テーマ:猫のいる生活(138968)
カテゴリ:良平
「会いに来たよカツ!」 〔・・・おにいちゃん・・・来てくれたんだね〕 眼もはっきりしてなかったけどカツは微笑んでくれた。 「うん。やっぱりカツが居なきゃ寂しいぞ」 〔ごめんね・・・〕 「どうして謝るんだ?元気になるためなんだから仕方ないだろ?それよりチャーリーと会ってるか?」 〔うん、ずっと側に居てくれてる〕 「そっか、良かったな・・・あっ、そうそう、カツが居なくてコロも寂しがっていたぞ、何も言わないのにシッポふりながらカツの石をくわえて小屋の前をうろちょろしていたぞ」 〔また会いたいな・・・〕 「すぐ会えるさ」 〔そうだね・・・またお兄ちゃんと願い石蹴りたいよ〕 「うん、いっぱい蹴ろうな」 〔うん〕 カツの顔が少しほころんだ。 〔お兄ちゃん、かおり姉ちゃんと会った?〕 「うん、今さっき廊下で」 〔泣いてたでしょ?もう泣かないでってお兄ちゃんからも言って〕 「うん、もう言ったぞ」 〔ありがとうね・・・また来てくれる?〕 「うん、いいなら毎日来るよ」 こうして僕たちは時間を忘れて話した。病気ということを忘れてしまいそうで、このまま治る期待もふくらんだ。 だけど、時間には制限があってあっという間に面会時間は終わってしまった・・・。 「寂しいか?」 〔大丈夫だよ、いつもよりみんなと居られるし、チャーリーもいるし〕 「そっか、じゃあまた明日な」 〔うん〕 僕は寂しくて仕方なかった・・・だけど、心配していたよりカツが元気だったので少し安心した。 そして、カツのお母さんとかおりちゃんに別れを言って仕事を終わって駆けつけていたカツのお父さんに車で送ってもらうことになった。 「はじめまして涼です・・・」 〈知っているよ、カツだけじゃなく母さんからも聞いているからね、いつもカツのことを良くしてくれてありがとう〉 「いえ、大事な友達ですから・・・」 〈和義はどうだった?〉 「はい・・・最初は元気なかったけど、僕が帰るころには笑っていました」 〈そうか、私も未だにまだ和義の病気が信じられない・・・自分の子が小児癌だなんて〉 癌・・・僕は初めてカツの病名を知った。 「・・・はい・・・」 〈また来るのかい?〉 「はい、いいなら毎日でも、ダメですか?」 〈いや、駄目というわけじゃないが、これから先、辛くなるかもしれない・・・同じころの君に辛い思いをさせたくないんだ〉 「・・・そういう事、考えられなくて、ただ僕は一緒に居たいんです」 〈君は強いな・・・じゃあよろしく頼むよ〉 「はい」 〈・・・しかし情けない、和義の友達にまで頼るなんて・・・〉 「カツは友達以上だから、誰に何か言われなくてもそうしたいんです」 〈本当にありがとう・・・〉 カツのお父さんの目から少しの涙が流れた。 〈まったく情けないんだ・・・自分の子供が病気だっていうのに何もできなくて、助けられないなんて・・・しかも側にもいてやれない・・・〉 カツのお父さんはそう言ってふさぎ込んだ。 「・・・おじさんが頑張っているから、あんな大きな病院で治療できるんでしょ?みんな自分の出来ることを精一杯やってると思います・・・そして同じように苦しい思いをしてるんだと思います・・・」 〈君に励ましてもらうとは・・・でも、そうだね、和義が頑張っているんだ、おじさんも頑張らなきゃな〉 「はい!」 僕は苦しいほど家族の絆と悲しみを感じた・・・ 「ただいま・・・母さん!」 家に帰った僕は母さんの顔を見たとたんに力が抜け、全てを吐き出すように泣きついた・・・ 〈涼がこんなに泣くなんて、相当辛かったのね〉 「どうして?どうして誰もカツを助けられないの?・・・」 〈きっと誰もが思っているわ・・・〉 「それでいて神様は何もしてくれないの?」 〈そうね・・・それも神様が決めた運命なのかな?でも、必ず全ての運命には意味があるんだと母さんは思うわ〉 「そんなの・・・僕は納得できない!神様なんて信じない・・・」 〈・・・〉 誰にどんなに質問をしても、誰にも分からないことは分かっていたけど、いつまでも僕の心は納得しなかった。 それからすぐ僕はベッドにもぐったけど、いつまでも眠れなかった。 目を閉じてチャーリーに会いたいと思っても、姿だけ目に映るばかり・・・僕はこの時、初めて夢を見られない事が怖いと思った。 もう夢で悲しく辛い現実を忘れる事ができない恐怖・・・ この時から僕の夜は長く辛いものとなった。 そして、次の日、またその次の日と僕は毎日、カツに会うために病院に通った。 しかし、病院で過ごすカツとの時間は少しずつ制限されて短くなった。 その時間と供にカツの元気もなくなっていった・・・ 「カツ、今日は30分しか会えないって?」 〈・・・ごめんね・・・〉 「カツが謝ることないだろ?」 〈でも・・・もう僕、疲れたよ・・・夢の中でチャーリーと一緒に走り回ってるのが今はいいな・・・僕はきっと夢の国に行くんだね・・・〉 僕はバカなことを言うな!と、言いそうだったけどこらえた。 「・・・夢の国かぁ、何だか楽しそうだな・・・」 〈うん、もう夢の中がいい・・・〉 「・・・」 僕はカツの辛そうな姿を見続けて、励ますことができなくなっていた。 つい、話を変えてしまう・・・ 「そういえば、願い石の願いはどうなったんだ?」 〈まだ今は無理みたい・・・でも、叶うよ・・・信じてるんだ〉 僕はチャーリーに何やってるんだ!と、文句が言いたかった。 「そうか、きっと叶うよ・・・」 〈うん・・・大丈夫、僕は運がいいんだ・・・〉 運がいい・・・こんなになってまだ笑顔のカツを僕はしっかり見れなかった。 それがカツとの最後だった・・・ つづく。 人気ブログランキングへ ↑皆に読んでもらいたい物語が沢山あります。応援してください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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