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白い壁、白い廊下、白い部屋。 を、雨に濡れたままで走りつづける。
汚してやる、汚してやる。まだ、もっともっと先までずっと。 「前は白い部屋にいたんだ。」 嘉世が言っていた。ここは研究者や限られた実験体がいる場所。 ここじゃない。俺は白い階段を下へ加速していく。 処刑所のメインコンピューター。 全Dollを管理し、セキュリティやシミュレーションもやってのける、いうなれば処刑場というイキモノの頭脳。 それは人間が地下室に押し込めた、莫大な量の機械とコードとデータ。 風巳がハッキングして一時的にダウンさせた事があるアレだ。 俺からしてみれば、ハッキングなんて生ぬるい。 直ってしまうのならば… いっそのことズタズタに、ボロボロに破壊し尽くしてしまえばいい。 『処刑場のメインコンピューター』はイキモノだから。 たとえバックアップがあるとしても、機械もデータも処刑場すらも全部フッ飛ばせば… 似たものにはなるかもしれない。中途半端なイキモノにはなるかもしれない。 でも、元には戻らないから。 急いで階段を降るのに、ゆっくりとしたピアノの音が脳内を汚染する。 B5。最下層だ。落ち着いた音。木霊する足音で拍子をとって、脳はその曲を意思に反し演奏し続ける。 危険を示すマークがついたドア。あぁ、終わりだ。 終わりのドアノブにそっと手を伸ばす。 分かりながらも回して引く。ガシャガシャと動くが開かない。 そんな白いドアに少し安堵を覚えながら、それでも行かなくてはと左手をかざす。 ―――嗚呼、腕に流れこむ電流 鉄扉なんて焼き切ってしまえばいいんだ。 電圧に耐え切れず、振るえ初めてる手首を右手で支えて… 凄まじい光の流れが己を包む。 まだ。 紫電、赤いカミナリ、蒼のイナズマ… そんなものじゃ、厚い鉄に突破口なんて作れない。 もっともっともっともっと!!! 紫は強さが誇る威厳の色、赤は迸る激情の色、蒼は研ぎ澄ました殺気の色。 貫くような、閃きの中に重みを含む、紛うことなき… ――――――――― 脳内をかき乱す ピ ア ノ の 音 色 にも似た ――――――――― 白 と 黒 左手から肘までを、禍禍しい程の光が皮膚を切り裂きながら渦巻いていく。 白と黒。互いに衝突しながら火花を散らし、大輪へとそれは変貌する。 落ちる血液すら、触れてすぐ蒸発させる熱。 髪が解けたことで気づく、その風圧。 自分で能力をつかっているのに、体がそれに耐えられないなんて… ったく、ありえないだろ? もう此処までの破壊力を手に入れると、ドアを焼き切るなんて馬鹿みたいだ。 ぶっ飛ばせよ。 なに、戸惑うことはない。拳を作ったなら、ぶつける。それだけだ。 鉄がへこむ音と、外れた扉が空を切って飛ぶ音。 轟音を吸い込んで、また静寂は訪れる。耳が落ち着くのを待ってゆっくりと目を開く。 足を踏み出し肩を入れて思いっきり殴った扉は、次の部屋の壁まで吹っ飛んでいて… 殴る瞬間に雷撃を強めた結果がこれだ。左手に纏う物は今、消えている。 俺もこれには正直驚いた。人間相手の時には決して使う事がなかった、この技。 こんなにも強いものだったのか。あとはこの力をもっと強くして、この部屋ごとぶっ飛ばせばいいだけ。 楽しめそーじゃん。 ふと耳に入る、ぽたぽたという水音。 見てみると、それは自分の左腕からだった。 血だ。 乱暴に腕をふると、ばしゃばしゃと床に血が飛び散る。 明らかに異常な光景。でもどうだっていい。いまからどーせ死ぬんだ。 もはや手当てなんてする必要もない。 だってニンゲンとかいう、俺のモチーフになった生き物には―― 否、全ての“イキモノ”には… 麻薬的な成分を作り出す機能がある。 それは戦うために、生き残る為に存在していて。 痛みというものを分からなくさせてしまう。体を熱くする。鼓動が速くなる。 臨戦体勢を作り出すそれは、アドレナリンとかそんな名前だったか。 滴る血の量と比べても、おかしいくらい痛みがないのは、そのせいなのだろう。 俺を戦わせるための 俺を奮い立たせるための 俺を立ち止まらせないための 人間の本能を模して作った、そんなDollのプログラム。 人のために戦えという名目でそれは、俺の中に複雑に組み込んであるらしい。 昔、自分のデータを見つけたとき、そんなことが書いてあった。 でもそのプログラムは、自分のために自分の意志で使う。 薄暗い室内をメインコンピューターの無数のディスプレイが妖しく照らす。 ほの暗い部屋には、コンピューター本体がデータ処理をする悲鳴が響き渡る。 吹っ飛んだドアでもう数箇所のディスプレイは大破しているらしい… ショートした配線が、火花を咲かしている物もあった。 さぁて、徹底的に壊しますか。 誰も信じないよな、一人でこんなことしようっていても。 誰もついてこねぇよ、こんな不利な状況で。 不可能だって楽しんでみせる。真も偽もない、確立なんて持っての外。 正しいやり方でもなきゃ、間違ったやり方って訳でもない。 俺のやり方。 もう一度、左手に雷撃を集める。 集中するたび、ピアノの幻聴が耳障りでならない。 こう、何かを鎮めていくような… その雰囲気に身が縮みそうになる。 バチバチという音との不協和音を脳内で掻き鳴らしながら、電撃は増していく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.10.24 07:04:11
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