って喜んだ。

「もう願い石、手にとってもいいんじゃないか?」

〔うん・・・〕

カツはゆっくりと願い石を拾い上げた。







『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第7話』


〔・・・僕の願い石・・・〕

嬉しさのあまりか、カツの手は震えていた。

「うん・・・願いを念じてみろ」

カツは願い石をぎゅっと握り締めた。

「どうだ?願ったか?」

〔ううん、願いたいこと沢山あって選べないんだ〕

「沢山か・・・うん、何も慌てることはないか・・・ゆっくり選んでもいいな」

〔うん、そうする〕

「じゃあ今日はもう帰ろう」

〔うん。帰ってゆっくり考えるよ、ありがとうね、お兄ちゃん〕

「うん、じゃあまた明日な」

〔うん、また明日ね〕


それっきりだった・・・

カツの元気な姿を見られたのはそれが最後だった・・・

カツは次の日、入院をした・・・

僕がそれを知ったのは起きてすぐ、母さんから聞いた。
僕は耳を疑った。

「昨日、あんなに笑顔で別れたのに・・・」

無理させたのかと気にしたし、何よりカツの事が心配で心配でしかたなかった・・・

本当は学校なんて行きたくなかったけど、母さんが心配するから僕は頑張って学校に行った。
だけど、その日はほとんど呆然と1日を過ごした。そして、やっぱり放課後、僕は裏門に居た。

祈りながらカツを待った・・・
心配で不安で泣きそうになりながら時間いっぱいまで待ったけど、カツは来なかった・・・

僕は帰ってすぐに母さんに病院に行けないか聞いたけど、2,3日我慢しなさいと言われ、

ひたすらベッドで泣いた・・・

悲しくて悔しくて心配だった・・・

何も出来ず、ご飯さえ食べれなくて泣き疲れて寝てしまった。

そして、また夢の中・・・チャーリーが待っていてくれた。チャーリーもまた悲しそうだった。

「チャーリー!」

僕は泣きながらチャーリーに駆け寄った。

「時間がないってこういうことだったの?」

〈あぁ・・・だけどありがとな〉

「願い石?僕はほとんど何もしてないよ・・・」

〈いや、涼がおらへんかったら無理やったよ〉

「そうだけど・・・それよりカツは大丈夫?」

〈・・・あかん・・・〉

「どういう意味?駄目ってこと?ねぇ!どう駄目なの!」

〈・・・〉

「どうして?カツが何したっていうのさ!」

僕は泣き崩れた。

〈わしに言わんでくれ・・・わしも辛いんや〉

「でも、納得できないよ・・・絶対嫌だ!・・・嫌だよ・・・」

〈涼、わしも同じ気持ちなんやで・・・辛いよな・・・悔しいよな・・・〉

チャーリーと僕はただただ泣いた。

そして、涙も枯れるほど泣いて僕は気になっていたことを聞いた。

「チャーリー・・・カツ、願い事はしたの?」

〈・・・〉

チャーリーはさらに悲しげな顔をして下を向いた。

「チャーリー?カツは願ってないの?」

〈願った・・・〉

「じゃあ叶えてやってよ!」

〈前にも言たけど、わしはささいな事しか叶えてやられへんねん・・・それはカツにも重々言ったんやけどな・・・カツは大きな願いを願うんや・・・〉

「大きな願い?どんな願いかは知らないけど、それはきっとカツには小さな願いなんだよ!きっと・・・当たり前の事なんだ!・・・それじゃダメなの?」

〈涼の言ってる事は分かるけどな、とてつもない夢なんや・・・〉

「カツがそんなに無茶を言ったの?」

〈そや。でも、カツは叶わないと分かって願ってるんや・・・わしにもっと力があれば・・・〉

「どうして・・・何を考えてるんだカツ・・・」

カツの無茶が分かっても僕は何もかも納得できなかった。

「どうにもならないの?どうにもならない事ばっかりじゃないか!」

〈・・・わしも何も出来ずにカツと一緒に消えてしまうんかと思ったら、悔しくて苦しい・・・時間の無いこの夢の世界で時間が惜しいのは初めてや〉

「そうか・・・チャーリーも消えてしまうんだね・・・」

僕の何もかもが消えてしまうと考えると体が震え、涙をこらえることができなかった。

「カツの願いホントにどうにもならないの?何かないの?・・・」

〈わしの力だけやったらな・・・〉

「・・・僕が出来ることは何もない?」

〈・・・〉

その時、チャーリーは目をそらした。

「チャーリー・・・あるんだね?教えてよ!」






『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第8話』


〈アカン・・・それだけはアカン!涼にまで迷惑かけられへん・・・カツだって喜ばへんやろし〉

「こんな時に何言ってるのさ!何も出来なかった事を悔やみ続けるなんて嫌だよ!お願い!チャーリー教えて!」

〈そう言われてもな、わしは涼のことも好きやから・・・涼がこれ以上、辛いのはわしも辛い〉

「今、自分のことなんて関係ないんだ、チャーリーもそうでしょ?あんなに純粋に何度ダメでも体が辛くても願い石を蹴り続けたんだ、これで願いが叶わないなんて、あっていいわけない!」

〈涼はわしと似てるな・・・ほな言うだけは言うわ、ようはわしに力をくれたらカツの願いも叶えてやれるかもしれん〉

「力?何の?どうすればいいの?」

〈夢や!〉

「よく分からないよ・・・もっと簡単に言ってよ」

〈そうか・・・じゃあ、涼の一生分の夢をわしにくれ〉

「一生分の夢?それだけでいいの?・・・いいよ、僕の夢を使って!」

〈いい?・・・眠っても一生、夢を見れないんだぞ?〉

「そういう事か・・・それでもいい、カツの願いが叶うなら」

その時僕はまだそのことの重大さが分からなかった。

〈夢を見れないって事は想像以上に辛いぞ〉

「今、この先なんて考えられないよ、カツの事だけしか考えられないんだ」

〈お前ってほんまにいい奴やな・・・これがわしと涼の運命なんかな・・・〉

「チャーリーには負けるよ、これが運命とか僕はどうでもいい、僕の夢をもらって、そしてカツの願いを叶えてあげて!」

〈・・・よし、分かった。涼の夢を無駄にはせえへん、きっとどんな方法でもカツの夢を叶えたる!〉

「うん、約束だよ!」

〈あぁ、約束や!でも、最初から最後まで涼に頼ってしもたな〉

「ううん、僕はチャーリーに感謝してるよ」

〈そう言ってくれるとあきらめずにやれるわ〉

「夢の住人でしょ!僕はチャーリーを信じてるからね」

〈おおきに・・・でも、これで夢から覚めたらもう会えへん〉

「・・・チャーリーとも、もう会えないんだ・・・寂しいな・・・でも、絶対忘れないよ」

〈わしも忘れへん・・・〉

「じゃあカツの事よろしくね、信じてるから・・・」

〈あぁ、任せろ・・・ほんまに世話になったな、涼〉

「ううん、楽しかったよチャーリー・・・」

〈わしもや・・・〉

「ありがとうチャーリー・・・・・・」

これが僕の最後の夢だった。


次の日、僕は何していたんだろう?・・・記憶がはっきりしないけど、きっと魂が抜けたように過ごしたんだろうと思う。

それから、そんな2日が過ぎ、僕はやっとカツに会いに行けることになった。

その日の放課後、僕は夢中で病院へと走った。

大きな総合病院の入院病棟の長い廊下・・・カツのお母さんが女の子を抱きしめていた。

「おばさん!」

〈涼君・・・来てくれたのね〉

「はい、具合はどうですか?」

カツのお母さんは女の子を抱きしめた手にぎゅっと力を入れて悲しい表情をした。

〈・・・あまり良くないの・・・でも、涼君に会ったら少し元気になるかもしれない〉

すると、カツのお母さんに抱きしめられていた女の子が急に泣き出した。

「その子がカツのお姉ちゃん?・・・」

〈うん、お姉ちゃんといってもまだ4年生なのよ、かおりっていうんだけど、ここに来てからずっと泣いてて・・・〉

僕は女の子に近づいた。

「・・・かおりちゃん・・・僕は涼、カツから聞いてる?」

〔・・・うん〕

「かおりちゃんには全部話してるのかな?」

〔うん・・・〕

「じゃあチャーリーの事も知ってるの?」

〔・・・あの夢に出てくるおしゃべりな猫のこと?〕

「そうそう、ちょっと変わった猫」

〔面白いけど、変なことばで、ぜんぜん何言ってるか分かんない〕

「そっか、でもチャーリーはカツと僕の大切な友達なんだ、今度会ったらよろしく言って、きっと仲良くなれるよ、カツの事も大好きだし、きっと助けてくれるから」

〔うん・・・〕

「カツは今、頑張ってるから泣かないで、僕と一緒に応援してあげよう」

〔うん、お兄ちゃん・・・お兄ちゃんに会ったら元気になるかな?〕

「うん、大丈夫だよ」

〔ありがとう、涼おにいちゃん〕

かおりちゃんはやっと顔をほころばせた。

「おばさん!今、会えるんですか?」

〈うん、お願い、会ってやって〉

僕は深呼吸して病室の前に立った。

「ふぅ・・・」

なぜか緊張していた。僕だけはいつもどおり元気付けなきゃというプレッシャーだった。

「カツ・・・」

僕はドアを開けた。カツはベッドの上、呼吸器のマスク、点滴の管に身をゆだねていた。

あの日、あんなに元気に別れたばかりなのに・・・僕の心は張り裂けそうで体が震えた。

「カツ!」

僕は側に行って手を握った。

〔・・・〕

すると、カツはゆっくり目を開けて、微笑んだ。



つづく。







『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第9話』


「会いに来たよカツ!」

〔・・・おにいちゃん・・・来てくれたんだね〕

眼もはっきりしてなかったけどカツは微笑んでくれた。

「うん。やっぱりカツが居なきゃ寂しいぞ」

〔ごめんね・・・〕

「どうして謝るんだ?元気になるためなんだから仕方ないだろ?それよりチャーリーと会ってるか?」

〔うん、ずっと側に居てくれてる〕

「そっか、良かったな・・・あっ、そうそう、カツが居なくてコロも寂しがっていたぞ、何も言わないのにシッポふりながらカツの石をくわえて小屋の前をうろちょろしていたぞ」

〔また会いたいな・・・〕

「すぐ会えるさ」

〔そうだね・・・またお兄ちゃんと願い石蹴りたいよ〕

「うん、いっぱい蹴ろうな」

〔うん〕

カツの顔が少しほころんだ。

〔お兄ちゃん、かおり姉ちゃんと会った?〕

「うん、今さっき廊下で」

〔泣いてたでしょ?もう泣かないでってお兄ちゃんからも言って〕

「うん、もう言ったぞ」

〔ありがとうね・・・また来てくれる?〕

「うん、いいなら毎日来るよ」

こうして僕たちは時間を忘れて話した。病気ということを忘れてしまいそうで、このまま治る期待もふくらんだ。

だけど、時間には制限があってあっという間に面会時間は終わってしまった・・・。

「寂しいか?」

〔大丈夫だよ、いつもよりみんなと居られるし、チャーリーもいるし〕

「そっか、じゃあまた明日な」

〔うん〕

僕は寂しくて仕方なかった・・・だけど、心配していたよりカツが元気だったので少し安心した。

そして、カツのお母さんとかおりちゃんに別れを言って仕事を終わって駆けつけていたカツのお父さんに車で送ってもらうことになった。

「はじめまして涼です・・・」

〈知っているよ、カツだけじゃなく母さんからも聞いているからね、いつもカツのことを良くしてくれてありがとう〉

「いえ、大事な友達ですから・・・」

〈和義はどうだった?〉

「はい・・・最初は元気なかったけど、僕が帰るころには笑っていました」

〈そうか、私も未だにまだ和義の病気が信じられない・・・自分の子が小児癌だなんて〉

癌・・・僕は初めてカツの病名を知った。

「・・・はい・・・」

〈また来るのかい?〉

「はい、いいなら毎日でも、ダメですか?」

〈いや、駄目というわけじゃないが、これから先、辛くなるかもしれない・・・同じころの君に辛い思いをさせたくないんだ〉

「・・・そういう事、考えられなくて、ただ僕は一緒に居たいんです」

〈君は強いな・・・じゃあよろしく頼むよ〉

「はい」

〈・・・しかし情けない、和義の友達にまで頼るなんて・・・〉

「カツは友達以上だから、誰に何か言われなくてもそうしたいんです」

〈本当にありがとう・・・〉

カツのお父さんの目から少しの涙が流れた。

〈まったく情けないんだ・・・自分の子供が病気だっていうのに何もできなくて、助けられないなんて・・・しかも側にもいてやれない・・・〉

カツのお父さんはそう言ってふさぎ込んだ。

「・・・おじさんが頑張っているから、あんな大きな病院で治療できるんでしょ?みんな自分の出来ることを精一杯やってると思います・・・そして同じように苦しい思いをしてるんだと思います・・・」

〈君に励ましてもらうとは・・・でも、そうだね、和義が頑張っているんだ、おじさんも頑張らなきゃな〉

「はい!」

僕は苦しいほど家族の絆と悲しみを感じた・・・


「ただいま・・・母さん!」

家に帰った僕は母さんの顔を見たとたんに力が抜け、全てを吐き出すように泣きついた・・・

〈涼がこんなに泣くなんて、相当辛かったのね〉

「どうして?どうして誰もカツを助けられないの?・・・」

〈きっと誰もが思っているわ・・・〉

「それでいて神様は何もしてくれないの?」

〈そうね・・・それも神様が決めた運命なのかな?でも、必ず全ての運命には意味があるんだと母さんは思うわ〉

「そんなの・・・僕は納得できない!神様なんて信じない・・・」

〈・・・〉

誰にどんなに質問をしても、誰にも分からないことは分かっていたけど、いつまでも僕の心は納得しなかった。

それからすぐ僕はベッドにもぐったけど、いつまでも眠れなかった。

目を閉じてチャーリーに会いたいと思っても、姿だけ目に映るばかり・・・僕はこの時、初めて夢を見られない事が怖いと思った。

もう夢で悲しく辛い現実を忘れる事ができない恐怖・・・

この時から僕の夜は長く辛いものとなった。

そして、次の日、またその次の日と僕は毎日、カツに会うために病院に通った。

しかし、病院で過ごすカツとの時間は少しずつ制限されて短くなった。

その時間と供にカツの元気もなくなっていった・・・

「カツ、今日は30分しか会えないって?」

〈・・・ごめんね・・・〉

「カツが謝ることないだろ?」

〈でも・・・もう僕、疲れたよ・・・夢の中でチャーリーと一緒に走り回ってるのが今はいいな・・・僕はきっと夢の国に行くんだね・・・〉

僕はバカなことを言うな!と、言いそうだったけどこらえた。

「・・・夢の国かぁ、何だか楽しそうだな・・・」

〈うん、もう夢の中がいい・・・〉

「・・・」

僕はカツの辛そうな姿を見続けて、励ますことができなくなっていた。

つい、話を変えてしまう・・・

「そういえば、願い石の願いはどうなったんだ?」

〈まだ今は無理みたい・・・でも、叶うよ・・・信じてるんだ〉

僕はチャーリーに何やってるんだ!と、文句が言いたかった。

「そうか、きっと叶うよ・・・」

〈うん・・・大丈夫、僕は運がいいんだ・・・〉

運がいい・・・こんなになってまだ笑顔のカツを僕はしっかり見れなかった。

それがカツとの最後だった・・・





『願い石~夢猫チャーリーの贈り物・第10話』


僕は涙が枯れるまで泣いた・・・

カツが亡くなったことを理解できなかった。

本当に胸が痛んだ、息が出来なくなって動けなかった。

僕のその症状はずっと時々、今でも起きている・・・


これが、僕の記憶の全て・・・


そして、僕は今、大人になってまたこの道を1人で石を蹴って歩いている。

コロン・コロコロコロ・・・

この道だけは忘れない、月日が経って町の外観が変わってもここに立てばあの頃に戻る。

コロン・コロコロコロ・・・

どうやらずっと僕の時間はここで止まっているようだ・・・

夢と記憶は大きく関わっている。

良い思い出も悪い思い出も夢で繰り返し見ることで記憶に残る。僕にはまったくそれが無い。だからあの時のこと以外の記憶が薄い・・・

今、思うとあれは夢だったのか・・・

現実、僕はあれから病院に通い今も薬を飲んでいる。

不眠症の薬と時々起こる胸の痛み、発作の薬だ。

辛い日々が続いていた・・・これが僕の人生だとあきらめていた。

だけど昨日、素敵なことがあった。

それで今、ここでまた石を蹴っているわけだ・・・

コロン・コロコロコロ・・・

それは昨日の夜、いつものように薬を飲み、眠りについた後だった。

僕は夢を見た・・・

真っ白な世界・・・

「ここは?・・・とうとう僕は幻を見るように?・・・でも、なんて懐かしい・・・」

すると、

〈涼!〉

大きな木、そして見覚えがある猫・・・!

「嘘だ・・・やめて!・・・」

僕は信じられず、怖かった。

〈涼!わしや、わしが分からんのか?〉

「そんなはずない・・・僕は夢を見ないんだ!願っても、願っても今まで1度も・・・」

〈・・・辛かったんやな・・・でも、これは夢なんや・・・わしやで!〉

「本当に?チャーリー?・・・」

〈そうやで〉

「どういうこと?・・・どうして?・・・」

僕は夢の中で泣いた。大人になって初めて泣いた。僕はあの時、枯れたものだと思っていた・・・

〈嬉しないんか?〉

「嬉しいよ・・・でも、辛かった・・・」

僕は複雑な感情で泣くことしかできなかった。

〈そうか・・・やっぱり・・・〉

「でも、本当にどういうこと?」

〈この時のために夢1回分、残しておいたんや〉

「この時って?」

〈カツの願い事を叶えるんや〉

「カツの願い事?・・・今さら?こんな時間が経って?カツはもう居ないのに・・・」

〈時間が必要やったんや・・・〉

「チャーリーもカツと一緒に消えちゃったと思ってた、どうしてたの?この1回のために甦ったの?」

〈かおりちゃんの夢の中にいたんや〉

「かおりちゃんって?カツのお姉ちゃんのこと?」

〈そうや〉

何もかも分からなかった。

「どういうことか分からないよ、ちゃんと説明してよ!」

〈そらそうやな・・・まず、カツの願い事を叶えるには涼とかおりちゃんが大人になる必要があったんや〉

「いったいカツの願い事って何なの?」

〈すまん、まだ願い事は言われへん・・・とにかくわしはその願い事を叶えるまで消えるわけにはいかないし消えることはなかった、本当は涼の所に居たかったんやけど涼の夢はもうわしが使ったし、かおりちゃんの夢にいるしかなかったんや〉

「そうだったんだ・・・かおりちゃんは元気なの?」

〈あぁ、やっぱり辛い思いは沢山してたけどな・・・今は元気や〉

「良かった・・・」

〈やっと落ち着いた顔になったな〉

「うん、あの頃のことが現実かどうかも分からなくなっていたからね、安心した・・・唯一はっきり憶えてる記憶だったから」

〈そうか、すまなかったな〉

「ううん、僕が選んだんだから、それより現れたのは目的があるんでしょ?」

〈そうや、大事なことやからしっかり聞いてくれよ〉

「うん」

〈明日、カツと一緒に願い石を蹴ったあの道に行ってほしい〉

「・・・あの道に?」

〈そこでまたあの時のように石を蹴りながらあの道のりを歩いてほしいいんや〉

「うん・・・それだけ?」

〈そうや、そこで偶然のような運命が涼を待ってる〉

「偶然のような運命?」

〈そうや、明日起こる全ての事を運命と思ってほしい、戸惑うかもしれないが、受け入れてくれ〉

「うん・・・でも、それがカツの願い事と関係あるの?どうにかなるの?」

〈なる!涼が受け入れたらな〉

「分かった、僕にはチャーリーを信じるしかないんだ、ずっとそうだったから」

〈良かった・・・やっとや、ほんまに長かったな・・・これでわしの役目も終わる〉

チャーリーも辛かったのが分かった。

「まだよく分からないけど、明日僕に起きる事はカツの願い事に関係あるんだね?」

〈そうや〉

「じゃあ今度は本当に居なくなっちゃうんだ・・・やっと会えたのに・・・かおりちゃんも寂しいだろうな・・・」

〈大丈夫や!全てがうまくいくから〉

「うまく?そんなこと今までに1度もなかっただろ?」

〈すまん・・・でも、今度はほんまに大丈夫や〉

「・・・そうだね、信じてみるよ」

信じることも怖かったけど、チャーリーを見ているとまた信じることができた。

つづく。


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